僅かに傾けられた試験管から紫色の液体がゆっくりと試験管の内壁を伝い、不自然に鮮やかな真紅の液体

が入った三角フラスコへと流れ落ちる。

そして、紫の滴赤い液体が触れ合った瞬間。

 

ボシュウウウ

 

小さな爆発と共に白い煙がフラスコから溢れ出し辺りを包み隠した。

暫くして煙がおさまると、どのような科学反応をしたものかフラスコの真っ赤だったはずの液体は水のような

無色透明に変わっている。

その変化を確認していた白衣を着た美女は満足そうにひとつ頷くと手に持っていたファイルに何事か書き込ん

でいく。

 

「う〜ん、匂いは……無いわね、色も無色透明と………ヤマダ君で実験してみようかしら………?」

 

美女はなかなかに恐ろしい事をサラリと言いながら、用紙の上を軽快にペンを走らせている。

彼女の名前はイネス・フレサンジュ。連合軍最強の戦艦ナデシコに乗船する軍医であり幾つもの博士号を持つ

優秀な科学者でもある。

……実体は単なる説明おばさんという話もあるのだが………

 

「ソコ!!今なんか失礼なこと言わなかった!?」

 

――むう……文字の狭間を漂う私を発見するとは……なかなかに勘が鋭いようである。

 

「ま、いいわ…さてと………」

 

イネスは医務室に備え付けてある冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しグラスに注ぐとフラスコの中の液体も

1/3ほどを混ぜてしまう。

 

――何してるんですか?

 

「最近ヤマダ君も疑い深くなって以前みたいに素直に協力してくれないのよ」

 

――素直…協力…ですか…まあ、いいでしょう…その方が面白いし。

 

「おい!!なに勝手なこといってやがる!!いいかげんこのベルトを外せえええええ!!!」

 

――なんだか、聞こえてきますけど………

 

「今回の実験に協力してくれるって言うから隣りの部屋でちょっと待ってもらっているの」

 

――………私も命が惜しいから何も言いませんけど………因みにどうやって?

 

「………まあ、ちょっとクロロフォルムで………」

 

――犯罪では………?

 

「ヤマダ君だし大丈夫でしょ」

 

――………問題発言を聞いたような気がしますが…おや?どちらへ?

 

「ちょっと説得してくるわ」

 

そういい残すとイネスは隣りの部屋へ姿を消してしまった。

 

「ちょっと!イネスさんこのベルト外してくだ………な、何ですかその注射器は!!……

 栄養剤?ウソだああ!!!なんかドロドロした緑色したのが入ってるし!!!だ、誰かたすけ……………」

 

――静かになってしまいました………ご冥福をお祈りしておきましょうか………ん!?誰か来たみたいですね

………

 

プシュー

 

「ドクター!!ドクターいないの?」

 

ドアが開いてエリナ・キンジョウ・ヴォンが入ってくる、急ぎの用件だったのか僅かだが息を切らせている。

医務室を見回していたが机の上に置いてある例のグラスに目を留める

 

「あら…ちょうどいいわ、のども渇いてたし…一口もらっちゃお♪」

 

そういいながらエリナはグラスを口元に運ぶ、因みにフラスコの方はイネスがもっていってしまいここには無い。

 

そして、これがナデシコにおける新たな事件の始まりであった

 

 

 

「機動戦艦ナデシコSS・私もたまには甘えたい!!」

 

 

 

この夜、「漆黒の戦神」ことテンカワ・アキトは自室のドアを叩く音で目を覚ました

無視してしまおうかとも思ったがドアを叩く調子に切迫したものを感じたこともあり、同室の桜色の髪をした少女を

起こさないように布団から起き上がる。

 

………誰だ…こんな時間に?

現在のナデシコ内の艦内時間はAM2:00をとっくに回っている。

 

アキトは眠い目を擦りながらドアのロックを外しドアを開けた。

 

「あれ……誰もいない?」

 

右を見て左を見て、さらにもう一度右を見る、しかし静まり返った廊下には人影は見当たらない。

 

「おかしいな………ん!?」

 

小首を傾げていたアキトは服の端を誰かに引っ張られているのに気が付いた。

見るとそこにはアキトの胸ほどの身長の女の子がアキトの服の端をギュッと握りしめていた。

女の子は年の頃は10歳前後ぐらい、艶のある綺麗な黒髪、黒曜石のような大きめの瞳とひと目で東洋系と分かる、

将来は美人になることが約束されているような、なかなかに可愛らしい子である。

 

………どこかで会ったか………な?

