仁美の命令の下、欧州に降下した木連の部隊は西欧、特に被害の酷かった中央部を次々に蹂躙した。

そう言っても微小ながら連合軍の応戦は存在しており、彼らはありったけの兵器を用いて応戦した。

だが、圧倒的兵力差の前ではその抵抗は空しいものだった。

「第三歩兵小隊全滅!!。戦車部隊もかなりの被害を被っています」

「くそ、エステバリスはどうした!?」

「すでに所属していた三個小隊九機のうち、七機が全損。二機が応急修理中です」

彼らの所属する基地は辛うじてマスドライバーによる爆撃と隕石落としの被害を逃れた基地であり、基地内にはかなりの民間人も

避難していた。しかし、そんな事情はお構いも無く、木連は数少ない軍事基地であるここを執拗に攻めて来ている。

すでに制空権なく、敵の包囲も狭まれており、陥落は時間の問題と考えられていた。

「司令官、もはや限界です!!」

司令室に参謀の叫び声が響き渡る。

「総司令部はすでに消滅していますし、なにより臨時司令部のあるロンドンとは全く連絡がつきません」

「・・・周辺の基地は?」

「残っているのはこの基地を含めて3個だけです。そして、どこの基地も我々と同じような状況です」

「くっ、木星蜥蜴が!!」

「しかも弾薬の備蓄もあと1会戦分程度しかありません」

司令室にいやな沈黙が漂う。隕石落としと木連による侵攻を受けて以降、欧州全域の指揮系統と補給路は完全に寸断された状態になって

おり、彼らは補給無しでの戦闘を強いられてきたのだ。

「くそ!!」

木連にしてみれば増援が到着する前になんとか西欧だけでも連合軍勢力を掃討したい。すでにゲートを設置し終え、

無尽蔵とも思える無人兵器を投入できる状況下にある木連には兵糧攻めという選択肢を持たなかった。

彼らはこの基地を落とすべく無人戦艦30に加えバッタ・ジョロ800機、それに加え優人部隊の戦艦4、夜天光改60機を投入していた。

「連中め、加減と言う言葉を知らんのか!!」

司令官は絶叫する。

しかし、そんなことにはお構いもせず木連軍は攻勢に出た。

バッタやジョロが次々にミサイルを放ち陣地を次々に粉砕していく。高射砲や対空機関銃、それに対空ミサイル陣地も応戦するが

あまりの数に対処しきれない。

「数が多すぎる!!」

対空陣地の指揮官がそう言った時に指揮所にミサイルが直撃する。これを受け前線の対空防衛網は統制を欠き始める。

木連軍の指揮官はこれを見て防衛網を一気に抜くべく夜天光改を投入した。戦艦並のディスト―ションフィールドを前に

反撃も虚しく、対空陣地は一気に蹂躙される。空からの攻撃に完全に手出しが出来なくなった連合軍の地上部隊は単なる獲物に成り下がった。

無慈悲に降り注ぐ機関砲やミサイルで地上部隊は次々に駆逐されていく。

「敵が最終防衛線を突破しました。基地内に敵が流れこんできます!!」

「終った・・・」

参謀の多くは絶望に苛まれうな垂れた。

彼らはこの数秒後、戦艦から放たれた重力波によりこの世から消滅した。



   時を紡ぐ者達 第21話



「作戦は順調のようね」

仁美は月基地の司令室で作戦の進捗状況を見て呟いた。

「はい。すでに西欧はほぼ制圧し、欧州方面軍は東欧への侵攻を開始しております。

 南米においてはジャブロー基地を拠点に周辺拠点を制圧しており、連合軍及び各国軍の掃討戦に入っています」

「真奈美、彼らの動きは?」

「アルビオンはクリムゾンを潰した後、防禦に専念してます。

 しかし、各地で発生したクリムゾン倒産による混乱に多少手を焼いているようです」

「・・・ネルガルは?」

「ナデシコ級戦艦の建造を急いでいます。それと旧クリムゾングループの一部の者がネルガルに」

「そう。・・・ネルガルの動きを監視するように」

「わかりました。それと、アルビオンが艦隊の増強を行っているそうです」

「1000隻の建造でしょう?」

「はい。如何しますか?」

「ほっとけば良い。天川艦隊は紅月が対処すれば良い。それに連合軍に750隻与えられても、撃破は可能」

