時を紡ぐ者達 第12話


 カイト達が地球で初陣をかざってから2ヵ月が経った。

彼らは今、秘密ドックで艦の修理と補給を行っていた。

「弾薬の消耗が激しいな」

「仕方ないわ、あれだけの無人兵器を相手にしたんだから」

彼らは、この2ヶ月間地球各地を巡り、無人兵器の掃討に努めていたのだ。

カイトとしては、早く木星に行きたかったのだが、それを春日井と真澄が止めた。

二人は、交渉の際に必要となる切り札を欲していた。

特に、春日井は力だけでは相手との交渉は難しいと考えていたのだ。

彼は木星での裏工作を通じて、木連政府の高官の多くが予想していたより強硬であることを知り、

『彼らは、恐らく和平交渉には応じまい』

と考えていた。

彼は、カイト達にこの事を伝えると同時に、ある提案を行った。

この提案に、まず真澄が賛成し、続いて麗香、蘭、香織と続いた。

最初は半信半疑だったカイトも春日井の報告と、麗香達の説得を受け賛成した。

「皮肉だな」

カイトがぼそりと呟いた。

「どうしたの?」

麗香が尋ねる。

「いや、嘗て俺から全てを奪ったボソンジャンプ、それが俺にやりなおしの機会と

 この馬鹿げた戦争を終らせる切り札を与えている。

 皮肉なものだ」

「別に良いじゃない。

 世の中、結果が全てよ。

 使える物は、何でも使って目的を果たす、これぐらいの覚悟が無ければ大事は成せないわ」

「・・・まぁそれもそうだな」

やや、間を置いてカイトは言った。

その時、真澄が声を駆けた。

「天川君」

「真澄ちゃんか。どうかしたの?」

「別に、暇かなぁと思って」

「まぁ暇だが、それが」

「ちょっと付き合って欲しいのよ」

「何に?」

「私の手料理を食べてほしいのよ」

「手料理?」

「そう」

カイトは大いに悩んだ。なぜなら今まで、彼に好意を寄せてくれた女性の多くは決まって殺人料理の使い手だったからだ。

(この誘い受けるべきか?)

ちら、と横を向くと麗香がなにやら不機嫌そうな顔をしている。

(・・・なにか嫌な予感がする)

麗香が口を開く。

「ちょっと待って。あなた料理なんて出来たっけ?」

「失礼ね。少なくとも人並みのものは作れるわよ」

「へ〜。それは知らなかったわ」

「そういう貴方はどうなの?」

「私? 一応人並みのものは作れる自信はあるわ」

「ふ〜ん。そう、初耳だったわ」

「なんか引っかかる言い方ね」

「自分の胸に手を当てて聞いてみたら?。さぁ、天川君行きましょう」

この台詞を聞いて、麗香のこめかみがひくついた。しかし真澄はそんな彼女を無視して、カイトの腕をひっぱって行った。

そして、数分後。

「・・・なんであなたがいるのよ?」

「別にぃ」

食堂で睨み合っている麗香と真澄の姿があった。

二人の睨み合いは続いた。

最果てもなく高まる緊張感。

カイトは脂汗をかいていることを自覚した。

(こ、このままだと前の繰り返しだ。なんとかしなければ)

彼は救世主(生け贄)を探した。

彼は、自分の前に配膳された真澄の手料理(一見普通そう)に未だに手をつけられなかった。

そこに、蘭が現れた。

「何をしている?」

怪訝そうに言う蘭。

(チャンス!!)

