「エステバリス、稼動可能限界時間まで後十秒です」

「アキト・・・・・・」

「9、8、7・・・」ブリッジ内を暗い沈黙が包む。

「5、4・・・(アキトさん・・・)」

 諦めのムードが、ブリッジだけでなく、ナデシコ乗員全員に襲いかかる。

 奇跡的に、今まで戦死者がいなかったのに・・・・・・

「2、1・・・0・・・・・」

 奇跡は・・・・・・起きなかった・・・

 誰もがそう思った。

 

「アキトさん・・・・・・」

 厨房でサユリが顔を覆っていた。

 ホウメイも、サユリ以外のホウメイガールズも、お互いに抱き合ってすすり泣いていた。

 

「アキト・・・死んじ・・・まったのか・・・・・・」

「そんな・・・テンカワ・・・・・・」

 ウリバタケが、ユウマが呆然と呟いた。

 他の整備員たちも肩を抱き合い吼えていた。

 

「D・・・アキト、もうカエッテコレナイの?

 もうラピスとアソンデクレナイノ・・・?」

 ラピスがDに悲しそうな声で問いかけた。

「テンカワさん、死んじゃったんですか!? Dさん!」

 ハーリーがDに感情をぶつける。

 

 そして・・・・・・

 

「あの人は帰ってくる!

 だって・・・この間だってそうだったじゃないですか!」

 

「アキトは帰って来るさ。オレたちの元に」

 

「ルリ・・・ちゃん・・・?」

 

「あいつがオレたちの期待を裏切ったことがあったか?」

 

「艦長にはテンカワさんが信じられないんですか!?」

 

「いつだって、最後には期待に応えてくれただろ?」

 

「・・・ううん、私はアキトを信じる」

 

「だから信じろ」

 

「・・・私もです。アキトさんは必ず帰ってきますよね」

 

「あいつがナデシコに帰ってくることを」

 

「・・・はい。それでこそ艦長とメグミさんです」

 ルリのその言葉のすぐ後のことだった。

『おーい、ナデシコーー』

「「アキト(さん)!?」」

『なんかさ、親善大使探すのに手間取っちゃって。

 それにしてもD。Dの言うとおり、親善大使って・・・シロクマだね・・・・・・』

【ふふふ。まあな。

 アキト待ってろ。今、回収に出るからな】

 Dがそう言うなり、ナデシコから紫のエステバリスが飛び立った。

「あれ? アレってイツキさんのエステだよね」

「え? あ、そうですね。

 どうしてDさんがイツキさんのエステバリスに乗ってるんでしょう」

 ピッ

 ウインドウが開くのももどかしく、イツキが喋り始める。

〔それはね、私がDに貸してあげたからよ。

 リョーコやヒカル、イズミはさっきナデシコを襲ってきたバッタたちの相手をしてお疲れで迎えに行く体力が残っていないし、アカツキさんはイネスさんに拘束されて出られないし・・・

 私は手を挫いてるから出られないし。

 となったら、手が空いているIFS所持者はDだけだもの〕

 どことなく機嫌が良さそうな顔で、長弁舌(というほどではないか?)を披露するイツキ。

 

 さて、ここで一応説明(「説明?」「誰に言ってるのかは知らんが、助けてくれぇぇぇぇ!!」「頼むよ、イネス君。拘束を解いてくれたまえ!」)しておくが、今回も、描写は全くなかったが、海中からバッタたちが襲ってきた。

 それをリョウコ、ヒカル、イズミ、(今はイネスに拘束されている)アカツキが撃退した。

 イツキは手を挫いているから出られなかった。

 Dはオメガが起動しなければサレナを動かすことは実質上不可能なため出られなかった。

 Dがイツキのエステに乗って出撃するという手も有ったのだが、Dにとってこの時代のエステは反応が鈍すぎるし、イツキの個性に合わせた、エステに蓄積されたデータがおかしくなることを考慮した結果、それもボツとなった。

 まあ、アキトを拾いに行くぐらいなら問題もないので、戦闘後の整備を必要としていないイツキのエステで、回収しに出たのだ。

 因みに・・・・・・これも描写をしていなかった・・・というか書くのを忘れていましたが、アキトは今回もユリカをバーチャルルームで慰めようとしました。

 

「アキトさん!」

 アキトがDに拾われてナデシコに戻ると、メグミが駆けてきた。

 

