再び・時の流れに。

 外伝/漆黒の戦神



 第八章 『戦神飛翔』





 今、俺の前には、一匹の『鬼』がいる。
 世間じゃあ英雄とか呼ばれている男だ。
 こいつは、もうすぐ、俺を殺すだろう。
 ま、それだけのことはしている。今更惜しい命でもねぇ。
 なのに、何故なんだろうな。
 生きたい、生きて、こいつのことを見続けたい、って思うのは。
 笑っちまうぜ、このテツヤ様がよ、死にたくねえなんて。
 それも恐いからじゃなく、やりたいことが、この土壇場になって出来ちまったせいだなんて。
 けっ、人生っていうのは、どこまでも皮肉に出来てるらしい。



 てめえ、何故もっと早く、俺の前に現れなかった……







 >SHUN

 アキトの奴……
 飛び去る黒い機動兵器を見つめながら、俺はそう呟いた。
 あいつがどこからか妙なモノを仕入れていたのは知っていた。
 それをレイナ君が組み立てていたのも。
 気にはなった。だが、実のところ、俺にそれをやめさせる権限はない。
 あいつはあくまでも、『協力者』に過ぎないのだから。
 だが……あいつは出ていった。
 みんなに何の言葉もなく。
 だがなぁ……アキト。俺たちは、『仲間』じゃないのか?
 古い言葉にもこうある。

 『友人は喜びを2倍にし、悲しみを半分にする』って。

 お前の苦悩……それが何かは分からんが、それを分かち合っちゃ、いけないのか?
 だから、決めた。
 友の危機を放っておくほど、俺たちは人でなしじゃねえ。
 何、それだけの手柄は立てておいたんだ。懲罰一発でパーになったって、惜しくも何ともねぇ!
 現に見ろ。俺の号令一発で、全軍が動き始めやがった。

 「野暮はいいっこなしですよ、司令」

 分かってんじゃねえか、カズシ。
 だが……まさかあんなことになってるとはなあ……。







 >NAO

 やっと、ミリアが俺の前に来てくれた。
 相変わらずどっか目がうつろだが。
 それでも、俺は嬉しかった。

 「ようやく……会いに来てくれたんだな」

 「別にそんな訳じゃないわ」

 何かとってもクールビューティーで。

 「あたしは……あの人たちと共に行く。あなたもついてきて」

 「ハイハイ。いちいち命令なんかしなくたって、最初っから俺はミリアには逆らえんよ」

 「そうね。あなたはそう作られているんだから」

 おいおい、冗談というか、のろけたつもりだったのに、その反応はつれないだろう……って、今、なんていった?
 作られた……だと?
 そりゃ一体、どういう意味だ?
 すると、俺の顔に疑問符が浮かび上がったのを見越したように、ミリアはいった。

 「ありていに言っちゃえば、ネルガルのマシンチャイルドみたいなモノってこと……あなたも、そして私も」

 「ミリア……も?」

 俺にはそっちの方がショックだった。
 俺自身は別に気にしないし、ミリアが人外だろうが何だろうが、別にかまわない。もしここでミリアが、『実はあたし……男なの』とかいって目の前にナニをさらしたとしても、そんときは『そうか、それじゃ今日から俺は男にケツを差し出すホモ野郎だな』と言って笑うだけのことだ。だが、ミリアが自分で自分を認められるかは、全然別問題だからな。
 けど……俺も人外ねぇ。傷の治りだけはそういえば馬鹿みたいに早いけど、ほかは普通人と大して変わらんぞ? 役に立つのか?
 そう思っていたらミリアが説明してくれた。

 「ネルガルがいろいろ裏でやっている頃、クリムゾンもやっぱりいろいろやっていたのよ。あたしもあなたも、その研究の成果。といっても、どっちも失敗作らしいけどね。あなたは強化兵士……肉体的な能力を、常人より遥かに強めた人間として、この世に生まれてくるはずだった。けれどもそれらしき兆候は全くなかった……実験は破棄され、あなた達も全員処分されることになるはずだったわ。だけど、その過程で、1人の研究者が、実験体1体と共に逃走した……もう1人の研究者と共にね。彼女もやはり、1人の実験体をつれていた。それが、あなたであり、私……。逃げた研究者は、ヤガミ ケンジと、マリア・テア……そう、あなたのご両親よ」

 俺の思考はとまっていた。確かに親爺の名前はケンジであり、若くして死んだといわれていたお袋の名前はマリアだった。

 「当時、お父様は初めての子供が生まれるはずだった。ところがその子は死産……そこに現れたのがマリアだった。これも何かの縁だ。この子を死んだ子の代わりに育てて欲しいと、私を預けて。お父様とお母様は私を実の子として届け、ここにミリア・テアが誕生した」

 俺は、その時、能面みたいに変化のない彼女の目から、一筋涙がこぼれたのを見た。

 「これが目くらましとなって、マリアは逃げ切れた。ケンジ共々、数年後には裏切り者として消される運命だったけど、二人の子供の行方は知れなかった。クリムゾンもあきらめていたわ。ところが、そのうちの1人が、偶然にも見つかった。よりにもよって、クリムゾンに入社してきたことによって」

 「間抜けな話だな、そりゃ。俺はシャケか」

 思わず、そんなジョークが口をついて出た。

 「そうね……喜んだそうよ、そっちの連中。自然環境で成長した実験体が、手の内に帰ってきたんですもの。健康診断と称して徹底的に調べたそうだけど、まあ、期待したほどの成果はなかったらしいわ。連中が素直にあなたを解放したくらいですもの」

 そう言えばそうだな。興味があるなら飼い殺しにするはずだ。辞職出来るはずがない。

 「ところが何の因果か、あなたはあたしに出会ってしまい、あたしも見つかってしまったのよ。そして、あたしとあなたの間にあったシステムは、十分有効だったことが判明してしまった……コマンダープログラム・『女神(イシュタル)』が、ね」

 「指揮官(コマンダー)?」

 「そう。私はあなたと違って、作戦指揮、立案のために知力を強化されたタイプ。そして、実の母にも当たるマリア・テアは、将来手足となるあなた達が自分や自分の娘たちに決して反逆せず、自殺命令にもためらいなく従えるように、あなた達兵士タイプの潜在意識にあるすり込みをしていた。それが『女神計画』。あなた達ソルジャータイプは、マリア・テアと、そのクローンであるコマンダータイプには決して逆らえないように、潜在意識下に遺伝子レベルでの命令を焼き込んである。そしてクリムゾンは、その技術をほしがっているのよ。これを手に入れれば、彼らは絶対服従の『臣民』をいくらでも手に入れられる。そういうこと」

 「クローン……?」

 その辺がちょいと引っかかった。

 「それじゃミリアが、『女神』にそっくりだったのは……」

 「そういうことよ」

 ミリアは冷たく言い放った。

 「どう、ヤガミさん。あなたのお母様の若い頃に出会った気分は」

 何というか……全てが一本に繋がった。
 ひでぇ話だ、全く。
 そして、俺はいった。

 「最悪な気分だ」

 俺はミリアの方を、じっと見つめながらいう。

 「お袋……だと思っていた人、ってことになんだろうけど、そいつのせいで、俺が愛したのはお袋そっくりの女じゃなくって、ミリア・テアって女だってことを、本人に説明するのがむずかしくなっちまいやがった」

 「なっ……」

 ミリアは顔を真っ赤にすると、そのまんま出ていってしまった。
 ふう……まだ、見込みは、あるか?
 別段、ミリアがミリアじゃなくなった訳じゃなさそうだ。
 そうなっていたら……俺も覚悟を決めなきゃならん所だった。
 俺はため息をつくと、その場に座り込んだ。







