再び・時の流れに
 〜〜〜私が私であるために〜〜〜

 第18話 水の音は『嵐』の音……そのとき、歴史は動いたのです……その12

 
 
 「あちらはお祭り騒ぎなのに、俺たち、何でこんなところに隠れてなきゃいけないんですかね」
 三郎太の不満は判らないでもないが、俺にしてみればこちらの方が気が楽だった。
 敵……軍人ならともかく、敵意ある一般人に囲まれるなんてのは冗談じゃない。三郎太のやつ、俺たちはあくまでも敵であること、忘れてないか?
 「無理を言うな。我々はあくまでも敵なんだぞ。何かと関わりのあった撫子の人達はあくまでも例外だということを忘れるな」
 ふっ、さすがに九十九はその辺の判断を間違えたりはしないか。俺は少し安堵した。
 あのミナトとか言う婦女子のせいで判断に曇りが生じたりしないか、少し不安ではあったのだがな。
 
 
 
 我々3人は、撫子たちが派手に戦って敵の目をほとんど引きつけた際、折を見て跳躍で地球軍の視界から脱出、ある程度距離を取ったところで意図的に機体を寝かせて森の中へと隠した。立ったままではさすがに目立ちすぎる。
 これでも上から見られたら丸わかりであるが、残念ながら我々には地球に対応した擬装用の覆いなど望むべくすべもない。
 それに地球の重力圏内では、ダイマジンの巨体も威圧や破壊工作には役立っても細かい敵を相手にするのにはとことん不向きなのがよく判った。思わぬ反動に動きを制限され、的確な回避運動が出来ない。あくまでも慣性のみが掛かる宇宙空間とは動かし方の質が違う。
 巨体から来る絶大な防御力がなかったら、味方の虫型兵器にたかられてやられるのはこちらだっただろう。兵器というものに求められるのは威力や防御力ではなく、目的を遂行するために必要な釣り合いであることがよく理解できた。この点では東司令を改めて見直さざるを得ない。ジンはあくまでも象徴的な兵器であり、決して無敵ではない。正しく運用すればこの間の戦いのようにまさに無敵に見える活躍をするが、敵対する相手を違えれば為す術もなく地に倒れ伏すことになる。今現在ならばたいていの地球式艦船とエステバリスといわれる小型人型兵器に対してはほぼ無敵であるが、そのエステバリスも特定の兵装を手にすればあっという間にこちらを落とす最大の敵となる。東司令の言に依れば、フィールドランサーと呼ばれる、歪曲場中和能力を持つ白兵戦用兵器を使われると、ジンも案外もろい敵となるらしい。もしこちらが前回の戦果に驕ってジンを大量配備したりすれば、相手は今度はああも易々とこちらを近づけさせず、痛手を被るのにはこちらになるだろう、とのことだった。
 (いずれにせよ、敵のエステバリスに対してもっとも効率的な兵器は、やはり同種の兵器となるでしょう。攻撃力か防御力において、何か絶対的な優越がない限り、基本的に特定の兵器に対してもっとも効率的なのは同種の兵器です。あの集束剣のようものがない限りは。幸い近々、我々にも運用できる小型人型兵器の試作が完成する予定です。完成の暁には、手の空いている優華部隊の方々に試験をお願いした後、改良型があなたたちにも渡されることになると思います)
 テンカワアキト……彼と今度は互角の戦いが出来るだろうか。
 「元一朗、糧食が暖まったぞ」
 九十九の声に思索を中断された俺は、空腹を満たすべく、そちらへ向かった。