「連合軍にもそれなりの指揮官がいます。楽観は禁物だと思いますが」

「私が負けると思う?」

「そのような言い方は卑怯だと思います」 

「・・・悪かったわ。でも、私は負けるつもりはないのは事実」

「・・・そうですか。それと、機構軍から第3機動戦隊と第5戦艦戦隊が離脱。こちらに向ったそうです」

「計画はB段階に入ったようね」

「はい。すでに法院の諜報部門の幹部数人を抹殺、法院派の将軍2人を暗殺。機構内の最高法院の勢力も減少しつつあります」

「・・・計画は順調ね」

「はい。すべてはシナリオのままに」

そのあと2人は黙りこんだ。そしてその沈黙は九十九が報告の通信を入れるまで続いた。





 一方、各地の惨憺たる戦況は連合軍総司令部でも多少は掴んでいた。

「防げないかね?」

総司令部につめていた士郎に尋ねたのは、旧友であり再建された国防省の責任者であるアルバート・クリステラ国防長官である。

「アル、いえ国防長官」

「今まで通りアルで構わんよ」

アルバートは軽い口調で新たに宇宙軍総司令官に就任した高町士郎大将に言った。

「はぁ。現状では不可能です。動ける艦隊が4個、しかもその内使い物になるのは第3、6艦隊程度です。

 その上西欧に展開していた連合軍は壊滅状態です。しかもヨーロッパ各国の軍もかなりの被害を受けており、

 まともに組織だった行動をとれる部隊はほとんど存在しません」

「・・・と言う事は傍観か」

アルバートの言葉に士郎は苦渋の表情を浮かべた。

「心苦しいのですか・・・アルビオンの艦隊を使うしか」

「彼らの艦隊を我々の指揮下におく必要があるか」

「しかし」

「・・・地球を守るのは我々の義務だ。だが、その為には手段を選んでいられない」

「・・・」

「私もこの策が決して良いものではないことは分かっている。だが、彼らから提供された二隻の戦艦だけでは足りないのだ。

 それに彼らが建造していると言う艦艇群も間に合わない。派遣する人間の人事は君に一任する」

「・・・わかりました。彼らに要請してみます」

 断片的に伝わってくる欧州の戦況は悲惨極るものであり、軍人であったなら誰もが頭を抱えるような状況だった。

駐屯部隊の多くは、先のマスドライバーの爆撃で叩かれ、そのうえ生き残っていた部隊は隕石おとしで吹き飛ばされて、

欧州にいる連合軍は当初の六分の一以下にまで減少している。無論、このような状況で木連軍による攻撃を防ぐことなど夢のまた夢で、

各地で総崩れになっている。だがこの戦況を唯一引っ繰り返しうる策があった。そう、カイト達の艦隊の派遣であった。

「アルビオンの艦隊を欧州戦線に向わせるとしても、提督を誰にするかだな」

カイト達の艦隊戦力を考慮すれば、彼らと円満な協力関係を築き得る人材を派遣する

必要がある。だが大きな人的損害を被り、再建中の宇宙軍に人材面で大きな余裕は無い。軍官僚も半数近くが戦死しているのだ。
 
優秀な人材はどこの部署も咽から手が出るほど欲しがっている。

「・・・」

執務室で考えていた士郎はある人物を思い浮かべた。

「・・・相談してみるか」
 
士郎は、彼と同じく昇進し、宇宙艦隊司令長官に任命された秋子に連絡を取った。

『どうされました?、高町宇宙軍総司令官』

「・・・またアルビオンに協力を頼むことになりました」

『あらあら、士郎さんはもう私の上官なのですからもう少し強い口調で言っても構いませんよ』

「まぁ今までこれで通してきたんですから許してください。話を元に戻します。アルビオンの艦隊に派遣する軍人のことですが

 相沢祐一准将を派遣しようと思うのですがどうでしょう?」

『・・・何かと文句を言う人間がいそうですね』

「確かに『一部の人間』から文句が出そうですが、あと他に派遣できる人材は倉田佐由理中将か、美坂香里少将、それに

 高町桃子少将でしょう。しかし中将クラスの人間、しかも倉田中将のような艦隊司令官としてだけでなく、軍官僚としても

