「いいこと!?

 次の作戦地は南の島、テニシアン島よ!!」

 ムネ茸が、薄暗いブリッジで吼えていた。

「テニシアン島に、新型のチューリップが落ちたそうで、ナデシコの任務は、それを調査・回収。

 それが不可能ならば破壊する事よ」

 ・・・・・・・・・・・・

 ムネ茸の声に答える者は、誰一人としていなかった。

「って、何で誰もいないの!!?」

「今は草木も眠る丑三つ時。

 つまり午前二時。

 私みたいに、夜班の人でもなければ、起きてるわけありません」

 ・・・・・・何でこのバカは、そんなことにも気付かないんだろうか・・・?



機動戦艦ナデシコ 

TWIN DE アキト

第十話 『女らしく』がアブナイ





 夏だ!

 海だ!

 温泉だ! ←間違い

 というワケで・・・

 やって来ました。

 テニシアン島に。

 んでもって、

「我こそは、

 粉っぽいカレー、

 まずいラーメン、

 溶けかけたかき氷という、

 浜茶屋三種の神器を

 受け継ぐものなり!!!!!」


「ラーメン一丁」

「はいよ!」

 ドンッ

 アオイの前に、アホなことを叫んでたウリP製のラーメンの(発泡スチロール製の)ドンブリが置かれる。

 ・・・って、おい、ちょっと待て。

 発泡スチロール、いまだに使われてんのか!?

「まずっ・・・・・・(涙)」

 アオイが一口食べて、泣いた。

「(・・・まずい、って言ってるもん、食うなよ・・・)」

 ボケーッとパラソルの下でトロピカルジュース(D&イツキ製)を飲んでいるアキトはそう思った。


 そう。

 今回も、ナデシコクルーは遊んでいるのだ。

 任務そっちのけで。

 当然、規則にうるさいエリナも・・・


「ほらほら、今は遊びに来てるんじゃないのよ!!

 あ、コラ、そこ、海にはいるときにはまず準備運動して!!

 遊んだ時間は給料から差し引くからね!!

 って、そこ! 私が作ったしおり、読んだの!?

 原則、男性のナンパは禁止よ!!」

 ・・・しっかりと、ビキニ水着で、そんなことを言っている。

 結局ね、エリナもね、染まっちゃったんだよね。

 ナデシコ色に・・・

 ・・・・・・・・・・・・・?

 男性のナンパは・・・?

 じゃあ、女性のナンパはOK・・・?

「アーキートー。

 一緒に向こうで泳がない?」

「アキトさん、艦長なんかほっといて私とあそこの森でも散歩しません?」

 ・・・どうやらOKらしい。

「え・・・?いや、あの、その・・・」

「アキト!」

「アキトさん!」

「・・・・・・

 とりあえず逃げる!!」

「「あっ、待てー(待って)アキト(さん)!!」」

 いつものパターンを警戒し、脱兎のごとく逃げるアキト。

 そして、ユリカとメグミはアキトを追いかける。



 余談だが、この時のアキト、ユリカ、メグミのスピードは、

 100m、2秒台だった。





「・・・・・・D、にっこうよくッテ、ナニガタノシイノ?」

 デッキチェアーに寝そべって、背中を焼いているサユリを見て、ラピスはDに聞いた。

「んー、それは・・・・・・説明すんのは難しいなぁ・・・」

「それじゃあラピスちゃん。

 ラピスちゃんも日光浴、やってみたら?」

「・・・ウン。そうスル」

 最近、カタカナと平仮名が混ざってきたラピスは、Dと、何となく新婚さん気分のイツキの言葉に頷いた。

 ・・・ラピスは、Dとイツキ、ルリ、ミナトによく懐いている。

 トテトテトテ、と、可愛い足音を立てながら、空いているデッキチェアーへと向かう。

 途中で、

 コテン (こけた)

