宇宙を彩るアオイ色
第三話 みんなの「オシゴト」
























「さて・・・お前の考えを詳しく聞かせてもらおうか、ジュン。」

アキトはここでなら質問しても良いと言われ、声にドスを効かせていた。

未来を繰り返さない為に意気込んで乗り込んできたのだ。

それを止めろと言うのだから、それなりの理由が必要だった。

ただでさえアキトは復讐心と義侠心の間で揺れているのだ。

「そう意気込むなよ。

 僕たちがナデシコで経験した戦争はA級ジャンパーの戦略的価値を認識させてしまった。

 戦後、火星の後継者は君とユリカ・・・火星の生存者を拉致、結果は君の方が知っているだろう。

 民間人でしかなかった君がボソン・ジャンプの有効性を知らしめたんだ。

 これで、凄腕のエステバリス・ライダーがボソンジャンプを利用すればどうなる?

 前回の二の舞だ・・・いや、もっと酷くなるな。

 どちらにしてもまた君たちが狙われる・・・火星の後継者だけでなく各政府にもね。

 戦争の道具として、支配者の利益の為、そうなれば人としては生きていけない。

 火星の残留者達を助けられたなら、彼らにも累が及ぶ。

 君が戦うことでみんなが不幸になるんだ。」

「そうか・・・」

ジュンの話に納得せざるを得ないアキトは、反論できなかった。

「本当はユリカも乗せたくなかったんだけど、人事には口を挟めなくてね。」

「いや・・・充分だ。」

「今度は君のコックの夢も果たせる。

 このまま、済し崩しにパイロットにならなければ借金を背負うこともない。」

しばらく黙る二人。

そして、アキトが重々しく口を開いた。

「ところで何でこんな所で話をしているんだ?」

「安全だからさ。」

男子トイレが安全なのかよ!!」

ちなみに二人は共同男子トイレの個室に入って会話をしていた。

同じ個室に入っているわけではない。

「オモイカネの監視はここにはないからね。

 ばれたら犯罪だし、保存していても気分の良い物じゃないから。」

「部屋にはシャワールームもトイレもあるが・・・そっちには耳はないのか?」

「ないよ。

 要注意人物の部屋には監視が付くけどね。」

話が終わったと判断したアキトは個室を出た。

ジュンもやや遅れて出る。

「初めは、保安部で話をすると思ってたんだけどな。」

「それは駄目だね、影が薄いとはいえゴートさんがいるから。」

「ゴートさんはいつもブリッジにいるじゃないか・・・」

「僕は副長勤務してたから知ってるけど、戦闘時以外はプロスさんと一緒か、保安部にこもっていたんだ。

 何時帰ってくるか分からないし、保安部はオモイカネの目と耳があるよ。」

アキトは納得したようだ。

ジュンはコミュニケに通信が来ていることに気付き、通信者を確認する。

「ユキナからだ・・・会うだろ?」

「ああ、彼女にも迷惑掛けたしな・・・」

二人は共同トイレから出た。

「ユキナ? 今何処だい?」

「今?まだ仕事中だよ。」

「アキトがいるんだ。 後で一緒に食事にしよう」

「うん、分かった♪ 楽しみにしてるね。」

軽い会話で通信を切る。

「挨拶くらいさせてくれても良いんじゃないか?」

「まあまあ・・・楽しみは後に取っておこう。」

ジュンは軽く誤魔化したが、意味はない。

「君はこれからどうするんだ?」

「調理用具を整理する。 明日から仕事だしな。」

「僕はこれから射撃場に行くよ。

 何かあったら言ってくれ、一応保安部だしね。」

「ああ、また後でな。」

ジュンは射撃場に向かって歩き出した。

アキトは逆方向だ。