 >TETSUYA

 「テツヤさん、正体不明の機動兵器1、こちらに接近中。し……信じられない速度です!」

 ほう、早いな。
 基地監視員から、正体不明の黒い何かが飛び立ったという報告を受けた俺は、その何かがあの男であることを、瞬時に確信していた。理屈じゃない。直感でだ。
 報告と同時に、俺は秘蔵の切り札を立ち上げる。どういうコネで手に入れたのかは知らねえが、簡単なコマンドでチューリップに命令出来るっていう代物だ。こいつがあれば、ひょっとしたらこの戦争、簡単に片が付くんじゃねえかとも思ったが、それほどあまいものじゃあないらしい。俺の手の内にあるのは、チューリップを誘導、そして起動出来るだけのキー。一度起動したら、後は勝手に暴れ回るだけの代物だ。一応、ここの護衛を主目的とはしてくれるようだが。無人兵器がなに考えているかなんぞ、俺の知ったこっちゃねぇ。
 それでも、まあ、武器にはなる。このアジトを襲撃から守るためのな。
 にしても……よくここが分かったな、英雄さんよ。
 ミリアにもナオにも見張りは付いていないことは確認済みだし、二人が裏切る訳はない。ミリアは後一歩でこちらの手に落ちる。まあ、人1人ぶっ殺すか、ぶっ殺す命令をナオにでも出せばそれでいけるだろう。今のあいつには支えがなにもない。親には裏切られ、恋人も自分の『力』が引き寄せたものだった。そして自分に関わった人物は、あの妹さんたちのように殺される。
 お優しいこって。戦鬼様も割とそのクチっぽいが、どっちも自分自身よりまわりが攻められることに耐えられないタイプのようだしな。
 孤立した彼女に、後はそっと手をさしのべてやれば、簡単にすがりついてくるってもんよ。人間っていうのは、弱いところはとことん弱いからねぇ。
 そんなところに、満を持してご登場とは、戦鬼様。
 さて、お手並み拝見といきますか。







 >LAIZA

 「あら、あれを出すとは、意外とせっかちね、テツヤ」

 地面の中から現れた8体のチューリップを、私は頼もしげに見つめた。
 完全に浮かび上がったそれの口が開き、無数の自動兵器が出現する。

 「クリムゾンが木星蜥蜴と繋がっているっていうのは、ホントなんだって、これを見るとよく分かるわよね」

 あたしは詳しいことなぞ知らないけど、このチューリップたちは、中央の基地を防御対象として守るようにプログラムされているらしい。誰かが攻撃を仕掛けるまでは手を出さないらしいから、まだしばらくは安全だ。

 「じゃ、行って来るわね」

 定時連絡要員との接触のために車を走らせた私は、その直後に響いた爆音に、思わず振り返った。

 「なに? 今の」

 サングラスを上げて、よくみようとした私の目に、激しい光が飛び込んできた。
 とっさに振り向き、シートに身を投げ出す。ワンテンポ遅れて、さっきとは桁違いの轟音が響き渡った。

 「嘘……」

 今度こそサングラスを上げてそちらを見たあたしは、自分の目が信じられなかった。
 敵の影も見えていないのに、チューリップが一つ落ちている。
 と、なにやら黒い線が別のチューリップへ伸びている。それがチューリップの手前でオレンジ色の光を発したかと思うと、そのままチューリップを貫いていった。
 とっさに目をそらす。思った通り、背後で強烈な光と音がわき起こった。
 あれは……まさか、グラビティブラスト?
 機動戦艦ナデシコと、その後継艦コスモスにのみ装備されているという、究極の砲。
 けど、あれが戦艦のものなら、あんなに火線が細い訳はない。
 何か猛烈にいやな予感に囚われ、私はこの場を後にした。
 テツヤ……あんたが喧嘩を売った相手は、どうも予想以上にとんでもない化け物かも知れない……。
 車を走らせるその背中で、3度目の光と轟音が発生していた。







 >TETSUYA

 俺は思わず椅子からずり落ちていた。
 さすがは戦鬼様だ。こっちの予想を見事に外してくれる。
 やがて現れた黒い機動兵器を見て、俺は心底そう思った。
 それはある意味見慣れた、ネルガルのエステバリスとは全く違っていた。
 名残はあるが、あまりネルガルらしくないところがある。二まわりはデカいシルエット、分厚い装甲、そして、背中に取り付けられている細身の砲身。
 いつの間に小型のグラビティブラストなんていうものを開発してたんだ? どう考えたってあれはネルガルが作ったものじゃない。ネルガルがこっそりあんなものを作っていたのなら、絶対にその影が見える。そもそもあれを作るための技術基盤が、ネルガルにあるとは思えない。あるのなら絶対に分かる。いっちゃ悪いが、ネルガルの防諜組織は穴だらけだ。トップのプロスペクターとゴート・ホリーの二人は侮れないが、その下がかなりザルだ。しかもこの二人は今あのナデシコにいる。おかげでナデシコの情報は俺たちですら入手出来なかったが、それ以外はガラス張りだ。中には小遣い稼ぎにこっちに機密情報を売る重役すらいる。
 あんなご大層なものを隠しておけるはずはないのだ。もし隠しておけるとしたら……それはあの戦鬼様の力だ。組織にはこれは出来ない。
 立て続けに2つチューリップを落とした後、奴は少し距離をとって、わいてくる無人兵器を相手取りはじめた。

 「どうして一気にチューリップを落としにかからないのでしょうか、あいつは」

 「馬鹿か、お前は」

 こういうのが部下だからな。使い捨ててもちっとも惜しくない。

 「あんだけの威力のある武器が、そう連続して撃てる訳がねえだろ。あれは時間稼ぎしながらエネルギーをチャージしてるんだろうよ。射撃間隔からすると、フルチャージで2斉射しか出来ないみたいだからな、あいつは。だとしたら、今のうちにまとわりついていればいい。そのうちエネルギーが切れるさ」

 だが、それは甘かったらしい。
 黒い奴は腰から棒状のものを取り外し、手に持った。

 「なんですかねあれは。ビームサーベルとかいう奴ですか?」

 そう言えばロボットアニメの定番にそんなのがあったな。けどこいつ、馬鹿か?
 俺はそいつを蹴飛ばして黙らせると、もう少し使える部下にいった。

 「記録取っとけよ。たぶんあれが、噂の戦鬼様ご愛用の特殊兵器だ。こっちでもコピーは作ったが、誰にも使えなかったっていう曰く付きのな。稼働記録は是非とも欲しい」

 そして俺たちは、その威力を特等席で見ることが出来た。
 黒い機動兵器を覆っている不可視の鎧が、わずかな光の乱れを残して、握られた筒の方に動いていく。肉眼では何となくそんな風に見えるだけだが、センサーの目には、フィールドが集束していく様がはっきりと映っている。

 「これがDFSっていうやつか……」

 そして生み出された剣は、チューリップのフィールドを押し切り、ついでに本体もぶち抜いた。
 大した威力だぜ、全く。どうやったら使えるんだ?
 だが、ようやっとこっちの備えもましになったようだ。無人兵器が飛び交い、やつを包囲する。さすがのやつも動きが少し鈍った。
 あの剣は攻めには強い分、守りが弱くなると聞いている。飽和攻撃を仕掛ければ、どんなに戦鬼様の回避能力が優れていてもよけられるものじゃあない。物理的によけるスペースがないんだからな。そうなればあの剣は使えなくなる。
 ほら、奴め、剣をしまった。腰のキャノンと手持ちのライフルで応戦をはじめる。さすがに少し動きも鈍っているようだ。
 これでしばらくは時間が稼げそうだ。ただ……あれじゃ最終的には負けるな。

 「おい、撤退の準備をしておけ。今はもってるが、最終的には負けだな。死にたくなかったらさっさとしろ。ライザにも戻ってこなくていいって伝えておけ。後、データだけは記録を続けろ。ギリギリまでな」

 さてと……あとはナオとミリアか。どう使おうか。







 >NAO

 外が騒がしくなった。
 何事かと思って窓から外を見た俺は、心底驚いた。
 チューリップがわんさかといやがる。そして……そこに何かが飛んできたと思ったら、いきなりぶっ飛びやがった。
 アキトだ。
 理屈抜きで、俺には分かった。
 アキトの奴……乗り込んで来やがったな。あいつの性格からすると、たぶん単身だろう。
 おまけに……あいつ、知ってたな? 何故か知らねぇが、ここにチューリップがわんさかいるって。どういう隠し球だ? え、アキトよ。
 幸いそいつはすぐに分かった。信じられんほどの……そう、ただでさえ速いあいつのエステより速く、それはやってきた。
 エステより一回り大きい、『漆黒の戦鬼』が。
 そいつはDFSでもう一つチューリップを叩き落とすと、無人兵器の掃討を開始した。

 ……ん? 手抜き……ってこたぁねえよなあ。ありゃ、アキトの動きじゃねえぞ。こちとら散々見てきたんだ。機体が変わったぐらいで間違える訳はない。となると……あ!

