呟き

 

 

 

 

 

 

コツコツコツ・・・・

我は、廊下を歩く。

あいつに会いに行くために、もう一人の自分に会いに行くために。

くだらないひと時・・・・のはずだった、自分をいじめ抜く為の。

それがこうも習慣になるとは、我自身の思いもしなかった。

 

「クククッ」

 

目的地に近づくにつれ自身の胸が高鳴ってくる。

この高揚感のためにソコに向かっているのではないかとつくづく思う。

すること自体は誰にでもできる淡々とした作業。

しかし誰にも譲りたくない、そう、我だけができる特権。

六連達は口を揃えて我に言ってくる。

 

「変わった趣味をお持ちで・・・・」

 

誰になんと言われようがこれだけは続けるだろう。

この儀式だけは・・・・・・

 

 

 

 

「おや、北辰サン。

今日は随分早いじゃないですか。」

 

研究部門の長が、周りのものが我に緊張しているのに関わらず気軽に話し掛けてくる。

最も、こ奴は緊張などという感情などはないだろうがな。

 

「後どれくらい持ちそうだ?」

 

「さあ、なんとも」

 

「そうか」

 

毎日、挨拶のように単刀直入に聞く。

そして、同じように返される言葉

そして我は安堵する・・・・・まだ続けられると。

 

「では借りるぞ」

 

「ええ、どうぞご自由に」

 

こ奴は、微笑をもって返してくる。

・・・・そう、六連と似たような、しかしそれだけではない何かを含ませながら。

そして決まりきった毎日の社交辞令を終え

我は目的の場所に一歩また一歩と近づいている。

復讐者が待つ部屋へ。

ここまで近づくと、高揚感だけでは留まらず恍惚的な痺れがでてくる。

 

「フム・・・・」

 

昨日以前なら、ここで我に気付きギャアギャアと騒ぎ立てるのだがな。

・・・・・あ奴め、『さあ、なんとも』だと?

なかなか言ってくれる。

 

 

 

 

「復讐を誓いし無力な復讐人よ、

今宵も我が貴様の戯言を聞きに参ったぞ、

その憎悪、苦しみを存分に我に伝えながら死線を彷徨え・・・・」

 

この言葉が儀式の始まりの合図になる。

そう、我と我に復讐を誓いし者の二人で行う儀式。

己の全てを、全てをさらけ出し、己の全てをぶつける、神聖で大事な屈折した儀式。

 

 

 

 

 

「北辰!!殺してやる!!

殺してやるぞ!!

ゥオオオォオォオオーーー!!!」

 

 

 

・・・・・・・それでよい。

その言葉こそが我が望むべきものだ。

我を一心に憎み苦しみから逃れようとし、自らの幸せに思いを馳せる。

その愚直過ぎるまでの純粋な『憎悪』、いや『念』・・・・・・・違うな。

フム、この趣のあるモノを何と例えようか?

 

 

 

 

 

「『想い』、とでも言うべきものか」

 

口に出して儀式の真っ最中にそんなことに気付くとはな。

 

いつからだろうか、目の前にいる復讐人を我がつれて来たのは・・・・

確か、つがいでもう一人を連れてきた気もするが我には無に等しき者だったのですぐに忘れてしまったが

 

 

 

しかし、こ奴は強い、どの無力な復讐人たちよりも。

ここまで生き延びたものは見たことはない。

想いだけでここまで来るとは、正直思いもしなかった。

まさに虚仮の一念というものか?

 

体ならこ奴より丈夫なものを多く見てきたが

結局、儀式で精神が壊れてしまったからな。

 

 

 

 

 

 

 

「うぐ、っがは!!

ほくっ、しん〜〜、お前だけっハッ!!お前だけは〜〜!!」

 

「クククッ、虚空を見つめて、何を言っておる。

貴様が憎んでいる者はすぐ横隣におるというのに。」

 

・・・・まだ話せるとはたいした奴だ。

だからこそ、だからこそ貴様を選んだのだ

他の者とは違う貴様を、そして我の業を洗い流してしまいそうな感情の奔流をな。

 

 

洗い流された我は昔の、いや素の自分に戻れるのだろう。

そして、今になってナニかを思い出すのだ。

今は捨て去ったナニかを。

 

その奔流を浴びるためなら我はさらに深き業を背負う事もいとわないだろう。

ゆえに、儀式などと呼んで拷問を繰り返す。

あまりに強いのだ、貴様のその流れがな・・・・・

 

「ッツ!?」

 

我の真下に本当に小さな「水滴」が落ちていった。

「涙」というにはあまりにおこがましいモノ・・・

無性に腹が立つ反面なぜか清々しい理解できない気持ちが我の中を駆け巡る。

 

初めて人を殺し、流した涙。

 

頭のクモの巣が張っているような、古く錆びた記憶の片隅からそんなことを自然と思い出す。

 

・・・・やはり、貴様は違う。

少なくとも我にとっては、余りに特別すぎる。

危険で、それでいて手元に置いておきたい。

麻薬だな、我にとっては。

 

 

 

だからこそ、良い。

 

 

 

我の持っている流れと是非とも実際にぶつけ合ってみたいと思う。

それがどんなに危険なことであっても、不可能なことであっても、だ。

貴様と我が会うのは運命だったのだ・・・・・違うな。

互いの生き方が我々を引き寄せた、が正解なのだろう。

 

もはや、貴様とは我は互いの想いをぶつけ合い

離れたくても離れられないモノになっているのだ。

さながら、全てを巻き込む黒繭の形をした重力の吹き荒れる場所に引き込まれたかのように

 

 

 

正直、我はうれしい。

 

 

 

我の何かを

燻っていた何かを

貴様は触ってくれたのだからな。

 

黒繭の持ち主が誰になるかはまだ解らぬが

少なくとも貴様と我のそれぞれの想いは

持ち主が感じ背負うだろう。

・・・・例えその持ち主が、我でも貴様であったとしてもな。

 

 

 

罪のために罪を犯す。

正義のために正義を振りかざす。

 

いったいこの二つにどれほどの違いがあるのだろうか?

