機動戦艦ナデシコ
ースリーピースー
第十四話[味方は幼馴染、そしてトキアの思惑]


「やっぱり、着慣れた服が一番だね。テンカワ トキア、ただいま戻りましたん。」

「おいメイドだ、メイドが来たぞ。」

「わ〜、かっわい〜。ねえ君、それ何処で買ったの?」

いつもの服に着替えてブリッジに入ってきたトキアだけど、反応したのはトキアを良く知らないリョーコちゃんとヒカルちゃんだけ。
たしかにトキアが戻ってきたのは嬉しいけど、今はそれ以上の問題がある。
今ここにいない、ユリカと提督の問題。そして連れて来たイネス フレサンジュさん。

「さて、ようやくブリッジクルーがそろった所で、先ほどの艦長と提督の処分を発表いたしましょう。」

「処分って・・やっぱり、なんかやらかしたのか?」

「そうです。艦長はナデシコの私物化により艦だけではなくクルーをも巻き込み、提督はその行動を止めなかったということで、今謹慎処分を言い渡しています。」

疑問を挙げたけど、あっさり納得するトキア。
ユリカって、本当にトキアに好かれてないというか信じられていないんだな。

「細かいことは地球に戻ってからですが、ひとまずアオイ副艦長には艦長代理に就いて頂きます。」

「え!僕ですか?僕よりコクトさんのほうが、適任のような・・」

「彼はナデシコのエースです。戦闘時にここにいてもらっては、戦力の無駄使いですので。」

「わかりました、精一杯務めてみます。」

胸を張って、ジュンがよろしくと皆を見渡す。

「ジュン君なら大丈夫よ。どうせ普段から、艦長の仕事やってたんでしょ?」

「いや・・それは・・・」

「えー!もしかしてジュンさんに仕事やらせておいて、アキトさんのところに行ってたんですか、艦長?」

「噂、だけどね。」

ミナトさんとメグミさんの会話を発端に、ユリカに関した色々な噂がみんなの口から飛び出す。
もしかして、俺も悪かったのかな・・てっきり仕事はちゃんとやってると思ってたけど。

「はいはい、皆さんお静かに。まだ話は終わりではありません。」

騒ぎ出したみんなを、両手を叩いてプロスさんが治める。

「戦闘中でしたので紹介が遅れましたが、こちらがこのナデシコを設計したイネス フレサンジュさんです。今後科学班兼ドクターとして、乗艦してもらいます。」

「そういうわけでよろしくね。特にコクト君にアキト君、それにトキアちゃん。」

何で特になんだ?コクト兄さんとトキアはともかく・・そんなに人の眼を引く行動は、したつもり無いけど。
俺やブリッジクルーが不思議そうな顔をしていると、イネスさんの眼が光った気がした。

「そうわからないのね、説明してあげましょう。私の見解では、ナデシコでは木星蜥蜴に勝てないだったわ。」

「お言葉だが、イネス フレサンジュ。我々は木星蜥蜴との戦いに、常に勝利してきた。」

「だった、と私は言ったわよ。でもコクト君はエステバリス一機でチューリップを落とし、さらにナデシコを越えた戦艦を連れて現れたトキアちゃん、興味は尽きないわ。」

「あの、俺の名前が出てこないんですけど。」

「そうね、アキト君は一見平凡なんだけど・・どこか惹かれる物がある、科学者としての感よ。」

顔を近づけられ惹かれる物と言われ、恥かしくなって慌てて目をそらす。
たしかにコクト兄さんやトキアは不思議の塊だから、前半の説明は凄く納得できた。

「それでは、最後にトキアさんに話を聞いてから火星を脱出します。」

「まだ二箇所しか、まわってないのにですか?」

「コロニー跡なら、まだいくつかあるよ。」

「大変心苦しいのですが、このままいてはナデシコ自身も危ないという判断です。」

俺もルリちゃんやラピスと同じ考えだけど、ナデシコを危険にさらすのかと言われると何も言えない。

「イネス、地下の人たちは説得できないのか?」

「・・無理ね。彼らは一度地球に捨てられたのよ、今さら迎えに来たと言われて乗るはず無いわ。」

コクト兄さんの頼みに、イネスさんの諦めたような言葉が返ってくる。
結局助け出したのは、イネスさん一人になるのか・・・アイちゃん。

『アキト、諦めるな。一度は火星に来れたんだ、また来ればいい。』

『わかってるよ、コクト兄さん。諦めたわけじゃない。』

『諦めなきゃ、案外あっさり会えるかもよ。』

『そういうものかな?』

久しぶりの三人同時のリンク・・そういえば、トキアが行方不明のときもリンクで聞けばよかったんじゃ・・・

「時間もありません。トキアさん、手短にできるだけのことを話してください。」

「あの戦艦はなんなの?さっきも言ったけど、現時点ではナデシコが最新鋭のはずよ。」

「あの戦艦は、俺を起してくれた人の所有物。あんまり詳しいことは言えないけど、今の所敵じゃないから。」

それじゃあ結局、説明してないのと同じじゃないか。
しつこくイネスさんとプロスさんが聞くけど、ノーコメントで通すトキア。
なんて言うか・・相変わらず強気というか、自分の好きなようにしか動かないな。

