――ええっと、まずは自己紹介ね、私はリタ・ランフォード、この「漆黒の戦神その軌跡」の編集長をしてるの、今回は取材に応じてくれてありがとね。



いいえ、構いません。

あの人の本当の姿を少しでも多くの人が正しく知ってくれるのなら、これぐらいのこと何でも……



――……そっか、じゃあ、自己紹介からお願いするわね。



はい、名前はムラサメ・ユイ。西欧方面駐屯軍最前線基地の生活課にいました。



機動戦艦ナデシコSS

「漆黒の戦神アナザー」ムラサメ・ユイの場合

encyclopedia



――最前線基地?それは彼が派遣された?



ええ、そのころのあの人はまだ「漆黒の戦鬼」と呼ばれていましたが……



――じゃあ、始めて彼を見た時の印象はどうだったかな?



そうですね、正直、始めは怖かったですね。

基地に着いた早々に喧嘩をして、相手の人を叩きのめしたっていう話も聞いてましたしね。

でも、食堂で楽しそうに料理を作る彼や、その料理を食べる人を優しそうに微笑みながら眺めてる彼を見て、「ああ、怖い人じゃなかったんだな……」って。
(ポッ)



――へぇ〜〜それで、彼にアタックかけたりしたのかな(怒)



い、いえ、同僚の女の子の中には、色々アタックをしていた子もいた見たいですけど、私なんかがそんな大それたこと、それに……



――それに?



サラさんやアリサさん、それにレイナさんと言った、基地内でも有名な美人が彼の周りに居ましたから……わたしなんかとてもとても………



――そっかなあ?



えっ?



――あっ!いえ、別に何でもないです、ハイ。



??



――ええっと(焦)本題に戻りましょう!!



はあ?

彼が基地に着てからは色んなことが起こりました、良い事も悪い事も、騒ぎの中心にはいつも彼が居ました。

何と言うんでしょうか、彼が着てからは基地に余裕みたいなものが生まれたような気がします、そう「どんなに辛くても笑うことが出来る、笑えるんだ!!」って。



――あれっ?!ちょっと聞いてもいいかな?



なんです?



――うん、ムラサメさんは生活課って言ってたよね?



はい、でもそれが何か?



――生活課って言うぐらいだから、実際の戦闘に関わったりって少ないんでしょう?



ええ、もちろん、生活課の仕事は基地内の清掃、購買施設の運営、他には簡単な事務仕事などと、戦闘とは関わりないものが殆どです、それが?



――いやね、気を悪くしないで聞いてね。

話を聞いてると、積極的にアピールした訳でもない、戦闘に関わりがある訳でもない、あなたに正直、何処に彼との接点があったのかなって思ったの。



なるほど、そういえばそうですね、私もそう思います。

実際、あの事件が起こらなかったら、彼のことは唯の憧れ、思い出で終わってたと思います。

そう…あんな事件さえ起こらなければ……



――あんな事件?



ええ、基地の偉い方達は、何とか隠そうとしていたようですけどね……



――話して…もらえるかな……?



……すいません。

これだけは、これだけは言う訳にはいかないんです。

………私が……何の関係もない私が口にしてはいけないことなんです!!



――そっか…そうよね……



ランフォードさん?



――リタでいいわよ、ユイさん。



あ、ハイ。リタさん。



――それで何?



いえ、いいんですか?



――何を?



事件のこと聞き出さなくて。



――聞いたら話してくれるの?



いいえ(キッパリ)。



――やっぱりね。私達が好奇心だけで踏み荒らしていいことじゃない、そう思ったからよ。



……リタさん、あなたも彼のことが好きなんですね。



――な、何を突然。



向こうにいた時にもマスコミの方が取材に来ました。

私が事件については話せないと言うのに、何度も何度もしつこく訪ねて来て、挙句の果てには「私と彼が男と女の関係だからかばってるんじゃないか」って……



――マスメディアに携わるものの風上にも置けないわね(怒)



だから、リタさんが彼の事を大切に思っている事だけは良く分かるんです。



――あうう、本題に戻りましょ、ね(真っ赤)



はいはい(微笑)

それじゃあ、話の続きに戻りますね。

彼を――エステバリスを駆る「漆黒の戦鬼」としてではなく、テンカワ・アキトというひとりの人間として意識したのは、その事件が切っ掛けでした。

その事件から彼は笑わなくなりました、そしてもうひとりサングラスをかけた、え〜〜と、ヤガミさんでしたか?



