Dは宏美と共に組み手をしていた。

「せいっ」

 バシッ

「ハァッ」

 ビシッ

 Dの攻撃を全て紙一重どころか、完全に見切った上で、わざとその攻撃を受ける宏美。

「・・・まだまだですね。

 せめて、これぐらいは」

 そして、そんなことを言いながらDに掌底を入れる。
 
 ドゴォッ
 
「うわっぷ」

 ヒューーン
 
 ポチャン
 
 Dは何処ぞの軟弱者の女子寮管理人の如く空を舞い、温泉の代わりに、庭の池に落ちた。

「・・・・・・・・やりすぎたかな?」

 

 

「ふぅ、宏美さん、まだまだ余裕があったな〜。

 一体どういう強さなんだ?」

「知りたいですか?Dさん」

 いつの間にか、Dの側に龍之がいた。

 陽光が、左手の薬指に付けている赤い宝石に反射してDの顔に当たる。

「あ、龍之さん。

 (気を張ってなかったとはいえ気配を感じなかったぞ?やっぱりこの人もりやるな)

 それは、まあ、当たり前でしょう」

 Dの言葉に苦笑する龍之。

「教えて差し上げましょうか?

 でも、それよりもまず、池から上がってお風呂に入ったらどうですか?

 この時期の水は冷たいでしょう?」

 

 

 かっぽーん

 ・・・この音を聞いてお風呂を連想するのは、日本国民の何%だろうか?

 ザバァッ

「ふう・・・・・・いい湯だな〜」

 何故かバイザーを付けたまま風呂に入るD。

 その頭には湯気の立つタオルがおいてある。

 因みに、お風呂は女子風呂だ。

 ・・・・・・女子寮なのだから当たり前と言えば当たり前だが。

 男が入る場合は「紫苑入浴中」の立て札を出すことになっている。

 紫苑がここに来たときからそうなった。

 ガラッ

「ん? やあ、紫苑」

「やあ、D。

 宏美との組み手はどうだ?」

「・・・・・・分かってるくせに」

「まあな」

 椅子に座り、湯を桶にためる紫苑。

「だけど、一体どういうことなんだ?

 八家の人間、というだけであれほどの強さになるのは」

 シャワーで髪を濡らしながら、

「八家の人間だからって理由じゃねーんだよ、宏美の場合」

「え?」

「俺も八家の人間なのさ。

 だけど、宏美の足元にも及ばない。

 炎と水の、弱点の関係だと言うことを除いても、な」

 シャンプーを出し、手の上で泡立て始める紫苑。

「どういうことだ?」

「・・・・・・とりあえず、八家ってヤツのことは宏美から聞いたんだな?」

 髪を洗い始めながらそう訊くと、

「ああ」

「だったら、いいか。
           みかげ  みしげ   あまみ やがみ  みさき  おおみ  かぐら  みかげ
 八家ってのは、神光、神重、天神、矢神、神崎、大神、神楽、神影って家だ。

 ンでだな、それぞれ光、風、地、木、火、金、水、闇を司る竜王の魂を持っているわけだ。

 俺は炎で、宏美は水。

 それで、基本的に俺よりも宏美の方が強いわけだ。

 術とかの合戦になればな。
      あいつ
 だけど、宏美はそれだけじゃないんだな、これが」

「それだけじゃない、って、あんな反則的な力の上にか ! ?」

「ああ、そうだ」

 ザバァッ

 桶に貯めた湯で髪に付いた泡を流す紫苑。

「あいつはな、それだけじゃなくて、“神”なんだ」

「・・・・・・・・・キ○ガイ?」

「人聞きの悪い」

 タオルに石鹸をこすりつける。

「この世界と、裏表の関係にある世界、そこの住人達は、魂を共有しているんだ。

 だがな、魂を共有していない者達もほんの少しだけいるんだ。

 その数少ない例外の一つが、この世界の神だ。

 神は、魂そのものだ。

 自らを構成するモノは魂だけ。

 存在するときは、魂の持つエネルギーを物体と等価交換して、現れるんだ。

 そして、神は時として、人間として転生する。

 その人間は、基本的に魂を持っていない。

 正確に言うなら、肉体そのものが魂なワケなんだがな。

 だが、その数少ない例外にも例外は存在するわけで、神の転生した人間が、向こうの世界の者と魂を共有することもある。

 更に、そうした人間は、八家の人間をも越える力を有する場合がある。

 ・・・・・・ここまで言えば分かるだろ?」

「・・・・・・まあ、一応。

 つまり宏美さんは、八家の人間であるだけじゃなくて、更に神の転生体ということだな」

「そゆこと。

 しかもその神様ってのがねー、スサノオなんだよ」

「ぐはっ(吐血)」





 風呂上がり、Dは手入れの行き届いた、宏美の部屋にいた。

 浴衣姿に、バイザーで。

 そして、宏美の部屋には宏美と龍之がいた。

「お風呂加減はいかがでしたか?」

「とっても良かったよ」

「さて、それでは宏美の強さを教えて差し上げましょうか?」

「ああ、龍之、恥ずかしいから言わないでくれ!」

「恥ずかしいのか?」

「そりゃもう。

 僕、これで結構恥ずかしがり屋なんですよ」

「じゃぁ、自分で話せば?」
 
「嗚呼、もっと恥ずかしい!」
 
「・・・・・・そんな風に大声出す方が、もっと恥ずかしくないか?」

「それもそうですね。

 ・・・それにこれは、昨日の話の続きにもあたりますし・・・・・・

 それでは、話しますね・・・・・・・・・」

 

 

機動戦艦ナデシコ
TWIN DE アキト
サイドストーリー第一部〜蜥蜴戦争前夜〜 


第弐話 宏美の『結婚物語』




 
「こんの、破廉恥男ーっ ! !」
 
 ボグゥッ!(殴られた音)
 
「誤解ですよぉ〜」

 どっぱぁぁぁーーんっ!
 
