・・・・・・・・・・・・。

人を殺した。

初めて殺した。


今まで殺したのは、命を持たない機械のムシ共。


あんなのは、殺したんじゃない。

コワシたんだ。



満足できない。



・・・・・・そう。

満足できないんだ。

あんなんじゃ、満足できない。



でも・・・・・・・・・



人は違う。


機械とは全然違う。



切ると血が出て、悲鳴をあげる。


でも。

声を聞かれて人が来ると、安心して殺せない。

だから、最初は喉を潰した。


一人目と二人目は、力の加減が分からなくて、ソレだけで殺してしまった。


つまらなかった。


首からピューピューと血のシャワーが出て。


でも、それだけ。

後は、肉にナイフを突き刺す感覚だけ。



だから、3人目と4人目、5人目は口を布で塞いで、思う存分切って、刺した。



機械とは違う、柔らかい感触。

手に馴染む、太古の記憶を呼び覚ます感触。

布の下から漏れる、呻き声。



・・・・・・・・・・・・・・・。



特に、男よりも女の方が良かった。

2人目と5人目・・・・・・。


2人目の時に、もっと気がしっかりしていたら、もっと楽しめたのに・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・・。


この近くには、『ひなた荘』という女子寮がある。


明日の狩猟場は・・・・・・・・・





決まった。








蒸気王国の王女

Presented By E.T 

Sixth Story:ホーム・アローン 〜Murderer In TheDay〜










 ・・・・・・冒頭より少し、時間は戻る。

「フィーリアちゃん」

 夕食の後片づけ中、手伝ってくれている少女に、アキトは声を掛けた。

「なに、お兄ちゃん?」

 しのぶと並んでお皿を拭くフィーリア。

 ・・・・・・彼女とは、何らかの融和が行われていた。

「フィーリアちゃん、まだどこで寝るか決めてなかったよね」

 というと、彼女は小首を傾げて、不思議そうに言った。

「え? 私が寝る場所?

 私が寝る場所なら、決まってるでしょ?」

「「「え?」」」

 アキト、しのぶ、アキトを監視している素子の声が重なった。

「決めてないよね、確か」

「決めてないはずですよ、先輩」

「素子ちゃん?」

「記憶にないな」

「だよねぇ」

 アキトの言葉に、2人が頷く。

 と、

「参考までに、その場諸は?」

 アキトに訊かれ、フィーリアはさも当然のように応えた。

「お兄ちゃんの部屋!」

「浦島 アキトぉぉぉ!!

 貴様少女を毒牙にかけおったのかぁ?!」

 何の反論も許さずに斬り掛かる剣道着の美少女。

 なぜか悔しそうな響きの混ざる声と、裂帛する気合い。

 その二つとが綯い交ぜになり、アキトでも『辛うじて』かわせる程の斬撃となった。

「のおぉぉぉおおっ?!」

 まぁ、いつもの悲鳴である。

 だが、上記の通り、避けるのは本当に必死だった。

 その直後。

「先輩のバカぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ハーリーしのぶダッシュ! 

 それに巻き込まれ、車田的に天高く吹っ飛ぶアキト。

 この際、天井は気にしたらいけない。

「しのぶちゃん・・・・・・腕を上げたね・・・・・・・・・ガク」

 ナニが?





 閑話休題(それはさておき)





「ぶー、私お兄ちゃんと一緒がよかったー」

 というのは、押し付け合いの先に選ばれた素子の隣に寝る、桃色の髪の少女の弁である。

 その言葉に、黒髪の少女が噛み付いた。

「フィーリア!

 お前、一体何を考えている?!

 あんな男と同じ部屋など、妊娠 してもおかしくないぞ!?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 キミ、一体どういう目でアキトのことを見てるのかね?

 さらに、フィーリアが切り返す。

「お兄ちゃんの子だったらいいモン!」



 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 お後がよろしいようで。





 その頃のアキト。

「っくしゅ!