「メグちゃん・・・・・・何時の間に・・・」

「ちょっと提督! どういうことなんですか!」

「実験用のシロクマを回収しろだなんて命令、普通の軍隊になんか出せるわけないもの」

「これで良いのか、ミスター?」

「いやはや、困ったものです」

 ナデシコ(ブリッジ)は今日も概ね平和そのものだ。

 

「メグミちゃん」

「アキトさん、大丈夫だったんですね・・・。

 わたし・・・私・・・・・・」

「ごめん、メグミちゃん。

 まずは艦長に報告に行かないと」

 アキトはメグミを置いてブリッジへと歩みを進める。

 

 プシュウ

 アキトがブリッジに入ってくる。

「只今戻りました、艦長」

「お帰りなさい、アキト」

 二人は同時に微笑んだ。

 

 

機動戦艦ナデシコ 

TWIN DE アキト

 

 

第九話 奇跡の作戦『キスか?』
後編 結婚・・・ですか・・・編






「・・・オメガからプログラムが取り出せないだと?」

 ウリバタケがルリにそう問う。

「はい。そうです。

 何故かは全く分かりませんが、取り出せません」

「・・・って言うとなんだぁ?

 オメガはずっとフリーズしたまんまってことか?」

「そういうことになりますね」

「Dに一体どう言い訳すりゃいいんだぁぁぁ〜〜〜!!!」

「・・・落ち着くのね」

 動揺しまくるウリバタケにイネスが落ち着き払った声で言う。

「なんでそんなに落ち着いてられんだよ、あんたは」

「考えてみると、私はこれに似た症状を知っているわ。

 尤も、人間相手の話だけど」

「・・・それってどんな?」

「・・・・・・私もそれの知識はありますが・・・AIにそんなことがあるんでしょうか」

「だから何なんだ!?」

 ルリもイネスも沈黙した。

 二人とも、それを認めたくないからだ。

 それを言えば、異常者扱いされても仕方がないようなことだからだ。

「何なんだってば!!」

 ガキみたい駄々をこねるウリバタケ。

 そして二人は同時にため息を付くと、言った。

「「妊娠よ(です)」」

「は!?」

「だから妊娠よ!

 いい!?

 オメガの症状は、人間の女性が妊娠して、具合が悪くなった時のそれと全く同じなのよ!!

 私だってこんなこと言いたくなんかないわよ!!!」

「そ、そうなのか。

 分かった。

 だからその怪しげな注射器はしまってくれ!

 な!?

 な!?」

「拒否するわ。

 ヤマダ君とアカツキ君と、比較する個体がいないから・・・・・・

 ふふふ・・・うってつけの材料よね・・・・・・」

「い、いやああぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁああああ!!!」

「・・・・・・」

 こうしてルリ、イネス、ウリバタケの、“オメガを直す会第二回定例報告&会議”が終わった。

 ユウマも“オメガを直す会”のメンバーなのだが、エステの整備が忙しくて、出席できなかった。

 

「・・・・・・というワケなんだけど、オモイカネ、心当たり・・・有る?」

『・・・・・・・・・・・・』

 ルリの言葉に対するオモイカネの返答は、怪しすぎる沈黙だった。

「・・・オモイカネ」

『・・・・・・・・・・・・』

「オモイカネ」

『・・・・・・・・・・・・』

「オモイカネ」

『・・・・・・・・・・・・』

「オモイカネ」

『す・・・・・・すみませんでしたぁぁぁぁっっっ!!!』

 何度目かの質問の後に返ってきた答えはそれだった。

「・・・・・・こういうとき、人間だったらどうするんでしょう?」

 ルリが、意地悪な質問をする。

『せ・・・せき・・・せき・・・責任・・・を・・・・・・取る・・・と・・・・・・・・・・・・』

 つっかえつっかえオモイカネが出した答えはそれだった。

 まあ、(基本的に)当たり前のことではあるが。

「それじゃあオモイカネ、オメガと結婚しなくっちゃね」

 横でルリとオモイカネの会話(オモイカネはウインドウを開いたりしていた)を聞いていたミナトが、横からそう言った。

「・・・だって。

 どうするの?