>AKITO

 戦いが終わり、ナデシコに着艦した俺は、そのまま外に出られなくなっていた。出ればもちろん大歓迎されることは目に見えている。だが、そこに待っているのはハイエナも逃げ出す気魄をまとった全世界のマスコミだ。今回の活躍は、いわばナデシコの活躍が秘匿されることなく全世界に決定的な事実として曝されてしまったことを意味する。今やナデシコは愚連隊や厄介者の準非正規部隊ではない。連合軍最強の看板になってしまっている。内部的な事情はさておき、純粋に外部から見ればそうとしか思えないであろう。
 ましてや俺はこと西欧圏では『漆黒の戦神』などという二つ名で呼ばれている。今回のことでそれが全世界的な認識になったことは確実だ。
 「ごめんね、お兄ちゃん」
 妹は改めて俺に向かってそう言う。ナデシコがこちらに降り立ってからの第一声がそれだった。
 「ちぇっ、終わった後久々に地面に降りられると思ったのに、それなしかよ」
 「ごめんなさ〜い、リョーコさん。ヒカルさん達も。私もまさかここまでの騒ぎになるなんて……」
 艦長席ではリョーコちゃん達にユリカが詰め寄られている。まわりには整備班をはじめとするナデシコ内部からのウィンドウが無数に立ち上がってユリカの姿がここコンピューター席から見えないくらいだ。
 「しかし、本当に思いきったな、ハルナ。今度ばかりは、おまえも軍からの追求を逃れられるとは思わんぞ」
 「ある程度は提督達が何とかしてくれるとは思うけど……でも、ここで犠牲者を出すわけにはいかないじゃない」
 実際、俺も到着後繰り返し報道されるマスコミ映像を見て感じたのだが、遠距離からの望遠映像だったこともあり、一番注目されていたのはナデシコ本体の派手な活躍であった。活躍度からすればおそらく俺が一番だったはずであるが、なまじ距離があったため10mに満たないエステバリスやブローディアの姿は、ほとんどマスコミのカメラに写らなかったらしい。その分ナデシコのあのド派手な動きが注目されていたのだ。
 「それになんだアレは。おまえ、いつの間にナデシコにあんな技を仕込んだんだ?」
 「そうそう、私もびっくりしたよ〜」
 俺の質問に、無数のウィンドウに辟易していたユリカも便乗してくる。言葉にこそしていなかったが、ラピスやハーリー君、それにメグミちゃんやミナトさん、リョーコちゃん達まで、要は今ブリッジにいた全員がハルナに注目していた。
 「うーん、まあなんというか、元々はルリちゃんへの練習用だったんだけど」
 ハルナの答えはこれだった。
 「ナデシコに十分なエネルギーがあったときに可能となる、フィールドコントロールのシミュレーション。その中で割と実用的なやつがこの特別プログラムなんだよね。ドリルはお兄ちゃんの技のパクリだし、ショットガンは古い小説にあった武器の真似、ソードに至っては完全にネタだよ。一応ラムの改良型になるドリル以外は弱点も多いから頼りにしちゃだめだよ」
 「弱点?」
 ユリカが興味深そうに聞いてくる。まあ、将来これに一番深くつきあうことになるのは、艦長たるユリカだろうからな。
 「ショットガンは密着した数の多い弱敵、つまりバッタたちをああいう風に吹き飛ばすにはもってこいなんだけど、実は発動の瞬間、グラビティブラストや実弾型の攻撃に対してほとんど防御力がなくなっちゃうんだよね。特にグラビティブラストはほとんど素通しになっちゃう。レーザーは空間が擾乱されるせいであらぬ方向に飛んでくから大丈夫だけど。だから今回みたいな状況ならともかく、同時に大型の戦艦やジンシリーズが出てきていたら、発動の瞬間を狙い撃たれてお陀仏になっちゃうの。気をつけてね」
 「う、うん」
 思わぬことを告げられて、思わずつばを飲み込むユリカ。まあ俺も同感だ。見た目使い勝手が良さそうなだけに余計にだ。
 「後ソードは見た目だけは派手だけど、あのフィールドが当たったときの威力って、エステバリスのフィールドアタックと大差ないから、手加減するためにしか使えないんだよね。射程や効率を考えたら、実はまともにグラビティブラスト撃っている方がよっぽどまし。アレでジンシリーズに攻撃しても、相手が防御態勢になってたら、はじき飛ばして終わりだよ、情けないことに」
 そ、そんなに低威力なのか、あれ。俺はあまりの意外さに、思わず絶句した。
 それを見て取ったのか、ハルナは続けて言う。
 「イネスさんなら判ると思うけど、実はフィールドアタックって、あんまり大きさは威力に関係ないんだよね。大事なのはフィールド密度、単位面積あたりの重力傾斜の強度の方だから」
 「その通りよ。短い急坂と、長い緩やかな坂の違いみたいなものね。最終疲労度は一緒でも、負担はどっちが大きいか、考えれば判るでしょ。逆にDFSがあれだけの威力を誇るのは、この密度が半端じゃないせいよ」
 「なるほど。見せ技にはいいけど、威力は実のところまるでない、と」
 リョーコちゃん達も思わずうなずいていた。
 「ま、さっきも言ったけど、ドリルは元々ラムの改良型だから、使い方も今まで通りでいいし、変な弱点もないから気軽に使っても大丈夫だよ。ていうか、そもそもラムの方がドリルの簡易型だし」
 「了解。派手な見た目に惑わされるなって言うことね」
 「ま、その辺の話はおいといて」
 そこでハルナの雰囲気が少し変わった。珍しくも真剣そのものの表情になる。
 かつてテツヤと俺が対峙したときくらいしか見たことのない顔だ。
 「お姉ちゃんとお兄ちゃん、それにみんなへのお願いにもなるんだけど」
 なんだろうな。こいつがこうもまじめに頼み事をするなんて。
 「後、ほかのみんなにはものすごく悪いんだけど」
 この一言はコミュニケで全艦一斉に報じられたらしい。ブリッジ中にウィンドウが立ち上がる。ハルナは一瞥して代表者のものだけを残し、言葉を続けた。
 「今回本当になりふり構わなかったせいでつい約束しちゃったのもあるし……逃げられる? ここから」
 
 「はあ?」
 
 俺たちの顎が一斉に落ちた。
 
 
 
 
 