 弁解も虚しく、宏美は空を舞った。

 空を舞わせたのは龍之。

 着替え中にノック→ドアが開く→宏美現る→反射的に殴る、というわけだ。

 ・・・・・・某女子寮のようだが、これはそのマンガの存在を知る前(というか連載される前)に考えていたネタである。

 そーゆーのが多いんですよね。私のオリジナル小説って。

 それはともかく、宏美がどこまで飛んでいったかというと、やっぱり、ギャグらしく庭の池に落ちた。





「こ・・・この龍之さんにそんな時代が・・・・・・」

「お恥ずかしい限りです(赤面)」





「う〜ん・・・・・・あーゆー時の龍之ちゃんって、僕でもかわせないぐらい剣撃(拳撃)が早いや」

 そんなことを呟きながら廊下を歩く宏美。

「・・・・・・・・・・・・」

 ふと、西の空を見上げる。

「・・・嫌な天気だな」

 その時の宏美の目は、いつも絶やさないニコニコ笑ったキツネ目ではなかった。

 ・・・遥か遠き、京都の空で雷が光る・・・・・・・・・





「ふん、ふふふん、ふっふふ〜ん♪」

 鼻歌を歌いながら、夕御飯の用意をする宏美がいた。

 その足下で、座り、シャールを頭に載せながら、理樹が本を読んでいた。

 本の題名は「武器よさらば」

 はっきり言って、10歳の少女が読む本ではない。

 いや、確かにヘミングウェイの名作だけどさ。

 それはいろいろまずいだろ。思春期の少女にゃ。

 ジュワァァァァァァ

 面白いようにエビが揚がっていく。

 今日の夕飯はエビフライだ。

 トントントントン

 宏美の右には野菜を切る麗宝がいる。

 包丁の使い方も堂には入っている。

「ヒロミ、どうしたネ。

 なんかゲンキないみたいニみえるヨ」

「ん? そう見える?」

 少し顔を上げ、麗宝の方を向く宏美。

 その顔にはいつもと同じ・・・・・・だが、どこかが違う笑顔があった。

「・・・宏美、寂しそうに見える」

「・・・・・・・・・・・・」

 理樹の言葉を沈黙で返す。

 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


「・・・・・・男でも女でも宏美は宏美なのに。
 
 どうしてこうなるんだろう・・・・・・」
 
 そう・・・麗宝が呟くのを、宏美と理樹は聞いた。

 ジュワワワァァァァァァ・・・・・・・・・・・・

 フライの揚がる音が・・・・・・

 奇妙なまでに静かな調理場に響く・・・・・・・・・





 宏美と弁天寮住人との間の確かな不協和音。

 それを抱えたまま・・・・・・龍之達、22世紀の退魔師達は、過去最大の魔物と戦うことになる・・・・・・





 京都の山奥深くにある締め縄の施された割れた大岩にて、強大な魔が甦った。

 強大な封印が、魔が数十年掛けて呼び寄せた落雷によって、封印の核たる岩を砕かれたたのだ。

「永カッタ・・・・・・50年・・・・・・

 千年数百年ヲ生キタ我ニモ、50年ノ封印ハ・・・・・・
 
カグラ マサミネ
 神楽 雅峰・・・・・・積年ニ渡ルコノ恨ミ、今コソハラシテクレヨウゾ・・・・・・・・・」

 東の空を赤い目で見上げる魔物・・・・・・吸血鬼“ブラッディ”。

 そして・・・・・・魔物はその漆黒のマントを広げ、飛び立った。



 暫くして・・・・・・

 タタタタタタタッ

 足音が吸血鬼族の中でも最強に最も近いと言われる“ブラッディ”の封印の場に近付いてきた。

「くそっ! 遅かったか ! !」
               かんご
 そう叫んだのは天皇寺 寛吾。

 龍之の父親である。

 タッタッタッタ

「あなた ! ?」
                    かすみ
 寛吾を追ってきた女性、天皇寺 霞が寛吾に声をかける。

「遅かった!

 至急、雅峰様に連絡を!」

「はい!」

 霞が家・・・・・・神鬼の道場へ向けて駆けていく。

 寛吾は東の空を見上げながら思った。

「(和重様・・・・・・

 何故あなたは・・・・・・・・・)」



 その数分後、春臣と雅峰の家の電話のベルが鳴る。

 そして、雅峰から宏美に一本の電話が伝わる。





「・・・・・・ヴァンパイア?」

「はい、ヴァンパイアですよ?」

「それがどうかしましたか?Dさん」

「ンなモン、ほんとうにいるのか?」

「いますよ。

 実際に、連絡を取ろうとすれば連絡の取れるヴァンパイアが三人ほどいますし」

「・・・・・・・・・世の中って・・・・・・広いんだな・・・・・・・・・(何故か、爽やかな笑顔 ←壊れ気味)」

 



 翌日の朝刊より。
 
『西日本震撼!恐怖のミイラ事件。
 
 事件の陰にいる者は ! ?』
 
 その内容はというと・・・

『昨日午後10時、京都府京都市五条大橋付近にて、女性の変死体が発見された。

 女性は鹿島 麻奈(24歳・無職)。

 鹿島さんは今日の午後5時頃に家を出た後、アルバイト先のファーストフード店のゴミ捨てをした時に殺されたと推測される。

 遺体は何故かミイラ化しており、血液の99%以上が抜き取られていた。

 同僚によれば鹿島さんは6時からアルバイトに入り、8時頃ゴミ捨てに出たという。

 帰りが遅いので、店長が外に様子を見に出たところ、鹿島さんがミイラ化して死んでいるのを発見したとのことだ。

 同様の事件が9時頃に大阪で、10時頃に名古屋で起こっていることが確認されている。

 今のところ、分かっているだけで被害者は5人。

 5人はいずれも女性だが、接点は何もなく、警察は殺人、事故、新種の病気の線で捜査を進めている』





「・・・・・・それがどうかしたのか?」

「まぁ・・・・・・この事件が、後々の伏線になるんですよね」

「この事件で初めて、当時は気絶していたから、そんなような気がしただけ、だったんですけど、宏美が力を使ったんですよ」





 弁天寮の朝は修行で始まる。

「せやぁっ!」
 
 どごぉっ!
 
 今朝の修行内容は「長所を伸ばそう」だ。
                            にかみ                いわたち
 だから龍之は得意技の一つである「神鬼流 準奥義の壱  岩 断」を、巨石にかました。

 巨石は見事にまっぷたつに割れた。

 その切り口はなめらかな平面。
                                             こそう
 しかも(元)巨石は幅3m、高さ2m、奥行き3.5mと、龍之が使った刀「虎爪」の刃渡りより奥行きがある。

 そして返す刀で同じく準奥義の弐「砕岩剣」をかます。

 元巨石の片方が砕け散る。

 バラバラになった岩の欠片が空を舞う。

 さらに、そこに奥義の弐「斬鋼閃・乱舞」をかます。

 これは斬鋼閃という準奥義の参(飛び道具)を数発〜数十発かます技で、その名の通り、鋼を切り裂く。

 だが、その切れ味は(何故か)金属に対してしか発揮されない。

 その他のモノに対しては、まあ生物だったらスパスパ切れるが、岩とかは傷が付けば凄い方、というなんかワケの分からん技である。

 しかし、そんな技でも一ヶ所に集中して何発も入れれば岩も切り裂く。

 (元)巨石のもう片方は、こうしてさらに細分化された。

「・・・・・・・・・」

 巨石を破壊し尽くした後、龍之は何かについて考え込んだ。

「(・・・・・・技の切れは悪くはない。

 いや、ここに来てから、より、切れが良くなっている。

 それなのに何故だ?
       ヤ ツ
 今まで神楽に技が完璧に入ったことがないのは)」





 弁天寮の朝は、修行で始まり、その次は朝食となる。

「・・・・・・」

 龍之を始めとする弁天寮の住人、ほとんど全員が、朝食を無言で食べる。

 そして、住人の中の3割ほどが眉を顰める。

 龍之もその一人である。

「(・・・・・・神楽の料理、この頃、どこかが変だ。

 料理をしている合間や、修行中の様子も・・・・・・。

 まるで、心在らず、といった風だ)」

 ぱくっ

 口に何処かが何時もと違う卵焼きを放り込む。

「(・・・・・・やはり、私たちとの間のことを気にしているのだろうか?

