再び・時の流れに 
〜〜〜私が私であるために〜〜〜



第8話 温めの「冷たい不等式」……私は不死身よ!



 ナデシコが火星で消えて、8ヶ月が過ぎました。
 その間僕とラピスは、テンカワさんに頼まれたとある「プロジェクト」を少しずつ進行させていきました。
 現在、完成度、80%。ナデシコが帰ってくるのとどっちが速いか、というところまでこぎ着けました。

 「ハーリー君、調子どう? もうかってまっか?」

 「ん、順調」

 「ちがう! ぼちぼちでんなあ、でしょ!」

 「ごめんごめん、ま、ぼちぼちでんなあ」

 「よしっ!」



 こんにちはみなさん。僕はマキビ ハリ。通称ハーリーです。







 ラピスはちょっと変わった娘です。僕と同じように未来から逆行してきたと言っても、僕とラピスとの間にはほとんど接触がありませんでした。というか、ラピスと接触していたのはほぼテンカワさんだけです。
 そしてテンカワさんが言うには、彼女はまともに人とつきあったことが全然ないそうです。
 そのため、とっても情緒に乏しい、ということでした。
 そして僕の敬愛する艦長によれば、

 「昔の私をもっと無機質にしたような感じてす」

 ということなのですが、残念ながら僕はその『昔の艦長』を知りません。
 ナデシコAに乗って、だいぶ変わられたそうですけど……。
 艦長に協力を要請され、おそるおそる会ってみた(ネット上で、です)彼女は……
 本当に無機質、でした。
 凄くかわいらしい顔立ちなのに、目が完全に死んでいました。
 僕がいくら話しかけても、事務的なこと以外、いっさい話しません。
 やがてやってきた思兼級コンピューター……『ダッシュ』も、最初、とっても無機質な性格でした。
 情緒教育にいいという、童話やアニメなどを見せても、なんの反応もありませんでした。見てはいたみたいなんですけど、社会的な基盤のないラピスにはよく分からなかったみたいです。
 僕は普通の人間が、無意識のうちに、いかに大量の情報を保持しているかを、改めて思い知りました。
 彼女の知識は、あまりにも偏りすぎているのです。いや、知識はあってもそれが体験と結びついていないんです。
 そんな彼女に感情の扉を開いたのは、偶然見つけたジョークソフトでした。



 <寂しい夜を慰めるお笑いソフト、漫才相方プログラム、『電魔亭ウィズ君』>

 それはAIを応用したジョークソフトでした。自分の『号』を登録して、オープニングワードを打ち込むと、人工無能のようにいろいろとしゃべってくれます。僕がそれに対してボケたりツッコミを入れたりすると、それに合わせてソフトが反応し、次々と話題を連鎖させていくという、ゲームとジョークの中間みたいなものです。
 初めてだったせいで運良くフィルターをすり抜けた、同人ソフト傑作紹介のDMメールにリンク先が載っていました。
 ところが2、3回やってみて、僕はこのプログラムが見た目以上に高度なことに気がつきました。ボケやツッコミの判断がとてつもなく鋭い上に、きちんと『笑い』が取れる反応を返し、またこちらの言葉を適切に判断します。いい加減な言葉を入れると『何ゆうとるんじゃ〜っ!』とおもいっきりど突かれます。まあ、映像上でですけど。
 ちょっと興味を持ってプログラムを解析してみて、僕はびっくりしました。
 中枢AIは、複雑すぎて僕にも解析不能。物凄い技量です。そしてネット上のあらゆる言葉をリアルタイムで高速検索・解析し、漫才のネタに変換するシステム……。

 僕は自尊心が砕け散るのを感じました。

 素直に感服し、作者のHRN(ふらん)さんにメールを出して、どうしたらこんな凄いプログラムが可能なのか聞いてみました。
 返ってきた答えは、予想外のものでした。あのプログラムは直接彼がが組んだものではなく、ある人が作った白紙のAIを、10年以上に渡って『成長』させたものを核としているというのです。そのためHRNさんにとっても、AIの中身は完全にブラックボックスだと言うことでした。
 そして僕はふと悪戯を思いつきました。ラピスとダッシュにプレゼントといって、このプログラムのインターフェンスをダッシュに接続しました。
 それが『奇跡』の始まりとなったのです。



 ダッシュはAIだから、基本的に僕たちの何万倍もの速さでデータをやりとり出来ます。その過程でダッシュは、ネット上から急速に莫大な知識を吸収し始めました。そしてコンタクト二日後には、僕が見てもかなり笑える作品を作り出し始めたのです。
 そんな僕を、ラピスは不思議そうに眺めていました。

 「ハリ、どうしたの」

 「いや、おかしくって笑い転げているだけだけど」」

 「おかしい……笑い転げる……それ、どういう感情? アキトはそう言う感情を見せたことがなかった」

 黒の王子と化したテンカワさん……彼は心の底から笑うことは、二度となかったのかもしれません。たまに浮かべる笑いは、冷え切った、『嗤い』。決して、『笑い』ではなかったのでしょう。
 それ故、ラピスも『笑う』と言うことを知らなかったのです。

