数分前、医務室にて。

「ン・・・・・・ここ、は・・・・・・?」

「テンカワさん、目が覚めたんですね!」

 目を覚ましたアキトに、ハルミが抱き付かんばかりの勢いで詰め寄る。

 体を起こしつつ、

「ハル・・・ミ、ちゃん?」

「はい、タナカ ハルミです。

 ・・・テンカワさん、大丈夫ですか・・・・・・?」

「ン・・・・・・・・・、よく、覚えてない・・・・・・

 何か、とても嫌な夢を見て・・・・・・気が付いたら、腕が膨らんで、それから銃で撃たれて・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・ダメだ、それしか覚えてないや」

 頭を振り、それから

「・・・・・・・・・なんだ?

 何か・・・・・・とても嫌な予感がする。

 ハルミちゃん、ナデシコの武器管制室って分かる?」

「え・・・・・・? いきなり何を?」

 突然の言葉に面食らう。

「分かったら教えて!」

「・・・・・・・・・」

 暫く考え、

「確か、ブリッジで直接操作してるんだと思ったけど・・・・・・」

 ハルミの答えを聞くなり、

「ありがと、ハルミちゃん!」

 と言い残し、今まで寝ていたベッドから降り立つと駆け去ってしまった。



「テンカワ・・・・・・・・・さん?」

 後には、ポツリとアキトの名を呟くハルミだけだった。








機動戦艦ナデシコif
THE AVENGER

第十六話
 大空の戦い










 フェイチェンがカグヤのデルフィニウムに三点射を仕掛けようとしたまさにその時。

「おい!」

 アキトがナデシコのブリッジに現れた。

「アキト?! 目が覚めたの!!」

 ユリカを無視し、アキトは声をあげた。

「武器管制はどこだ?!」

「ここですが、何か?」

 ルリが答えるなり、アキトはオペレーターシートへ向かった。

「悪いが、少しどいてもらうぞ」

「・・・・・・え?」

 ルリが反応したとき、既に彼は彼女の横から体を乗り出し、IFSパネルに手を置いていた。

(あれ・・・・・・、テンカワさんのIFS、形が・・・・・・・・・?)

