「はい、テンカワさん。

 ここが食堂ですよ」

「ここっスか。

 うわー、広いんすねー」

 ・・・・・・アキトは、プロスにナデシコに案内してもらった。

 そして今、ナデシコ食堂にいる。

「ホウメイさん、いらっしゃいませんか?」

 プロスがナデシコのコックである、劉・ホウメイを呼ぶ。

「あいよ、何の用だい、プロスさん」

 ホウメイが、手を布巾で拭きながら調理場から出てきた。

「こちら、今度この食堂で調理補助として働くことになりました、テンカワアキトさんです」

 プロスがホウメイにアキトを紹介する。

「どうも、テンカワです。

 よろしくお願いします」

 アキトが頭を下げる。

「なっ!?

 テンカワ!?」

 ・・・・・・ホウメイが非常に驚いた顔をした。



機動戦艦ナデシコif
THE AVENGER

第8話
 見知らぬ弟子、見知らぬ幼馴染み





 その声に一番驚いたのは、他ならぬアキトだった。

「お、オレを知っているんですか!?」

「な、なんだい?」

 今にも掴みかからんばかりのアキトに気圧され、ホウメイが一歩下がる。

「ホウメイさん、彼は記憶喪失なんです。

 ナデシコに乗ることになった理由も、自分の幼い頃の写真を持っていた艦長を追ってきたことから始まっているのですよ」

「そうなのかい・・・・・・・・・

 それじゃあ・・・・・・私が知っている限りを教えるよ。

 ・・・・・・私が会ったのは、火星だよ。

 あの頃の私は自分の味を求めてね、いろいろな店を回っていたんだよ。

 それである雪の降っていた夜、行列の出来た屋台を見つけてね。

 私も並んで待っていたんだ。

 やっと私の番になって、醤油ラーメンを頼んだよ。

 体が冷えていたのもあったんだろうけどね・・・・・・

 とても美味しかったよ。

 いい具合にちぢれた麺に、鶏ガラのスープが絡んでいて。

 スープに浮かんだ油も多すぎず、少なすぎず・・・・・・

 チャーシューは、しっかりと煮込んであって・・・・・・口の中でとろけたよ。

 私がその時の最後の客でね、食べ終わった後、膝をついて弟子入りを頼んだもんさ」

「弟子・・・・・・入り、を・・・・・・・・・」

 アキトにはホウメイの言葉が信じられなかった。

 自分が弟子をとる様なほどの、例えラーメン専門だったとしても・・・・・・料理人だったと言うことが。

「そうさ。

 土下座をして頼んだとき、一緒にいた“イツキ”って女の子と、困った顔をしてね・・・・・・。

 私の作るラーメンの下地は、テンカワ・・・・・・師匠の味なんだよ」

「俺の・・・・・・ラーメン・・・・・・・・・」

 アキトは茫然とする。

 そこに、

「ホウメイさん、誰と話ししているんですか?」

 調理場から、五人の少女達が出てきた。

 その中の、リーダー格と思われるポニーテールの少女がホウメイに声を掛ける。

「ああ、お前達かい。

 前に話したことがあっただろ?私の師匠の話を。

 その師匠が来たんだよ。

 ・・・・・・残念なことに、記憶喪失になってるんだけどね・・・・・・・・・」

「どうも、テンカワ アキトです」

 アキトが五人の少女達に、頭を下げる。

「今日から調理補助として働くことになりました。

 よろしくお願いします」

 アキトを見て、自己紹介を聞いて、リーダー格の少女がはっと、息を呑んだ。

 そして一言。

「アキト・・・・・・さ、ん・・・・・・?」

「え?・・・・・・君も俺を知っているの?」

「・・・・・・記憶喪失ではしょうがありませんよね・・・・・・・・・。

 私はテラサキ サユリ。

 アキトさんと、小・中学校が一緒だったんですよ。

 何回もクラスメートに、隣の席になったり・・・・・・

 ・・・・・・・・・でも、3年前の3月に、いきなりイツキさんと行方不明になって・・・・・・。

 一体どうしたんだって、結構話題になったりしたんです。

 結局・・・・・・ずーっと、行方が分からないままで・・・・・・・・・。

 ・・・だけど、記憶喪失だとしても、また・・・・・・会えたのね・・・・・・・・・」

 アキトは混乱していた。

 やっと見つけたと思った手掛かりから、思わぬ事まで分かった。

「・・・・・・だけど・・・・・・イツキさんは一緒じゃないんですね・・・・・・・・・」

 そして、イツキ。

 その名前を聞くと、様々な感情が沸き上がってくる。

 心の奥底から。

 ふと、その思いと共に、おそらく人の名前であろう・・・・・・単語が浮かんできた。

 ーーーホクシン・・・・・・ヤマサキ・・・・・・ーーー

 その名前が何なのか、アキトには分からなかった。

「え・・・と、サユリ、さん?」

「サユリ、でいいわよ。

 ・・・記憶を失う前は“サユリちゃん”だったしね」

 小さく笑いながらサユリが言った。

 四人の少女、ホウメイ、プロスペクターはそれを興味深そうに見ていた。

「そう。それじゃ、サユリちゃん。

 その・・・“イツキ”っていうのは、誰なんだい」

「イツキさんは・・・・・・アキトさんの、恋人です。

 私、アキトさん、イツキさんは同じ孤児院で育ったんです。

 アキトさんは、生活費を稼ぐためにラーメンの屋台を引いていて、毎日のようにイツキさんが手伝いに行っていたんです。

 私も時々手伝いに行きました。

 ・・・・・・ホウメイさんと会ったことはありませんでしたけど」



 その後も、いろいろと暗めの会話が続いた。

 そして、突如
 
「あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁ!!
 
 暗い暗い暗い、くらぁぁぁいぃぃっっ!!
 
 その話し、もうやめ!やめぇ!!」
 
「は、ハルミが壊れた・・・・・・!」
 
「しっ、ミカコ、聞こえるわよっ」
 
「・・・・・・ミカコ、ジュンコ、しっかり聞こえてるんだけど・・・・・・・・・」

「「ひっ、ヒィィッ」」

「ま、良いけど。

 でも・・・・・・私、暗い話嫌いだから。

 でも、行方不明になったテンカワさんが戻ってきたんだから、そのイツキさんって人もきっと生きてるよ。

 だから、イツキさんを見つけてからでも遅くはないでしょ、テンカワさんの記憶探しは」



 ハルミのその言葉で、食堂の暗い空気は霧散した。



 そして、それぞれが自己紹介をし、アキトはナデシコの案内の続きを、プロスにして貰った。

 次に向かうのは格納庫だ。





 本星への報告書TA−8

 どうも、E.Tです。

 第8話、遅くなりました。

 待ってくれてる人が居てくれたら嬉しいです。

 それにしてもホントに1話が短い。

 全然話が進まないもんな〜〜


 さぁ、第9話に取りかかるぞ!



追伸
 「ナデひな一発劇場」の最新話は、現在執筆中です。

 ちょっとした事情により、かなり時間が掛かっておりますが、11月中には投稿できると思います(って言うか、早くしろ、オレ!)。
本星への報告書TA−8 終