アキトの波乱人生



プロローグ

跳んだ先は・・・・月じゃないの?








「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

息が苦しい、足が重い。心臓はエンジンのように振動し、太腿は一歩踏み出すたびに痛みという悲鳴をあげる。

「くそぉ、何で俺ばっかりこんな役目・・・」

もし神仏がいるならアキトはそれに一発拳骨を食らわしてやりたい気分だった。

ゲキガンガーに似たロボットの襲撃を受けた街はあちこち崩れ去り、人々は巣を失った蟻のように逃げまとう。

メグミの止めるのを振り切って自転車でネルガル本社までいき、エリナからCCを奪い取る。

ロボットから逃げる人々とは反対方向に進み、現在CCの入った鞄を持ってビルの階段を駆け上がっている。

元々非常用で、中は暗い。ロボット襲撃のせいで電気系統がおかしくなりエレベーターが使えないのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ。くそ、CCは軽いのに、この鞄やたら重いな。
 エリナさん、会長秘書ならもっと軽くて上等な鞄買っとけよ。」

意味のない毒を吐きつつも、階段を上る足は止めない。いや、止められない。

次の瞬間にもあのロボットが自爆してあたり一面荒野に変えるかもしれないのだ。

まだ街にはたくさん人がいる。

レストランにおいてきたメグミ。何かを期待する笑顔でCCを渡した二人。ナデシコの仲間達。

イネスは言っていた。あのロボットの自爆を何とかできる可能性があるのはアキト君だと。

「くそー、こんなことならリョウコちゃんが言ったとおり、体もしっかり鍛えとけばよかった!!」

かつてリョウコが何度もアキトにパイロット専業にならないかと誘ったことがあった。

「アキト、コックと兼業でここまでできるならパイロット専業にしないか?
 コックにまわしている時間を使って鍛えれば、お前ならエースを狙えるぜ?」

「いや、でも俺の本職はコックだから」とアキトは断った。

「シミュレーターだけじゃなく、体も鍛えないといざという時に困るぞ、アキト!!」

リョウコはパイロットの先輩として、またより一緒にいたいという自分の欲望のためアキトに忠告した。

「リョウコちゃん、次はちゃんとトレーニングに付き合うからさ!!」

息を切らしながら暗いトンネルのような階段を駆け上がりながら、リョウコ株が上昇した。

当のリョウコは現在も必死にもう一体のロボットと格闘している。

やがて屋上に通じるとドアに辿りつき、開ける。

屋上に出ると同時に風と焦げ臭い嫌な臭いをアキトは感じた。

夜になれば日本有数の夜景を誇る風景も今はただの焼け焦げた都市となっている。

ロボットは目前、アキトはエリナに貰った鞄を開ける。

「俺にできること・・・俺にしかできないこと・・・そんなことはあるのか?」

鞄をロボットに向かって投げ、CCがフィールドに接触する。

するとCCから光が溢れ出し、やがて光はロボットをアキトごと包み込んだ。

アキトはその時何を思ったか?

火星のコロニー地下、アイちゃんを失った光景が頭の中に走る。

「そうだ、あの時もこんな光だった。
 未来がわかってれば、こんなことにはならなかったのに・・・」

そう呟いてアキトの意識はなくなった。













「ん・・・」

顔に押し付けられた冷たく堅い土の感触と、背中へまとわりつく日光の陽気でアキトは気が付いた。

うつぶせで地面に倒れている体勢のままアキトは辺りを見渡す。

ブランコ・・滑り台・・砂場・・どうやらここはどこにでもあるような公園らしい。

太陽がほぼ真上にあることから今は真昼なのだが、公園には誰もいない。 どれくらいの時間かは分からないが、真昼から公園で倒れていれば誰か気にかけてくれないのだろうか?