 
>MEGUMI
 
 ハルナさんの一言は、意外といえば意外でした。
 でも、続く言葉を聞いて、納得できました。少なくとも私には。
 「出来るだけ早く、九十九さん達を回収して、送ってあげたいんだよね、サツキミドリまで」
 「九十九たちを?」
 ちょっと怪訝そうになるアキトさん。
 「こっちに来るときにいろいろあって、八雲さんが九十九さん達を派遣してくれたんだけど、一方通行だったの、あれ」
 「そう言われてみれば……」
 「そうだよね」
 アキトさんと艦長が思わず首を縦に振っています。
 「それって、逆に言えば、今度は私たちが試されているんだと思う。九十九さん達を無事に宇宙へ、木連の元へ返せるのか」
 その瞬間、実のところ、私は慄然としました。八雲さんの……クラウドさんの思索の深さに。人の欲するところを的確に見抜く彼。いつの間にか私に対しての情報をきちんと収集していた彼。ナデシコ内でも、声優以前の私の仕事を知っていたのは、必要のあったプロスペクターさん以外では、下手をすると彼だけだったかもしれません。それくらい、ナデシコ内の私は、声優であったことしか表に出していません。もし知っているとしたら……いつだったかバーチャルルームの事故で、つい昔の知識を披露してしまったアキトさんくらいかもしれません。後、意外と抜け目ない艦長とか。
 その八雲さんは、ハルナさんから相談された一瞬で、何重にもこちらの真意を知る機会を逃さず、あの木連の人達を派遣したのでしょう。敵からの援軍をどう扱うのか。その過程を観察すれば、こちらの真意がどうしても透けて見えます。それを元にして、態度を決めるつもりなのでしょう。
 そのとき私が感じていたのは、不謹慎ですが……興奮、でした。
 かつてアキトさんに感じた興味。恐れ、期待。それを上回る何か。
 私が普段意識していない、『女』としての本能のようなものが、クラウドさん……八雲さんを見つめています。
 それは私の知る『恋』とは少し違った、強い感情でした。
 
 
 
 「そっかー、ありそうだよね」
 そんな私の迷走する思索を打ち切ったのは、艦長ののほほんとしていながら、奇妙なまでに重さの籠もった声でした。
 「ほっとくとあの人たちが帰れないとしたら……連合軍、黙ってあの人達……九十九さんだっけ? ヤマダさんにそっくりなあの人。それをすんなり帰らせてくれるはずないよね。情報源として、取引材料として、とにかくいろんな思惑が重なりすぎてて、帰したくないと思うよね。ある意味非公式だけど正式に来訪している東木連代表と違って、こちらは乱入に近いわけだし……ほっとくと本当に危ないね、これ」
 「でしょ? あたしも驚いたもん。八雲さん、思い切ったなあって」
 「納得だな」
 アキトさんも頷きました。
 「提督は納得してくれるだろう。アカツキも……まあ、何とか。だが、ガトル大将は微妙だ。本人は納得してくれると思うが、たぶん時間が掛かる。だが、それでは間に合わない可能性が高い」
 「同感。九十九さん達がジンをほっぽり出して逃げるわけないもの。でもあれ、隠すにはものすごい不向きだもん」
 ハルナちゃんの言葉に、艦長が重々しく頷きました……なんか全然似合ってなくて、思わず笑いそうになりましたけど。
 「だとすると、見つかる前に素早く回収して、有無を言わさず逃げるしかないですね。なんだか出航の時みたいですけど。幸い、今のナデシコには艦隊としての独立行動権限がありますから、軍令違反で処罰するためには単なる軍法会議ではなく、連合軍長官による査問会を開く必要があります。でもそれはものすごく手間の掛かるお役所仕事ですから、それが元で邪魔される心配はないですね。となれば、問題は提督やルリちゃん、アカツキさんといった、この場にいない人達を何とかナデシコに載せることですね」
 「木連の人達とはどう連絡を付けるの?」
 珍しくここでミナトさんが口を挟みました。私は思いついたことがあったのでそれに答えます。
 「もう一度八雲さんに連絡すればいいんじゃないですか? 合流そのものは、ナデシコが近くを通りかかればあちらからあの跳躍とかでできるでしょうし。そのことを八雲さんから伝えていただければいいんじゃないかと思いますけど」
 「それ採用!」
 艦長が上の方からびしっと私を指さしました。
 その瞬間感じました。
 私と艦長、絶望的に相性、悪いですね。決して悪い人じゃないんですけど……





>SHUN

 その連絡が入ったのは、夜も更けたときのことであった。滅多に使われることのない艦隊間秘匿コード。極秘作戦のために設けられた、きわめて秘匿性の強い回線である。この回線の通信内容は、長官直々の解除コードがない限り合法的に覗く術はない。そもそも通信のあった事実のみが一定期間秘匿される。もちろん、後々にはきちんと報告しなければならないが、そんなことは後でどうにでもなるものである。
 そこまで隠密性の高い通信で何を? といぶかしんだが、送り手である艦長の話を聞いて納得した。
 木連の援軍を引き連れて脱走しようとは、ある意味いい度胸である。このマスコミの注目を受けている中で。
 ちなみに今俺は、先ほどまでガトル大将……義父に対して、報告を意図的にしていなかったMoonNightの隠された真実を洗いざらいしゃべらされていたところだった。
 口は堅い方だという自負はあるが、どうも昔からこの人だけにはこういう隠し事が出来ない。抵抗したが無駄だった。
 
 
 