 ・・・・・・・・・誰か噂でもしてんのかな?」










 この時、誰も知るものはいなかった。

 OL2人と、サラリーマンが1人、そして警官が2人殺されたことを・・・・・・・・・










翌朝

「それじゃ、行って来まーす」

「フィーリアちゃん、留守番よろしくね。

 時々はるかさんが様子を見に来てくれることになってるけど・・・・・・

 大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。 お兄ちゃん」

 ・・・・・・フィーリアは、昨日ひなた荘に来たとき、和風茶房日向を覗き、はるかと出会っている。

 他の少女達は既に学校に出た。

 キツネは早くからバイトが入っていた。

「行ってらっしゃ〜〜い」

 2人を見送り、手を振る。

 その2人も、少女に手を振る。



 やがてアキトとなるの姿が見えなくなり・・・・・・・・・

「ふう・・・・・・、1人になっちゃった」

 小声で呟いた。

「なにしようかな・・・・・・。

 ・・・あ! そうだ。

 しのぶのマンガ読ませてもらおう!」

 建設的な暇つぶしの方法を見付ける。

「えーと、義妹(いもうと)とラブラブになるお話だから・・・・・・『妹 あかね 』かな」

 ぶちぶちと呟きながら、彼女はしのぶの部屋に向かった。





12時21分 佐ゼミにて

「あ・・・・・・」

「どうした、アキト?」

「顔が真っ青だよ?」

 鞄に手を入れ、顔を真っ青にしたアキトに白井と灰谷が声を掛けた。

 すると彼は、

ーーー 弁当忘れた」

「「だああぁぁ」」

 親友のまぬけな言葉にこける2人。

「ちょっと取ってくるから、なるちゃんが来たら30分ぐらい待って、て・・・・・・来たね、なるちゃん」

「アキトー、お昼一緒に食べよー」

 ビン底眼鏡の、栗色の髪をおさげにした少女。

 それが、成瀬川なるの戦闘形態(プッ(吹き出した))だ!

「あー、ゴメン!

 弁当ひなた荘に忘れちゃったみたいでさ・・・・・・、30分ぐらい待っててくれない?」

「あら、そうなの。

 ・・・って、え? 30分?

 ひなた荘まで一時間近く掛かるわよ?!」

「あっはっは、まあ管理人の不思議な実力とでも思って納得してくれ」

 それから、

「じゃっ」

 と言い残し、彼は疾風の如く消え去った。

「あはははは、さらばだあぁぁ〜〜

 あはははははははは〜〜〜〜・・・・・・・・・はー、はー、はー(←エコー)」

「・・・・・・・・・ホント何者よ、あいつ」










 少女が、友人に言った。 衝撃的な言葉を。

 それは・・・・・・

「ねぇ・・・・・・、お兄ちゃんにキスされちゃった」

「えっ?!」

 言葉に詰まる友人。

『おぉ〜〜』

 それを見ながら、溜息を付く桃色の髪の少女。

 その少女の名はフィーリアといった。

 劇的な台詞を言ってくれたのは、あかね。

 マンガのキャラクターである。

 先程彼女が言っていた『妹 あかね 』というマンガの主人公格だ。

 まあ詳しいことは省くが、もう一人の主人公格・・・・・・つまり義兄にキスをされてしまって、まーどーしましょ。という場面なわけだ。(ちょっと違うけど)