――ええ、ヤガミ・ナオ。さっき話に出てきたハーテッド姉妹やレイナ・キンジョウ・ウォンさんと一緒に今はナデシコに乗船してる見たいね。



彼はそのヤガミさんと何かを調べてるようでした。

そして、あの日、基地に戻ったおふたりは闇を纏っていました、立ちはだかるもの全てを叩き潰す、そんな雰囲気を放つふたりには誰も近づくことさえできなかった……



――……………



何があったのか詳しいことは私には分かりません。

でも、ひとり基地から出てきたあの人は今にも壊れてしまいそうでした。

生気のない真っ青な顔をして、覚束ない足取りで歩く彼はまるで幽鬼のようで……



――それで、あなたは後をつけた訳だ……



ええ……何だかほおって置けなくて………



――あ!!別に責めてる訳じゃないの、でも、あの「漆黒の戦神」をよく尾行できたと思って。



普段の彼だったら、そんなことは決して許さなかったと思います。

でも、あの時の彼にはそんな余裕は恐らくなかったんでしょう、お陰で私でも何とか彼の後をつけて行く事が出来ました。

でも……



――でも?



基地の裏手、基地の人間も滅多に訪れない森の側まで来て、私は彼の姿を見失ってしまったんです。



――慌てたでしょうね。



ええ、それはもう、慌てて辺りを探し回りました。

でも、なかなか見つける事が出来なくて、そして日も傾いて私も諦めかけた頃でした。



――見つけたのね?



はい……

彼は…アキトさんは岩場の影で、身を縮めるように膝を抱えて、蹲っていました……

そして、泣いていたんです…声を殺して……

子供みたいだった…私はその時、思ったんです、彼もひとりの人間なんだ、傷つけば血も流すし涙も流すんだって……



――ユイさん……



あんなに辛そうな涙を私は知らない……

私達は結局のとこ、彼の表面的な力ばかりに目を向けて、本当の彼を見ようとしなかったんです。



――続きお願い……



彼は私を見つけると直ぐ逃げるように身を翻しました。



――あなたは…どうしたの?



飛び掛りました。



――と、飛び掛ったあ?!



ええ、だって、そうでもしないと逃げられてしまうと思ったから……



――そ、それもそうかもしれないわね、それで?



抱きしめてました。

少しでも彼の心を慰めてあげたかった、殆ど面識もなかったけど、せめて思いっきり泣いて欲しかった……

私の思いが伝わったか、正直、分かりません…でも、私はそれでもいいと思っています……



――いいの!?本当にそれで!!?



はい。



――そっか、でもね、きっと伝わってるよ、ユイさんの思いは。



そうでしょうか?



――もちろん!!でも、ライバルは多いですよ?



そうですね(微笑)リタさんもそのひとりなんでしょう?



――ええ、こればっかりは譲れないわ♪



クスクス……

では、勝負という訳ですね?



――そうなるかしら?



はい♪



――負けないわよぉ♪それじゃあ、最後に彼に伝えたい事があったらどうぞ!!



ハイ、それじゃあ。

アキトさん、お元気ですか?身体などは壊してはいませんよね?

あなたは私のことを覚えていてくれているでしょうか?それとも、もう私のことなんて忘れてしまったでしょうか?

私なんかが言うべきではないのかもしれません、あなたはその両肩には沢山のものを乗せているそれは理解しています。

でも、無茶だけはしないでください自分を傷つける事だけは止めてください。

重荷かもしれません、迷惑かもしれません、でも、あなたを支えたいと心から考えてる人は決して少なくない、これだけは心にとめて置いてくださいね。

では、あなたの無事を祈っています。



民明書房刊「漆黒の戦神その軌跡」第10巻より抜粋

 

 

 

 

 

フゥ………

口から思わず溜め息が漏れる、この重くピリピリした空気だけは如何にかならないもんだろうか。

俺はそんなことを内心で考えながらソッとこの場にいる面々の顔を覗った。

この場にいるのは俺を含めて全部で17人。

その内、男は俺一人、残るは…そう所謂、テンカワの毒牙にかかった…もとい、これからテンカワを毒牙にかける予定の女の子達だ。



「あら?提督、それって私も含まれてるの?」



ああ、そうか、彼女も同席してたんだっけな。

彼女の名前はハルカ・ミナト、ナデシコの操舵士、ナデシコには貴重な大人の女性として、この場に同席する女性達の恋愛アドバイザー的なものになっている。



自己紹介も済ませておこう、俺の名前はオオサキ・シュン、もとは西欧方面駐屯軍の最前線基地にいたが、今ではこの機動戦艦ナデシコで提督をしている。



その俺がどうしてこんなところにいるかと言うと…まあ、大体予想はついてる、多分あれだな、「漆黒の戦神その軌跡」の新刊、あれが原因なのはまず間違いないだろう。

あれには俺も一枚噛んでいるのだが、取り敢えず無事なところを見ると、まだばれていないようだ、これは、ばれた時の保険を用意して置くべきだろうか?備えあれば憂いなしとも言うしな。



