「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうした?市川?ボケーっとして。」

「・・・・・・・・・大島さんが強い事は知ってましたけど・・・まさか・・・」

「羅刹と張り合うとは思っていなかった?」

「ええ・・・・」

「・・引けない状況だからな・・・・・・アイツが本気になったら、俺と諏訪が二人がかりで襲っても勝てねえよ・・・」


三軍神参上!

第八話


『陰月』のブリッジで四人の男が呆けながら話を聞いていた。

「と言うわけでお前等四人をシャクヤク預かりにしたから。軍に正式復帰てとこだな・・ま、これからの任務は会談後に向こうさんから聞いてくれ。んじゃ、後よろしく。」

プツン・・・・・

「いや後よろしくって・・・」

「なんで、いきなり優人のトップと会わなきゃいけねえんだ?」

「・・・・・理不尽だ・・・・」

「僕、軍人じゃないのに・・・」

いきなりの東舞歌による停戦宣言、直後に多瑠博士から入った通信、突然の配置換え・・・4人の頭はパンク寸前だった。

「・・・ま、とりあえずシャクヤクに言ってみよーか!」

比較的精神構造が単純な(一般的にはバカとも言う)大島がブリッジを出て行こうとするが、

「「「ちょっと待て!」」」

三人が同時に突っ込んだ。

「なぜ止める?VIPを待たせちゃいかんだろうが?」

「「「服!服!」」」

これまた三人同時に突っ込む、戦闘時に着ていた南国風の格好からは着替えたようだが、今の格好も半袖Gパンの部屋着だった。前回の反省がゼロだ。

「いやだって・・制服無いんならなんでもいいじゃん。」

この部隊には服の規制が無かったため、全員普段着てるような服しかない。

「まあ、確かにな・・・」

「・・・・軍服は・・・かさばるから・・・置いてきた・・・・」

まさかこんな地球の片隅で軍トップクラスの人間と会う事になるとは思ってなかったため、制服の類は持ってきていなかった。

「まあ、いっちゃんはそれでいいような気もするけど・・・」

市川の服装は木星本星にいたときと変わらない、白衣を羽織った研究者スタイルだ。白衣を脱げばそのまま正装で通りそうだ。

「・・・・・・あ、そう言えば・・・」

市川が何か思い出したかのように呟く、

「確か万が一に備えてとか何とか言って、多瑠博士が出発前に救命胴衣入れををいじってたような・・・」

「万が一って・・・」

「・・・・・とりあえず藁をも掴む思い、見てみるか。」

富士が救命胴衣入れを見てみる、しばらく覗き込んだ後、

「うははははははは!」

いきなり笑い出した。

「・・・・そんなに・・・・面白いモノが・・・入ってたのか・・?」

脇に立つ諏訪が怪訝そうに聞く。

ちなみに前回の戦闘終了後、意識を取り戻した諏訪は肋骨が折れていた、なので今胸に矯正用のプロテクターを着けている。

あんだけボコボコにやられて、肋骨だけですんだのもある意味奇跡だが。

「ん?ああ、こりゃあ制服として使用できるぜ・・・いやしかし博士も嫌味効いてるね。俺ら確かにエリートじゃねーやな。」

そう言うと中から三着の制服を取り出した。





『リュウジン』と『バクジン』がシャクヤクの格納庫に鎮座していた。『ジュウジン』はダメージがひどいため『陰月』でコバッタによる修理を受けている。

「・・・・・・ホント変わった機体ね・・」

「・・・・・・やっぱり中の人たちも変わっているのでしょうか?」

機体の足元で優華部隊の千沙と京子がパイロットが出てくるのを待っていた、周りにも野次馬たちが集まっている。

プシュー・・・・・・

コクピットが空きそれぞれの機体から二人づつ出て来た。

「いっちゃん?だいじょぶか?」

「・・・・大丈夫です・・・パイロットの皆さんは、いつもこんな激しい動きしているんですか・・・」

「んにゃ、今日はいっちゃんが乗るから特別サービスで激しく・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

