Act.0  訪れ
 
 何人かの5歳ほどの少女が、炎上する研究所を見ていた。

 その研究所はヘブンズコロニーの郊外にある。

 そこで何人もの科学者や警備員達がその炎に呑み込まれ、その原因となった爆発によって、テロリストの凶弾によって、命を落とした。

 だが、少女達は何も思いはしなかった。

 テロリストの正体は、今のところ分かってはいない。

 ただ確実なのは、明らかにこの連続テロはネルガルを狙ったものだと言うことだけだ。

 ヘブンズコロニー駐留軍の施設や、行政区、明日香インダストリー、クリムゾングループなどの施設も被害を受けている。

 しかし、ネルガルの被害に比べれば、圧倒的に少なかった。

 この研究所もまた、ネルガルのもの。

 その地下深くでは、プロジェクトMCが押し進められていた。

 彼女達はその被験者。 いや、被害者と言うべきか。

 No.0021と、No.0082。

 それが、彼女達の中の2人に付けられた『名』だった。

 No.0021とNo.0082は研究所に背を向け、走った。

 どこに向かっているのかは、自分達自身も分からない。

 ただ、ここから一刻も早く逃げ出したかった。

 自分と同じ、プロジェクトMCの被害者達数人も、一緒だった。

 ただひたすら、走った。





 ネルガルの、プロジェクトMCの研究が進められていた研究所がテロにあった翌日の昼下がりのことだった。

 ヘブンズコロニーの一角に、明日オープンする予定の喫茶店があった。

 その店の主は星川 和久(ホシカワカズヒサ)、穂波(ホナミ)、という。

 店の名前は『ミルキーウェイ』。

 そして今、開店するための最後の確認をしているところだった。

 数日前までテナントが入っていなかった、半地下の貸店舗を宛ってもらっていた。

 窓際には、背を外に向けたソファーを固定した机と、横向きにソファーを固定、又は普通の椅子を置いた机。

 その他の机は、基本的に椅子だが、一部はソファー。

 カウンターは、少し高めで、椅子の方も固定式の、高めのもの。


「・・・・・・よし、葉はちゃんとあるわね」


 ホナミが呟いた。

 紅茶の葉を確認していたのだ。


「コーヒー豆もちゃんとあるよ」

「そう」


 カズヒサの声に、明るい声で応じる。


「あとは・・・・・・」

「看板だけだね、ミ・・・ホナミ」


 夫の言葉に、苦笑しながらホナミは頷いた。


「そうね。

 ・・・・・・あら?」

「どうした、ホナミ」

「ほら、あそこ見て、カズト・・・ヒサさん」


 ホナミが指さす先には、2人の手術着のようなものを着た少女がいた。










「ふう・・・・・・やっと着いたのかい?」


 尊大な声が、たった今着陸した地球ー火星間を結ぶシャトルの一室に響く。

 その部屋はスイートの個室。

 ミスマル家+オニキリマル家が火星を離れたときの個室と同程度の格の部屋だ。

 尊大な声の持ち主は蔵人 醍醐(クラヒト ダイゴ)。

 後に『嫌われ者 オブ ザワールド(世界最強の嫌われ者)』の称号を手に入れる男だ。

 生粋の日本人の筈なのだが、何故か金髪。

 まあ、18歳なのだから染めていてもおかしくはないのだが。

 だが、貼り付いたかのような、締まりのないニヤニヤ笑いのお陰で、ただの馬鹿にしか見えない。

 いや、実際馬鹿なのだが。

 もう、なんてーの?

 自分に都合のいいことしか聞こえないし、全てをそう言う風に聞こえさせる耳(周りの時空間が歪んでいるとの説もあり。故に『ディストーション・イヤー』との別名も)を持ち、そう曲解する脳みそ(俗称『ディストーション・ブレイン』)を持っている。

 そして馬鹿以外形容する言葉見つからない。 

 ここまで来ると、馬鹿も天然記念物級である。

 そして、その馬鹿はシャトルを降りて火星はユートピアコロニーの地を踏んだ。

 この馬鹿は地球でもそこそこの会社の社長令息で、本来は『跡継ぎのために勉強をさせられる』筈なのだが、「僕に相応しい女性を捜す旅に出る」とか言って、勉強から逃げ出した。

