第六話 『誓い』の意味


『ターゲット、セット』

 機械の無機質な声が響く。

 俺はあの後日本にあるネルガルの研究施設に来た。ウリバタケが開発した『HS−W2』を受け取りに。俺達の秘密兵器だ。


 元はウリバタケが考案した、リニアレールガンで様々な弾頭を撃ちだす兵器、ハイパーショット。

 俺たちが受け取ったのは、ウリバタケ自身が開発しているW型、X型、Y型の内の一つ、W型の二番機。

 かなりの重さで、完全な突撃兵器だけど、威力は保障付だ。これをそのまま大型化してエステバリスに装備させようとか言う計画もあるらしく、A型からZ型までの内、ウリバタケが噛んでいない物はすべてエステ技術者が開発担当だ。


 開発されている弾頭は今のところ壁を突破するのに必要な『破砕弾』、つまり着弾と同時に爆発を起こすものだ。そしてもう一つが『散弾』。その名の通り、ショットガンを模した弾頭だ。撃ち出した後、弾けて前方にあるものを破壊する。

 部隊に配備されるのは俺が今もっている一基のみ。Y型もX型も安定性の問題が残っているそうだ。



 そして、俺はこいつのテストを兼ねた訓練をしている。

 三十メートルほど先にある人型のダミー人形に破砕弾を命中させること。レールガンとしては反動を抑えてあるが、所詮開発途中の兵器。それなりの反動がある。


『READY GO』


 俺は腰を落として上体を安定させ、レールガンを脇に構えた。長さ一メートル、重さ三十キロのシロモノ。

 一瞬の間をおいて、引き金を引いた。

 パシュッ!!



 理論上の飛距離は五十メートル程度。十分射程圏内だ。


  ドォォーーーーン!!


 勢い良く飛び出した弾頭はダミーの足元に着弾し、爆発する。前回のテストではビルの壁程度なら十分に破壊できる威力があったらしい。


 爆炎の後には何も残っていなかった。十分な威力だけど、手前で着弾か・・・。訓練不足だな。一朝一夕で出来るものじゃあない。

 ヤマサキが人体実験をして造っているのがサイボーグなら、数がアレ一機だと言うのは絶対にない。誘拐された人数はわかっているだけで二百人だ。


 一撃で仕留められなかった場合にも、不安が残る。ムナクソ悪い実験ばかりやる奴だ。絶対に何かを仕掛けてから仕向けるだろう。ロケットランチャーや液体窒素弾、硫酸を詰めた弾。これくらいは手ぬるいか。


 数メートル以内に敵が近づいただけでサイボーグが自爆しかねない。そういう男だ。


 あの時も、倒せばハマる『ロシアンルーレット』を仕掛けて・・・リアムが死んだ。


 俺たちは、これからの命令を拒否することが出来る。だから、ハイパーショットの訓練を受ける必要は無い。だけど、命令とかじゃないんだよ。プライドっていうか・・・・俺は、負けたくない。あんな野郎に。


 何が勝ちか、あいつを捕まえて研究をやらせれば勝ちなのか、分からないけどな。

 俺がナデシコを離れる理由は無い。

 それに、逃げたら、負けだという事実は変わらない。











 休憩室でコーヒーを飲んでいると、ピピッと言うコールの後に、コミュニケのウィンドウが開いた。

『お久しぶりです、シュウさん。マリコさんから連絡は届いていますか?』

「いや、何ももらっていないけど?」

 何か、あったのか?

『テンカワ・アキトを拿捕した支部が基地ごとジャンプしました。転移先は不明。テンカワ・アキト、ユーチャリス、ラピス・ラズリも行方不明です』

 それって・・・・。

『お気づきですよね。テンカワ・ユリカさんは、何処かで生きています。生きていることを想定して行動しましたが、想定は間違っていなかったようです』

 強制転移能力か。まさか基地ごとジャンプさせるとはな・・・・。

「それって、いつの話ですか?」

『三日前、アフリカの研究施設爆破の数時間後になります』


 やっぱり、何か関連性が・・・?


『それでは、本題です。シュウさん、貴方達はこの作戦を辞退することが可能です』

 しないけどな。

『ヤマサキが居るのはクリムゾングループで最大規模を誇る研究施設です。二日前から監視が着いて、地下・地上ともに動いた様子はありません。所有戦力はエステバリス級機動兵器数機、アルストロメリア級機動兵器が五十以上、守備隊が五百人以上です』


 生きては還れぬ作戦ってね。


『さらにミスマル・コウイチロウ提督の降格により、貴方はナデシコの直属部隊となります。そしてそれによって人員の補充が出来ません』


 何から何まで絶望ですか。そんなことより、ミスマル中将が降格?

