ナデシコ就航から2度目の、そしてナデシコ自身にとっては初めての戦いが、始まった。





 戦端は、ナデシコのグラビティブラストが開いた。

 黒い閃光が、黄色の軍勢を薙ぎ散らす。

 最も後方にいた二機のバッタが傷だらけになりながらも生き残る。

 だが、すぐにナデシコの上に立つ、空戦フレームのエステバリスの射撃で墜ちる。

 パイロットはアキト。

 昨日が初戦闘だったにも関わらず、殲滅してのけた男。

 今は、暴走はしていない。

 しかし、射撃は正確無比だった。



 そして、ナデシコから数十のミサイル、レールガンが放たれた。

 チューリップのフィールドにレールガンが当たり、擬似的な位相空間に干渉を与える。

 粒子兵器、光学兵器に対しては強力な防御力を有するこの疑似位相空間による防御フィールドは、実弾兵器には弱い。

 その証明として、目に見えて確認できる、ラグビーボールのような形をしたフィールドが、どんどん後退していく。

 フィールドに衝突したミサイルが爆発し、更にフィールドに負荷をかける。


「グラビティブラスト、発射!」

 ナデシコ艦長、ミスマル ユリカの命令を、オペレーターのホシノルリが復唱する。

「グラビティブラスト、発射」

 ナデシコの、移動式でないという主砲から放たれた黒い閃光が、駄目押しの一撃となる。

 その凄まじい、重力子が荒れ狂う空間が、チューリップの張るディストーションフィールドに直撃する。

 その近辺にあるミサイルも巻き込み、凄まじい爆発が巻き起こった。

 フィールドは消滅し、100%の威力で放たれたグラビティブラストのほとんどのエネルギーと、再び放たれたミサイル、レールガン群により、チューリップ自身もまた消滅した。


 
機動戦艦ナデシコif
THE AVENGER


第十話
 艦内制圧戦(発動)




「・・・・・・なんて、こと・・・・・・・・・」

 ブリッジで、ムネタケが言葉を漏らした。

 だが、その呟きは小さく、誰も聞いている者はいなかった。

「・・・仕様書通りのスペックですね」

 ユリカが、落ち着いた風に言った。

 ・・・・・・こういう時は、立派な艦長である。

「ですが、艦長。

 もう少し経済的な戦いは出来ないのでしょうか?

 今のだけでも、随分とたくさんのミサイルと、レールガンを使用していましたが」

 そして一瞬前まで存在しなかった、手の中の算盤で掛かった経費を計算するプロス。

「出来ますよ。でも私は、アキトとお金だったら、アキトの安全を取ります。

 それに、何処に行くのかはまだ私も知りませんが、比較的補給の簡単な日本近辺で慣熟させておきたいですから。

 補給の難しい地域でいざ戦闘になって、スペック通りの性能が出なかったり、グラビティブラストを発射したときにナデシコ自身もダメージを受けたらシャレにならないですし」

 今までのユリカからは想像も出来ない、艦長としての姿に、しばし呆気にとられる。

「・・・・・・成る程。 確かに艦長の仰るとおりですね。

 ですが、慣熟航行もしますよ。

 今が、その真っ最中ですから」

「あ、なぁ〜んだ、ネルガル本社からの命令を待ってブラブラしてるんじゃなくて、慣熟航行中だったんですかぁ〜。

 ユリカぜ〜んぜん分かりませんでした」

 ユリカのボケボケの声言葉に、再び呆気にとられる。

 珍しく、プロスの後頭部に巨大な汗が。

「な〜んだかね」

「・・・ですね」

「・・・バカ」

「うむ」

 順に、ミナト、メグミ、ゴートである。

 ジュンはユリカに、

「ユリカ、本当に気付かなかったのかい!?」

 と言い、

「うん、本当に気付かなかったよ♪」

 というボケた言葉とユリカスマイル(脳天気なあの笑顔。ジュンに対して効果特大。アキトに対しても効果はなかなか高い)。

 その笑顔に、ジュンは顔を真っ赤にさせて二の句が継げなくなる。

 存在感がジュンと同等、もしくはそれ以下とも言われるフクベ・ジン提督が、お茶を啜った。



 今日もナデシコは平和そのものだ!





 ムネタケが自室で本を読んでいたときだった。

 ピーーッ ピーーッ

「あら? 誰かしら」

 何者かから連絡が入った。

 音声、映像を呼び出すと、そこには地球連合軍極東方面軍司令のバストアップが映っていた。

『ムネタケ中佐。指令を伝える。

 連合軍は、ナデシコの徴発を決定した。

 もし、ネルガルがそれを拒むなら・・・・・・

 時期を見計らって、ナデシコを奪取せよ』

「なんですって!?

 正気なのですか、司令!!」

『これは命令だ。 異議は認めない。

 こういう時のために、軍は何人もの人間をナデシコに送り込んでいるのだ。

 ・・・・・・分かったな』

 それだけ言うと、司令は通信を切った。

.「何を・・・・・・考えているのよ、総司令は・・・・・・・・・」

 ムネタケの呟きを聞いている者は、誰もいなかった。

 ムネタケは、悩みながらも、それを見せずに部下に連絡を取る。

 命令の内容は、無論、

「ナデシコ制圧の準備をせよ」





 そして・・・・・・この30分後、ナデシコ制圧が始まった。





 本星への報告書 TA−10

 えー、いきなりですが、この『THEAVENGER』のムネタケは、禁断の『カッコいいムネタケ』です。

 彼の素晴らしい行動に、感激してやってください。

 具体的な行動の内容は、次回以降をお楽しみに、と言うことで。
本星への報告書 TA−10 終

 

 

代理人の感想

禁断のって・・・・今更新味もないんですが(爆)。

有能ムネタケはゴールドアームさん以来さほど珍しくもありませんから・・・

その上でやりたいというなら緑麗さんのようにひとひねりを加えるのがベターでしょうね。

 

>レールガン

ん? ナデシコにレールガンなんて装備されてましたっけ?

それとも歴史が変わってるのかな?