何もない空間で、男が一人がただ存在している。

「ここはどこだ?」

自分が今どの方角に向いているのか、どちらが上で下なのかさえわからない空間。

自分以外誰も何も存在せず、ただ暗闇だけが広がる空間。

夢と言えば、その一言ですませられるような非現実的な世界。

だが、

「痛い・・・」

ほおを抓っても、起きない。

「夢じゃないのか・・・馬鹿な」

男は呆然とする。

そんな呆然とする男の前に、自分が今まで夢見ていた光景が映し出された。

そう、自分がエースパイロットとして活躍し、賞賛される姿が。

自分が正義の味方として、地球を守り木星蜥蜴を打ち砕いていく姿が。

だが、その光景は彼にとっては現実と理想、いや理想だったものとの乖離をいやでも思い知らせる。

「やめろ、止めてくれ!!」

男―山田次郎は、絶叫する。彼には耐えられなかった現実と理想だったものとの乖離を。

「・・・ここはあなたの心の中」

突然駆けられた声に驚き、男は振り向く。

だがそこには誰も居ない。

声だけは続く。

「ここはあなたの夢と、絶望が作り出した世界」

「誰だ!? 出て来い!!」 

「あなたは憎くは無いの? 自分から全てを奪った蜥蜴を・・・。

 なれるはず、いえ、自分がなったはずのエースパイロットとしての地位。

 そして悪の木星蜥蜴を先頭に立って打ち砕き、与えられるはずだった正義の味方と言う称号。

 あなたが幼いころから渇望してきたものを全てを奪い去った蜥蜴を憎く思わない?」

女性の声の問いかけに、山田は即答する。

「憎いさ、憎いに決まっているだろう!!」

そして彼の常軌を逸する罵詈雑言は続く。

「どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって!! 

 何で俺が活躍できない!! 何で俺が正義の味方になれない!!? 

 俺にはその資格があるはずだ!!」

「俺はゲキガンガーみたいになる!!」

「それをあの蜥蜴どもは奪ったんだ!! 不意打ちしやがって!!、あの卑怯者が!!」 

「だいたいあの銀髪野郎も最初からパイロットとしての資格があるんだったらさっさと

 出撃すれば良かったんだ!! そうすれば俺もこんな事にはならなかったはずなのに!! 

 あのチキン野郎が!!」

「・・・・・・」

その様子を冷ややかに見守る視線に彼は気付かない。

「はぁはぁ。俺にこんなことを言わせて、どう言う気だ? 俺を笑いに来たのか?、惨めな俺を見て」

「そんなことはありません。私はあなたに力を与えに来たのです。

 そう。再びエースパイロットの座を得られる力を与えに・・・」

「はっ、怪しいもんだ」

「なら、どうします? 私は別にあなたに力を与えなくても良いのですよ? 

