第二話 呼び覚まされた『恐怖』

 俺、ここから逃げます。必ず逃げます!!ってアレなことをいってる場合じゃなく・・・・


 助けてよ、ねぇ・・・・


 ここは『地球連合軍極東方面第三地上艦隊所属独立行動権限保持部隊ナデシコC』の副艦長の個室。長いよな、正式名称。

 俺がここにいる理由。それはテンカワ・ユリカさんの愚痴を聞かされているから。
 言葉がマシンガンで撃ち出されるより多く、亜光速のごときスピードで俺の鼓膜を撃つ。


 内容、テンカワ・アキトが自分を置いてけぼりにしたこと。
 怒ってるよ、すご〜〜く。

 艦長の話だとラピス・ラズリという少女と一緒に行動しているらしいけど、そりゃ怒るよな。大げさに言えば浮気だし。



「ね〜〜〜聞いてる?シュウさん!!」
「はいはい。聞いてますよぉ」
「何でアキトったら私を置いてったのぉ!?」

 そのマシンガンのように飛び出す言葉を聞きたくなかったからでは?

「そんなことないもん!アキトは私のことが大好きなんだもん!」

 ヤベッまた口にしてしまったみたいだ。困るなぁ、こんな癖。
 いいかげん正座も疲れたし。俺は木連育ちといっても正座は苦手さ。日系だからって正座が得意と思うな!!

 昔仲間に正座ができないって言ったらネチネチネチネチと、って俺も愚痴になっちまったな。

 木連の中では正座が3時間以上できないと入学できない高校なんてのもあったし、就職にも響く条件だったりして今思うとかなりいいかげんな基準だよな。どう関係あるんだよ?仕事と正座が!

「ねぇ!ちゃんと聞いてって!!」
「はいはいちゃんと聞いてますよぉ」




 俺が釈放(?)されたのはあれから二時間後のことだ。
 でも俺はまだユリカさんの部屋にいる。


 動かないんだよ、脚が。痺れて、まったく感覚がない。多分切断されても痛くないんじゃないのか?


 一応この部屋は10畳間だから、脚を伸ばして横にさせてもらっている。


「ねぇ、シュウさん・・・」
「何スか?」

 珍しいな。ユリカさんが真面目モード入るなんて。
 何の用だろう?





「アキトの居場所は特定できたの?」
「いえ」

 依然としてつかめないテンカワの行動。あいつが自分で遺跡を処分するつもりなのか?だが遺跡の破壊はこの世界の破壊を意味するってイネス博士が言ってた。ユリカさんのいる世界を壊そうとは思わないだろう。

 なら、どうして?


「アキトは、来るよ。私たちのところに。そんな気がするんだ」

「そうですか。なら、期待して待っててください」



 気がする、ね。なんていうか、愛の力なのかねぇ?

 うらやましいこって。


 パシュゥ


 部屋のドアが開いた。中への問い合わせ無しで入る権限を持つのは艦内では二人だけ。一人はここにいるから、多分ホシノ艦長だろ。

「ユリカさん、ナデシコはこれから月の廃棄ドックへ向かいます。よろしいですね?」
「そんなことを言うためのわざわざ?」

 俺も同意見。

「いえ、それよりも聞きたいことがあるんです」
「何を?」



「夢です」



「私の夢は、アキトと一緒にまた―――」
「その夢じゃありません。遺跡に取り込まれていた時に見ていた夢と、その時に得た『記憶』です」

 艦長、真面目モードなのか?それともキレ気味モードなのか?俺には隠しきれていない、22tと書いてあるハンマーと先手必勝とかかれた腕輪が見えるのだが・・・・。



「貴方は何も見ていません」
「はい」



 命は惜しい。忘れよう。



「私はアキトのお願いを聞いていろんなところをイメージした。それが夢。それ以外は覚えてないよ・・・・」

 普段明るいユリカさんとは対象的に重い口調。

「記憶・・・・って何なの、ルリちゃん?」

 本当に知らないのか?でも嘘をつくような人じゃあ無いよな。

「本人に見覚えなし。記録データと同じですね」
「何それ?」

 俺も気になるな。
 ホシノ艦長はコミュニケを最大まで大きく表示させた。





 数人の医師がユリカさんの治療にあたっていた。イネスさんの姿も見える。意識が無いようだな。

 ガタッ

 突然ユリカさんが痙攣を始めた。何なんだ?

嫌だ・・・嫌・・・・嫌・・・嫌・・・・嫌ぁぁぁ!消えてよ!皆消えてぇ!!
 大声で叫んでいた。目は大きく見開かれ、どこか虚空を見ていた。


 映像はそこで終わった。


「これが、どうかしたんですか、ホシノ艦長。恐怖体験で悪い夢を見るくらいは誰でもあると思いますけど?」
「話には続きがあります。同時刻、航路A―3でボソンジャンプが行われました。しかし出入り口共に爆発、ジャンプを行っていた戦艦は消滅しました。これが何を意味するのか分かりますか?」

「偶然」×2

・・・とは思えない。




 でも、艦長。

 俺は死にますよ、そんなもの受けたら。

 27tって書いてあるでしょう、それ?



