明日への扉
第壱話 邂逅






  炭鉱都市ナルシェ。

世界で唯一のミスリル、すなわち真なる銀とも言われる魔法の金属の産地である。

そして、その豊かな資源と自治力の高さゆえに

帝国に従わないでいる世界有数の地域でもあった。

だが、新しく掘った坑道の奥で見つかった在る物によって、

帝国に狙われる所となっていた・・・・・・








  西の空が茜色に染まり、もうじき太陽が沈もうというころ、

キノコを筆頭として、三人ののったエステバリスがナルシェの門の前に立っていた。

門の上には何人かの男たちが敵意を含んだ眼差しで三人を睨み付けている。

そして、男たちの中の一人がキノコにむかって言葉を発した。


「帝国がここナルシェに何の用だ?」


それに対してキノコは答えた。


「ふん。何もナルシェに攻め入ろうってわけじゃないわ。

ただある物ををもらいたいのよ。

貴方達が坑道で見つけたというあれをね。」


「「「なっ!?」」」


キノコの言葉に騒然とする男達。


「幻獣が目当てだというのか・・・・」


先ほど始めに声を出した男がぽつりと呟く。

それを見てキノコは、


「そういう事。わかったらもう少し上の人を出しなさい。

あんたらじゃ話にならないわ。」


と、男達に語りかけた。

少し迷った末、一人が門の向こうに駆け出していった。


「分かった。今呼びに行かせたから少し待ってくれ。」


残った男がそうキノコに言った。

それからしばらくして、


「貴方達ですか?ナルシェにきた帝国の者は。」


女の声が響き渡った。

城壁の上に一人の女が数人の兵士を引き連れてやってきた。

まだ若い、二十を越えたか越えていないかというぐらいだろう。

だが物腰は隙がなく、油断なくキノコたちをみすえていた。


「ええ、クリムゾン帝国第二大隊所属、ムネタケ・サダアキ准将よ。

こっちはサイトウ・タダシ中尉。そちらは?」


と、キノコが自分と兵士Aを紹介する。


「そうですか。私はイツキ・カザマ。

ナルシェの守備隊ライオンズ.シックルの副長です。

ところでそちらのお嬢さんは?」


柔和な笑みを浮かべたままイツキはキノコに問う。


「ただの兵士よ。」


キノコはそれだけで娘の説明を止め、


「それじゃあもう一度言うわ。

幻獣をわたしてもらおうかしら?」


と、尋ねる。

しかし、イツキは、


「お断りします。」


「何ですって?」


イツキの言葉にキノコが目を細める。


「ここナルシェは帝国の傘下には入っていません。

それに・・・」


「それに?」


キノコがイツキの言葉を促す。


「あなたがたには幻獣は渡せません。」


そうきっぱりとイツキは宣言する。


「そう。交渉は失敗ってわけね。」


「ええ。ですからお引取り願います。」


「残念ね。できれば穏便に事を運びたかったけど・・・・・・

仕方ないわ。なら強行突破よ。サイトウ!」


そうキノコは後ろにいる兵士Aに合図を送る。


「はっ!了解であります。」


サイトウはキノコに向かって敬礼する。

そして、門の正面に進んで魔道アーマーの口のような場所を門に向け、


「くらえ!!」


と、叫びスイッチを押した。

エステバリスの口から線上の炎が門に突き刺さる。

それによりすさまじい熱気が起こる。

そして急激な温度変化によって起こった突風により、辺りに埃が舞い上がる。

キノコもサイトウも確信していた。

砂埃が収まった後には熔けただれ、半壊した門があることを。

しかし、視界が開けてみると、そこにあったのは以前とほとんど変わらない門の姿であった。

いや、何も変わっていないわけではない。

門のまわりの大地はえぐれ、近くにあった丸太は燃えカスと化している。

だが、門それ自体にはさしたる変化は見られなかった。


「「バカな!!」」


信じられない、といった様子でキノコもサイトウもその情景を見つめていた。

その様子を見ていたイツキは、


「ナルシェの門はミスリルで出来ています。

その程度では破壊する事は出来ませんよ。」

そう言ってくすっと笑った。



「くっ、な、なら奥の手よ。あんた、あの門を壊しなさい!」


ムネタケは先ほどからずっと後ろでこの様子を見つめている少女に命令した。

娘は何も言わずに前に進み出るとなにやら言葉を呟きだし、同時にエステバリスの操作を始める。


「何をする気? まだ無駄だってわからないんですか?」


門の上からイツキが少女の行動を見て声を上げた。

そして少女は片手を挙げて手の平を門に向けると一言、


「ファイア。」


と、小さく呟く。

すると門の周りが高熱の炎に包まれる。