 有能な人物を派遣できるほどの余裕は我が軍にはありません。それに川澄少将や高町少将は他の艦に配属する必要がありますし

 消去法でいけば彼しかいません」

『・・・わかりました。しかし、艦隊の所属はどこにするのですか?』

カイト達の戦力は連合宇宙軍一個艦隊を遥かに凌ぐ。どこの方面軍も欲しがるだろう。

「連合軍総司令官直属になってもらいます。彼らにはそれ相応の階級を与えるつもりです」

『九条大将直属ですか・・・』

「彼女だったらそう無理は言わないはずです」

『別の意味で無理強いされそうな気もしますが・・・まぁそれがベストでしょう』

「はい。それと大変かもしれませんが、宇宙艦隊の再建を早急に進めてください。こちらも出来うる限りの手立ては講じますから」

『わかっています』 

その後、士郎は祐一を呼び出し命令を伝えた。

「提督ですか?。しかし、私は」

祐一は現在、第6艦隊参謀長を務めていた。

「美坂香里少将が後任だ。彼女なら文句はでないだろう」

「そうですか、他に派遣されるのは?」

「一応、君だけだ」

「了解しました」

「出発は明後日だ。急な話で済まないが、よろしく頼む」

「はい」 

その後、祐一は速やかに引継ぎを済ませ司令部を後にした。

ちなみに名雪を始めとする女性陣が祐一が出向したのを知ったのは、祐一が司令部を発って1日たってからだった。

「だお〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

寝坊娘は、驚きのあまり意味不明な叫び声を上げ、

「そんな酷なことはないでしょう」

と、あるおばさん臭い女性将校が友人を代弁し、

「うぐぅ〜、酷いよ祐一君」

鯛焼き食い逃げ常習犯が半泣きで言う。

「そんなことする人きらいですぅ〜」

と、アイス大好き女性士官が言ったりしていたのだが、その文句はすぐに消えた。なぜ消えたのかは闇の中だが、1つ言えることは

「だぉ〜〜〜!!、オレンジが、オレンジが襲ってくるよ〜!!」

寝坊娘が暫くの間、そのような寝言(うわ言)を言うようになったことだけであった。

士郎は、祐一が総司令部をあとにする数十分前にアルビオンに連絡をいれていた。





アルビオン本社。

『―――と、言うわけなのです』

士郎がすまなそうに事情を説明した。だが、カイトは別に気分を害したような気配を見せずに言う。

「それで?」

『勿論、こちらも単に指揮下にはいれと言うのではありません。それなりの報酬はだすつもりです』

「・・・いいえ。私達としては軍属に成る代りにこちらの艦隊の編成に口を出さないでいただけるなら、報酬は結構です」

『・・・わかりました』

「他に何か?」

『私達は貴方達の艦隊は連合軍総司令官直属、つまり九条大将の直属の独立艦隊として活動してもらいます。

 また艦隊の前線における指揮権は完全にそちらに委譲します』

「作戦参加に関する拒否権は?」

『すみませんが、ありません』

「・・・誰が監視役として派遣されるんです?」

『そちらには提督として相沢祐一准将が派遣されます。それとあなたには連合軍大佐の地位を与えます』

「・・・ちょっと待ってください私が大佐ですか?。私は民間人ですよ」

『私としては先の戦闘を考えればあなたに大佐の階級を与えても惜しくは無い、そう思っています』

「・・・」

『総司令部にも許可を貰っているので問題ありません』

流石にこれにはカイトも絶句した。一応彼は25歳である。20代で大佐と言う人事は普通ありえない。

「反発はないのですか?」

『無論あるでしょうが、私が抑えておくので心配しないで下さい』

「・・・後が大変でしょうね」

『貴方達が活躍すればいずれ消えて無くなりますよ』

「・・・ご期待に添えるように努力します」

『残念ながら今から努力してもらわなければなりません』

「まさか・・・」

『はい。木連が欧州に降下作戦を行いかなりの地域を制圧しています。その為、貴社の艦隊には迎撃のため出撃命令が下っています』