保安部の仕事が無いに等しいナデシコ内では、やることが限られていた。

ユキナとバーチャ・ルームデートでも良いが彼女は勤務中。

シミュレーションは実戦直後なので行きたくない。

かつてのように押しつけられる仕事もないので暇極まる。

『え〜、みなさん、そのままでお聞きください。』

プロスからの強制受信だった。

何か予定に変更があったのだ。

『ナデシコは今回の襲撃が原因で就航を予定より早めることになりました。

 これは補給物資の積み込みが完全でないからです。』

前回は気にせず宇宙に飛ぼうとしたが、今回はそうでないらしい。

『ナデシコはサセボ軍ドッグからヨコスカ基地に向かいます。

 皆さんは当初の予定通りに作業を続けてください。

 以上です。』

「挨拶をかねて艦長がすることだよな・・・」

ただでさえ若い艦長と言うことで不安を煽る。

女性蔑視と言われようが、女性であることは不利な点だろう。

軍では体力面で男性に劣る女性への差別は抜けていかないのだ。

ユリカは違うが、それは共同生活をして理解してもらうこと。

士官学校主席ということは、白兵戦などの体力面でも好成績を修めていることを意味する。

もっとも、所詮シミュレーション上のことだ。

何より実戦経験が物を言う艦隊指揮、どう足掻いても不安は残る。

前回のナデシコはユリカの能力に疑問を持つ者はいなかったが、今回はどうだろうか。

「ああ、艦長と副長は説教中か。」

ジュンは二人の遅刻について思い出していた。

以前は一緒に説教されたが、今となっては他人事である。

「・・・格闘戦苦手なんだよなぁ・・・

 テンカワにトレーニングの相手してもらうかな・・・」

「ご謙遜を・・・」

「・・・プロスさん、気配を消して近付くの止めてくれませんか?」

ジュンが振り返るといつの間にかプロスが立っていた。

「いえいえ、何度か声を掛けましたよ?

 考え込んでおられたので気付かなかったのでしょう。」

明るい笑顔で謝罪するプロス。

考え込むばかりに注意が散漫になっていたのかもしれない。

「それでどうしたんですか?」

「ヨコスカで軍人を乗せることになったのですよ・・・」

「派手なデビューでしたからね。

 退役軍人だけでは納得できなくなったのでしょう。」

軍には話を通してあるものの、新技術という売り込みだけだ。

現に軍が艦隊を動員して、なお惨敗続きと言う状況で情勢を易々と逆転させる新技術など信じていなかった。

ところが、ナデシコは木星蜥蜴の襲撃を単艦で撃破したのだ。

軍からすれば喉から手が出るほど欲してやまない力である。

「ヨコスカで交渉することになっているのですが、現役軍人の搭乗は面倒ですな。

 実際に現役軍人が乗れば火星行きは面倒なことになります。」

「元々、ナデシコ単艦での火星行きは無謀ですよ。

 その点だけ軍に賛成します。」

「シラトリさんはナデシコの力を信じてはおられないのですか?

 現に我々は木星蜥蜴に圧勝したではないですか。」

プロスの抗議は勝利に浮くナデシコでは主流だろう。

「所詮、チューリップから出て来た無人兵器を倒しただけですよ。

 グラビティー・ブラスト、ディストーション・フィールド、双方とも敵は持ってます。

 戦艦クラスが出て来たとき、この艦は沈む。

 単艦のナデシコと艦隊、比べれば子供でも分かることです。」

「そうですか・・・ネルガル製戦艦で艦隊を組まない限り、火星からの生還は無理だとおっしゃるのですね。」

諦めとも取れるような溜息をつくプロス。

「ええ、ネルガルにしても火星に行くのは科学者を一人回収したいだけでしょう?