 「今ダッシュがアクセスしているプログラムは、人々に『笑い』を提供するプログラムだよ。ラピスも見てみたら?」

 ダッシュもいくつかの、『自信作』を披露しました。僕はあまりの傑作ぶりに文字通り転げ回って笑いましたけど、ラピスは全然笑いません。そして笑わない彼女が、ダッシュにさらなる『進化』をもたらしました。
 ダッシュはラピスを笑わせようと、猛然と思考を開始したのです。その過程で、ダッシュの内部に『感情』を理解する心が生じ始めました。
 そしてもう一つ、ラピスが笑わない理由を『分析』する能力が。
 そしてダッシュは、相方と共に、ついにラピスを笑わせることに成功しました。
 僕が見ても理解出来ない、高等数学を使った漫才で。
 そして笑うことを覚えたラピスの感情は、急速に華開き始めました。



 初めて笑ったラピスの顔は、物凄くかわいく、すてきでした。
 ホシノ艦長命! の僕が思わず転びそうになったくらい。
 感情の方も、どんどん実感出来るようになり、それまでデータ上の概念でしかなかった実社会のことが、急速に認識され始めたようでした。
 『WATER』という文字の並びが『水』であることを理解したヘレン・ケラーのように、彼女の心の目が一気に開かれたんです。
 そして過去のテンカワさんの行動が、『喜怒哀楽』に満ちあふれたものであることも理解し始めました。
 またこのころから、いろいろな物語や、昔プレゼントしたアニメなども見るようにもなりました。面白さが理解出来るようになったらしいです。
 ……どこで発掘してきたのか、ゲキガンガーより熱いロボット格闘アニメにハマったのはご愛敬でしたが。
 今では僕などお呼びもつかないマニアです。たまにウィズ君と漫才をしているのを聞くと、物凄い量のオタク言葉が飛び交っていますし。



 「流派、電脳不敗は!」

 『ネットの風よ!』

 「全○!」

 『○列!』

 「天○!」

 『○乱!』

 「『見よ! 電網は
赤く燃えている! はーっはっはっはっ!』」

 『って、あねさん! 赤いのは警報鳴ってるからでんがな!』

 「きゃーっ、ばれたーっ!」



 ……念のために言っておきますが、これ、明人目(あきとめ)亭ラピスと電魔亭ウィズ君の漫才のログ(一部)です。『アニパロハッキング漫才』だそうで……。こんな風にしてプロジェクトを進行させてた訳じゃありませんよ?

 ……少なくとも僕は。







 ピッ……カタカタ……ピッ、ピポッ……



 「だけどあいつの動きが控えめで助かったよね」

 「稀代の大ハッカー、電子の魔術師、ハンドルネーム『ウィザード』か……でも分かったのって、これだけなんだよね」



 あいつって言うのは、僕たちがネット上であるプロジェクトを進行中、僕たちと同じような事をしていた人。僕とラピス、ダッシュが三人がかりで追跡したのにもかかわらず痕跡を掴ませてくれなかった凄腕のハッカー。
 何とかつかめたのが、この通称。何でも10年ちかくも前からその筋では有名なハッカーだという。但し、ハッカー行為はしても、二次犯罪はあまりしない人らしい。ハッキングした情報を転売したりとか、システムを破壊したりとかはしないらしいのだ。愉快犯、というそうですけど。
 これを教えてくれたのは、例のウィズ君の作者、HRNさんでした。彼もこの世界が長いだけあって、僕たちも知らない、裏の情報も知っていました。僕たちが掴んだ「ウィザード」の名前を聞いて回っていた時のことです。
 ちなみに電魔亭ウィズ君のAIコアを作ったのも彼なのだそうです。だからこんな名前なんだとか。

 そんな彼の名を伝説にしたのは、7年前大流行し、当時最強といわれた大笑いワームウィルス。その名も『キャッスルビルダー』。
 さすがに生まれる前の話は知りませんでした。
 このウィルス、感染するとシステムを乗っ取り、アニメ顔の王様が現れてシステムを自分の領地にしたことを宣言するんだそうです。そしてその証として、鉄壁の城をシステム内に『建築』しはじめます。その過程を具体的にいうと、領地に害を与える侵略者を排除し、二度と不届きな侵入者が領内に入り込まないように守りを固め、城壁の水漏れを補修し、出城を新築、さらに外郭を築いて門番を雇う。この過程は、見事なアニメで表現されていて、このアニメの出来がまたすばらしいとか。こうして完璧な城ができあがると、王様は最後に新たな領地を開拓する軍隊を送り出し、それが終わると画面上でこちらに向かって、「ふう、これで枕を高くして寝られるわい。宰相、後の実務はお前が仕切れ」といって、王様は寝てしまうのだそうです。
 そして城に守られたシステムには、いかなる侵略者も歯が立ちません。攻撃を仕掛けられると寝ていた王様が出陣し、敵を粉砕してしまうのです。

 そう、実はこのウィルス、ネットを通じて感染するウィルス除去・防止プログラムなのです。あらゆるセキュリティーホールを突き、またウィルス監視ソフトのプロテクトをことごとくすり抜けておきながら、やっていることは自分の侵入してきたものをはじめとするすべての穴をふさぎ、システムを防衛すること。おまけに解析されたアンチウィルスプログラムには『版権フリー』のマークと、『電子の魔術師・ウィザード』の署名がついていたそうです。
 今市販されているプロテクトソフトは、すべてこのプログラムを改良したものだと言うから、その能力の高さは推して知るべきでしょう。
 ちなみにこのことは一般には秘匿されていました。そのせいで彼の名前は裏の世界にのみ伝わっていったのです。
 さすがに作者が凄腕のハッカーだというのは問題だったということでしょうか。

 ……で、その凄腕のひとは、違うターゲットにたまたま僕たちと同じ事をしていたんだけど、僕たちがナデシコの消失を機にリキを入れたのに対して、攻略を手控え、現状維持に専念し始めたみたいでした。
 おかげでかなり自由に動けたんですけどね。