 くそっ、この状況で、なんで俺はあいつの手助けが出来ねえんだ。ミリアと俺とを縛る『女神計画』……クリムゾンが欲しくなるはずだぜ。こいつを使えば、そいつに裏切られる心配はなくなっちまう……ん? 誰か来るぞ。この足音は……ビンゴ。ミリアだ。

 「ヤガミさん」

 「なんの用だい?」

 「来るわね……アキトさん」

 よく気がついたな。
 そう思っていると、ミリアは、またあのうつろな目をしたまま言った。

 「ここに来てから……何故か思い出したの。勉強したことすらないはずの、いくつもの知識を。ずっと昔……まだなにも知らない頃、言葉すら使えない昔に聞いたことを」

 な……何のこった?

 「知識転写……あたしがマリア・テアのクローンだからこそ出来たことなのかも知れないわ……潜在意識領域に刷り込んだ知識を、分身たる私に注入する……知ってる? マウスの脳から抽出した物質を別のマウスに与えると、そのマウスは前のマウスの記憶を引き継ぐって。もちろん、人間の記憶を移し替えるような真似は出来ない……少なくとも今は。でも、自分のクローンに、自分自身の記憶要素を注入した結果、どうやら抽象化された『概念』が、私の中には存在したみたい。だからかしら。理屈じゃないけど、分かるのよ。これは、策略だって。『ミリア・テア』は学んだことはなくても、『マリア・テア』には分かる。これは陽動作戦。機動兵器を囮にして、別働隊が潜入してくるはず。違うかしら」

 正解だぜ、ミリア。俺も同じ事を考えた。あの機動兵器は空だ。アキトは絶対、この基地に侵入している。
 いくつか気になることはあるが、まあ今の俺には関係ない、というかどうにも出来ない。
 しかし、一つだけ俺も分かったぜ、ミリア。お前、暗示をかけられたな?
 結構えげつない手だが、うまく決まったときの効果は絶大だ。薬物や超音波干渉などを利用して、相手の精神状態を不安定にし、そこに暗示を刷り込む。小説に出てくる催眠術みたいに自在に操るような真似は不可能だが、麻薬中毒の患者みたいな例がある。麻薬ほしさに正常な判断力が失われて、いわれるままに犯罪を犯してしまうというやつだ。一種の洗脳だな。
 テツヤの奴、薬物か機械装置かは知らんが、メティちゃんが死に、おまけに自分の出生の秘密を聞かされて不安定になってたミリアに、『俺の言うことを聞かないとみんな死ぬ』とか何とかいう暗示を刷り込んだろう。そう考えればミリアのこの態度や、意志の力が感じられない様子も、みんな説明が付く。
 知識転写云々は……副作用みたいなもんだろう。逆行催眠っていう奴がある。忘れていたはずの記憶を引っ張り出す奴だ。魔法みたいに思えるが、原理は火事場の馬鹿力と一緒だ。普段脳味噌が掛けているリミッターを外すだけだからな。記憶のアクセス制限がぶっこわれて漏れたんだろう。
 やれやれ。おふくろさんよ、罪な事してくれるぜ。
 けど、そうすると……

 「ヤガミさん、私のまわりには誰も近づいてはいけないの。私のそばに来た人は、みんな死んでしまう……メティも、ハルナさんも、みんな死んでしまった……だから、駄目。アキトさんも、私に近づけないで……私に近づいたら、あの人も死んでしまう……」

 「わかったよ、ミリア」

 俺は内心、少し安心していた。もしアキトを殺せなどと言われようものなら、間違いなく俺たちは全員破滅することになる。止めるだけなら……ま、何とかなるか。
 けど、テツヤのくそったれ。
 俺もミリアも、逃げられないじゃないか。
 アキトの奴には悪いけど、これも運命か。
 だが……運命の女神っていう奴が、『劇的』っていう言葉が好きなのを、俺は忘れていた。







 >TETSUYA

 戦線は膠着していた。戦鬼様はすばらしい腕でバッタ達を落としていくが、残り5機のチューリップからは、まだまだ奴らがわいてくる。
 さて、チューリップから出てくる無人兵器と、戦鬼様の銃弾、どっちが多いかな。
 そう思っていたときだった。

 「基地内に侵入者!」

 いきなりそんな報告が入った。
 ちょっと待て、『基地内』だと?
 そりゃ俺だってその線は考えた。あれを囮にして別働隊がミリアたちを救出に来るって線はありうるとな。
 けど、その可能性は低いと俺は踏んでいた。奴らは俺たちがチューリップを隠し持っていることを知らない。まあ、戦鬼様当たりは感づいていたのかも知れないが。けど、探知はされなかったはずだ。
 そして探知もされていない敵に対して、あのMoon Nightは動けない。西欧最強というその名前故に、即応体制は取っていても、勝手な出動は上層部も世論も許さないだろう。こいつらが見つかった後ならまだしも、このタイミングで出てくる訳がない。
 それに俺は……あいつは単身で来ると読んでいた。あの男は、個人的な復讐に他人を巻き込むタイプじゃない。むしろ遠ざけるタイプだと、俺は判断していた。
 現に奴は、たった一機で現れた。
 その一機が化け物じみた秘密兵器だったのはこっちも驚いたが。
 が……侵入者は現れた。まあいい。戦鬼様以外は、そう怖れることもないだろう。うちの部下でも捨て石くらいにはなる。
 ただ、気になるのは、『基地内』という報告が来たことだ。普通ならまず『基地周辺』か、『基地入り口』で報告が来る。元々ここの出入り口は一つしかない。非常用の脱出口すら、実は塞いである。知ってるのは俺1人だがな。あの戦鬼様が相手じゃ、そこから逃げるよりそこから侵入される方が恐ろしい。入り口が物理的に一つなら、そこに仕掛けられた罠を回避する術がなくなる。
 なのに侵入者は、いきなり『基地内』に現れやがった。
 どうやってあの入り口のセンサーとトラップを回避したんだ?
 センサーをごまかせるんなら、そもそも報告が来る訳がない。
 まあ、今は思索より実践だ。

 「侵入者の数と場所は?」

 「侵入はほぼ同時に二カ所。一つは発電施設に、もう一つは倉庫に……こちらは2名のようです」

 「妙だな」

 発電施設はまだ分かる。高度なステルス性を持った敵が破壊活動のため、その姿を現したとも考えられる。だが……倉庫に2名だと? 何の意味がある。囮にすらならん。
 しかし発電施設に敵、しかも姿を現した、となると……

 「おい、電気系統を予備に切り替えておけ。メインはすぐに使えなくなる」

 「はいっ」

 そしてすぐに、メイン電源が遮断されたことを、監視システムが伝えてきた。
 これは……負けたな。
 俺は何となくそう思った。
 一つ気になっていることがある。
 ネルガルが極秘にしているある研究だ。
 ボソンジャンプ……なんでも物体を、任意の場所に空間跳躍させる研究だという。
 ただし、成功例はない。成功していれば、とっくに発表されている。
 うちの上の方でも、いろいろと研究はしていると聞く。
 互いの諜報戦もすさまじいものがある。
 詳しいことまでは知らないが、そんなものがあるっていうことぐらいは、俺みたいな立場の人間なら一度は耳にしている。