「・・・イタイ・・・(涙目)」

 というのも、ご愛敬だ。

「・・・・・・」

「どうしたの?アキト」

 いきなり、森の方を向いて何かをじっと見つめるDに、ラピスに娘に対するような暖かいまなざしで見つめていたイツキが問う。

 イツキは最近、Dと二人っきりの時(コミュニケの電源を落とし、ナデシコの外に出たときや、お互いの部屋で)、Dの事を“アキト”と呼ぶようになっていた。

「いや・・・何か、変な視線を幾つか感じてね・・・

 数は・・・・・・16・・・くらいかな?」

「何でこっちを見てるんでしょうね?」

「テニシアン島は、クリムゾングループの社長令嬢の別荘があって、そこに、今その社長令嬢・・・“アクア・クリムゾン”が来ているから、その護衛のヤツらだろう」

「へえ・・・そうなんですか」

「ああ。

 オモイカネとオメガからの情報だから、確実だよ。

 (それに、何てったって、経験済み、だからな)」

 

 

「・・・・・・・・・」

「どうしたの?リョーコ」

「・・・・・・・・・」

「恋煩い・・・?」

「恋煩い・・・強力なライバルがいる恋。 恋はつらい。

 ぷっ、ぷぷぷ・・・・・・・・・」

「はあ・・・・・・」

 溜息をついてからヒカルがもう一度リョウコを呼ぶ。

「リョーコ!」

「うわっ!?

 な、何だ、ヒカルかよ。

 ・・・ったく、驚かせんなよな」

「ところでリョーコ・・・」

「? なんだ?」

「リョーコが見てたのってさ、Dクンとイツキのどっち?」

「・・・両方だよ。

 何かさ、悔しいくらいにお似合いじゃねぇか。あの二人・・・」

「そーだねー。

 まあリョーコ。

 初恋は実らないって言うじゃん。

 そんなに気を落とさないで」

「は?

 何言ってんだ?ヒカル。

 だけど、オレも負けてられないなー、って思ったんだが?」

「「ら、ライバル宣言!?」」 

 ヒカルとイズミの驚愕の声が重なった。

「ん?」

 Dがこちらの方を向いた。

 大声だったし、何かな?と思って、こちらを見たのだ。

 

 

「ルリルリは泳がないの?」

「はい。私、泳げませんから」

「それじゃあ私が教えてあげる」

「え・・・」

「嫌かしら?」

「いえ・・・そんなことは」

「ふふ、それじゃあ決まり」

 こうしてルリはミナトに泳ぎを教えてもらうことになる。

 

 

「王手」

「む・・・

 ・・・待ったは無しか?ミスター」

「またですか?ゴートさん。

 これでもう5回目ですよ」

「む・・・・・・投・・・了・・・・・・」

 ・・・一体何故、ビーチまで来て将棋をやるのだろうか?

「それは風情と言うものですよ」

「・・・?ミスター、一体誰に言っているのだ?」

「まぁ、お気になさらずに。

 ・・・・・これで1725戦1618勝107敗ですか」

「・・・・・・具体的な数字を言われると、とても痛い・・・・・・」

「さて、もう一勝負しますか?」

「む・・・・・・今度は碁だ」

「はいはい」

 プロスペクターは懐から(!?)碁盤と碁石入れを取り出した。

 

 ------五分経って------



「はい。

 これで積みですね」

「む・・・・・・・・・

 19268戦1102勝18166敗・・・・・・

 俺は弱いのか?ミスター」

「どうでしょう?

 異様に強いときと弱いときがありますからね。

 ゴートさんは」

「・・・・・・そうか。

 ・・・む・・・・・・?」

 ゴートは突然、森の方を見た。

「ふむ。

 どうやら、ヤツらは痺れを切らしたらしいな」

「それではゴートさん?」

「ああ。行ってくる」

 ゴートはプロスペクターの問い掛けにそう答えると、森の方へ向かって歩き始めた。

 

 

「誰か助けてぇ〜〜〜!!!!」

 ムネ茸は海岸に埋められていた。

 満ち潮になったら、顔は海水で隠れ、溺れ死ぬだろう。

「ア、きのこダ」

「うっさいわよ、ガキ!!」 

 顔だけだとますますキノコなムネ茸。

「ぴぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そこをアキト、ユリカ、メグミに踏みつぶされる。

 哀れとは思わんが。





 ハーリーは、一人ナデシコにいた。

「・・・海なんか、何が楽しいんだろう?

