「あら、テンカワ君これから帰り?」

「あ、キノコ先生。ええ、今から帰る所です」

「そう。・・・・ああ、これあげるわ。うち(園芸部)で取れたものよ」

ん・・・こ、これは!?

「シイタケ、シメジにマッシュルーム・・・しかもマツタケにトリュフまで!?」

「たくさん取れ過ぎちゃってね。妹さんと一緒にお食べなさい」

「で、でもこんな高価な物・・・」

「いいのよ、私が持ってても調理なんてできないんだし。
だったらあなたにあげた方がこの子達も幸せよ、きっと」

「キノコ先生・・・! ありがとうございます!!」

相変わらず教師の鏡だな、この人は。
よし、お礼になにか保存の利く物を作ってキノコ先生に持っていってあげよう。





高校生テンカワ・アキトの恋愛講座






突然だが、如月 神威の双子の妹、如月 神無はモテる。
美人ぞろいのナデシコ学園において優にベスト10に入るだろうその容姿。
均整のとれたプロポーション。膝まで伸びる黒髪をポニーテールに纏め、太陽のような明るい笑顔。
そんな彼女は、彼女の兄 神威が所属する自動車部の部員を中心に絶大な人気を誇っている。
当然言い寄る男は後を立たないのだが、どうやら彼女には既に恋人がいるらしく、
それを理由に振られた男は後少しで三桁に突入するらしい。
最も、『極度のブラコン』である彼女が恋人を作ったとは、殆んどの者が信じていなかったのだが






AM:11時57分 自動車部整備場

「・・・・で、何の用だって?」

「さあ? 私もアキト君が来るまでは秘密とか言われたし」

「・・・今更だが、何で神無は俺の事を君付けで呼ぶんだ? 確か呼び捨てで良いと言ったはずだが」

「う〜ん・・・。なんとなく、かな? 別にアキト君と距離を置きたい訳じゃないんだけど」

「まあいいか、どうしても変えて欲しい訳でもないし」

「そう。・・・って着いた着いた」

いつの間にやら到着した自動車部整備場。
前回の自爆ポイントだ。・・・あれはホントに痛かった(涙)
某コロニーの諜報員の言う事は本当だったな。

「か〜むい♪ 手伝いに来たよ〜♪」

「わっ!? か、神無、いきなり飛びつくな」

おお、あの距離を跳ぶか神無。
・・・十メートル以上あった様な気もするが。よく耐えられたな、神威の奴。
まあ、それは『こっち』に置いておこう。
あ、自動車部員の皆さんから微笑ましさ嫉妬殺気の入り混じった視線(1:3:6)を感じる(笑)
ん? ・・・なんだか沢山あるな。布を被ったエステバリス小の物体が。

「おーい、神威あれなんだー?」

「お、おう。って、いい加減に離れろ神無」

「は〜い」

・・・いつも思うが・・・なぜに神無は神威が絡むと子供っぽくなるんだ?
ユリカ程じゃないのがせめてもの救いだが・・・。

「ふう、で、なんだアキト」

「あれだよ。まさかまた作ってんじゃないだろうな、エステ」

「はっはっはっ、まさか。俺は作ってないよ」

「だよなー、はっはっはっ」

「うん、スフィアシリーズ(エステ)は師匠が作ってるから」

・・・・・・・・・・コラ、神威

「ふっふっふっ、でわ見せてあげようアキト君! 俺の最高傑作を!!」


ぶぁさあ・・・・


神威が勢いよく布をどける。
その下からは・・・・ハイ?

「・・・ライオン?」

「ここは動物園か・・・?」

神威が次々と布をどけていき、その下から同じ数と種類の動物形のロボットが出てくる。

獅子、虎、牛、鮫、鷲、麒麟、象、ゴリラ、サイ、アルマジロ、est…………

・・・・何を考えているんだ神威は。

「これはな、どこぞの変形合体ロボを元にして作った通称『ナデアニマルシリーズ』だ。
流石に俺一人ではここまで完成させることは不可能だったんだが・・・・」

「彼に協力を頼まれてね。僕とフレサンジュ先生が手伝ったんだ」

「ナ、ナユタ君!? 生きてたの!?」


御光臨 ナユタ

ナデシコ学園大学部在学。
神威と同じくウリバタケ先生を師匠と仰ぐ奇天烈な奴。
また、イネス先生を科学の女神と仰ぎ、その科学力をも吸収しようとする危険人物だ。
しかし、なにをトチ狂ったのかイネス先生の所では新薬の実験台に自ら率先して志願している為に
週3〜4日 は鬱病のように精気抜けした表情をしているため、あまり危険視されていない。
・・・しかし、油断は出来ない。なにせあのイネス先生とウリバタケ先生の弟子なのだ。