 資源回収を目的としていても、扱える人材がいなければ屑同然だ。」

「・・・シオンさんに調べさせましたね、シラトリさん。」

「ちがいますよ、社内報で話題になってましたから。」

「そのことについては結構です・・・証拠も残ってないでしょうから。」

「信じてませんね?・・・これは内密ですけど・・・

 ボソン・ジャンプの実験、止めた方が良いですよ。」

プロスに耳打ちするジュン、既にばれているから仕方がないのかもしれない。

否定してすぐの矛盾した行為だ。

「やはり御存知でしたか・・・」

「そのうち、木星蜥蜴が湧いてくるんじゃないですか。」

「どういう事です?」

「木星蜥蜴の出入り口にもなると言うことです。

 あちらは確立している技術、探知されるかもしれませんね。」

驚愕するプロス、思わぬ指摘なのは間違いない。

ジュンはネルガルが諦めるとは思っていないが、新たな方向を示したことで満足することにした。

「それでは・・・」

プロスから離れ、ジュンは廊下の角を曲がる。

その角の先には訓練施設しかない。

「訓練ですか、熱心ですね。」

「昔から真面目って言われるんですよ。」

おどけて返し、彼はその場を後にした。

プロスはしばらく彼の後ろ姿を見ていたが、自室に向かう。

これから秘匿回線での会談をするのだろう。

警戒されるのは目に見えているが、僅かな変化だけで未来は大きく変わる。

一人でも多く幸せを掴めるように方向を修正しなければならないのだ。














ナデシコは自動操縦でヨコスカに向かっている。

ジュン、勤務時間を終えたユキナ、案内を済ませたシオンとラピスがテーブルに着いていた。

二人の少女はすっかり打ち解け終始笑顔でお喋りしている。

「よ〜やく、年相応の子供って感じね。」

「ライバルには良い笑顔を見せないものだよ。」

「ライバル?・・・何それ?」

ジュンの一言が理解できないユキナだった。

「周りに女性がいなかったからね、シオンにとってユキナはライバルだったんだよ。」

「私はお子様に同等の存在として意識されているって事?!」

「うん。」

ジュン、即答。

「ちょっと!!どういう事よ、ジュンくん!!」

「シオンからしてみると大人には見えなかったんじゃないかな。」

シェイクされながらも普通に答えるジュン。

日頃の慣れが目に見える。

「相変わらずだな、ユキナちゃん。」

「ア、アキト。 久しぶり。」

ようやくユキナはジュンから手を離した。

「すっかり仲良くなったみたいだな。」

「ああ、本当に良かった。」

少女の保護者二人は微笑んだが、ユキナは不満の行き先をアキトに向けた。

「ちょっと聞いてよ!! ジュンくんたら私がシオンにライバル扱いされてるって言うのよ!!」

「いきなりそんなこと言われても解らないよ、ユキナちゃん。」

アキトは苦笑しながら席に着いた。

「注文はしたのか?」

「まだだよ。」

「それじゃ、俺に任せてもらおうかな。」

アキトは席を離れ厨房に直接オーダーに行った。

「ま、あれなら大丈夫だよね?」

「テンカワのことかい?

 まだ注意が必要だと思うけど・・・艦長には警戒しないと。」

「なんで?」

ユキナが首を傾げる。

こちらの世界で過去の自分の恋愛を成就させようというのか。

ユキナの考えをまとめると、無駄、無意味、無意義である。

ついでに疲れる。

成功率も限りなくゼロに近い。

「艦長がテンカワに気付いたらどうなる?

 仕事放棄するに決まってるさ。

 テンカワが見つかるのは時間の問題だけど・・・」

「あ〜・・・わかっちゃった・・・確かに凄いことになるわね。」

「なにか、解決策は「あれ良いんじゃない?」

ユキナがアキトの方を指差す。

その指先には同僚のサユリと仲良く会話するアキト。

「アキトとサユリちゃんかい?・・・それがどうしたんだ?」

「くっつけるに決まってるじゃない!!」

力説するユキナをしばらく眺めてから、僅かに顔をそらし溜息をついた。

「何よ?・・・」

「別に。」

「あ〜!!言えないんだ!!