『リュウジン』から幼い顔つきの男とヨレヨレになった貧弱そうな男が出てくる。

「うおぉぉぉ・・・・・・」

「大丈夫かよ?」

「貴様・・・・・・・アバラが折れてるのに・・・肘打ちとは・・・」

「しょうがねえだろ!狭いんだから!」

「・・・・貴様が・・・無駄に・・・・デカイからだ・・・」

「あん?喧嘩売ってんのか?そもそもお前が『ジュウジン』をあんなにズタボロにされなきゃ良かったんだろうがよ?」

「・・・・やるか・・・・・」

「おもしれえ・・・」

少し遅れて『バクジン』から長髪の男と巨人が一瞬即発のムードで出て来た。

「・・・・・・・・京子の予想が当たったわねって・・あの服は?」

「優人部隊?いや、でも・・・」

市川以外の三人が着ていた服は黒と銀ラメを基調とした優人部隊の制服だった、本来の白と金ラメ基調の本来の制服に反逆するようなコントラストだ。

四人が床に降り立つ。

「衛星研究所実験部隊所属!富士成晃少尉以下四名!召喚により只今到着いたしました!」

富士がきちんと軍隊式の敬礼と共に挨拶をする。

「・・・・・・・あ、私は優華部隊隊長、各務千沙です。」

「同じく優華部隊所属、天津京子です。」

意表をついたまともな挨拶に動揺する二人、

「実は舞歌様との会談前にお願いがあるのですが。」

富士が挨拶を確認した後、言葉を切り出した。

「?なんですか?」

「実はこちらの諏訪少尉なんですが・・・先ほどの戦闘で負傷したため、会談には参加せず治療をお願いしたいのです。」

『陰月』には必要最低限の治療道具しかないため応急処置しかできない、なので最初から会談に参加させず、シャクヤクで治療を受けさせるため諏訪をつれてきたのだ。

「わかりました、京子。」

「はい、こちらへどうぞ。」

「・・・・・すまない・・・・」

京子に連れられ野次馬を掻き分け諏訪は医務室へと向った。

「では、会談に参加するのはそちらの三人で?」

千沙が仕切りなおすかのように問いかける。

「ええ・・・とりあえずは。」

「それでは・・・」

「すいません、ちょっと待っていただけますか。」

整備員の一人が呼び止める。

「なんだ?」

富士がいつもの口調で聞き返す、どうやら対外用の口調は諏訪を預けるまでだったらしい。

「いや、変わった機体なので・・・調査がてらの整備を・・・」

整備員は2メートルの大男におびえながらも用件を伝える。

「でしたら僕が残りましょうか?」

市川が助け舟を出した、

「・・・そうだな・・市川がいれば情報の取捨選択もできるしな。じゃあ千沙さん、我等二人が会談に望みます。」

「ではこちらへ・・」

「はい・・って大島?お前さっきから大人しいな?」

『対外的なめんどくさい事は富士に任す』と出発前に公言してはいたが、それにしてもいつもとは違い、静かに何かを思い出すように大島はしていた。

「・・千沙さん、今恋人いますか?」

「えっ?いや婚約者はおりますけど?なにか?」

千沙がいきなりの質問に動揺する。

「大島・・・まさかお前こんな所でナンパする気じゃねえだろうな?」

富士が大島の暴走を止めるべく拳を握るが、

「いやいや、流石にこんなときにそんな事はしない。」

当の本人はそれを否定した。(なら、いつもならやるのかと言う疑問が残るが)

「いや・・・俺がバイトでゲキガンガーショーに出てた時に来たカップルの片割れに似てんだよ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しばしの沈黙が流れた・・・・・・・・・・・