「・・とりあえず、トキアさんに免じてこれ以上は聞かないことにしましょう。ひとまずどこかに戦艦を隠して、休息の後に火星を脱出しましょう。」

「そうすると思って、すでに隠れられそうな場所をラピスとリストアップしておきました。」

「さすがはルリさんにラピスさん、さあアオイ艦長代理号令を。」

「ルリちゃんリストから一番最適と思われる所を地図で出して、ミナトさんは艦をそちらへ向けてください。パイロットは半数を待機、半数を休息に、交代時間はこちらから指示します。」

休息かたまには厨房にも顔を出さないとな、火星に来てから忙しくて顔出してないし。
それに・・・





誰にも見つからないように警戒しながら居住区、ブリッジクルーの個室へと足を運ぶ。

「何処へいくつもりだ、アキト。」

「何処って・・その食堂に。」

「本気で言ってるのか?そっちは居住区で、食堂はあっち。」

まずい、いきなり見つかった!他の人なら笑って誤魔化すけど、この二人には効きそうも無い。
俺が向かおうとしていたのは、ユリカの部屋。ちょっと、心配になって・・

「まあ、アキトの行動なんて手にとるようにわかるけど、行ってどうするつもりだったんだよ。謹慎中は必要な時以外、外からも中からもドア開かないぞ。」

あ・・ばれてる。しかも、開かないなんて知らなかった。

「ユリカが仕事しなかったのに、ちょっと責任あるかなって思ったし・・」

「お前は本当にそれが正しいと思うのか?仮にそれで艦長が立ち直ったとしても、お前がいない時に艦長がまた挫折したらどうする?お前がいなくちゃ、立ち直れなくなる可能性もある。」

コクト兄さんの言葉に、ユリカに会いに行くという決心が揺らぐ。
言い返せないけど、それでも行かなきゃならないと・・思う。

「行ってこいよ、アキト。ドアは開けておいたし、監視映像もごまかしとくから。」

「サンキュー、トキア!」

コクト兄さんに止められる前に、走っていく。
ユリカのこと嫌いだと思ってたけど、そうでもなかったのかなトキアは。

「いいのか?」

「まあね、ここで止めて意固地になられても困るし。アキトには、ルリちゃんと幸せになってもらわないと。」

「どういうことだ?お前はルリのことが・・」

「それは、部屋で説明するよ。」





ユリカの部屋に入ると、電気はつけられていなくて真っ暗だった。
電気をつけるとベッドに仰向けになっていたユリカが、気だるそうにこちらを見る。

「どうしたの、アキト?私今謹慎中だから、アキトにも会っちゃいけないんだよ。」

てっきり飛び起きるかと思ってたのに、意外な言葉。

「私、何やってたんだろう。地球に出る時、ジュン君にミスマル家の長女でもお父様の娘でもない場所だって言ったのに・・・結局、私が一番お父様の娘だって事を利用してた。」

腕をおでこに乗せて、眼を伏せているユリカ。
もしかしたら泣いてるのかもしれないけど、足が動かなかった。
俺はユリカを励ましにきたんじゃないのか?なのにかける言葉が見つからない。

「私の我侭で皆を危険にさらして、地球を出るときも不甲斐無い私に代わってトキアちゃんが指揮とってた・・私は、ナデシコに必要ない人なのかな?」

「ユリカ前に言ってたじゃないか、私は貴方の味方ですって・・」

やっと、俺の口が動く。

「だから、今度は俺が言うよ。俺は皆が何を言ってもユリカの味方だから、ユリカを信じてる。」

たったこれだけの短い言葉だけど、想いはありったけ込めた。
小さくユリカの口から嗚咽が漏れる。想いは・・伝わったのだろうか。

「今は泣いていいよ、ユリカ。でも次会う時は、いつものユリカに戻ってて欲しい。」

あの時、足が動かなくて正直ありがたかった。
もしあの時ユリカのそばに寄っていたら、間違いなく今ユリカを抱きしめていた。
俺はそれだけ言うと、部屋を出た。





「それは、本当なのか?」

「飛ばした本人が言ってたんだ、間違いないよ。」

今ルリちゃんもラピスもいない、アキトはユリカの所。俺は真実を隠しつつ、コクトに話せることを話した。
隠したことは、俺達が生贄であること。そして話したのは、俺の体のことと真実を隠すための嘘。
遺跡には意思があり、前回自分のせいで悲劇が起こり後悔したというばかばかしい嘘。

「ただ、必要以上に歴史に関わりたくないから手助けは今回だけだってよ。」

「そんなことはどうでもいい、俺が言っているのはお前の体のことだ!」

「まだ自覚症状は無いけど・・多分間違いないよ。」

コクトの怒声に、眼を伏せる。

「だから同じアキトとして、俺はアキトにルリちゃんを任せたい。」

認めたくないけど、歴史通りなら三人の中でルリちゃんは一番アキトを慕ってるはずだ。
それに、それが一番安心できる組み合わせだ。さすがにコクト相手じゃ、歳の差が犯罪的だし。