「何を言っているの神無さん? 一体いつ僕が命の危険に関わったと言うんだい?」

惚けているのか自覚が無いのか・・・・・前者である事を祈ろう。

「まあまあ、・・・・さて、二人が来た事だし、早速機動実験に入るか」

「そうだね。じゃあ僕は機体の準備をしておくよ」

「了解」

そのままてくてくと機体の方へ歩いていくナユタ。
・・・あ、ふらついてる。
・・・・・あ、こけた。
どうやら薬が抜けきっていないらしいな。(汗)

「さて、皆!! 出て来てくれ!!」

神威の呼び声に答え、近くの控え室(自動車部の部室)から見知った顔がぞろぞろと。

「アーくーん♪ 見て見てー♪」

「枝織ちゃん? それにガイとヒカルちゃん。万葉ちゃんまで・・・・(汗)」

出て来たよ。ああ、出て来たともよ。
だがな神威。何故にみんな色とりどりの全身タイツに身を包んでいる!?
しかもそれぞれ動物を象ったヘルメットだと!?
そこまでお前を駆り立てた物は一体なんなんだ!?

「ふっ、あまいなアキト。ちゃんとゲキガンソード(獣○剣)もあるんだぜ!!!」

「へへ〜♪ 実はこの服私達が作ったんだ〜♪」

・・・なるほど。その服を作ったのはヒカルちゃん達か・・・
ウリバタケ先生が伝染ったのかと思ったぞ。

「神威の奴も熱心に手伝っていたがな」

それは本当かい万葉ちゃん・・・?
だとしたら・・・これ以上神威を自動車部にいさせたくはないなあ・・・(涙)

「これは二人の分だ。早速着替えてくれ」

そういってこやつが差し出したのは・・・・白と銀の全身タイツだった。









PM:一時十二分 同上

なぜ俺はこの服を着ているんだろう・・・?
ふっ、場の雰囲気に飲まれたか・・・(遠い眼)

まあ嘆いても仕方が無い。
現在の俺の格好は狼を模した銀のヘルメットに銀の全身タイツ。
腰にはサーベルの様な物が挿してある。

・・・名前は『ナデシルバー』だそうだ(爆)

ちなみに、他の面々の名前と動物は次の通り。

枝織ちゃん――ナデレッド・獅子

ガイ―――――ナデブラック・牛

ヒカルちゃん―ナデイエロー・鷲

万葉ちゃん――ナデブルー・鮫

神無―――――ナデホワイト・虎

それと今から上記の五人の機体の機動実験だそうだ・・・
合体の(核爆)


「よーし皆! 合体方法は理解したな!?」

「「「「「はい!!」」」」」

皆乗り気だなあ。・・・・俺もいい加減開き直った方が良いのだろうか?

「よし、では! 実験スタート!!」

「「「「「百獣召喚!!」」」」」

ちゃらちゃちゃん♪ ちゃらちゃちゃん♪ ちゃらちゃちゃん♪ わぁ〜お〜♪

な、なんだこのメロディーは!? 何処から流れてきた!?


――聖なる音色が天空に響く時、この地上に聖なる獣達が降臨するのです――


!? 今度はナレーションが!? だ、誰が・・・!

「・・・・・プロスさん・・・」

「はっはっはっ、神威さんとナユタさんに頼まれましてな」


プロスペクター

ナデシコ学園の・・・・お金の全てを取り締まる人。
本名不明。・・・一度調べようとしたけど結局わからずじまいだった・・・
ある意味この学園の最高権力者である。
・・・・ま、基本的にいい人なんだけどね。


「「「「「百獣合体!!」」」」」

むっ、次の段階に進んだか。
神威とナユタもデータ取りに忙しそうだ。


――五つの精霊が一つになる時、偉大なる精霊の王が誕生するのです!――


・・・プロスさんもね。


「誕生!」

『ナデキング!!!!!』

・・・完成したか。
人型ではあるが・・・胸部はライオン、頭部は鷲、右腕が鮫で左腕が虎、下半身は牛か。
まーどーでもいいんだけど。
って、よく考えたら俺もやるんだっけ(汗)






PM:2時15分 同上

神威から三つの色違いの・・・ガラス玉? 水晶かな? まあそれを受け取って・・・

「呼ぶの・・・か?」

「ああ、皆とは呼び方が違うから注意してくれよ」

問答無用だな神威。
・・・逃げちまおっかな?