「いや・・いくらなんでもデート先にゲキガンガーショーはえらばんだろ・・・お前が出てるショーは子供向けだしよ?」

富士が沈黙を破るかのように富士が言葉を発する。

「でも・・男の方がやけに熱い声援を送ってたから・・・印象に残ってんだよ。それにカップルは珍しいから・・・そう言えばさっきの京子さんも別口で見たような・・」

「ほんとかよ・・・ん?千沙さんは?」

二人が気がついたとき、いつの間にか千沙の姿が消えていた。

「・・・・・先に出ましたよ。」

市川が突っ込んだ瞬間、

「置いてかれたら場所がわかんねえし!」

「おまえが変な事言い出すからだ!」

ダダダダダダダダダダダダダ・・・・・

二人は千沙の後を追い駆け出していった。

「・・・・人違いですよね。」

市川が整備員たちに聞くが、

「いや・・・あのお二人なら・・ありえる。」

「デート先に普通に選びそう・・・・・」

「というか・・・後一組来ていれば三羽烏コンプリートだな。」

整備員の意見はむしろ肯定意見だった。

「・・・・・・・・・木連大丈夫かな・・・」

市川が正直な感想を述べた。




「あ、来ましたか、ここです。」

千沙は舞歌が待つ部屋の前にいたが、

「はあ・・・・はあ・・・・・ここか・・・」

「・・・やっと着いた・・・・」

大島と富士の二人は異様に疲れていた。先ほど千沙に置いていかれ、見失い、戦艦の中を全速力で駆けずり回ってようやく千沙を見つけたのだ。

「あの・・・千沙さん?俺何か悪い事言いましたか?」

大島が恐る恐る聞くが、

「中で舞歌様がお待ちです。」

普通に無視された。

(うわ・・・絶対怒ってるよ・・)

(・・・・おまえが変な事言い出すからじゃねえのか?)

(そうかな・・・確かに恋人とのデート先がゲキガンガーショーだって事を皆の前で看破されたらなぁ・・・)

(・・・解ってんじゃねえか・・しかしそれだけでここまでは・・・・もしかしてその時の恋人と婚約者は別人とか?)

(いやいや・・・・その時は蜜月で今は関係が悪化・・・)

「お待ちですよ」

千沙が凄まじい気を放ちながら、二人のアイコンタクトでの邪推を踏み潰した。

「「はい!」」

二人は今まで疲れていたのが嘘のように素早く部屋に逃げ込ん・・・・入っていった。



「「失礼します」」

二人が中に入ると、

「だいぶ待たされたわね・・・」

少し不機嫌そうな四方天の一人、東舞歌が大きな机に鎮座していた。隣には副官の氷室が立っている。

「すいません。少し艦内マラソンをしてきた物で・・・・」

富士が汗を拭きながら正直に答える。

「・・・まあいいわ。私が東舞歌、こっちにいるのが副官の氷室君よ、あなた達は大島君に富士君ね。とりあえず本題に入る前に・・・二、三あなたたちに聞きたい事があるのよ。」

「なんでしょう?」

富士が聞き返す、先程と同じように富士が主体で話を進めるようだ。大島は脇に突っ立っている。

「まず一つは・・・あなた達はこの戦争についてどう思ってるの?」

「!」

富士がいきなりの変化球に動揺する、いきなりまさかこんな大きなタイトルの質問が来るとは思っていなかった。

単純に見えてこの質問は奥が深い、一般的な賛成論で切り抜けられるほど前の相手は甘く見えない。かといって単純な平和論でも同じ事、むしろこの場合脇に立つ氷室の存在が気にかかる、

氷室と言う男の思想が草壁寄りだとしたら、舞歌様を納得させる事はできても氷室に深い疑心を植えつけてしまう、その場合でも後々やりにくくなる。

(・・・・・・・・・・・変化球には・・・真っ向勝負で行くか)

「わかりました。それらの質問には一応リーダー的立場の大島が答えます。」

「はっ・・・・・!?」

我関せずの立場で見ていた大島がいきなり話を振られ困惑する。二人の目が自然に大島へと向った。

「え?いや・・・あの・・・」

大島が富士に小声で話しかける、

(何で俺なんだよ?)

(あの人相手に変な小細工は無駄だ。何か難しい理屈を並び立てるよりお前の正直な感想の方が好まれる。)

(う〜ん・・・解った。何とかやってみる。)

(頼んだ。)

「えーと・・あのですね・・一言で言うと・・・」

大島が語り始めた、

「間違った戦争だと思います。」

この言葉を聞き、氷室が睨んで来たが、

「間違ってるって?意味がいろいろあるけど?」

舞歌が話の続きを求めた。

「いや・・・別に反戦ってわけじゃなくて・・なんて言えばいいのかな・・・絶対勝てないって言うか・・」

「続けて。」

「いや・・・だって物資人員なら地球、兵器の平均的な性能や戦意では木星・・・バランス的に泥沼化確実じゃないですか。片方の人口を全滅させる兵器ができれば終わりますけど。」

「・・・・最後は和平に向うって事?」

「いや、停戦か和平かは知りませんが・・・完全な勝利は無いと思います。なので・・・勝てない戦争を始めた事自体が・・・」

「・・・・なるほどね・・ま、いいわ。次の質問は・・・」

この詰問はしばらく続くようだった。



医務室のベットにシーツをかけられた一人の男が寝ていた、脇に白衣を着た女性が立っている。

コンコン

「どうぞ。」

女性がノックに返事をする。

ガチャリ・・・・

優人部隊の制服を着た男と、眼鏡をかけた女性が一緒に入ってきた。

「あら・・・二人とも仲がいいのね。」

二人を見て白衣の女性、飛厘がからかうように声をかける。

「んなことなかと!なしてこんな浮気モンと・・・」

眼鏡をかけた女性、三姫が全力で否定する。

「ふっ・・・流石に飛厘さんの目はごまかせないか・・」

ドガシャ!