 「あの戦鬼様……ひょっとして……」

 何せどこからともなく、あんな見たこともない機動兵器を引っ張り出してくるお方だ。そのくらいの隠し球を持っていてもおかしくない。
 何より、それが可能なら……単身でここに突っ込んできた理由に、全て筋が通る。
 出来る出来ない、そしてその手段、有効性なんぞはどうでもいい。
 あいつがあの機動兵器から、それと気づかれる事なくここへ侵入出来る手段。それがあるなら、相手の動きがぴたりとハマる。

 「じじい……ひょっとして、そこまで見越してあの戦鬼様をほしがったんじゃねえだろうな……」

 全く、とんでもない英雄様だ。あれが隠し球だとしたら、ネルガルの会長は、きっちり裏で手を結んでるっていう訳だ。ネルガルと連合は、和解はしたものの、ナデシコの扱いでは反発してるって聞いたけどな……。

 「侵入者、モニターに出せるか?」

 「いえ……監視カメラが、ことごとく潰されています。逆に、つぶれていくカメラから、相手の動きが推定出来るんですが」

 「どっちもか?」

 「はい、どっちもです」

 ほほう、かなりの手練れだな。とすると目的はやはり、あの二人の奪回か。

 「ミリアとナオはどうしている?」

 「今現在、両名ともナオの私室にいるようです」

 「案内してやれ」

 俺はそう言った。部下の奴は呆けていたが。

 「案内……と、いいますと?」

 俺は予想位置と進路を考えていった。

 「今からいう隔壁を閉めろ。E−12、F−3、C−4。そうすれば、割とあっさりたどり着くだろ?」

 「はい……でも、いいんですか?」

 「連れて行こうとしたってミリアが嫌がるさ。モニタはしておけよ」

 「はっ」

 さて……どう出るかな、あの戦鬼様。助けに来た人質に帰れって言われたら。
 たとえ強制的に連れ帰っても、またあいつはこちらに来るぜ。







 >NAO

 ひたひたと迫る足音を、俺の耳は捉えていた。
 アキト、来たか。
 それはすぐに分かった。本人が目の前に現れたのだから。

 「!!……ナオさん! ミリアさん!」

 アキトが俺たちを視認して、そう叫んだ。

 「無事だったんですね」

 「ああ、一応はな」

 俺は短くそう答える。

 「けど……わかってるんだろう? 捕らえられているはずの俺が、こうして五体満足の上、拘束もされていないってことには」

 「……司令から、話は聞きました」

 「そう言うことだ。ついでにいうと、ミリアの奴は、テツヤについていく気になっちまってる。悪い暗示を掛けられたっぽくてな。一種の思いこみだから、テツヤを脅して解けって言っても、たぶん無理だぞ。本物の催眠術より始末が悪い」

 アキトの歯が、ギリギリと噛みしめられた。
 あいつの中で、テツヤへの怒りが渦巻いているのだろう。

 「お願い、このまま帰って、アキトさん」

 そう言う俺の後ろから、ミリアが声を掛けた。相変わらずの、どこかうつろな目で。

 「私の周りにいる人は、みんなテツヤさんに殺されてしまう。テツヤさんが死んでも、今度は他の人が殺す……あたしはそんなのはいや。だから帰って」

 「ならば俺は……クリムゾン全てをたたきつぶす!

 おいおい。言ってくれるぜ。ま、きっと出来るんだろうが……お前には無理だな。アキト、お前にはなにも知らない善良な社員を巻き添えにしてまで、クリムゾンを潰すことは出来まい。
 何で分かるかって? アキトの性格ぐらい、付き合って、鍛錬していればいやでも分かるって。

 「嘘」

 そしてミリアも言った。

 「あなたには無理よ。出来ないからじゃない……あなたは、優しすぎるから」

 アキトは顔をしかめ……そして改めてこっちを見た。

 「仕方ない……勘弁してくださいよ、ナオさん。二人とも、無理矢理にでも連れて行く。このままテツヤに連れて行かれる訳にはいかないんです」

 「そう言うと思ったよ。ま、お手柔らかにな。俺はミリアに頼まれちまっているから、手は抜けないぞ。それでも、まあ、かなわんとは思うけどね」

 俺は身構え、アキトの出方を見た。
 二人の間に、見えない火花が散る。
 だが、その時。

 「やめてアキトさん。あなたが帰ってくれないのなら……私、ここで死にます」

 「ミリア!」

 俺は、そう、心の底から叫んでいた。

 「ミリア、さん……」

 アキトの奴もつらそうだな。
 そして俺も言う。

 「アキト……悪いが、俺も命がけになる。ミリアに自殺させる訳にはいかないからな」

 「ナオさん……」

 アキトの顔に迷いが表れていた。悪いな、アキト。隙だらけだぜ。
 俺はためらうことなく、アキトに攻撃を仕掛けた。







 >TETSUYA

 やっぱりこうなったか。
 俺はわくわくしながら続きを見守っていた。
 テンカワアキト……やはりお前、とんでもない手品の種を隠し持っていたようだな。
 DFSは操縦者の意志によって実体化する。自動制御じゃ使えない。つまり3つ目のチューリップを落とした時点で、お前はあそこに乗っていた。それがいつの間にかここにいる。
 つまりお前は、ボソンジャンプとかいう瞬間移動を実用化しているってことになる。
 きっとこの情報だけでも、爺さんは高値を付けてくれるな。

 「ぶ、部長、何故あの男があそこに」

 「どうだっていいじゃねえか。あいつはあそこにいる。それが事実だ」

 まあ、ナオの奴と戦鬼様では、戦鬼様の方が上だ。
 その気なら、ミリアを含めて気絶させることは出来るだろう。けど……
 俺は唯一の出口を封鎖した。

 「な、なにを?」

 部下Aが怪訝そうに俺に聞く。

 「ん? ねずみ取りの蓋を閉めたんだよ」

 出口が閉まっていれば、あいつは奥の手を使わなければ脱出出来ない。もしその手で逃げるなら、たぶんいちいちモニターを潰したりはしないだろう。
 そうすれば、いい情報が手にはいる。俺は死ぬかも知れないがな。
 ま、それでもいい。
 ただ、何となく俺は死ぬ気がしなかった。あの甘ちゃんは、俺を殺さない……。
 そんな気がしていた。
 もし俺を殺すとすれば、それはあいつが英雄の仮面を脱ぐときだ。
 それが見れるなら、俺の命は、まあ高いもんでもない。
 巻き添えを食らうこいつらには、その価値は分からんだろうがな。
 と、モニターの中でミリアが言った。

 「やめてアキトさん。あなたが帰ってくれないのなら……私、ここで死にます」

 こりゃあいい。ミリアさん、あんた、いいこと言うねえ。
 この一言で、戦鬼様の戦力は半減、ナオの奴は2倍だ。
 この勝負、面白くなったかな?