「そうだアキト君。イネス先生が新しい薬の実験をしたがってるから
早く終わらせたいんだ。申し訳ないけれど急いでくれないかな?」

・・・なにげに逃げ道を塞ぎやがったなナユタ。
そういうのは無限の再生能力を持つ彼らの領分だぞ!!

「はあ・・・、わかった。いくぞ!」

勢い良く腰のサーベルを横一文字に振りぬくと、
空中に光の道が現れる!!

「ナデハスラーロッド、正常作動確認」

画面を見つめるナユタの声が響く。
その声を聞きながら、先ほど受け取った三つのガラス球を光の道に置く。

・・・・どうやって乗ってるんだろう?

そのままサーベルを変形させ、プロのハスラーの如き隙のない構えを取る。

「百獣召喚!!」

勢い良くロッドを突き出し、ガラス球を打ち放つ。
すると、さっきまで背後のいたはずの狼、ワニ、ハンマーヘッド型の機体が
俺の目の前に出現する!!

「百獣合体!!」


――三つの宝珠が紋章を描くとき、新たなる精霊の王が誕生するのです!――


プロスさんもノリノリだな(苦笑)

「誕生! ナデハンター!!」

合体完了。
この機体も人型。ナデキングと違って、ワニが両腕以外の身体全てを構成しており、
右腕がハンマーヘッド、左腕が狼だ。

馬鹿でかい剣を持ってるが・・・・あんな手でどうやって持ってるんだろう?

「よーし! 次はブルームーンモードだ!!」

はい?

「おい、その『ブルームーンモード』とはなんだ?」

「ナデハンターの強化版で・・・まあ、フルバーストと考えてくれれば」

まだあったのか・・・?

「・・・・好きにしてくれ」

「よし、なら『ナデの巫女』を呼んでこなければ」

「・・・巫女?」

「うむ、『ブルームーンモード』はナデの戦士と巫女が祈りを捧げて初めてその姿をあらわすんだ」

「おや? 少し設定が違いませんかな・・・?」

なんでそんなことを知ってるんですかプロスさん?

「それはご都合主義というやつですよ、プロスさん。
・・・とはいえ、少し遅いな・・・もう来てるはずなんだけど」

「誰を呼んだんだ?」

「ああ、お前も良く知って――――」

カシャン――!!

照明が・・・落ちた、いや・・・落とされた!?

「一体・・・!? 誰だ!?」

わずかな気配を感じ、そちらに注意を向ける。
すると・・・・

ゆっくりと、その人物はその場に現れた。
白く質素ながらもどこか神聖な雰囲気を纏う服に身を包み、
その額には、蒼い石がはめ込まれたティアラが美しき輝きを放っている。
恐らく、これが『ナデの巫女』の服装なのだろう。
そして、一条の光がその爬虫類のような眼を照らし――――爬虫類?


「我こそが『ナデの巫女』なり!! さあ、婿殿! 我が祈りの元―――」


次の瞬間、みんなの心が一つになった。

ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!

「ぐはぁぁぁぁぁああああっ!?」

枝織ちゃん・・・いや、北斗達五人が力を合わせた巨大な光刃が自称『ナデの巫女』を切り裂く!!
だが、まだ終わらん!!
ナデハンター、最強兵器起動!!

『天地震撼! ビーストハリケェェェェェェェェェン!!!』

胸部のワニの口から膨大な量のエネルギーが迸り、自称『ナデの巫女』に突き刺さる!!

「ナユタ! ブルームーンモード強制発動!! 細胞の一欠片も残すなぁ!!!」

「了解! ブルームーンモード強制発動! ついでに全リミッター解除!!」

当たり前だ!! 奴の存在を許すわけにはいかない!!(キッパリ)
とりあえず昂気の上乗せだぁぁぁぁぁぁっ!!!!











PM:2時58分 自動車部整備場跡地

「・・・・・えらくサッパリしたもんだな、こりゃ」

額に青筋を浮かべながら呟くウリバタケ先生。
・・・無理もないかな?

「で? この大騒ぎの張本人は誰だ?」

・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・って、なんで皆俺を見てるのかな?