 

少女は瞳を潤ませながらアキトを見上げている。

アキトは視線を少女の高さに合わせると安心させるように柔らかく微笑みながら少女に話し掛けた。

 

「どうしたのかな?」

 

少女の可愛らしい唇から言葉が紡がれる。

 

「てんかわくん、わたしちいさくなっちゃったの………」

 

「…」

「………」

「……………」

「その声は……まさか…エリナ…さ…ん?」

 

10歳ぐらいの黒髪の女の子――

ちっちゃくなったエリナ・キンジョウ・ウォンは呆然とするアキトにコクンと頷いてみせた。

 

 

 

 

 

「うん、大丈夫よ、一週間ぐらいで元にもどるわ」

 

イネスの言葉にエリナの顔がパッと耀く

 

「………本当でしょうね?」

 

「あら、アキト君は私のことを信じてくれないの?」

 

「そうはいっていませんけど………」

 

あの後、取り敢えずエリナを部屋まで送ると、二人は早朝一番で医務室を訪れていた。

イネスはエリナの話を聞き苦笑すると不安そうな顔をして椅子にチョコンと腰掛けているエリナに向かって

サラリと言ってのけた。

 

「でも、これで新しいデータが取れるわ、ヤマダ君だと詳しいデータが取れないのよ……変な耐性がついちゃって

 正確なデータが取れないのよ……ハーリー君にでも協力して貰おうと思ってたんだけど助かったわ(はあと)」

――ハーリー……目を付けられたか……まあ、いいかハーリーだし……

 

「すきでのんだわけじゃないもん」

 

エリナが頬を膨らませて抗議するが、その仕草は迫力よりも愛らしさを感じさせる。

 

「まあ、薬の効果が切れるまでの我慢ね………そうそう、後でデータ取らせてね(はあと)」

 

「「……………」」(汗)

 

 

 

 

「エリナ・キンジョウ・ウォンちっちゃくなる」のニュースはナデシコを駆け巡った。

エリナがちっちゃくなってしまったこと自体は、

 

「ドクターの所のジュースを飲んだの」

 

で説明がついた。

 

『イネス・フレサンジュが関わっているなら別段不思議な事じゃない』

 

これがナデシコクルーの共通の意見だったようである。

 

ちなみにほぼ同時に「漆黒の戦神に隠し子が!?」「戦神はロリコンだった!!」

などの噂がまことしやかに流れたが、某組織の仕業と判明し某同盟の手によって

末端の構成員に至るまで殲滅されたことを記載しておく。

 

 

それから数日が過ぎて――

 

トテトテトテトテ……………

 

両手一杯に書類の束を抱えた、ちびエリナが小走りにナデシコの廊下を駆けていく、だがその足取りは見ていて

非常に危なっかしい。

 

トテトテトテトテトテ……………ベシャ!!バサバサバサ………

 

案の定、ちびエリナは躓き転んでしまった。手に抱えていた書類の紙が廊下に広がり、ちびエリナはその惨状を

見て思わず半泣きになる。

 

「う〜〜〜〜〜」

 

そんな時、廊下に立ち尽くしているちびエリナに気が付いたアキトが声をかけた。

 

「どうしたんです?」

 

アキトは廊下に散らばった書類と、今にも大雨になりそうなちびエリナの顔に気づくと手際よく片付け始めた。

 

――あの…エリナさん…さらにちっちゃくなってるような気がするんですが………?

 

「そうなんだ……肉体的にも精神的にも幼児化が進んでるらしい……」

 

――イネスさんは何と……?

 

「今の所、理由は解らないそうだ。必ず、原因を解明して見せるって、医務室に篭ってるよ」

 

「これで全部だな……さっ、行きましょう、エリナさん」

 

全て拾い集めた事を確認したアキトが立ち上がると、ちびエリナがアキトにしがみ付いた。

 

――なつかれてますねえ……

ちびエリナはしっかりアキトにしがみついている。

 

「きっと不安なんだよ……」

 

――それだけじゃないと思いますけどね。

 

「??」

 

――やっぱり、天然ですか……ところで、もう上がりですか?