 >MIRIA

 アキトさんとヤガミさんが対峙している。
 何でアキトさん、帰ってくれなかったの?
 私のそばにあなたがいると、みんな死んでしまうのに。
 アキトさんは、私を無理矢理連れ出そうとしている。
 そういうものなのかも知れない。
 でも私はいや。
 もう、私のせいで、そして、あなたのせいで、人が死んでいくのは見たくない。

 「やめてアキトさん。あなたが帰ってくれないのなら……私、ここで死にます」

 「ミリア!」

 「ミリア、さん……」

 二人とも、心配してくれるのね。特にヤガミさん、あなたは、私のいうことに逆らえないのに。そして、私を愛するように条件付けられていると知っているのに。
 それでも、迷うことなく、答えを返してくれるのですね。
 だから、もう、いや。
 誰も、死んで欲しくない。もう、私のせいで、人を死なせたくない。
 けど……アキトさんは引いてくれない。なら……えっ?
 あ、あれは……



 ええええっ! ……







 >NAO

 俺はアキトに攻撃を仕掛けた。
 油断していたところに一発くらい、アキトはふらつく。

 「どうした、隙だらけだそ!」

 口をききつつも、決して攻めの手はゆるめない。
 だがさすがに致命の一打を入れる前に、アキトに阻まれた。
 そこから来る逆襲。何とか捌けたが、こっちもいいのをもらっちまった。

 「やるな、やっぱり、だが、ミリアのにかけても、今は負けられないんだよ!

 「こちらも……メティちゃんとハルナの無念にかけても、ナオさんたちをこのままには出来ない!

 アキトの気がふくれあがる。俺も負けずに気を高める。
 と、その気に近づいてくる何かが触れた。
 まずい、誰か来たか!
 そう、気が逸れた一瞬に、それは飛んできた。



 「勝手に殺すな〜〜〜〜っ!」



 すばらしく体重の乗ったドロップキック一閃、俺とアキトはまとめて壁まで吹っ飛ばされた。
 そして俺とアキトが目にしたのは。

 「ハ……」

 「ハルナ、ちゃん?」

 「ったく、なに二人とも、敵地のど真ん中で喧嘩してるのよ! それにお兄ちゃん、なにが無念よ。い・つ・私が死んだって? 私はちゃんとぴんぴんしてるわよ」

 そうして、胸に抱きかかえていたものを、俺と、アキトと、ミリアに見せる。

 「メティちゃんも、ね」

 「……きゅう」

 もっともメティは、ドロップキックの余波で、目を回していたが。

 「わ〜〜〜〜〜っ、ごめんごめん! メティちゃん、ほら、お姉ちゃんいたよ!」(ぺちぺち)

 「ん……あ、おねえちゃん!」

 メティを見せられたときのミリアの顔を、俺は一生忘れられないだろう。
 まるで蕾がほころぶように、うつろだったミリアの顔に生気が戻ってきた。

 「メティ……メティ!

 「お姉ちゃん!」

 ひしと抱き合う二人。

 「ごめんね、心配掛けちゃって。すぐに戻れればよかったんだけど、そうもいかなくて。何とか戻ってきてみれば、ミリアさん、何かさらわれたらしいし。でも、見つかってよかった」

 「おい……」

 俺はうんうんうなずいている彼女に、後ろから声を掛けた。

 「ハルナちゃん……なんで生きてるんだ? 頭を撃たれた上に、崖から落ちた癖に」

 「そのことなら後でいくらでも説明してあげるわよ。お兄ちゃんも……わ、ちょっと!」

 「ハルナ……ハルナああっ!!」

 アキトの奴、それまでぼうっとしていたのは、目の前の光景が理解出来なかったせいだな? で、正気に返ったとたん、これかよ……。
 アキトの奴、恥も外聞もなく、泣き叫びながら妹のことを力一杯抱きしめやがった。

 「生きて……生きてたんだなっっっっっっ!」

 「生きてるよ、見ての通り。取りあえず、お兄ちゃんも目的があってここに来たんじゃないの?」

 そう言われて、やっとまともな顔になった。

 「そうだった……俺は、ミリアさんたちを助けるのと、テツヤを殺すために……」

 「それで何でナオさんと喧嘩してるの?」

 「それはだな」

 俺が説明しようとしたときだった。また足音がする。
 ふっ、テツヤの奴も、さすがにあわてたと見える。
 御本尊が来るとは思わないが、部下の10人も送ってきただろう。

 「おい、アキト」

 俺はアキトに声を掛けた。

 「俺はミリアの命令のせいであいつらに反抗できん。悪いが、頼む」

 「え、どういう事?」

 ハルナちゃんに聞かれたが、答えている暇はない。あいつら、撃って来やがった!
 おいおい、捕獲対象をまた殺す気か? テツヤも苦労してるんだろうな、部下がこれじゃ。
 一方アキトは、俺の返事を待たずに飛び出していった。銃弾の雨をかいくぐり、瞬く間に奴らを粉砕する。
 10人はいるかと思っていたんだが、倒してみたら4人で終わりだった。
 後のは備え付けのガードシステムだったようだ。

 「殺す訳にもいかないよね」

 ハルナちゃんはそう言うと、どこからか軍用のHレーションバーを取り出して口にくわえ、アキトの元へ向かっていった。
 アキトに二言三言話しかけると、倒れた男共をこっちへ引きずってくる。

 「おまたせっ! さ、脱出しよう!」

 ハルナは明るくそう言ったが、なあ……。

 「メティ、もう行きなさい」

 「ええ、どうして!」

 「お姉ちゃんは一緒にいけないの」

 と、まあこんな感じだ。

 「ね、ナオさん、どういう事?」

 「まあ、あれだ。ミリアの奴、自分に関わるとそいつは死ぬっていう風に、テツヤの奴に思いこまされちまったんだ。ある種の催眠暗示だな。思いこみだけに始末に負えないんだ、これが」

 そう聞かれた俺は、二人が押し問答をしている間に、ミリアが暗示にかかっていることを簡単に説明した。

 「ふーん、強制催眠じゃないんだね」

 「ああ、それならもっと自立的な判断力が失われているはずだ」

 「なら、大丈夫だよ」

 彼女はそう言うと、ミリアの前につかつかと歩いていき、大きく手を振り上げた。
 お、おいおい!



 すぱあああんっ!



 気持ちのいい音を立てて、ミリアの頬がなった。



 「いい加減目を覚ましなさいよ! あなたに近づくと人が死ぬ? 誰が死んだの? あたし? メティちゃん? どっちも生きてるじゃない」

 あ、ミリアの奴、うろたえてやがる。俺は不謹慎だが、笑いがこみ上げてくるのを押さえるのに必死であった。

 「それにナオさんがお姉ちゃんのことを思っているのが強制されたものだって? それのどこが問題なのよ。政略結婚した夫婦と、何の違いもないじゃない。そんなの、単なるきっかけよ! 要は理由はどうあれ、お互いが気持ちよく、幸せに付き合っていられるかどうかの問題でしょう!」

 いいこというねえ、ハルナちゃん。けど……何かが俺の脳裏に引っかかった。

 「でも……ナオさんはあたしの命令に逆らえないのよ。それでは対等の立場とは言えないわ。さっきあなたは政略結婚にたとえていたけど、言うなれば夫のナオさんはどんなにあたしが嫌いでも、別れるとは言えないっていうことよ」

 ミリアも反撃してきた。俺はそんなこと気にはしないんだが、ま、あれがミリアの矜持なんだろうな。

 「全く……ならさっさと解除しちゃえばいいじゃない」

 そう言われたとたんに、ミリアの目がまん丸になった。

 「ナオさんにかかってるのって、ある種の服従強制なんでしょ? だとしたら、解除はとっても簡単だよ? ミリアさんの命を守るっていうすり込みは、本能までいってると思うからちょっと無理だろうけど、これは惚れた女のことだもん、男が命を張って自分を守るのは、強制じゃなくって当然のことって割り切ってね」

 「それは、その……でも、どうやって?」

 俺も聞きたい。

 「簡単なことよ。命令すればいいんだもん。ナオさんは基本的にミリアさんの命令に逆らえない。なら、こう命令したらどうなるの?
 『汝、ヤガミナオは、以後私及び私と同様の存在からの命令に囚われることなく、己の判断によって己の思うままに行動すること、そのためには上位者に対するあらゆる反抗も許されることを、絶対の最上位優先度で命じます。この命令は、以後他のいかなる命令を持ってしても、解かれることは永久にありません』
 ってね。名前を支配された精霊は、その使役者自身によって解放されると、二度と他の人物に使役されることはなくなる……ファンタジーのお約束だよ」