 「じゃ、今日はここまでにして寝よう。お休み、ラピス」

 「お休み、ハーリー君……アキト、早く会いたいよう……」

 聞こえてしまったラピスの言葉に、何故か僕の胸が痛みました。

 僕も早く会いたいです、艦長、いや、ルリさん……。







 今回も目が覚めれば……

 戦闘の真っ只中だった。

 ……逆に言えば、無事前回と同じ、ということだ。



 「おはようございます、アキトさん」

 コミュニケのウィンドウが開き、ルリちゃんの挨拶が聞こえる。

 「……ああ、おはよう、ルリちゃん」

 頭を振って眠気を振り払うと同時に、あたりを見回す。

 ……前回と一緒だな。展望室に飛んでいる。

 違うのは……3人じゃなくって4人だという事だ。

 俺とユリカ、そしてイネスさんが並んで寝転がり、少し離れたところにハルナがいる。
 ハルナの全身には、ジャンプ特有のあの光が浮き上がっていた。それも俺の目の前で消える。

 ……そのとき俺は、少し変なことに気がついた。

 ハルナの周りの草が、結構広い範囲で外へ広がるようになぎ倒されている。

 ……ミステリー・サークル?

 そんな馬鹿なことが頭に浮かんでしまった。
 気にはなったが、今はそれを気にしている暇がない。
 早くユリカ達を起こさないと。

 「おい、ユリカ、起きろ!」

 かなり激しくユリカの身体を揺さぶる。

 「う〜〜〜ん、アキト〜〜〜〜」

 「お、起きたか」

 ……ごろん。

 そのまま反対を向いてしまった。

 ……

 寝言か?

 って、あきれてる場合じゃない。周りは戦争してるんだ。お前がいないと攻撃出来ないぞ。

 ……ルリちゃんが起きてるから、防御は大丈夫だろうが。

 「おい、起きろ!」

 肩のあたりを掴み、激しく揺さぶる。

 「あっ、アキト……だめよ、あたし達、まだ……でも、アキトとなら……」

 ……どういう夢を見てるんだ? それよりホントに寝言か?

 取りあえずおきそうにないユリカをその場に寝かせる。

 「どうしますか?」

 ルリちゃんがあきれたような顔で言う。ここだけの話、ユリカの寝起きの悪さは2人とも先刻承知だ。

 「うーん……」

 そんなことをしているうちに、ハルナが目を覚ました。

 「おはよ……って、ここ、どこ?」

 「そこはナデシコの展望室です。現在本艦は木星蜥蜴と連合軍の戦闘宙域のまっただ中にいます」

 「ふーん、攻撃しなくていいの? ヤバくない?」

 寝起き特有のとろんとした目で聞くハルナ。

 「一応防御はしていますが、建前として艦長の命令なしに攻撃は出来ません。連合軍もいますので」

 確か前回は、ユリカが早まった命令を出したせいで連合軍にえらい被害が出たし。

 「でも艦長寝てるよ〜」

 「そう言う時は副長が代行しますが、ジュンさんも目を覚ましていません」

 よどみなく説明するルリちゃん。そのとき船が大きく揺れた。

 「あ、なんかヤバそ〜」

 相変わらずとろんとしたままのハルナ。
 前回はこの時点で敵をぶっ飛ばしていたからな。
 早いところユリカを起こさないと。

 「ま、緊急事態だよね〜」

 俺の後ろでハルナがそう言った。
 そのとたん、何かとてつもなく嫌な予感がした。

 「ちょっと待てハルナ!」

 「やめさせて、思兼!」

 振り返るとハルナの全身がまたナノマシンの輝きを放っている。

 「やっちゃえ〜」

 寝ぼけ声で悪魔の宣告をするハルナ。だがその輝きは急速に薄れていった。
 助かった、燃料切れか。
 ほっとする俺に、たんたんとしたルリちゃんの声が聞こえてきた。

 「かえってまずいです。ハルナさんの強制連結とその唐突な終了により、ナデシコの火器管制プログラムに異常発生。緊急防衛プログラム誤動作。制止プログラム、入力不可」

 「それって……」

 「歴史は繰り返す、ってことです。今回は事故だってごまかせそうですけど」

 そのときやっと、ユリカの目が開き始めた。



 ユリカの目が覚め、ブリッジの機能が復旧すると、ようやっと事態が見えてきた。
 やはり前回同様、連合軍の戦艦を巻き込んでしまったらしい。
 幸い、無理がたたって火器管制システムが故障したという言い分は、何とか通ったみたいで、ユリカが個人的に責められることはなかった。
 けどそれでもさんざん文句を言ったあと、彼らは撤退してしまった。

 ……おいおい、まだ敵はいるんだぞ?