 しかし・・・・・・だとしても、今日は昨日よりも酷い・・・・・・・・・)」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・


 気まずい空気のまま・・・・・・穂が来てからちょうど10回目となる朝食が終わった。





 弁天寮の朝は、朝食が終わると一時間ほど、自由時間となる。

 朝っぱらからゲームをやる者、マンガを読む者、新聞を読む者・・・・・・・・・

 住人の過ごし方は人それぞれだ。

 龍之の場合は新聞を読み、その後通学の時間までおおよそ20分の間瞑目する。

 しかし・・・・・・この日は何時もと違った。

 新聞を何時もと変わらず、隅から隅まで読む。

 ・・・・・・さすがに、週刊誌や車の広告などは読まないが。

 そして、彼女が三面記事を読もうとしたときだ。

 コンコン、などとノックもせずに麗宝が飛び込んできた。

「タツノ!」

「どうした、麗宝」

「シンブンよんだか ! ?」

「いや、これから三面を読むところだが・・・」

「だったら、はやくこのきじヲよむネ!」

「あ、ああ」

 麗宝が指し示した記事を読み始めたとたん、顔色を変える。

「これは・・・・・・ ! !」

「そうネ、これハ“う゛ぁんぱいあ”ニやられたときノしょうじょうトおなじヨ」

 ヴァンパイア・・・・・・・・・
                                   アンデッド
 それは、説明する必要もないくらいポピュラーな不死族の一つだ。

 それが何時から派生したか、その記録はすでに失われてしまったが、彼らはほとんどの場合、元人間だ。

 魔力や永遠の生命を求め、ヴァンパイア化した者がまず一つ。

 ヴァンパイアに血を吸われることによってヴァンパイア化した者が、ヴァンパイアの半数以上を占める。

 そして、基本的に子を成すことが出来ないヴァンパイアとヴァンパイアないし人間との間に生まれた、極々少数の者。

 彼らは生きる(?)為に生物の“血液”を必要とする。

 ・・・・・・某ファンタジー小説に於いては、生野菜とかでいいんだよ〜、などとなっているが、実際には血液でなければ駄目なのだ。

 血液以外の物も接種することは可能だが、エネルギー量が少なすぎて、生きるために必要なエネルギーを賄うには、よほど大量(1日にキロ単位)に食べなくてはいけないのだ。

 だから、無理なのだ。

 そして彼らの魔力は強力無比。

 ・・・魔物の中には、ヴァンパイアを圧倒的に越える魔力を有する者もいるが・・・・・・

 だが、そんな彼らにも弱点はあることはある。

 まず、太陽。

 太陽光を浴びると灰になる、と言うが、それは余程力の弱い者ぐらいで、大抵のヴァンパイアは数分〜数十分ほどならば陽の下にもいられる。

 次に十字架。

 これは全くのデマ。

 なんで、魔物だ、って理由だけで十字架に触ると火傷をするのだろうか?

 勿論、火で熱していたりすれば別だが。

 そしてニンニク。

 別にニンニクに限った話ではなく、強烈な匂いがその鋭敏な嗅覚が捕らえるから駄目なのであって、本人が嫌いな匂いの物ならば、弱点と成り得る。

 流れる水の上はダメ。

 これも嘘っぱちである。

 考えてみても欲しい。

 この世にゃ一体どれくらい、地下水脈という物があるのかを。

 ダウジングというモノも、科学的な根拠のある仮説(小難しい話はさておいて、人間が無意識レベルで知覚している、というもの)が出てきてるような時代である。

 人間よりも感覚器官が優れているヴァンパイアが、人間が無意識的にでも分かるものを知覚出来ないワケがない。

 さて、ヴァンパイアに対する注釈はこれで十分だろう(十分すぎ?)。

 ヴァンパイアに噛まれた人間は、何回か血液を吸われるか、一定時間以上噛み付かれていると、ヴァンパイア化する。

 ヴァンパイアは、基本的に相手の人間を殺さない。

 しかし、時々、人間を殺してまで、多量の血液を接種しようとする者もいる。

 そうして殺された人間は、血液のほとんどを吸い尽くされ、また、ミイラ化する。

 そう。この事件の被害者達のように。





 このことが寮中に知れ渡り、てんやわんやの大騒ぎとなった。

 しかし、宏美は何も言わなかった。





「クククっ・・・・・・

 我ガ失ワレタ力・・・・・・

 例え質ガ落チタトシテモ・・・・・・雌ドモノ血ガ癒シテクレル。

 待ッテイロ・・・・・・神楽 雅峰・・・・・・・・・」

 木曾の山中、ブラッディが呟く。

 東の空を見上げて・・・・・・





 翌日の朝刊に、再びミイラ事件の記事が載る・・・・・・





 そしてその夜、御神楽学園の理事長室に二つの影があった。

 そのうち片方は宏美の母方の祖父である神楽 雅峰。

 そしてもう片方は世間を騒がせるミイラ事件の犯人・・・・・・ヴァンパイア“ブラッディ”。

「久しぶりだな、ブラッディ」

「アア・・・・・・本当ダ。

 50年前ニ相対シタトキ以来ダヨ・・・・・・

 クククっ・・・・・・

 50年・・・・・・千数百年ヲ生キタ我ニモ永イ時間ダッタヨ。

 今コソ積年ノ恨ミヲ晴ラシテクレル」

「お前にそれが出来るかな?

 例え、12人の血液全てを吸い尽くしたとはいえ、二日前まで力のほとんどを失っていたお前に」

「老イボレタ貴様に言ワレトウナイワ」

「ほざけ」

 そう言うと雅峰は椅子から立ち上がり、壁に飾ってある剣の中から一振りの刀を選び、部屋の外へと向かう。

「何ヲスルツモリダ?」

「・・・外へ。

 ここを壊すつもりはない」

「ふん。

 そうか」





「・・・いい場所だろう?ブラッディ、いや、天皇寺 和重よ」

「クククク・・・・・・ソウダナ・・・

 ソレデハ行クゾ!雅峰!」

「来い!」

 ブラッディが強烈な瘴気を発しながら、達人クラスの者でも容易に見切れないスピードで迫る。

 だが、雅峰は易々とそれを見切り、ブラッディの右腕の一撃を避ける。

「甘イ」

 ブシュッ

「何っ ! ?」

 雅峰の左腕から血が噴き出した。

「ククク・・・・・・

 貴様ニ封印サレルマデ我ニハ突進シカ脳ガナカッタ。

 ソレダケデ事足リタカラナ・・・

 シカシ、我ハ貴様ニ敗ケタコトデ少シハ戦イ方ヲ身ニツケタノダヨ。

 千数百年ニシテ一歩トイウノハ笑イ話ダガネ」

 ブラッディは右腕に術で不可視の刃を作り上げていたのだ。

 そしてその不可視の刃が紙一重で避けたが故に、雅峰の腕を切り裂いたのだ。

「・・・全くだ。

 千数百年を生き、50年も頭を冷やしていたヤツが進歩していないはずがないのにな」

「ソウイウコトダ」

 雅峰は傷に手を当て、何事かを呟いた。

 その途端、手と傷口の合間に青い光が生まれる。

 そして雅峰が手を放したときには今の今まで血を吹いていた傷が消えていた。

「ククク・・・・・・

 ヤハリ神楽ノ血筋ダケノコトハアル。

 シカシ、イクラ術デ傷ヲ塞イデモ血ガ無クナレバ貴様ラトテ生キテハオレマイ」

「・・・・・・・・・」

 雅峰は何も言わずに先程のブラッディ以上のスピードで切り込んだ。

 愛刀“水薙(みなぎ)”を振り翳して・・・・・・





 弁天寮の住人達は、夜半に目を覚ました。

 理由は簡単である。

 弁天寮の付近・・・・・・距離・方向を考えると、御神楽学園に強烈な瘴気を感じたからだ。

 そして、住人達の家の数人・・・・・・龍之、瞳、沙代、沙和、麗宝、美宝、理樹が寮を飛び出した。

 それぞれの扱う武器を持ち、それぞれの戦闘スタイルで・・・・・・
  ・ ・
 八つの影が御神楽学園を目指して疾走する・・・・・・・・・





 ガキィィィィンッ

 澄んだ音を立てて水薙が地面に落ちた。

「貴様モ老イタナ。

 アレシキノ戦闘デ足ニ疲労ガ来ルトハ・・・・・・」

「そう言うな。

 儂とて歳は取りたくないわい」

「何ヲ言ウカ。

 貴様ラ八家ノ者ニ時ハ無イデアロウ」

「我らとて人間。

 時の流れを無視することはできん」

「嘘ヲツクガイイ。

 我ハ知ッテイル。

 貴様ラ八家ハ不老不死ナル者・・・・・・神ソノモノダトイウコトヲ」

「・・・・・・・・・・・・。

 不死を追い求める者には分からんよ。我らの選択は・・・・・・」

「フン・・・・・・。

 マアイイ。

 ソレデハ死ネ」

 淡々とそう言うと腕を振り上げる。

 そして心臓を目掛け振り下ろす!