「何があったんですか?」

『詳しくは調査中ですが、やはりクリムゾンの仕業で間違いないでしょう』

 ムカツク奴らだ。

「補充人員、ネルガルとかからはもらえないんですか?」

『一人だけ、獲得できました。明日中にはそちらに着きます』

 一人だけ、ねぇ・・・・。キュールは全治二ヶ月だから動けない。俺と姉御と補充で三人行動ですか。ギリギリだな・・・。

『キュールさんの役割はどうしても必要なので、電脳戦のエキスパートを無理やり引き抜きました』








 役割は出来ても、代わりは出来ないけどな。













 どうにか俺は拳銃と変わらないような精度でレールガンを撃つことが出来るようになった。さらに開発者に軽量化と分割ができるような構造にさせ、持ち運びを楽にさせた。

 必殺武器だが、いつも使うわけじゃないからな。

 軽量化の末、重さ十キロまで軽くした。犠牲にしたものも結構あったが。それに四つ折で収納でき、数秒あれば組み立て可能。開発者を何日も徹夜させたからな。けど、見合ったものが出来たって喜んでたし、いいよな。開発状況と性能は査定にかなり関係あるそうだ。







「ちぃっす!」

 目覚めのコーヒーを飲んでいると、後ろから声を掛けられた。

 日系人、黒髪の男が補充人員のリュウジ・シンドウ。電脳戦術課程を次席で出た男だ。キュールの後輩にあたる奴。

 格闘能力は姉御と同じくらい。


 コーヒーよりも紅茶派。


「作戦は頭に叩き込めたか?」

「OKですよ!」


 アフリカでの一件から一月。ヤマサキは何の動きを見せないまま俺たちを待っている。侵入されない自信があるか、仕掛けをしているか。両方なのか。

 知る術はないが、やるしかない。


 俺達の作戦は一時ユリカさんの捜索を中止し、ナデシコCで施設を掌握、エステでガードを動けなくしてその間に俺たちがヤマサキを拿捕する。

 何があっても俺たちは退かない。

 最悪、これがラストチャンスになるかもしれない。軍所属の艦が、独断で裏のスポンサーを壊滅させるのだ。失敗は許されない。成功して軍のお偉方を押さえつける材料を得ないと全員極刑もありうる。


 いや、全員ではないな。

 世界で二桁と居ないマシンチャイルドは生かされるだろう。軍に都合のいい道具にさせられるかもな。


 絶対にマシなことにはならない。

「昔は戦っても、今は味方ですか」

 リュウジは地球出身、俺は木星出身。

 敵同士だったには変わりないけどな。悪の地球人って教えられたけど、結局どっちもどっちじゃねぇか。どっちかというと虫型兵器で殺した人数のほうが多いと思うが。

「生きるか、死ぬかか・・・」

 だよな・・。

「乗るか反るか、運命の作戦!商品は選んでいただいた300万円相―――」


 バチコーーーーーーーン!!!


アレなことは言うな!」

「知ってたんすか、このネタ」

「・・・・・・アホ」

 久しぶりだな、ツッコミ。あんまり乗り気じゃないが、やらないよりはいい。




 作戦失敗し、余計な仕事を負わせてしまった俺を、ナデシコは暖かく、迎えてくれた。


 リアムにも、見せてやりたかったよ。こいつらの笑顔を。






「お疲れ様でした、シュウさん」

「申し訳ないです、艦長」

「いいんですよ。あの時点では知りえないことだったわけですから」

「次は、必ず成功させます」


 俺は頭を下げると、自分の部屋へ向かおうとしたが、艦長に止められた。

「シュウさん、お詫びだと思って、聞いてください」

「なんですか?」

「キュールさんとリュウジさんをお借りします」



・・・・・・・・・・・は?




「これから連合軍中枢コンピューターにハッキングします。皆さんはバックアップしてください」




 はぁ!?



「ミスマル提督の降格、消滅した基地、テンカワ・アキト拿捕の裏、連合に何処までクリムゾンの影響が入っているか。皆さん知りたいことだと思いますが?」


「バックアップ!任された!!」×4


 ウリバタケ、ハーリー、リュウジ、キュールが応える。


 誰もが知りたい真相か。


 やっぱり、皆関係があるのか・・・・


 俺たちが思っているより、もっと深いところで、関係している。

 複雑な、四角関―――



 ボゴッ!



「ひ、久しぶりなツッコミッすね」

「アレな世界に沈むな!」

「観る以外にやること無いですから」




「・・・・・・・フッ」×2



 ご無沙汰だな、この会話。



 ブリッジまで上がったのは三回目。だだっ広いメインモニターと十以上のサブモニターに掌握図が示されていた。


 円グラフを青が埋め尽くす。そして時間がたつにつれ、少しずつ赤い色に染まっていった。




 十分が経過し、艦長が呟いた。

「チェック、メイト」



 完全な赤に変わった円グラフ。横に表示されているのはダミープログラムが流れたことを示すサイン。連合の誰かがやろうとした行動はすべてダミープログラムを通してハーリー達へ送られ、その人間の下へ結果が返っていく。


 誰にも気づかれていないはずだ。



 中枢コンピューターのセキュリティってこんなものなのか・・・・




「ダウンロード進攻率24」

 進攻って字、間違ってないか?

「気のせいですよ、シュウさん」


 さいですか、艦長。





 五分程度で“進攻率”が100になった。




「回線切断、ダミープログラム削除、ネットワーク復帰」



「観てみましょう。私達の周りで何が起こっていたのか―――」

 記録されていた映像の一つを表示させながら、艦長が言った。




 映像は、俺達の予想を上回る物だというのを、まだ誰も知りえなかったが―――

 

 

 

管理人の感想

ファングさんからの投稿です。

うーん、シリアス(一部ギャグ)ですねぇ

プライドを賭けて、再戦を誓うシュウ。

新しい仲間と、苦しい状況。

 

 

 

・・・燃えますね(笑)