 で、最初に行くところをクジで決めたところ、火星のユートピアコロニーとなった。


「さあ、それでは僕に相応しい女性を探しに行くか」


 ・・・・・・・・・。

 どうやら勉強から逃げ出す口実ではなく、本気だったようだ。

 どちらにしろタチが悪い。








機動戦艦ナデシコif
AnotherNADESICO
第4話「訪問」








 
Act.1 翡翠と紅玉 

 呼気が、夜闇の中に響く。


「はっはっはっは・・・・・・」

「はっはっはっは・・・・・・」

「はっはっはっは・・・・・・」

「はっはっはっは・・・・・・」


 被検体ナンバー、0021と0082はひたすら走っていた。

 一緒に走っていた仲間は、気が付いたらいなくなっていた。

 捕まって研究所に連れ戻されたのかもしれない。

 研究所を爆破したヤツらが連れ去ったのかもしれない。

 ただ単にはぐれただけなのかもしれない。

 だが、2人にはどちらでも良かった。

 みんなが逃げられなかったとしたら悲しいが、今はそんな場合ではないのだから。

 とにかく、今は逃げることだけを考えなければならない。


「あうっ」


 No.0082が転んだ。

 その衝撃で、真っ赤な髪の毛が、土で汚れる。


「0082!」


 No.0021が声を張り上げる。


「大、丈夫・・・・・・」


 No.0082は起き上がり、立ち止まったNo.0021の元に駆け寄る。


「・・・早く、行くわよ」

「分かってる」


 そして2人は、再び走り始めた。





 夜が明けてきた。

 2人は一晩中走り続け、ヘブンズコロニーの一住宅街に入り込んでいた。


「はあ、はあ、はあ・・・・・・」

「ここまで、来れば、はぁ、はぁ・・・、大じょ、うぶよ、ね・・・・・・」

「はあ、はあ、はあ・・・多分、ね・・・・・・」


 No.0021は中腰になって、No.0082は座り込んで、肩で息をする。

 汗でNo.0021の顔には、翠色の髪が張り付いている。

 No.0082も同様に、紅い髪が頬に張り付いている。


「ねえ、あなた達」


 いきなり後ろから声を掛けられ、2人は反射的に振り向いた。


「一体どうしたの、そんな格好で」


 2人の着ている物は、手術着のような白い服。

 今まで擦れ違った人々に問い掛けられなかった方が不思議だ。

 2人に問い掛けたのは、30代前半〜中盤ほどの、僅かに白髪の交じった、黒髪の女性。

 その女性の後ろには、茶系の髪の男性がいた。


「!! ホナミ、この子達・・・」

「え? カズヒサさん、知ってるの?」

「いや、この子達本人のことは知らないが、この子達のことは知っている。

 ネルガルの、プロジェクトMCの被験者、いや、被害者」


 カズヒサという男性がそう判断したのは、彼女達の金色の瞳。

 そして、少女達は抱き合って、身を固くした。


「ホナミ、二人ぐらい同居人が増えても大丈夫だよね?」

「ええ、心配ないわ。

 ・・・2人とも、うちにいらっしゃい。

 安心して、私たちも貴女達と同じ、ネルガルの被害者だから・・・・・・」


 No.0021、0082は、ホナミの優しい目に釘付けになった。


「大丈夫、恐くないから・・・・・・」


 手を差しのべる。

 No.0021が、手を震えさせながらも、その手を掴もうと伸ばした。





 そして手は・・・・・・



 ーーー 握られた。





「さてと、それじゃお役所にはなんて届けようか、ホナミ」

「そうねえ・・・・・・・・・無難なところで、翡翠と紅玉で良いんじゃない?両親は、亡くなったみたいだ、ってコトで。

 貴女達は・・・・・・どう?」

「・・・・・・ひすい? こうぎょく?」

「・・・・・・・・・?」


 2人の妖精は、それが何を意味するのか分からなかった。


「貴女達の名前」

「・・・私たちの名前?