 ザシュッ

 雅峰の胸から鮮血が迸った。

 しかし・・・・・・

 その腕は心臓を貫くことはなかった。

「何ヤツ!?」

 ブラッディは飛んできた矢を避け、飛び退き叫んだ。





 ヒュッ

 風を切る音がする。
                  ・ ・
 大空を舞うように跳び、疾る七つの影。

 学園が見えてくる。

 人と人に在らざる者の気配が感じられる冬季校庭へ向かう。

 そしてそこには・・・・・・

 仰向けに倒れている御神楽学園理事長、神楽 雅峰と、漆黒のマントを着た長い銀髪の、紅い眼の男がいた。

「(あれがヴァンパイア(か)・・・・・・!)」

 七人の誰もがそう思った。

 ヴァンパイアは腕を振り上げていた。

「沙和!」

「分かってます!」

 沙和はそれを見るなり、自分の最も得意とする武器・・・・・・弓矢を構えていた。

 この弓矢は霊器。
       しゅうよく     しゅうし
 銘を「鷲翼」、「鷲嘴」という。

 気を乗せて撃てば岩をも貫くという。

 沙和が矢を放つ。

 ヴァシュゥゥゥゥン

 蒼いルーンの光に包まれ矢が宵闇の中を疾駆する。

 そして鷲嘴がブラッディの腕に吸い込まれる・・・・・・





 押し殺した怒りも露わに、
 
「小娘ドモガ・・・・・・!」
 
 ヴァシュゥゥゥゥン

 再び鷲嘴がブラッディを襲う。

 だがそれを腕の一振りで蹴散らす。

「えっ!?」

 沙和が驚愕する。

 鷲嘴は、かなり強力な霊器。

 今まで戦った魑魅魍魎の類に、これを避けた者は結構いた。

 結界で防いだ者もいた。

 直撃を受けても生きていた者もいた。

 そして自らの攻撃をぶつけ、相殺した者もいた。

 だが、彼らも腕で弾き飛ばそうとし、腕を失ったのだ。

 しかしこの吸血鬼は・・・・・・。
 
「カァッ!」
 
 ブラッディが雄叫びを上げる。
 
 ゴウッ
 
 凄まじい烈風が7人を襲った。
 かまいたち
 鎌 鼬などという生易しいものではない、風の刃が7人の肌を傷つける。

「風よっ」

 龍之が魔力の込められた文字の書かれた符・・・・・・呪符を投げつける。

 呪符は淡く緑に輝くと、風に溶け込むように消滅する。

 途端に7人を傷つけていた風が、龍之が造り出した風の壁に遮られる。

「赤く猛き炎は龍となりて

 全てを呑み込み焼き尽くさん!

 
火龍撃!」

 瞳が龍之と同じように呪符を投げつける。

 呪符は風の結界から出た途端に燃え、炎の龍となる。

 炎の龍は風の刃の中を進み、その口を開ける。

「グウッ」

 ブラッディが龍に呑み込まれた。

 しかし、

「コノ程度!」

 再びブラッディが腕を振る。

 炎の龍はその腕の一振りで消し飛んだ。

 だがその時には龍之、沙代、麗宝が刀を手にし、肉薄している。

「神鬼流 奥義の参 破龍!」

「御堂流剣術 準奥義、魔霊斬!」

「崋山尖!」

 龍之の上段の構えからの一撃、沙代の袈裟懸け、麗宝の突きがブラッディを襲う。

 しかし、その全てがあっさりと捌かれる。

「なにっ!?」

「ばかなっ!」

「コンナノ反則ネ!」

「貴様ラガ弱イダケダ」

 再度ブラッディが手を振ると、辺りの土が、形を取り始める。

「貴様ラナド土人形デ十分ダ」

 ブラッディの言葉通り、土は人型をとった。

 顔は、無い。

 いや、目、口、鼻の部分にそれぞれ盛り上がりや窪みがある程度か。

 土人形は、その数20。

 一匹一匹は大したことのないこの土人形だが、彼らは数が増える事に厄介になっていく。

 土に溶け込み、移動する。

 そして、仲間の中からも現れるのだ。

「主よ、光を我に」

 小さな声で、理樹は祝詞を唱えた。

 次の瞬間、真っ白な光が辺りを照らした。

 その光の中に、10体ほどの土人形が掻き消えた。

 残りの10体ほどの中に、無傷のモノは二体ほどしかいない。

「ククク・・・

 ドウヤラ少シ甘ク見テイタヨウデスネエ」

 嘲るような笑い声。

「ダガ、アレシキデハ我ガ式ハ倒センゾ」

 その言葉の通り、倒したと思った土人形が再び土から現れる。

 また、傷付いていたモノも、その傷はみるみるうちに塞がった。

「なにっ!?」

「我ガ土人形ヲソコラ辺ノ粗悪品ト一緒ニシテ貰ッテハ困ルナ」

「ならばっ!

 援護を頼む!」

「任せろ!」

 龍之の言葉に沙代が応える。

「任せてください」

 沙和が矢を放ちながら答える。

「遥けき彼方より我が元に

 虚空の果てより今ここに」

 龍之が呪を紡ぎ始める。

「うぅ・・・・・・うおぉ〜〜を・・・・・・・・・」

 不気味な声を上げながら土人形が龍之に迫る

「破ぁっ!」

 沙代が振るう一撃が、一体の人形を両断した。

「天空に輝く星々

 その光芒の一閃は」

 ザシュッ

 二体の土人形が、瞳の槍に貫かれ、土塊へと還った。

「闇の軍勢を打ち払わん
     ほし かげ
 “星光”!」

 星が爆発した。

 物質的な圧力さえ伴うその光が、容赦なく辺りを照らす。

 空は晴れた真夏の昼よりも明るい。

 その圧倒的な力を持った光が土人形達を包む。

 輪郭からぼろぼろと崩れていき・・・・・・

「しゅぎゃああぁぁあぁぁぁ・・・・・・」
 
 気味の悪い悲鳴をあげ、人形達は崩れ、消え去った。

「ホウ。

 アレヲ倒ストハ!

 ソレニソノ術・・・・・・

 貴様、天皇寺ノ者カ!」

「なっ!?

 き、貴様は一体・・・!」

「我ハ“ブラッディ”。

 血塗ラレシ血族ノ一員。

 ソシテ、我が真ノ名ハ“天の」

 ブラッディがそこまで言ったときだった。

「キ・・・貴サ・・・マ・・・・・・」

 唇の端から血がつぅーっと流れる。

 その胸からは血に濡れた刃が生えていた。

「私の存在を忘れないでください」

 ズシュ

 美宝が直刀を引き抜いた。

 ブシューー

 まるで噴水のように血が噴き出した。
 
「カァァッッ!!」
 
 ゴブゥっっ!!!
 
 凄まじい風が美宝を吹き飛ばした。

 その白く美しい肌には無数の傷がある。

 出血こそ無いものの、その傷は、深い。

 皮膚の下の肉どころか、筋肉が露出し、断裂しているのが見て取れる。

「美宝!」

 それを見た麗宝が叫ぶ。

「よくも美宝を・・・!」

 彼女は懐から四枚の紙を取り出した。

「赤き鳥よ、青き龍よ、黒き亀よ、白き虎よ!

