「いや〜〜、入り組んでるねー、この洞窟」

 アキトがボソッと呟くと、マイが、

「ホントですねー、ここどの辺りでしょう?」

 辺りの壁を見回しながら返す。

「あのー、ところで、一ついいですか?」

「何? マイちゃん」

 アキトスマイル。

 それを間近で直視したマイが、顔を真っ赤にして、しどろもどろに言った。

「あ、あの・・・・・・そろそろ降ろして貰えませんか・・・・・・?」



 アキトに抱えられたままスットン共和国の某雪山の洞窟を彷徨っていたマイだったが・・・・・・



 まだお姫様抱っこ をされたままだった。








蒸気王国の王女 

Presented By E.T

First Story:出会い 〜Heartless Girl〜











「あ、そうだったね、ゴメンゴメン」

 と軽く笑いながら、マイの体を降ろした。

「い、いえ・・・・・・」

 地面に足を付いたマイだったが、長時間不自然な体勢で、地面に足を付けていなかったために、バランスを崩した。

「あっ・・・・・・」

 トンッ

「おっと」

 マイの肩を、アキトが優しく抱き留めた。

「大丈夫?」

「はっ、はい、大丈夫です!」

 先程よりも、彼女の顔は赤くなっていた。





 暫く歩いていると、一人の少女がいた。

 顔には何の感情も浮かんでおらず、何というか・・・・・・生命というものが希薄だった。

「ねえ、君。 こんな洞窟でどうしたの?」

 アキトが声を掛けるが、何の反応もない。

「君もココに迷い込んじゃったの?」

 ・・・やはり、返事はなかった。

「おーい、やっほー」

 続いて目の前で手を振ってみるが、

「・・・・・・・・・」

 反応はない。

「ハァ・・・・・・仕方がない。

 とりあえずこの子も連れて行こうか」

「そうですね」

 アキトは少女の手を引き、歩き出した。

 それに合わせるように、少女も歩む。

「あっ・・・・・・」

 それを見て、マイが小さな声をあげた。

「ん? どうかした、マイちゃん」

「い、いえ。 なんでもありません」

 とは答えたものの、マイは内心焦っていた。

「(な、何で?何でアキトさんがこの女の人の手を握っているのを見ると、こんなにイライラするの?)」

 アキトも、一つ気になることがあった。

「(・・・・・・さっきっから誰かに見られている感じがするな・・・・・・。

 だけど、特に殺気があるわけじゃないから、気配の位置の特定は無理、か・・・・・・)」

 見知った人間の気配ならともかく、どこからかただ自分を見ているだけの人間の気配の位置を特定するのは、さすがの彼にも無理だった。

「(ま、害がないんだったらそれでいいか・・・・・・)」

 所詮、人間はそんなもんである。





「それにしても、この子なんて呼べばいいんでしょうね」

 少女のすぐそばの脇道は無視し、ひたすら真っ直ぐ歩いていたときに、マイがアキトに聞いた。

「さあ? なんか、名前が書いてあるもの持ってないかな?」

「探してみますね。

 ・・・・・・ごめんね」

 断りを入れてから、少女が身に付けている物から、名前が分からないかと探す。

 まずは耳飾りをしているか。

 ・・・していない。

 腕輪や指輪は?

 ・・・していない。

 ネックレスはどうだ?

 ・・・ペンダントがあった。

 ペンダントを見る。

 何かの紋様が刻まれていた。

 開けると写真を入れられるようになっていた。

 開けてみる。

 三人の少女と、その両親らしき男女の五人が写った写真が入っていた。

 少女の一人は、このペンダントの持ち主だった。

 ペンダントの内側には、文字が刻まれていた。

From Your Parents (あなたの父と母より)

 To My  Daughter ,Firlie (我が娘、フィーリアへ)』

「あっ、ありました」

「本当かい」

「これです」

 フィーリアの胸元にぶら下げられたペンダントをアキトに見せた。

「“フィーリア”って言うのか・・・・・・」

 小さな声で呟いた。

「え?」

 マイにはその声は聞こえなかったらしい。

「ああ、この子の名前。

 “フィーリア”って言うみたいなんだ」

「あ、そうなんですか・・・・・・って、あれ、何でしょう?」

 マイが指さした先には、何というか・・・・・・

 粗末な剣と盾で武装した緑色の変なのがいた。

 二足歩行する、腕が二つの二等身というか一頭身というか、少し迷うような体型だ。

 足は、もの凄く短い。

 変なのは、雄叫びらしきものをあげると、突進してきた。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 その突進のスピードに、二人は何も言うことはできなかった。

 ただ一言、

「そっ、こんなスピード、ありか?!」

「きゃーー、かわいいーー!!」

「・・・・・・・・・」

 もっとも、フィーリアは変わらず、だったが。

 では、アキトを驚愕させる変なののスピードとは?!