 私は・・・・・・No.0021」

「私はNo.0082」


 2人の言葉に、ホナミは悲しそうに首を振った。


「そんなもの、名前じゃないわ。 ただの記号よ。

 翡翠と紅玉は、貴女達だけの名前。

 貴女達の、新しい名前」

「どうかな? 翡翠、紅玉・・・・・・」


 カズヒサがそう言いながら、妖精達の頭を撫でる。


「私・・・・・・翡翠」

「紅玉」


 No.0021と0082・・・・・・いや、翡翠と紅玉は、嬉しそうにその名を呟いた。



 この瞬間、2人の新しい生活が始まった。









 
Act.2 新生活 

「どうして俺がここに」


 そんな思いが、難波 十三(ナンバジュウゾウ)の頭と心を満たしていた。


「・・・というワケだ。

 みんなー、仲良くするンだぞー!」


 ルーファス=岸根という体育教師の声が、空々しく頭の中に響く。


「ほら、なんば、自己紹介をするんだ」

「・・・・・・ナンバ ジュウゾウだ」

「・・・・・・それだけか? なんばー」

「・・・・・・それ以外に何を?」

「ほら、例えば趣味とか、好きなものとか、嫌いなものとかだなー・・・・・・」


 ほう、と軽く溜息を付いて。


「趣味はコンピュータ、好きなものも同じ。 嫌いなものは・・・・・・」


 ジュウゾウの頭の中に、ある女性が思い浮かんだ。

 自分より5歳年上の、底意地の悪い美少女の顔が。

 その顔は、ニヤニヤと笑っていた。


「特にない」


 だが、ジュウゾウは彼女の名を言わなかった。

 こういう場で言うものではないし、第一彼女の本名を知らなかったからだ。


「よーし、それじゃあみんなー、何かなんばに聞きたいことはあるかー?」


 ルーファスの言葉に、多数の生徒が手を挙げた。


「じゃあ順番に、あんどー」

「はい!

 趣味がコンピュータって言ってたけど、それで何するの!?」


 意味無くうんうんと頷くルーファス。


「・・・・・・言えるような内容では」


 ジュウゾウがそう答えた途端、教室が沸いた。


「言えるような内容じゃないって、じゃあ何っ!?」

「きっとハッキングだ!」

「クラッキングかもしれないぞ!」

「どう違うんだ?」

「知らねーけど違うんだ!」

「違うよ、きっとネットで18禁サイトを・・・」

「キャーーッ、イヤらしーー!」


 ・・・・・・等々、様々な憶測が飛び交う。

 人生経験は下手な人間の一生よりも多く積んでいるが、こういう場の経験は全く持たないジュウゾウは、呆然と眺めているしかできなかった。





 難波 零(ナンバレイ)によれば、ジュウゾウが帰宅したときの顔は、今まで見たことがないほど憔悴していたという。


「あら、どうしたの? そんな疲れた顔して」

「イケシャアシャアと・・・・・・」


 そう言って、ジュウゾウは前のめりに倒れ込んだ。

 レイはジュウゾウを受け止め、呟いた。


「あらあら、ここまでなるとはね・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ジュウゾウが目覚めると、目の前にはいけ好かない美少女の顔があった。


「・・・・・・・・・お前、一体何をしている」

「あなたの寝顔を見てたのよ。

 可愛かったわよ♪」

「・・・・・・・・・・・・(汗)」

 自分が人に寝顔を見られるような隙を見せるとは・・・・・・・・・!

 恐るべし、学校!

 なんという疲労感をもたらすのだ!

 そんな何か間違った学校への感想を持つ。


「で、どうだった? 学校」

「・・・・・・何故俺をあんな所に入れた。

 暫く俺に任務は回ってこないはずだろ」


 学校への潜入任務だと思ったための言葉である。


「任務じゃないわよ。

 ただ、あなたは学校に行く年齢だからね♪

 だって、あなたは12歳よ?

 それなのにあんな血生臭い世界にどっぷりと浸かり込んじゃって・・・・・・

 束の間でも、普通の12歳の生活を味合わせてあげようって言う、このお姉さんの気持ちが分からないの?」

「・・・・・・お姉さんの気持ちだと?