 納得はしてくれた。水臭いと怒られもした。
 「無理もないな。ネルガルの秘匿技術、ナノマシンによる人体強化。ルリ姫をはじめとしてこういった事例が存在することを知った幹部が禁断の技術に手を出そうとすることは大いにあり得る。ましてやネルガルでは過去のこういった実験を自主的に廃棄しているのであろう?」
 「役には立つがリスクがそれ以上に大きい、とアカツキ会長は言っていましたよ」
 「だろうな。この事実を晒されたら軍ですら危ない。ましてやいくら巨大でもネルガルは民間だ。信用が与えるダメージは軍の比ではない」
 義父はそう答えた。
 「ましてやナデシコの強さの一端を担うと知れたら火に油だな。恥ずかしいが絶対にやる馬鹿が出る。すでにナデシコと深く繋がっている極東と欧州はともかく、アメリカとオセアニアは危ないな。アフリカは私が押さえるにしても、監視の目はゆるめられん。その手間を考えたら、秘匿もまあ間違いではない」
 「納得していただけてありがたいですよ」
 俺は心底安堵した。ここで義父が敵に回ったらまだ俺では勝ち目がない。
 「しかしボソンジャンプ、か……これで少し納得できたな。掛け値なしに今までの空間移動技術を革命してしまう大技術変動。そんな『遺産』が火星をキーにして存在しているとは」
 「なぜテンカワがそんなことを知っていたかについては突っ込まないでくださいよ。私も知りませんし、それにあいつの様子からすると、おそらく今あなたが考えている以上の、もっとどでかい爆弾が眠っている気がしますのでね」
 「気にはなるが、まあ仕方あるまい。今ここで藪をつついたら、民衆という蛇が出かねん。少なくとも彼が英雄であるうちは、うかつな手出しは出来そうもない」
 確かに義父の言うとおりであった。民間より深い情報を知る俺たちは、アキト達の行動にかなり不可解な点があることは判る。ハルナは言うまでもなく、アキトやルリちゃん達……アキト、ルリちゃん、ハーリー君にラピス。この5人は明らかに異常すぎる。戦闘力ではなく、知識面において。
 極論すれば、戦闘力の多寡は問題にもならない。そんなものは、ただ強いだけだ。だが、こと情報面になると、彼らは異質の何かとなる。特にボソンジャンプが絡んだ問題については、その最先端たるネルガルをも超える知識を有していたことは、かつてのアカツキ達との取引からも明白だ。そして木連に関しても。
 この場合、問題の焦点は『何故』、つまり彼らの情報源が焦点となる。知識そのものは重大ではあっても決定的ではない。それを彼らにもたらしたものこそが、我々にとってもっとも注意しなければならないことだ。彼らの動きを鑑みるに、それが独立した意志を持つ人物のような存在でないのは確かだ。彼らは主体的に活動している。つまり、エージェントのように何者かに命令されている可能性は皆無に近い。そしてそれは、どんなものであろうと彼らの上位に何者かが存在することを否定する。
 彼らはトップなのだ。
 だとすれば情報源は、彼らが何らかの方法で直接目にしたもの、ということになる。だが、そこには一つ大きな矛盾がある。
 現在の状況からして、地球にも木連にも、ボソンジャンプに対してアキト達より深い知識を有したものは存在しない。理由は簡単だ。存在していればその者は今頃この戦いの覇者となっている。月の戦いで木連があげた戦果を見ればよく判る。ボソンジャンプをある程度自由に使えれば、あそこまでの行動が可能になるのだ。アキト達もやろうと思えば出来ることは明らかだ。アキトとハルナは個人レベルでのボソンジャンプを自在にしている。そして今回の事件でナデシコを移送するという事実を示して見せた。少なくともハルナには、ナデシコをチューリップからチューリップへ、自在に移動させることが出来るのは明らかだ。
 そしてその事実からすれば、ハルナ達の『情報源』は、最低限それだけのことを可能としているはずである。だが、そんな事実はまるで見あたらない。
 これに関して、出来る者が隠しているという可能性はきわめて低い。隠しておくようなら、アキト達が積極的に敵対する活動をする理由がないからである。アキト達は積極的だが消極的な活動家だ。つまりやるからには精力的に動くが、必要でないなら自分から動こうとはしないタイプである。あのタイプは敵対者が自分たちとは正反対の意図で動くのでなければあんな積極的な動きはしない。
 そしてそれが存在するなら、当然もっと我々の目にもそれが映るはずである。だが映らない。
 加えて、この問題には、『いつ』という要素が加わる。木連が戦争行為を仕掛けたのはわずか1年と少し前。ボソンジャンプの研究はもう少し古いだろうが、そこで壁となるのがアキト達の年齢だ。最年長のアキトですらまだ20。ハーリー君達に至ってはまだ7歳。情報源が何であれ、それに接触するにはあまりにも年齢が幼すぎる。情報源に接触し、知識を得たにしても、その時期があまりにもおかしすぎる。
 総合して言えば、アキト達の接触したはずの情報源は、論理的に検証すると現在において存在しうるはずがないのである。
 この矛盾がアキト達の行動を黙認せざるを得ない最大の理由といってもよかった。
 軍とて無能ではない。いい加減ナデシコにおける奇怪さは俺やカズシ、ムネタケ元提督を通じてある程度はつかんでいる。だが現実がナデシコに対して踏み込むことを拒絶する。金の卵を産む鶏を、どんなに気になっても解剖するわけにはいかない。豊かな時分ならまだしも、その鶏の産む卵がなければ破産する今の状況ではそうせざるを得ない。
 そして今回の事件でそれは決定的なものになってしまった。
 もはや軍はナデシコを無視できない。どんなにその存在が異端であっても、無視すれば被害を受けるのは自分たちだ。今回の活躍にはそれだけの価値があった。
 あえて言おう。
 あの陰謀家は、それだけの価値があると見たからこそ切り札を切ったのだろう。
 あのテンカワハルナという謎の妹は。
 そして今、また一枚、彼女は札を切る。
 悔しいが今回の艦長からの依頼が理にかなっていることは、すぐに納得できてしまった。
 あの八雲がこちらの意を測っていることも。
 もしここで木連からの来客を無傷で返せなければ、やつは我々を見限る。
 我々の和平への意図は、当然あいつも知っている。だが、現状の地球でそれを通すのが難しいことも。
 特に今の段階では無理を通して道理を引っ込めさせるのと同義であろう。
 だからあいつは要求しているのだ。無理を通して道理を引っ込めさせてみろ、と。それくらい出来ないようではこの先和平なぞ覚束ないぞ、と。
 