 泳ぐんだったらプールで事足りるし・・・」

 ピコピコ

「それに、海で泳いだら、しょっぱいじゃないか」

 落ちモノゲームをやりながら、そんなことを一人愚痴るハーリー。

 その後ろでは、小型のホログラム投影装置はまだ開発段階のため外に出られないオモイカネとオメガがいちゃいちゃしていた。

 



「う〜〜む・・・・・・・・・

 見事に・・・迷っちまったな・・・・・・」

 ヤマダは木々の合間から覗く空を仰ぎながら呟いた。

「俺の名前はダイゴウジ ガイ!! 

 ・・・って、それにしても・・・ったく、広すぎるってもんだぜ、この森は」

 愚痴を言いながら、背負ったリュックを背負い直す。

「えーと、太陽の位置があっちで、時計の長針と短針が・・・・・・

 って、これデジタルじゃねぇか!!!」

「あの・・・どうかしたんですか・・・?」

 コミュニケを思いっきり地面に叩き付けるヤマダに女性が声を掛けた。

「え?アンタは?」

「私は・・・アクア、と呼んでください。

 それで、どうしたのでしょうか?」

「道に迷っちまってな・・・・・・

 あ、コミュニケ、大丈夫かな・・・・・・」

 そんなことを言いながら、コミュニケを拾うヤマダ。

 コミュニケは、傷一つついていなかった。

 ・・・一体、どんな材質で作られているのだろうか・・・・・・

「あの、それじゃあ、私の家に来ません?」

「家・・・って、こんな所に住んでるのかい?」

「ええ。 ここには、うちの別荘があるの」

「ふーん、そうなんだ。

 じゃあ、お世話になろうかな」

 そしてヤマダはアクアに付いて、別荘へと行く。

 

 

 ばごぉっ

「ぐはっ」

 男がゴートの突きを脇腹にもらい、崩れ落ちる。

「むっ」

 シュタッ

 その巨体からは想像できないほど俊敏な身のこなしで飛び退くゴート。

 カカカッ

 一瞬前にゴートがいた位置を貫き、木の幹に三本のナイフが突き刺さる。

「(ナイフ使いか・・・厄介だな)」

 熟練のナイフ使いは、下手な銃器を装備した相手よりも手強い。

 タタタンッ

 いつの間にか手に握られていた拳銃を放つゴート。

 しかし、ナイフ使いを倒したという手応えはなかった。

 シュッ

 枝と枝が擦れる音がし、何者かが明後日の方向に銃弾を放ったゴートに飛びかかる。

「死ね」

「死ぬのはお前だ」

 ガキィッ

 ナイフ使いのナイフを銃身で防ぐゴート。

「何!?」

 ナイフは、鋼鉄をも切り裂く特注のチタンブレード。

 そんなナイフが防がれたのだ。

「悪いがこちらのブラスターはハイ・チタン製でな。

 チタンブレードで切るのはなかなか骨だぞ」

 そして、もう片方の手に魔法のように出現したブラスターでナイフ使いの眉間を打ち抜いた。



 最初の投げナイフの一撃で、ナイフ使いの得物がチタンブレードであると見抜いたゴートは、気配で捕らえた、ナイフ使いとは全く違う位置にいる敵を撃つことで隙を見せ、襲わせたのだ。

 そして、隙だらけの背中を狙う相手を、信頼するハイ・チタン製のブラスターの銃身で防ぐことにしたのだ。

 そうすれば、防がれたことに対する動揺はなくとも、十分に相手のバランスが崩れることは必至。

 ゴートは、そこを、もう一つのブラスターで攻撃することにしたのだ。



 ------ゴートがナイフ使いを倒す数瞬前------

「・・・死ね」

 スナイパーライフルを構えた男がゴートに狙いを定め、引き金を引いた。

 ダンッ


 彼はナイフ使いの男と連携していた。

 たとえ、ナイフ使いが敗れても、ナイフ使いの後ろからライフルを放ち、ゴートを倒す計画だったのだ。

 ・・・ゴートがわざと隙を見せるために撃った相手も、この男と同じ役割だった。

 隠れてた場所がゴートに近すぎて気付かれたが。


 螺旋を描く銃口から吐き出されたライフル弾がゴートに迫る。

 後数メートル。

 時間にして・・・一瞬としか形容できない。

「終わったな」

 男はニヤリと、唇の端をゆがめた。

 だが、

 キィィンッ

 鋭い音と共に、ライフル弾はゴートと懸け離れた位置にある木に穴を穿った。

 

 