 ただ単に、俺が学校でどうするのか面白おかしく見るだけだろう」

「あら? 分かった?」


 そう言ってレイはクスクスと笑った。

 ジュウゾウは溜息を付いた。

 これが、ジュウゾウがレイのことを好かない理由である。

 何をやっても勝てそうもなく、実際にほとんどの物事に対して、勝てない。

 そして、何時も彼女の掌の上で踊らされているような気がする。

 今回の学校のこともそうだった。

 『難波』という、なんの捻りもない偽名で借りている、クリムゾングループの“ナンバーズ”のセーフハウス。

 早1週間前となる飛行機テロ事件の後、このセーフハウスに帰投した。

 暫くの間休暇をくれるそうなので、日がな趣味のハッキングでもして過ごそうと思って、実際昨夜までそうしていた。

 しかし、昨夜唐突にレイにもう寝ろと言われ、(麻酔(銃)で)眠らされた。

 目が覚めると、鞄と地図と、それからトーストを渡された。

 そして一言。

 
「いってらっしゃ〜い」 


 地図の場所へ行けと言うことだろうと解釈し、トーストを食べながらそこへ向かった。

 地図に書き込まれた時刻(おそらく、その時刻までに行けという意味だったのだろう)より少し前に行くと、そこは学校だった。

 そして、Act.2の冒頭部のようになったのである。



 この暫くの間の学校生活が、彼に何をもたらすのか。

 それは誰にも分からなかった。















オリキャラ設定(その4)


星川 和久(ホシカワ カズヒサ)♂
 ○多分、正体もろバレ。

 ○喫茶店『ミルキーウェイ』の店主。

 ○後述のホナミの夫。



星川 穂波(ホシカワ ホナミ)♀
 ○やはり正体はもろバレだろう。

 ○喫茶店『ミルキーウェイ』の、料理諸々担当。

 ○前述のカズヒサの妻。



翡翠(ヒスイ)♀
 ○ネルガルの『プロジェクトMC』によって生み出された最初期型マシンチャイルド。

 ○No.0021という認識番号だったが、ホナミにこの名をもらう。

  本人も、この名を気に入っている。

 ○容姿は・・・・・・5歳児(事実)には関係ありませんね。ほとんど。

  髪は翠(みどり)色で、ポニーテール。長さは背中の中程まで。

 ○金色の瞳は、カラーコンタクトで、蒼色に。



紅玉(コウギョク)♀
 ○ネルガルの『プロジェクトMC』によって生み出された最初期型マシンチャイルド。

 ○No.0082という認識番号だったが、ホナミにこの名をもらう。

  本人も、この名を気に入っている。

 ○彼女も容姿はほとんど関係ありませんが・・・・・・ヒスイより数ヶ月遅く生まれ、まだ4歳。

  そのためかどうなのか、身長はヒスイよりも低い。

  髪は紅く、ロングヘアー。ただし、夫妻に引き取られた時に切ってもらい、ショートに。

 ○彼女もカラーコンタクト(茶)で金色の瞳を誤魔化している。



難波 十三(ナンバ ジュウゾウ)♂
 ○正体は言わずもがな。 当然本名に非ず。

 ○容姿は『薬師(ヤクシ)』の瑠璃広 吾妻(ルリコウアズマ(知ってる人、いるのか?))の髪を短くした感じ。

  ただ、目つきは悪い。



難波 零(ナンバ レイ)♀
 ○彼女の正体も例によって例の如く。

 ○偽造した戸籍の上では、ジュウゾウの従姉になっている。

 ○容姿は『電脳戦隊 ヴギィ’ズエンジェル』のヴギィ。 ・・・・・・これも知っている人は果たしてどれくらいいるのだろうか?

  しかし、性格は全然違う。

  まず、策士。でもって、面白ければなんでも良い。 ・・・・・・タチ悪いな。

  髪も赤毛ではなく、茶金。

 








後書き
 まずは最初に、別人28号さんの許可の元、「蔵人醍醐」は出演しております。


 どうでしたか? 第4話。

 最初に出てきただけでしたが、醍醐は第5話でしっかりと出てきます。

 それはもう、ある意味主役。(影の主役、ってヤツか?)


 アキトたちも出てきていませんが、彼らもやはり次回出てきますので、ご安心下さい。



 それではこの辺で。

 

 

代理人の感想

・・・あ、「ナンバー」か。

てっきり最初は「浪速○三」のもじりかと(爆)。