「さて、ようこそいらっしゃいました、オオサキ提督」



そんなことを暢気に考えていると、俺のちょうど正面に座っていたホシノ君がおもむろに口を開いた。



「まあ、
ほんのちょっとだけ強引になったのはお詫びします」



そう言いながら、ペコリとおじぎをする。



まさか俺も自室を出た途端に
拉致られるとは思わなかったよ……



「それで提督には尋ねたいことがあるんです」



ホシノ君はそう言うと、一冊のハードカバーの本を机の上に乗せる。

皮張りの表紙には「漆黒の戦神その軌跡第10巻」の文字が箔押しされている。



「事件については何も話せんぞ?」



俺はホシノ君の口が次の言葉を紡ぐ前に先手を打って遮った。



……そんな顔しないでくれないかな?あの事件は関係ないものが無闇に突っつきまわして良いもんじゃない。



あの事件がどんなものだか知ってる、サラ君、アリサ君、レイナ君、それにテンカワとリンクしてるっていうラピス君の顔には複雑なものが浮かんでいる。

彼女等にして見れば悔しいんだろうな、まあ、気持ちは十分解るがな。



「でもでもぉ、アキトったら全然お話してくれないし……」



艦長が頭を左右にフルフルと振って主張する、その仕草は大人の女性がするには子供っぽいはずだが、これがまた不思議と違和感がない。



「まあ、どうしても知りたいんだったら、テンカワ本人から聞くんだな」



俺の突き放すような言葉に、彼女等がお互いに顔を見合わせる。



「でも、テンカワに嫌われてもしらんぞ?」



「!!!!!」×11



どうやら、この言葉は効いたらしい、みんな黙り込んでしまった。



やがて、ホシノ君が口を開く、心の奥から搾り出すような声。



「私は…私はアキトさんの心の傷を少しでも癒して上げたい…そう思っています……」



その言葉は心からの叫び、そこには打算なんてものは存在しない、それは良く分かる。



「でも、アキトさんは私の前では泣いてくれません…どんなに心に傷をおっても、どんなに辛くても……」



ホシノ君がその小さくほっそりした手をギュッと握る。



それはホシノ君だけじゃない艦長にメグミ君、エリナ女史にレイナ君、フレサンジュ博士、サラ君、アリサ君、スバル君、それにラピス君にホウメイガールズ、テンカワと共に歩いていきたいと考えている女性が共通に思ってる事だろう。

だが、テンカワのヤツはこれ以上、心配を掛けたくない負担を背負わせたくないと考えている、だからアイツは自分がどんなに傷つこうとも自分を隠し続けるだろう。



「私では…私達ではアキトさんの支えにはなることが出来ないんでしょうか……」



「そんなことはないさ…みんながいることはあいつにとって、十分な救いになっているはずだ」



お互いを大切に思っているからこそか……

あまりにも皮肉な矛盾に、俺はみんなに気づかれないようにため息をついた。

俺の言葉にホシノ君が口を閉ざし、他のみんなも黙り込んでしまう。



「ねえ、レイナ?ところでこのムラサメ・ユイってどんな女性なの?」



その時、例の「漆黒の戦神その軌跡」に視線を落していたエリナ女史がポツリと呟いた。



うん?そう言えば何処かで聞いた事がある名前だな……



「え?確かねぇ…金髪碧眼で、お話に出てくるお姫様みたいに奇麗で、前に何度か整備班にお菓子を差し入れしてくれた事があったんだけど、スッゴク美味しかったよ」



その時の味を思い出したのか、レイナ君が目を輝かせる。



そう言えば、カズシのヤツが生活課に物凄い美女が入ったとか言ってたような……



「あ!私も会ったことあるわ、プロポーションもメリハリがあって羨ましいぐらい、バストのサイズは私より大きかったかな」



レイナ君にサラ君が続ける。

ぬう…サラ君が羨ましがるとは…それほどの
ナイスバディということなのか?!

それほどの美人があの基地にいたとは…一目でも拝んでおくべきだったかもしれないな……



ん、何だか、ホシノ君とラピス君、それにメグミ君の顔が険しくなったような、そう喩えて言うなら、
親の仇を見つけたような目をしてるようだが…何故だろうなあ(笑)



「その人でしたら、パイロットの間でも噂になってましたよ、確か『生活課の女神』とか呼ばれてましたけど」



そうなのか?アリサ君?