 ちなみに俺は今リョーコちゃん達と一緒にエステのコックピットで待機しているところである。
 敵の第2波が迫っているのだ。

 「お兄ちゃん」

 そこにハルナから通信が入った。

 「お兄ちゃんのエステ、前回の戦いでほぼ全損してるから、ほとんど新品同様だよ。でも逆に言えば、各パーツが馴染んでいないから、とり回しには気を付けてね」

 「修理用のパーツから組み直したからな。この間みたいな無茶するとまた同じ事になるぞ」

 ウリバタケさんにも注意されてしまった。

 「はいはい。気を付けるよ」

 俺は取りあえずそう答えた。ただ、実戦じゃ何があるか分からんしなあ……

 「よ、テンカワ。新車か?」

 おっと、リョーコちゃんだ。

 「ああ、気を付けて運転しろってウリバタケさんに言われてしまった」

 「ま、無理だろうけどな」

 「そゆことそゆこと。ところでさ、お前や艦長やハルナちゃん、なんで展望台にいたの?」

 俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。前回のこの話は、ユリカから始まって、リョーコちゃんが助けてくれたはずだ。それをリョーコちゃんが口火を切った?
 じゃあ助けてくれるのはユリカか?……助けになってないような気が……

 「私も興〜味あるな〜」

 ひ、ヒカルちゃん……

 「乱打戦になった野球の試合……点、膨大……くくくくく」

 げっ、イズミさんまで。

 「私も聞きたいです。戦闘中に何やってたんですか? 説明してください」

 メグミちゃんも……そりゃ出来ないことはないが、一応それはまだ秘密なんだよ……。 そうだ、説明といえば!

 「俺に説明しろって言われても……こう言うのはイネスさんの方が」

 イネスさんを呼んでみるが、返事がない。やがて開いたウィンドウには……

 『睡眠中』

 と書かれていた。
 となると後は……。



 「火星、生まれ?」



 いきなりそんな言葉が飛び込んできて、俺の意識が瞬時に戦闘用に切り替わってしまった。

 「どういう事? ハルナ」

 おかげでメグミちゃんたちの注意はそれてくれたが。

 「ん、ほら、展望室にいたのって、アタシと、お兄ちゃんと、お姉ちゃんと、イネスさんでしょ? あたしも何でかなーって思って、共通点を考えてみたんだけど、これくらいしか思いつかなかったのよね」

 「そー言えばそーだな」

 お、リョーコちゃんが食いついてくれた。

 「おいテンカワ、火星生まれの人間にはそんな決まりでもあんのか?」

 「あるわけあるかっ!」

 あ、いい意味で気が抜けた。ふーっ、ヤバいヤバい。

 「火星生まれね……何かあるのかしら。実は火星で生まれた人間は、もはや人間ではないのだ! 火星の持つ古き魔力に取り込まれ、人間と異なる種族に変貌していたことに、当人達を含め、誰も気がついていなかったのだ〜っ! なんてね。今度こんな設定で描いてみるのもいいかも。ああっ、悲恋と萌えの香りがっ」

 それ、大当たりだよ……漫画家の想像力、侮り難し!

 『敵、第二陣来ます』

 ちょうどそのとき、敵が来た。
 ふうっ、どうやらこれで不毛な会話ともおさらば出来る……。
 助かった……



 敵はかなりの大群だった。

 「リョーコ、作戦は?」

 「この数だぜ? 各自戦況に応じて応戦だ!!」

 ま、そうなるか。

 「「「「了解!」」」」

 俺をはじめとした全員の声が、綺麗に揃った。

 「ううっ、考えてみれば、これって戦隊もののシチュエーション!」

 あ、ヒカルちゃんが変な方向に行っている。

 「リョーコレッド、イズミブルー、ヒカルイエロー、アキトブラック、ガイピンク。いまいち役柄と色が合ってない人がいるけど、無視無視。タイトルはナデシコ5で決まりね! でも何戦隊がいいかな〜。ネルガル戦隊ってわけにも行かないだろうし」

 「ヒカル! うるせいぞ。妄想なら後にしろ!」

 「もーそーがぼーそー……ついでにモーホー……くくく」

 さすがにリョーコちゃんも怒ったか。けどイズミさん、今何気に怖いこと言ってなかったか?

 「それより、敵が来るぞ!」

 なんで俺がこんな事まで……



 「いやーん、フィールドが強化されてる〜っ」

 今までなら7台は屠れたはずの敵が、3台しか落ちていない。ヒカルちゃんがあわてるのも当然だろう。

 「進化する兵器、ってわけね……」

 イズミさんもシリアスモードに切り替わっている。

 「それなら拳で勝負だっ!」

 「おう、男なら拳で勝負だっ!」

 「あたしは女だっ!」

 掛け合い漫才じゃないんだが。
 それはともかくとして、さすがに少々苦戦していた。俺にしたってフレームのバランスが今ひとつで、思ったほど狙ったところに弾が飛んでいかない。何となくがたついているというか、同じところを狙っても同じところに弾が飛ばないのだ。
 弘法筆を選ばずって、ありゃ嘘だな。
 それでも俺は、敵に囲まれつつも、何とかしのいでいた。俺以外が今の俺の機体に乗ったら、まず落ちてるぞ?
 と、俺の目の前の敵がいきなり吹き飛んだ。

 ……来たか、アカツキ。



 「君達、下がりたまえ!! ここは危険だ!!」

 「誰だテメーは!」

 リョーコちゃんが怒鳴る……と、周辺を幾筋もの黒い光が通り過ぎていった。

 爆発する木星蜥蜴達!