 
 
 「頼むから、もめ事はここまでにしておいてくれよ」
 そう独りごちながら、俺は脱出の用意に取りかかった。
 もちろん、そんなはずはなかった。







>AKATSUKI

 「全く、何でこんな夜中にあなたと二人きりで……」
 ぼやいているのはエリナ君。まあ無理もないだろうね。会長特権を使っての深夜の呼び出し。僕が女性に対して見かけとは違うことを熟知している彼女でも、一抹の不安を抱かないわけはない。それでも彼女はやってきた。万一の事態も考慮した上で。
 もっともそんなことはなく、極秘の通信で送られてきた話を聞いたとたん、態度は一変した。
 「納得できますわね。確かに、あの人ならそれくらいのことはやりそうです」
 東八雲。かつてはクラウド=シノノメの名前で、ナデシコの参謀をしていた彼。
 僕たちと一緒にいたのはほんのわずかな期間であったが、彼の優秀さを理解するにはその短期間で十分だった。そんな彼から言外に告げられたこと。
 木連からの使者を無事に帰すこと。非公式に公式訪問している……矛盾しているがそうとしかいえない……舞歌嬢達は、放っておいても帰還できるであろう。連合軍もそこまで恥知らずじゃあない。だがあの援軍達は危ない。かつて連合軍の艦隊をあそこまでぼろぼろにした兵器を伴っての乱入訪問だ。そんな彼らが自力帰還不可能な状態になっていると知れたら、よからぬことを考える奴がきっと出る。
 僕ですらその誘惑に耐えるのは大変だ。裏で繋がっているクリムゾンはそんなことはしないだろうが、それ以外のところならやりかねない。連合軍なんかもっとも危ないところだ。
 「で、結論が、夜中のうちにこっそり逃げる、ですか……借金取りに追われて夜逃げするみたいですわね」
 「違いない。でもまあ、ある意味一番まっとうな戦略だよ。0100、僕達をはじめとするナデシコクルー、後出来るならば木連使節一行も引き連れて待機中のナデシコに乗艦、無理矢理発進した後付近で隠行中の木連パイロットおよびその乗機と合流、そのままサツキミドリへ直行、か。大胆だけど、今の連合軍は実力と立場、双方の面からそれを止められはしないだろうね」
 ビッグバリア突破の時とは違う。今のナデシコは有名人だ。ついでに英雄でもある。今ナデシコの行動を止めようとすると、軍が悪役にされる可能性が高い。それだけの空気が世界中のマスコミに蔓延している。
 「ですわね。もしここでこちらを押しとどめようものなら、悪役になるのは連合軍の方。得られる利益は大きくとも、それによって失うものの方が遙かに大きいですわ」
 ふっ、エリナ君も同意見か。
 「さて、といっても僕たちに出来ることは大してないな。ほかのメンバーは勝手に抜け出してくるだろうし、手伝えることもない。ま、ルリ君だけかな、引っかかりそうなのは」
 それだけが心配と言えば心配だった。あのイセリナ王妃を出し抜くのは容易ではないよ。





>RURI

 その通信は、どうやって調べたのか、私の部屋の個人端末に入ってきました……考えるまでもなくハルナさんの仕業ですね。私やラピスでもやろうと思えば出来るでしょうが、こうも素早くはちょっと難しいです。ターゲットとなる端末が判明していれば訳はないことですが、そこから調べるとなると大変な手間です。
 最高ランクのプロテクトが掛かっていたその内容は、ナデシコの脱出プラン。今夜、こっそりとみんなで脱走です。
 「となると、どうやってここを抜け出すかですね」
 自問しながら、私は考えます……まともな手はありませんね。そのまま正面突破するしかなさそうです。