 俺も、ミリアも、アキトも……皆あっけにとられていた。
 まさにコロンブスの卵。いわれてみればその通りじゃないか。
 そしてミリアの顔に、しばらくぶりに……本当にしばらくぶりに、笑顔が戻った。
 そしてミリアは、女神のように俺の前に立つと、厳かに宣言した。

 「汝、ヤガミナオは、以後私及び私と同様の存在からの命令に囚われることなく、己の判断によって己の思うままに行動すること、そのためには上位者に対するあらゆる反抗も許されることを、絶対の最上位優先度で命じます。この命令は、以後他のいかなる命令を持ってしても、解かれることは永久にありません」

 ハルナちゃんがいったことそのまんまだったが、そのとたん、俺の中で、何かが変わった。
 俺は笑って立ち上がると、目の前のミリアを抱きしめ、有無を言わさずその唇を奪った。
 たっぷり30秒後、唇を放して一言。

 「もう一度いう。結婚してくれ、ミリア」

 「……はい」

 その言葉に、今までのような迷いはなかった。



 「ね、ハルナお姉ちゃん、ヤガミのおじちゃん、お姉ちゃんと夫婦になるのかな?」

 「たぶん。今度からはお兄さんって呼んであげないとね。ところでお兄ちゃん、この後どうするの? 攻める? 一度引く?」

 「攻めたいところだが、ミリアさんやメティちゃんの身の安全が優先だ。ここは一度引く。なに……逃がしはしない!」

 「はいはい。この人たちは捕まえていこうね。大切な証人だから」







 >TETSUYA

 俺は半ば呆然として、この茶番劇を見ていた。
 あの女……なんで生きてやがるんだ?
 馬鹿な部下が撃った銃弾は、確かにあいつの頭を貫通していたはずだ。脳味噌を吹っ飛ばされた人間が、生きていられるはずがない。百歩譲ってそれが俺の勘違いとしても、崖から落ちたあいつが、何故……
 そこで俺は気がついた。さっき俺は、どういう結論にたどり着いた?
 あの女も……出来るっていう訳か。
 となれば……逃げる訳にはいかない。
 ここにとどまれば、俺は間違いなくあいつに殺されるだろう。だが……ここで引いたら、おそらく俺は、永久にあいつに関われなくなる。上が俺を『処理』するかどうかは五分だが、以後あの戦鬼様に関わることは出来まい。
 何より俺自身が知りたくなっていた。
 テンカワアキト……漆黒の戦鬼。
 あいつはどうやら、俺の思惑を遥かに越える何かだ。
 テンカワアキト単独なら、まだネルガルが作り上げた虚像だったかも知れない。
 だがあの妹……テンカワ ハルナ。あれはネルガルが作ったモノかも知れないが、あれはネルガルとは相容れない。明らかに企業の論理を越えた、個人の理で動いている。
 あれが関わっている以上、テンカワアキトはネルガルの人形のはずがない。
 俺は久々に興奮していた。英雄の仮面を剥がす、昏い情熱ではない。
 『本物』を見つけたときの、熱い興奮だ。
 この心地よさのためなら、この命をチップにするのも悪くはない。
 となれば脱出は論外だが……悪あがきはしておいた方がいいな。
 幸い、馬鹿な部下は全員捕まった。ライザも外に出ている。
 俺は基地を封鎖すると、記録システムを全開にした。
 さあ、戦鬼様よ。
 お前は俺に、なにを見せてくれるんだい?







 >NAO

 今の俺に怖れるものはない。といっても、別になにが出る訳じゃあなかった。
 出口は封鎖されていたが、ハルナちゃんが一睨みしたら勝手に開いた。
 さすがマシンチャイルド。こういうのはお手の物か。

 「ところでお前、どうやってここまで来たんだ?」

 出口を聞いたところで、アキトはハルナちゃんに聞いていた。

 「お兄ちゃんと同じだよ」

 ハルナちゃんはそう言ったが、アキトの奴は引きつっていた。

 「おい、それはどういう意味だ。お前、メティちゃんつれてきたんだろう?」

 「心配しないで」

 ハルナちゃんの答えは簡潔だった。

 「それよりさ、そろそろ片を付けた方がよくない? いくらブラックサレナでも、オートじゃそろそろ限界だよ?」

 「……そうだな」

 まだ何か聞きたそうだったが、アキトはそのままうなずいた。

 「こっちは大丈夫。お兄ちゃん、大詰めだよ。思う存分、やってきな!」

 「ああ、そうする」

 そう言ってアキトは、腰に付けた機械のスイッチを入れた。
 アキトの周辺に、虹色の光がわき起こる。
 そして次の瞬間、その姿が虚空に消えた。
 ワンテンポおいて、無人兵器と戦闘をしていた黒い機動兵器……ブラックサレナ、というらしいな……の動きが見違えるように変わった。
 すさまじい機動で、周辺の無人兵器群を一気に破壊する。その爆炎が消えたとき、奴の姿はそこにはなかった。

 「な……やられたのか?」

 そう言った俺に、ハルナちゃんは上を指さした。

 「さあ、ショーが始まるよ。漆黒の戦鬼のワンマンショーが」

 その言葉と共に、天から黒い光が降ってきた。
 光はチューリップを貫き、テツヤの籠もっているビルのすぐ脇に落ちる。
 立て続けに降ってきた光によって、テツヤのビルは、クレーターに囲まれた大地の上に立っている柱になってしまった。
 海水浴なんかでやる、砂山を使った棒倒しみたいだ。倒れる寸前の柱。

 「おーおー、こりゃ時間の問題だね」

 やがて急降下してきた機体の両手には、それぞれにDFSが握られていた。
 さらに遠くから聞こえてくる、機動兵器の音。

 「あ、騎兵隊まで来た」

 そちらを見ると、白銀の空戦フレームを先頭にした部隊が迫ってくるところだった。

 「でも、たぶん出番ないな、あれじゃ」

 そして、その通りになった。







 >ALISA

 アキトさんを追っての緊急出動。しかしその先にあったのは、意外なものでした。
 チューリップと、無人兵器の反応。私たちはあわてて司令部と、アキトさんの機体に連絡を入れました。
 司令部からは、チューリップに対する攻撃命令が来ました。当然のことです。
 けど……アキトさんからの返事はありませんでした。
 そんな私たちが現地にたどり着いたときそこに見たのは……破壊し尽くされた施設と、チューリップや無人兵器の残骸、その脇にたたずむ、あの黒い機動兵器、そして……

 「ナオさん! ミリアさん! それに……は、ハルナさんにメティちゃん!!

 私は大慌てで司令部に連絡をいます。

 「司令! た、大変です!」

 「どうした、アリサ」

 「は、ハルナさんと、メティちゃんが、い、生きてました!