「さあ、どうぞ」

「すまねえなぁ、別荘に案内してくれただけじゃなく、料理まで御馳走してくれて」

「いえ、お気になさらずに」

 アクアに別荘に案内されたヤマダの目の前には、豪華なアクアの手作りフランス料理が並んでいた。

「それじゃぁ遠慮なく、いただきま〜す!」

 早速、バクバク食べ始めるヤマダ。

 それを見て、ニヤリと笑うアクア。

 しかし、ヤマダはそれに気付かなかった。

 

 

 いんたーみっしょん  その9

「・・・・・・それで、分かったんでしょうか・・・・・・?」

 青髪バカ女は頭を押さえながら金髪眼鏡のマッドサイエンティストに聞いた。

「ええ。あなたの協力のおかげで分かったわ」

「・・・そう・・・ですか・・・・・・」

「ええ、そうよ」

 青髪バカ女にどんどん生気が戻ってくる。

「となったら、さっさと行きましょう!!」

 プシュー

「そうはいきません」

 いきなり開いた扉の向こうから声と、その持ち主が入ってきた。

「え?」

「お久しぶりですね」

「ホント、久しぶりね。

 ・・・あの時以来かぁ・・・・・・」

 青髪バカ女は感慨深げに瑠璃色の髪の女性に言った。

「ふふ、本当ですね。

 それと、今日は私一人じゃありません。

 あの人を慕ってくれていた人たちが・・・来てくれました」

「久しぶりだな!艦長!!」

「どぉ〜も」

「わたしも・・・いっしょにいく」

 黒い長髪の男っぽい言葉遣いの女性と、金髪に赤いメッシュをいれた軽薄そうな男、
薄桃色の髪の少女が部屋に入ってきた。

「それに、いろいろと準備をしなくちゃいけませんよ」

「そうね。

 それじゃぁ出発は何時ぐらいになるのかな?」

「大体・・・一ヶ月以上は必要ね。みんなの予定が合うのは」

「一ヶ月以上・・・・・・長い・・・」

「艦長、オレらだって付いて行きたいんだから、こっちにも合わせてくれよ」

「そうゆうこと」

「・・・わたしはいまでもかまわないよ」

「・・・それじゃ、一ヶ月後に!」

「はい」

「「おう」」

「うん」

「分かったわ」

 青髪バカ女の言葉に五人は揃って返事した。

 「いんたーみっしょん その9」 終

 

 

 キィィンッ

 鋭い音がした。

「何だっ!?」

 ゴートが振り向いた。

 そこには黒いマントを翻したDがいた。

「D!?

 お前、こんなところで何してるんだ!?」

「え?何・・・って、クリムゾンのヤツらと“せんそー”しに来たんですけど?

 それよりも、感謝して欲しいですよ。

 オレの到着が一瞬遅かったら、ゴートさん、ここで屍をさらしてることになってたんですから」

「屍をさらす!?」

「ああ。そうだよ。

 気付かなかったんスか?ライフルで狙われてたの。

 オレがフィールドで防いだからよかったものの・・・」 

 Dは当然の如く、(今まで使う機会がなかったが)携帯用小型ディストーションフィールド発生装置を持っているのだ。

 ってゆーか標準装備だし。

「(き・・・気付かなかった・・・・・・くっそー、ナイフ使いのヤローに神経注いでたら恥かいちまったじゃねぇかぁ!!)」

 ・・・性格変わってねえか?ゴートさんよ・・・・・・

「まあ、ゴートさんが撃った方は10メートルぐらいの所にいたけど、今のヤツは100メートルぐらい離れたところからの狙撃だから、気付かなくてもしょうがありませんよ」

「・・・むう」

「さてと・・・それじゃ、今のヤツをぶったおすとしますか・・・」

 そういうと、Dはマントの内側からライフルを取りだし、ろくに狙いも付けず、

 ダンッ!