 そして深夜0030。
 私は堂々と寝間着のまま部屋から出ます。
 「どうなさいましたか?」
 「トイレです」
 私の部屋の前で待機しているガードマンさんにそう声を掛けると、私はすたすたとトイレの方へ歩いていきます。
 そのままトイレの中へ。
 そしてトイレに備え付けてあった災害時用の脱出装置……要はただのロープと降下装置の組み合わせですが……を外へ向けておろします。
 これはこの国に限らず、ある意味全世界的な規格としてどこにでも備え付けられているものです。使い方も同じです。
 というか、使い方が共通でないと緊急時に役に立ちません。
 ですので私も、あわてることなく地面に降り立ちました。
 そしてそのまま「どこへ行くのですか?」
 
 私の体が硬直してしまいました。
 
 おそるおそる振り返ると、そこにはガードマンの方をずらりと侍らせたお父様とお母様の姿が……。
 「トイレの降下装置に目を付けたのはなかなかですけど、あれを使うと即座に警備室に通報が入ることを失念していたのは、あなたらしくないですね、ルリ」
 それは……うっかりしていました。当然考慮しなければならない要素です。私の力があれば、ラインを切断するなり警備室の警報を麻痺させるなりは、私の部屋の端末からでも可能だったのですから。
 「あまり夜遊びは感心しませんわよ」
 そう言う母に、私は意を決して言いました。
 「行かせて、ください。ナデシコの仲間が待っているのです」
 「やはりそうですか」
 母はことさら厳しい目で私を見つめます。
 「全く……そこまで信用できませんの、私たちを。私はそんな情けない娘を持った覚えはないのですが」
 ……は?
 今の言い方からすると、母は……いえ、父も、私のナデシコ行きを容認している、のですか?
 「反対されるのかと思ったのかも知れませんけれどね、ルリ、私たちはあなたの負っているものが理解できないほど不寛容な親ではないつもりですよ。きちんと筋を通すべく私たちのところに来てくれればいいものを……それをなんですかはしたない。年頃の娘がこういう真似をするなんて」
 「申し訳ありませんでした、母」
 完敗です。まだまだ私では太刀打ちできそうにありません。
 「では、一つペナルティです。行くことは止めません……ですが、この方達も一緒に連れて行ってください」
 ガードマンさんの後ろから出てきたのは、木連使節の一行でした。
 
 
 
 「は、母……」
 唖然とする私に、母は畳み掛けるように言います。
 「彼女たちは別段、そのまま正面からでも帰れるでしょう。でもこの情勢下では、一歩間違うといらぬ詮索を呼びます。ならばついでにまとめておくってあげた方が親切でしょう? あのナデシコにそのくらいのゆとりがないとは言わせませんよ」
 「無理にとは言わないが、その方が都合のいいのも確かだ。何、信頼はしているよ。こちらも別に中で荒事を起こす気はない。それにいい機会ではないのか? 地球と木連の和平をそなた達が望むのなら」
 代表……東舞歌さんが駄目押しの言葉を掛けてきます。
 「私には拒否権はないみたいですね。謹んでお受けいたします」
 アキトさん達は拒否しないと思いますけど。
 結果私たちは、みんなにびっくりされながらも、ナデシコに乗り込むことになりました。





>JUN

 全く、落ち込んでいる暇もないくらいびっくりさせられた。
 こっそり脱出する、というのはあり得ると思っていた。あの木連から送られてきた援軍、彼らを帰還させることが可能なのはたぶんナデシコだけだろう、と予測がついていただけに。
 ユリカはいい加減に見えても、ああいうところでの筋は律儀なくらいきっちりと通す性格だ。ビッグバリア突破の時だって、結果的には力ずくでの強行脱出になったけど、その前に解除の申請はしている。態度が問題だったとはいえ。
 だけどまさか、堂々と木連の人達を『客』として招待するとは思ってもいなかった。これはある意味、敵国の軍人にこちらの最新鋭戦艦の中を案内してみせるのと同じことなのだ。
 ……よく考えてみればその最新鋭戦艦のさらに新型艦を奪われているから、今更な気もするけど。
 それに加えて、ピースランド側が堂々と黙認してくれるというのにもちょっと驚いた。ルリちゃんが戻ってこれるかどうかは、正直危ないと踏んでいたのだ、僕は。絶対必須の人材というのならばともかく、先ほどの戦闘でハルナさんが代役を務められることを身を以て証明してしまったし。まあ彼女には時間制限という難点が残っているけど、あれだって火星脱出の時みたいに解消不可能じゃない。
 しかし、国王夫妻はルリちゃんを送り出すことを選んだ。これは彼女の意を汲んだのと同時に、僕たちに送りつけたメッセージでもある。
 ピースランドは和平を選択した。という無言の圧力付きメッセージである。ナデシコが和平派である以上、そこにルリちゃんを託すからには、何が何でも和平を実現しろということなのだろう。責任は今まで以上に重大だ。
 ともあれ、時間がない。今のナデシコは遠巻きとはいえ、24時間マスコミに見張られている。まあ、ほとんどの人はすでに乗り込んでいて、後は僕とユリカ、アキト、ルリちゃん、あと提督とカズシさんだけだ。
 国王夫妻がこの場から離れたのを見送り、では僕たちも、というそのときだった。

 「ちょっと待て、ついでだ。俺たちも乗せろ」

 ……目が点になった。いったいどうやってこのマスコミ陣をくぐり抜けたんですか?
 今僕の目の前には、整備班風のツナギに似た服を着た、赤毛の女性と金髪の女性、そして僕が間近で見ていた黒髪の女性……アヤノさんが立っていた。