 「なにいいいっ!」

 私だってびっくりです。おっと、取りあえず報告を続けないといけません。

 「後、ナオさんとミリアさんも無事のようです。今、全員がそろっています」

 「よし、直ちに保護しろ!」

 「了解」

 私はエステを彼らのそばに下ろし、私も下へと降りていきました。
 何より、ハルナさんとメティちゃんを間近に見たかったというのもあります。

 「みなさん!」

 エステを降りた私は、もう我慢出来ませんでした。

 「やっほ、アリサちゃん、心配掛けてごめん。見ての通り、みんな大丈夫だよ」

 「ハルナさん……無事だったんですね……」

 やがてほかのエステもぞろぞろと降りてきます。そして、Moon Nightのみんなが、ハルナさんたちを取り囲みました。

 「ナオ、無事だったか!」

 「ミリアさんも何ともないようで」

 「ハルナ! お前、よく無事だったな!」

 もう大騒ぎです。これで後続の司令たちが加わったら、どうなっちゃうんでしょう。
 あら、そう言えば……

 「ね、ハルナさん、アキトさんは?」

 「お兄ちゃん?」

 そう答えると、ハルナさんは、じっと中央の建物を見つめていました。

 「今……決着を付けにいってるよ」

 「決着、ですか……」

 「うん。駄目だよ、邪魔しちゃ。これは、お兄ちゃんが付けなきゃいけない決着なんだ」

 あの、狂気に囚われた、アキトさんの付ける決着……。
 暗くなる私を元気づけるように、ハルナさんは言いました。

 「大丈夫。お兄ちゃんはそこまで馬鹿じゃないよ。詳しいことは、帰ってきたらみんな話してくれると思う。だから、今は……待とう」

 私には、うなずくことしか出来ませんでした。
 と、突然ハルナさんがびくっと体を硬直させました。そして、

 「あの馬鹿ちん兄貴! 血迷ったか!」

 そう叫んだと思うと、突然どこからともなく虹色の光が発生し……
 ハルナさんは消えてしまいました。

 な……何ですか、今のは。

 ナオさんも、ミリアさんも、Moon Nightのみんなも、その場で凍ってしまいました。
 ただ1人、メティちゃんを除いて。

 「大丈夫だよ。お姉ちゃんは、天使様だもん。きっと、アキトお兄ちゃんを助けにいったんだよ」

 「て、天使?」

 ミリアさんもあっけにとられています。

 「うん、天使様」

 メティちゃんは、自信たっぷりにいいました。

 「ハルナお姉ちゃんはね、天使様なんだよ。だからあの時も、メティを助けてくれたんだよ」

 はあ……天使様、ねぇ。あのハルナが。
 でも……こんなことばっか起こっていると、本気にしたくなります。
 きっちり説明してもらいますよ、ハルナさん。







 >TETSUYA

 そして今、俺の前には、一匹の『鬼』がいる。
 テンカワアキト、通称、漆黒の戦鬼。
 最強のエスバリスライダー、西欧の救世主。
 数々の異名はあれど、今の俺の前にいるのは……
 昏い瞳をした、『鬼』だった。



 「起死回生の一発も、やっぱり当たらなかったか」

 そう、俺は奴がここに入ってくるとき、銃を撃った。
 ま、狙いは悪くなかったと思うが、そう当たるもんじゃないな。
 現にあっさり躱されて、一発イイのをもらっちまった。

 「何故、撃った?」

 そんなことまで聞いてくる。

 「いや……ひょっとしたら当たるかな、と思って。何せ奇跡は起こりうるっていうことを、目の前でたっぷり見ちまったしな」

 俺は皮肉げにそう言って笑った。
 そして、目の前の戦鬼様は。

 「もう……終わりだ」

 手にした銃の照準を、俺の額に合わせた。
 その引き金が、ことりと落ちる。
 別に自分の一生を、思い出したりしなかったな……
 それが、俺の感想だった。
 目の前に、虹色の光が広がる……ん?
 俺の前に、どこから現れたのか、あの女が立っていた。
 テンカワハルナ。殺しても死なない、変な女。
 そして俺の前で、振り向きざまに叫んだ。

 「あった−っ! 痛いじゃない、お兄ちゃん!」

 そして、『鬼』は。
 間の抜けた顔をしていた。



 「ハルナ! 何故ここに!」

 俺の目の前で、戦鬼様が驚いている。

 「それに今、当たってなかったか!」

 そうじゃなきゃ、俺に当たっていたよな。でも俺が生きているっていうことは、弾が逸れたっていうことだ。
 じゃあ、その弾はどうなった?
 しかしテンカワの妹はそれには答えず、兄貴を罵倒した。

 「なに殺しなんかしてるのよ。情報の消し忘れがないかと思ってここの回線覗いてみたら、いきなり銃突きつけてるじゃない。そういうことからは足洗ったと思っていたけど、またやる気だったの?」

 「だがこいつを……俺は許してはおけない」

 それはすさまじい鬼気だった。こいつ……何人殺した? それも戦場じゃない。これは……命乞いする相手を殺してきた奴じゃないと身に付かない類の気迫だ。戦場で殺しをやった奴の気とは、明らかに違う。
 説明しづらいが……気配に怨念がべったりと貼りついているのだ。戦場の気には、これがあまりない。戦場帰りの奴の気は、もっと澱んだカオスの気配がする。だがこいつの気からは、殺した奴の顔がはっきり浮かんでくる。
 俺と同質の気だった。だから分かる。こいつはそういうことをしてきた奴だと。
 しかし妹は、その気をさらりと受け流した……受け流し、だ。無視したんじゃない。こいつは……知っててそれをかわした。
 こいつもただもんじゃねえな。
 そして奴の手から、拳銃を奪い取る。
 何というか、綺麗な早業だった。戦鬼様があっけにとられている。
 そしてこいつは……銃口をこめかみに当てて、ためらうことなく引き金を引いた。

 ガァァァァンッ!

 激しい轟音が響き渡る。妹は……そのままそこに立っていた。

 「あたしの頭蓋骨、この程度の銃じゃ傷一つ付かないよ。それとお兄ちゃん、もう……復讐心で人を殺すのはやめなよ……あっちのお姉ちゃんも、絶対喜ばないよ」

 こめかみからひしゃげた鉛玉を剥がしながら、そんなことをいう。このパフォーマンスに、戦鬼様も度肝を抜かれていたようだ。

 「それじゃ……あの時、撃たれたのは」

 「血が出ただけ。ショックで落っこちたけどね」

 俺はそれを肯定する気にはなれなかったが、黙って聞いていた。
 だって、よう。こんな面白い漫才、邪魔する気になんかなれるかってんだ。

 「ハルナ……」

 戦鬼様は、心配そうに妹の名を呼んだ。

 「お兄ちゃん」

 妹もそう答える。

 「今彼を殺したら、元の木阿弥だよ。そんなことじゃ、お兄ちゃんの目的は、絶対達成出来ない。違う?」

 「それは……」

 「じゃ、聞くけど、お兄ちゃんの目的は、身内から犠牲者が1人出たくらいで止まっちゃうほど安っぽいものなの? それとも和平なんてお題目で、居心地のいいぬるま湯につかっていたいだけなの? どっちなの?」

 「……知ってたのか? ハルナ。俺の……目指すものを」

 「当たり前でしょ」

 俺の目の前で、何か重い話がなされていた。その様子に……俺の忘れかけていた何かが甦りはじめた。

 「あの夜、どこから来たのか聞かれたときに、あたしは言ったはずよ。ナデシコのことは何でも知ってるって。そんなあたしが、お兄ちゃんの目的くらい、気が付いていないと思ってた?」

 「そういえば……木連のことも、知っているって言ってたな」

 木連……だと? こいつら、そこまで知ってたのかい。

 ……まあ、今更か。

 と、妹は、服のポケットから、ここに備蓄されていたはずのHレーションフードバーを取り出し、おもむろに凄い勢いでかじりはじめた。
 みるみるうちにそれは消え失せていく。ほんの一分足らずで、それは跡形もなくなった。