「・・・了解しました。では、早速準備に取りかかります」

『制服や認証カードをすぐにとどけさせます』

「わかりました」

その後、2、3話をしてカイトは通信を切る。そして近くにいた麗香にため息をつきながら言う。

「まさか、俺が軍人になるとは思ってもみなかったよ」

カイト自身前回の世界での経験からあまり軍人は好きではなかった。その彼が大佐である。何と言う皮肉であろうか。

「でも、それだけの地位があれば、軍内部でそれなりの発言力を得られるわ」

「だが、地位が高くなると言う事はそれだけ足元が危うくなると言うことだ。

 残念ながら地位の向上と共に、足元は狭くなり、落ちた時の怪我もひどくなる」

「別に戦後に栄達を目指すわけではないでしょう?。それなら戦時中は精々、地位を利用させてもらえれれば良い」

「・・・そうかな」

彼は自分の机の上にあった艦隊の整備状況が記された書類があった。

そこには、すでにリアトリス改級戦艦3、ユーチャリスU改級戦艦2が改装を終了。巡航艦4、駆逐艦18、正規宙母2が完熟訓練終了。

それに加え、ユーチャリスU改級1とリアトリス改級2隻が就航、現在、試運転中というものだった。

「試運転中の戦艦3隻が戦線に加われるのは?」

「春日井からの連絡ではあと10日後。それと来月には正規宙母2、巡航艦6、駆逐艦14、砲艦6を始め30隻あまりが完成。

 機動兵器の更新も急ピッチで進んでる」

「・・・確かに連中から確約を受けたよな?」

「ええ。少なくとも彼らは艦隊の増強には文句は言わない、いえ言えないわ。まぁ口約束だから、あとで契約書を書く必要があるけど」

「軍が約束を破ったら?」
「それなりの報復を行うだけ。まぁ指示を下した人物には鬼籍に入ってもらうわ」

「・・・まぁその辺は任せるよ。

 ・・・そういえば、更新が終って退役したブラックサレナ改はどうなっているんだ?」

「何機かは軍に供与したわ。まぁこのレベルの機動兵器を扱えるパイロットは少ないでしょうね」

「・・・量産型サレナは生産できる?」

「接収したクリムゾンの工場で生産できる。量産体制は二週間あれば整えられる」

「そうか・・・反撃の準備は整いつつあるな」

「ええ。ああ、そう言えば情報部がナデシコ級戦艦二番艦コスモスが完成したって」

「コスモスか、性能は?」

「史実と変わらないみたい。ああ、ナデシコも近々復活するみたい」

「ナデシコが?」

「ええ。艦長はミスマルユリカが続投するようだけど」

「そうか。・・・クリムゾン倒産による影響は?」
「オセアニア方面ではいまだに混乱が続いているわ。それに加え、クリムゾン本社を襲ったミサイル攻撃の件で軍人が次々に

 失脚しているらしいわ。おかげで現場は大混乱。まぁその大半が親クリムゾン派だから問題無いけど」

「まぁ、地上軍のその程度は混乱はやむを得ない。オセアニア方面軍に対する政治工作は?」

「上層部には親アルビオン派を送りこんでいる。まぁネルガルが煩いけど現時点ではこちらが押してるわ」

「なら良いが・・・」

何か嫌な予感を感じたカイトだったが、それを振り払った。彼の予感には根拠が無かったからだ。
カイトは嫌な予感を振り払った後、他のメンバーを呼びだして今後の予定を伝えた。

「・・・と言う事は私達に軍人になれということですか?」

「香織ちゃん、不満?」

「そう言うわけではないですけど」

「カイトは大佐か、俺達はどうなるんだ?」

「蘭と香織は少佐、麗香ちゃんは中佐だそうだ」

「中佐ねぇ・・・真澄は?」

「彼女は戦闘には参加しないから、階級は無い」

「ふーん、真澄は本社に残るの?」

「ええ、本社の維持と、軍との交渉とHFRだけでは応対できないものをしなくちゃいけないし」

「後ろのことは頼んだよ、真澄ちゃん」

だが、この時真澄は心中、カイトに後ろめたさを感じていた。

(まさか、彼は自分達の介入が利用されているとは思ってもいないでしょうね。真実を知った時、彼は私を許すかしら?)