 

「ああ、このところ忙しかったから……ハイハイ、分かってますよ」

 

早く行こうとばかりに引っ張るちびエリナに、アキトは笑いかけると、ちびエリナの頭を優しくなでる。

ちびエリナは一瞬驚いた顔をしたが、それはすぐに照れたような、はにかんだ笑顔に変わった。

書類を持つアキトの後を少し遅れてちびエリナがついていく。

 

「ねえ…てんかわくん…」

 

暫くして、ちびエリナが言い難そうにアキトに声をかけた。

 

「なんですか?」

 

「て…つないでいいかな?」

 

頬を赤く染めながら、ちびエリナが恥ずかしそうに言う。

 

「……ええ、いいですよ」

 

アキトは少し照れくさそうに頬を掻くと、優しく微笑み空いている手を差し出した。

その手をちびエリナは、始めはオズオズと、そしてしっかりと小さい手で握った。

 

………もう少し、小さいままでもいいかしら………

 

アキトの掌から伝わってくる体温を感じながら、エリナは誰にも聞こえないように囁くようにそっと呟いた。

 

 

 

 

あの事件の日から、すでに一週間が過ぎようとしていた。

浅い眠りに入っていたアキトはコミュニケの呼び出し音で目が覚めた、艦内時刻はAM1:35をさしている。

あくびを噛み殺しながらコミュニケを操作する。

 

「おねがい!てんかわくん、すぐにきて」

 

「どうしたんですか?」

 

「いいからおねがい!!」

 

「わ、わかりました」

 

取り合えず、夜着のまま急いでエリナの部屋へと急ぐ。

 

「エリナさん、どうしたんですか?何かあったんですか?」

 

アキトがノックしてから暫くして、プシュという音と共にドアが開く。

 

「エリナさん…一体な…に…が………」

 

アキトは最後まで言葉にすることが出来なかった。

 

「てんかわくん……あたし…また、ちっちゃくなっちゃたみたい……」

 

そこには、更にちいさくなったエリナが瞳に涙を溜めて立っていた。

 

「ねえ…てんかわくん…あたし…どうなっちゃうのかな……?」

 

ちびエリナが消えそうな声で不安そうに言った。

ちびエリナは、ショーツに大き目のシャツといった格好で膝を抱えて座っている、大人の女性ならばグッとくる

刺激的な姿なのだが、残念ながら現在のエリナではどう見ても6、7歳のお子様である。

この姿でグッときてしまってはケダモノさんであり、幸いアキトにはその手の趣味は無かった。

 

「このまま…きえちゃうのかな………」

 

顔は影になって見えないが、声の調子から泣いているのかもしれない。

 

「エリナさん………」

 

「あたし…きえたくない………」

 

いきなりアキトはエリナを背中から抱え込んだ、ちょうどエリナはアキトに抱きすくめられた形になる。

 

「な、なんなの?てんかわくん!?」

 

ちびエリナが目を白黒させる。アキトは返事をせずにさらに強くエリナを抱きしめると、エリナの耳元で囁いた。

 

「大丈夫ですよ……イネスさんが、きっと何とかしてくれます」

 

「てんかわくん………」

 

「それに、みんなだっているじゃないですか……ユリカ、ルリちゃん、メグミちゃん、サラちゃん、リョーコちゃん、

 アリサちゃん、レイナちゃんにラピス、それにホウメイガールズのみんな……」

 

陽気で、温かいナデシコのクルー達。

 

「……ミナトさんにホウメイさん、アカツキにガイ、ヒカルちゃん、イズミさん、ゴートさんにブロスさん、ウリバタケさんに

 ジュン、シュン副提督にカズシさん、ハーリー君にナオだっている……絶対に……

 一人になんかしませんから………」

 

「うん………」

 

「だから…泣かないでください………」

 

静かな時間が流れていく。

 

「……エリナさん?」

 

何時の間にかエリナは寝息を立てていた、その寝顔をそっと覗いてアキトは微笑んだ、その顔はまるで自分の

居場所を見つけた幼子のように安心しきった寝顔だった。

 

 

 

 

ピピピピピピピピピピピ………

 

コミュニケにセットされたアラームが朝を告げる。

 

「う、う〜〜〜ん」

 

エリナは背伸びをしようとしてアキトに抱き枕にされていることに気がついた。

 