 我が元へ来たりて闇を討て!
  し  も  ん
 四門!」

 麗宝の手にあった呪符が浮かび、四角形を形作る。

 符に輝きが灯る。

 上に赤い光が、右に青い光が、下に黒い光が、左に白い光が。

「う・・・ぐ、ぐうぅううう」

 麗宝が、その、龍之が放った光よりも強烈な力の反作用に、呻き声をあげる。

 激しい苦痛に耐えながら、四つの光を制御する。

「姉さ・・・・・・ん・・・・・・無茶・・・よ、それ・・・・・・は・・・・・・。

 四神流の最終奥義・・・・・・四門・・・・・・・・・体が・・・耐えられ、ない・・・・・・わ・・・・・・」

 唇の端から血を垂れ流し、途切れ途切れに麗宝に声を掛ける。

「喋っちゃダメ、美宝。

 うぅ・・・くっ・・・・・・!

 行けぇっ!」

 その声に反応し、光が螺旋を描きながらブラッディへと殺到する。
 
「我ガ盟約ニヨリ、出ヨ、雷獣!」
  
 ブラッディが、雷獣“ヌエ”を召還する。

「闇ノ化身ヨ、我ガ盟約ノ元ニ来タレ!」

 続いて闇の精霊“シェイド”。
 
 グオォォオォオォォォォォォ
 
 激しい咆吼と共に現れたその雷の精霊は、大きく開いた口から圧倒的なまでの力を持つ雷球を吐き出した。

 雷球は、四色の光の螺旋とぶつかり合い、押し合う。

 ほんの数秒の押し合いの結果、ヌエの吐き出した雷球は光の螺旋の中に消えた。

 多少力の弱まった光の螺旋。

 しかし、それはまだ恐るべき力が内包されている。

 だが、シェイドが放った黒い閃光が、再び光の螺旋とぶつかった。

 再び押し合う2つの力。

 そこに、ヌエが再度雷球を放つ。

 三つの力が影響しあい、大きな爆発が起きる。

 その爆発に巻き込まれ、ヌエとシェイドがこの世より消滅する。

 また、ブラッディ爆風に吹き飛ばされる。

 そのすぐ後ろに横たわる美宝も、風に嬲られ、転がった。

 ただ、美宝と爆心地の間にブラッディが居たこと、彼が壁状の結界を一瞬とは言え発生させたことが幸いし、美宝は無事だった。

 麗宝は、沙和が作り出した結界に守られるも、結界にぶつかるその力が起こした衝撃にやられ、沙和共々気絶。

「主よ、我らを守り給え」

 十字架を両手に持ち、前に突き出しながら、理樹は祝詞をあげる。

 その途端、不可視の力が、荒れ狂う強烈な風から理樹、龍之、沙代、瞳を守る。

 だが、四人を守るための結界としては、その力は弱い物だった。

 激しい風と結界のぶつかり合いは、結界の内側に衝撃を生み出す。

 そして、四人は沙代達と同様、気絶した。

 傷を癒しても、激しい出血故に動けない雅峰。

 彼もまた、結界で身を守ったが、意識を失った。



 御神楽の校舎、その屋上に・・・・・・

 それらを見守る人影があったことを・・・・・・

 誰も知る由はなかった。

 そう、雅峰ですら・・・・・・・・・





「フゥフゥ・・・・・・

 ハァハァ・・・・・・

 フフフフ・・・・・・フハハハハハ

 ハーーッッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 激しい哄笑。

 狂おしいまでの歓喜。

「我ヲココマデ追イツメルトハナ・・・・・・

 クックック・・・・・・

 ダガ運モ尽キタヨウダナ・・・・・・

 ・・・・・・死ネ」

 本来なら、全員の血を吸い尽くす。

 だがこいつらは・・・・・・

 苦しませる。

 この最強の吸血鬼たる我に傷を付けたのだから。

 苦しませる。

 この我をここまで追いつめたのだから。

 苦しませる。

 泣き叫び、死を懇願するほど・・・・・・

 ブラッディの周りに二十体の土人形が現出する。

 人形達は龍之達7人と雅峰の元へと移動する。

 そして、その体に触れようとしたとき。
 
「ナンダッ!?」
 
 人形達の体が粉砕した。

 再生はしない。

 土塊に埋め込まれた仮初めの魂が砕かれたからだ。

「殺させはしません」

 どこからともなく聞こえてくる声。

「貴様ハ!?」

「僕が誰であろうと、これから死にゆく・・・・・・いえ、死んだ者には関係ありません」

「ドウイウ意味ダ!」

 その声に問い掛けるブラッディ。

「分かりませんか?」

 すぐ後ろで、声がした。

 振り返ろうとして・・・・・・

 自分の首が空を舞っていることに気が付いた。

「あなたは、もう死んでいるんですよ」

 空中を舞う首が、自分を殺した相手を視認した。

 相手は・・・・・・蒼い、長髪の者・・・・・・。

 眼鏡は、付けていなかった。

 闇の中に顔だけが浮かんでおり、性別は、判別できない。

 ただ、赤いぬめりを持った、抜き身の刀を持っていることが分かる程度。

「ですが・・・・・・あなたには恨みがありますし・・・・・・

 死者に鞭打つとしましょうか」

 刀を持ったのと反対の手、左手に蒼い光が灯る。

 光が手から放れる。

 ブラッディの体に吸い込まれ・・・・・・

 彼の躯は蒼い光に包まれた。

 そして氷付けになり・・・・・・

 砕け散った。

「!!」

 砕け散った破片は、次の瞬間ミリ単位以下の粒となり・・・・・・

 風の中に、消えた。

「今度はこちらですね」

 再び、蒼い光が左手に灯り、ブラッディの頭を目掛け、飛来する。

 そして・・・・・・ブラッディの頭は、躯と同じ命運を辿った。

「・・・・・・・・・・・・」

 それを冷然と見つめると、美宝の元へと向かった。

「可哀想に・・・・・・痛かっただろう?

 だけど・・・もう大丈夫だから」

 そう言うと、右手を彼女に向けた。

 右手に、優しい蒼い輝きが灯る。

 先程ブラッディを倒したものとは違う、優しい、輝き。

 その輝きは美宝に吸い込まれるように消えた。

 そして、美宝の体を蒼い光が包み込む。

 すると、美宝の体中にあった傷が、だんだん塞がり始める。

 数秒後、傷は消えていた。

 傷痕一つ残さずに。

 続いて、雅峰の元へ。

「・・・・・・・・・・・・」

 無言のまま、手を翳す。

 そこには蒼い輝き。

 そして土気色の顔をした雅峰を包み込み、生気を宿す。

 蒼髪の持ち主は気付かなかった。

 ブラッディを倒す光景を、美宝・雅峰を治す光景を意識朦朧としながらだが、龍之が見ていたことを。

「(お前は・・・・・・神、楽・・・・・・・・・?

 その力は・・・・・・一体・・・・・・・・・)」

 そして・・・再び意識を失った。





「と、まあこれが事件の顛末です」

「へえ〜え。

 ところで、そのブラッディってゆーヤツは、今の龍之さんとどっちが強いの?