 この後、本社を訪れた祐一から制服や階級章を受け取ったカイト達は彼を拡張された秘密ドックに案内する。

集結していた艦隊戦力は、ユーチャリスU1隻、ユーチャリスU改級戦艦2隻、リアトリス改級戦艦3隻、正規宙母2隻、

双胴型戦闘母艦1隻を中核とし、護衛として巡航艦4、駆逐艦18隻、さらに補給艦、工作艦を含めて40隻に昇る艦隊であった。

搭載されている機動兵器数は200機余り。その内半数近くがメタトロンであり、残りがブラックサレナ改の改造型。

40隻と言う半個艦隊にも満たない陣容であるが、その戦闘能力は連合宇宙軍の残存艦隊を遥かに凌駕するものだった。

「凄い・・・」

祐一はあっけに取られた。

「一体、何時のまにこれだけの艦艇を?」

祐一の問いに麗香が答える。

「・・・世界各地に我々は極秘の建造施設を持っています。これらはそこで作られたものです」
 
無論、嘘である。しかし、火星や冥王星で作ったとは口が裂けても言えない。 

「そうなんですか・・・」

「それより、相沢准将も大変ですね。民間の艦隊に派遣されるなんて」

「いやぁ〜、俺としてはほっとしているんですよ」

「・・・どうしてですか?」

「言うのもなんなんですが、近頃奢らせられすぎて金欠だったんですよ」

ははは、と笑う祐一にさすがの麗香も唖然とした。

「(風評通り軍人らしくないわね)それは大変ですね」

「そうなんですよ。まったく、特に従妹の名雪が一番たかってくるんです」

祐一の愚痴に付き合わせられる麗香。

(よっぽど大変なようね、でも)

「もうそろそろ、行きませんか?」

「ああ、そうですね」

「・・・大分、変わった軍人のようだな」

様子を近くで見ていた蘭は呟いた。

「そうですね」

「まぁ、現場に一々文句をつけてこなければ文句はない」

「・・・そうですね」




「ようこそ、相沢准将、いえ相沢提督」

ここ、ユーチャリスUの艦橋で、カイトは麗香に案内されてやって来た祐一に挨拶した。

「いえいえ、こちらこそ無理を言ってすいません」

「まぁ、非常時ですから。それと俺のことはカイトと呼んでください。ああ、それにもう少し気軽に話してください」

「そう言ってもらえるとありがたいです」

終始和やかに進む。

カイトは史実におけるキノコと目の前の祐一を比べ、

(史実のオカマキノコに比べれれば、1000倍マシだな)

