「・・・・・・そう、それでヤツらは死んだのね」

 ムネタケの確認の言葉に、報告していた少尉が頷いた。

「はい、その通りです。

 タケシマ曹長、ワヤ軍曹の死因はどちらかは分かりませんが、重要なのはアンドウ伍長の方です」

「ま、それはそうよね。

 ・・・・・・でも、だからって彼を拘束したりすることは許さないわ。

 『我が祖国の繁栄に繋がる研究の実験台になるのだ。喜べ』なんて、旧時代の軍国国家みたいなことは言うんじゃないわよ」

 と釘を刺してから、話を続けた。

「はっきり言って、私はその報告を頭から信じることは出来ないわ。

 ・・・それだからといって、否定することもない。

 私は、そんな例をいくつか知っているから」

 その言葉に、驚きを隠せない部下達。

「驚くのも無理はないわ。

 この事は、政府や軍、それからネルガルのかなり上とパイプがなければ知り得ないことだから。

 ・・・・・・IFSだけどね、まだ完成していなかった頃、政府、軍、ネルガルが秘密裏に協定を結んでいたの。

 協定の内容は、殺すわけにはいかないが、かといって生きていられると困るような人物を、人体実験に使用すると言うもの。

 実験の結果、どうなったか分かる?」

「もしかして・・・・・・、テンカワアキトのように・・・・・・・・・?」

「ええ、そうよ。

 テンカワの場合は、意識が無くてもコントロールはしていたみたいね。

 だけど、彼らは違った。

 今でこそ万人に適応するナノマシンだけど、当時は拒否反応が凄まじかったわ。

 体内でナノマシンが異様に増殖し、体の一部が不気味なほどに盛り上がり、関節とか、体の弱い部位から突き出て。拗くれて。

 体細胞とナノマシンが、次々に置換されて。

 ・・・・・・口で説明するのは難しいわ。

 あの姿には、酷ければ、人間だった頃の面影なんか、ほんの少しも残っていないこともあったわ・・・・・・

 亡くなった人間も、二桁前半じゃ済まなかったそうよ。

 いわゆる『ハゼネ病』ね」

『・・・・・・・・・!!』

 ハゼネ病とは、詳しいことは全く分かっていない、未知の病気だ。

 少なくとも、そう言うことになっている。

 一番最初に確認されたという、ハゼネ・ラールフォントの名を取り、『ハゼネ病』と名付けられた。

 その病状は関節などが異様に膨らんだり、ねじ曲がったりする。

 首がねじ曲がり、骨が折れて死んだ者など、死んだ者は四十とも五十とも言われる。

 その写真は、ナノマシンの紋様を処理して消し去ったものが、教科書にも載っている。

 ・・・・・・そして、考えてみると。

 そのハゼネ病に掛かった者は、全て軍や政府、ネルガルに邪魔な存在だった。

「・・・だけど・・・・・・、その暴走を人為的に引き起こしたり、コントロールする方法はなかったはず・・・・・・

 そもそも、今はもう暴走は起きないはず。

 だったら、テンカワはなぜ・・・・・・・・・?」








機動戦艦ナデシコif
THE AVENGER 

第十四話
 艦内制圧戦(終結)










 鮮血が彩る食堂。

 殺戮は終わり、後には殺戮者と、その被害者3人。

 その被害者が加害者であったときに、被害者となった半裸の少女2人。

 内1人は、気丈にも震えるだけで耐えていたが、もう一人はそうはいかなかった。

 自閉症となり、虚ろな瞳のまま、中空に向かって何かをブツブツと呟いていた。

 殺戮者は、右手の中にいる、頭を握り潰されて死んだ男を放り出し、それから。

 ーーー バタッ

 膝をつくことなく、前のめりに倒れた。

 腕を覆うナノマシンの紋様が消え、そのサイズも元に戻る。

「てっ、テンカワ?!」

「テンカワさん!?」

 ホウメイとハルミの声が重なった。

 2人はアキトの元に駆け寄った。

 それからホウメイは踵を返し、先程まで使っていた濡れタオルを持ってきた。

「・・・ッたく、一体何がどうしたってンだい?!

