第七話 『真実』の意味は
「『ミスマル・コウイチロウの降格に関する報告書』」
艦長の声が静まり返ったブリッジに響く。
まずは、そこからか。
「SS級レベルの資料です」
少将クラス以上の人間の権限だ。
メイン画面に表示された報告書には、驚愕の事実が写されていた。
『ナデシコCは脅威となり得る、というクリムゾン・グループからの要求を受け、それに対処するため、ミスマル・コウイチロウ以下連合軍極東上層部の者を逮捕。理由に関してはテンカワ・ユリカと関係性をもたせ、対処する。関係者は入金を確認すること』
ここまでクリムゾンが深く入っていたとはね。統合軍よりも小さいだけに、楽だとは思うが。
将官クラスの人間を扱えるってことは、殆どすべてを掌握してるんじゃないのか？
『ミスマル・コウイチロウ中将』
映像に切り替わった。
暗い独房、五層の強化ガラスとレーザー装置が設けられている。特別房と呼ばれる一階層に一人の特殊なところだ。
中に居るのは囚人服を着たミスマル提督だ。
『私をどうする気かね？』
ミスマル提督が静かに言う。
『貴様の処刑の日が決まったから、伝えに来た』
ケバケバしく染めた髪を弄りながら、男は言った。
『ほう？』
『今日、たった今だ』
『・・・・・そうか』
バァーーーーーーーーーーーン！！！
バァーーーーーーーーーーーン！！！
バァーーーーーーーーーーーン！！！
無機質な音が響き渡り、弾丸は提督の心臓を貫いた。
『貴方は私達にとってはジャマなんですよ。おい』
つまらなそうに言う男に俺は強烈な怒りを覚えた。
握り締めた拳から血が流れているのを感じながら、それでも拳を緩めることは出来なかった。
『一応眼球は取り出しておけ、掌紋も必要みたいだから両手首も切断しておけよ』
映像には、惨たらしく解体されていくミスマル提督が映っていた。
首から上が無くなり、両手も失ったミスマル提督は、ガードの男達に引きずられながら、姿を消した。
『一応何かのた―――――』
男が何かを言おうとしたところで、映像が途切れた。
艦長が映像を停止させたためだ。どこか虚空を見つめるその瞳は、大切な人を失った悲しみより、非現実的なことに思考が停止しているようにも見えた。
俺にとっても、その映像は非現実的だった。
俺達イーグルはミスマル提督が直接の命令権を持っている部隊だ。顔を合わせることも少なくないし、俺が部隊に入ったのもミスマル提督に遭ったからだ。
精神的なダメージは計り知れない。考えすぎなのか・・・わざと俺たちに映像を見せて精神的に痛めつけようとしたんじゃ・・？
恐らく重鎮全員が同じようなことになってるだろう・・・ミスマル提督、ムネタケ参謀、アオイ艦長、そして秋山さん。
全員、いわゆるナデシコ派(火星の後継者事件の時にナデシコに手柄を根こそぎ奪われた極東以外の連中はアンチナデシコ派)の人たち。
艦長が合成やCGに気づかない訳が無い・・・
死んだんだ、提督は。
何とか現状を理解した艦長は震える手で次のウィンドウを表示させた。
『ミスマル・コウイチロウ提督の後任人事について』
『後任についてはクリムゾン・グループの者を軍籍改竄の上で提督・参謀にし、ナデシコCに関する一切の決定権を持つとする』
つまり、俺たちはクリムゾンの手ごまにされるってこと・・・だよな。
『着任は三月二十一日』
ちょうど一週間後だ。つまり、それが俺たちに残されたタイム・リミット。今ダウンロードしたデータだけでクリムゾンを潰したり連合を抑えたりするのは不可能だ。連合には中枢コンピューターの他にネットワークに接続されていないスタンド・アローンの独立したネットが存在する。確かネットワーク名はLIE。クリムゾンと繋がっている人間の情報はそのネットの中に保存されているだろう。
「『テンカワ・アキトの拿捕に関する報告書』」
『南アフリカ支部にボソン・アウトしたテンカワ・アキトは無人兵器を使用し基地施設の破壊に入ったが、同基地所有高速レールガン、ギガ・ショットにより動力部を破壊。直後進入した白兵部隊によりテンカワ・アキトを拿捕した』