 私は貴方以外にも力を与えられるものは居ます。

 あなたが私を拒絶するなら彼らに力を与えるだけです」

冷徹な声が響く。

「・・・」

「どうします?」

しばしの沈黙がその場を覆う。彼の中では凄まじい葛藤が行なわれているのだろう。

そして、沈黙の後に彼が出した答えとは・・・。

「・・・わかった。その申しこみ受けよう」

それはまさしく悪魔との契約だった。

普通の状態であったのならまずは受けないであろう申し込みを山田はうけた。

それは彼の心理状態が黒い感情によって蝕まれていたことを克明に表していた。

その存在は心の中で山田のことを冷笑しながら厳かに言う。

「それでは・・・始めますよ。儀式を・・・」

その存在が山田には分からない、何かをした次の瞬間、この暗黒の空間に光が灯される。

そして

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

自分の中に、何か異様なものが入ってくるのを感じながら山田は気を失った。



 そして、この数日後。山田がパイロットとして奇跡的に復活したことが一部の人間に知られることとなる。



              時を紡ぐ者達 第31話 太平洋編



 木連による攻勢が開始される数日前。
ネルガル本社の会議室に集った重役達は、冷や汗をかき、己の寿命を削る思いで
ネルガルの現オーナーの質問を受けていた。

「ナデシコ級戦艦の改造は?」

「すでにナデシコ、コスモスは完了しています。

 カキツバタ、シャクヤクもあと二週間ほどで完了します」

「それに加え、ナデシコにはYユニットを装備させました。

 ゲシュペンストの配置もほぼ終了しています」

重役達は冷や汗を流しつつも丁寧に答える。

彼らは自分達が孫娘より少し年の程度の小娘に押されていることに屈辱感を抱く一方で

生存本能から来る、『こいつには絶対に逆らってはいけない!』と言う叫び声がエンドレスに頭に響くのを聞いていた。

「なるほど。で、ナデシコの後継艦は?」

「ナデシコBも建造中ですが、マシンチャイルドが・・・」

「ならマキビ・ハリがいるでしょう? 数が足りなくなったら星野ルリのクローンを載せれば良い。

 遺伝子情報、まだ持っているんでしょう?  それを使って急いで数をそろえなさい」

「・・・しかし、そんなことをすれば細胞のところどころが癌化する可能性や免疫系に障害が出る場合が出ると思いますが?」

「そうです。それに申し訳ありませんが、わが社の実験施設は多大な被害を被っています。 とても短時間では・・・」

この重役たちの反撃に対して、彼女の返答は無情、いや非情だった。

「構いません。欠陥品が死んだら取り換えれば良いのです」

彼女から言えば、命というものは非常に軽い存在だった。

目的のため、自分のためには赤子すら殺す。

それが彼女の信条。

もっともそれはネルガルの重役たちにも当てはまるが、彼らと彼女の唯一違う点は彼女が自分の命も軽く考えている点だろう。

それを重役たちが知る術は無いが・・・。





 何人かの重役がなお反論する。しかし・・・。

「ですが、そのような実験を行えば」

「今は非常時。それに隕石おとしと地球圏への侵攻で連合の体制はがたがたです。 このくらいの実験をしても気付かないでしょう」

「しかし・・・」

「これは命令です」

絶対者の命令。冷たい空気が室内をよぎり、比較的気の弱い人間が震え出す。

これ以上の抗議は許されない。

そう感じた重役達に言えることはただ一つであった。

「わかりました。全力を尽します」

「よろしい」



 重苦しい空気が会議室を包む。だが、そんな空気を気にもせずに彼女はことを進める。

「私が渡した空間転移装置はどうなりました?」

「結果は順調です。すでにナデシコA、コスモスにはとりつけました」

「そうですか」

「しかしこれでは・・・」

「片道特攻にはならない。言ったはず、すでに準備は終わっていると」

「・・・・・・」

彼らが目論んでいた計画、それは空間転移を使い一気に木連本土であるコロニー群へ奇襲攻撃をかけ戦局を一気に打開する

