あるところに、一人の英雄がいた

人は、彼を称えこう呼んだ

氷の戦神………と………



氷の戦神


ギュオン!

市街を、明らかに道路交通法、略して道交法に反している速度で走っている車が一台

そのトランクには、ぎゅうぎゅうに何やら荷物がつんである

詰める量を大幅に上回っているのだが、それを無理やりロープでとめてある

そしてこの速度、ここの警察はいったい何をしているのだろうか?

まぁ、夜中であるから寝ている可能性の方が高いのだが

そんな車の中からにぎやかな声が聞こえる

「ジュン君急いで〜!遅刻しちゃう〜!」

「ユリカがのんびりしすぎてるからこうなってるんだよ!」

「だって〜」

「艦長と副長がそろって遅刻なんて示しがつかないよ……」

「そうならない為にも、ジュン君スピードあ〜っぷ!」

「む、無理だよ〜!」

失礼、本人達はまじめなようだ

まぁそんな車が、自転車に乗った青年の横を通りすぎようとしたときに、それは起こった

ぷち

ガララララ! ドン! ドン! ドン!

トランクを固定していた紐が切れ、荷物が転がり落ちてくる

万有引力というものが働いているのか、それとも狙ったのだろうか

まるで謀った用に青年の元へと荷物は転がり

「!」

ドン!