「よっこらせ・・」

腕立てふせの要領でアキトは立ち上がり、付着している土を手で払い落とす。

下を向きながら何回か服を叩く。

服はそこまで汚れていなかったため、数回叩いただけで付着した服は全部落ちた。

「ふぅーーーー・・・・・・・・・ああ!!
 そういえばナデシコは!!敵は!!」

突然アキトの顔が跳ね上がる。

アキトは自分がしていたことを思い出した。

ナデシコを降りていたが、コミュニケは運良くズボンのポケットに突っ込んだままだった。

それを取り出し、通信ボタンを押す。

「ナデシコ!!ナデシコ!!・・・ユリカ!・・ルリちゃん!!・・リョウコちゃん!!・・・・」

コミュニケからナデシコの知り合いの名前を片っ端から叫ぶが誰からも応答がない。

何十回か叫んだあと、よく見るとスイッチが入っていなかった。

あの光の影響だろうか、コミュニケは壊れていた。

コミュニケが使えればGPS機能でここがどこだか一発で分かったのだが、あいにく故障中だ。

「もう、こんな大事な時に!!」

途方にくれそうになったが、そこは数々の修羅場経験を生かして耐える

「さて・・・これからどうしよう?」

壊れたコミュニケをもてあそびながら考える。

揺すったり叩いたりすれば何かの拍子で復活はしないか?と期待した。だがコミュニケは100年以上前の家庭用ゲームではないのだ。

人のいない寂れた公園にいても何もならない。

役立たずのコミュニケをポケットに押し込み、アキトは情報を得るために街のほうへ歩いていくことにした。











カワサキタケオは上機嫌だった。

半年前に予約してから、今日という日が来るのをずっと待っていた。

そのため、今日をあけるため二ヶ月間土日含めて全て皆勤を果たしている。

すべてはこれから開催される「クリスマス熱血ゲキガン祭り」のためだ。

準備は万全。服はオーダーメイドでばっちり決めている。

ただ普通の人には「旧木連優人部隊のコスプレですか?」と勘違いされるのが痛いが・・

これを着て他の参加者と一緒にゲキガンガーを一話から徹夜で全て見た後、打ち上げをする。

楽しみでしょうがない。

後はこの階段を上り電車に乗って会場に行くのみだ・・・・・とその時

ゲキガンパーンチーー・・・ゲキガンパーンチーー・・・

そんな声と共に右腕につけているコミュニケが震え出す。

・・・・・カワサキタケオは嫌な予感がした。

ゲキガンパンチの着信音は仕事関係者から通信が来たのを意味する。

ちなみに家族はゲキガンフレア、友人はゲキガンビームだったりする。

「はい、カワサキですが」

着信ボタンを押すと今最も見たくない顔が現れた。

課長、分かりやすくいうと上司だ。しかもかなり嫌な部類の

「カワサキ君、ちょうどよかった。
 ちょっと緊急の仕事だよ。実は・・・・・・・」











住宅街を適当にさまよい歩いていると、向こうから人が歩いてくる。

だがその人は妙な格好をしていた。

髪は黒髪で東洋系なのがわかるのだが、服が上から下まで真っ白。

おまけにどう見ても服のつくりは学ランである。

格好はかなり怪しいが、贅沢はいえない。アキトはその人に繁華街まで行く道を聞くことにした。

「あのーーー。」

3mほどの距離に近づいた時、恐る恐る尋ねる。

「あ、はい。何でしょうか?」

男は意外にも礼儀正しく丁寧に応じてくれたので、道はすぐに分かった。

「では私はこれで。・・・・・夢が明日を読んでいるーー

すれ違い様に男が呟いていた歌を聞いてアキトは思い出した。

男の格好。あれはゲキガンガーに出てきたキャラが着ていたのと瓜二つ。

「しかし何でまた?いい年して、ガイみたいな人だな」

アキトはそこで男に対する思考はやめ、聞いた道順どおりに歩き出した。













アキトは繁華街に辿り着いた。今は何よりもナデシコと連絡がとりたい。

ユリカは今何をしているのだろうか?自分がいなくなって落ち込んでないだろうか?

そんな考えがアキトの頭の中を走った。

街頭テレビでニュースがやっているので、アキトはそれを見ることにした。

だがニュースを見ていると奇妙な感じがする。

ニュースにあるべきものがない、木星蜥蜴との戦争についてのニュースが。

さっきからニュースキャスターが色々な話題を口にしているが、一回も出てこない。

今は戦争の真っ只中。しかも地球側が押し始めた頃だ。毎日毎日軍が過剰なほど戦果を華々しく報告していた。

そういえばこのニュースキャスター、最近デビューして笑顔の似合うかわいい系として人気が出ていることをアキトは思い出した。

ウリバタケが勧めるから食事中テレビを眺めていたら、横で一緒にご飯を食べているルリに太腿をつねられ、メグミからは

「あの子知り合いですけど、よろしかったら紹介しましょうか、アキトさん?」

と目は全く笑っていない恐ろしい笑顔で言われたのはいい思い出だ。

だが目の前でニュースを読む人物はそのイメージとは違っている。

まるで何年か歳をとり、落ち着いたようだった。

アキトは嫌な感じがした。額に階段を走った時とは種類の違う汗が流れる。

ふとコンビニのゴミ箱を目にすると、新聞が捨ててある。

アキトは急いで新聞をゴミ箱から取り、広げる。

「何だ?連続コロニー爆破テロから5年っていう見出しは?そんな事件あったか?」

一面の見出しだけ眺めて、視線を上に滑らせる。

そこには頭のどこかで予想していたもの通りのことが書かれていた

「何!!23世紀だと!!ここは未来なのか!!」

アキトは火星から地球へボソンジャンプした時に八ヶ月経過していた事実を思い出した。

「おいおい・・・どうすればいいんだ?」

テンカワアキト、ボソンジャンプにより路上に放り出されるのは人生で二度目であった・・・。





あとがき

こんにちは、フッキといいます

以前からここのSSを読んでいて自分で書いてみたくなり、未熟ながら投稿しました

都合のいい逆行物には飽きてきたので、アキトには未来へ行ってもらうことに

カワサキタケオは完全なるオリキャラ。元ネタは特にないです。

彼には未来の世界を表現するためにしっかり働いてもらいます

書いていて何となく思ったのですが、世界観がどことなくナデシコっぽくないような気がしました

劇場版よりもさらに未来なので筆者の独自設定なのですが、どうもうまくナデシコ本来のものとかみ合いません

そのあたりを違和感なく融合させるのが筆者の力量だと思うのですが・・・・未熟ですので

では感想、その他批評などよろしくお願いします

 

 

代理人の感想

ををー。

でも連続コロニーテロは起きてるんですね。

案外犯人はユリカ・・・いや、ジュンかな?

とりあえず続きを期待。