 「敵、二割方消滅」

 ルリちゃんの冷静な声が入る。

 「何だと!」

 「第二波、来ます」

 リョーコちゃんが驚いている暇もなく、再び炸裂した黒い帯がバッタ達を片っ端からなぎ倒していった。

 「すげぇ……」

 「多連装の、グラビティブラスト……」

 「それって、まさか……」

 やがて俺たちの前に、ナデシコによく似た、しかし明らかに巨大な戦艦が現れた。



 そして、木星蜥蜴は、巨大戦艦……コスモスの活躍により壊滅した。



 「やあ、はじめましてナデシコの皆さん。俺はアカツキ ナガレ、コスモスから来た男さ」

 ナデシコの格納庫内。アカツキは前回と同じ台詞と共に登場した。

 ヒカルちゃんの目が輝いている。

 「かっこいい系か〜。行動隊長ビッグワン?」

 「僕はアカツキだ。かっこいいのは認めるが、ミヤウチでもバンバでもない」

 何なんだ、一体。それよりアカツキ、お前ヒカルちゃんの言っていること理解出来てるのか? きちんと返せるなんて。



 そして同じ頃、ユリカ達はネルガルの役員と話をしていた。

 「では、良い返事を期待するよ」

 「はあ、取り敢えずクルーの皆と相談します」

 ……まあ、この辺は一緒か。



 その後ブリッジで、主なメンバーを集めて説明が行われた。
 イネスさんが熱弁を振るっている。

 「つまり、チューリップはただのゲート、というか瞬間移動の装置ではない、ということです」

 ただ、みんなの思いは別のことに向いていた。

 8ヶ月。

 こちらがチューリップに飛び込んだ一瞬のうちに、それだけの時間が経過していた。

 その間に軍とネルガルは和解し、二番艦であるコスモスの活躍もあって月面を奪回。
 ネルガルは軍と共同戦線を張ることとなり……

 「ナデシコは地球連合海軍 極東方面に編入されます」

 はっきりいって嫌そうに、ユリカは言った。



 さて、どうするか……って、俺にはあまり選択の余地がないが。
 自室でそんなことを考えていたら、入り口からガイの大きな声がした。

 「アキト!! この秘蔵のテープを一緒に見ようぜ!!」

 ……ちょっと声がでかすぎるぞ。

 ま、それも悪くないか、と思った時、別の笑い声が表から聞こえてきた。

 「くくくくく……面白いね君達は」

 「なんだお前は!! ……ん、新しいパイロットじゃね〜か」

 何しに来たんだ? アカツキ。

 「何、君達はナデシコが軍に編入される事について、どう思ってるのか聞きたくてね」

 何だ、そう言うことか。
 はっきり言って軍は嫌いだ。
 大局的に見て必要なのは分かる。
 だが実際は……矛盾の固まりだ。

 「俺は、どちらかと言えば、コックの方が向いてるとおもってますけど」

 あんな所にいたら、いつか切れる。

 「……テンカワ君、君がその台詞を言うのは他のパイロットに対して失礼だよ。君は現在間違い無く、連合宇宙軍を含む中でのエステバリスライダーのエースだ。そんな君が軍隊を否定するのかい?」

 ……分かってないな、アカツキ。俺が軍を嫌いなことと、俺の腕前には、何の関連もないって事が。
 それは武術の得意な者は常に敵と戦わねばならないと言っているのと同じだぞ。

 「……」

 俺がそう答えようとした時だった。

 「むっ、これは……あのシーンか! 天空ケンと海燕ジョーの、友情を深めあう、あの名シーンの! そう言えばお前ロン毛だし、腕も立ったな……ふっ、アキト、今日から俺は大地アキラでいい。ロン毛、海燕ジョーの座は、潔くお前に譲ろう」

 「お、おい、君……」

 「さあ、そう言うわけだ。パイロットが3人揃った事だし、みんなでゲキガンガーを見ようぜ!」

 「だから、僕は……」



 ……結局迎撃戦のために呼び出されるまで、俺たち3人はゲキガンガーを鑑賞する羽目になった。

 一時期は否定したが、やっぱり面白いものは面白い。陳腐なパターンであっても、人間がそれを面白いって思う気持ちは、変わらないのかもしれない。



 けどアカツキ、災難だったな。



 「フォーメーションは!」

 「鳳仙花だ!」

 その名の通り、四方に弾けるように俺たちは散開していく。

 「さてテンカワ君、無敵のエースの腕前、見せてもらおうか」

 アカツキが手近な無人機を落としながら言う。

 「どうぞ、ご自由に」

 オレはそう言いつつ、ライフルを三連射する。
 その弾丸は複雑に移動する奴に対して、ピンポイントで命中した。
 もちろん、一発当たるごとに敵は移動している。
 まあ、俺には簡単なことだ。
 ひゅう、と、口笛の音が、アカツキのウィンドウから流れた。

 「やるねぇ、さすがに」

 しかし俺はそれには答えず、単身敵中に突っ込むと、当たるを幸いという感じで敵をなぎ倒していった。
 軍という言葉が、俺の何かを引きずり出していたみたいだった。
 そのため、あれが起きた。



 「テンカワの奴、飛ばしてるな」

 「ホント、あっちの方、彼一人でどうにかなっちゃいそう」

 「よく弾が持つな」

 「アカツキさんはここでは新参だから分からないでしょうけど、彼、無駄玉を撃たない上に、銃自体をほとんど使わないのよ。滅多に弾切れになんかならないんだから」

 「ほうほう、それは凄い。あの激戦の中、ちゃんと自分の銃の残量を把握しているのか」

 「大した奴だぜ、全く」



 そんな声が聞こえてくる中、俺は黙々と戦っていた。一機のバッタが体当たりを掛けてくる。
 弾切れか。だがそんなもんでは当たりはしない。俺が回避しようとした時、エステが自分のイメージ通りに動くことを拒否した。

 「なにっ!」

 あわてて自己診断ウィンドウを展開する。まずい、左肩のスラスターが焼き付いている!

 慣らしも終わっていない状態で使いすぎたか!