 引き金を引いた。

「ぎゃっ」 

 茂みのはるか奥の方で、男が倒れた。

「・・・どんな腕をしているんだ、お前は」

「ごくごく普通の腕ですよ」

「・・・・・・・・・」

「お、いいもんめっけ」

 そんなことを言いながら、先程のナイフ使いが使っていたチタンブレードを拾うD。

「ゴートさん、こいつが目を覚ました時ように、さっさと縛っておいた方がいいですよ」

「あ、ああ。そうだな。

 (しかし・・・よく気付いたものだ。俺が実弾ではなく麻酔弾を使っていたことに・・・)」

 いや、普通、でこに注射器が刺さってたら、それぐらいは気付くだろ。

 って、注射器がよくもまあ拳銃サイズのブラスターに収まるな・・・

 流石はナデシコ七不思議が一つ(一人)。

「ところでゴートさん、何人倒しましたか?」

「今のヤツを合わせて五人だ」

「・・・残りは11・・・・・・」

 ぱんっ

 乾いた音がした。

 バサッ

「訂正・・・残り10。

 一人頭五人・・・ですか。

 ・・・いえ、ゴートさんが四人倒してるんですから、ゴートさんが後四人、オレが六、ですね。

 それじゃ、また後で」

 シュッ

 そんなことを言い残し、Dはゴートの視界から消え去った。

「むぅ・・・・・・全く、実力の読めんヤツだ・・・」

 ゴートも、その場から立ち去った。

 残ったのは、チタン合金製の鎖に縛られた二人の人間だけだった・・・・・・





「ラーメンを一つお願いします」

「ハイ、ラーメンを一つですね」

 プロスペクターにラーメンを頼まれ、麺をゆで始めるイツキ。

「ところでイツキさん、Dさんは何処へ?」

「ゴートさんの手伝いをしに行くって言ってましたよ」

「・・・ほう。

 イツキさんは、それがどういう意味か知っていますか?」

「ええ。知ってますよ。

 クリムゾンのお嬢様を護衛するSPが動いたんでしょ?

 Dが言ってましたよ」

「そうですか・・・・・・」

「オモイカネとオメガから聞いたんですって」

「うーむ・・・・・・

 やはりクルーには隠せても、オモイカネ級AI、それと、その仲のよい人間には隠せませんか」

「まぁ、そういうものでしょ」

「これは手厳しい言葉ですねぇ」

 プロスとイツキの和やかな会話は、ラーメンが出来上がるまで続いた。

 

 

「アキト、待ちなさ〜〜い!!」

「アキトさ〜ん、待ってくださ〜い!」

「いやじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ・・・・・・三人はいまだ海岸を爆走していた。

 そろそろ1万メートルを越すが、スピードは衰えない。





             ダンッ

                                                     シュタ

                     タタタッ

「はっ!」

 ドゴォっ!