 ジュンくんたら、パートナーの私に言えないようなこと考えたんだ!!」

威勢良く詰め寄るユキナを席に押し戻す。

「隠し事、いつも失敗するだろ?」

「う・・・」

「全部自爆。」

「うぅ・・・」

ユキナには二の句も告げられなかった。

表情に裏表がない所が彼女の長所なのだ。

ジュンとしては言いたい放題いわれて困ることも多いが。

「・・・でも悪くないな・・・」

「あれ、何か言った?」

「なんでもないよ。」

笑って誤魔化す。

「むぅ、怪しい。」

「テンカワ、遅いな。」

ジュンは露骨に話をそらす。

隣のユキナは不満そうだが、事実だった。

「・・・料理自分で作ってるよ、ほら。」

注文にいったはずなのだが、アキトは料理を作っている。

かつてのように笑顔で楽しそうにだった。

「料理人だねぇ。」

「間違いなく中華ね。」

「良いじゃないか。」

「油が気になるの!!」

「もう少し肉付けた方が良いともうけど?」

ジュンは軽くユキナの頬をつつく。

「男はいつもそう言うのよね。

 それで太ったらポイッと!!捨てちゃうのよ!!」

熱弁をふるうユキナだったが、会話の流れそのものには不満はないらしい。

二人の会話している様はじゃれている恋人そのものだ。

「騒ぐのはそれくらいにしてくれよ、二人とも。」

アキトが大皿にチャーハンを盛りつけて運んできた。

「あ、全部自分で作るんだと思ってた。」

「ホウメイさんが一品だけ作れって言ってね、だからチャーハンを作ったんだ。」

「残りは後から来るって事かな?

 じゃ、食べようか。」

子供達はチャーハンがテーブルに届いたときから、スプーンを握りしめていたりする。

実に微笑ましい光景だ。

「そういえば、これからどうするつもりなんだい?」

「お前の言うとおりにするさ、今は無理に強くなる必要はないし充分だからな。」

「たまに相手してもらえるとありがたいんだけどね。」

「それくらいならな。」

チャーハンをお子様に取ってやり、ユキナ、自分たちと全員に行き渡る。

「「「「「いただきます」」」」」

猛然と食べる五人だった。

ホウメイガールズが次々に料理を運んでくるが、一度礼を言ったきりだ。

「良い食べっぷりだねぇ。」

カウンター越しに感心するホウメイだった。

「ホウメイさん、ラーメンと餃子お願いします。」

「プロスさん、一人かい?」

「ええ、他の方はまだ仕事ですよ。

 シラトリさんに伝えることがあったのですが、あの様子では・・・」

「ハハッ・・・大変だね。」

軽く笑ってホウメイは大鍋に向かった。

「軍人の不当占拠対策がしたいのですがねぇ・・・」

プロスの呟きは当分届くことはないのだった。






























こんな感じで第3話が終わりました。

ジュンの性格が大幅に変わっているような気もしますが、気にしません。

気にしてはいけません。

彼は、ぐれちゃったんです。

僅かに純な所を残して。

前回の後書きで書かれたことに異論が一つ。

ナデシコSSで違和感があるのは、"頼もしいジュン"ではなく"目立つジュン"ではないか、と。

書き上げてから気付いたことが一つ。

この話では今、何時?


 

 

代理人の個人的な感想

性別による差ですか〜。あんまりそう言うことを感じさせるシーンはTVにはありませんでしたね。

第六話のオモイカネの検索では「ここ最近は美少年・美少女タイプの艦長も多い」とあったので、

少なくとも士官以上ならあまり性別による差はないんでしょうか?

もっともアニメの作中では女性の提督クラスが見られなかったので(コミック版にはいた)

現在の女性総合職みたいな立場なのかもしれませんが。

 

>目立つジュン

・・・・・・・・う〜む、そうかも(爆)。

 

>男子トイレの同じ個室

・・・・・・・うわ〜、『クサ』ッ!(核爆)←待て