と心中呟いた。

「もう聞いているとは思いますが、本艦隊はただちに欧州へ向います」

「しかし、欧州、特に西欧区は完全に敵の勢力下になっていると聞きます。補給は?」

「ロシアや中央アジア方面からの部隊から補給を受ける予定ですが」

「絶対ではないと?」

「最近、敵の質量兵器の攻撃によって補給ラインが寸断されて、確約できない状態なんです」

質量兵器の正体は、カタパルト艦や月面のマスドライバーから放たれる岩石である。

これらの爆撃により、連合軍の補給基地が各地で破壊されるという事態が頻発し、軍は戦線の縮小を強いられていた。

「そうですか・・・」

「すいません」

「(戦況は深刻だな)・・・相沢提督、全体の戦況は?」

「南米、欧州戦線はすでに絶望的。直接侵攻を受けていない地域でも敵の通商破壊を受け、孤立化した地域も少なくない」

「・・・そうですか」

カイトは嘆息する。

「補給に関してもこちらで何とかするとしましょう」

カイトは麗香を振り返り言う。

「艦隊の発進準備は?」

「完了してる」

「よし。全艦隊発進!!」

「了解」



 40隻の艦艇はドックから飛びだった後、陣形を組んで欧州に向った。




 だが、この動きは木連軍の偵察衛星によって、仁美の知るところとなる。

「彼等の目的地は欧州か。・・・欧州方面軍司令部に警戒警報を」

「はっ。それと増援を送んでは?」

「紅月第2艦隊に新造した艦艇を加えて送りこむとしましょう」

「ではアーレン少佐に」

「ええ」

だが、この時木連本国から通信が届く。

『久しぶりだな、草壁仁美大佐』

「お久しぶりです、草壁春樹中将」

敬礼しつつ、仁美は言った。と言っても仁美がわざわざ敬礼などしなくても言いのだがやはり、一応形式上は草壁春樹が上司なので

公的には上官として扱っている。無論草壁春樹にもそうするように厳命していた。

『急な話だが君の昇進が決定した』

「・・・そうですか」

『本国は立て続けの大戦果に沸き立っている。政府も勲章の授与を考えているそうだ』

「はぁ」

『まぁ一度は本国に戻ってくるように』  

そして通信が切れる。

「・・・勲章ね。私としては授与式なんかで時間を取られたくないんだけど」

これには真奈美も苦笑した。彼女は長い付き合いから仁美(博美)が勲章に価値を見出していないことを知っていたからだ。

「まぁ国民の士気向上の効果も見込めますし、そうそう悪いことではないと思いますよ」

「そうね、プラントの増設や新規プラントの建設。戦力の増強と後方でやるべきことも結構ありそうだし一度本国に戻る必要があるか」

「天川艦隊は優人部隊と共同で抑えられます。前線のことはお任せを」

「・・・それじゃあ前線は任せるわ」

「はい」



 地球が星の屑作戦とそれに続く地球侵攻作戦を受け、地球各地が戦乱に巻き込まれているころ、木連本国は比較的平和を

謳歌していた。各コロニーでは火星からもたらされた食料、医薬品などが流通し始め、戦前に危惧されていた食料危機等は

回避され、いや逆に仁美の登場以降、生産力が飛躍的に向上したおかげで僅かながらものが豊富になっていた。

だが星の屑作戦時に仁美の語った『長期戦は無理』というのはある意味真実だった。

いくら生産力が上がったからと言っても、地球との国力比は1対10近くあり、長期戦になれば先に木連経済が破綻してしまう可能性が

ある。いやあったと言うべきか。

地球は今回の星の屑作戦で多大な犠牲を払った。特に金融都市が多数破壊され、その機能を止めた。

それに加えクリムゾングループの倒産である。たしかにこれにより救われた人間も多いが、金融の混乱に拍車をかけたことは否めない。

アルビオンの力によって回復するにしても、地球は短期間とは言え混乱を余儀なくされるだろう。

そして、それは木連にとっては好機になる。すでに仁美は地球に生き残った主要都市への無差別攻撃を決定した。

彼女は連合の生産力に大打撃を与え、長期戦に備えるつもりだった。

戦争のある程度の長期化、それが彼女の望みなのだから。







 一部の人間、しかも異界の人間達によって戦火は拡大し続ける。

彼等の意志により戦争は拡大の一途を続け、すでに史実から大きく逸脱した。だが史上未曾有の犠牲者を出しながらも、

なお彼等は己の意志に従い戦いを継続しようとする。世界は異世界の者達の遊技場に成り果てていた。


だが、この様子を遥か時空の彼方から見つめる存在があった。

(・・・異世界から呼び寄せた贄達はよくやっているようだ。

 それに、アトラス、いやクリスと言うべきか、あの男も中々味な真似をしてくれる)

だが、ここでそれはふと考える。

(・・・だが、何か面白くない。多少、予定と違うがあれを使うか)

その存在は用意していた新たな贄を送りこむことを決意する。 

(さて、どうなることやら)

それは不敵な笑みを浮かべたのち、その空間から消えた。










後書き

earthです。時を紡ぐ者達第21話をお送りしました。

なにやらもうナデシコSSでは無くなってきているような気が・・・・(汗)。

それでは、駄文にも関わらず最後まで読んでくださってありがとうございました。

それでは第22話でお会いしましょう。






代理人の個人的な感想

確かに現状はナデSSというよりぎゃるげSS。(爆)

アキト以外のナデキャラの名前を久々に聞いたような気がします(笑)。

 

 

 

 

・・・・尤も、元ネタをさっぱり知らないこちらとしては、ぎゃるげのキャラもオリキャラと大差ないんですが(笑)。