<ああっ テンカワアキトっ>


 





 あの忌々しい戦争が和平という奇跡の幕を閉じ。

 激戦をナデシコの面々も、今は平和な世界へと溶け込もうとしていた。



 しかし、その平和を享受できぬ不幸な男が一人・・・



 これは、その男の愛と戦いの話である。










「ふはははははははは」


「あーっはっはっはっはっはっはっはっは」



 密林の中、二人の男が哄笑していた。



「これで彼は最大の武器である組織力を封じられたわけだよ。

 ウリバタケ君」


「ああ、そうだな、アカツキ。

 だが、一つ問題がないか?」


「何のことだい?」


「俺の飯は?」


「・・・・・・・・・・・・。

 ウリバタケ君。

 譲り合いの精神は大事だと思わないかい」


「ほお〜お・・・・・・。

 それで一週間ぶりの飯を盗ったわけか・・・・・・」


「う、ウリバタケ君。な、なんだい?その手に持っている物は」


「・・・これか?

 これはな、瓦崎工業高校に伝わる伝説の釘バットだよ」


「それでなにをするのかな〜」


「野暮なことを訊くなよな、アカツキ」



 ぽん、っとアカツキの方に右手を乗せるウリバタケ。


 その手には神の金属ミスリルをも潰すほどの力が込められていた。


   お   そ   ら
「大宇宙の果てまで行ってこお〜〜いぃっっ!!!」
 


 フルスイング! 

 アンド、

 ジャストミートっ! 


 なんかめっちゃくっちゃ鈍い音が、静寂が支配する夜の密林に響いた。


 バサバサッ


 驚いたコウモリや鳥たちが一斉に飛び立った。


 
「留守は任せたよ、ウリバタケく〜〜んんんっっっ・・・・・・」
 


 キラーーンッ


 こうしてアカツキナガレはお空に輝くお星様の仲間入りをしましたとさ。










 Chapt.1 コールナンバーはWRONG NUMBER










「はい、青山先輩は急にバイトが・・・・・・

 ええ・・・・・・

 次に埋め合わせすると・・・・・・」


 漆黒の戦神と呼ばれた男、テンカワ・・・・・・もとい森里明人は先輩たちに電話番をさせられていた。

 散らかった自分の部屋で、鏡に背を向け、足を投げ出し、勉強しながら。

 何で俺が・・・・・・と思いつつもしっかり電話番をしているところがさすがというか、なんか情けない気もする。

 だが、アキトは間抜けなくらいに律儀だった。


 いや、それ以前に留守電無いとこがあんのかよ、この時代の日本に。


「はい、そういうことで」


 ちん

 今どき珍しいなんてモンじゃない我々と同じ電話を切る。


 今の時代は、テレビ電話が普通である。


「ったく、留守番電話ぐらい買っといて欲しいな、先輩は」


 いや、そんなレベルじゃないって。

 真実は、アキトの先輩の一人である大滝のコレクションであるその電話をそのまま使用している、ということなのだ。

 アキトにとって迷惑なことに。


「しっかり留守番しとけよ ! !」


 アキトの頭に、いかつい顔をした、・・・・・・絶対お前ゴートさんの親戚だろ、と初対面にアキトは思った・・・・・・青山の言葉と、顔が思い出される。


「おっと、青山先輩に伝言頼まれたんだ」


 アナログな古い電話(さすがに黒電話ではない)のキーを押して・・・・・・

 ほんの数瞬の沈黙。

 そして聞こえてくる女性の声。


『はいっ、“お助け女神事務所”です』

「おっ、間違えたか」

『ご希望はそちらで伺います』

「は?

 え、あ、ちょ、ちょっとな、何のこと!?」


 アキトが混乱していると、突如頭上から声が聞こえてきた。


「こんばんは」

「え?」

「何をお望みですか?」


 女性が・・・・・・アキトの頭の上にある鏡から生えてきていた。










 アキトは盛大に退いた。

 鏡の中から人間が現れたのだから、普通は当たり前だ。

 だが、ここには何もないところから現れる人間がいるのだが・・・・・・

 本人はそのことをすっかり失念しているようだった。


「あれ?