カイトはこの機会を逃すまいとした。

「真澄が料理したもので味見を頼まれているんだが、蘭もどうだ?」

カイトはそう言って、蘭を誘う。

「ほう、真澄が料理ねぇ」

そう言って、蘭は近づいてくるなり、から揚げを1つつまんで口に入れた。

「あああああ!!」

真澄が大声をあげる。

「ん、どうした・・・」

蘭は倒れた。

「おい、蘭、しっかりしろ!!」

カイトは、蘭を気遣うようにい言う。

真澄と睨み合いを続けていた麗香が、蘭に近づいて様子を見る。

「大丈夫、眠っているだけ」

「そ、そうか」

麗香は料理をちらりと見て言った。

「やってくれるわね、真澄。まさか、料理の中に強力な睡眠薬を入れるなんてね」

真澄は聞こえないように舌打ちして、目をそらした。

気まずそうな雰囲気が漂う。

だが、そんな雰囲気の中、真澄に通信が入る。

真澄の前にウインドウが開かれ、春日井が冷静な声で言った。

『すまないが、君に本部から召集命令が来ている』

「召集命令?」

『・・・君の姉、新城博美准将に反乱容疑がかかっている』

「な、なんで・・・」

『詳しいことはここでは言えないが、本部が大慌てで新城准将を探している』

「大慌てで? そんなにとんでもないことを?」

『ともかく、本部は君から事情聴取をするらしい。24時間以内に出頭してくれ』

「分かりました」

通信が切れる。

真澄は顔面蒼白になっていた。

「真澄ちゃん・・・」

近くで通信を聞いていたカイトが気遣うように話しかける。

「大丈夫、大丈夫だから」

だが、彼女の顔色は蒼白なままだった。

「大丈夫じゃないでしょう!!。あんた、顔が真っ青よ!!」

麗香が怒鳴るように言う。

だが、真澄は何も言わずよろよろと食堂から出ていった。

「行ってあげなさい」

「麗香ちゃん?」

「・・・慰めてあげなさい」

「・・・・・・わかった」

カイトは、真澄を追うように食堂から出ていった。

その後姿を見送った後、麗香は春日井に通信を送った。

「春日井、一体どういうこと?」

『・・・私が話したというのは内密にしておいてくれよ。

 私が聞いた内容では、新城准将が本部への攻撃を手引きしたらしい。 

 それと、本部の機密データが多数持ち出された件にも容疑が掛かっている』

「・・・本部は大騒ぎでしょうね」 

『それだけではない。彼には未だ知らせていないが、多くの世界に大規模な核攻撃が行われている。

 その上、各地の反統和機構組織が一斉蜂起した。本部はこの鎮圧に全力を傾けなければならない』 

「・・・思ったより、事態は深刻ね」

『そうだ』

「ということは、こちらへの支援は削減するの?」

『いや、本部はこちらへの支援を滞らせる気はないらしい』

「・・・そう」

『・・・そちらも色いろ大変だろうが、頑張ってくれ』

「分かっているわ。でも真澄がいなくなると作業能率が、がくっと落ちるんだけど」

『その件は次世代型HFRの増員で乗りきってくれ』

「次世代型? と、いうことは噂の新型電脳が完成したの?」

『そうだ、まったく技術屋はどこまでロボットに人間の替わりをさせるつもりなんだろうな』

「仕事ができるならロボットでも人間でも構わないわ」

『ドライな考え方だな』

「そう考えた方が楽よ」

『違いない』

「通信切るわよ」

『ああ』

(『紅の魔女』とまで称された名将が反逆か・・・。

 でも、いくら名将と言っても統和機構に真正面から戦争して勝てるとは思えない。

 ・・・彼女が反逆したと言うのなら、なにかしら勝算があるはず。

 勝算? まさか、いくら反統和機構と手を組んだとしても統和機構が本気をだせば一蹴されるのは目に見えているわ。

 ・・・ならば、どうして?)

通信を切った後、彼女はしばし考えに耽る。

(・・・もう1つの可能性としては、反逆せざるを得なかったということ。

 つまり、本部内部で、何かしら良からぬ企みが行われていたかもしれないわね)

 だが、所詮は推論の域をでない。

(調べてみる必要があるわね)