 Dの拳がSPの男の腹に埋まる。

「げふっ」

 Dはゴートと分かれてから三人目のSPを倒した。

 この男は、徒手空拳(早い話が素手)の使い手で、素早い動きを武器としていたが、如何せん、実戦経験が足りなかった。

 Dが牽制ではなったブラスターを回避したときに、致命的な隙を見せてしまったのだ。

 そこにDが神速で迫り、一撃を加えた。

「経験を積めば、もっと強くなれるだろう」

 ばたっ

 男が力無く崩れ落ちた。

「次は・・・と」

 ザッ

 Dの姿が掻き消える・・・・・・

「ちっ!何処行った!?」

 Dの姿が消えた次の瞬間、一人の男が姿を現した。

「此処だよ」

 男は、自分の背後に強烈な殺気を感じた。

「(か・・・体が動かない・・・・・・!)」

「お休み♪」

 とんっ

 ばさっ

 Dの手刀を首もとにくらい、男は意識を失った。

 ドゴンッ

 キィィンっ

「何ィ!?」

 いきなり現れ、バズーカをぶっ放した男が驚愕の声を上げる。

 それも当たり前と言うもので、ぶっ放したバズーカの弾が、虚空で弾かれてしまったのだから。

「悪いが、このマントは特別製でね・・・・・・

 対個人用のフィールドが張れるんだよ。

 それじゃ君も、お休み♪」

 一瞬にして間合いを詰められ、腹に一撃をもらい、気絶する男。

 ふと、Dが自分の後ろの方にある木に向け、言葉を投げかけた。

「・・・・・・そこのヤツ、さっさと出て来な。

 名前ぐらいは聞いてやる」

「光栄だねぇ。

 俺の名前はクルト・ヴァーナス。

 一応、このチームの隊長さんやってるんだけど・・・

 アンタには敵いそうにはないねぇ」

 クルトと名乗った男は、Dが声を掛けた木の陰から出て来た。

 男は、金髪碧眼の美しい若者だった。

 髪は肩口程までか。

 目は・・・裏の仕事をする者の目。

 そしてこの男は、Dに今まで気配を感じさせずに、Dのテリトリーたる10メートル以内に侵入してきたのだ。

 実力は非常に高い。

「だけどこれも仕事だからねぇ。

 男には、例え負けると分かっていても立ち向かわなければならない時があるらしいんだよ・・・というワケで・・・・・・

 クルト、参る!」

 シュッ、という鋭い呼気と共にクルトはDを目がけて一気に走り寄る。

「はぁっ!」

 ガシィっ

 鉄に手形が残るかというほどの強烈な突きを繰り出すクルト。

 それを両手を交差させ、挟み込んで受け止めるD。

「ちぃっ」

 バッ

 クルトはDに掴まれた腕を外して飛び退く。

 ダっ

 だが、Dが一気に間合いを詰め、掌底をクルトの右肩に決める。

「がっ!」

 しかしクルトもさるもので、右肩を後ろに反らせてダメージを軽減させる。

「でえぃっ!!」

 あまつさえ、Dに避けられたものの、右肩を反らせる反動を利用して左のエルボーを放った。

「なにっ!?

 あれを避けるだと!?」

「いや、ギリギリだったよ。

 ここまで第六感が発達してなかったら、やられてたかも知れないよ」

 そんなことを言いつつも、Dはクルトの腹に拳を突き立てる。

「ぐっ!

 まだまだぁっ!!」

 腹に突き刺さったDの腕を取り、Dを投げ飛ばすクルト。

「(肋(あばら)が二、三本折れたな・・・)」

 クルトの手に、魔法のようにブラスターが現れる。

 痛みを堪え、Dに照準を合わせようとした時、

 ぽふっ

 とかいう情けない音が響いた。

 クルトの目には空中に舞ったままブラスターを構えるDの姿が映った。

 次の瞬間、クルトは意識を失った。

 

「ふう、やばかったな。

 クリムゾンにもこんだけの使い手がいたんだねー」

 と呟いてからクルトの応急処置をさっさとして、念入りに縛るD。

「・・・・・・・・・・・・腕、落ちたのかな?

 また、この距離まで気付かなかった」

 ぼやくようにそう言ってから右手にブラスターを、左手にナイフ使いの得物だったナイフを構える。

「何者だい?君は」

「オレは神崎 紫苑。

 それがどうかしたかい?」

「オレが聞きたいのは名前ではなく、何の用事でここに来たかということだ」

「ここに来た理由?

 友人に呼ばれてね、ある組織をつぶすためさ」

「ある組織?」

「ああ、そうだよ。

 A−10という、カルト集団さ」

「A−10?」

「なに!?貴様、何処でそれを知った!」

「どこ・・・って、お前が言ったんだろ」

「それを知られたからには貴様には死んでもらわなくてはならないな!

 行くぞ!」

 ・・・とか勝手なことを言って、シオンとかいうヤツはブツブツと変な言葉を言い始めた。

「紅蓮の炎」 

 紫苑の周りに火の玉が幾つか生まれる。

「死ね!」

 紫苑の言葉と共に、その火の玉はD目掛けて迫ってくる。

 Dは驚いたが、慌てず騒がずディストーションフィールドを展開する。

 フィールドに接触し、爆発する火の玉。

 その爆発にまぎれ、Dは紫苑に接近、顎を掠めるようにして突きを放った。

 紫苑は脳震盪を起こし、バタっと倒れた。



 数分後、紫苑は目を覚ます。

「あれ?私は何処?ここは誰?」

 何かお約束のボケをかます紫苑。

「・・・・・・」

 ぺしぃっ☆

 紫苑の頭に無言のままDがハリセンチョップをいれる。

「冗談ですよ、冗談」

「で、お前は一体何なんだ?」

「オレはさっき言ったとおり、神崎 紫苑ですよ」

「そうじゃなくて、何しにここに来たか、だ。

 さっきA−10がどうしたこうしたと言ったら、いきなり襲いかかってきたんだぞ、お前。

 どうやったのかは知らんが、火の玉なんぞ出しおって・・・」

「はあ、さっき言ったとおり、A−10という組織を潰すためにここに来ました」

「A−10だなんて組織、聞いたこともないぞ。

 第一、テニシアンにいるのはナデシコのメンバーと、クリムゾンの社長令嬢、そのSPだけだ」

「テニシアンだって!?」

「ああ、そうだが?」

「オレが来たかったのはテニシアンなんかじゃない!!

