(その3)





>ジュンコ

 明日に備えて、私は今、チョコを作っています。

 半端なものは作れません。

 なんと言っても、アキトさんにあげるものなんだから。

 艦長、メグミさん、リョーコさんは特に心配する必要はないけど、恐いのは、サユリ、ハルミ、エリ、ミカコ。

 つまり、私の同僚、ホウメイガールズのみんな。

 だけど、イネスさんやエリナさんも油断は出来ないわ。

 イネスさんは怪しげな薬で何かするかもしれないし、エリナさんは手作りは捨てて、お金に糸目を付けないで超高級チョコレートを渡すかも知れない。

 いずれにせよ、油断ならない相手が何人もいる。

 手を抜くことは出来ないし、抜く気もない。

 だから、私たちホウメイガールズは、このお昼時という時間も省みずにチョコレートにかまけてます。
 
 ああ、ホウメイさんの視線が痛いわ。

 だけど! それでも! 一時の時間も無駄には出来ないわ!!
 
「ほーう、となるとだ、ジュンコ。

 厨房の仕事は、無駄なことなんだね?」


 ビクぅッ
 

 ・・・・・・・・・背後から、ホウメイさんの声が聞こえます。

 押し殺した怒りが、狂気を解き放ったアキトさんよりも迫力を出しています。
 
「あ・・・そ、それは・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・『それは』、なんだい?」

 ・・・・・・私には、何も言うことは出来ませんでした。





>ミカコ

 明日はバレンタインデー

 さあ、張り切ってチョコをつくるわよっ♪

 ・・・・・・と言うことでね、私たち、所謂ホウメイガールズはチョコを作っていたの。

 ホウメイさんの視線が背中に突き刺さって痛かったけど、それはこの際無視無視。

 と思ったら、いきなりホウメイさんがもの凄いプレッシャーを出してきたの。

 恐る恐る振り向いてみたら、ホウメイさんが、アキトさんや北斗さん以上の狂気を纏っていたの。

 恐いよ〜〜

 アキトさん、助けてぇぇ〜〜

 私は、思わず向こうでラーメンを作っているアキトさんに助けを求めた。

 だけど、アキトさんは助けてくれない。

 ・・・・・・声に出してないんだから、当たり前かも。
 
「この、馬鹿ドモがぁっ!」
 
「ひぃっ」

 ホウメイさんの突然の怒鳴り声に、驚いて、短い悲鳴をあげた。

 その後で周りを見てみると、四人とも同じように首を竦めていた。


 ガッシャァーーーン!
 

 あ、アキトさんがラーメンを盛ってた器が落ちて割れた・・・・・・
 
「熱うぅーーっっ!!!」
 
 アキトさんの悲鳴。

 ああ、なんて可哀想なアキトさん・・・・・・

 それもこれも、みんなジュンコの所為だからね、アキトさん。





>サユリ

 私は、運が良かった。

 「何故?」かって?

 それは簡単なことだわ。

「アキトさん、大丈夫!?」

 私はそう言いながら、アキトさんの手を取った。

 そう。私は、四人の鋭い視線を浴びる立場、つまりアキトさんのすぐ隣で、チョコを作りながら作業をしていたの。

 みんなと違って、作業もしていたの!

 だから、ホウメイさんの視線も、四人に比べたらまだ柔らかかったわ。

 だけどここだけの話。

 メインはチョコ作りで、本来の私たちがやる作業が、ついでだったの。

「・・・・・・サユリちゃん、スープが掛かったのは手じゃなくて、足の方なんだけど・・・・・・」

 怖ず怖ずと、何となく子犬の雰囲気を漂わせて、アキトさんが言った。

「あら、それは大変!」

 そう言いながら私は、アキトさんのズボンに手を掛けた。
 
「う、うわぁっ!?

 なっ、ななっ、何をするんだ、サユリちゃん!?」

 アキトさんが、縮地以上のスピードで下がった。

「え、だって、ズボンを脱がなくちゃ手当てできないでしょ」

「裾を巻き上げればいいんだよ!」

 ・・・・・・というか、火傷をしたときは、本当は服を脱がせないで、そのまま(流水で)冷やすのが正しい手当。

「男でしょ、アキトさんは。

 そんな細かいこと、男が気にしたらいけませんよ」

 自分でもよく分からない理屈をこねる。


 さあアキトさん、私がしっかりと下半身介護をしてあげますからね♪





>エリ
 
「ああーーーーっっっ!!」
 
 私は、食堂中どころかナデシコ中に響き渡るような声で叫び声をあげた。

 その叫び声は、アキトさんの悲鳴と同様、厨房、食堂に充満していた狂気を発散させた。

「どうしたんだい!? エリ!」

 ホウメイさんが訊いてくる。

「さ、さ、さ、さ、ささささ」

「『ささささ』?」
 
「サユリ、不潔よぉーーーっっっっ!!!」
 
 あ、私じゃなくて零夜さんのキャラ。

 みんなの視線が、サユリの方を向く。

 するとそこには、アキトさんのズボンに手を掛けるサユリがいた。


 ガッチャン ×3


 ジュンコ、ミカコ、ハルミのチョコレートが入ったボールが落ちた音。
 
「「「「何やってるのよ、サユリぃーーっっっ!!!」」」」
 
 3人+ホウメイさんの声が唱和する。

 それと、
 
「テメ、アキト!サユリちゃん(テラサキさん)に何やらせてやがるぅーーっっっっ!!!」 ×無数

 という、整備班を中心とした、男性陣の叫び声。
             ソウルフルヴォイス
 ウリバタケさん曰く、 『魂の叫び』。

 信じられないけど、そのあまりに大きな怒声に、食器達が耐えられずに、割れた。
 
 ・・・・・・・・・艦長に勝るとも劣らないわね、男達の声って。

 艦長と、艦長のお父さんは特別と思ってたんだけど・・・・・・

 ・・・・・・やっぱり世界は広いわね。


 パキッ


 あ・・・・・・私とサユリの、チョコが入ったボールも割れた・・・・・・・・・





>ハルミ

 あ・・・・・・・・・ボールが落ちた・・・・・・・・・

 後は型に流し込んで冷やせば、チョコ、完成したのに・・・・・・

 私は怒りにまかせて叫んだ。
 
「何するのよ、あなた達の所為でボール落ちちゃったじゃないっ!!」
 

 キーーン


 ・・・・・・間抜けな話し、自分の怒声で耳がキーンとした。

 だけど、その言葉の圧力に押された男達は、壁とその圧力に押しつぶされて、二次元の人になっていた。

「・・・・・・どうしてくれるのよ、私のチョコ

 押し殺した声で言うと、ペラペラとしたウリバタケさんが、
 
「お、オレたちの所為じゃねえ!
 
 アキトがサユリちゃんにあんなコトさせるのが悪ィんだ!」
 
 ・・・・・・・・・・・・。

 そうですか。 アキトさんの所為にするんですか。

 挙げ句の果てには、アキトさんを変質者扱いですか。

 これは許せませんね。

 艦長やルリちゃん達に連絡して、お仕置きね。





その4へ続く