220X年、地球。 二十三世紀現在、科学は未曾有の発達を遂げている。
人間の手で治せない病気は姿を消し・・・科学万能の時代が到来した。

 ・・・だが、科学では未だに説明できない存在もあるのだ。
それが異能力――IFSとも呼ばれる、十万人に一人の割合で人に宿る強力な力は、世界を混乱の渦に巻き込んでいった。

 あるものは彼ら――異能力者を迫害し・・・あるものは自分の欲望のために彼らを利用しようと企む。
・・・またあるものはそんな彼らを護るために戦う。

 これは、彼らを護るために戦った者達の物語である。
この物語の果てに何があるのかは――まだ誰にも分からない・・・。







「良い風だ・・・こんな風が吹く日は滅多に無い・・・」

「そう、だな・・・」



 真夜中の日本、サセボシティ。
下を覗き込んだら目が眩むような高層ビルの屋上で、二つの人影が気持ち良さそうに夜風に当っていた。
強いビル風が、二人の服、そして髪をはためかせている。


「・・・・・・」

 一人は、ボサボサの黒い髪の青年。
目元を大きなバイザーで覆っているので素顔を伺うことはできないが、整った顔つき。
全身を漆黒のコンバットスーツに身を包み、その上からさらに黒いマントで覆っている。


「・・・・・・」


 もう一人は、長い燃えるような紅の髪を背中で無造作に束ねている、こちらも整った顔つきの女性。
こちらはT−シャツにキュロットスカート、その上にパーカーを羽織った動きやすい服装だ。

 そして二人に共通するのが、月の光を反射して光るシルバーのペンダント。
何かの花を意匠化したそれは、彼らにとてもよく似合っていた。


『アキト君、北斗? ・・・さっきから呼んでいるのに、なんで応答しないのよ?』

「・・・文句を言うんなら、俺じゃなくてアキトに言え。
 アキトのヤツがどうしても風に当たりたい、と言うんでな・・・それに付き合っていただけだ」

「そういうなって、北斗」


 腕組みしたままチラリと青年―アキトという名前らしい―を見る女性が、
通信の主―声と口調から察するに女性らしい―に心外そうに答える。
その責めるような視線に苦笑交じりで答えるアキトは、すぐ隣に居る女性―北斗―に話しかける。
だが、北斗の機嫌は今だ悪いままだ。


『はぁ・・・こっちは猫の手も借りたいってくらい忙しいのに・・・』

「・・・猫の手を借りたいほど忙しいのはお前じゃなくて、零夜と千沙の二人じゃないのか?」

「・・・そうなのか、北斗?」

「ああ、二人とも舞歌のヤツが仕事を全然しないで、押し付けてばかりだって泣いて困っていたぞ」


 実際、北斗は彼女の幼馴染と自分の同僚が、ナイアガラの滝のように涙を流しているのを目撃している。
二人とも平均睡眠時間は二時間ほどで、ナポレオンもびっくりの睡眠時間である。
・・・労働基準法違反ではないだろうか?


『うっ・・・』


 北斗の容赦ない口撃に、通信の主―舞歌―は黙り込む。 どうやら自覚はあるようだ。


『と、とにかく! 目標はそこから三キロの地点に居るわ。 作戦通りによろしくねっ!』

「了解」

「ふん、誰に向かってものを言っているんだ、舞歌」


 通信を終えると同時にビルの屋上から空中に身を躍らせる二人。 ・・・戦いは、今始まったばかりだ。







ナデシコアナザー
Midnight Warriors ―真夜中の戦士達―

               漆黒の竜巻             真紅の炎
Mission 01: 『Pitch-black Tornade』と『Cardinal Flame』 その1







「ッ・・・ハァハァハァ・・・ッ!」


 暗いサセボシティの路地裏を、少女は追手から逃げるためにひたすら走っていた。
所々擦り傷や痣があるのは、暗い路地裏をずっと走っていたからだろう。
腕が重い。 足はいうことを聞かずもつれ始めている。