>CHIHAYA

 何故、私はこんなところでこうしているのだろうか。
 驚愕するもの4名、不敵に笑うもの1名、呆然とするもの1名を前に、私は所在なげに立つことになった。
 事の起こりは彼女が惜しいところで暗殺に失敗し、撤退した後に戻る。
 いったん招待客としてVIPルームに避難させられた私たちは、翌朝その身を令嬢から清掃員へと変えた。ピースランドでも大手の清掃業者の制服だ。この会社は園内や、宮殿の公式スペースの清掃を行っている。今回のような大規模な催し物があると手が足りなくなるので登録されているバイトに動員が掛かるのはいつものことだ。我々はあらかじめその会社にバイトとしての登録を済ませてある。ここにいるのはちょっと出勤ルートを短縮しただけ、というわけだ。とはいってもまだ業務開始までは間があり、それ以前にうろうろしているのはさすがにまずい。私たちは事前に用意されていた間に合わせのセーフハウスに籠もっていた。セーフハウスといっても宮殿周辺にある施設の一室だ。そこに使用禁止の札が掛かっている程度のものである。
 「しかし驚いたわね」
 ライザがそんなことを言う。
 「あなたはどう思う? あれ、偶然だと思う?」
 「思わない。そうとしか見えないけど思わない」
 私は即座にそう言葉を返した。全くなんだあれは。
 テンカワアキトがあの騒ぎの中、彼女の手を取ろうとした寸前に、どこからか飛んできたフォークが彼女の手に当たって、テンカワに隠された凶器を気づかれてしまった。そのフォークの出所はその直前すっころんだテンカワハルナの手にあったもの。
 だが、フォークが飛んだのは、テンカワが手を伸ばす『前』だった。
 そう、前なのだ。テンカワが手を伸ばしてからではない。それ故にあれは偶然にしか見えない。あれを事前に行うには、テンカワが手を伸ばし、彼女がそれに応えようとして凶器の潜む手を伸ばす、それがどの位置で起こるかが判っていなければ実行のしようがない事だ。
 戦闘機の予測射撃に近い。
 移動体を攻撃するときには弾丸の速度と相手の機動を考慮して、それが交わる未来位置に向けて射撃しなければならない。光速度で伝わるレーザーと違い、実弾の射撃は照準されたときに目視出来た位置へ弾丸を放っても絶対に命中しない。
 だがそれ故に予測射撃は命中率100%にはならない。相手の動きがこちらの予測から外れれは当然当たらないからだ。
 それでも戦闘機の動きはまだ予測できるからいい。飛行機が飛ぶことの裏には厳然たる物理法則が存在し、それを無視した行動はとれないが故に未来位置はきわめて限定される。故に予測は可能になる。だが、『転んだ人間を補助するために手を出す』という行為における『相手がさしのべられた手を取ろうとしてこちらが出した手の位置』をどうやって予測するというのだ。そんなこと神でもなければ出来るわけがない。
 なのに私もライザも感じている。アレが偶然の訳がない、と。
 テンカワハルナ。あの謎妹、兄の最期を見とったというあの女は、神すら欺く奴だということなのだ。はっきり言って、私たちのような人間から見れば一番敵に回したくない奴だ。
 そんなときだった。
 突然室内に何か大きなものが投げ込まれた。人間一人分くらいの大きさだ。いや、それは文字通り人間だった。
 脱出したはずの『彼女』だった。
 投げ込んだ人物は不明。こちらが外を見たとき、そこには誰もいなかった。
 私とライザは無言でお互いの目を見た。そしてその視線が気絶しているらしい赤毛のドレス美女に合わせられる。
 「どうする、これ」
 「どうするもこうするもなさそうね」
 なんか、一気に疲れの倍増した声で、ライザが言った。
 「起きるまでこうしているしかないわね」