優人部隊の男、三郎太の顔面に三姫のコークスクリューがめり込んだ。

「つまらない冗談は・・身を滅ぼすとよ・・」

「いや・・何と言うか・・すいません。」

顔面に拳がめり込んでるのに平気なあたり、三郎太も結構丈夫だ。流石ハーリーの元先輩といったところか。

「ま・・・夫婦漫才はそこら辺にしといてね。あなたたちも彼を見に来たの?」

飛厘がベットで寝ている諏訪に眼をやる。

「ええ・・ま、ナデシコと互角以上にやりあってた男に興味がありましてね。」

「ま、そんなとこたい。」

二人がほぼ同時に答えた瞬間、諏訪にかかっていたシーツがずり落ちた。

「「!」」

二人が驚愕する。何しろ諏訪の体には大小さまざまな種類の傷が無数にあったからだ。

「・・・・ここまでひどい傷の持ち主は木連屈指ね、私も最初見たときは驚いたわ。」

ホントに驚いてるのか窺わしい口調で飛厘がつげる。

「いや・・・・すごいなこれは・・」

「拷問でも受けてたとか?」

二人が好き好きに感想を述べる。

「さあね・・ただしこの傷はかなり古いもの、しかも長期に渡って付けられてる。」

「「・・・・」」

どうやら飛厘の解説が始まったらしい、二人は静かになる。

「しかも治し方がめちゃくちゃ・・舐めて直したような傷もある。ちゃんとした治療をすれば消えるはずの傷もある・・・それ以上に酷いのは、これよ。」

そう言うと懐からレントゲン写真を取り出した。

「?・・頭蓋骨?」

「・・・・・いやちょっと待て、歯の所がおかしくないか?」

三郎太がレントゲン写真のおかしいところに気が付く。

「そうよ・・この歯は強化プラスチック製、全部がね。」

「それって・・・」

「・・過去に・・・ある人に・・・全て・・・へし折られた・・・・」

「「「?」」」

三人が気が付くと諏訪がベットから降りてシャツを着ようとしていた。

「へし折られたって・・」

「・・・・・殺りあいの中での事だ・・・恨んでなど・・・いない。」

上に黒い制服を羽織る。

「・・・ちなみに・・・コレは拷問の・・・傷ではない・・・昔・・やんちゃだった頃の傷だ・・・」

襟をただし、ドアへと向う。

「ありがとう・・・おかげで・・・ずいぶん・・・楽になった・・・」

お礼を言いドアの外に出る。

「そう?ならよかったけど。で、何処行くの?」

「格納庫へ・・・会談・・・終了を待つ・・・・」

そう言い残し去ろうとするが、

「・・・そっちは逆方向よ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

諏訪の動きが止まる。

「道知ってるとか?」

「・・・・・・知らない・・・・」

諏訪は心細そうに答える。

「知らないで行こうとしてたのか?俺が連れてってやるよ。」

「・・・・すまない・・・」

三郎太の先導で、諏訪は格納庫へと向っていった。

「・・・・ああ見えて根は」

「・・・・・確実に天然ね。」

医務室に残った二人がコソリと呟いた。







「その人物が本当にいるかどうかは知りませんが、実際いたら喧嘩売る、とゆーか殺します確実に。」

大島が答える横で富士が困惑していた、

(質問の意図が読めない・・・)