「いたぞ、そっちだ!」

「逃がすなッ、そっちに回り込め!!」


 そんな彼女の後ろから聞こえる叫び声も、今の彼女には気にならない。
とにかく今は走らないと捕まってしまう・・・最悪の場合殺されてしまうのだ。


『どうして、こうなってしまったんでしょう・・・。 私の容姿のせい? それとも、能力のせい?』


 今自分が置かれている状況を、人事のように考えてしまう少女。
そんな彼女の容姿は、腰まで伸びる豊かな瑠璃色のツインテール、そして月光に浮かび上がる金色の瞳。
まるで絵本の中から現れた妖精の容姿に、人は二通りの反応をする。

 彼女の容姿を気味悪がるか、純粋に美しいと思うか―彼女の場合、圧倒的に前者の方が多かった。
そして自分自身の持つ能力―全てのコンピューター、ネットワークに介入し、操作する力は、
三日ほどで全世界の流通システムを麻痺させる事ができる。
彼女にとっては幼い頃から慣れ親しんだこの力も、一般の人々(特に企業)には脅威にしかなりえなかった。

 ・・・特に能力者は差別されるこのご時世、彼女は常に迫害され続けてきた。
そして、何時の頃からだろうか、感情の起伏が乏しく、何事にも冷静に対処する自分がいたのである。
・・・手っ取り早く言えば、慣れたということだ。


「ッ・・・ハァハァハァ・・・あッ!


 ドサッ


 だが、疲労が限界に達していたのか足がもつれて転んでしまう。
日頃の運動不足が祟りました・・・運動もするべきですね・・・とぼんやりと考える。


「・・・可笑しいですね、今はそんな事考えている場合じゃないのに・・・。
 早く逃げないと・・・痛ッ!!


 立ち上がろうとした少女だが、すぐに足首を押さえてうずくまる。
どうやら、転んだ拍子に足首をひねったらしい。


「ついてませんね、こんな時に限って・・・。 でも・・・今はにげないと・・・」

 痛む足首に鞭を打ち、それでも足を引きずって前に進もうとする少女。 だが・・・。


 カッ!


「!?」

「チェックメイトだ、能力者さんよ。 大人しくしろ」

 サーチライトが自分を照らしているという事に気がついた時、
自分はすでに囲まれているということに気づいた。
悔しそうに顔を歪める少女。


「こんな若い子を殺すのは可哀想だが・・・これも上からの命令なんでね。
 悪く思うなよ。 ・・・お前達、後は頼んだぞ」


「はっ!」


 少女を追っていた連中の隊長らしき男は部下に命ずると、苦い顔をしながらその場を去っていった。
・・・このあとに何が起こるか、想像がついたからだろう。


「へっへっへ・・・こんな上玉のガキとイイコトできるなんて俺達ついてるぜぇ!」

「男を知らないで死ぬってのも可哀想だしなぁ・・・。 俺達が先に天国ってヤツを教えてやるぜ!」


 下卑た笑いを浮かべながら、少女に歩み寄る男・・・いや、ケダモノ達。


「い、いや・・・」


 怯えきった顔であと後ずさる少女。 これから自分の身に何が起こるのか、想像がついたのだろう。
だが、その怯えきったその顔が、彼らの欲望を増長している事に彼女は気づいていただろうか?