魔力により門の周りの分子の運動を促進させ、

そのエネルギーで高熱の炎を発生させたのだ。

そのあまりの熱気にイツキや兵士たちはおろか、

キノコたちも思わず身を低くした。

そして、門が炎上するのに少し遅れてエステバリスからもビームが噴出する。

先ほどサイトウの出した赤い奔流とは異なる青白い光線だった。

熱線ではなく物質を凍らせる冷凍波である。

そしてそれは【ファイア】によって高温になっている門に突き刺さり、

門を急激に冷却する。

急激な高温から低温への変化は物質の分子結合を揺さぶり、鋼にすらも瞬時に罅を生じさせる。

全てが収まった後、門には無数の罅割れが生じていた。

少女はそこにとどめとばかりにエステバリスで体当たりを仕掛ける。

脆くなった門はその衝撃に耐え切れず瓦解し、

上にいた者と共に崩れ落ちていった。

その様子を見てキノコは、

「おほほほほ、私達に破れない物などないのよ。思い知ったかしら?」


と、高笑いをあげて、


「あの娘を先頭にして突っ込むわよ。

雑魚にはかまわないで。行くわよ。」


その言葉を合図に三人は町の奥、炭坑の方へ駆け去っていく。

後に残った瓦礫の中で、一人の女がその様子を見つめていた。

イツキ・カザマ。

彼女は門が崩れ落ちる時、運良く瓦礫に押しつぶされる事無く命を取り留めた。

もちろん全身には無数の傷を負っている。

薄れ行く意識の中、イツキは銀髪の少女を見つめ、


「・・・あれが噂に聞く魔導の娘・・・・・・・」


そう呟いて地面に崩れ落ちた。









  「帝国の魔導アーマー! ついにこのナルシェにまで!」


そう叫びながら数人のガードが三人を目指して駆け寄ってくる。


「帝国の思い通りにはさせん!」


「ナルシェは俺達ガードが守る。行くぞ!」


などと、口々に叫びながら弓を先頭の機体に対し発射した。

しかし、矢はエステバリスの硬い体に当たり、高い音を立てただけだった。


「おーほっほっほ。お馬鹿さんねえ。くらいなさい。」


キノコはそう言いながらサンダービームを放つ。

直撃こそはしなかったものの、それを喰らったガードが叫び声を上げて倒れこむ。

仲間の悲鳴に一瞬ガードが気をとられたすきに、三体はガード達の頭上を飛び越える。


「「ま、待てー!」」


慌ててガードが後を追う。

しかし、エステバリスは速度38km/h。

ガード達が追いつくことなく帝国兵三人は町の奥へと去っていった。









  その後何度か小競り合いをしながらも、ようやく三人は目的地と思われる場所に辿り着いた。

目の前の山肌には大きな空洞がぽっかりと口を開けていた。


「ここかしらね、幻獣があるのは?」


「ええ。情報によると新しく掘った炭坑から氷付けの幻獣が見つかったと・・・・・・

ということはこの奥ですね。」


キノコの呟きにサイトウが答える。


「行くわよ。」


キノコの声を合図に三人は坑道の中に入っていった。









  炭坑の中はけっこうな広さがあった。

壁には所々にランプが吊るされてあり、そのおかげで明かりには不自由しない。

いくつか細い横穴があったが、そういった道は無視して三人は本坑を奥へと進んでいく。

暫く進んだところ、鉄格子が道を塞いでいた。


「隊長、これは。」


サイトウの言葉にキノコは軽く頷くと、


「私がやるわ。あんた達は下がっていなさい。」


そう言ってエステバリスで突進をかける。

何度目かの体当たりのとき鉄格子の鍵が壊れ扉が開いた。

そのまま中へ進もうとしたキノコだったが、急に後ろに下がった。


「どうしました?」


突然のキノコの行動を不思議に思い、サイトウが声をあげる。


「何かいるわ。」


そうキノコは言った。

その時扉の向こうから声が聞こえてきた。


「幻獣は渡さない! 行けっ ユミール!!」


そして奥から巨大な影があらわれた。









 

  粘液で表面を覆われた金色の体。

頭の先には大小二対、あわせて四つの突起がある。

後ろの部分には大きな殻が背負われている。

一般にカタツムリやデンデンムシ、マイマイなどと呼ばれる無脊椎動物のように見える。

ただし、大きさは巨人の名を冠するだけあって非常識に大きい。

背中の殻は半径2メートルほどで高さも同じくらいある。

それが出てきた時から何やら震えていたキノコだったが、いきなり大声を上げた。


「いやあーっ! 私ナメクジ嫌いなのよ!

あんた、早く何とかなさい。」



その声にサイトウは心の中で呟く。


(ナメクジもキノコも暗くてじめじめした所を好む。

言わばあんたの同類だろうが!


