「アキトさん!貴方の事を御義兄さんと呼ばせビャフュウ!?」

「・・・偶に早く学校に来るとこういう輩が群がってくるな・・・」

とりあえず止めを刺し、簀巻きにして校内の池の浮かべる。
・・・いかんな。これ以上浮かべたら用務員のフクベさんに怒られてしまう。

「・・・・寒中水泳も程々にしないと身体に毒だぞ?」

何を言ってるんだ? 神威は。

「大丈夫。月曜・・・いや、明日になったらまた来るから。」

全く、この根性をもっと別の方向に向けることは出来ないのかね?





高校生テンカワ・アキトの土曜日の過ごし方





PM:0時10分 教室
今日は午前中で授業も終わりだからな・・・どうしよっかな?
枝織ちゃんや北斗ともデートの約束はしてないし。
・・・・それぞれ『デート』意味は違うけどな。

「・・・よし。決めた」

俺は今日の予定を決定し、鞄を引っ掴むとすぐさま教室を飛び出した。






PM:0時15分 中庭花壇前

「キノコ先生!!」

「あら、テンカワ君じゃないの。私に何か御用かしら?」


ムネタケ・サダアキ

ナデシコ学園教師 美術担当 園芸部顧問
その口調と外見とは裏腹に、最近では珍しい生徒思いのいい先生だ。
愛称は「キノコ」。命名は俺だ。
流石に怒るだろうと思われたのだが、何故か本人が非常に気に入ってしまい、今にいたる。
当初、その容貌に敬遠する生徒もいたが、現在では「キノコ」の愛称と共に皆に慕われている。


花壇の手入れか・・・う〜ん。誘っても問題無い・・・かな?

「ええ、今からフクベさんの所へ昼食を食べに行くんですけど・・・御一緒にいかがですか?」

「あら、私なんかでいいの? ・・・それじゃ少し待っててくれるかしら。
 後少しで水やりも終わるから」

うむ、やはりいい先生だ。
どこぞの爬虫類とは違って生徒に襲い掛かる事も無いしな。

「でも、テンカワ君も私なんか誘わずに、あの可愛い彼女と一緒に行けば良かったのに・・・喧嘩でもしたの?」

「違います」

「ちょっとからかっただけなのに・・・可愛いわね」

クスクスと笑いながら水やりを続けるキノコ先生。

ぬう・・・・少し怖かったぞ。







PM:0時30分 フクベ家

「おお、アキト君か。それにムネタケ先生まで・・・」

「もう、フクベさん、先生は止めてください」


フクベ・ジン

ナデシコ学園の裏に建つ木造建築の家に住む学園の用務員さんだ。
奥さんはしばらく前に他界。現在、共働きの息子さん夫婦と暮らしている。

そして俺は時折お昼ご飯を作るためにお邪魔している。
ん? なんで俺が作るのかって?
それは・・・・

トテトテトテ・・・・・


・・・だきっ!


「アキト!」

「ラピス、元気にしてたか?」


ラピス・ラズリ

桃色の髪と金の瞳を持つ少女。
フクベさんの息子さんの娘。つまり孫だ。
え?苗字が違う?
・・・気にしちゃ駄目だ(爆)
この子にせがまれて俺が料理を作っている。


「アキト!ご飯作って!」

「ハイハイ。あ、フクベさん台所借りますね〜」

「構わんよ。さて、料理が出来るまでお相手して頂こうかな、ムネタケ先生?」

「ふふふ・・・構いませんわフクベさん。じゃ、お邪魔しますわね」







PM:1時30分 フクベ家の縁側

パチン

「あら・・・」

パチン

「・・・むう」

パチン・・・・・・パチン・・・・・・・


「・・・平和だ」

フクベさんとキノコ先生の将棋の音を聞きながら縁側でお茶を啜る俺。
膝の上で寝ているラピスの頭を撫でながら、ボケーっと空を見上げる。
これで隣りに枝織ちゃんか北斗がいてくれれば完璧なんだが。

・・・・・・・・二人が大人しくしてくれるかどうかは別として。

パチン!

「王手よ」

パチン!

「王手飛車取り」

パチン!