「冗談は良いとして、同じような現象がその後計3回ありました」

「つまり、ユリカさんに何らかの原因があると?」
「そうです。イネスさんが出した結論は、ボソンジャンプコントロール技術です。つまり、大量のCCを介在せずにボソンジャンプを強制的に起こす、又はキャンセルする、それにジャンプを予知する力です」


「私に、そんな力があるの?」

「イネスさんの話ではCCが数個でも戦艦の三つか四つは転移させるくらいは可能だそうです」

「俺に教えていいことなのか?」
「護衛してる方も何かと良いでしょう、そのほうが?」
「そりゃまあ」

 知らされて無いより百万倍は良いね。

「ユリカさんにそういう力があると軍は認知しました。ミスマル提督はそれを隠蔽しようとAAAプロテクトをかけましたが何者かによってリーク。そして起こったのがユリカさんを兵器として使用するための統合軍の一部と連合軍の一部による争奪戦。ボソンジャンプをコントロールする技術は遺跡を持っているのと同等の効果を得られます。しかも遺跡以上に操りやすい」


 お偉いさんの権力争いか。キライだな、そういうの。
「つまりユリカさんはまた兵器にされそうになってるってことか」

「はい。このことは他の隊員の方にも伝え―――」

「嫌よ・・・」

 ユリカさんがつぶやいた。消え入りそうな小さな声で。

「嫌・・・・嫌・・助けてよ・・・助けて・・・・助けて・・・助けてよ!!
うあんなことになるなんて嫌だよーーーー!!!

「落ち着いてください、ユリカさん!俺たちが守りますから!!」


 ピピッピピッ

 艦長のコミュニケの非常コールが鳴った。
「なんですか、ハーリー君?」
「前方にボソン反応です!!」

「私はブリッジに行きます。シュウさんはユリカさんを見ていてください」
「了解だ!」



「嫌だよ・・・助けてよ・・・・助けてよ・・・アキト・・・」

「大丈夫ですよ、ナデシコCにいれば、安全ですから」

「怖い・・・アキト・・・助けて・・皆が・・・」

「艦長補佐!」

「アキト・・・そうなんだね・・・」



 何が?

 果てしなく嫌な予感がする。ついでに言えば、俺の『嫌な予感』が外れたことは無い。


「アキトはルリちゃんたちとは一緒に居たくないんだ・・・だったら、私が消してあげる。アキトに絶対あえない場所に、送ってあげる―――」

 目が正気じゃない!
 彼女がつぶやいている間に体中にジャンプ時の紋様が現れ始めていた。

 俺たちを待っているのはルリちゃんの話どおりだと多分『強制ジャンプ』だろう。

「少し、眠ってくれ」


 俺は彼女の背後から手刀を放ち、気絶させた。

 何だってあんな暴走を・・・?


 俺が彼女を布団に寝かせた次の瞬間、艦がゆれた。

 アラートが鳴り響き、通路はレッドランプの光で埋め尽くされている。コミュニケで、隊で後輩にあたるキュール・ティヴァにつないだ。多分格納庫で待機中だろう。

『大変ですよ先輩!!敵戦艦がぶっ放したグラビティブラストがエンジンルームを直撃しました!!』
「けが人は!?」
『整備員が五人、確認されていません。現在隊長とリアムさんが向かいました』
「分かった。俺たちは白兵戦に備えて待機だ」
『了解!』


 俺たちの主任務は白兵戦だけど、一応こういう場合の救出活動も含まれている。
 ちなみに手当ては一回あたりに食事一回分程度だな。


 悲しいね、命張ってこの手当ては。これでもかなり改善されたんだけどな。


 それと、確かめることは確かめないとな。

「ハーリー、何がどうなってるんだ!?」
『ユーチャリスがボソンアウトしました。テンカワ・アキトです。幸い現在は有人・無人兵器共に出す気配はありません』
「俺たちが突撃するのか?」
『そこまでは分かりませんが、有人兵器が出てきた場合、ラピス・ラズリを盾に取ることも考えられると思います』


 人質、しかも女の子か。趣味じゃないな。


 そう思ってる間に格納庫に到着した。
 そこには俺たちが使う装備一式がそろっていた。



 グレネードランチャー、マシンガン、手榴弾etc…使いたくは無いがな。

 ついでにその後ろに俺たちの秘密兵器が鎮座しているけど、俺は使いたくない。

 考案者の名前がS・Uだったから。






 普通不安になるだろ!?





 そこへまた大きな振動が来た。だが、何かが爆発したというわけではなさそうだ。





 隊長たちは無事に五人の救出に成功した。パッと見重傷者は居なかったようだ。

 そんなことより、俺が気になっているのはユリカさんが言った言葉。『アキトは来る』って言ってたよな。

 これが、艦長の言ってた予知能力なのか?

 けど、艦長がなにやらつぶやいていたのも気になる・・・・



 結局何だったんだ、これは。



 ユーチャリスが撤退したという連絡を聞いたのは、そのすぐ後だった。







 あの事件の後、艦長は急に暗くなった。

 ウリバタケさんに聞いたら、ナデシコA時代よりも暗くなったらしい。


 ハルカさんがいろいろと言ってるらしいけど、一向に元に戻る気配はないし。


 ほとんどハーリー君に艦を任せている状態。
 あの時以来ユリカさんも眠ったままで・・・・。



 無事にテンカワを逮捕できるといいがな―――――。

 

 

代理人の感想

やっぱり壊れてる割に話のほうがシリアスでw

ユリカはシリアスに壊れてますが。