「アキト、神威、ナユタ・・・・お前等ちょっと面かせ・・・・」

・・・怒り心頭って感じだな・・・・。
やっぱりナデハンターが大爆発を起こしたのはまずかったか?
まあそれ以前にブルームーンモード+リミッター解除+昂気上乗せのビーストハリケーンで
整備場は半壊していたが・・・・(汗)

「全ては自称『ナデの巫女』が悪いんです!」

「やかましい!!」

やっぱ駄目だよなあ・・・・はあ。










PM:7時32分 テンカワ家の自室

つ、疲れた・・・・(汗)
整備場の後片付けをやらされるとは・・・・。
そう言えば、あの後神威から聞いたんだが『ナデの巫女』って本当はルリちゃんがやる予定だったらしい。
俺的には『巫女』というよりも『妖精』と言うイメージの方が強いんだが(苦笑)


コンコン


ん? ルリちゃんか?
・・・それ以前に今家には俺とルリちゃんしかいないんだっけ。

「どうしたのルリちゃん?」

「あの、アキトさんお客さんです」

「客? こんな時間に?」

「神無さんです」

なに? 神無だと?

「アキト君・・・こんばんわ」

なにかあったかな、こりゃ。





PM:7時40分 テンカワ家のリビングにて

「・・・で? 神威じゃなくて俺に相談に来るってことは・・・あいつには話せない様な事か?」

「そういう・・・わけじゃないんだけど・・・」

歯切れが悪いな・・・一体なんなんだ?

「あの・・・私、席外しましょうか?」

「ううん、いいのルリちゃん。そんな・・・深い話じゃないから」

とは言われてもな・・・そんな顔されたんじゃ嫌でも心配するぞ。

「実は・・・さ、今日・・・サイトウ君に付き合ってくれって言われたんだけど・・・」

おいおい。

「あ、勿論断ったよ? もう好きな人と、その、付き合ってるし。でも・・・」

「どうされたんですか?」

「うん・・・その、「付き合っている人を教えてくれ」って言われて・・・引き下がってくれないんだ・・・」

・・・なるほどね。

「つまり相手の名前を教えても良いのかって事だな? 学校中に知れ渡るのは確実だから」

「・・・うん」

そりゃあ・・・悩むか。
相手が相手だし・・・な。

「まあ・・・そう言う事なら相談に乗るが・・・・」

「でも、アキトさん。何時までもこのままというのも・・・・」

「・・・だな。そろそろ・・・潮時なのかもしれない」

ルリちゃんの言う通り、何時までもこのままと言う訳には行かないだろう。
神無は雰囲気的には高嶺の花と言う訳じゃないから結構誘いが多いんだよな・・・・。

「付き合い始めて・・・二年だよな? 神無も・・・いい加減覚悟を決める時なんじゃないかな」

「そう、なんだけどさ・・・」

「ま、最悪五人はお前達の味方だけど?
・・・結局は・・・あいつと相談するのが一番だと思うぞ」

そう、結局は・・・二人の問題なんだから・・・・・・・








PM:8時30分 テンカワ家の玄関にて

「ごめんね、アキト君。こんな遅くに押し掛けて」

「いや、気にするな。・・・で、大丈夫か?」

「うん。アキト君達と話してたら吹っ切れちゃった」

「それくらいしか出来ないからな。また何かあったら・・・って、いつも俺のところに来るのも問題 な」

「アハハ、そうだね。でも・・・なにかあったらまた来るよ。二人でね♪」

「ああ・・・それがいい」

「じゃあ、おやすみ」

「気を付けて帰れよー」

とは言っても、二つ隣だから大して危険はないか。

「さて、少し遅くなっちゃったけど夕飯にしようか」

「はい、アキトさん」

準備してないけどな〜。確かご飯が残ってたな、チャーハンにでもするか。

手っ取り早く夕飯を作るために俺はさっさと台所に向かった。
・・・だから、ルリちゃんの呟きは俺の耳には届かなかった。

「神無さん、羨ましいです・・・・」











翌日 PM:2時30分 自動車部部室裏

「・・・・なにがあったんだ?」

その光景を見た途端、俺の口から出た言葉はそれだ。
何故って?
そりゃあそうだろう。自動車部員全員参加の大乱闘大会が繰り広げられてるんだから。

「確かここは神無がサイトウに呼ばれた場所のはずだが・・・?」

「あ、アー君も来たの?」

「枝織ちゃん・・・一体何があったんだ?」


・・・枝織ちゃんの話をまとめるとこういう事らしい。
なんでも偶然サイトウが神無に告白し、尚且つ半ば強引に詰め寄る姿を目撃した
自動車部員がすぐさま他の部員を招集。神無を助ける為に突撃したらしい。