「王手飛車取り角金銀取りですわ」

「・・・って、まてい! もう勝負はついてるんじゃないですか!?」

「もう、テンカワ君ったら、何を言ってるの?」

「ふぉっふぉっふぉっ、まだアキト君には早かったようじゃの」

いや、そういう問題ではないでしょう・・・?
時々あなた方が解らなくなります(涙)

「ごめんくださーい。アキトいますかー?」

「おや・・・君にお客さんのようじゃな」

この声は・・・神威?

「お、いたいた。探したよ」

「何の用だ、神威?」

「頼みがあるんだけど、これから暇か?」

「う〜ん・・・特に用事は無いけど」

「そうか!なら、自動車部に「却下」顔を出してくれないか?」

俺の即返を笑顔で無視するとは・・・手強くなったな。神威。

「実は最近完成した新型のテストパイロットをして欲しいんだ」

何故に『パイロット』? 自動車部だろお前等。

「何を・・・作った?」

「自動車に決まってるじゃないか♪」

いや、あのウリバタケ先生がそんなちゃちな物を作るはずが無い!

「それと、既に枝織ちゃんはスタンバイOKだ。『アー君早く来ないかなあ』だってさ」

しまったあ!先手を打たれたか!?
ウリバタケ先生の新型に乗るのは嫌だが、枝織ちゃんの期待を裏切るわけにはいかん!!

「・・・・・・・・・♪」

くっ・・・!これが例え北斗だろうと状況に変わりは無い・・・!

「・・・・わかった」

渋々そう答えると、ぐっすり寝ているラピスを起こさない様に横に下ろす。
が、どうやら眠りが浅かったらしく、ラピスはすぐに目を覚ました。

「・・・・・むにゃ・・・? どうしたのアキト?」

「ごめん。起こしちゃったね」

「アキト・・・もう帰るの?」

「うん、ウリバタケ先生に呼ばれてね。ちょっと自動車部まで」

「じゃあ、私も行く」

・・・・困った。
あの魔境にラピスを連れて行ってもいいのだろうか?

「大丈夫だアキト。やばそうな物は俺が片付けておいたから」

まあ、それなら大丈夫かな・・・・?

「それじゃあキノコ先生、フクベさん、俺はこれで」

「頑張るのよ、テンカワ君」

「また来てくれよ。ラピスが駄々をこねるからの」

そして、二人に向かい軽く一礼し、すぐさま自動車部の整備場へ向かった。








PM:1時50分 自動車部整備場

「アー君だー♪」

「お待たせ枝織ちゃん。ウリバタケ先生は?」

「師匠はこっちだ。いくぞ、アキト」

そういって俺を奥へと案内する神威。
枝織ちゃんとラピスと一緒に後をついて行くが・・・
しかし、『パイロット』ねえ・・・?
一体どんな車を作ったんだ? ウリバタケ先生は?

「ラピス、あまりそこらを弄くるんじゃないぞ」

「うん、アキト」

「お! ようやく来たな、今日の主役が」

「師匠、言われた通りに連れてきましたよ」

ウリバタケ・セイヤ

ナデシコ学園教師 世界史担当 自動車部顧問
自動車部を違法改造部へと変貌させている元凶。
いい意味でも悪い意味でも大人な人。
頼りになる人ではあるんだけど・・・・

「で? わざわざ俺を呼ぶなんて、一体どんな物を作ったんですか?」

「ふっふっふっ・・・聞いて驚け見て驚け!! これが! 我が自動車部の総力を上げて完成させた最新鋭機!」

布に覆われた機体に歩み寄り、それを力一杯引っぺがす。


ぶぅわぁさぁ・・・・


レヴィスフィアだーーーーーーー!!!!!

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

その『自動車』を見て、俺の思考が一瞬にしてフリーズする。

「ちなみに、この機体名は自動車部の部員。カズイエ・コウキの命名だ。
学校名が『ナデシコ』だから機体も花の名前にしようかとも思ったんだが――――」

再起動中―――

「さすがにネタも尽きてきたので完全オリジナルの名前にした!
そんじょそこらの軍人どもには扱えぬ代物よ!!」

再起動完了。

「ウリバタケ先生!!」

「おう、どうしたテンカワ」

俺の剣幕をさらりと受け流すウリバタケ先生。
そして、俺の指差す方向には―――

「なんでエステバリスがこんな所にあるんですか!?」

そう、なぜか軍の正式採用機、エステバリス陸戦フレームが横たわっていた。
しかもどう見てもカスタム化されてるし。

「第一、あんた等は『自動車部』だろ!?」

「神威、自動車の定義は?」

「はい、【エンジンの力で車輪を動かして通路を走る物】です」

「と、いうわけで、両足に車輪がついている陸戦フレームは『自動車』と定義する事が出来る」

おい神威。なんで辞典じゃなくて漫画もってるんだ?
まさか某女神の居る自動車部と同じ理屈じゃあるまいな?