そんな事を考えていたサイトウだったが、ふとある事を思いだした。


「まてよ、こいつは・・・・・・思い出した!」


「何よ。知ってるの?」


サイトウの声に、今まで騒いでいたキノコが反応する。


「以前、雷を食う化け物の話を聞いた事がある。」


そう言ってサイトウはキノコに忠告する。


「体に強力な電気をたくわえているはずです。気をつけて下さい。」


うぉぉぉーん


ユミールが声を上げ、戦いが始まった。









  「雷が効かないっていうならこっちよ。くらいなさい、ファイヤービーム!」


そういいながらキノコはユミールにむかい炎の渦を放射する。

しかしユミールにはあまり効いた様子も無い。


「どういうこと?」


「あの粘液が熱の伝導を弱めているみたいですよ。」


「ならどうしろっていうのよ?」


キノコの言葉にサイトウはしばし考えこみ、


「体当たりってどうですか?」


「嫌よ! あんなのに触れるなんて。」


サイトウの提案を一蹴するキノコ。


「しかし、それ以外に方法は・・・・・・

この地に生息しているとなると寒さにも強いでしょうし・・・」


サイトウがそう言った時、それまで沈黙を保っていた娘が前に出てきた。

そしてエステバリスから金属の塊、弾丸を発射する。

【魔導ミサイル】

魔力によって金属の塊を加速して射出する兵器。

ある程度自在に動かす事が出来、破壊力もかなりあるが、欠点が一つある。

これを使う為には莫大なエネルギーを使う。

そのため帝都でしかエネルギーを補給できないエステバリスにはこれはつけることができない。

自身の力を魔導アーマーのエネルギーに利用できるこの娘が乗る特別機、

エステバリスカスタムにのみこれは装備されているのだ。

ミサイルは見事ユミールに当たり、巨大カタツムリは苦悶の声をあげた。

そしてずるずると殻の中に入っていった。

それを見たキノコが、


「おーっほっほっほ。今がチャンスよ。」


と言いながら殻に向かって攻撃を仕掛けた。


「ムネタケ准将! それに攻撃しては!」


サイトウが止めようとした時にはすでに遅くキノコは殻に一撃を加えていた。


「緒ほほほほ。お思い知ったかしら? ん? 何?」


キノコが攻撃を加えたときから何やらバチバチっと音がしだした。


「ですから、そいつは殻に電気を蓄えているんです。」


いつのまにかちゃっかり二人で後方に下がったサイトウが声を張り上げて叫ぶ。


「何ですって? ぎゃああああああ!!」


ビリビリビリ

殻から放出された稲妻があたり一面に広がる。

後ろに下がっていた二人はたいした被害は無かった。

しかし、正面にいたキノコはそれをまともに喰らい絶叫する。

稲妻がやんだ後には髪の毛をアフロにし、ぴくぴくと痙攣しているキノコがあった。


「あんた、そういうことは早く言いなさい・・・・・・」


と、キノコ改めキノコ改アフロカスタム、略してキノコ改は非難の声を上げる。


「初めに言いました准将。」


「そ、そうだったかしら・・・」


「ええ。」


そんな二人とは関係なく娘はユミールの前に立つ。

そして殻の中に向かってファイアビームを放つ。


しゃぁあああぁぁ