 だが俺が何かするより早く、俺とバッタは激突し、もみ合うように戦場の外へとすっ飛んでいった。







 「テンカワ機、月の裏側へ向かっています……反応、ロストしました」

 あたしの声がブリッジに響き渡ります。
 腕前は格段に上がっているのに、また……
 こう言うのが、歴史の強制力なんでしょうか。
 でも、前回と同じ展開は、イヤです。

 「なんだとっ!」

 「すぐ探しに」

 「親友の危機だと!」

 あちこちにウィンドウが立ち上がります。それはそうですけど……。

 「待ちたまえ」

 一人冷静なのは、やはりアカツキさんでした。

 「探しに行くのはいいが、彼がロストしたのはエステのエネルギーライン外だぞ。今の君たちみたいに冷静さを欠いた状態では、二重遭難のおそれがある」

 その通りです。それにアキトさんなら、前と同じようにエステの手足を切り離した反動を利用して、自力で帰還するはずです。

 一人なら、酸素が持つんですから。

 「それにまだ敵の攻撃は完全に終わっていない。今ここでナデシコやコスモスを丸裸にするわけにも行かん」

 「ナデシコも、コスモスから出るのは難しいです」

 あたしも、そう補足しました。

 「あたしのせいだ……」

 そのとき、一つのウィンドウが立ち上がりました。
 整備服姿の、ハルナさんです。

 「原因、左肩のスラスターだったよね。あそこ担当したの、あたしだ……」

 その一瞬、何人かの視線が彼女のウィンドウに集まります。
 だけど次に飛び出したのは……

 「馬鹿野郎!」

 怒鳴り声と共に、ハルナさんを殴り飛ばしたウリバタケさんでした。
 女の子に顔面グー……珍しいですね。ああ見えてもウリバタケさんはフェミニストです。女の子に触ることはあっても傷つけるようなことは決してしない人なんですけど。

 「こらウリバタケ! 女の子殴る奴があるか!」

 「ウリピー、酷い!」

 「ナックルでなっぐる、くくくく」

 ……イズミさんは置いとくとして。

 「こらっ! ウリバタケさん、何するんですか!」

 あ、ユリカさん、珍しく目がマジです。
 さすがに怒りましたか。

 「女の子を殴るような人は、お尻ペンペンです」

 ……やっぱりユリカさんです。

 けど……

 「やかましいっ!」

 返ってきたのは、あまりにも怖い目をした、ウリバタケさんの顔でした。
 ユリカさんはおろか、リョーコさんまで息を呑むくらいの。
 そのままハルナさんの首根っこを掴み上げます。2人分のウィンドウが結合して、なかなか凄惨な絵が浮かんでいます。

 「おい、ハルナ

 声もいつもより低く、ドスが利いています。

 「お前の整備は完璧だった……俺もこの目で最終点検をしている。それでも、起こる時は起こるんだ。そればっかりは仕方ねえ。整備士に原因があることも、そうじゃないこともある。だがな」

 そこでウリバタケさんは大きく息を吸い込みました。

 「整備士が自分からミスを認めるんじゃねえっ!」

 そしてもう一発。今度は張り手でした。そのままハルナさんは床に崩れ落ちます。

 「何ですか、ウリバタケさん、その言い方は! 横暴です!」

 あ……今度は『本気』です。ユリカさんは、トロそうに見えるのと性格のせいもあって、普段は怒ってもあんまり迫力がありません。子供が拗ねてるような感じになってしまいます。ですけど本当に怒ると……目が凄く怖くなります。とてつもない迫力が、静かな瞳に宿るんです……どんな『馬鹿』にでも分かるくらい。表情からもいつものぽややんとしたところが完全に抜け落ち、きりりと引き締まった大人の女性の顔になります。

 今の艦長を見て、『なんだあの女は。あれが艦長か?』という人は、誰もいないでしょう。
 それくらい艦長服が似合っています。隣でジュンさんが目をぱちくりさせるくらい。

 「あー、ウリバタケさん。失敗の隠匿は業務上大変重い罪になりますが」

 プロスさんの声も、いつもより厳しいです。
 しかしウリバタケさんは平然としたまま言いました。

 「何勘違いしてんだおめぇら。失敗を隠すのは最低の整備士のするこった。イヤ、失敗した時点で整備士失格だな。失敗を『失敗』のまま放置するような奴は整備士とは言えねえ。仕上がるまで仕事を続けるのが、整備士の仕事だろうが」

 思わずユリカさんもうなずいています。顔も元に戻ってしまいました。

 「そりゃ気づかねえうちにドジ踏んでてパイロットに迷惑掛けることはある。だがな、それは後の話だ。指摘された時点で認めることだ。だがな、こいつは今」

 ハルナさんの方を冷徹な目で見つめます。

 「パイロットに文句言われる前にてめぇの仕事が半端だとぬかしやがった! いい加減にしろ! てめぇも整備士の端くれなら、常に『俺の仕事は完璧だ』と答えろ! 答えられねえ様な仕事はするな! パイロットに出来を聞かれて、『まあまあかな』なんて答える奴が整備した機体に、パイロットが命を預けると思ってんのか!」

 私を含めたみんなが、ウリバタケさんに注目してしまいました。ユリカさんも、リョーコさんも、プロスさんも。そして、ハルナさんも。
 みんなの瞳にはもう、怒りの色はありませんでした。
 そこにあるのは、己の仕事に絶対の誇りを持つ人に対する、尊敬の目でした。

 「ま、整備に限らず、プロの仕事には100%しかねえ。それ以外は0だ。それが、プロってもんなんだよ……分かったらさっさと仕事に戻れ! リョーコ達が帰還してくるぞ!」