というものだった。

尤も彼らがこの作戦を推し進めたのは理由がある。

近頃はアルビオンに押され、ネルガルは衰退が進んでいた。

アカツキを失脚に追い込んだ社長派から見れば下手をすればアカツキに逆襲の口実を与えかなない。

これを間逃れるためには何とかアルビオンに傾いた流れをせめて互角にまで戻さなければならないのだ。

そこで彼らはネルガルの戦艦により戦局の流れが変わったのならそれが可能になるという誘惑に取り付かれた。

彼らは知らないが、この作戦は錫と法院の意向でもある。

第二師団が木連本土へ侵攻する際には、やはり敵の内情をある程度掴んでいたほうが好ましい。

そのためにナデシコ級を改良して送りこむのだ。

いや、この前までは木連の戦力を探ること、そして木連本土付近で通商破壊を行う事が目的だったが、今では反逆の兆候を

見せ始めた統和機構の支店とも言うべきアルビオンに対する備えにもするつもりであった。

第二師団の背後から攻撃をしてこないとは限らないからだ。

何隻かの戦艦は残しておかなければならない。

「3日後、ナデシコとコスモスを木星付近に移動させる」

「しかし、いきなり最前線は無理では」

「テストとしては十分です」

「ですが、再び撃沈されれば我が社の製品に対するイメージが」

「・・・ではどうすると?」

「我々としては、ナデシコとコスモスはまずは太平洋で慣熟訓練をすることを提案します」

「・・・良いでしょう。では、そのように。

 それと艦長人事はナデシコは葵ジュン。それとコスモス艦長には前会長暁ナガレをあてます」

「!!」

「出撃は三日後。それでは各人は準備にとりかかるように」

「・・・わかりました」

一方的に会議の閉会を宣言すると彼女は部屋を後にする。

そして残ったのは恐ろしいプレッシャーから開放され、安堵のあまり無様に机に突っ伏した重役たちだけだった。



 かくして会議は終わり、ネルガルはナデシコとコスモスを太平洋で訓練させる事となる。

そしてナデシコの出撃は木連の欧州方面軍が活発に動いているとの報告が入る4日前の事だった。




 佐世保ドックには修復されたうえ、Yユニットを装備されたナデシコがあった。

この艦にはぞくぞくと乗組員が乗りこんできている。

そのうち半数以上が新しく艦に配備されたメンバーであり、実戦経験がある猛者であった。

「なんだか、雰囲気かわりましたね」

「そうね」

艦橋では、メグミとミナトが出航寸前のナデシコの様子を見ながら呟いていた。

「でも、何だか不安です。また撃沈されないかなって」

メグミはナデシコが撃沈された際に、戦争というものを嫌と言うほど実感しており

今回は乗る気はさらさら無かったのだが、契約書を盾に取られしぶしぶの乗艦となったのだ。

「大丈夫じゃない? 近くにはコスモスとか言う艦もあるんだから」

「そうですか?」

そんなふたりが話している最中にブリッジの扉が開く。

そこには・・・。

「子供? 何でこんなこころに?」

ミナトが怪訝そうに言ったとき、あとから入ってきたプロスが説明する。

「この子は、ルリさんの代りに新しく配属されたオペレータで、名前はマキビ・ハリといいます」

「ちょっと、こんな子供を戦艦に乗せる気!?」

人道主義のミナトは反発する。

普通の感性の持ち主でも反対するだろうが・・・。

「本社の命令もあるのですが、最近彼のようなマシンチャイルドを狙う輩が多く、戦艦に乗せていたほうが

 まだ安全だと言う意見がありまして・・・」

「そんな訳ないじゃない!!」

「前回の沈没は奇襲だった事と、こちらの対応が遅れたことに起因していると本社は考えておりまして・・・」

「それじゃあ、正面から戦えばナデシコは絶対に負けないって言いたいの?」

さすがにこれにはプロスも即答できない。

そんな重苦しい雰囲気が漂う艦橋をさらに憂鬱にさせる人間が入ってきた。

「遥ミナト、何をしている!!」

ミナトを叱責したのは葵ジュン。

「何って、こんな子供を何で戦艦に乗せたのかを問い詰めているの!」

「彼はオペレータだ。彼が居なければこの船は動けないんだぞ!!」

「だからって戦艦に子供を乗せて良いの!?」