「何で走ってんのに、赤ちゃんのハイハイぐらいのスピードなんだーーーー!!!」

 数秒、数十秒ならばまだしも、数分して、アキトはやっと変なのの射程距離内に入った。

 変なのが剣を振るった。

 走るスピードと比べると、検束は異様なまでに早かった。

 だが、所詮は力を全く込めずに腕を振ったほどのスピードでしかなかった。

 アキトにとって、それを回避するのは朝飯前どころか、昨日の夕食、昼食前ぐらいだった。

 流流舞でもするつもりで、ゆっくりと避け、捌く。

 避けてばっかりいるのもアレなんで、軽くチョップをいれてみる。


 ポコッ


 ノロノロ・・・

        ノロノロ・・・


 ペタッ


 ・・・・・・緩慢な動きで、チョップをいれられた頭頂部を押さえ、後ろを向くと一目散に駆け出した。


 ノロノロ・・・

        ノロノロ・・・

          ノロノロ・・・


 ・・・・・・それでも結局、赤子のハイハイほどのスピードでしかなかったが。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 暫しの沈黙。

 後に、

「・・・・・・手掛かりないし、とりあえず追い掛けてみる?」

「そうですね」

 というわけで、変なのの追撃が決定した。



 変なのの後ろ20メートルほどを空け、ゆっくりゆっくり、ひたすらゆっくりと歩く一行。

 普通に歩けば数分の道のりをたっぷり10分以上かけて歩いた。

 階段を一階か二階降りると、どうも今までよりも明るかった。

 周りを見てみると、ランプの量が二倍ほどになっていた。

 すると、そこには巨大な空間があった。

 その巨大な空間は、先程の変なのの巣のようだった。

 いや・・・・・・巣と言うよりは、城の一室、謁見の間か?

 真っ正面に土が盛られ、その上には赤い絨毯と豪奢(と言っても、たかがしれているが・・・・・・)な椅子があった。

 椅子の上には、王冠らしき物体をかぶった、先程のよりも二周りほど大きな変なのがいた。

「お前、人間のくせに足遅い」

 ・・・・・・・・・変なのが喋った。

「どぅおをぉぉっ?! しゃっ、喋ったぁっ?!」

 変なのは、冷静に・・・・・・というか、冷淡に言った。

「お前、うるさい。

 ・・・人の言葉を喋れるのは人間だけだと誰が決めた?

 我らヌボリアンも、人の言葉を喋れる」

 どうやら、彼らはヌボリアンという種族(?)らしい。

「ところで、唐突だがお前を勇者と認めた」

「はっ?!」

「この洞窟、誰も入ってこない。

 臆さずに入ってきたの、お前が初めて。

 だから、お前を勇者として、頼みがある。

 その『白ボラボラの君』を救ってやってほしい」

「し、『白ボラボラ』・・・?」

「お前の隣にいる、その白い肌の少女だ。

 『白ボラボラ』の花に似た美しい肌をしているから、『白ボラボラの君』と呼んでいる」

 どうやら、フィーリアのことらしかった。

「は、はぁ、そうですか」

 何というか・・・・・・スットン共和国に来てからは、ワケの分からんことの連続だった。

 とびかげ、轟天、そしてヌボリアン。

 アキトの思考は半ば麻痺していた。

「ん、それと、ワシはボランゴボンババ18世。

 ヌボリアンの王をしている」

「あー、(偽名は意味無いか。 マイちゃんには知られてるし・・・)テンカワ アキトです。

 こっちは牧野 マイ。

 それと、『白ボラボラの君』の名前は、“フィーリア”って言うみたいですね。 持ってたペンダントによれば」

「そうか」

 ボランゴボンババ18世は頷き、それから、

「これが『白ボラボラの花』だ」

 横から渡された花を三人に見せる。

 白く美しい花弁の花、白百合。

「(って、白ボラボラの花って・・・・・・白百合かい

 
ま、どーでもいいか)」

 アキトをよそに、ボランゴボンババ18世は話を続けた。

「白ボラボラの君・・・・・・いや、今後はお前に合わせて、フィーリアと呼ぶことにしよう・・・・・・は、心を失っている。

 ある日この洞窟の最下層に降りたときに立っているのを見付けて保護したはいいのだが・・・・・・。

 同じ人間でなければ分からないことなどもあるだろう。

 ・・・フィーリアを頼む・・・・・・」

 アキトは、「分かった」と応えた。










 心を失った少女との出会い。

 この出会いは、偶然だったのか・・・・・・

 それとも、必然だったのか・・・・・・










後書き
 あーと、こうして始まりましたは『浦島 アキトぶらり旅 in スットン共和国』補完計画たる『蒸気王国の王女』です。

 知っている方もいらっしゃるでしょうが、知らない方も同じようにいらっしゃるだろうので、ここで説明しておきます。


 この『蒸気王国の王女』は、『ナデひな』に『プリンセスメモリー』という、『カクテル・ソフト』というゲーム会社から発売されているパソゲー(の小説)を絡めたものです。

 ダンジョン探索型の18禁ゲームでして、魔法なども出てくるのですが、それは出さない予定(は未定にして決定に非ず)です。

 確実に言えるのは、R指定クラスにすらならない、と言うことです。

 書こうと思えば書けるのでしょうが、どうもこっ恥ずかしくて、「THE AVENGER」12話程度が限界ですから・・・・・・





 いまのところは。









 ところで、この『蒸気王国の王女』には、また別なものが絡んできます。

 とりあえずは『麻宮 騎亜繋がり』とだけ書いておきましょうか。

 まあ、当然それとは別に『ラブひな』も絡んできますが。



 それでは、長々と書いても特に意味はないので、この辺で。

 

 

代理人の感想

つーても、紹介話なので感想を書きようが無かったり(笑)。