じ〜〜〜〜〜っ

「・・・・・・・・・・・・」

 じ〜〜〜〜〜っ

「・・・・・・・・・・・・」

 じぃ〜〜〜〜〜っ

「何なんだよっ、もう!」

 住人達のジト目に耐えきれず、アキトが吠えた。

「『何だ?』って、ねえ?」

 なるの言葉に、素子、しのぶ、スゥ、キツネが続く。

「なんと言うか、白々しい、という・・・・・・」

「何でそんなになってるんですか、先輩〜〜」

「あはは〜、モテモテやな、アキトー」

「おまーさん、それ本気で言ってんか?」

「俺はいつでも本気だよ?」

 アキトの言葉に住人達は一旦沈黙し、声を揃えて、

『いつまでフィーリアを腕に引っ付けたままなんだー!』





 ・・・・・・久我山 雅和がひなた荘に現れた日の夕食の光景であった。








蒸気王国の王女 

Presented By E.T 

Ninth Story:仔犬のワルツ 〜Firlie As A Puppy 〜










 時は数時間前、アキトが久我山 雅和の記憶を消した後に遡る。





「・・・これでいい」

「ありがとう、アーサー・・・・・・」

 アキトがアーサーに礼を言う。

「いや、礼などいらぬ。

 主の役に立つことこそが、スタンドの本懐なのだから」

「それでも、礼を言わせてくれ。

 ・・・・・・これでは、根本的な解決になっていないことは分かっている。

 だけど、俺は全てを失うことこそが、最も重い罰だと思っている。

 俺1人では、彼を、その罪に相応しい罰を与えることは出来ない。

 ・・・・・・アーサー、お前がいたからこそ、俺はその罰を彼に与えることが出来たんだ。

 俺が人に罰を与えるなど、思い上がりも甚だしいことは分かっているが、同じ罪を犯した者としては・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 だから・・・・・・、礼を言わせてくれ・・・・・・・・・」

 アーサーは軽く頷き、アキトの視界からフッと消え去った。

 アーサーがやったのは、正確には記憶の消去ではない。

 一気に大量の情報を送り込むことによる、記憶のオーバーロード。

 一つ間違えれば廃人となってしまう危険な手段だった。

 だが、アーサーにはその加減が可能だった。

 実際、完璧な匙加減で、雅和の記憶を破壊した。

 ただ、わけも分からず心に残る罪悪感を残して。

 強烈な衝撃か、再び同じ体験をしない限り、記憶が元通りになることはない。

 それが、進化したアーサーの能力だった。

「お兄・・・・・・ちゃん」

 ボーっと空を見上げていたアキトに、フィーリアが声を掛けた。

「なに、フィーリアちゃん」

「なんで・・・・・・」

「え?」

「何でそんな人、助けたりなんかしたの!?」

「フィーリアちゃん?」

 堪えられない激情に駆られて叫ぶフィーリアを前に、アキトは茫然とその名を呼んだ。

 顔を崩し、目から涙を溢れさせておる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 フィーリアが雅和を前にして不安そうにしていたのは、狂気が晴れたとはいえ、彼に殺されかけた、犯されかけたからだ。

 アキトは、そのことをすっかり失念していた。

「お兄ちゃん・・・・・・、そのひと、怖いよ・・・・・・・・・」

 少女は、アキトに抱きつくと顔をその逞しい胸に埋め、泣いた。

 アキトは、フィーリアを抱きしめると、その薄桃色の髪を優しく撫でた。

 その横で、雅和がのそりのそりと歩き始めた。

 それは、アーサーが記憶の破壊と同時に仕掛けた、偽りの約束の記憶による。

 自動消滅するよう仕掛けた偽りの約束の地。

 彼はそこに向けて歩き始めたのだ。

 それは、贖罪の旅の第一歩だった。



 数分して。

「・・・・・・お兄ちゃん、ゴメンね、服汚しちゃって」

 フィーリアが、アキトの胸から顔を放した。

「別に構わないよ。

 フィーリアちゃんのためなら、これぐらい」

 それから、戯けるように、

「でも、そろそろ放してくれると嬉しいかな?