 そのころ、真澄は廊下で壁にもたれ掛っていた。

そこに、カイトが現れた。

「・・・真澄ちゃん」

「・・・・・・」

だが、真澄は答えない。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

沈黙がその場を支配する。

だが、その場の沈黙を破ったのは、真澄だった。

「・・・ごめんね、取り乱して。

 でも、私はいまだに信じられないのよ。あの姉さんが組織を裏切ったなんて」

「・・・真澄ちゃんのお姉さんってどんな人だったの?」

「そうね、一言で言えば聡明、いえ聡すぎるといっても過言ではない人だった。

 でも、恩義のある組織を裏切る人ではなかった」

「・・・恩義って?」

「・・・これは、私達の過去の話になるけど、聞く?」

「真澄ちゃんが良ければ」

「・・・私達はね、元々孤児、戦災孤児だったのよ。

「・・・・・・」
 
「私達の世界は、2つの国がいつ終るとも知れぬ戦争を繰り広げていた。

 でも、私の家族は裕福とは言えなかったけど、それなりに幸せな生活を送っていたわ。

 あの日が来るまでは」

「あの日・・・」

「そう、私が7歳の誕生日を迎えた時、脱走兵が私達の村を襲ったの」

彼女は、悪夢とも言える過去の情景を思いだし、身震いした。

「連中は、金目のものを強奪したうえ、村人達を虐殺して回ったの。

 私は、その光景を目の前で見せられた」

「・・・もう良いよ、真澄ちゃん」

「いいえ、天川君には、ほかならぬ貴方には最後まで聞いてほしい」

「・・・良いの?」

「ええ」

そして、彼女の話は続いた。

「辛うじて、生き残った私達は孤児院に収容されたの。

 でも、そこは酷い地獄だった。

 栄養不足、劣悪な衛生環境。多くの子供が死んでいったわ」

「・・・・・・」

「私達は、そこで、酷い病気に掛かって、死に掛けた。

 でも、そこで救いの手が差し伸べられたの」

「それが、統和機構?」

「ええ。まぁ、助けてくれたのは組織ではなく、組織の幹部だったんだけどね。

 あの人は、私達の病気の治療だけでなく、様々な高等教育を施してくれた。

 今の私がいられるのは、あの人のおかげ」

「そう」

「私達、姉妹が統和機構の存在を知ったのは、あの人の仕事に関して関わってしまったから。

 あの人は、私達に普通の生活を送ってほしかったそうだけど、私達は、あの人の役に立ちたかった。

 何か、恩返しをしたかった。だから、私達は組織に志願したの」

「・・・・・・」

「姉さんは、作戦部、私は情報部に配属されて、今に至るわ」

「・・・・・・」

「私は、まだ信じられない。あんな聡明で、義理人情厚い姉さんが組織を、あの人を裏切るなんて」

「お姉さんを信頼していたんだね」

「今でも、信じている、いや信じていたい」

「・・・真澄ちゃんがそこまで信頼するお姉さんなら、今回の行動、何か理由があるんじゃないかな?」

「理由?」

「そう、何か、真澄ちゃんにも言えない理由。そんなのがあるのかもしれない」

「・・・・・・」

「ごめん、部外者である俺がこんなこと言って」

カイトが気まずそうに謝る。

「・・・ありがとう」

「え?」

「まぁ、詳しいことは本部に行ってから判断してみる。

 色々、自分で調べてみてから」

「そう」

「本部に行く前に、木連のことについて話をしなくちゃいけないわね」

真澄はそう言って、食堂の方に歩き始めた。

「天川君、行くわよ」

 その後、食堂にいた麗香と木連内部における工作の進み具合等を確認しあった後、

真澄はこう言った。

「それと、表向き、ユーチャリスUは改装作業のため、3ヶ月ドック入りするって発表するから」

「え?。どうして」

カイトが疑問を呈する。

「何ヶ月も活動しなかったら不信に思うでしょう?。カモフラージュよ」

「と言う事は、木連にいられる期限は最長で3ヶ月ってこと?」

麗香が時間のことで質問した。

「そう言うわけではないけど、できるだけ早いほうが良いはずよ。

 あんまり長引くと、草壁達に気付かれる可能性が高くなる。

 難しいだろうけど、迅速に且つ慎重にね」

「・・・わかった」




 そんな会話が交わされている頃、ここ木連軍総司令部にある一室にて異変が起こっていた。

「なんだ貴様は!? ここがどこだか分かっているのか?」

部屋の主に名は、草壁春樹。木連の実質的な指導者である。

「・・・・・・」

彼が問いかけた人物は答えない。

彼は部下を呼ぶべく、非常警報装置を鳴らした、しかし。

「何故、誰も来ない!!?」

草壁は狼狽した。

「・・・この部屋は完全に隔離してある。どんなに助けを呼んでも無駄よ」

「き、貴様は一体・・・」

「あなたに名乗る名前はないわ。・・・まぁ冥土の土産に私の仇名を教えてあげましょう。

 私の仇名は『紅の魔女』」

「魔女だと・・・」

普段の彼なら、笑い飛ばしたであろう。だが、彼は彼女の言ったことを真実だと確信した。

何故なら、彼の目の前にいる女性はまさしく魔女といって良い気配を漂わせていたからだ。

「ま、まってくれ、要求はなんだ?。私にかなえられることなら何でもしてやるぞ」

「要求? それは貴方の命。いや、その精神よ」

「なに!?」

だが、彼は次の言葉を紡ぐことは出来なかった。彼は急速に自分の意識が遠のいていくことを自覚した。

(一体何が・・・・・・)

そして、草壁が倒れてから数分後。

「この命尽きるまで御身に忠誠を誓います」

草壁は立ち上がり、そう宣誓した。

いや、彼はすでに草壁春樹ではなかった。

もはや、まったく別のものと化していたといっても良かった。

だが、その姿をみて、その女性ははじめて微笑んだ。

とても満足そうに。








後書き

時を紡ぐ者達第12話をお送りしました。

相変わらず、拙作ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました。

さて、次回当たりから、カイト達には木星にいってもらいます。

問題は、北斗を出すべきか否かですね。

どうするべきかなぁ?

それでは、第13話でお会いしましょう。











代理人の感想

さて、統和対反統和の代理戦争の舞台になりそうなこの作品世界ですが、

そんな事はぽいっと置いといて第一印象。

 

草壁閣下、恰好悪すぎ(苦笑)。

 

今回の感想はもうこれにつきますね(爆)!