 あらあら」


 鏡の中から出てきた栗色とブロンドを足して2で割ったような髪の女性が、それを見て頬に汗を流す。

 だが、次の瞬間何事もなかったかのように鏡から下半身を抜き出し、床に立つ。

 その際「よいしょ」などと漏らすところが何となく可愛らしい。


「申し遅れましたが、私、女神のベルダンディーと申します」





 場面変わって・・・・・・

 ベルダンディーと名乗った女性が電気炬燵の前に正座する。

 つられて正座するアキト。


「私たちはあなたのようにお困りの方を救済するのが目的で」


 と言いながら名刺を差し出す。


「その要求が電話という形を取って届いたのです」

「・・・・・・救済って何を?」


 名刺?女神が名刺 ? ! と考えながら尋ねるアキト。

 まぁ、普通は例え女神としても神様が名刺なんか持っているとは思わんはなぁ。


「あなたの願い事を叶えます。

 ただし、一つだけに限りますけど」

「それって・・・・・・・・・何でもいいんですか ! ! ?」

「もちろんどんなことでも。

 あなたが大金持ちになりたいというならならして差し上げますし、

 またあなたが世界の破滅を願うなら、それも可能です。

 もっとも、それを望むような人の所には参りませんが。

 なんなりとお申し付け下さい」

「(じゃあ、彼女達からの完璧な逃走も・・・・・・?)」

「はい。

 ですが、何故あなたが彼女達から逃げ出したがっているのか解りません。

 だって、あなたは彼女達を愛しているのでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・(何で解るんだ?)」

「私は人の思考が読めるんです」


 アキトは驚いた。

 そらもー驚いた。

 だがそこはアキト。

 世界中の人間じゃないだろ、お前ってヤツを何人か知っているし、自分自身もその一人なのだから。

 だから、すぐにあんぐりと開けた口を閉じた。


「・・・・・・・・・・・・。

 確かに俺は彼女達を愛しているよ。

 だけどね・・・・・・・・・なんて言うのかな。

 彼女達一人一人がすんごい焼き餅焼きだろ?

 ・・・って、知らないか。

 まぁ、それで・・・・・・

 一緒にいるのが・・・・・・・・・疲れるんだ。

 こういう風に、逃げ出したくなるくらいね」

「・・・・・・・・・・・・。

 そうなんですか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 (あっ、そうか。

 何でも願い事叶えて貰えるんだから・・・・・・・・・)

 ・・・願い事、決めたよ。

 俺が決心を決めるまで、彼女達が俺に不可侵でいること」


 アキトがそう言った次の瞬間・・・・・・・・・


 ぶうううん

 ぶううん

 ぶうううん


 と音がして、ベルダンディーの体が空中に浮き、目が虚ろになり、額の紋章が輝き始める。

 そして、


 カッ


 光が爆発した。


 バキーーン


 ベルダンディーの額に発生した光は遥かな天空へ向け、飛び去った。

 その途端、部屋の中を家具が乱舞する。

 ところで,ここは屋内。

 つまりは天井という物があるわけで・・・・・・

 天井に穴が空いた。


「はうあーっ」


 ガビーーンッ


 アキトは、家具よりも、天井に穴が空いた方が気になったようだ。

 そして、数秒経って・・・・・・

 ベルダンディーの額から発せられていた光の奔流が止まった。


 ぱら・・・


 天井から、破片が落ちてくる。


 がくん


 ベルダンディーの体が落ちた。


「わあっ」


 その体を抱き留める。


(うわっ、凄い軽い・・・・・・

 ラピスと同じぐらいか・・・・・・?)


 イヤ、さすがにそれはないだろ


「う・・・」


 ベルダンディーが目を覚ました。


「あ、あの、い、こ、こっ、これは、そ、そその・・・・・・」

「!!」


 アキトが必死になって弁解(?)しているのに気も止めず、って言うか気付かず、


「大変っ!」

「え?」

「この電話お借りします!」

「はあ、どうぞ・・・・・・」


 ぴ、ぽ、ぱ


 コミカルな音と共に、ベルダンディーの白魚のように細く美しい指が、キーの上を滑る。


(どこに電話してんだ?)

「もしもし、ベルダンディーですが。

 ・・・・・・・・・・・・

 はい。

 いえ、先程のは・・・・・・(あせっ)

 え?

 でも、何でそんな風に ! ?

 ・・・・・・・・・・・・

 そんなっ、神様っ!」 


 そんな彼女を、アキトは「はは・・・・・・どうなってんだろ、この電話・・・・・・」とか言いながら呆然と見ているしかなかった。


 がちゃ


「もう・・・・・・」

「どうかしたの?」

「先程の願いは受理されました。

 それはいいんですが・・・・・・・・・」

「『それはいいんですが・・・・・・・・・』・・・・・・なに?」

「私がここにいないといけない・・・と・・・・・・」

「成る程成る程。

 君がここにいないといけな・・・・・・い・・・・・・と・・・・・・・・・?
 
 何ですとぉーーっっ!!!?
 
 そ、そんな!

 どうにかならないの!?」

「はあ・・・・・・それは無理です。

 いったん受理された願い事の強制力は絶大で・・・・・・

 神様が、『彼女達が不可侵でいることはなぜかできないから、私があなたと一緒にいて、どうにかしろ』と・・・・・・」

 
 嗚呼、遂にその力は神にも及ぶのか・・・・・・!!!
 