「議論している暇は無い!! さっさと全員席につけ!」

「横暴よ!」

「煩い!! またあのときみたいにこの船を沈めたいのか!!」

この殺し文句にさすがのミナトも反論できない。

憤懣の表情でミナトは元の位置に戻った。

重苦しい空気が艦橋内部に立ち込める。





 発進準備に取りかかっているナデシコ。

そんな艦の近くには、ナデシコ級戦艦二番艦として建造されたコスモスが警戒にあっていた。

「ナデシコはどうなっているんだ?」

コスモス艦長になった前ネルガル会長暁ナガレは相変らずの極楽とんぼぶりを発揮していた。

「発進準備は順調です。地上も別に問題ありません」

「そうかい。ほんじゃあとよろしく」

そう言うと、艦橋から出ていった。

「まったく、あの艦長は・・・」

「そういや、艦長ってネルガルの前会長だったらしいぞ」

「何でこんな船に乗ってるんだ?」

「さぁな。聞いた話じゃ、前にあのナデシコを撃沈された責任を取らされて解任されたらしい。

 それで今回、ナデシコの護衛としてコスモスの艦長に就任させられたらしいと」

「マジかよ・・・」

「さぁな」



 そんな喧騒に包まれているサセボドックを上空から見守る目があった。

「ナデシコ出撃か・・・彼らに再び奇跡を起せるかな?」

衛星軌道の偵察衛星の映像を見て呟く男がいた。

「それはありえませんよ」

「何でそんなことが言える?」

「何となく、と言ったらどうします?」

「それは答えになっていないが、まぁ良いだろう。今後の展開は?」 

「・・・木連による攻勢でしょう。彼らは第二艦隊を大西洋に出撃させたようですし。

 太平洋方面にも攻勢の構えをとっています」

「・・・法院は地球連合とアルビオンの力をどうやら過大評価しつつある。

 ここで連合軍とアルビオンがある程度の戦闘能力を示せば連中は戦力を分散する可能性が高くなる」

「だとすれば、この攻勢は失敗するのが好ましいと?」

「・・・否定はしない。だが、あまり短期に決着がつくのは好ましい事ではない」

「・・・準備の為ですか」 

「そうだ」

「システムは予定通り上手くいっています。

 このままいけば、起動実験のときも・・・」

「・・・ここは彼女の御座の近くでもある。法院も派手には動く事は無いだろうが機密保持には気をつけろよ」

「わかっています」

彼らは話をしているここは極冠遺跡の近くにあるとある施設。

カイト達が知っている火星基地より規模は小さいが、それなりの防衛能力は保有している。

そのうえ、アトラス、厳馬、春日井を含めて数人しかその存在を知らないと言う極めて機密性の高い基地であった。

「・・・そういえば、新城真澄が『神にでもなるつもり?』などと言っていましたな」

「そう受け取られても仕方ない」

「傲慢・・・と誹りを受けますな」

「傲慢でなければ、こんなことは出来んよ」

アトラスがそう答え、システムの鍵、奪われたことになっている金色の鍵を見つめた直後、新たな情報が入る。

「・・・木連が一大攻勢を開始した様だな」

画面には、佐世保や横須賀といった基地へ攻撃をしかける部隊の姿があった。

「歴史は動き出したか・・・この世界の歴史にはどう刻まれるでしょうな?」

「・・・さぁな」

「喜劇と言うべきでしょうな・・・」

「そうだな・・・私はもう戻る。あとは頼む」

「はい」

アトラスの姿が突如として消える。

立体映像だったようだ。

その姿が消えた直後、春日井は不意に自分の後ろに現れた人間に振り返りもせずに言う。

「久しぶりだな」

「・・・・・・」

何か小声で囁かれる。

「そうか。彼女の動きは?」

「・・・・・・」

「・・・所詮、彼女にとって世界は箱庭か」

今更ながら、自分達がマリオネットに過ぎないことを改めて思い知る春日井。

「まぁ良い。彼女が別の世界で遊んでいる間にこちらも準備を進めておこう。

 ・・・それにしても、この世界の戦争、全くもって茶番だな」

苦笑しながら、春日井はしばらく虚空を見つめていた。


 彼が言う茶番は、地球では大きな悲劇として被害を拡大していた。

ドォーーーーーーーーン!! 