「そっか…私、あのまま眠っちゃったんだ………」

 

アキトを起こさないように上半身を起こすと壁際の鏡に自分の姿が映り込む

 

「もとに……戻ってる!?」

 

鏡に映ったエリナは着ているものこそ昨日と同じ物だが、その姿は確かに1週間前までの元の自分である。

夢ではないかと頬を抓ってみる、小さな痛みがこれが現実であることを控えめに、だがはっきりと主張する。

 

「うう〜ん………」

 

その時、アキトの口元から声が漏れた。

起こしてしまったのかと思いエリナがそっと窺う、だがその気配は感じられない、どうやら寝言を言っているらしい、

エリナがアキトの口元に耳を寄せる。

 

「エリナさん……だいじょうぶ……だから……」

 

その寝言を聞いてエリナは幸せそうに微笑んだ、そして、再びアキトに寄り添うように横になる。

 

………目が覚めたら、どんな顔をするかしら………

 

アキトの頬を人差し指でつつく。

 

「フニャ……」

 

「ウフフフフ………」

 

………もう少し、こうしていてもいいわよね………

 

きっと、みんなが目を覚まして、この光景を見たら大騒ぎになるだろう、そんなことを想像しながらエリナは

目を閉じた。

不思議な、だが心地好いぬくもりがエリナの心に広がる。

 

――いつか…きっと貴方の傍に………

 

――私の大切なヒト………

 

――アキトくん………

 

 

 

後日、このことはあっという間にナデシコ女性陣の知るところとなり連日エリナ女史が質問攻めにあったが

エリナ女史は終始、幸せそうに微笑んでいたという。

これを見た女性陣によりテンカワ氏がナデシコ内の某所に連れて行かれたことは完全なる余談である。

 

 

 

 

 

一方その頃、医務室では――

 

「もっと、たくさんデータを集めなければ…その為には、実験するしかないわ!!!」

 

「イネスさん…後生ですから、その黒くて何だか動いてるのはだけはやめてくれないでしょうか?」

 

「………」(←無言で注射器に吸い込ませている)

 

「神様、イヤこの際、悪魔でも構いません……ど〜か、お助けを……」

 

「………」(←無言でヤマダの袖を捲り上げている)

 

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

「覚悟はできたみたいね(はあと)」

 

「いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

楽屋にて――

どうもおつかれさまでした、エリナさん。

「おつかれさま」(エリナ)

今回は、一人勝ちでしたねえ。

「ま、まあね……」(真っ赤)

どうでした?

「な、何が?」

アキト君に、添い寝してもらってたでしょ?

「………」(耳まで真っ赤)

いやあ、アキト君もやりますね…後ろから抱きすくめて、耳元で囁く…

いいですね〜〜甘いひと時って感じですよね。

「………(ポーー)」(思い出してる)

「そうですね」

やっぱり、そう思います?って…アレ?………(背後の殺気に気がつく)

「貴方もそう思いますか?」

えっと……貴方はルリさ…ん?今回は出番は………

「ええ、一切まったく全然ありませんでしたね……

 どうせ、貴方のキャパシティでは不可能と思っていましたけど……」

うっ…当ってる……所で何の御用で……

パチッ

ルリが指を鳴らすと13人の人影がズラリと並ぶ。

 

「おしおきです」 × 13人

 

「いやじゃああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

作者が拉致られてから30分後……

「あら?……作者は?」(トリップから復帰した)

地面には爪で引っ掻いたような跡が10本残っている。

「まあ、いっか……それにしても、挨拶の途中でいなくなるなんて、なってないわね」

床に一枚の紙切れが落ちている事に気がつく

「作者からかしら……なになに、『た・す・け・て』……」

「……………」

「……………」

「まあ、いいわ……アキト君の顔でも見に行ってこよっと(はあと)」

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

encyclopediaさんから初投稿です!!

う〜ん、エリナさんだ〜(笑)

一部、熱狂的なファンが存在するエリナさんですが・・・

ここまで可愛いエリナさんは始めて見ました、はい(苦笑)

しかも、お子様バージョンで(爆)

まあ、アキトが構いたくなるのは仕方が無いでしょうね。

・・・他の女性クルーが真似をしない事を祈りますが(汗)

 

それでは、encyclopediaさん投稿有難うございました!!

 

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