 龍之さん、無茶苦茶強いけど」

「龍之ですね。間違いなく。

 あなたにも倒せると思いますよ。

 龍之と互角以上なんだから。

 さて、それじゃそろそろ僕が誰と結婚しているのかって話だね・・・・・・」

 

 

 

 




 男は嫌いだ


 だから私は・・・・・・


 男は嫌いだ


 そんなことで私は・・・・・・


 男は嫌いだ


 たったそれだけの理由で・・・・・・


 男は嫌いだ


 私は家を継げない


 男は嫌いだ


 自分より劣った兄


 男は嫌いだ


 私は継げないのに


 男は嫌いだ


 それなのに・・・・・・


 男は嫌いだ


 あいつは継げる


 男は嫌いだ


 男は嫌いだ


 男は・・・・・・・・・


 いいや、違う


 本当は男が嫌いなんじゃない


 男が怖いんだ


 多分、あの時の出来事


 男は嫌いだ


 それに・・・・・・


 男は怖い


 あのこともきっと関係している


 男は嫌いだ


 男は怖い


 男は


 男は


 オトコは


 オトコハ・・・・・・


 でも・・・・・・なぜだ


 男は嫌いだ


 それなのに私は


 男は怖い


 ヤツの側にいる


 男は嫌いだ


 そうだ・・・・・・


 男は怖い


 あいつさえ居なければ・・・・・・


 男は嫌いだ


 私はそんなこと


 男は怖い


 考えなくて済む


 男は嫌いだ


 男は嫌いだ


 男は怖い


 男は怖い


 男は、オトコは、オトコハ・・・・・・










 7月21日・・・・・・

 その日、天気は最悪だった。

 あの時と同じ。

 ヤツが、龍之が申し込んだ決闘・・・・・・

 それを煙に巻いたとき、10日前と同じ天気。





 住人達と宏美の不協和音は、10日前の決闘事件の際に、ほとんど消えた。

 ただ1人・・・・・・

 何か釈然としない物を抱えたままの龍之を除いて。





 その日の夜のことだった。

 三角巾を頭に付けた宏美が、掃除用具を両手に風呂場へ行く。

 「入浴中」の看板は出ていない。

 それを確認した宏美は、引き戸を開け、脱衣所へ入る。

 鼻歌を歌いながら、露天風呂(10分ほど前に雨は止んだ)に続く側の引き戸(弁天寮には露天風呂と普通の大浴場の2つの風呂がある)の中に消える。

 そして・・・・・・・・・
 
「何を堂々と覗きしているんだぁーっっっ!!!」
 
 龍之の声が響き渡った。



 悲鳴を聞きつけた寮生達が風呂場に駆け付けたとき、刀を振り回す夜叉と、それから逃げ回る情けない1人の男が居た。

 ・・・・・・・・・蛇足ながら、彼女は湯浴着を着ている。

「何を・・・・・・やってるんだ?」

「決まってるじゃないですか、姉さん。

 いつもの、ですよ」

「見てないで助けてくれ〜〜〜」

「待てと言ってるんだ〜〜っっ!!!

「きょうもモへいわネ」

「ええ、そうですね」

「・・・・・・お兄ちゃん、楽しそう」

「・・・それはないと思う、穂」

「龍之ちゃん、いい加減にしなさい」

 瞳の声に、

「止めないでください、瞳先輩!」

 と答え、宏美を追いかけ続けた。

 そして、面白がる沙代、沙和に協力させ、隅っこに追いつめる。

「さあ、覚悟しろ」

「女の子の裸を覗くなんて・・・・・・いけない人ですね♪」

「・・・沙和、お前楽しんでるだろ」

「いけませんか?姉さん」

「・・・・・・もういい」

 三人(特に龍之に対して)怯えながら宏美が問う。

「ぼ、僕が一体何やったってゆーんだよ〜〜(涙)」

「「「「「「「「覗き(キッパリ)」」」」」」」」

「ひえー、みんながいじめるよ〜〜」

「お兄ちゃん、おふざけしないの」

「ふざけるんじゃない!」

 唐突に龍之が叫んだ。

「貴様・・・・・・いい加減にしたらどうだ」

「え・・・・・・?

 何の話?」

「惚けるのも大概にしろ。

 私が本気で放った技を一体何回避けたか分かっているのか?

 今のだけで10回以上。

 それを・・・・・・分かっているのか?

 それに・・・・・・私は見たぞ。

 お前がブラッディを倒すところを」

「なっ!?」

 その場にいた全員の驚愕の声が重なる。

 ただ一人、話題の中心たる宏美を除いて。

「(どう出る・・・・・・?神楽・・・・・・・・・)」

 龍之は、自分の言葉に確信はなかった。

 意識が朦朧としていたし、何より、目の前にいるこの軟弱者がそんなことが出来たのか、疑問が残る。

「・・・・・・・・・・・・」

 宏美は沈黙していた。

「何ならまた決闘をするか?

 私は、こないだのように風邪などひいていない。

 誤魔化しは通用しないぞ」

「・・・・・・・・・・・・。

 仮にそうだったとして、だったら龍之ちゃんはどうするんだい?」

「・・・・・・私は・・・・・・・・・貴様が側にいると、自分が自分でなくなる。

 もし、私よりも強いのならば、そのことに耐えよう。
                     こ  こ
 だが・・・私よりも弱いのだったら弁天寮から出ていけ。

 それが・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・。

 分かった。

 その決闘、受けるよ。

 決闘の場所は・・・・・・あの時の場所。

 10日前の・・・あの・・・・・・」





 水行のための滝・・・・・・

 その前には平らな地面が続く。

「・・・・・・準備はいいか?」

「・・・・・・・・・」

 龍之の声に無言で頷く宏美。

 龍之は剣道着を着、右手には「虎爪」という刀、左手には「龍牙」という小太刀を持っている。

 虎爪の切れ味は虎の爪よりも鋭く鋼を切り裂き、龍牙の切れ味は、岩を引き裂くほど。

 宏美は銘の打っていない刀を一振り腰に下げている。

 だが、その刀には名前があった。
  たちみ
 「断水」という・・・・・・神楽家に代々伝わる刀。

 その切れ味は、名前の通り、水の流れをも切り裂く。

「・・・・・・・・・行くぞ」

 龍之は、16日前のブラッディとの戦い。

 その時よりも鋭くなった剣撃を宏美に叩き付ける。

「・・・準奥義 真・壱式」

 虎爪を、上段から振り下ろす。

 スゥゥ

 流れるような、残像さえ見える動きで、宏美は後ろに下がる。

「まだ」

 その一撃の後、すぐに虎爪を横に薙払う。

 宏美はそれをも紙一重で躱す。 

 しかし、龍之はさらにその後龍牙による斬撃を仕掛ける。

 三撃を持って一撃となす。

 これが神鬼流剣術 準奥義 真・壱式“岩断・真之型”だ。

 だが、宏美はそれすらも紙一重で躱した。

 紙一重の回避。

 それは、ド素人が運良く達人級や、それに次ぐレベルの者の攻撃を避けるときか、さもなくば・・・・・・

 達人以上のレベルの者の回避。

 そして・・・・・・

 宏美はもう何回も何回も・・・・・・三桁に届くほど、紙一重で回避しているのだ。

 これは即ち。

 宏美の腕は達人以上の物。

 そのことに、龍之は気が付いている。

 自分では宏美には勝てないかも知れない。

 そんなことも頭の片隅では考えている。

 しかし、それでも龍之は攻撃の手をゆるめなかった。

 普通に戦えば自分に勝機はないだろう。

 しかし、相手に息を付く暇も与えなければ、そこに勝機が生まれるかも知れない。

 それだけを希望とし・・・・・・

 龍之は剣を降り続けた。

 直線的な龍之の動きに対して、宏美の動きは優雅。

 舞を踊るかのような足取り、体裁きで一撃一撃を確実に回避する。



 龍之の猛攻は半刻ほど続いた。

 しかし、龍之が押しているように見えて、実はそうではない。

 龍之の攻撃は、全てがことごとく回避されているのに対し、宏美は一撃も出してはいない。

 それどころか、断水を、鞘から抜いてさえいないのだ。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 息が、切れてきた。