 「はい……でも、班長、私、お兄ちゃんを探しに行きたい!」

 「気持ちは分かるがな……そりゃプロの仕事だ。餅は餅屋に任しとけ」

 「でも……」

 「うるせい! それ以上俺に聞くな! 助けに行きたきゃ艦長に頼め! それは俺の職分じゃねえ」

 そこまで言った後、ウリバタケさんのウィンドウは消えました。



 しばしの沈黙の後、ユリカさんが口を開きました。

 「戦況は、どうなりました?」

 「一応、ほぼ大人しくなった。素人が飛んだって、大丈夫なくらいには、ね」

 さすがアカツキさん、ユリカさんの言いたいことくらいお見通しですか。

 そしてユリカさんは、思っていた通りのことを言いました。

 「これより行方不明のアキトを探しに行きますが……現在ナデシコは、コスモスに係留中のため動けません。また、同様の理由のため、パイロットの方を出すわけにも生きません。そこで手の空いている操縦能力のある方……ハルナさんにアキトを迎えに行っていただきます」

 もちろん、全部建前です。リョーコさんあたりが行った方が遙かに確実です。

 でも、それを言うのは、野暮って奴でしょう。

 「はいっ、了解しました」

 そしてハルナさんは、ノーマル戦闘機で飛び出していきました。

 ……ちゃんと操縦出来るんですね。まあ、あれだけ見事にエステを操縦出来るんですから、当たり前ですか。







 ガコン……。
 両足を切り離した音が、コックピット内に響く。

 「やれやれ、またか……」

 エネルギーのほとんどを生命維持装置に回しているため、暗いコックピットの中で、俺は呟いた。

 「まあ、最悪の時はこれを使えばいいんだが……」

 肌身離さず持っているジャンプフィールド発生装置を眺める。

 「後の言い訳が大変だからな」

 それに今のところ誰も来ていないから、酸素は十分に持つ。

 「けど、誰が来るかな……」

 歴史通りか、それとも……
 それはすぐに分かった。

 「迎えにきたよー、お兄ちゃん」

 ノーマル戦闘機は無傷だった。どうやら今回は、バッタ達に襲われなかったらしい。

 「済まんな、心配掛けて」

 「ううん、あたしこそ……って、そう言っちゃいけないんだった」

 「?」

 「取りあえずこっちに乗って」

 俺は戦闘機に乗り移った。操縦を代わる。

 「お兄ちゃんを無事収容。これより帰還します」

 ハルナが報告すると、無数のウィンドウが立ち上がった。

 「アキト、早く帰ってきてね!」

 「おう、心配かけんじゃねえ」

 「リョーコ、顔が赤いよ」

 「ウルせぇヒカル!」

 ……いやはや、騒がしいな。

 「それだけ好かれてる、ってことだよ」

 ハルナにそう言われ、俺は何故か少し赤くなった。
 だが、そのとき、それは来た。
 迫り来る、殺気!

 「いかん!」

 エステバリスなら、大丈夫だっただろう。だがこれは、ノーマル戦闘機だ!
 一発いいのをもらう。
 その一発で、エンジンを撃ち抜かれた。
 返す刀で機銃をたたき込み、襲ってきた奴は落としたものの、帰還は絶望的だ。

 ……切り札を使うか? 幸いハルナはA級ジャンパーだ。俺と一緒に跳ぶことが出来る。
 だがそうすると、俺は否応なくハルナを俺たちの戦いに巻き込むことになる。

 どうする?

 そのとき、ハルナから絶望的な声が流れてきた。

 「敵、第3波。小規模だけどね……ナデシコは助けに来られないよ。負ける心配はないけど、あたし達、生きて帰れるかな……」

 そう言っている間にも、バッタ達の姿が見えた。
 やむをえん、取りあえずは生き延びることが先か。
 俺がそう決心した時、今度は一転して明るい声がした。

 「あ、近くに艦影。連合軍だね。戦艦一隻。こちらからナデシコ方面に移動中。連合仕様のエステバリスが出動……」

 ……よくわからんが、どうやら助かったらしい。
 結局俺たちは、その戦艦に救助された。
 そして、そこで俺は、意外な人物にあった。

 「あら、アンタ達だったの。これも何かの縁かしらね。ちょうどいいから一緒に行きましょう。ナデシコへ」

 「きゃーっ! タケちゃん、ひっさしぶりーっ! さっすがーっ!」

 ハルナは場所柄もわきまえずにムネタケにしがみついてはしゃいでいる。

 「こら、ひっつくんじゃないわよ、この小娘が」

 やれやれ……。
 あきれている俺は、ふと妙な違和感を覚えた。
 格納庫のクルーが、笑っている。だがその笑いに、卑しいところがない。
 これは笑われている人物が、ある程度慕われている時の反応だ。
 何があったんだ? ムネタケ。
 だが俺の思索は、ある人物によって中断された。

 「あなたがテンカワ アキト君?」

 懐かしい声だった。

 「初めまして。私はエリナ キンジョウ ウォン。ネルガルからの出向で、このたびナデシコに副操舵士として乗り込みます。よろしく」

 ……ちょっと順番が違ったが、来るんだな、2人とも。

 そして俺たちは、無事にナデシコに帰還した。







 先ほど、アキトさんが無事に救助されたという連絡が入りました。
 これでやっとブリッジも落ち着きます。
 さっきまでブリッジは天国と地獄が交互にやってくる阿鼻叫喚の世界でした。