と、ぶつかった





「すいません、本当にすいません!」

青い髪の、ユリカと呼ばれた女性は、自転車に乗っていた青年に平謝りしていた

ちなみに、ジュンと呼ばれた男性は荷物拾いをさせられている

「………そこまで気にする必要は無い……」

「でも………」

「ユリカ!このままだと、確実に遅刻だよ!」

「あ!」

「どうやら急いでいるようだな、気にすることは無い。そちらの用事をすませるといい」

「す、すいません。このお詫びは必ずしますので、私ミスマルユリカと申します、後で佐世保のネルガルまでご連絡をください!でわ!」

ぱたぱたぱた

バン! ぎゅおおおぉぉぉぉん

と、見事に土煙を上げてあっという間に地平線の彼方へと消えていった

青年は、草むらから一つの写真立てを拾い上げた

「ミスマルユリカ…………くっくっくっく………」

これが、ナデシコ艦長ミスマルユリカと、氷の戦神テンカワアキトの再会だった











佐世保のネルガルの建物の前

そこにアキトはいた

「プロスペクター?」

彼の前には、ちょびひげの男が立っていた

「ええ、まぁペンネームのようなものでして」

「そうか」

「それで、どういったご用件で?」

「落し物を届けに来た、ミスマルユリカという女性だ、渡して欲しい」

「それはご親切にどうも」

と、背中のバックから写真立てを取り出し、プロスペクターに渡す

「ところで、貴方はどこでこれを?」

「先ほど車から荷物を落としたときに、拾い忘れたようだ」

「ええと、どこらへんで拾ったのですかな?」

「大体20分ほど……自転車で20分ほど離れた場所だ。しかしなぜそんなことを聞く?」

「いえ、ユリカさんはまだここにきていないので」

「………車で、なぜ到着していない?」

「さぁ……それが私も気になっていて」

「……………」

「……………」

沈黙する二人

「とりあえず、確かに荷物は渡した」

「待ってください、お名前を伺いしたいのですが」

「俺の名はテンカワアキトという」

「テンカワ?」

「どうかしたか?」

「いえ、知り合いに似た名前の方がいらしたもので……」

「よくある名前だと思うが」

「そういえばテンカワさん、その荷物は?」

荷物

確かに普通の荷物ではなかった

普通のリュックサックに中華なべやらなにやらがぶら下がっているのだから

気になるのもしょうがないだろう

「ああ、つい先ほど働いていたところを首になってしまったのでな」

「それはお気の毒に……その荷物からして、あなたはコックさんですか?」

「ああ」

「……ここでお会いしたのも何かの縁、よかったらうちで働いてみませんか?」

「うち?」

「ええ、もちろんネルガルでって事ですよ」

「そんなこと無理だろう」

「いえ、実は私、会計と人事を職業にしているもので、そういうことも可能なのですよ」

「まぁ、俺としても助かるが、本当にいいのか?」

「ええ、実を申しますと、コックさんが足りないところだったんですよ、つまりこちらとしても渡りに船ということなんです」

「なるほど、そういうことならこちらからもよろしく頼む」

「はい、ではここの契約書にサインを」

と、懐から出した契約書を手に取り

じっくりと読んでからサインをする

「はい、これで今日から貴方はナデシコのコックさんです!」













「レッツゲキガ!イ〜〜ン!!」

アキトとプロスが厨房へ向かう途中、格納庫から大声とどたばた暴れるような大音が聞こえてきた

「テンカワさん、ちょっと様子を見てきてかまいませんか?」

「ああ、かまわん」

なぜプロスも厨房へとむかっているのかというと、アキトの職場である厨房までプロスが案内役を買って出たからである

格納庫の扉をあけると

「うわっはっは!やっぱりロボットはいいぜ!手足があってこそのロボットだ!」

と、大声で叫ぶ機動兵器……エステバリスがあった

「ウリバタケさん!どうなってるんですか?!」

「だぁ〜!こっちが聞きたいぜ!俺のエス子ちゃんが〜!」

「エステに乗ってるのはいったい誰ですか?!」

「そうか!俺の名が聞きたいか!俺の名前は『ダイゴウジガイ』!正義のヒーローだ!」

「ああ、ヤマダさんですか」

「ヤマダ?」

「ええ、エステバリスのパイロットとして雇った方でして」

「ちっが〜う!『ヤマダジロウ』は世を忍ぶ仮の名前、『ダイゴウジガイ』こそが俺の真の名、いわゆる魂の名なのだ!」

ジロウ……という事はタロウもいるのだろうか?もしくはイチロウか?

この台詞を聞いたらきっと親は泣くぞ?

「さて皆さんにだけ特別にお見せしよう、このダイゴウジガイの必殺技を!」

と、なにやら力を貯め始める

人間ではなくロボットなので、そんな動作は余り関係ないと思うのだが

「ガイ、すぅぅぱぁぁ〜〜「大根一概?」なっぷぅぁぁぁぁ?!」

と、思いっきりアッパーを繰り出そうとして雄たけびを上げながら、途中で音程をはずし

どがぁぁぁぁぁん!

と、派手な音を上げてすっ転んだ

「くすっ」

倒れたエステから引きずり出されるヤマダ

「誰だぁ!変なこと言った奴は!」

マイクを使わなくても声の大きさはさすがだ

「ふん!調子がくるっちまったぜ!」

「おたく、足が折れてるよ」

「な、なにぃ!いててててててててて」

言われるまで気づかないものだろうか?