 いきなり軍人が襲ってくるし、テンカワはその軍人を・・・・・・」

 躊躇っている内に、ハルミがその言葉を引き継いだ。

「・・・殺した」


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 沈黙が辺りを包み込み、唐突に、ドアが開いた。

 そこから、連合軍の軍服を着た軍人が3人現れた。

 彼らは銃を構えようとして、やめた。

 訝しげに辺りを見回した。

 食堂に押し込められたナデシコのクルー。

 その中で目を引くのは3つあった。

 両肩の先から、黄色い制服が破けてしまっている男性。

 その男性は右手を血に濡らし、若い、茶色のおさげの少女と、三十代中盤と思しき女性が周りを固めていた。

 どうやら男性は気絶しているらしく、少女と女性は男性を看護しているらしかった。

 少女の頬に、赤い血が張り付いているのが見えた。


 もう一人は、男性と同じく黄色い制服を着た、少し大人びた顔立ちの少女。

 だが、その瞳は虚ろに見開き、意味のない言葉をブツブツと呟いている。

 一見して、壊れているか、重度の自閉症と言うことが分かる。

 その少女を、3人の少女が囲っている。

 そのうちの1人が、ハンカチで頬に付いた赤いモノを拭き取っている。


 それから、気絶している男性と、自分の殻に閉じ籠もっている女性の後ろに倒れている、血塗れの男達。

 ともに連合宇宙軍の軍服を着ており、首から上が存在しなかった。

 お互いに、辺りに飛び散っている肉片や、白いモノから、頭を何らかの方法で吹き飛ばされたことが分かる。

 恐らく、体内に留まり破裂する兇悪な銃弾。

 写真で見ただけだが、それで殺された者達の状態に酷似していた。

 3人とも、なぜ自分たちがこんなにも冷静に物事を思考することが出来たのかは分からない。

 だが、この場ではそれがかえって良かった。

 3人の1人、サントス・フォロア少尉が声を出した。

 黒人の少尉の言葉は、少し訛りがあった。

「・・・・・・何があったのかは、私たちには全く分かりません。

 予想は何となく付きますが・・・・・・、同じ連合軍の軍人として、その予想が当たっていれば、恥ずかしい限りです。

 ですが、その恥を忍んで言わせていただきます」

 そこで一旦言葉を区切り、

「皆さんには、多大な御迷惑をお掛けしました。

 今、皆さんを解放します」

「どういうことだ?!」

 軟禁されていたクルーの1人が疑問の声を発した。

 それに端を発し、ほとんどのクルーもざわめき始めた。

 サントスの部下の、笠荻 弘樹(カサオギ コウキ)曹長がそれを静める。

「静かにしてください。

 理由と状況を説明しますので」

 ざわめきは、段々におさまった。

 それを受け、もう1人の部下、黄 飛優(ホワンフェイユン)曹長が状況と理由を説明する。

 ・・・・・・この様な場を、少しおっとりとした女性が前に出るのは正解である。


 サントスはがっしりとした大柄で筋肉質の、下士官上がりの少尉。

 黒光りする肌に、黒い刈り込んだ髪の毛。

 あまり似合わない眼鏡は、軍曹だった頃に目を負傷したのが原因で、視力が落ちてしまったからだ。

 コウキはよく日に焼けた日本人。

 キレイに焼けた肌は、色が薄めの黒人を連想させる。

 髪の毛は元々金に染めていたのだが、今は根元から伸びてきた髪がそのままなので、根元の方は黒かった。

 フェイユンは眼鏡をかけた、どことなくおっとりとした、大人しそうな中国人女性。

 下士官よりも、後方勤務の士官と言われる方がしっくりとくる。

 だが、銃を扱わせれば3人の中でもピカイチなのは、彼らを知る者のほとんどが知っている。


「・・・・・・現在、ナデシコを制圧した我々軍人は、2派に分かれています。

 そのうちの一派が、私たち、ムネタケサダアキ中佐・・・・・・オブザーバー、副提督としてナデシコに乗り込んだ方に付く者達。

 もう一派が、そうではない者達。

 ムネタケ中佐派は、ナデシコの再制圧を目的として行動しています。

 その理由は、ムネタケ中佐が、一年前の第一次火星会戦で火星を護れなかったことから来る責任感。

 軍人としての責務を果たせず、多くの人々を死なせ、また恐らく今も危険にさらしていることが許せないからです。

 中佐も、火星へ行き、生き残っている人々を助けたいのです。

 ・・・・・・もう一派は、思想を調べた限りでは、特にそのような思いを抱いていない者達でした。

 この再制圧の計画を彼らに漏らすわけにはいかなかったので・・・・・・。

 クルーの方々にも、どこで彼らに漏れるかは分からなかったので、計画を話すことが出来ませんでした。

 それによって御迷惑をお掛けしたことを、深くお詫び申し上げます」

 中国訛りのある声で言い、頭を下げた。

「いや、それだったら別にいいんだよ。

 ・・・・・・サユリとテンカワのことを除けばね・・・・・・・・・」

 そのフェイユンに、ホウメイが答えた。

 大半の人間が、それに賛同する意を示した。

「そちらの・・・・・・「テラサキ サユリ」

 サユリの名を知らず、困ったようにしていたフェイユンにホウメイが名を告げる。

「テラサキさんは、医者を付けましょうか?

