機動戦艦ナデシコSS

サレナ 〜希望の花〜
第二章
 新しい未来へ
第一話 Aパート  新しい始まり、そしていつものお約束

 

「君らしく、誇らしく、向かってよ♪♪」

ここは戦艦ナデシコ・・・・ 

 

「夢中になった日々が、夢のかけらさ〜♪ 〜♪」

・・・・たぶん・・・・戦艦・・・・

 

「ゆ〜げっとば〜に〜んぐっ♪♪」 

艦長が唄っても踊っても戦艦は戦艦・・・・

・・・・だよね?

 

 

艦長を除くブリッジクルー達は・・・・

通信士&航海士 ……  旅行雑誌を見ている
副艦長 ……  ため息混じりに艦長見てる
オペレーター ……  耳栓してる。
会計士 ……  あさっての方向を向いている。
オブザーバー ……  難しい顔をして考え込んでいる。

 

 

 

「いよいよ目的地だよね!!」

浮かれに浮かれた美人艦長 『ミスマルユリカ』。

この一風変わった艦長をクルーのだれも気にしない。

いや、一風変わったクルーの固まりであるこの船の中では

彼女の個性ですら当たり前のものになってしまう。

 

「早速ついたらお買い物頑張るぞぉ!!」

「それ無理です。」

耳栓をはずし、艦長に素早くつっこむ美少女オペレーター 『ホシノ ルリ』

その冷たい視線にうきうき気分のユリカですら、一瞬凍った。

 

「う・・・ルリちゃん買い物好きじゃないの?」

 

「いえ、ただ無理なだけです。

ちなみに艦長、合流地点って知ってますか?」

ルリの質問に頭を傾げるユリカ。

その仕草はとても大人とは思えない・・・・まるで子供だ。

 

「ヨーロッパだよ?」

ユリカは不思議そうにルリを見ている。

 

「ヨーロッパのどこですか?」

ルリは、ため息をついてさらに質問を続ける。

 

「うーん、やっぱりパリだよね!」

目をきらきらさせてユリカは答えた。

 

「うんファッションの都パリ。

私達もいっぱい買い物するのよね〜〜。」

航海士が満面の笑みをたたえながら、どこか遠くを見ていた。

もうすでに頭の中では、パリでのショッピングなのだろう。

 

「・・・・やっぱり・・・・

あの、パリじゃありません。

ここです。」

ドンと、見たことのない地形がナデシコのメインディスプレイに映る。

その光景をクルー達はジッと見守った。

 

「あの・・・・どこですか?」

通信士は、嫌な予感でソバカス混じりの顔を引きつらせながらルリを見た。

 

「パリからずっと離れた最前線です。」

地名を言ってもきっと分かってくれないだろうから、はっきりと結論だけを言うルリ。

この現実を見せつけられて、夢の中にいられなくなった航海士。

ただ呆然と空を見つめている、通信士。

ちょっと残念そうな副艦長。

耳栓を再度装着するオペレーター

 

そして、その中で最も大きなダメージを受けている艦長。

 

「えぇぇぇぇ〜〜〜〜

そんなのやだぁぁぁぁ〜〜〜〜」

 

・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・

大音響の中次々と意識を失うクルー達

 

そしてブリッジは静寂に包まれた。

 

クルー達が目を覚まし復旧するのにおよそ10分の時間を要した。

ただ、オペレーターは奇跡的に無事だったのでなんの問題もなく目的地に到着する。

 

 

 

目的地到着直後・・・

 

「到着しました・・・」

 

「艦長!、気をつけてくださいね!!」

 

「はい・・・・」

 

艦長はみんなが目をさましてからずっとプロスに怒られ続けた。

クルー達も艦長をギッとにらみつける。

 

「ごめんなさい・・・」

 

「ふぅ・・・お前も気をつけろよな・・・」

アキトもあきれかえってユリカを見ている。

なぜ生活班のアキトがブリッジにいるかというと、

ユリカが大声でクルーを気絶させた後、

気絶させたクルー達を介抱するための人員として呼ばれたのだ。

(あと、もしもの時にユリカの人柱となる理由も裏にはあったらしい)

 

「ううぅアキトまで私を叱るの??」

「・・・・うっ。

まっ まぁ俺は被害者という訳じゃないからな。

別に叱りはしないけど・・・・」

「うふっ、やっぱりアキトは私の王子様♪」

ユリカの泣き顔が一瞬で笑顔になりばっとアキトに抱きつく。

 

「艦長!!もう少ししっかりしてください!!