 ……阿鼻叫喚って、どっちも地獄ですよね……

 それはともかく。

 ハルナさんが出ていった後、全員が何かに耐えるように黙り込み、

 発見の連絡で歓声が上がり、

 その直後に連絡が途絶え、一転して錯乱、

 そこに敵襲の報が入ったとたん、女性陣がバーサークしました。

 その戦闘中、合流予定だったという連合軍の船から、アキトさん救助の報が入って、

 今ブリッジは『お花畑』です。



 3。
 2。
 1。
 ガコン。



 「エアロック接続完了。連合軍戦艦『アネモネ』とつながりました」

 主立ったクルーは、今みんなブリッジにいます。
 連邦から提督が一人と、ネルガルから補充人員を一人送るとのことだそうです。

 ……私は誰が来るのか知っていますけど。

 そしてドアが開き、みんなには意外な……私には予想通りの人が現れました。

 「みなさん、お久しぶりね」

 「……アンタ誰?」

 ギャグではありません。真面目な話、そう思ってしまいました。
 そこにいたのはあのヒステリックに叫んでいたオカマのキノコだとは、とうてい思えませんでした。
 雰囲気に、ぐっと落ち着きが出ています。
 私たちを見る目にも、おちゃらけた所がありません。
 迫力すら、あります。

 「見違えた……という意味にとっていいかしら。ならうれしいんだけど」

 ギ……ギャグに返しを入れています。
 何なんですか、この落ち着きは、一体!

 「それはともかく、こうして再びナデシコに戻ることとなった、ムネタケサダアキよ。これからもよろしくね」

 ま……まともです。あの、キノコが、まともです……。
 なんかそのほうが衝撃があります。

 「で、あたしがエリナ キンジョウ ウォンです。ナデシコのみなさん、初めまして。これからは副操舵士として、ナデシコに乗らせてもらいます」

 こっちは相変わらずでした。

 「で、あたしよりあなた達に大事な人をお返しするわ」

 ……私、倒れていいですか? なんかさっきっから、ムネタケさんがまともな人に見えてるんですけど……はっ、いつの間にか『さん』付けをしています!
 おっと、そんな場合ではありません。アキトさんが戻って来るというのに。

 「こら〜、放せ〜、馬鹿兄貴〜っ!」

 ……ハルナさんの声ですね。喧嘩してるんですか? 珍しいですね。

 「取りあえずもうちょっと待て!」

 そしてドアが開いた時、逃げだそうとしているハルナさんを、アキトさんが押さえていました。
 せっかくのいいシーンが、完全にぶちこわしです。

 「アキト……? ハルナちゃん……?」

 さすがのユリカさんも呆けています。ほかのクルーは、言わずもがな。

 「あ、お姉ちゃん、お兄ちゃんったら非道いんだよ? あたしがタケちゃんと愛を語ろうとするのを、こうやって妨害するんだもん」

 ……意識が2.2秒ほど飛びました。

 「ちょっと目を離した隙に提督を物陰に引きずり込むような妹を野放しにはできん! 何する気だった!」

 ……さらに3秒ほど意識が飛びました。

 「は……はは……それっ……て……」

 さすがのユリカさんにもキツいようです。

 「もう、久々にあった好きな人と愛を交わしたいと思うことのどこがいけないのよ!」

 「ちょっとは相手の立場を考えろ!」

 ……結局ハルナさんが整備班に戻るまで、この口げんかは続きました。

 ひさびさに言わせてください。



 ……バカ。







 「まさか……貴方まで乗り込んでいるなんてね」

 「例の2人に興味があったんだよ」

 「それで、第一印象はどうなの?」

 「……正直言って底が知れない。だが、何か触れてはいけない物に触れた気分だ。どっちも、ね」

 「貴方がそこまで言うなんて……でも、ますます興味が湧くわね」

 「エリナ君……これは僕の勘なんだが、あの2人には関わらない方がいいかもしれない。兄はあれだし、妹の方も、何かが僕の勘に引っかかる」

 「嫌よ。この映像を見たらもう引き返せないわ」

 「ジャンプの瞬間、か」

 「そう、2人とも何が何でも協力してもらうわ。それに加えて彼女、あれなんでしょ」

 「ああ、間違いないね。究極のマシンチャイルド。遺跡原産のナノマシンを、ただ一人制御出来る人物。彼女になら、あれのコントロールも可能かもしれない」

 「……楽しみね、そのときが」



 「だが……彼が一瞬だけ見せたあの気配は。

 あの時は本当に殺される、と覚悟をした……。

 それと、彼女……。

 君はあの時、わざとウリバタケさんの怒りを誘わなかったかい?

 気のせいだとは思いたいんだけどね。

 2人とも一体何者なんだ?」



 次回 奇跡の作戦「奇襲か?」……ムネタケ、何がお前を変えた?……につづく。








 あとがき。

 お約束通り、つかみはオッケイなムネタケさんです。
 何気に本来のサイドストーリーも入ったりしています。
 ウリピーがかっこいい。

 そして、どうやら少しずつ、ハルナ・ダークサイドバージョンのイメージが作者の中で具体化してきました。
 ここからの3話は、あまり将来への伏線がない、書きやすい話ですので、煩悩を爆発させられそうです。
 まあDFSは出るでしょう。噂のシミュレーションにも挑戦か。
 俺式伏線もてんこ盛りになりそうですが。

 では、次回をお楽しみに。

 

 

 

代理人の感想

 

やっぱりバレてるか。

彼らが敵になることは多分ないと思いますが・・・・それはそれで面白いかな?

 

 

・・・・・で、やっぱりアニメにはまるわけね、彼女は(爆笑)。