 ・・・・・・見たところ、重度の自閉症にかかっているように見えますが・・・・・・」

 ゆっくりと首を振るホウメイ。

 その意を汲んだミカコが、

「サユリのことは、とりあえずそっとして置いてほしいの。

 私も、ここまでは酷いことはなかったけど、自閉症になったことがあるの。

 その時、人と関わるのが煩わしくてしょうがなかった。

 ただ、じっと側にいるだけの人はまだいいの。

 それで少しずつ話し掛けてきて、最初はやっぱり煩わしかったけど、気が付いたら、それがきっかけで治ったから・・・・・・

 ・・・・・・でも、お医者様は違う。

 人によって違うのかも知れないけど、お医者様はズカズカと人の心に踏み込んでくる。

 自閉症の時に、これほど嫌な相手は居ないわ」

 経験者は語る、だ。

 彼女、サトウ ミカコも、昔レイプされ掛かったことがあった。

 その時のことはトラウマとなっていた。

 男性と普通に付き合う振りをすることはできても、本当の意味で付き合うことはできないのだ。

 そしてその時、軽い自閉症に陥った。

 それから助け出してくれたのが、4人の親友。

 即ち、テラサキ サユリ、タナカ ハルミ、ウエムラ エリ、ミズハラジュンコだ。

「・・・わかりました」

 その話を聞き、フェイユンは頷いた。

 次の行動の指示を仰ぐように、彼女はサントスを見やる。

「それでは、各員自分の持ち場に戻ってください。

 全ての部署は、仲間達が占拠し直しています」

 食堂の行動は、他の部署全てから『制圧(クリアー)』との報告が入ってから為された。

「・・・・・・オレたちは、食堂の片付けをする」

「了解!」

「了解しました」



 数分後、ナデシコのクルーは、2人とその2人を看病する5人の計7人を除いて、全員が配置に付いた。



 そしてまた時が経ち・・・・・・


『それでは、機動戦艦ナデシコ、はっしーーーんん!!』


 ナデシコ艦長、ミスマル ユリカの声が響き渡り。

 機動戦艦ナデシコが一路火星を目指し、海洋を飛び立った。










 本星への報告書 TA−14

 ふう、これでやっと本編二話分までが終わりましたね。

 長いものです。

 もっとも、長くしているのはひとえに僕の責任なんですが。




 ところで、Benさんへ。

>>・・・・・ま、作家の約束事は政治家の公約と同じくらい当てにならないとも言いますけど。

 

>・・・・・今回は笑い事じゃないのよねぇ(汗)





 すいません、実は揶揄してました。

 だって、日記に「全然本編が書けてないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!(汗)」とか。

 「あ〜、締め切りが締め切りがぁぁぁぁぁぁ」とか。

 そんなことが書いてあったら、それを口実にイジメてみたくなるのが人情ってモンでしょ?(何かが間違ってる)

 それと、話は全く変わって、


>・・・・・・・・・E.Tさんって、出す作品選んでません?

>しかも、キーワードは『妹』(笑)


 いぇ〜〜す、ざぁっつ、らぁ〜〜い!

 完全に趣味に走ってます。

 前どの話かで書いた記憶がありますが、僕ぁ『妹属性』の人間ですから。

 もっとも、「ビバ! 妹ぉぉ〜〜!!!」 なんてトコまで墜ちてはいませんが。

 でも、妹属性よりも『巫女さん属性』と『メイド属性』の方が強いのが・・・・・・本当に趣味人だなぁ。

 とかしみじみ思ってみたり。

 で、『みゆき』。

 う〜〜ん、題名は聞いた覚えがあるけど、読んだことはないなぁ。

 山花氏のマンガですかね?

 持ってるのは『妹』と『妹 あかね 』、『夢で会えたら』の3つですね。






 それでは、この辺で。




追記
 自閉症云々の話についてですが。

 アレはいつだったかに読んだ小説から得た知識なので、間違っている可能性は大いにあります。

 信用性がどれくらいかは分かりませんが、それでもお医者様に相談はした方がよいでしょう。

 

 

 

代理人の感想

ムネタケ、やっぱり無能?(苦笑)

腹に一物あるならそもそも連れてくる部下を全部選べばいいのに、

それくらいの配慮ができない、あるいは通せないから無駄な人死にが出たんじゃないでしょうか。

 

 

>実は揶揄してました

あらためて言われなくても揶揄以外の何物にも聞こえませんが。(爆)