・・・まとめるほどの物でもないか。

当初は

「我らが自動車部の天使に手を出すなど言語道断!!」

「貴様に『神無ちゃん光翼近衛騎士団』団員の資格は無い!!」

等と言っていたらしいが・・・
現在は、

「神無ちゃんと愛を語り合うのは俺だぁぁぁぁぁ!!!」

「手前等にやるぐらいなら俺がこの手でぇぇぇぇぇ!!!」

・・・・いや〜、自分の欲望に忠実な人たちだなあ(笑)
神無に恋人がいるって話は結構有名なのに。

しかし・・・・なんでウリバタケ先生も参加しているんだろう?
妻子持ちだったよな確か・・・(汗)

「アー君どうするの? 神無ちゃん困ってるけど・・・・」

「そうだな、そろそろ・・・ん?」

あいつ・・・。あの顔は覚悟を決めたか?

「もう少し様子見。あいつがどう動くかで決めても遅くは無いさ」

「うん、わかった」

「やあアキト君。元気そうだね」

・・・・・・!!!! ナ、ナユタ!? 馬鹿な!?

「ナッ君が・・・二日続けて元気だなんて・・・・!」

「そ、それはないんじゃないかい枝織さん?
こうみえても自己管理には五月蝿い方なんだけど・・・・」

黙れ。イネス先生の新薬の実験にその身を差し出した時点で
お前にその台詞を言う資格は無い。

「ところで、お前は参加しないのか? この乱闘」

「僕にとって彼女は親しい友人。それ以上でも以下でもないよ」

まあ、こいつはウリバタケ先生とイネス先生がいればそれでいいって感じだしな。

「それに彼女にはもう好きな人がいるじゃないか。毎日これでもかってくらい一緒にいるしね」

・・・!?

「・・・気付いていたのか?」

「彼女の顔を見てれば分かるさ。まあ・・・他にも何人かは気付いてるんじゃないのか?」

確かになあ・・・神無の態度もあからさまだったし・・・普通はばれるか。

「最も、余りにあからさま過ぎて気付いていない人が殆んどだけどね」

「ハハハ、気持ちを自覚する以前からあんな感じだったしな」

ナユタは知っていたのか・・・と、なると・・・意外と受け入れてくれる人は沢山いるのかもしれないな。
・・・まあいい。どちらに転ぼうと俺は・・・俺達は神無達の味方だ。







はぁ〜・・・なんでこんな事になってるんだろ?
確かサイトウ君に呼び出されてもう一回断りの返事をしてその後サイトウ君が詰め寄ってきて
そしたら偶々近くにいた自動車部の人が皆を連れて来てサイトウ君へ制裁を加え始めて
いつの間にか大乱闘大会になってなんでかウリバタケ先生も凄い形相で周囲の人間をはったおして・・・・
・・・・疲れた。

あ、また一人戦線から離脱した(汗)


ん?・・・サイトウ君まだ生き残ってたんだ(爆)


神威は・・・・・・? あれ・・いない?
どこに行ったんだろ? まさかやられたって訳じゃないだろうし。
いて・・・くれないのかな・・・・。

ガシィッ!!

「きゃっ!?」

「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・神無ちゃん・・・答えをぉぉぉ・・・・」

サ、サイトウ君・・・ゾンビみたい・・・って、
そんな事どうでも良いから手を離してよ〜(涙)
この乱戦の中を突っ切ってきたせいか顔が・・・・

お岩さんよりも酷い状態に・・・・(汗)

私こういうの苦手なのに〜〜(涙)

「か、神無ちゃへぶぅっ!?」

「へ?」

突如、私の肩越しに振り下ろされたバール(注:人名ではありません)が
サイトウ君の頭部を強打。返す刀で私の腕を掴んでいた手を串刺しにしながら引き剥がす。

・・・・痛そう。

サイトウ君を撲殺(死んでません)した人は私の後ろにいるので顔は見えない。
その人はそのまま腕を回し私の身体を・・・・抱きしめる。
普通ならその腕を振り払うんだろうけど・・・・
私の大事な人だから、いいよね?
でも、彼が発した一言は、私にとっても意外な物だった。

「神無は俺の物だ」








「神無は俺の物だ」

おいおい・・・・いきなりそういう台詞を吐くのはどうかと思うぞ?
なあ・・・・・神威?
神無、顔真っ赤にしてるぞ(苦笑)