マスドライバーからの大質量の岩石、それに衛星軌道の戦艦から大量の気化爆弾が投下され目標とされた軍事基地は

次々に粉砕されていく。

無論、近くの街も大きな被害を受けた。

何の罪の無い民間人が、いともあっさり殺されていく。

「ちくしょー、連合軍は何をしているんだ!」

「蜥蜴のくそったれが!!」

だが、そんな怒号や罵声には関係無く、攻撃は続いた。

建物は次々に倒壊していき、悲鳴が響く。

「放して、子供が建物の中に!!」

「おじいちゃんが!!」

「娘がまだ出てきていないんだ!! あの子は妊娠しているんだ!!」

灼熱の炎が、人々の頬をあぶり涙を乾かす。

彼らの悲痛な叫び声は、爆音や倒壊音にかき消されていく。

仁美、いや彼女が自分の背後にいる人間達とともに作り上げたシナリオにより犠牲になっていく無垢の人々。

世界のからくりを知らぬ人々に出来たのは、不甲斐無い連合軍への不満をぶつけることと

残酷極まりない木星蜥蜴を呪う事だけだった。



 一方、ナデシコの艦橋には警報が鳴り響く。

「敵襲か! 総員戦闘配置!」

ジュンの命令と共に艦内が慌しくなる。

「敵の数は?」

「はい。バッタ、ジョロ、それに人型あわせて3000。大型戦艦4を含む120。

 現在、コスモスと交戦中です」

ハーリーの答えを聞いたジュンは即座に格納庫に回線を繋ぐ。

「そっちに出撃可能な機体はあるか!?」

『四機でれます』

セイヤのかわりに整備班班長に就任した中年の男が答えた。

「それを出せ!」

『5分あれば』

「わかった、急げ!!」

『了解しました』



「ははは!!、やっと俺の出番が来たぜ!!」

ゲキガンガー色に染めたゲシュペンストに乗りこんだ山田は嬉しそうに言った。

それはとてつもなく暑苦しく、他のメンバーはそれこそ口には出さないものの、顔をしかめている。

「おい、静かにしろ!」

「いいじゃねえか。やっと戦えるんだ」

リョーコの注意に山田は好戦的な答えを返す。

「ひょっとして山田君って危ない人?」

「ヒカル、それはちょっと言い過ぎじゃないか? 