「いやー、本当はオールラウンドフレームを作ろうと思ったんだがな」

「予算と時間の関係上、陸戦フレームで我慢する事にしたんだ」

「大人しく自動車作ってろ!! しかもそんじょそこらの軍人に扱えない物に生徒を乗せるな!!」

「全く・・・漢の浪漫がわからん奴だな」

「アキト、ロボットこそ浪漫の王道の一つじゃないか」

うあ、滅茶苦茶馬鹿にした顔でこっち見てやがる。
神無ぁ〜、なんで止めてくれなかったぁ〜・・・・

「・・・いや、止めても無駄か」

「どうしたのアキト?」

「アー君乗らないの?」

ああ、枝織ちゃん、ラピス。そんな眼で見ないでくれ・・・・俺に逃げ道は無いのか。






結局乗っちゃったよ。
なんでIFS付けてたんだろ、俺。
付けてさえいなければウリバタケ先生や神威に
いいように使われる事も無かったのだろうに。

『おーいアキト、準備はいいか?』

「OKだ。いつでもいいぞ」

『よし、それじゃ、レヴィスフィア発進!』

ブンッ

とりあえず立ち上がるか・・・

ずうううん・・・・・

『アキトー、どんな感じだー?』

「専門じゃないからよくは解らないが、なかなかいい感じだ」

『よし、それじゃあテストを開始する』





注:一時的に神威視点になります


おお、走ってる走ってる。初めてなのによくやるなアキトの奴。

「ねえねえ、かー君。枝織の分は無いの?」

「ごめん。あれって一応試作機だから、まだ一機しかないんだ」

「枝織ちゃんのはテンカワの機体の機動データを元にして作るから、もうちっとばかし待っててくれ」

作るんですか、ウリバタケ先生。
うーん、どうせなら某動物形のパズルロボットのような変形合体機構を組み込んでみたいなぁ・・・

「やあ、ウリバタケ先生。試験の調子はどうだい?」

「アカツキか。見ての通り、好調だ。やっぱりテンカワをテストパイロットに選んだのは正解だったな」

「それはよかった。・・・しかしすごい機体だねえ。概存するどの機体でもここまでの動きが出来る物は無いよ」

まあそうだろうな。アキトには伝えていなかったが、なんせあのイネス先生との合作だからな。
・・・・どこになにを使ったのかは聞かないでくれ。

「ところでウリバタケ先生。このいかにもヤバ気くて丸いボタンはなんなんだい?」

あ、あれは・・・・

「ふ、聞いて驚けアカツキ。それはな・・・」

間に合わないか。仕方ない。枝織ちゃんとラピスを安全な場所まで誘導しておくか。

「世界共通の絶対的なの浪漫!!」

すまんな二人とも。大人しくしといてくれ。

「自爆装置だ!!!」


―――ポチッとな

















「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん。押した」


生きて帰って来いよ。アキト。










PM:4時55分 ナデシコ学園保健室

・・・・・う、ううう・・・・
なにがあったんだ・・・?
いきなり目の前が真っ白になって・・・
反射的に昂気を纏ったらすぐに洒落にならん衝撃が来て・・・

「・・・・・眼が覚めたか、アキト」

「・・・北斗か?」

ゆっくりと眼を開けると、目の前に北斗の顔があった。

「・・・何があったんだ?」

「ああ、アカツキの奴があの機体に搭載されていた自爆装置を起動させたんだ」

じばっ・・・!?
あいつ等は・・・人をなんちゅーもんに乗せるんだ!!

「あの後、爆音を聞きつけたいつもの連中がウリバタケとアカツキを連れてどこかへ消えた。
たしかユリカ、メグミ、リョーコの三人は食堂へ向かっていた。
それと、イネスが黒の混ざった虹色の薬を片手に笑っていたし、
ラピスが家から布に包まれたい棒状の物を持って来ていたな」

他にも消火器スパナ釘バットうんぬんという話を聞かされたが、
想像したくは無かったので聞かなかった事にした。

・・・・あれ?