貴様の信じる正義が我には罪に見えた。

我の信じる行動が貴様には悪に見えた。

ただそれだけのことだろう?・・・・・違うか?

そして、貴様の後ろめたい汚点と我の輝かしい活躍が重なる。

・・・それだけのことだろう。

 

しかも互いに理解できる。

・・・・皮肉だな。

 

貴様の表の面が我の裏の面を悩ませ

我の表の面が貴様の裏の面を呼び起こす。

そして貴様と我は自分の表裏を知ることができる。

 

 

 

やはり貴様は、良い。

最高だ。

 

 

 

この交わりが永遠に続けば良いと、どんなに思っただろうか

我という宇宙を知る事ができただろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァハァハァ・・・・・・

 

部屋の中にはもうすでに無力な復讐者の発する音はなかった。

あるのは我の息使いのみ。

 

永遠に続けば良いと思うひと時は必ず終わる。

今がその時なのだろう。

終わりというのは、残念なのと同時に次回の儀式への期待を抱かせる。

今回以上の手応えを。

 

そんな期待を膨らませながら研究部門の長のいる部屋まで戻る。

 

「お疲れ様で良いんですかねぇ?」

 

「フン、そんなことはどうでもいい。

明日も来る。

準備をしておけ。」

 

つまらないことを長が聞いてくる、含みのある微笑で。

我には余りに回りくどく、いやらしく聞こえた。

 

気分が台無しにされたような気がした。

なぜか癇に触る。

何故だ?・・・・・・まあ良い、明日もある。

 

「邪魔をしたな。」

 

「イエイエ、北辰サンならいつでも大歓迎ですよ。」

 

そんな長の返す言葉を無視しながら

我は次の任務の為に自分の割り当てられた区画に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スイマセン、逃げられちゃいました。」

 

次の日、儀式をしに来た我にかけられた長の言葉はこれだった。

 

「なぜだ。」

 

当然といえば当然の安直過ぎる疑問をぶつける。

動揺しているらしい、我は。

いつもならもう少し気のきいた事を言うのだがな。

 

「ネルガルのSSと思われる部隊にやられてしまったんですよ、これが。

ン〜もうすこし彼には僕の実験に付き合ってほしかったんですけどねぇ。」

 

少々我の質問に驚きながら自分のペースを崩さずに返してくる。

あの何かを含んだ微笑で。

 

いったい何の感情がこ奴の表情を作り出しているのか解らない。

 

「なぜだ、なぜ貴様はそんな表情をする。」

 

「何ででしょうか?いや〜僕にも良くわからないんですよ。

そうそう、彼の言伝(ことづて)があるんですけど?」

 

言伝だと・・・・・面白い。

 

「何だ?」

 

「『俺の想いは貴様を殺す』だそうですよ。

良くはわかりませんが。」

 

「フム、十分解る内容だ。」

 

しかし、聞こえていたとはな

・・・・正直あの状況で聞き取っていたとは驚嘆に値する。

 

「いやだなぁ、言伝を聞いた途端にニヤつかないでくださいよ。

しかも目もギラギラ輝かせて、他の人たちが怖がっているじゃないですか。」

 

「笑っていただと?我がか?」

 

「それはもう、羨ましいぐらいのニヤつきようですよ。」

 

長の言葉で確信した。

・・・・・そうか、長も同じだったか、我と。

無力な復讐者

いや、力足りぬ復讐者になったわけだが

あ奴が長の裏の面をも暴け出そうとは。

 

そして直接、我が憎悪の対象になったから

我を羨んでいたということか。

羨望・・・・・・・・それが、あの含みのある微笑の正体か。

 

まあ、知ったところで大した事はないが、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自らを由(よし)とするようになった復讐人よ、不可能なことを可能にしてくれたことを感謝する。

我と貴様、どちらが黒繭の中にあるモノを背負って立つに相応しいか

実際に試すことができることに対して、な。

 

そう遠いことでもあるまい。

その時を期待して待っておるぞ。

クククッ、次の新しい儀式をな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

F.Kです。

お久しぶりです。(大汗)

パソコンのハードディスクがおかしくなって

再セットアップを三回ほどして、やっと元に戻りました。

そして、やる気を取り戻すのに数ヶ月(こっちのほうが長い(ぉぃ))

 

「間を空けることはちょっと恥」

・・・確かにそのとおりです(滝汗)

 

SS製作再開の布石として

北辰側から見た劇場版前の出来事を書いてみました。

何とかSSとして読めるようなものになっていたら幸いです。

それでは。

 

 

 

代理人の感想

ごりごり、となにやら心の底で刺激される物があります。

普通、人が理解しあうのは愛や友情と言った正の感情を通してですが

こう言った負の感情を解しての理解というのも有り得るのかなと。

ある意味盲点でした。

 

>続きを間を開けて書くのはちょっと恥

だっはっはっはっはっはっはっはっは!

実は自爆だったりします!(核爆)