 だいたい俺のどこが危ないって言うんだ!?」

「だって、普通そこまで昂揚しないでしょう?」

「これは正義の為の戦いなんだぜ。

 悪の宇宙人から地球を守る戦い、く〜燃えるシチュエーションじゃないか」

「・・・・・・」

イズミは何も言わない。

「それに正義の味方である俺にあんな屈辱を与えてくれたんだ。

 しっかりとその落とし前はつけてやる!」

この屈辱の原因と言うのは、かぎりなく自業自得に近いのだが彼は気付いていない。

その前に彼は自分が正義であると錯覚していた。

いや、正義と言う言葉に酔っていたのかもしれない。

そんな彼には、蜥蜴との戦闘と言うのは地球を守る聖戦であるに他ならなかった。

そんな彼を危ぶむような目で見ている人物、イズミはそっと呟く。

「長生きしないわね・・・」




「おいおい、これはちょっと不味くないかい?」

山田が己の正義に酔っていた頃、冷や汗を流しながらアカツキは呟いていた。

最も、3000機もの敵機に囲まれて防戦を強いられているのだ。

冷や汗を掻かないほうが変だろう。

さらにいえば戦況は決して良いとは言えなかったことも理由のひとつだ。

何故なら機動兵器のスペックではスーパーエステバリスをもってしても改良された夜天光には対抗できない。

エースパイロットであれば無人機である夜天光には勝てるかもしれないが、ネルガルにはそんな人材はいないし、

軍から引きぬこうとしても、軍も人材不足に陥っていたのでそんなことは許されなかった。

そのためパイロットを自前で揃えざるを得なかった。

唯一の救いとしては、コスモスをドック艦ではなく、戦闘母艦として就航させたことで

投入できる艦載機の数が大幅に増えた事であろう。もっともこれだけ多くの敵機に囲まれたら焼け石に水かもしれないが・・・。

「ったく、ナデシコはどうしている?」

『ナデシコも機動兵器を発進させました。応援にきます』


 コスモスの通信士の言う通り、ナデシコの部隊が到達すると状況に変化の兆しが見え始める。

「は〜はっはっは。ガ〜イ、スーパーアッパー!!」

山田のゲシュペンストは何故か銃器があるのにもかかわらず接近戦闘で虫型無人兵器をなぎ倒していった。

彼の操る機体であるゲシュペンストは正式にはゲシュペンストMk−2と呼ばれた機体であったがオリジナルよりは

性能は向上されている機体で、武装の一つビームライフルも大幅に威力を増している。

特に山田の機体は他の機体より高性能になっていた。

もっとも、慣性制御などの機能は従来のものと変わらず、普通のパイロットでは乗りこなせないが・・・。

そんなことは露も知らず、普通の人間だったら気絶してしまうGを受けながら彼は攻撃を続ける。

「そらそらそら!」

ゲシュペンストの拳の一点にディストーションフィールドを収束させ、次々に殴る。

その威力はバッタなら一撃で吹き飛ばせる。

頭が、足が、次々に千切り飛び爆発する。

「見たか、正義の力を!!」

この様子を見たリョーコとヒカルは感嘆する。

「すげーな」

「山田君、やる〜」

幾ら新型とはいえ、あんな無茶な機動を行なって気絶しないだけでも彼女達にとっては驚愕に値した。



「おらおら、いくぜ〜!!」

山田は、陣形の中央にある大型戦艦に取り付くべく、一気に艦隊へ突入する。

「!、やめろ死ぬつもりか!?」

さすがのリョーコも止めようとしたが・・・。

「正義に敗北は無い!!」

バッタや夜天光の妨害をくぐり抜ける。

強力なGに襲われながらも、回避運動をしながらコクピットで山田は笑っていた。

(これだ、これだ。俺が追い求めていたのはこれだ!!」

圧倒的な開放感、もはや誰も自分を止めることは出来ない。

そう思うと、無性に彼は興奮する。

「いくぜ!! ゲキガンソード!!」

速度をつけたまま、構えたプラズマ・カッターを前面にはられる無人戦艦のディストーションフィールドに

突き刺す。

周辺に激しい光がはしるが、その直後、彼は戦艦のフィールドを突き破り機関部に直撃させる。

被弾した箇所から、次第に炎が噴出し、数十秒後にはその無人戦艦は轟沈。

大爆発により、近くに展開していた小型艦は爆発に巻き込まれ消滅した。

「す、すげ〜」

「山田君ってエースパイロットだったんだね」

大爆発に巻きこまれ消滅していった無人艦隊を見て呟くリョーコとヒカル。

機動兵器で戦艦を撃沈するのは至難の技であった時代は終わりを告げたが、それでも戦艦を撃沈しようと思ったら

複数機による連携が必要とするのがパイロットの常識だった。

それをいとも簡単にひっくり返した山田に三人娘、特にリョーコは感嘆を隠せない。

「へっ、あの野郎やるな」





 そんなリョーコの呟きがもれたころ、山田のこの攻撃によって状況は一気に地球側に傾き始めていた。

木連の攻撃部隊の厚みが減った事で、防御に徹していたコスモスが一気に攻勢に出ることに成功したのだ。

「グラビティーブラスト発射!!」