これからこの基地の隊長さんとお話があるんでしょう!!」

通信士席に座るメグミは不満の声をあげる。

先ほどの事件のことを根に持っての発言だが、それ以上に、

アキトに抱きついて頬ずりしている今のユリカの状況に不満を持っているようだ。

隣でジュンのすすり泣きが聞こえる。

 

「だって〜〜しばらく会えなかったんだもん。」

「しばらくって、ここ二日ぐらいだろ?」

 

「だってぇ〜〜、さみしんだも〜ん。」

 

「だってってなぁ、おれだってブラックサレナの操縦にまだ慣れてないから

サレナさんと訓練してたんだよ!!」

 

「あ・・・・またサレナさん・・・・

うぅアキトをサレナさんに取られちゃう!!」

 

アキトとユリカの掛け合いを苦々しく見ていたメグミだったが、

サレナという言葉を聞いて考え込んでしまった。

 

 

・・・・(ピーン)

「あのープロスさん?」

「はい?、なんでしょう。」

突然のメグミの声にプロスさんがメグミの方を向いた。

 

「これからはアキトさんだけに、ブリッジへ出前の配達を頼めないでしょうか?」

そう、出前をアキトにブリッジまで運ばせれば、後はどうでも長引かせることが出来る。

無茶な要求ではあるがブリッジに足止めすればするほど、サレナとアキトが接触する時間が減る。

さらに、自分とアキトの接触する時間が増え、一石二鳥。

 

「それ良い考え!!

そうすれば、サレナさんとアキトがデートする時間もなくなるし・・・

けって〜〜い!!」

アキトがただ呆然と見ているなか、ユリカが高らかに宣言する。

まぁライバルのユリカとの接触の時間も増えてしまうのが難点だが、

それも計算の内である。

 

「おい・・・・勝手に決めるなよ。

それに食堂には食堂のそれなりのルールがあるんだぞ。

ブリッジの出前だってみんなの当番だし・・・」

 

「やっぱり何かあったときにアキトさんがいてくれた方が

とっても頼りになりますから。」

 

「いやぁですがねテンカワさん・・・・艦長の決定ですからなぁ。」

音もなくプロスペクターがアキトの背後に出てきて肩を叩く。

 

「(こそっ)いざというとき、艦長を止められそうなのはあなたしかいないんです。

すいませんが、了解していただけませんか?

まぁホウメイさんの方には私から言っておきますから・・・・」

「でも俺がいたって、あいつの口をふさぐ事なんて出来ませんよ??」

迷惑を一身に受けるアキトにとってみれば、ユリカを止める事なんて不可能に思えた。

アキトは、なぜプロスが自分を頼るのか全く分からない。

いつも通りの相手に素顔を見せないサラリーマンスタイルでお願いするプロスだが、

今のプロスには、鈍感なアキトにも漠然とだが分かるほどの必死さが見えた。

 

・・・・プロスさんもあれは辛いのか・・・・・

 

「いや、あなたがいれば艦長は安定するんですよ・・・・

これがまた・・・・ 愛の力とでもいいますかな・・・・」

人のいいアキトはなんだか分からないけど、プロスの願いを承諾した。

プロスの願いの裏に、どんな思惑が隠されているのかは知らないけど・・・・

無論これもメグミの考えである。

 

「そんな事が起こるブリッジってヘン・・・・」

ルリの鋭いツッコミ。

 

「ふぅ・・・・危ないってわけじゃないと思うけど、

まぁある意味ナデシコの中で一番ハードな場所は、このブリッジよねぇ。」

 

真綿に首を絞められるように、じりじりと追いつめられていくユリカ。

メグミの策謀はここまで考えられていたのだ。

 

「うぅぅ、今度から気をつけます。

だからお願い、許して・・・」

 

「まぁいいですけど、今度から静かにしていてくださいね。

そしてあんまりアキトさんにばっかり近づきすぎないように・・・・」

メグミは最後の一押しをする。

そうこれがメグミの考えなのだ。

 

これで「自分だけ」ブリッジの中でアキトを独占することが出来る。

 

だが、さすがは天性のカンを持つミスマルユリカ。

今回も一筋縄ではいかないのだ。

 

 

「いやぁぁ!!」

「アキトと離れるなんてできな〜〜い!!」

先ほどを越える大音響がブリッジに響いた。

 

 

クルー達が再起動するのにおよそ5分。

先ほどの半分ほどになったのは、慣れたからだろう。

(ただし、ルリはおよそ30分ほど気絶することになる。)

 

この後クルー達の間で艦長とアキトの関係のことはタブーとなった。

「くっ、さすがにユリカさんですね。

アキトさんを独占するために実力行使に出ましたか・・・・」

これは某策謀家が後に語った言葉である。

 

「・・・・ホントに詰めが甘かったです。

もしかしてブリッジクルーはユリカさんのあの声に耐えなきゃならないんでしょうか・・・・

・・・・・ふぅ、ほんとバカばっか・・・・・・」

これは医務室で大男(ゴート)のとなりで横になっていた少女の言葉

(ゴートは最初の事件以来ずっと今まで倒れてる・・・・)

 


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