 これはやはり先程言ったとおり、しのぶのマンガである。

 彼女は、かなりの恋愛マンガを所有しており、このマンガもその一つだった。

 更にその中でもオススメの一品であり、2バージョンある両方を持っている。

 ・・・・・・なかなかの通である。

 結構絵柄も違うし、別のマンガ読んでる気分になってくるのも確かではあるが。

 やがて読み終わり・・・・・・

「あー、面白かった。

 さ、次、次」

 と言いながら、しのぶの部屋に本を返し、取りに行く。



 その頃、ひなた荘へ続く階段を、1人の男が上っていた。

 その男はよれよれの、白いトレンチコートを着、鹿撃ち帽を目深にかぶった大柄の男。

 ふと歩みを止め、目線を石段から上に向けた。

 その先には、白い雲と蒼い空。

 そして、ひなた荘。

 それから下を見やる。

 眼下に広がる街並み。

 赤い屋根、オレンジ色の屋根、青い屋根、白いマンション、茶色いマンション。

 人々が日々の暮らしを営む、平和な街。

「・・・・・・くだらん」

 小さな声で呟く。

 その無機質な声の中には、押し殺された怒りを感じる。

 この男は、『元』軍人だった。

 そう、現役ではなく、元。

 戦争が終わったことにより、統合軍が組織された。

 旧陸・海・空・木連軍が統合された組織、統合軍が。

 だが、戦争の終結に伴い、軍人の中には退役、除隊した者もいる。

 その退役、除隊した者の中には『退役させられた者』、『除隊させられた者』もいるのだ。

 この男もその1人。

 退役さえられたときに数ヶ月分の給料に匹敵する金額が懐に入った。

 だが、所詮はそれだけ。

 今までの蓄えも、その金も。

 結局いつかは食いつぶしてしまう。

 しかも、今までは住居は軍の施設だったが、今は家賃を払い、アパート暮らし。

 独身で、家族もない。

 それらの不満が、昨夜の満月で、ココロの奥深くに眠っていた殺人衝動と結び付き、解放された。

 そのことを、この男自身、よく分かっていた。

 だが、止まることは出来なかった。

 内に迸る狂気が、妥協を、立ち止まることを許さないからだ。

 だから・・・・・・その狂気の赴くままに、女性を求め、ここに来た。

 彼が殺し、迸る狂気を抑え込み、殺人衝動を満たすために。

 今はまだ、誰もいないだろう。

 居たとしても、1人か2人。

 それが、彼の集めた情報から下した判断だった。

 この女子寮は、ある意味陸の孤島だ。

 管理人の男が随分と謎が多い男らしいが、無傷のバッタを数匹一度に相手取り、勝利した。

 その自分に抑えられない相手だとは思わなかった。

 管理人の男を抑え、その目の前で少女達を犯し、そして殺す。

 それが、今彼の脳裏を支配する思いだった。



 十秒ほど経ち、再び歩みを進めた。

 瞳の中のひなた荘は、どんどんと大きくなる。

 それだけ、自分はこの寮に近付いている。

 この寮に住む少女達、その体と死に様が。

 やがて古くさい、元旅館の玄関前にたどり着く。

「・・・・・・1人、か」

 人の気配を感じた。

 集めた情報から判断すると、紺野 みつねという女性か。

 それとも、昨日管理人がどこからか連れてきた身元、名前不詳の少女か。

 ・・・・・・どちらでもいい。

 今、捕まえて犯し抜く。

 誰かが帰ってきたときには、犯されて喜ぶ肉人形に墜とそう。

 それから、その肉人形を人質に取り、寮の住人全員を犯し、殺す。

 それを想像し、暗い愉悦に身を落とす。



 白昼の死角。

 陸の孤島。








・・・・・・・・・青空は・・・・・・狂気を癒すことは叶わないのかーーー  












後書き

 「蒸気王国の王女」。

 この物語の『Murderer・シリーズ』は、全4話(つまり後二話)の予定です。

 次話次第ですが、次で完結する可能性もあります。

 「蒸気王国の王女」自体は、全12話前後。

 構想に変化、プロットの追加がなければ、これは変わらないはずです。

 ・・・・・・ま、作家の約束事は政治家の公約と同じくらい当てにならないとも言いますけど。

 でも、その辺は気にしちゃダメってことで。

 だって、某人物だって今月中はキツイ、みたいなこと言ってましたし。

 今月無理でも、来月2作出ればいーですけどね。別に。



 なお、この元軍人の情報源は気にしないで下さい。

 作者も考えてないんで(爆)





 そういえば、『ANOTHER NADESICO』ですけど、8話で、『9話でレイことジーネと、その親父のデータを書く』とか言っときながら、忘れてましたね。

 ま、所詮人間なんてそんなもんです(ヲイ)



 それでは、この辺で。

 

 

管理人の感想〜

 

・・・・・・・・・E.Tさんって、出す作品選んでません?

しかも、キーワードは『妹』(笑)

いや〜、「あかね」まで出てきた時は苦笑をしましたよ。

古い作品になると「みゆき」かな?(10代の方、ご存知ですか〜?)

それにしても、アキトと鉢合わせするのか、白マント・・・御愁傷様です(爆)

 

>・・・・・ま、作家の約束事は政治家の公約と同じくらい当てにならないとも言いますけど。

 

・・・・・今回は笑い事じゃないのよねぇ(汗)