これは玉砕覚悟で一声掛けて見るべきだったかな?う〜〜む、勿体無い事をしたかなぁ……



「「「「「「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」」」」」」(怒)



やあ、なんだかみんなの全身から黒い炎が立ち昇ってるような気がするゾ(笑)



「ありがとうございました、オオサキ提督」



う〜〜ん、良い笑顔だな、ホシノ君♪それで目がチャンと笑っていれば、最高の笑顔だと、オジサンは思うな♪



「私達はちょっと用事を思い出したもので……」



ああ、行って来なさい♪でも、ヤマダのヤツやマキビ君のように
自己修復機能はついてないんだから、ホドホドにするんだゾ♪



そして、ホシノ君に続いて、みんなも飛び出して行く。



すまんな、テンカワ♪俺はヤマダやどこかのヘボ作家のように
「まあ、知らないうちに首の後ろに不思議なスイッチが♪」なんてはご免だからな、悪く思うんじゃあないぞ♪



「やあ、みんなどうしたの?えっ!ユイさん?べ、別に何でも…え?泣くなら私の胸でって、ちょ、ちょっと…うひゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!」



どこかで、テンカワの悲鳴が聞こえたような気がしたが…まあ、何時もの事だし気にしない気にしない♪



ふう〜〜それにしても今日もナデシコは日々平穏天下泰平何事もナシ、平和ってのはいいことだな、そこのあんたもそう思うだろ?なっ?!

 

 

 

 

 

あとがき?

 

どうも最近はエリナ推進団体実行部隊師団長を名乗らせてもらっていますencyclopediaです。

今回のお呼びしたゲストは、ナデシコが誇る天災科学者ことイネス・フレサンジュ博士その人でぇ〜す♪



ワァ〜〜!!!パチパチパチ!!!!!



「なんだか、文字が違ってたような気がするんだけど(怒)」



気の所為です(キッパリ)!!



「そうかしら?(怒)」



ハイ、モチロンですとも♪やだなあ、まだ、そんな御歳では――プスッ!!――はうっ?!!



「フフフ……今のは気の所為じゃあないわねえ(憤怒)このままラボに直行しましょうねえ?」



ズルズル……(そのまま、引きずられて行く)



ああっ!スイマセン!!調子に乗りすぎましたあああ!!
ラボは!!ラボだけはお許しおぉおおぉ(本泣き)!!!



「最初からそう言えば良かったのよ」



ウウッ…ヒッグ…怖かったよぉ……あのまま、取って食われるかとばっかり……



「ああん?!!何か言いたいことでもあるのかしらぁ?!!」



ヒイ(怯)!!い、いいえ、それでは本題に移りたいと思いますぅ(泣)。



「それで何なの?」



ええっと、私めのssで殆どのものにイネスさんが絡んでいるので私にとってのイネスさんとは、何ぞや?ということでお呼びしたわけで、ハイ」



「で?」



私のssに欠かすことのできない最重要人物



「そのこころは?」



あなたがいれば、大抵の無茶は通る、
マッドだから



プスッ!!



ぬをお?!か、身体が言う事を………はっ!ラボ!!ラボだけはああぁぁぁ!!!!!

ズルズル……(そのまま引きずられて退場)

 

 

 

 

 

あとがき

とまあ、改めてのご挨拶になりますencyclopediaです。

今回のssですが、Benさんの「時の流れに」の外伝「漆黒の戦神」を読んで、是非とも形にして見たいと強く思った結果の産物です。

何だか情けない事を告白するようですが、私がまだ子供だったころですが辛い事や悲しい事があった後、大声で泣くと奇妙にスッキリしたものです、そこで「アキトだって泣きたいに違いない!!」と考えたのがことの始まりでした。

ナデシコのキャラを使わなかったのは、事件のあった時期からも考えて、彼女達の前ではアキトは恐らく絶対に泣かないだろうという、ある意味確信があったからです。

でも、ひとりではちょっと物足りない、そこで「漆黒の戦神アナザー」の形を取らせてもらったわけです。

長々となってしまいましたが、ここまで目を通してくださり本当にありがとうございました。

それでは、このssを見てBenさんが不愉快にならないことを祈りつつ――

 

 

 

代理人の感想

 

ぱちぱちぱち(拍手)。

いや本当、目の付け所というかアイデアの勝利といった感じの佳作ですね。

アキト君だって人間、怒りもすれば泣きもする。

そう言った部分に着目されたのは流石です。

・・・正直言って普段の作風との間にちょびっと差を感じないでもありませんが(爆)。