 だが、それでも龍之は剣を振るい続ける。

 もう、相手に息を付かせぬほどの猛攻ではない。

 達人級の腕を持つ者から見れば、隙だらけの攻撃だった。

 しかし、宏美は攻撃しなかった。

「何故・・・・・・攻撃、しない」

「・・・・・・・・・・・・」

「答えろっ!」

 二振りの刀を、それぞれを持つ腕とは逆の肩に乗せ、振り下ろす。

 刀と刀が擦れ合い、通常の斬撃よりも遥かに早い斬撃を生み出す。

 神鬼流 奥義の伍 咬龍。

 技自身は簡単だが、隙が大きい。

 奥義としてのこの技は、超高速の戦闘態勢への回帰ができてこその物。

 それが出来なければただの自滅のための斬撃。

 大抵の者は、斬撃の後にバランスを崩すか、崩さずとも大きな隙が生まれてしまう。

 そして、龍之はこの技を完璧に扱える。

 宏美は、その一撃をも回避した。

「・・・・・・・・・・・・。

 女の子に・・・・・・ましてや幼馴染みに振るう剣は持ってないよ・・・・・・・・・」

「どういう意味だ!」

 さらに龍牙の突き。

 しかし、それも・・・・・・避けられた。

「・・・覚えてないなら、別にいいよ。

 でも・・・・・・・・・

 どうしてもと言うんだったら・・・・・・・・・・・・」

 助走無しで十メートル以上後ろに跳ぶと、観戦していた寮生の一人・・・・・・理樹に眼鏡を渡した。

 そして・・・・・・・・・断水を鞘から抜いた。

「・・・・・・神鬼流退魔術の天皇寺 龍之・・・・・・・・・。

 ここからは神魔流当代、神楽 宏美、お相手致そう」

「なっ!?」

 龍之は驚いた。

 宏美の雰囲気が変わったことに、ではない。

 いや、それもあるが、龍之は宏美の前で“神鬼流”の名を出したことはなかったのに、それを知っていたこと。

 そして・・・・・・・・・

 宏美の出した“神魔流”という言葉に、だ。

「神魔流だと!?」

 その言葉は、龍之だけでなく、理樹・麗宝・美宝以外のその場にいた寮生達全員を驚愕させた。

 何故なら、神魔流というのは「幻の八退魔術」と呼称される退魔術の一つ。

 そしてそれは、神鬼流の源流だ。

「・・・参る」

「はっ、速いっ!」

 大地を人蹴りしただけで、龍之の目の前へと移動した。
   ソウ
「霞・走」

 バシュゥッ

 運良くその一撃を回避した龍之。

 その耳には風が唸る音が聞こえた。

 それは宏美の後ろにいる寮生達にも聞こえた。

「飛燕」

 霞・壱式を回避された宏美は一度龍之と距離を取り、断水を鞘に修め、再度龍之目掛け走った。

 超神速(縮地)・・・・・・をも超えたスピードからの抜刀術。

 そして抜刀後の弧を描く離脱。

 この軌道が「飛燕」の由来。

 龍之は、その一撃を避けきれなかった。

 正しくは、避けきれないことを察知した龍之が、虎爪と龍牙を十字に構え、防御した。

 チンッ

 澄んだ音を立て・・・・・・二振りの刀が龍之の手から放れ、空を舞い・・・・・・

 地面に突き立った。

 そして・・・・・・宏美からのとどめの攻撃、発剄。

 龍之は気絶し、宏美の腕の中に倒れ込んだ。

「・・・・・・理樹」

「・・・・・・はい」

 誰もが動けない中、理樹が宏美の言葉に動き、彼に、預けられた眼鏡を返した。

「ありがとう」

 眼鏡を受け取り、掛け直す。

「・・・僕は龍之ちゃんを寝かせてくるよ」

 そう言い残し、宏美は寮生達の前から去っていった。

 暫くの間・・・・・・

 沈黙が続いた。

 いつの間にか、止んでいた雨がまた降り始めていた。

「何なんだ・・・・・・宏美は・・・・・・・・・」

「・・・宏美は聞いての通り、神魔流の当代だよ、沙代」

「だからって・・・・・・幾ら何でもあれは無茶苦茶です・・・・・・」

「・・・沙和、宏美の実力があれしきだと思ってるの?」

「お兄ちゃんは強いんだよ」

「この上まだ実力があるのですか、理樹」

「・・・そうだよ、瞳。

 ・・・・・・みんな、知らなかったの・・・・・・?」

「知らなかった・・・・・・」

「私も知りませんでした」

「みんなお兄ちゃんのこと、何にも見てないんだね」

「それよりも、理樹は知っていたのですか?

 ・・・それに、考えてみると、宏美さんが男性だと知ったときにも、あなただけは驚いていませんでしたね」

「・・・知ってた。

 私はみんなが知らなかったことを知らなかった」

「・・・・・・ネエ、“しんまりゅう”ッて・・・・・・ナニ?」

「私も知りたいです」

 ・・・・・・麗宝・美宝が驚かなかったのには、こういうワケがあったのだ。

「・・・(考えてる)・・・・・・・・・(ぽんっ:手を打ち合わせた)

 流派・八竜は知ってる?」

「シッテルもナニも、中国四千年のレキシのナカのサイキョウのリュウハね。

 ・・・・・・ソレがドウシタね」

「・・・神魔流は流派・八竜の兄弟流派。

 そして八竜も神魔も“幻の八退魔術”と呼ばれる退魔術の一つ」

「「・・・・・・・・・!!」」

 麗宝と美宝は絶句した。





 龍之は夢の中にいた。

 夢だと理解してみる夢・・・・・・それは“明晰夢”という。

 そしてその明晰夢の中、龍之はまだ幼女だった。

 数歳年上の、蒼い髪の男の子と戯れる夢・・・・・・

 それは、時々見る・・・・・・特に、ここ最近見る夢。

 いや、今の言葉は正しくない。

 この弁天寮に来てから、二日に一回は見る、夢。

 今まで、その男の子の顔は、見えなかった。

 逆光だったり、長い前髪で口元以外が隠れていたり、顔に闇や光が貼り付いていたり・・・・・・

 しかし、今回は違った。

 顔がしっかりと見えたのだ。

「ううっ、ううっ、うえぇぇぇ〜〜〜ん

 ひっく・・・ひっく・・・うぅぅっ・・・・」

 龍之が、その男の子を追いかけて転んだとき、彼は彼女を抱き起こすと、優しく抱きしめた。

「大丈夫かい、龍之ちゃん」

 龍之が彼の胸に押しつけられていた顔を上げ、彼の顔を見ると・・・・・・・・・





 午後十時を回った。

「う・・・・・・うぅ・・・・・・・・・」

 龍之が目を覚ました。

 辺りを見回すと、慣れ親しんできた、自分の部屋だった。

 布団の上に寝かされ、辺りには誰もいない。

 誰が運んだのだろうと考える。

 ふと、額の上に置かれた濡れタオルに気が付いた。

「これは・・・・・・」

 ガラッ

 襖が開いた。

 入ってきたのは宏美だった。

 手には、水が入った桶を持っている。

「あ、気が付いたんだね。よかった」

「神・・・・・・楽・・・・・・・・・?」

「ちょっと発剄強く入れすぎたみたいでさ、なかなか起きなくて・・・・・・心配したんだ」

「そう・・・・・・か・・・・・・・・・」

 龍之の中に、不思議とわだかまりはなかった。

「それじゃ僕はもう行くね。

 ・・・あんまり顔、見たくないだろうし」

 少し翳った顔の宏美。

「みんな呼んでくるね。

 みんな心配してたよ」

 布団の横に敷かれたタオルの上に桶を置くと、宏美は龍之に背を向けた。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・それじゃ」

 もう一度そう言うと、宏美は部屋の出口へと向かい歩き始めた。
 
「・・・待って・・・・・・」
 
「・・・え・・・・・・?」

 宏美は、微かに龍之が発した声に振り向いた。

「待ってくれ・・・・・・」

「龍之・・・・・・ちゃん・・・・・・?」

「話を聞いてくれ・・・・・・かぐ・・・宏美・・・・・・」

「話・・・・・・って・・・・・・?」

「いいから!