「その顔・・・そそるねぇ・・・」


 一人の男が、少女に手を伸ばそうとしたそのときだった。
その男の腕が、何の前触れもなく地面に落ちたのは。


「へっ・・・? ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁッ! お、俺の腕が!?」


 突然の出来事に、半狂乱になる男。
余りにも鋭い刃物で斬られたかのようなその断面からは、恐ろしいことに一滴の血も流れ出ていない。


「一体なんだってんだよ!? このガキの力か!?」

「いや、このガキの能力は『コンピューター操作』だ・・・こんな事ができるはずがない。 一体誰が・・・」

 そういった後、辺りを見回す兵士。 だが、辺りは暗くて人の姿なんぞ見えるわけが無い。
それもそのはず、わざわざそういう場所に追い込んだのは自分達だからだ。 


「俺だ」

「!?」


 唐突に彼らの背後からかけられた声に、慌てて振り返る男達。
そこには全身黒尽くめの男・・・アキトが何時の間にか立っていた。
もちろん、彼の隣には北斗も居る。


「な、何だお前ら!?」

「・・・通りすがりの異能力者だ」

「そのつれの異能力者だ。 ・・・もっと気の利いた科白の一つでも言えないのか? 聞き飽きたぞその科白」



 まるで漫画に出てくる下っ端のような科白に、軽口を叩く北斗。 結構・・・いや、かなりいい性格をしている。


「・・・で? その通りすがりの能力者さんが俺達に何の用だ?」

「・・・その子を、渡してもらおう」


 銃を構えつつ問う男に、静かに用件を伝えるアキト。 
表情はバイザーで覆われているのでよく分からないが、凄まじい怒気を発している。
・・・もちろん、それが分かったのは隣に居る北斗だけなのだが。


「ふざけるな! だいたいテメエら二人で何が出来る!!」

 
 向こうは異能力者とはいえたったの二人なのに対し、こっちは二十人ほど。
確かに、人数的にはアキト達は圧倒的に不利だ。

 だが、そのアドバンテージがすぐに後にはなくなるとは、彼は思ってもいなかっただろう。


「小娘をヤるのは後だ! あの二人を先に殺せ! 撃ち殺せぇッ!!」


 ドガガガガガガガガガガガガガッ!!!


 男の声と殆ど同時に火を吹く複数のマシンガン。 あっという間に、辺りは土煙と硝煙に満ちる。


「へっ・・・あっけないじゃねえか」

「驚かせやがって・・・」


 男達が銃を撃ち終わり、マガジンを交換していたその時、不自然なまでに強い風が吹いた。
今夜の天気予報では無風、あっても風速一メートルほどだったのに。


「なんだ? この風・・・!?

 
 土煙と硝煙が晴れた時、彼らが目にしたものは、傷一つ無い姿のアキトと北斗の姿であった。
彼の周りには、ものすごい勢いで風が渦巻いており、空気の濃さが違うのかアキトの姿がぼやけて見えた。


「・・・残念だが、俺に銃は効かん・・・」


 パラパラパラ、と銃弾だったモノがアキトの周りに落ちる。
しかも、その弾丸は硬い何かにぶつかったように潰れている。
空気の壁を発生させて弾丸をはじいたのだ。


「やれやれ・・・アキトの奴、相変わらずサービス精神過剰だな・・・」


 自分に飛び掛ってくる五人の男を横目に、アキトに呆れている北斗。


 ゴウッ!!

 
 北斗を中心に発生した炎が凄まじい勢いで燃え盛り、かわす間もなくその炎に飲み込まれる五人。


「・・・ま、俺も人の事は言えん、か」


 ポツリと苦笑気味につぶやく北斗の周りには、かつて人だったであろう黒焦げた物体が五つ転がっていた。
自分の能力である、『炎』を使って相手を黒焦げにしたのだ。


「『風』よッ!!」


 アキトの鋭い声と共に発生する真空の刃は、アキトの前に立ち塞がる男達を根こそぎ切り裂いていく。
腕を無くした者、足を無くした者、そして首を飛ばされて瞬時に絶命した者・・・まさに地獄絵図である。


「風と炎・・・ま、まさか!?」


 目の前の出来事に目を大きく見開いて驚く男。 どうやら、アキトと北斗に心当たりがあるらしい。


「ほう? 俺達の事を知っているのか?」

「当たり前だ、北斗。 俺達は有名人だ・・・悪い意味でだが、な


 その様子を興味深そうに眺める北斗と、無表情でいるアキト。 
・・・その対比が相まって、かなり怖い。

             漆黒の竜巻
「『Pitch-black Tornade』テンカワアキトと
          真紅の炎
 『Cardinal Flame』影護北斗がなぜここに!?」


「・・・そんな事はどうでもいい。 誰に命令された? 大人しく話せば命だけは助けてやるぞ?」


 手のひらに風と炎を発生させつつ脅すアキトと北斗の二人。
しゃべらなかったら問答無用でブチ殺す、といった風情だ。


「わ、わかった・・・だ、だから命だけは・・・」


 二人の実力を目の前で見せられた男は、大人しく真実を話す事しかできなかった。
もう少し根性があれば最後まで抵抗したのだろうが、この男は命の方をとったのだ。
そして、男が話し終わると同時に、首筋に手刀を入れて気絶させるアキト。