「北斗。神威はどうした? 二人と一緒に連れて行かれたのか?」

「神威なら俺とラピスを庇った事で懲罰は免れている。
最も、神無に耳を引っ張られたまま何処かへ連れて行かれたようだがな」

うあ、出たよ、どこぞの某炎の中華体育教師ばりの説教。
かの御仁は中国四千年の歴史から始まるけど、
あいつの場合、子供の頃の事を引き合いに出してくるから
付き合いの長い俺達にとってはかなり性質が悪い。
あの苦しみは受けた者にしかわからんよ・・・・(涙)
皆のお仕置きとどちらがマシか。

「・・・・ふ」

「なにを笑っている、アキト」

思わずこぼれた笑みを見て怪訝な顔をする北斗。
しかし、一度こぼれた笑みはそう簡単には収まらない。

「気でも違ったか、アキト」

「いや・・・なんか嬉しくって」

「嬉しい?」

「ん。北斗の膝枕で寝れる事が嬉しいんだよ」

そう、俺の頭の下には北斗の太股あった。
最初は気付かなかったんだけどな。話している最中に頭の下の物は何かな?
なんて考えて・・・まあ、考えるまでもなく膝枕されているという事に気付いてはいたんだが・・・・
枝織ちゃんじゃなくて北斗だったからな。思考が追い付かなかった。

「・・・そういうものか?」

「うん。そういうもんだ」

顔を付き合わせればいつも戦闘開始のゴングが鳴るからな。
たまにはこんな時間があってもいいだろう。

開いた窓から優しい風が吹いた。
大事な女性の膝の上でそれを感じた。
彼女の手が俺の髪を撫でる。
彼女の頬へと手を伸ばす。


そして、夕日に照らし出された二つの影が、ゆっくりと重なっていった・・・・・

















お・ま・け

保健室へと続く廊下。
そこに、数十名の生徒達がボロボロの姿で倒れ伏していた。
殆んどの者が気を失い、意識のある者も我が身を襲う苦痛に呻き声を上げる事しか出来ない。

「ふっふっふっ・・・愚かなり復讐人達よ」

そこに立つ一人の男。
ナデシコ学園教師 保健体育担当 名を、影護 北辰と言う。

「くっ・・・くそっ・・・!」

「負けて・・・たまるか・・・」

なんとか動ける一部の生徒が立ち上がろうとするも、
その両足には全く力が入らなかった。

「憎かろう・・・悔しかろう・・・・」

そんな生徒達を見下しながら、その爬虫類のような目を光らせる。

「いくら汝らが徒労を組もうとも・・・・」

いやらしい笑いを浮かべる北辰を睨みつけ、一人の生徒が口を開く。

「俺達は・・・行かなければならないんだ!!」

「そうだ! 彼女を、あの悪魔の手から取り戻す為に!!」

その言葉を聞き、己が身体に鞭を打ち立ち上がる生徒達!!

「笑止!!」

「くっ!?」

北辰の一喝に怯む一同。そして―――!!

「我ある限り、婿殿と愛娘達の仲は永遠に引き裂けぬのだ!!!!

ピンクに輝く社会の窓全開男に負けられるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』



――影護 北辰VS北ちゃん親衛隊&枝織聖天教団―――

――彼らの聖戦は続く―――――













あとがき

先天:はい、作者の先天です。それじゃ!(ダッシュ)

神威:逃がすか。

先天:ぐほぉっ!? い、いつの間にか鎖で繋がれている!?

神威:ああ、某団体が「繋いどいてくれ」って言ってたから。

先天:き、貴様! 生みの親である俺を売るのか!?

神威:いや、だって・・・某団体のトップの方がいないと投稿してもアップされないし。

先天:た、頼む! 見逃してくれ! お、俺はまだ死にたくない!

神威:うーん。いきなり前回宣言した自分の属性を無視してるからな。
   これって完璧に「北ちゃん」だろ。

先天:ま、魔が差したんです! 書きやすかったんです!

神威:だ・か・ら。それを判断するのは俺じゃない(ニッコリ)

先天:ヘルプ・ミィィィィィィィィィッ!!!!

神威:神無の出番が無かったからな。その報いも受けてくれ(邪笑)

先天:のぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?

神威:あー、もしもし? 某団体の方ですかー? こいつの処分お願いしまーす。
   それとこの駄文を読んで下さった方々に深くお礼申し上げます。それでは。