何しろ最初の頃は『ナデシコの戦力分析』や『ゲキガンガーについての感想』等の比較的、資質を計る質問だったのだが、

だんだん『国元に婚約者のこして敵方で女捕まえる奴をどう思うか』や『偶然のキス一つで女は男を愛せる物なのか』等の訳わからん質問に変わっていった。

ちなみに今の質問は『自分の目に付く女片っ端から落としておいて、自覚無く、責任を取らない男をどう思うか』だった。

「ま、大体のことはわかったわ。これが最後の質問なんだけど・・・・なんであなたたちそんなに強いの?」

舞歌が急に質問の矛先を変えた。

「はい?」

「確かにいい機体に乗ってるけど、それだけでナデシコとは渡り合えない。ましてや貴方は短時間とはいえ北斗と渡り合った、機体性能だけじゃ不可能よ。」

「あーっと・・・それはですね・・・」

大島がしどろもどろになる。

(流石に直球じゃきついか・・・)

「舞歌様。」

いままで静観を決め込んでいた富士が声を発する。

「なに?」

「確かに疑問をもたれるのは当然ですが、しかし我等は昔必死になって鍛えただけです、それが成果を出してるのでしょう。」

「ナデシコやうちの優華部隊もサボってるわけじゃないと思うけど?」

「確かに、それは解っています。ですが当時の我等木連第五士官学校一期生、まさに必死、のけば死を覚悟してました。」

「死を覚悟?第五士官学校ってそんな凄まじい所だった?」

「今は他の学校と変わりません。しかし昔は私塾の形・・・できた頃は我等三人とあと一人、四人しかいませんでした。」

「・・・・・・・・・・・」

「そこで我等は当時の校長の手によって鍛え上げられました。その経験が身になったのでしょう。」

「ふ〜ん・・・」

舞歌が深く考え込む。

(・・・・・言い訳が通ったか?)

情報の小出しで対応するしかなかった。何しろ学校の成り立ち、大島の鎖術の秘密、全てを話せばこのまま捕まってもおかしくない。

(最悪・・・脱走だな・・)

富士が覚悟を決めたが。

「ん・・ま、いいわ、ただそのうち話してね。」

(いいのか!?)

自分でもまさかこんな言い訳が通じるとは思わなかったため、富士が動揺する。

「ま、前置きはここまでにしといて貴方たちにやってもらいたい任務の説明を・・・ってその前に大島君。」

「はいっ!?」

話の主導が移ったと思って、油断していた大島がいきなり名を呼ばれ声が踊る。

「任務その他の細かい説明は富士君にやっておくから、貴方は北斗のところに顔出してくれるかしら?」

「えっ?なんでっすか?」

「いや貴方短時間だけど北斗と渡り合ったじゃない?北斗が軽く興味を持っているから・・・」

「顔出して来い・・・って事ですね?」

「そうそう、わかってんじゃない、機会があれば北斗に少しでも他人との接触をあたえないとね。」

「・・・・・生贄かよ・・」

「?なんか言った?」

「いえ何も?それじゃあ富士、後よろしく。」

「おお・・・死ぬなよ。」

グッ!

親指を突き上げ、大島は部屋を出て行った。





数分後、大島は北斗の部屋の前に立っていた

コンコン

ドアをノックするが反応が無い、

「?いねえのかな?」

プシュー・・・・・

ドアが開くが中に人の気配は無かった。

「まあいいや・・ここで待ってりゃくんだろ。失礼しまーす。」

無断で女性、しかも羅刹の部屋に入るとは、いい度胸をしている。

「おお・・・ここがって・・・」

大島が部屋を見て一言呟く。

「きたない・・・・」

インテリアはシンプルむしろ殺風景なのだが、ゴミがそこら辺に散らばっている、服が脱ぎっぱなし、これらの要件が重なりえらいごちゃごちゃとしている。

むしろ男四人の『陰月』のほうがまだましだ。

「・・・・・って下着まで放りっ放しかよ」

足元にあった下着を拾い、呟いた瞬間、

「北ちゃん・・しばらく部屋掃除してないけど大丈夫?」

「・・・・・・大丈夫だ、まだまだいける。」

「ホントに?」

部屋に二人の女性の声が近づいてきた。

「!」

下着ドロに間違えかねられない状況に大島の顔色が一気に変わった。





プシュー・・

ドアが開き、二人の女性が入ってきた。

「!・・・・北ちゃん、これは限界よ?」

零夜があきれた口調で話す。

「そうかな・・・」

トレーニングウェアを着た北斗が答える、どうやらトレーニングルームで汗を流してきたようだ。

二人が部屋に入ったとき、そこにいたはずの大島はいなかった。

「・・・・・零夜、タオルを置いてきてしまったみたいだ、取ってきてくれないか?」

「うん、わかった。」

零夜が部屋を出て行ったのを確認すると、北斗は近くにあった来客用のパイプ椅子を天井に投げた。

ガン!