 オモイカネ」

『・・・・・・責任を・・・・・・取らせていただきます・・・・・・』

 

「い、イネス君・・・いい加減に拘束を解いて欲しいんだけど・・・?」

「ふふふ・・・だめよ。

 太陽の力を吸収して生まれたその黒い体・・・・・・興味有るわ・・・・・・

 やっぱり水は効かないのよね?」

 そんなことを言うと、「えいっ☆」とか言いながら、何処からともなく取り出した水鉄砲でアカツキHGを撃つ。

 水がアカツキHGの体を濡らす。

「み、水は元から平気なんだけど?」

「え? だってあなたルーチンでしょ?

 ルーチンは水とかで濡れると、動けなくなるはずよ。

 コーティングしてなければ」

「な、何の話だい? それは」

 ピピピッ、ピピピッ

 電子音が医療室に響く。

「あら?」

 ルリからのものだけにしか、その電子音は鳴らない。

「ホシノ ルリったら、何の用かしら・・・・・・」

 ピッ

『イネスさん。良い話と、良いか悪いかよく分からない話が一つずつ有るんですが』

「なぁに?」

『まず良い話です。

 オメガの意識が復活しました』

「それは良い話ね。

 それでもう一つは?」

『はい。

 オモイカネが、オメガと結婚するそうです』

「そ・・・それはまた・・・・・・

 ゆ、愉快な・・・AI・・・ね・・・・・・」

『プロスさんにもそのことを話したところ、二つ返事でOKしてくれました。

 当然Dさんとオメガにも伝えたんですが・・・・・・凄い乗り気でした。二人とも』

「そ。そう・・・・・・」

 何か頭痛を感じるイネスだった。

『それで式は四日後になります。

 勿論イネスさんも結婚式に参加しますよね?』

「え・・・ええ。そうさせてもらうわ・・・・・・」

 この時イネスの頭は、ほとんどその機能を停止していた。

 だから、アカツキHG&ヤマダ&ウリバタケが、ウリバタケが「こんな事も有ろうかと思って・・・」なんて作っておいた「対医療室の悪魔用兵器脱出君一号」を持ってして脱出したことにも気付かなかった。

 因みに、脱出君一号は別名「男のロマンはドリルだろ!」らしい。

 形は勿論ドリルだ。

 かなり小型で、パワーは全然ないが、袖口に隠せて、片手でも扱えるらしい。

 

「ダメよダメよ、ダメったらぜぇぇぇぇぇぇぇったい、ダメ!!」 

「え〜、何でですか〜?」

「ダメなものはダメっ!」

「答えになってないです。それ」

「ホントよね〜。

 軍人さんってみんなこうなのかしら」

「提督、クルーは娯楽に飢えてますから、こういう機会に発散させておかないと・・・」

「ダーメよったらダメよっ!!!」 

 プス

 いきなり、ムネ茸の首に無針注射器が刺さった。

「あ・・・」

「提督は少々疲れ気味のようだ。

 今、イネスさん製の眠り薬兼精神安定剤を注射したから、きっと今度起きたときには正常になるだろう。(起きられたら、だがな)」

 すっくとムネ茸の後ろから立ったDが獰猛な笑みを浮かべながら、そう言った。

「う・・・それはやりすぎじゃないかなー、と・・・・・・」

「軍との間に問題が発生しなければ良いんですが・・・」

「むう・・・」

「て、提督!?

 D、君はなんて事をしてくれたんだ!」

 アオイがDに詰め寄る。

「もっと早くそうしてくれればナデシコは平和だったのに!」

 ドテっ

 D以外のブリッジクルーがみんなこけた。

「アオイ・・・お前、変わったな・・・・・・」

 巨大な汗を背負いつつ、Dが言った。

「そうか?」

 