コスモスに搭載された多連装グラビティーブラストが発射される。

重力波の直撃をうけて、四散していく無人兵器。

無数の紅い花が空にさいていく。

「逃すな!、殲滅しろ!!」

ジュンの檄を飛ばし、残敵の掃討にかかる。

コスモス、続いて参戦したナデシコが木連の無人艦隊に徹底的な殲滅戦を展開する。



「グラビティーブラスト広域発射!!」

「了解」

ナデシコの強化されたグラビティーブラストにとって小型艦のディストーションフィールドは紙にも等しい。

彼らは次々に撃沈されていく。だが、無人兵器は死を恐れない故に大胆な行動も取る。

「敵機接近!!」

「対空ミサイルで応戦しろ!!」

「駄目です! これはナデシコの死角から向ってきます。数12!!」

「くっ・・・副砲を展開しろ」

「しかし、まだ試運転していませんが?」

「構わない。急げ!」

「・・・了解しました」

ハーリーは、パネルを操作しナデシコに追加搭載された副砲、もとい遠隔操作式機動砲台を展開する。

「・・・何あれ?」

ブリッジクルーは何やら自分の意志をもち行動しているような奇妙な物体に思わず声を挙げる。

その物体とは左右のディストーションブレードにあった副砲であり、形状としては嘗て旧日本海軍

の戦艦が採用していたケースメイト式のものとよく似ている。

それらは設置されていた場所から離れると十字の翼を広げ、向ってくる敵機の進行方向の前面に展開する。

それは自分の意志があるかのように動き、次々に強力なビームによる弾幕を張りはじめる。

一基や二基程度では話にならなかっただろうが、12基も数があればそれ相応の攻撃力を発揮するのだ。

「出力80%で連射! いいか絶対ナデシコに近づかせるな!」

「了解しました」

勿論この攻撃を排除しようと、無人兵器も攻撃を加えるがその副砲は独自にシールドを張る事が出来るので

一撃では落ちない。しかも、機能が低下した機体は予備のものと交代し、弾幕に穴を作らないようにしている。

連携プレーにより夜天光はこの弾幕を突破できず、救援に駆け付けた山田機に捕捉される羽目になった。

「は〜はっは。いくぜ!!!」

プラズマカッターで襲いかかる山田機に対してアルテミスはフィールドランサー改の曲刀バージョンで対抗した。

ランサーとプラズマカッターが擦れ合い、嫌な音を奏でる。

この状況を見たアルテミスは手首を返した。

「! そう来るか」

山田は夜天光が何をしようとしているのかを一瞬で理解するとその場で体を低くする。

すると、次の瞬間にはサーベルの両刃になった部分がゲシュペンストの頭上を通りすぎる。

「いくぜ!」

山田は隙を作ってしまったアルテミスへの攻撃を躊躇しなかった。

―――ズゴ!!

ゲシュペンストの膝蹴りがまず決まり、次にこの攻撃で前屈みになったアルテミスに山田は

プラズマカッターを突き刺した。

この動き、僅か数秒間。恐るべき戦闘能力だった。

続いて何機かのアルテミス、夜天光と交戦する山田。

無論、山田に捕捉されずに済んだ機もあるのだがバッタは勿論、ちょっとやそっとでは落ちない夜天光シリーズも

十字砲火をあびては、いくら防御力の優れたかの機体でも唯ではすまなかった。

一機、また一機と脱落していく。そして数十秒後には全ての機体が撃墜される。

結果的にはこの攻撃が無人兵器の最後の足掻きだった。

戦艦と夜天光、そして極少数のアルテミスという主力を失ったことで木連軍は一気に総崩れとなる。

「勝った!!」

最後の無人兵器が落されたとき、ナデシコ、コスモス艦内に歓声があがった。

嘗て初戦で大敗を喫した彼らにとっては、この勝利は掛け替えの無い勝利だった。

いくら、アルビオンのこれまで挙げた戦果に比べれば劣る物としても。

だが、彼らは気付いていない。この戦いがこれから始まる死闘の前哨戦でしかなかったことを。

そして彼らの様子を冷ややかな目で見つめている者がいた事を・・・。




 後書き

 お久しぶり、earthです。時を紡ぐ者達第31話 太平洋編をお送りしました。

ナデシコやっと復活しました。ついでに山田、そしてジュンも。

ダブルブラックが今後いかに活躍するかは分かりません(爆)。

ちなみに、カイトと北斗が活躍(?)する第31話 大西洋編も執筆中です。こちらは結構手間取っておりますが・・・。

それにしても戦闘は書くのが難しいですね本当に。何かコツって無いでしょうか? 

それでは駄文にもかかわらず最後まで読んで下さって有難うございました。

時を紡ぐ者達第31話 大西洋編でお会いしましょう。











代理人の感想

誤字多いです〜。

「!」や「?」の後に「。」を入れるのは止めて欲しくあります〜。

 

それと文章のテンポが悪いです。

なんでも修飾語を盛り込めば言いと言うものではなくて、

一つの文それ自体のバランスを考慮しなくてはいけません。

まぁ、ここらへんは感覚でどうにかするしかないわけで、

純粋に読書量(ライトノベルは不可)が物を言ってしまうわけですが。