ヒュ〜〜〜


       ベチッ!

天井に張り付いていた大島が落ちてきた、もはや蜘蛛人間といっても過言ではない動きだ。

「貴様・・・俺の部屋に侵入するとはいい度胸だな・・・」

北斗が殺気を放ちながら大島に処刑宣告のような口調で話しかける。

「んなに入られたくなけりゃ鍵掛けとけよ・・・。」

ある意味やけっぱちに近い口調で大島が反論する。

「・・いい度胸をしてるな・・・ん、それは・・」

北斗が大島が天井に張り付くときに使っていた鎖に気が付き、

「貴様・・・あの機体のパイロットか?」

鎖を見て大島と『リュウジン』の関係を理解する。

「そーだよ。」

大島が事もなさげに答える。

「ふむ・・聞きたい事がある、少しそこで待っていろ。」

北斗はそう言うと服を脱ぎ始めた。胸に巻いたサラシが全開になる。

「何しろ汗臭くてな・・早々時間はかからんって・・なぜそこで呆けた顔をしている?」

大島が唖然としながらも、

「いやいいんか?俺、一応男だぞ?」

「何がだ?」

「いや普通だったら・・・部屋の外に蹴り出すとか・・」

「なぜそんなめんどくさい事わざわざしなければならん?俺は気にせんぞ?」

「・・・ま、気にしないんだったら・・」

せっかくの好機を無駄にしないためか、先ほど自分に投げられた椅子を組み立て腰掛ける。

「いいわけねえだろが!」

ドガシャ!

               ベチ!

かけた椅子ごと蹴っ飛ばされ地面にキスをする。

「あにしやがる!」

大島は顔面を押さえながら、椅子を蹴っ飛ばした大男、富士に抗議する。

「人が仕事してる最中に何イイ思いしてやがる!」

どうやら任務の伝達は終わったらしく、大島を迎えに来たらしい。

「本人がいいって言ったんだよ!」

北斗は我関せずの姿勢なのか二人の争いに関係なく着替え続けている。

プシュー・・

「北ちゃ〜ん、タオル何処探しても無かった・・」

タイミング悪く、零夜が帰ってきた。

口論してる二人と眼が合う、ちなみに北斗は今下着姿のほぼ半裸の状態だ。

北斗以外の三人の間に静寂が走る。

「ふっふっふっふっふ・・・・・・・・・・」

静寂を破ったのは零夜の笑い声だった、

「あの機体のパイロット・・・どんなのが来るかと思ってましたけど・・まさか私の北ちゃんに手を出すほどの勇者だったとは・・」

「いや・・・あの・・こ、これは事故です、事故。」

「あ、あの・・俺は関係ないんで殴るならこいつだけに・・」

あまりの異様な気配に二人が怯え竦む。

「でも・・・その勇気が、死を招く事にもなるんですよ・・・」

そう言い放ち背後から血塗れの釘バットを取り出す。

「「!!!!!!!!」」

あまりの予想外の武器に二人が驚愕し、

「ふふふ・・・・天誅!!

凄まじい勢いのバットが手前にいた富士に襲いかかる!

「何で俺なんだー!」

ガキイ!

「ふふふ・・・やりますね・・・」

富士はとっさに足元にあったパイプ椅子で、零夜の釘バットを押さえていた。

「ちょっと待て!俺は何も・・」

富士が零夜を落ち着かせようとするが、

「その男が元凶です!そいつが全ての仕掛け人です!俺は無実です!」

大島が全てを無に返した。

「ちょっと待て!普通に俺を売るんじゃねえ!」

「ふふふ・・・ご心配なく、貴方の後はあの男です。」

ガキ!ガキ!           ガキィ!!