 頼む・・・聞いてくれ・・・・・・」



 涙を流しながら龍之は話した。

 自分の家のこと。

 ここに来てからのこと。

 この間の決闘のこと。

 そして・・・・・・

 誰にも譲れない、確かな想い。

 それは・・・・・・・・・

「私はお前が好きなんだ、か・・・宏美・・・・・・・・・」

「龍之、ちゃん・・・・・・・・・」

「頼む・・・・・・私を少しでも哀れだと・・・・・・好きだと思うのだったら・・・・・・抱いて、くれ・・・・・・・・・」

 宏美に縋って、涙に濡れた顔を、その見た目と裏腹にがっしりとした胸に押しつける。

「出来ないよ、そんなこと」

「お願いだ・・・・・・・・・」

 宏美が何度断ろうとも、龍之は一歩たりとも退かなかった。

「そんな一時の感情に流されちゃダメだよ・・・・・・」

「一時の感情なんかじゃない!

 思い・・・・・・出したんだ・・・・・・

 小さな頃、修行や遊んでいるときに怪我をしたとき、優しく抱きしめてくれた男の子のことを・・・・・・」

「龍之ちゃん・・・・・・」

 切なそうな顔の、宏美。

「それは・・・・・・お前、だった・・・・・・宏美・・・・・・・・・・・・」





 龍之が顔を上げると、そこにあった顔は、宏美の物だった。

 心配そうな、ちょっと悲しい笑顔。

 それは紛れもなく、宏美の物だった。





「龍之ちゃん・・・・・・

 本当に・・・いいん、だね。

 後悔・・・・・・しない・・・・・・・・・?」

「後悔など・・・する、ものか・・・・・・」

「龍之、ちゃん・・・」

「龍之、と、呼んで、くれ・・・・・・」

「龍之・・・・・・」

 宏美は優しく龍之の名前を呼ぶと、その顔に手を添えた。

 そして・・・・・・

 優しく口付ける。

 唇が触れ合うだけの、優しいキス。
 
 それは、龍之のファーストキスだった。





 そして・・・・・・・・・・・・・・・

























「あり・・・が、とう・・・・・・」

 すっかり身繕いを終えた龍之が言った。

「い・・・いや・・・・・・」

「・・・・・・宏美・・・・・・」

「・・・なに・・・?」

「来週・・・・・・7月28日・・・・・・」

「7月28日・・・?

 ああ、龍之ちゃんの誕生日か」

「龍之・・・・・・」

「え?」

「『龍之と呼んでくれ』と言っただろう?」

「う、うん」

「それで・・・今度の誕生日・・・・・・

 私は16になる・・・

 その日・・・・・・結婚、してくれないか・・・・・・?」

「えっ ! !?」

 宏美は龍之の言葉に驚いた。

「いや・・・なの、か・・・・・・?」

「ううん、そうじゃないんだ。

 ただ、驚いただけで・・・・・・」

 宏美は、ちょっと待っててと言うと、部屋から消えた。



 数分して戻ってきた宏美の右手には“断水”が、左手の中には小さな箱があった。

「これを・・・龍之に捧げる」

 右手に持っていた刀を、龍之に渡した。

「え・・・・・・?

 どういう、意味・・・・・・?」

「これは・・・つまり・・・・・・

 こういう意味だよ・・・」

 緊張のあまりに乱れた呼気を整え、右手に持っていた物を見せた。

「これ・・・・・・貰ってくれるかな・・・・・・」

 差し出した手の上に乗った箱。

 その箱を受け取り、開けると・・・・・・

「これ・・・は・・・・・・」

 箱の中に入っていたのは、指輪だった。

 その宝石は、8カラットほどの大きさで、澄んだ紅色をしていた。

 それは・・・・・・・・・
            ルビー
 7月の誕生石、紅玉。

「喜んで・・・・・・!」

 龍之は宏美に抱きついた。





 翌週、7月28日。

 神楽財閥会長の孫の結婚式として、とにかく盛大に、という宏美の父・春臣、祖父・雅峰、義母・初美の希望も虚しく、仲間内での結婚式が執り行われた。

 龍之は、御神楽の理事長・雅峰が神楽財閥の会長だということを知らず、とても驚いた。

 結婚式に呼ばれたのは、宏美・龍之と特に親交の厚い20人ほどでしかない。

 そして結婚式では、雅峰達が「これだけは譲らん」と言うことで、和服・ウェディングドレスを2着ずつ4着着た。

 どの服を着た龍之も、とても・・・・・・美しかった。



 そして2年の時が流れ・・・・・・

 今に至る。










「・・・・・・分かっていただけましたか?」

「・・・・・・・・・・・・(コクン)」

 宏美の言葉に、Dは何とか反応した。

「そうですか。やっと分かっていただけましたか」

 Dは、龍之の名字が宏美の話の中では「天皇寺」だったのに、自己紹介の時に「神楽」だったことにようやく思い当たった。

「さて、他に何か聞きたいことはありますか・・・・・・?」










 この続きはまた次のお話と言うことで・・・・・・・・・










補足
 断水を捧げる:神楽の者(男性)が、女性に断水を捧げるのは、結婚の申し込みの意。

          女性の場合は、断水を男性に渡し、「これで私を守ってください」などと言う。

          なお、子が15になったとき、この刀を渡す。





 本星への報告書 TDA−S1−2

 執筆時間30時間越えは伊達ではありません。

 本気で長かったっス。

 ところで・・・皆様方の中に、宏美と結婚しているのが誰か分からなかった人は・・・・・・いませんよね?

 それでは、また次回作でお会いいたしましょう!



追伸
 えーと、音威神矢さんに、手直し前のをお届けしたところ、「キャラの把握が出来ていないのに、その過去を掘り下げるのはちょっと・・・・・・」というメールを頂いたのですが・・・・・・

 この、サイドストーリー第一部の過去の話というのは、サイドストーリー第二部に関わってくるので、端折ると余計にキャラの把握が難しくなると言う事態も起こりかねません。

 そのことを御了承下さい。


 それに・・・・・・キャラ把握が出来てなくても、一部のキャラ以外は本編に登場しませんし・・・・・・
                                                
 本編でもそれなりに触れるところがあるんで、キャラ把握が完璧でなくとも“一応”大丈夫です。はい。
本星への報告書 TDA−S1−2 終





オマケ
 この暗号が解け、お望みの方には、18禁ヴァージョンをお送りいたします。(最初は18禁だったけど、それは止めた方が良いとメールを頂き、それもそうだなと思ったので端折った)

 ただし、全然ハードじゃありません。

 思いっ切りソフトです。

 期待外れもいいところかもしれません。

 というか、多分、期待外れです。


 それでは問題!


 
「胸炸゛鋭肘゛鋭肺坂炉梢旦歴、地氷昨坪鋭板!」
 
 このセリフで有名なアニメキャラはだれ?

 本名で答えよ。


ヒント
 歴=よ

 坂=く