おかしい・・・ジャンプで逃げることくらい、テンカワなら、というより、誰でも思いつくだろう。
何故それをしなかったんだ？
『テンカワ・アキトの供述とそれに伴って行った“実験”の結果はカート・ブランを通してLIEへ保存』
テンカワ・アキトに関してはそれだけだった。
何かがわかることを信じていた艦長の顔色も冴えない。
『南アメリカ支部消滅について』
その報告書には一言だけ記してあった。
『三度目の“実験”時に予定外の事態が発生。“実験”を行った地点から周囲半径二十キロにわたって巨大なクレーターが出現した』
結局、俺達が知りえたのは、ミスマル提督達の死だけだった。
カタカタカタカタ
俺の耳に、かすかではあるがキーを押す音が入ってきた。
キーを打っているのはキュールだ。
何をしてるんだ？
キュールの後ろから画面を覗き込むと、一覧表のようなモノが表示されていた。
いくつか聞いた様な名前がある・・・・
あのデータか。そんなものまであるとはな。
「完了・・・・」
キュールがなにやら呟くと、突然画面が真っ暗になった。
完全にデータを消去したのだ。
確かに、誰にも見られたくは無い。
俺がお前の立場、それだけの技量を持ってればそうしたろうな。
『エステ一番機、行くぜ！！』
『エステ二番機、逝きます』
『字違うよイズミ。エステ三番機、行っきま〜す！！』
『四番機サブロウタ出る』
格納庫で待機していた俺達は最後の打ち合わせを終わらせた。
あの日から五日。内容はすべてのクルーに知らされた。タイムリミットまで後二日。何とかするしかない。
基地の掌握に入った艦長は全体の三十パーセントを掌握できた。殆ど表層区画だけらしい。つまり、単純にその三倍が地下にある。
とりあえず地上を制圧するためにエステ部隊は出撃した。
もちろん襲撃する前にヤマサキを引き渡すように要求したけど、応えはNO。当たり前か。
そして俺たちはヤマサキ逮捕のため『強硬手段』に出る。
負ければこのことは無かったことにされるだろう。俺たちは親戚友人を含めた戸籍まで消滅するだろうな。
五分もしないうちに入った連絡はガードの降伏を告げるものだった。
「じゃあ、艦長」
「頼みます、タカマツ隊長」
「了解ッ」
俺が艦長に敬礼をするのに合わせ、マリコさんとリュウジが敬礼をした。
基地に侵入すると、図面どおり地下入り口へ向かった。降下地点から直ぐだ。
入り口に来ると、底にあったのは簡単な端末だった。入り口は縦横五メートル程度の扉が左右。その横にあった端末から声が聞こえた。
『お久しぶりだねイーグルの諸君』
ヤマサキ！！
『今回はちゃんと建物の中にいるよ。ものの見事に監視をしてくれたからね。イヤご立派です。そしてそんな君達に私からのささやかなプレゼント。この間のプレゼントは気に入ってくれたようだからね。また用意しちゃったよ。
とりあえず、そこの扉開けるから待っててね。三秒くらい』
最後に画面が消える瞬間、奴は・・・笑った？
「退がれ！！」
ドォォーーーーーーーーーーーーーーン！！！
見事に扉を開けやがった。
『プレゼントはたくさん用意したよ。
サンタになった気分でなかなか楽しかったから、そっちも楽しんでね。じゃあっ！』
テメェにもプレゼントを持ってきたぜ。
艦長には悪いけど、やっぱり俺はリアムのこと、割り切れないんでな。
最高のパーティーにしようや！！
中に走り出した俺たちを待っているのは、どんなプレゼントなのか、楽しみだ―――
管理人の感想
ファングさんからの投稿でした。
うーん、次々とキャラが消えていきますね（汗）
どうにもこうにも、後手後手にまわっています、ナデシコチーム。
ここまで出し抜かれると、ルリの実力まで疑ってしまいますね。
いよいよクライマックスが近そうですが、山崎はどんなプレゼントを用意してるんでしょうか？
・・・ジュン、初舞台が処刑台って・・・・お前って奴は、お前って奴はよぉ（汗）