パイプ椅子対釘バットのチャンバラが繰り広げられる。

「またせたな、終わったぞ。」

死闘の裏で北斗は優人部隊の制服へと普通に着替えていた。

「あ、終わった?(いろいろあってほとんど見れなかった・・・)なら悪いんだけど時間がない・・格納庫へと移動しながらでいいか?」

「・・・まあいいだろう、俺もこの後食堂に行こうと思っていたしな。」

二人が死闘の隙を抜けドアの外に出る。

「ちょっと待て!別に急ぎの用事なんかねえぞ!・・・ってお前このまま逃げる気だな!」

「ふふふ・・・よそ見している余裕なんかあるんですか?」

ガキッ!ガキッ!ガキッ!・・・・

北斗の部屋で行われている、大男対美少女のハードコアマッチの終了ゴングはまだ先のようだ。




カツカツカツカツ・・・

静かな廊下に北斗と大島の足音が響く。

「で、聞きたい事とは?」

大島が話を切り出す。

「・・・・・貴様の鎖術についてだ。貴様何処でそれを習った?」

「通信教育で。」

ヒュッ・・・・

喉元に小太刀が突きつけられる。

「ふざけると・・命にかかわるぞ?」

「・・・・・・・・・・身をもって知りました。」

指先で小太刀を抑えながらも答える、北斗がそれを聞き小太刀を収めた。

「・・・昔、習ったんだ・・・」

「・・・誰にだ?鎖術は武道色より暗殺色が強い武術、しかし10年以上前に反乱幇助の罪で潰されたはずだが?」

「よくご存知で・・・」

「答えろ。貴様誰に習った?」

「聞いてどうするんだ?」

「・・・・・・俺にやっと待ち望んだ物が現れた、『ライバル』とか言う奴だ。」

「・・・・・・・・戦神か?」

「そうだ、奴は俺が待ちのぞんでいた力を思う存分ぶつけられる相手。」

「・・・・・・・・・・・・」

「しかし奴は成長している、俺もうかうかしていては置いて行かれてしまうからな、貪欲に技術を求めんとな。」

「やめとけ、お前じゃ無理だからな。」

「何?」

ビシ!

棒状に硬化した鎖が北斗の喉元に突きつけられる。先ほどの意趣返しだろうか、あまりに危険だが。

「木連式柔『昂氣』、体内の気を人間の限界以上に引き出す・・いわば圧倒的な気で戦う技。木蓮式鎖術はそれとは対称的に必用最低限の気をこのように使用する・・節約の技。相性が相反する物、『昂氣』を習得した身では精密なリミッターが付けられない・・・」

「なるほど・・無理と言う事か・・・ならば。」

グシャ!

北斗が喉もとの鎖を握りつぶす。

「無理に貴様を生かしておく必要もないな・・俺の飢えを満たすために・・死ね。」

大島が鎖を取り出し、

「俺は引けるときは引くんだがな・・・。」

そう言いながらも臨戦態勢になる。

一瞬即発、凄まじい殺気が空間を包み込む。


カチャリ・・・・・


「?」

大島の首に何かがかけられる・・・・・底が抜けたパイプ椅子だった、後ろを振り向くと・・・頭から血を流した富士がいた。

「やあ、富士さん。元気ですか?」

大島から殺気が消え、代わりに富士から殺気があふれ出る。

「まあね、頭思いっきりブンなぐって、とりあえず俺への制裁は完了したらしい。」

スッ・・・・・

富士が脇にどく、後ろには・・・・釘バットをフルスイングした零夜がいた。

ガキン!
                   ガシャガシャ!
                                     グシャ!!

「ぐわはぁ!」

首に掛けられたパイプ椅子にバットが当たり、えらい音と共に大島を吹き飛ばす。

それを見ていた北斗から殺気が消えた。

「・・・・・・気がそがれた・・・まあいい、今度また暇なときにでも相手をしてやる。」

そう言うと踵を返し元来た道へと戻っていった。

「ああ・・・どうしても体が火照ってしょうがない時に相手してやるよ・・」

大島が床に這いつくばりながらも答える。

「あっ、まってよ北ちゃん。食堂行くんでしょ?そっちは違う道よ〜。」

グシャ!