 恐るべきは「彼女達」、か・・・・・・


「かっ、帰る手立ては無いのかっ!?」

「残念ながら・・・・・・」

「じ・・・・・・じゃあ・・・・・・」

「はい、そういうことで、私はずっとここにいます。

 あなたが彼女達の元へ戻る決心を固める時まで」

「いや、実は・・・・・・

 この猫見工大の寮は男子寮で、女人禁制なんだよ。

 だからここに君がいるのがばれると退寮、って事に・・・・・・」

「あら、大丈夫ですよ」

「何でですか?」
      ・       ・
「私は女人ではなく女神なのですから」


 いや、そういう問題じゃなくってさ・・・


 それにしても・・・・・・ベルダンディーって結構ボケキャラ?




 その頃、廊下に人影が・・・・・・

 普段ならそれに気付くアキトだが、今はそれどころではなかった。





「つまり、一時的にでいいから、ここから出て欲しいんだ・・・」

「まあ、そうでしたの。

 でも残念ながらあなたにも願い事の強制力は働いているのです」
 
「えっ!?」 

「そのような事を口になさるとあなたに迷惑が」
 
「い、一体どんな !?」 


 アキトの足がつるっと滑った。

 そうとう動揺しているようだ。

 そして、アキトは必然と言うもので・・・・・・
 
 ベルダンディーに覆い被さった。
 
 ベルダンディーの体の柔らかさと、鼻のような甘い体臭がアキトの理性を打ち崩そうとする。


「(ああ・・・・・・父さん、母さん、桂馬さん、鷹乃さん。

 理性は大切です)」 


 そんなことを想う(思うではない。「想う」なのだ!)アキトを後目に、事態は進行していく。

 具体的に言うと、お約束と、必然という2つがミックスされて・・・・・・


「おおっ森里っ!

 ちゃんと留守番してたか!?」


 先輩達が帰宅。 

 そして・・・・・・・・・

 時が止まった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・


「あら、もう働いてしまったみたい」


 その彼女の言葉が全てを揺り動かした。


 パチン


 ゴートもどき(青山)が指を鳴らした。


「おお」

「あんだ」


 それに答える人たち。


「森里、分かっているな?」

「あ・・・あ・・・・・・あ・・・・・・・・・」

「寮則に背いた者は!?」
 
「退寮ーーーっっ!!」 by 先輩達全員
 
 
       そいや           そいや         そいや
          そいや          そいや         そいや
 そいや            そいや      そいや
       そいや                      そいや
 

「わあっ」


 荷物(大半はがらくたにしか見えない)と共に、担ぎ上げられ、運ばれるアキト、ベルダンディー。

 
「行き先が決まったら後で荷物は送ってやる」
 

 バタン


 乱暴にドアが閉められた。




 こうして森里 明人は不憫にも寮を追い出されたのだ。

 息を付く暇もなく・・・・・・・・・


「これが強制力なんです。

 あなたと引き離されそうになると働くんです」

「そうかー。

 だけど、今回はダメだね。

 俺のBMWのサイドカーが壊れてて・・・・・・

 あれ?」


 壊れていたはずのサイドカーは、確かに直っていた。


「直ってる」

「おお森里っ。

 サイドカー直しといたぞ」

「そりゃどうも・・・・・・・・・」

(くそー、余計なことを・・・・・・

 後で滅殺するか?)


 考えが危ないぞ、おまい。


「ちぇっ、しょうがないな。

 サイドに乗って」




 
 ドドドドドドド・・・・・・
 

 バイクの音が響く夜の商店街。

 サイドに女神様を乗せ、アキトは走っていた。


(まっ、いいか)


 いいのか、オイ


 彼らが何処へ行くのか・・・・・・

 それは誰にも分からない。



 今にして思えば、これも強制力の一つだったのかも知れない・・・・・・ byアキト
 




 本星への報告書 A−1

 やっと第1話完成です。

 いま、新しいシリーズ(ナデシコ)書いてるんで、完成が遅れました。

 ああ・・・・・・他のシリーズもさっさと続き書かなきゃ・・・・・・・・・

 ま、とりあえずここいらで。
本星への報告書 A−1 終




 Chapt.0で書いたとおり、こちらも若干の修正をしました。

 できれば、修正した個所は探さないでください。

 ・・・・・・探す方も探す方だとは思いますが。


 それからChapt.2ですが、多分来月中には。

 ・・・・・・あのアニメマニアをあのまま出すか、それとも変えるか、悩んでるんです。

 ウリPと繋がりを持たせるのも面白いとは思うけど、そこから情報が漏れる可能性を考慮すると、迷ってしまうし・・・・・・



 とりあえず、確約は出来ませんが、Chapt.2は3月中に。



 それでは。