「神威・・・?」

「な・・・? なんで・・・?」

部員の皆は状況が把握できないようだな。
無理も無いか。

「かー君大胆・・・・・」

「『時が凍る』ってこういう事をいうのかな?」

「意味を飲み込むのにどの位かかるかな? ・・・・って、時計忘れた」

ちなみに、上から枝織ちゃん、俺、ナユタだ。
はてさて、いい加減に再起動して欲しい物だな。
このままでは話が続かない。

「・・・・・ど、ういう、意味・・・?」

「そのままの意味ですよ? 神無は俺の物です」

部員の皆がようやく搾り出した声に対する回答がこれ。
・・・・もしかして・・・

「神威の奴・・・キレてる?」

「かー君怒ってるの?」

「・・・なるほど。あえて理由を上げるなら・・・『嫉妬』、でしょうか?」

結構独占欲強かったんだな、あいつ。
腕を緩める気はさらさらないみたいだ。
「君を二度と放さない!」・・って奴か?
・・・まあわからんでもないな、その気持ちは。

「・・・お前、正気か?」

「実の妹だろ? 何考えてるんだ・・・」

「それでも、好きなものは好きなんです」

ハッキリとした口調で返す神威。
その腕の中で、顔を真っ赤にしながら神無も頷いている。

その時、事態を静観していた俺達の方にウリバタケ先生が近づいてきた。

「お前等全然動揺してないな・・あの二人の事知っていたのか?」

「はい、知ってましたよ」

「枝織はアー君から聞いたんだよ」

「彼女を見てれば分かりますよ」

「なんでえ、知ってたのかよ」

悔しそうですね、ウリバタケ先生(苦笑)

「って事は師匠も知ってたんですね、あの二人の事」

「伊達に十年以上女房と連れ添っちゃいねえよ」

だったら何故暴れてたんだ・・・?
まあそのおかげで部員の七割は昏倒してるけど(汗)

「しかしなあ・・・みんな納得するかね?」

「しなくても構いませんよ。あの二人が幸せなら、俺はそれを支持します。
周りが五月蝿いのなら・・・・黙らせるだけです」

「枝織もアー君と一緒♪」

「ハハハ、二人とも過激だなあ。まあそうなったら僕としては嬉しいですよ?
なにせイネス先生か僕の研究がそれだけ進むって事ですから」

・・・・・何気に凄まじい事を口にしなかったか? ナユタよ。
そんな俺達を見て、ウリバタケ先生は苦笑した。
そして、今だ口論を続ける二人と部員達を見ながら、ゆっくりと語りだす。

「二人の事・・・最初に気付いた時にはな、止めさせようと思った」

・・・それが、普通なんでしょうね。

「でもな、神威と一緒にいる時の神無ちゃんは・・・いい顔で笑うんだ、これが」

それがさも自分の事の様に嬉しそうに笑うウリバタケ先生。

「理由はそれだけじゃないんだが・・・それが一番の理由だな」

「二人を認める事の?」

「おう!」

ナユタの言葉を力一杯肯定する先生。
嬉しいものだな・・・こういうのは。

「いいんですか? 教師たる御方がそんな事言って。
僕が言うのもなんですが、一般的な倫理観に照らし合わせれば、あまり感心できる事じゃありませんよ?」

「かまやしねえよ。それに・・・・」

「それに?」

幾分誇らしげに、しかし幾分呆れながらもウリバタケ先生は答えた。

「ここは『ナデシコ』だぜ?」

全くだ。










PM:5時13分 帰り道

「しかし驚いたな・・・・」

「ああ、まさかああも簡単に受け入れてくれるとは・・・」

あの後、ウリバタケ先生との会話を終わらせた俺達が見たのは、
自分の兄妹を恋人とする異常者を気味悪がる人々ではなく・・・
いつもの自動車部員達の姿だった。
最も、神威は「裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」の雄叫びと共に
タコ殴りにされていたが(笑)

「大丈夫? 神威。痛くない?」

「大丈夫だよ神無。・・・でも手加減はして欲しかった(涙)」

神威に寄り添うように立つ神無。
微笑ましいその姿を横目にしながら、自然と口元に笑みが浮かぶ。
・・・やっと、この二人の立つべき場所に立った・・そんな不思議な感覚に包まれる。

「・・・でも」

神無の不安げな声に現実に引き戻される。
おや? もう家が近い。・・・かなりの間ボーっとしていたらしいな(汗)

「どうした?」

「うん・・・。皆が受け入れてくれたとしても・・・学校やPTAとかは・・・」

そういえば・・・そんな物もあったな(爆)
別に従う義理は無いんだが・・・あの学園は居心地が良い。
できれば退学などは避けたい。
俺が出向いたとしても退学者が一人増えるだけだ。
もっと・・・確実に・・・・これしかないか・・・?