零夜が北斗の後を追って消えてゆく、途中大島を踏みつけて。・・・・どうやら最後のセリフが癪に障ったらしい・・

「さてと帰るか・・その前に医務室どっちだったっけかな・・」

ズルズル・・・

気絶した大島を床に引きずりながら、富士もその場から消えていった。





「舞歌様?何を悩んでいらっしゃるのですか?」

「いや・・・あの四人の部隊名どうしようかしら?実験部隊ってーのもアレだし・・親衛隊・・・・愚連隊・・・」

「・・・・本当にいいんですか?少し不真面目に見えましたが・・」

「いいんじゃない?そんなに危険思想ってほどでもないし、思考も柔らかい、度胸も据わってるしね。」

「まあ、確かに・・・軍の上官の前で『戦争の始まりが間違ってる』なんて言い放ちましたからね。」

「ま、これから戦場は宇宙に移る。開発部の暴走の尻拭いは地球に残る彼等にまかせましょう。」

「・・・・監視がないとフラフラ遊びまわりそうな連中ですがね。」

「!それよ、遊軍と彼等の性格、優人に掛けて・・・・・・・・・・・部隊名はこれ!」

「はあ・・・・『遊人隊』ですか・・・」


〜続く〜






後書き?


解説スパット(以下S)「スパット参上!スパット解説!・・・・

ふじいさん(以下F)「今回容量食ってんだから、余計な名乗りすんなよ。」

S「貴様は作者!何でいるんだ!」

F「いや今回話のターニングポイントだから、補足の説明を・・・」

S「そういうことは作中でやれよ。」

F「はう!痛いトコ付くなよ・・・」

S「まあいい、時間やるからさっさとやれや。」

F「・・・・・・・まあいい、まず幾つかあるが・・・一つめはこの作品の時間帯は『時の流れの』ピースランドでのアキト&北斗の邂逅直後位だから。」

S「その割には幾つかありえない点があるが。」

F「気にするな。そして二つ目だが・・・」

S(うわっ、こいつ普通に流しやがった!)

F「よく突込みが入る大島、富士、諏訪の力量について・・・富士、諏訪が大体エステパイロットや優華部隊に毛が生えたくらい。大島は北斗、アキトと同じくらい。」

S「・・・・・その割にはエステパイロット圧倒してなかったか?」

F「・・・・・・・・圧倒?大島以外の二人はいままで戦闘結果中破か大破じゃん。特に諏訪にいたっては自分の得意フィールドに引きずりこんだのにボコボコにやられたし。」

S「まあ確かに・・フルメンバーとはやった事ないんだよな、いつも戦闘後こちらはいっぱいいっぱいだったのに・・・あちらさんには無傷の機体が2〜3体あったしな。」

F「あと大島の強さは北斗・アキトとは少し種類が違う。」

S「種類?」

F「アキトや北斗の強さはいわゆる怪物的、相手を受けきり圧倒的な力で押しつぶす『ジャンボ鶴田』タイプ。このタイプは相手に二度とこいつには勝てないと思わせる。強さの王道。」

S「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

F「大島の強さは対照的な『リック・フレアー』タイプ。鶴田タイプに比べて力は劣るが、ずるさや巧さで対抗するタイプ。このタイプは相手に威圧感は与えにくいが勝つのは難しい、やなタイプ。

 引き分けでのベルト防衛や反則勝ちでの防衛などの、勝負に負けて勝ちを取る狡猾さに長けたタイプ。」

S「その割には作中で結構凶悪な技使ってなかったか?」

F「フレアーにも四の字固め、垂直落下式ブレーンバスター等の凶悪な業があった。別に弱いわけじゃないけど勝ちを取るためには逃げる事も辞さない、ある意味かなり性質が悪い。」

S「なんとなく解ったが・・・プロレス知らない人は置いてけぼりだな。」

F「言うな・・・・他にいい表現が思いつかなかったんだ。」

S「まだ何か言う事は?」

F「今回の『釘バットの零夜』は別人28号様の許可をえて書きました。この場を借りてお礼を申し上げます。」

S「いきなりマジだな・・・じゃあ早速次回予告を・・・」

F「あ、今日は無しで。」

S「なぜに!」

F「お楽しみはこれからだ!・・・ってことで。」

S「わけわかんねーよ!」

F「それではみなさんさよ〜なら〜」

S「あ!勝手にシメやがった!・・・次回お楽しみに!」(これぐらいならいいだろ・・・)

 

 

代理人の感想

・・・・・プロレスにしても少々わかりにくいかも(爆)。

(いや、ひょっとしてリック・フレアーってまだ現役だったっけ(汗)?)

 

それはさておき、もうちょっとメジャー物でたとえるなら・・・・

北斗が空条丈太郎で、大島はジョナサン・ジョースター?

 

「相手が勝ち誇ったとき、それがこの大島克明の勝利が決定したときなのさ」

 

・・・いや、これもなんか違うような(爆)。