 ・・・じゃないと、佐ゼミの午後の講座に間に合わないし」

 フィーリアは再度アキトに誤り、今度は体も放した。

 だが、その代わりにアキトの手を、その小さな白い手で包んだ。

「お兄ちゃん・・・・・・、お願いがあるの」

「ん、なに?」

「あのね、一人でいるのは嫌なの。

 だから、私もその『佐ゼミ』に連れてって」










 佐ゼミに到着し、

「いやー、ゴメンゴメン。

 いろいろ向こうでゴタゴタあってさー、思ったより時間掛かっちゃった」

 と言いながら教室に入った。

 すると、彼を出迎えたのは、

「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 何か信じられないものを見たように大口をあんぐりと開ける三人の姿。

「? どうしたの」

 アキトはの質問に、三人は沈黙を答えとした。

 なる、白井、灰谷は固まる以外、何も出来ることはなかったが、彼にはそれが解せなかった。

 当然、

(((コイツ、ヤッパ人間じゃねぇ!!)))

 などと三人が思っていることも、知る由はなかった。

「・・・・・・ん・・・・・・・・・?」

 突如固まっていたなるが解凍された。

「って、あーー!!

うわっ?! な、なに!?」

「おっ、おばちゃん、耳痛いじゃない!!」

 アキトとフィーリアを指さして、シャウトした。

「何でフィーリアちゃん連れて来てんのよーっ?!」

 だが、アキトは冷静に、

「いや、ちょっと向こうであって、それで一人でいたくないって言うから、連れて来ちゃった。 テヘ(はあと)」

「アンタ一体フィーリアちゃんに何したぁ!?」

 なるはアキトがフィーリアに何かしたとしか考えなかった。

「なんでそーなるっ!」

 なるは冷静に切り返した。

「だって、私が知る限りアンタが女性と関わると、何らかの事故か事件が起こるか、起きたから。

 ・・・・・・それ否定できるんだったら、前言撤回してもいいわよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・!!

 (クッ、否定できん・・・!!)」

 当然であった。





 教室内外の生徒、講師の奇異の視線に耐え抜き、今日の授業が終わった。

 その授業の間中、フィーリアはアキトにまとわりついていた。

 普段なら、アキトの周りは女性陣(なぜかみんな美女、美少女)に囲まれる。

 だが、今日はフィーリアが『近寄るなオーラ』をビンビンに放っていたため、アキトの座る机の前後左右には、誰もいなかった。

 それがまた、講師の目を引いた。

 フィーリアがこの場にいることは、なぜかは不明だが、認められた。





 そして時は経ち、夕食の場へ。

 それから数時間。

 就寝時刻となる。



「お兄ちゃん・・・・・・、暖かい」

 布団の中で、フィーリアが呟いた。 ピッタリと、アキトの背中に抱き付いて。

 そんなわけだから、フィーリアの甘い吐息がアキトの耳やうなじをくすぐり、理性に攻勢を仕掛ける。

 だが、同盟の面々に鍛え上げられた理性はそれしきでは揺らぐことはない。

 ・・・・・・背中に、なにか柔らかいものが2つ当たっていなければ、だが。

(うう・・・・・・天国の父さん、母さん。 理性は大切です・・・・・・・・・)

 それともう一つ、理性を崩れさせるわけにはいかない理由。

「フィーリア、その男に引っ付くなと言っているであろう」

 ・・・フィーリア With 素子

 理性が崩壊すれば、殺られる。 間違いなく。

 アキトは心の中で呟いた。

「なんでこーなるの」



 ああアキト、キミの明日はどっちだ?!










後書き

 今回後書きのネタが見事なまでに全くありませんので、管理人様へ。


>雅和に殺された人の遺族の方々へのフォーローについて

 「アトネメント(または「Guilty And Punishment」)(仮題)」というフォローストーリーを構想しています。

 雅和が主人公の話で、フォローはこちらにさせる予定です。

 ・・・・・・もっとも、いつものように予定は未定にして決定に非ず。 ですが。



 あ、一つネタ発見。

 アーサーの記憶の消去(というか破壊)は、某マインドアサシンを元にしてます。


 それだけ。




 それではこのへんで。

 

管理人の感想

マインドアサシンって・・・これまた懐かしいネタを(笑)

今の中学生・高校生に分かるのかな?

それにしても、フォローは別のストーリーですか。

一瞬、ガンダムWのヒイロが頭に浮かんだの私だけですかね?(爆)

もしそうだと、一人目で終わりだな・・・雅和が不死身だとは思えないし(苦笑)

あの役をする為には、少なくともMSの自爆に耐えうる身体を持たないと駄目ですからね〜

ハーリーかガイじゃないと駄目だな、実際の話。

 

ストーリー自体は、前回の話のカバーみたいですので次回に期待をしますね。

 

では、E.Tさん、投稿有り難う御座いました!!