「諦めるな、何なら今からでもイネスに話して・・」

「忘れたのか、コクト?俺の中のナノマシンは未来でも取り除けなかったんだぞ、それより発展の遅い科学で取り除けるもんか。」

部屋にに訪れる沈黙のなか、コクトが拳を握り締める音がぎりっと聞こえた。
想像だけど、コクトやアキトは五感が戻ってる・・けど俺は戻っていない。
はじめは別れたから繋がっていると思ったけど、そうじゃない。俺は未だに五感を失っている。
そのためのデュアルリンクシステム。

「でもまあ、気にすんな。明日にでも死ぬわけじゃないから・・俺、食堂にみんな待たせてるから行くわ。」

答えないコクトを置いて部屋の外へ出ると、閉まったドアに背を預ける。

「なんだか・・どんどん嘘つきになってくな、俺。」

「何故、私は黙ってなければいけないのです?」

「頼むよ、あの二人を巻き込みたくないんだ・・それに俺はまだ、お前の言うとおりには動かない。」

胸元のネックレスから聞こえた、遺跡の声に頼み込む。
待っているのが同じ死でも、俺はまだ戦争の終結そのものを諦めたわけじゃない。
せめて・・せめて納得できる形で、全てを終わらせたい。

「いいでしょう、まだ時間はあります。ですが貴方が思うほど、人は利口ではありません。」

この時まだ俺は、遺跡の言わんとすることがわかっていなかった。
人は利口ではない、人は過ちを繰り返しまた目に見えるものを追い求めるということを。

















「その割には、気付いてないわよね。ルリルリの気持ちに。」

トキアの画策と、自らの思惑で動くミナト
慰労会の席でコクトは、ルリの気持ちを知り困惑する
そのころ一人ブリッジに残ったトキアは、どうすることも出来ない寂しさを抱え
それを誰にも言えないことで、さらに心を痛めていた

次回機動戦艦ナデシコースリーピースー
[火星脱出、未踏の時間へ]





〜あとがき〜

トキアが独走態勢、一人で突っ走ろうとしてます。えなりんです。
ここからしばらくは空白の八ヶ月です。っといっても二十四話までとそこそこありますが。
前回は代理人様の突込みが色々あったので、この辺でそちらに・・

>「失敗したから時間を30秒だけ巻き戻し」という禁断の秘技も使えてしまうのでは(爆)?!

まったくもって、その通りです。反論の余地無しです。
今思えば、なんであんな事書いたのか・・・せめてミサイル発射後、別の場所にジャンプで良いはず。
海より深く反省です。本当に。

>プロスさんならまだしも、副提督がどうやって艦長と提督の権限を剥奪できるねん(爆)。

ん〜、コレについては、某小説で副提督が提督の指揮権を剥奪してたんですよ。
たしか・・著しくクルーを危険にさらしたり、要は無茶苦茶な命令を下した場合、副提督が指揮権を剥奪っと。
そういう事ってないですかね?無いならこちらのミスです。

>・・・ん? ユリカがアキトを励ましたことってあったっけ(爆)。

思い出してくださ〜い(叫)。
アキトが人を撃っちゃった時、ユリカが励ましたじゃないですか〜(泣)。
うう・・・とりあえず、次話をお待ちください。
2003年10月20日(月)、えなりん。

 

 

代理人の感想

結局のところ「アキト」は本質的に独善なのかなぁ。(苦笑)

アキトやルリの気持ちなんぞカケラも考えていないと来た。

そのまま劇場版の黒アキトに通じる気がして何とはなしに苦笑い。

 

>指揮権の剥奪

詳しい人に聞いてみたところ、潜水艦や特殊任務中の艦ならそう言うこともありうるそうです。

ただし、行使できるのは艦長が明らかに錯乱してたり(医師の診断あると良いかも)とか、戦闘による負傷とか、

頭にフランスパンを刺して踊り狂ってるとか(爆)、バナナで戦闘機に向かうとか(核爆)、

そういった「明確に任務を続行することが難しい状態」であるか、

あるいは「極めて致命的かつ明確な判断ミス」がある場合に限られるようです。

たとえ艦が危地に立たされるものであっても、余程の馬鹿なミスでなければ行使はされないとのこと。

曰く「判断ミスは誰にでもあるから」だそうで。

大体指揮系統を最重要視する軍という組織がその指揮系統を壊すようなことを簡単にさせないでしょうし。

 

そうなると、ユリカがチューリップを休眠中などの理由で無害と判断してユートピアコロニーに艦を進めた場合、

(チューリップは大爆発起こして落っこちたわけですし、周囲に敵は確認されてないわけですから)

致命的かつ誰の目にも明らかなほどの判断ミスとは中々言えないんじゃないかと。

少なくとも、問答無用で指揮権を剥奪できるほどの強い理由ではないと思います。

 

>励ます

失礼、原作のこの話でそんなシチュエーションあったかなー、という方向にしか頭が働きませんでした(苦笑)