「・・・・その事なら俺に任せてくれ」

「アキト?」

「確実にそいつらを黙らせる方法を思いついた。
しかも俺達には一切の被害は無い」

「そんな方法が!?」

「・・・あまり気は乗らないが、この際なりふり構っていられん。
二人とも別れるつもりは無いし、学園を退学にもなりたくないんだろう?」

当然といった感じに頷く二人。

「まあ、任せておけ」

・・・・・でも、本当に、気が乗らない。















翌日 AM:10時35分 校長室前

「失礼しました」

ガララッ――ピシャ

今日、私と神威は校長室に呼ばれ・・・・なにもなかった。
ただ「ハメを外さないように」とありきたりな事を言われるに留まっていた。
・・・アキト君のおかげなのだろうか?

「どうだった? 二人とも」

「ああ、お前のおかげ・・・なのか? 大してなにも言われなかったよ」

「・・・そうか」

・・? アキト君・・・疲れてる?
今朝は元気だったと思うけど・・・。

「アキト君元気ないね?」

「そうだな・・・何かあったのか?」

「いや・・・昨日取った手段の後遺症・・・とでも言うべきか・・・」

・・・え!?

「い、一体何をしたんだ!? 具合が悪いんなら保健室に―――」

「い、いや、違うんだ。昨日実際に行動したのは俺じゃない」

?? どういう・・・こと?

「実は・・・ある人物に協力を申し込んで・・・その交換条件が・・・な」

そこで深いふか〜い溜め息をつく。
一体誰にどんな条件を飲まされたんだろう?(汗)
・・・ハッ!? ま、まさか!?

「アキト君まさかイネス先生に・・!!」

「な・・! そうなのか!? アキト!?」

もしそうだとしたら・・・私達、一体どうしたら・・・!!

「安心してくれ、頼んだのはイネス先生じゃない」

それじゃあ一体・・・だれ?
心当たりが多すぎて判断がつかない・・・。

「おお、婿殿ではないか。もうすぐ授業が始まるぞ?」

ほ、北辰先生!?
びっくりした〜・・・ん?
アキト君の顔が・・引きつってる?

「ああ、少し友達と話してたんですよ。『お義父さん』」

ぴき・・・・・

「そうか。・・・おお、言い忘れていた。
実は処理せねばならぬ『仕事』が2、3残っていてな。
今日の我の授業は自習と言う事になった。すまぬが、他の者どもに伝えておいてくれぬか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ええ、構いませんよ。
・・・・・・・それより昨日は夜分遅くの電話、失礼しました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「くっくっくっ、気にすることは無い。我も中々楽しめたしな。
でわ、失礼するぞ婿殿」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はい、お仕事の方、頑張ってください『お義父さん』」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「行ったか・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?
い、意識が跳んじゃって・・・たしか・・・って、そんな事してる場合じゃない!

「アキト君! 大丈夫!?」

思わず近くにいた見知らぬ少年を突き飛ばし、アキト君に詰め寄る。
・・・赤い花が咲いたみたいだけど・・・そんなのどうでもいいわ!

「アキト! お前・・・さっきのって・・・まさか・・・・」

「北辰先生の事を・・・その・・・呼んで、たよね?」

よりにもよって北辰先生だなんて・・・イネス先生より性質が悪いわ!!
ああ・・・・なんて早まった事を・・・・(涙)

「だ、大丈夫さ・・・いつかは、通らなければならなかった道だ・・・・
それが、少しだけ・・・早くなった、だ・・・け・・・」

アキト君は私達に心配させまいと、
震えながらその顔に凍り付いた笑みを浮かべる。

「アキト君、しっかり!! 傷は浅いわ」

「自分の事は、自分で解る・・・神威、神無、スマン。
枝織ちゃんと、北斗。そしてルリちゃんの事を・・た・・・む」

「アキト! アキトーーーーーー!!!!」






結局、その後アキト君は一週間眠り、魘され続けた。
その間、枝織ちゃんと北斗さんとルリちゃんの三人が
寝る間も惜しんで看病し続けていたのは別の話。


追記
アキト君が寝込んでいる間、イネス・フレサンジュ先生、御光臨・ナユタ両名の研究が一段落した。
彼女等の研究終了直後、必ずと言って良いほど学校を休む二人が元気に登校していたらしく、
校内でちょっとした騒ぎが起こったようだ。














あとがき

先天:はい、どーも。作者の先天です。

アキト:一応主人公やってるアキトです。

先天:ふっ、今までで一番長いわりにはつまらん話が出来てしまった。
   ・・・・やはりナデレンジャーに拘り過ぎたか?