「そ、そこの少年!ロボットの中に俺の宝物がある!とってきてくれ〜!!」

と、ヤマダジロウは医務室へと運ばれていった

「騒がしい奴だ」

「ええと……一応、腕は一流なんですがね」

「宝物か、とりあえずとって」

ビー ビー

と、無機質な音が鳴り響く

「おや?私はブリッヂに行きます、すいませんが」

「ああ、後は自分で行くさ」

「どうも申し訳ありません」

「いいさ、急ぐのだろう?」

「ええ、では後ほど」

と、すたこらとプロスは格納庫の扉へ向かい

「………さて……と」

アキトはエステの方へと向かっていった










ブリッヂ

色々と騒ぐ中、オペレーター……ホシノルリがあることに気づいた

「エレベーター上昇中、エステが一台地上に向かっています」

「え?でもヤマダさんは医務室でしょ?」

ルリの抑揚の無い声に、艦長……ミスマルユリカが尋ねる

「パイロット……該当者データ無し……通信、繋げますか?」

「お願い」

エステとブリッジの通信が繋がる

そこには、テンカワアキトが座っていた

「そこの、所属と名前を言え!」

と、強面の男……ゴートホーリーが尋ねる

「……テンカワアキト……コックだ」

「なぜコックが!」

「テンカワさん、なぜエステに?」

「あのあと、パイロットの宝物とやらを取りに行って、ついでにエステを元の位置に戻そうとしたんだ、俺はIFSを持っているからな」

「それとエレベーターに乗っているのとなんの関係が?」

「ああ……つい好奇心のそそられるボタンがあってなついぽちっと」

ちなみに、それはエレベーターの昇降ボタンだったりする

沈黙がブリッヂを支配する

「テンカワ……アキト………テンカワアキト……アキト……」

いや、ユリカだけがぶつぶつ何か言ってるような気もするが

「え?!テンカワアキトぉ〜〜!」

「ゆ、ユリカ!あの男の事知ってるの?!」

「し、知らないよ!私はテンカワアキトなんて知らないよ!」

「くっくっくつれないなぁミスマルユリカ……久しぶりの再会だっていうのに……まぁ俺もさっき思い出したんだが」

「あ、貴方は艦長とお知り合いなのですか?」

キラーンとメガネを光らせながらプロスが聞く

……常々思うのだが、ああいったものはどうやって光らせているのだろう?

「艦長?」

「ええ、ユリカさんはこの船の艦長なんです」

「そうか、そこのミスマルユリカとはしなびた人参なのでな」






「「「「はぁ?」」」」






ぱ〜ぴ〜ぷ〜 ぷ〜ぴ〜ぱ〜

と、アキトは懐からアコーディオンを取り出すと間の抜けた音を奏で

「くっくっく………しなびた人参……古い人参……古い友人………」

そして………その後の事を覚えている人間はアキト+αのみだった





「馬鹿ばっか」










【おまけ】



「はじめまして!アマノヒカルで〜す!」

「ぉぉぉぉおおおおおお!」

「俺の名前はスバルリョーコ、パイロットだ、これからよろしく」

「おおおおおおおおおおお!」

ぺぺぺん

「くっくっく………マキイズミ………職業は……地対空ミサイル……」

「おおおおおぉぉぉぉぉ?」

ぺぺん

「地対空ミサイル………パトリオット………パイロット………くっくっく」

「………………」

ぺぺん

むなしく、ウクレレの音だけが響き渡る

動くもの、それはマキイズミのみ

いや……ただ一人、テンカワアキトのみが笑みを浮かべていた










「お、おまえがこの船のパイロットか!」

あれからしばらくして、復活したリョーコがアキトに話し掛ける

「ああ、君達とはうまくやっていけそうだな」

「そう〜?そういえば名前はなんて言うの?」

「テンカワアキトだ。そこのマキイズミとはビーフシチューとビーフストロガノフみたいなものだな」

「「はぁ?」」

ぱ〜ぴ〜ぷ〜 ぷ〜ぴ〜ぱ〜

と、またアコーディオンの音が鳴る

「煮たもの同士……似たもの同士………くっくっく………」

「「い……イズミが二人………」」

「確かに……貴方とはうまくやっていけそうね」

「ああ」

「………」

「………」

「「くっくっくっくっくっく」」

「「だ……誰か……助けて……」」










【おまけ2】

とある空港から飛びたったシャトル

今日、ある英雄が新婚旅行に出かける……はずであった

「テンカワアキト、ついでにマキイズミ、お前達は我等の栄光の礎となるのだ」

「おまえ達は何者だ……」

「我が名は北辰!」

ぺぺん

「くしゃみ」

「………は?」

ぱ〜ぴ〜ぷ〜 ぷ〜ぴ〜ぱ〜

「「ほ〜くしん」」

「……………」

「はぁ!」

北辰達が凍り付いているところを、アキトがアコーディオンから剣を取り出し、斬る!

「ぐ、ぐぁ!」

「………ダサイダー流剣術………対人戦最強の剣技なり………」

「な………なっとくがいかん………」

外道の最後である

「「くっくっくっく」」










誰も書いたことの無いナデSSを目標にこのSSを書いたのだが

うまく途中までシリアスSSだとだませたでしょうか?

そこだけが気がかりです

赤い百合公開停止しちゃいましたから、お詫びにこれを捧げます

 

 

 

代理人の感想

あっはっはっはっは(笑)。

笑った笑った。

ま、一発ネタになんのかんの言うのも野暮ですからそれは置いといて。

 

>ダサイダー流剣術

・・・コンセプトは「セ○シー○マンドー」と同じような物ですね(爆)。