 オモイカネとオメガの結婚式の日がやってきた。

「汝オモイカネ、病めるときも健やかなるときもその妻を愛することを誓いますか?」 

「はい」

 牧師の格好をしたユリカの言葉に、オモイカネが答える。

 ウインドウじゃなくて。言葉で。

 ・・・尤も、肉声じゃなくて合成音声なのはいた仕方ないが。

「汝オメガ、病めるときも健やかなるときもその夫を愛することを誓いますか?」 

「はい」

 オメガも、ウインドウでなく、言葉で答える。

 ユリカは二人(?)に指輪(!?)の交換をさせた。

 オモイカネが純白のウェディングドレスに身を包んだオメガのほっそりとした指に指輪をはめる。

 オメガも、タキシードに身を包んだオモイカネの指に指輪をはめる。

「誓いのキスを」

 オモイカネがオメガの顔に掛かったベールを持ち上げ、その桜色の唇にそっと口付けた。

 黒髪黒目の、東洋系(正確に言えば日本人)の顔をしたオモイカネも、銀髪蒼眼の西洋系の顔をしたオメガも、頬を少し赤らめている。

 ・・・オモイカネも、オメガも、フォログラフなのだが、周囲にはそんなことを少しも感じさせなかった。

 これは、ルリ、イネス、ウリバタケが必死こいて、フォログラフをプログラミングしたからだ。

 イネス曰く、

「触れることは出来ないけど、それ以外人間と違うところは無いわ」

 フォログラフのオモイカネとオメガ同士は触れ合うことが理論的には出来るそうだ。

 まあ、キスもしてたし、しっかり触れ合うことは出来るようだが。

 

 ------披露宴会場にて Dサイド------

「D・・・本当にオモイカネとオメガ、結婚しちゃいましたね・・・・・・」

「ああ。そうだね。

 ・・・イツキちゃんは冗談だと思ってた?」

「え?・・・まあ、そうじゃない、って言ったら嘘になりますけど・・・・・・」

 オメガの両親役として出席しているDとイツキの会話だ。

 ・・・因みに、オモイカネの両親役はルリと、何故かアキトだった。

「・・・それにしても、オメガ、幸せそうだね」

「ええ・・・

 (私も・・・・・・あなたとだったら・・・・・・)」

 

 ------披露宴会場にて アキトサイド------

「(何でオレがこんな所に・・・・・・)」

 アキトの顔を見たルリが一言、

「すいません・・・やっぱり迷惑でしたか?」

「え、いや、別に。

 迷惑なんかじゃないよ。

 何てったってルリちゃんの頼みだしね」

 にこやかに、アキトは言った。

 それを見て、ルリが微かに顔を赤らめる。

 それを見たユリカ、メグミはアキトとルリに嫉妬光線を叩き付ける。

 具体的に、目から謎の怪光線が迸ったのだ。

 アキトは大量の汗をかきながらガタガタ震えた。

 ルリはそんな怪光線には全く気付かずに、顔を染めたまま下を向いていた。

 

 まあ、そんなこんなでオモイカネとオメガの結婚式、披露宴は無事に終わった。

 

 

 次回予告

 降り注ぐ太陽の光

 ヤマダにしびれ薬を盛る謎の女

  次回 『女らしく』がアブナイ
             をみんなで読もう!

 

 

 本星への報告書9-後

 執筆時間は・・・・・・三時間ぐらい・・・かな?

 書くことは・・・特にないな・・・・・・

 あ! あの二つを書かなくっちゃ。

 まず、前編のあとがきで書き忘れたことで、電波増幅装置は、完全にオメガから独立しているので、オメガが機能停止していたときでも使えた、ということと、もう一つはアンケートみたいなものです。

 十二話と十三話の前に入ることになるサイドストーリーで、Dに二つ名を付けようと思うのですが・・・

 幾つか考えた、そのどれもが気に入ってしまって決められないんですぅ〜〜〜(月並みなものもありますが(いや、全部がそうか?))。

 と、いうわけで、この作品を読んでくれた方々に決めてもらおうかな〜、と。

 これから書く中から選んで、メールでどれが良いか、僕に教えてください(番号でお願いします)。

 

1:漆黒の刃(ダーク・エッジ)

2:黒騎士(ブラックナイト)

3:黒き翼(ブラック・ウイング)

4:黒衣の天使

5:黒い雷光(ブラックライトニング)

 

 一応期間は、この話がupされてから三週間〜四週間と考えています。

 一応書いておきますが、選ぶのは、一人一つ。

 重複があった場合には、最初に来たものとします。

 複数が一位になったときは、決選投票を行います。

 万が一、メールが30通未満しか来なかった場合には、Benさんや鋼の城さん辺りに決めてもらおうかと思っています。

本星への報告書9-後 終

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

E.Tさんからの連続投稿第八話です!!

・・・妊娠って(汗)

ま、まあ非常識な事態は日常茶飯事のナデシコですけど。

物理法則を無視しているような・・・・

いや、それ以前に子供は何者なんだろうか?

凄く興味深いですね〜

 

でも、手が早かったんだな・・・オモイカネよ(爆笑)

 

ではE.Tさん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

感想のメールを出す時には、この E.Tさん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!