たまらず声を上げて殻の中から出てくるユミール。

その頭部に向かって再び少女は魔導ミサイルを放つ。


きしゃあああ


ユミールがその頭部を振り娘を攻撃する。

だが、娘はせまってくる頭部にファイアビームを放ち動きが止まった瞬間に後ろに下がる。


「すごいですねえ、准将。」


「そ、そうね。」


「准将。」 「な、何?」 「俺達って、役立たずですねえ。」


「そ、そうね。」


後ろではいつにまにか後ろへ下がったキノコが、

そんな事をサイトウと話しながら戦いを見つめていた。

そしてそれから暫く後ユミールはゆっくりと地面に崩れ落ちた。











  その後ガード数名を難なく倒し三人は幻獣の前に立っていた。


「「これが氷付けの幻獣・・・」」


キノコ改とサイトウが異口同音に呟く。

氷の中には蛇の体と鳥の翼をもった生物が眠っていた。

大きさは翼を広げれば4,5メートルに達するほど。

七色に輝く翼は閉じられ、体を覆っている。

まるで水晶の中に封じこめられた彫像のようだった。

二人がそれに見とれている間に娘が幻獣の方に近づいていく。

まるでそれに呼ばれているかのように。

それに気づいたキノコ改が、


「あんた、何やってんのよ? 早くこっちに戻・・・・!? 何この光?」


娘が近寄ると、幻獣が光を放ちだした。

そして娘もそれに共鳴するかのように光を放つ。

娘の髪を束ねていた髪留めが弾け、きらきらと輝く髪が空中に舞い上がる。

瞳孔が収縮し、同時に瞳も強い輝きを放つ。


「いったい何が・・・・・ぅわああぁっ!」

幻獣と娘の共鳴の為か時空に穴が開き、周りの物を吸い込みだす。

飛ばされないように必死で足を踏ん張る二人の魔導アーマー。

だが、


「す、吸い込まれるーーーー! 隊長ぉーっ! 嫌だぁ、死にたくな・・・」


叫び声をあげながらサイトウはエステバリスごと穴の中へと消えていく。


「お、覚えてなさいよ。私はこんな所で終わらないわよ。

私は絶対に戻ってくる・・・」


そういい残してキノコ改も姿を消した。


そして一際強い光を放つと娘は力尽きたように地面に倒れこみ、幻獣も光を止めた。

魔導の娘と幻獣の初めての邂逅。

物語はここから始まる・・・・・・









後書き


えと、お久しぶりなギーヴです。

宿題の提出やらバイトやらスパロボやらで

パソコンの部屋にすら入っていなかったもんで・・・

いや、単なる言い訳です。

まあ、それは置いといて・・・第一話です。

でてきた名有りキャラ総勢4人、いや三人か。

そのうち三人リタイア。あ、全員だ。

まあいっか・・・・・・

じゃあとりあえず次回予告(大嘘)です。

第一話にして時空の穴へと消えた主人公キノコ改めキノコ改(嘘)。

彼はこの世界にもどってこられるのか?

次回、異世界に迷いこんだキノコ達の大冒険。

「あなたこそ伝説の勇者様。」

お楽しみにしてくれるとうれしいです。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・なんか大嘘予告の方が実際の展開よりも面白そうなんですけど(笑)。

瓢箪から駒ともいいますし、ここはひとつキノコ主人公で書いて見ませんか(爆)?