 右手の光に浮かぶIFSの紋章。

 通常はΩのような形をしたそれは、指の方を刺す矢印のような形に見えた。

 しかし、アキトの両腕がナノマシンの紋様に輝き、それは見えなくなってしまった。

 両目を閉じて何かに集中していたアキトが、短く叫んだ。

「・・・・・・ここ、今!」

 ナデシコの対空機銃が2門、火を噴いた。

 ともに、ナデシコの右舷前方にて戦闘をする、エステバリスとデルフィニウムに対して。

 2つの火線は、ピンクの頭のエステバリスに攻撃を仕掛けようとしたデルフィニウムに襲いかかった。

 射程の問題で、ナデシコには援護が出来なかった。

 いや、その筈だった。

 しかし、アキトはその長距離射撃をして見せた。

 対空機銃、つまり短距離と中距離の中間程までを射程とする銃で。

「てっ、テンカワさん?!」

 プロスが驚きの声をあげる。

 元々アキトを雇ったのは、ネルガルの会長はともかくとして社長派への牽制。

 本当に彼がテンカワ博士の息子なのか当初は分からなかったが、契約を結んだ後に
遺伝子データを得、確認した。

 だから、彼にはそれ以上のことは全く期待していなかった。

 せいぜいが優秀な調理補助として、料理長のホウメイを助けてくれるコトへの期待だけ。

 それが、佐世保では四百機近くのバッタとジョロを一人で殲滅し、先程は軍人三人を一人で倒した。

 更には今。

 射撃よりもほとんど狙撃という、戦艦での狙撃という荒技を披露してのけた。

 『ネルガルの道化師』と呼ばれる、ネルガルSSの長 プロスペクター。

 生半可なことでは動揺らしい動揺(演技は別)しない彼も、この技には驚愕した。

 いや、驚愕したのは彼だけではない。

 ユリカやジュン、ルリ、ゴートにフクベ、ムネタケらは言うに及ばず。

 民間人のミナトとメグミも、ほとんど放心といった風情で驚愕した。

「嘘・・・・・・、あんなこと、出来るの?!」

 驚愕するミナトに、

「テンカワさんって、一体・・・・・・?」

 少し怯えたようなメグミ。

「・・・ここ」

 再び、機銃が火を噴いた。

 その輝線は正確にデルフィニウムの増槽のみを貫いた。

 残り三機。





「・・・・・・この援護射撃は誰が?」

 大柄な彼には狭すぎるコクピットの中、ゴートは一人ごこちた。

「到底撃墜できるような距離ではないぞ」

 その独白の合間に、三点射をしつつ、一機のデルフィニウムに肉薄した。

 そのデルフィニウムは三点射をギリギリで回避したが、ゴートの近接してのナイフの一振りは躱せなかった。

 増槽を破壊され、撤退する。



 カグヤは、それに文句を言う暇はなかった。

 何故なら、文句を付けようともアキトの放つ機銃が、執拗なまでに彼女を追い回すからだ。

 最後の部下が、フェイチェンに撃墜された。



「ッたく、なーにがデルフィニウム、能動的攻撃型機動兵器だ、ッつーの。

 ただ単に、ロケットに手とミサイルくっつけただけじゃねぇか」

 八機目のデルフィニウムを撃墜しながら、ポツリと呟いた。

 だが、その言葉は言ってはならない言葉だった。

 デルフィニウムのパイロット連中も、その形や機動性を始めとするその他諸々の性能を嫌っていた。

 中にはデルフィニウムを愛する連中もいたが、彼らは圧倒的な少数派だ。

 百人のパイロットに聞けば、そのうちの97以上はエステバリスを支持するだろう。

 その彼らはデルフィニウムのことを『腕付きロケット』と呼ぶ。

 もちろん、表だっては呼びはしないが。

 軍事オタクと評される人々も、一部の例外を除いてそう呼んだ。

 大味な性能に、『能動的』という割に【航続力がない】という欠点。

 武装もマイクロミサイルぐらいと、なかなかに素晴らしい(皮肉)。

 デルフィニウム愛護者はそんなトコロが素敵なんだと言い張るが、それに賛同する人は少なかった。

 しかも、宇宙戦と高々度空中戦しかできない。

 それに無理やり地上戦や中高度空中戦をさせようとするのだから、パイロットには
たまったものではなかった。

 中高度だと、一歩間違えれば地面に叩き付けられる。

 そうすれば死んでしまう可能性が極めて高い。

 地上戦なら倒れることは許されない。

 中高度戦ならばまだしも、地上戦を主に行う部隊にエステバリスは絶賛されている。

 フレームを交換することによってオールラウンドに戦闘を行えるエステバリスは、
例え『受動的攻撃型機動兵器』とはいえ、非常に高い評価を得ていた。

「後一機、隊長機か・・・・・・。

 でも、あの腕付きロケットは他のヤツらとは動きが違うな。

 実戦経験のない俺じゃ、まず落とすのは無理だな。

 というか、逆に接近されて墜とされないように気を使わにゃならん」

 呟きながらも、また三点射。

 それを援護としてゴート機も突っ込むが、カグヤのカルデルフィニウムはひらりひ
らりと舞うかのようにそれを回避する。

 だが、唐突にその動きが止まった。

『あら・・・・・・燃料、切れちゃったみたい。 テヘ(はぁと)』


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 ・・・・・・


 ・・・


『だああぁッ』

 アキトも含むブリッジ要員は当然の如く、空戦エステすら、器用に空中でこけた。










 本星への報告書 TA−16

 なぜだろう?

 当初の予定と異にして、カグヤが壊れてくる。

 う〜〜ん、あほらしくも壮絶な、ユリカとの一騎打ちを予定していたんだが・・・・
・・・・・







本星への報告書 TA−16 終


 

代理人の感想

・・・・ナデシコに対空機銃なんてあったっけ?