アキト:少ししつこかったかもな。
    あ、そうだ。作中で神威が使っていたバールって?

先天:確か大工道具だ。L字型の鉄棒でできた釘抜き。
   ひっくり返せばトンカチ代わりにもなる優れもの。

アキト:・・・なぜに整備員が大工道具?

先天:強いて言うなら・・・・・大銀河の意思だ(核爆)
   ・・・さて、突然だがこの話を書いてようやっと三話目だ。

アキト:長かった・・・なんでこんなにかかるんだろうな?(ジト目)

先天:(無視)たった三話でなんですけど、現在の皆勤賞受賞者をご紹介。


テンカワ・アキト

如月 神威

影護 枝織

影護 北斗

影護 北辰

そして・・・・少年H(超核爆)


アキト:って、まて!? 少年Hって・・・・まさか、『彼』か?

先天:他に誰がいる? 実際こやつは皆勤賞だ。ルリを差し置いてな。

アキト:・・・・一回も名前が出てきていないんだが?

先天:なぜこやつの名前を書かねばならん・・・? 更に小癪にも「土曜日の過ごし方」では台詞まであるんだぞ?

アキト:いや、読者の皆さんは絶対『彼』だと思っていないぞ。
    さらに言わせて貰えば「一日の過ごし方」での『彼』の出番(とも言えない出番)なんて気付いて貰えてないだろ?

先天:ふ〜む、あれか。・・・・誰からも突っ込まれなかったからなあ(しみじみ)

アキト:気付いた方が凄いのでは・・・?

先天:・・・まあいい。次書くときには『彼』の奥義でも炸裂させようかな?
   それぐらいしか存在価値無いし(爆)

アキト:むごい・・・って、そういえばなんで俺がここに?
    神威の管轄だろ? ここ。

先天:じゃかあしい。今あいつ神無とラブラブ空間を展開してるんだ。近寄りたくないんだよ。

アキト:ああ、それだそれ。なんで神威と神無がくっつくんだ?

先天:・・・・なぜかな?(遠い眼)

アキト:Action内で実の親子、兄妹、姉弟で迫る奴はいたが・・・・くっついてるのは・・・いたか?

先天:Actionは広いからねえ・・・一つや二つはあるのでは?

アキト:・・・本気で言ってる?

先天:本気だよ? 心の底から愛し合っているのなら良いんじゃないか?

アキト:ふ〜ん・・・なら、皆が二人の事を認めた事については?
    作中ではウリバタケ先生の独白があるぐらいで、他の連中はいつの間にか認めていたけど。

先天:さて! 駄弁るのはここまでにして!

アキト:こらまて。

先天:神威さん(家のオリキャラではない)!オリキャラ「御光臨 ナユタ」いかがでしたでしょうか?
   なんかただの爽やか(?)な好青年になっているような気もするのですが・・・(汗)

アキト:無視をするな!

先天:・・・わざわざいただいておきながら、この様なキャラに落ち着いてしまいました。
    苦情などがございましたらこの馬鹿にメールを送りつけてやってください。

アキト:おい!!

先天:・・・んじゃ、俺はこの辺で。さらばだ!!

アキト:っ!! 逃すかあ!!


アキトはバールを投げつけた。

・・・・・・ウキョワァァァァァァ・・・・・・・

ゴス

先天に300Pのダメージ!!


先天:お、・・おい。な、なぜ注意書きが・・・無い?

アキト:そのままの意味だ。じゃあな。

先天:む・・・無念・・・・・がくっ

 

 

代理人の感想

バールって、解説加えにゃならんほどマイナーな道具なんでしょうか(苦笑)?

まともな御家庭なら大工道具の一揃いくらい持ってておかしくないと思うんですけど・・・。

それとも私のほうが特殊なのかな?

※ 代理人は小学校の頃から家の大工仕事を一手に引き受けている