 オレが行きたかったのは日本だぁぁぁぁ!!!」 

「・・・・・・・・・・・・」

 どうやったらテニシアンと日本を間違えられるのだろうか。

 凄い方向感覚である。

「・・・・・・ほっといても実害はなさそうだな、お前は。

 ナデシコに来るか?そのうち日本にも行くだろうし、ここから出るような飛行機なんかはないぞ」

「そうですか。それじゃあお世話になります。

 あ、あなたの名前は?」

「オレか?本名は言えん。Dと呼んでくれ」

「D・・・ですね。分かりました」

「おーい、俺もナデシコに乗っていいかぁ?」

「・・・・・・クリムゾンの人間が良いワケあるかぁ!!」

「じゃ、クリムゾン、辞めるわ。

 とりあえずナデシコに案内してくれ。

 面白そうだからねぇ。ナデシコは。

 退職届は郵送で出すからねぇ。

 心配はしなくていいからねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 Dは、何も言えなかった。

 ただ、ぼーっとした頭で二人を連れ帰った。





「あれ・・・?体が動かない・・・・・・?」

 ヤマダが呆然といった表情でそう言った。

 そのヤマダを見下ろすのは・・・・・・アクア!

「貴様!一体何をした!!」

「何・・・って、痺れ薬を盛っただけよ」

 悲劇のヒロインがどーしたこーしたと言って、いつの間にか手に持っていたスイッチを押す。

 ・・・・・・なんだかんだで、ジャイアントバッタが現れた。

 


「オレの休息を邪魔するなぁぁぁぁぁ!!!」 

 Dはそう叫びつつ、G・BでバリアごとGバッタをたたっ切った。

 詳しい描写をされる暇すらなく・・・・・・

 Gバッタは消滅した。

 バリア発生機、その地下にある、とある研究施設ごと。

「はあ、はあ、はあ・・・・・・

 D、これより帰還する」



 こうして、テニシアンでの時間は終わった。

 クルト、紫苑に関して一波乱合ったが。

 例えば、お付き合いの申し込みである。

 クルトは笑っていたが、紫苑は、

「日本に薫がいますから」

 と言って、断ったそうだ。

 ・・・因みに、薫とは、つまり紫苑の恋人である。

 念のため記すが、女性である。

 

 

「私を置いて行くなぁーーっっ!!」 

 ムネ茸が吼える。

 水位は、ギリギリである。

 しかも、そこをアクアが無理心中させようとする・・・・・・

 嗚呼、アクアとムネ茸って。

「・・・隊長、辞めるとか言ってたけど・・・正解かも知れんな・・・」

「ああ、全くだ。

 俺も本気で転職を考えようかな・・・・・・」

 どうやら上の男は徒手空拳の、「経験を積めば強くなる」と言われた男らしい。

 クルトの言葉を聞いてたってことは。



 ・・・・・・テニシアンの夜は更けてゆく・・・・・・

 

 追記

 ルリ、日光浴に飽きてミナトに泳ぎを教わったラピスの二人はクロールと平泳ぎを
マスターした。

 キノコがいつの間にかナデシコ艦内に生えていた。

 んでもって、「湿度が高いんじゃ?」とか、まことしやかに囁かれた。





 次回予告

 ナデシコに押しつけられたクルスク奪還任務

 謎のオリキャラ紫苑君の超パワー

  次回 気が付けば『お約束』
            をみんなで読もう!

 

 本星への報告書10

 執筆時間9時間強。

 疲れた・・・・・・

 えーと、特に書くことはありませんが、オモイカネとオメガの子どもの名前、募集中です。

 片方は女性型、もう片方は男性型です。

 それでは。
本星への報告書10 終

 

 

代理人の感想

 

・・・・・・・・ガイはどーしたんだ?

いや、描写がないから気になって(笑)。

この世界では「時の流れに」ほど不死身じゃないみたいですし。

 

ところで、「お付き合い」って誰が誰に申しこんだの(笑)?