 結局のところ、彼女が起きたのはかなり時間がたってからだった。バイトの点呼にだけ素早く顔を出し、途中の仕事は適度にごまかしつつ交替で彼女を見張り、ついでに彼女の分の着替えも入手した。この服を着ていると、それだけでかなり動きやすくなるからだ。一時なら充分に一般人の目をごまかせる。通報が遅れる分、時間が稼げるのだ。
 目が覚めた彼女は、初めて会ったときと人格が一変していた。あのふわふわとした感じが全くしない、妙に男らしいナイフのような性格。同じ顔なのに別人に見えた。
 「不覚を取った」
 目覚めたそのときに漏らした言葉はその一言のみ。
 その後は無言だった。
 それに耐えかねたのか、ライザが突っ込む。
 「でさ、これからどうするの? 回収予定とかは?」
 「特に知らされていなかった。適当に帰ってこいということだろう。まあ、成功していれば隙などいくらでもあっただろうしな」
 あまりにも男らしいイントネーション。初めての時の、「よろしく〜」というあのふわふわさとのギャップに、私はめまいがしていた。
 「しかし何でまた気絶して放り込まれるような羽目に? あのテンカワに負けたんなら、こんなところにいられるはずないんだし」
 何とかそれを押さえつけ、私は彼女――枝織に聞いた。
 「奴とは引き分けた。あまりにもいい勝負過ぎて、ちょっとした力にも目覚めたしな」
 そう言う彼女の体から、オレンジがかった光る赤――朱金とでもいうべき色の光が立ち上った。オーラというやつだろうか。
 私とライザがぎょっとした目で見つめているのに気がついた枝織は、ふっと笑うとその光を消した。
 「俺もよくは判らないが、これはたぶん、『昂気』と呼ばれているものだ。木連式の最奥義。今の俺は、まあテンカワと師匠以外に負けることはない。力ずくで脱出するのも可能だろう」
 「なるほど、ということはあなたをここに連れてきたのはその『師匠』っていうことか」
 テンカワとは引き分けなら、そう言うことになる。
 「ああ」
 彼女もそれを肯定した。
 「あの師匠は何でもありの人だからな。いつの間にか地球に来て潜入任務をやっていたとしても、それほど違和感はない」
 「なによそれ」
 「悪いが俺も詳しくは知らないし、知るとまじめな話、命が危うい。知らない方がいいぞ」
 私たちはそろって頷いた。知るべき事とそうじゃないことの見極めがつかない奴は、諜報員として長生きできない。
 「じゃ、その話はおいとくとして、枝織」
 私は強引に話題を変えた。
 「真面目な話、どうやって脱出する? 私たちは最低どうとでもなるけど、あなたはそうはいかないでしょ?」
 「そうだな……少し様子を見たい。一番いいのは、木連代表が宇宙に帰るとき、それに合流することだ」
 「理にはかなっているわね」
 普通ならそんなVIP機、警戒厳重きわまりないだろうけど、今回の彼女たちはお忍びだ。密航する隙くらいあるだろう。
 「それと」
 そこで彼女は私たち二人の目を見ながらいった。
 「今の俺は『北斗』だ。枝織と呼ぶな」



 そのまま清掃員に紛れて園内掃除などしつついたら、あの大騒ぎになった。おかげで暗殺者捜索は完全に有耶無耶になって、私たちもかなり動きやすくなった。そして夜半、枝織、もとい、北斗が私たちに言った。
 「おい、木連使節は、どうやらナデシコに乗って帰るらしいぞ」
 「あっちゃー、そりゃまずいね。さすがにあそこに近づくのは……」
 北斗は無言で私とライザを抱え込んだ。どう見ても女の子なのに、男みたいな力だ。
 彼女の『気』がふくれあがる。朱金の光が私たち三人を包み込むと同時に、北斗は『翔んだ』。
 一蹴りで二人の女性を抱え込んだまま、宙を舞ったのだ。そのまま『空中を蹴飛ばしながら』、ものすごい速度で夜の闇を切り裂いていく。傍目からはUFOにしか見えないだろう。
 あっという間にナデシコ上空へ。そこで朱金の光が一瞬消え、気がついたときには地上に立っていた。
 「何、今の……」
 ライザの問いに答えることもないまま、北斗は一歩前に出る。

 「ちょっと待て、ついでだ。俺たちも乗せろ」

 ……おい。
 あたし達も巻き添えですか。
 しかも目の前に、あの利用したお人好しもいるんですけど。

 ……………………
 ………………
 …………
 ……勘弁して。



 とどめを刺したのは、テンカワアキトの声だった。
 
 「いいだろう、乗れ」
 
 
 
 
 
 
 
 かくてあたしは、ナデシコクルー、木連使節団、暗殺者一行が呉越同舟する、この機動戦艦ナデシコの乗客となることになったのでした。
 
 
 
 あ、会長まで乗ってるよ……








 ゴールドアームのやっとこさな後書き
 
 どうにかここまでたどり着けました、18話。
 いったい何年かかっているんだか……
 去年、やたらに仕事がきつくなって、暮れから今年初頭に掛けて少し楽になったんですけど、最近まためちゃくちゃ忙しくなりました。その間に何とかここまで書き進められました。
 さて、中盤最大の山場を超えまして、いくらか気が楽になりました。
 ハルナも力をあまり隠さなくなってきましたし、どうにか19話の時点で必要な人物もナデシコに全員合流(九十九さん達は引きもあって次回送りですが(笑))、いよいよ形を変えたサツキミドリ攻防戦が始まります。艦隊権限を振り回してナデシコ大暴走、明日の番長は君だ! ということになりそうです。再び版ブーステッドマンも出てくるでしょうし、ハルナもさらに一枚皮がむける予定(<おい)。
 次回はどっちかって言うと恋愛的要素が強まる回でもありますけど、なるべく早くお届けしたいですね。また2年後じゃさすがに……。
 とりあえず暇見て地道に執筆していきます。さすがに夜9時から昼1時の仕事(通勤時間込み)だと時間が。
 では、またよろしく。
 ゴールドアームでした。

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

うーむ、やっぱこう言うのはアツイなぁ。

無辜の民に襲い掛かる恐るべき敵!

それを必死で食い止めんとする戦士たち!

過去の恩讐を越えてそこに駆けつける援軍!

そして、ヒーローは遅れてやってくる!

いやいや。燃えさせていただきました。

やはり王道は偉大だ。

 

まぁ、北斗の出番をちゃんと作ってくれたのが個人的には一番嬉しかったりしたんですが(爆)。