「やはり連合か・・・。 しかし何を考えている・・・?」

「さあな、それは俺達の仕事じゃない。 ・・・それよりも当面の問題はコッチだ」


 北斗の目線の先には、怯えきっているあの少女がいた。
何せ目の前で殺戮劇を見せられたのだ、怯えるなという方が難しい。


「大丈夫・・・君を狙うヤツは全て片付けた・・・。 安心してくれ・・・」


 カチャ


 目元の大きなバイザーを外し、少女に話しかけるアキト。 安心させるように、微かに微笑む。


「君を・・・助けに来たんだ」

「・・・・・・(ぽー)」


 その微笑に見とれる少女。
追い詰められた所に助けに来た青年は、彼女にとって王子様に見えるらしい。
・・・そして、彼女は極度の緊張と疲労により気絶した。


「・・・またか。 一体お前は何人落とせば気が済むんだ? 少しは俺の気持ちも考えろ!

「・・・何の事だ?」


 もう数えるのも嫌だという感じでアキトを責める北斗に、理由が分からないといった顔で答えるアキト。
『Pitch Black Tornade』テンカワアキトのもう一つの通り名は『Man of the Love Portion』という。
なぜなら、助ける女性や話しかけた大半の女性が彼の笑顔に屈しているからだ。
しかも、恐ろしい事に本人は全く自覚していない。 彼が後ろから刺される日は、そう遠くない・・・。









To be continued...









 あとがき




 どうもお久しぶりです、Excaliberです。 前回の投稿から、だいたい三ヶ月ぶりですね。
実はExcaliber、この三ヶ月間大学受験のために必死こいて勉強してまして、SSは書いてませんでした。
ということで、このSSはリハビリを兼ねている、といったところですね。


「・・・このSSって、なんていうジャンルに入るんだ?」

「本人曰く、『SFでアクションでラブコメ』だそうだ」


 うむ、そうなのだよアキトくんに北斗くん。
ちなみにこのSSのカップリングはもちろん君達二人だ。
・・・しかし、アキトの能力が風って言うのは、ちょっと安易過ぎたかも。
これで学ラン着てドライバーグローブ着けてたら、どこぞの門の守護者だよな、やっぱり。
同じ理由で北斗の能力も安易過ぎたな。
でも、やっぱり北斗は炎っていうイメージがあるし、外せなかったんだよ。


「「・・・・・・」」


 ちなみに、下の写真がアキトと北斗がつけているペンダントだ。
実はこのペンダントが元になってこのお話を書こうと思い立ったわけ。
もちろん僕の手作りで、世界に一個しかないペンダントだろう(たぶん)。
純銀製だぞ、だからとっても重くて肩が凝るんだ(笑)。




↑こんな感じ




「ちょっと待ってください! 私の扱いはどうなるんですか!?
 第一、私謎の少女って表記になってますけど、全然謎になってないですよ!?」

「まだいいわよ、貴方は出番が結構あったんだから。 私なんか科白だけよ? しかも、四つしかないし!!」

「「それを言ったら、私達は名前だけ・・・(泣)」」


 そう文句言わないで下さいよ、四人とも。
舞歌さん、千沙さん、零夜の三人は次回で活躍の場面が結構あるから大丈夫。
謎の少女も出番はあるぞ。 ・・・たぶんね・・・(ボソッ)。


「ちょっと! 最後の方で何か言いませんでしたか!?(怒)」


 気のせいだ謎の少女。 では、次回までさようなら!!
アキトや北斗の能力等は、次回でせつめ・・・げふんげふん、解説しますです。

 

 

 

代理人の感想

It's open the gate〜♪(^▽^)

 

などと、件のアニメ(げーときーぱーず)を見てた人しかわからないつかみは置いといて。

(余談ですがアニメ本体はともかく(爆)、主題歌「明日の笑顔の為に」は中々いい曲でお気に入り)

 

肩の凝らない(少なくとも読んでる方は(^^;)、気楽に読めるタイプの作品のようですね。

しかし、全身黒タイツに黒マントに黒バイザーという黒の三つ揃い(違)って、

物凄く怪しいんですけど、もはや誰も気にしませんね(爆)。