 「ごめんね。ジャンプするとあっという間に燃料切れ起こしちゃうから」

 「燃料切れって……お前、自力でジャンプ出来たのか!」

 なんか戦鬼様、この妹には振り回されているな。
 ジャンプ……例の、ボソンジャンプとかいう奴か。なるほどねぇ。こりゃ便利だ。ネルガルが独占したがる訳だぜ。

 「その話はいずれまた。今はそんなこといってる場合じゃないでしょ」

 「……それもそうか」

 そりゃそうだろ。俺はさっきから、笑いを堪えるのに必死だった。
 見てて飽きないな、この兄妹。

 「じゃあ、どうする気だ」

 そう聞かれた妹は、俺の方を向いていった。

 「聞かせてくれない? テツヤさん。あなたが何故、こんな事をして来たのか、その訳を」

 「聞いてどうするんだい? どうせ俺の運命は決まっているんだろう?」

 さて、何というかな、この面白い妹さんは。

 「うちの馬鹿兄貴にわからしてやって欲しいのよ。この世の現実っていう奴を。全く……漆黒の戦鬼なんて呼ばれていい気になっている割には、こういう方面には疎いんだもん」

 そういった妹の目は……底が知れなかった。ある意味人生の深淵を覗いてきた、そんな目をしていた。

 「お前……どういう生き方してきたんだ? 普通お前みたいな小娘は、そんな目にはならないぞ?」

 俺は素直な感想を言った。馬鹿兄貴(いいねぇ、このフレーズ)も、何か興味深げに妹を見ている。

 「まあ、お兄ちゃんの思っている以上に、結構いろんな目に遭ってるよ。サクヤ母さん、結構情愛には無頓着な人だったから。気にすると思ってたから、何にもいわなかったけど。今更何言っても愚痴にしかならないしね。もう……終わったことだもん」
 そういう妹の目は、何か、泣くのを堪えているみたいだった。

 「ハルナ……」

 馬鹿兄貴も、心配そうに妹を見ている。
 そして俺は。
 話してやってもいいかと思った。というか、このまっすぐな馬鹿兄貴をからかうのは、案外面白そうだ。
 ならよけいな脚色はしない方がいいな。生でも充分迫力があるし、嘘が入らないだけ、たぶんこの馬鹿兄貴は衝撃を受けるだろう。
 よく聞けよ、シスコン馬鹿兄貴。
 特別大サービスだ。



 俺の親父は、フリーのジャーナリストだった。
 結構有名な男で、政府機関や企業の不正を暴いたり、逆に心温まるニュースを提供したり。まあ、超とまではいかないまでも、一流の上位にはいただろう。
 けど、世間が知っているのは、親父の半面でしかなかった。
 親父はある企業の工作員でもあったんだ。
 企業に敵対する政治家やライバル企業のスキャンダルを暴き、社会的に抹殺する工作員さ。時には自社の、致命的にならない、あるいは切り捨てる人間の不正も暴いたりして、一見偏りがないように見せていたりもしたがな。
 そんな親父は、ある日自社の、モノホンの不正を握った。
 飼い犬に手を噛まれかけた企業は、親父に圧力を掛けた。
 俺たちの命をつかってな。
 そして親父は……あっさりと俺たちを捨て、その情報を、その企業と同等規模のライバル会社に売った。
 結構な痛手を受けたその企業は、残された俺たちに報復した。
 馬鹿だよな、その企業も。親父が俺たちを捨てた時点で、俺たちに人質としての価値がないことくらい気づいていても良さそうだったのに。
 俺たちを襲ったことすら暴かれて、恥の上塗りさ、その企業は。
 ま、親父にとって誤算だったのは、俺が瀕死の重傷を負いながらも生きていたことだろう。
 俺は親切な人……事件の担当をした中年の刑事に引き取られた。養子に入ることによって、名前も変えた。
 その人は、親父のファンだったんだ。そして、こういう襲撃が、まだ続く可能性を考えて、俺を引き取ってくれた。
 そのころ、俺は親父は死んだと思っていた。そして、刑事にならないかとも誘われて、警察学校にも行ったが、結局俺は、親父と同じ道を選んだ。
 ジャーナリストの道だ。
 親父ほどの活躍は出来なかったが、これでも結構悪名高かったんだぜ。脅しに負けずに正義と真実を貫く、熱血ジャーナリストとしてな。今となってはお笑いだがよ。
 そして俺は……ある真実を掴んだ。
 親父が、名前を変えて生きていることを。
 しかも……新しい家族と共に。
 笑っちまうぜ。そこにいた親父の娘は、俺の妹と同い年だった。その頃っからのつきあいだったってことさ。
 あっさり家族を捨てる踏ん切りが付いたはずだ。
 そして俺は、親父の隠された半面を知った。
 その時かな……何かが壊れちまったのは。
 そして俺は、ある会社に工作員として所属することになった。
 そう、親父はクリムゾンの工作員だった。そして、親父を匿っていたのは……ネルガルだ。
 クリムゾンが火星の進出に後れをとったのは、親父のせいだったんだぜ。
 俺はクリムゾンに入ったことで、親父の所行を、完全に知ることが出来た。
 そして……俺は親父に復讐した。俺がやられたようにな。
 親父とその恋人はぶち殺し、妹は犯した。
 そういやお前らも母親違いの兄妹だったな。よう、戦鬼様。あんた、そこにいる妹を、『妹』という目で見られるかい? いや、そんなことはないだろう。今じゃ慣れてんのかも知れないが、最初は見ず知らずの『女』でしかなかったはずだ。
 こうしてみると、スタイル抜群のいい女じゃねえか。一発決めたくはならなかったかい?



 気が付くと、俺は一発決められていた。
 さすがだねえ、戦鬼様。いつ動いたのかも分からなかったよ。
 妹が止めなきゃ、後何発殴られていたかな。

 「テツヤぁぁぁっ! キサマという奴はああっ!」

 「やめなよ、お兄ちゃん」

 激高する兄に対して、妹は不気味なくらい冷静だった。

 「世の中なんて……現実なんて、そんなものなんだよ。お兄ちゃんだって、復讐のために何人殺したの? 1000や2000じゃきかないでしょうに。やっちゃったことを責めたって、現実は変わらないんだよ」

 な……
 俺は今、何を聞いた?
 漆黒の戦鬼が……復讐のために、1000人以上の人間を殺しているだと?
 しかも兄貴の様子からすると、ガセじゃねえな。
 それに……それならひどく納得が出来る。
 この男の抱えている、あの鬼気が。

 「それにね。世の中には、妹を抱ける男なんか、ごろごろしてるよ。娘を妊娠させる親だっているし」

 おうおう、言うねぇ。ドメスティック・バイオレンスですかい?
 だが、馬鹿兄貴はそれを聞いて真っ青になりやがった。

 「ハルナ! それは……」

 「はいはい、言いっこなし。昔のことよ、昔の……。単なる実験なんだし」

 「実験といったって……」

 「つべこべぬかすな! お兄ちゃんだって奥さん取り戻すのに10000人はぶっ殺してるんでしょうが。人間ね、目的のために手段を選ばないのは、ある意味当然なの。その目的が、重ければ重いほど。今更腹違いの妹犯したくらい何よ」

 な、何ともワイルドなご意見で……。
 けど、俺の頭は今フル回転していた。
 こいつらのいっていることには、矛盾が多すぎる。
 こっちの調査では、テンカワアキトが過去結婚していたという事実はどこにもない。
 おまけに10000人殺しただと? そんなことがあれば、隠蔽は不可能だ。だいたい、時間が合わない。こいつの人生に、そんなことをする暇はない。
 だが同時に、こいつらが嘘を言っていないことも、また確かだった。10000人殺すような真似をしているなら、あの腕の冴えも、身に纏う鬼気も、全て納得がいく。それに妹の台詞に対する兄貴の態度、ありゃあ演技のわけがない。図星を指されてうろたえている男の顔だ。
 くっそう、気になる。気になりすぎるぞ、この兄妹。
 そんなことを考えていたら、妹がこっちを見て言った。

 「ほら、テツヤさん、引いちゃったじゃない。妹を犯すぐらいでなによ。何なら犯してみる?」

 「冗談でもそんなことを言うなっ!」

 妹、馬鹿兄貴に本気で殴られてやがんの。あれは痛いぞ。

 「う〜、ごめん、お兄ちゃん。で、テツヤさん、続きは?」

 はいはい。続けてやるよ。もうちょっとこの兄妹漫才、見ていたかったんだがな……



 親父をぶっ殺してからの俺は、まあ、ろくでもないことばっかりしてきた。
 そうそう、笑っちまうのは、親父の愛人、元々ネルガルが親父を引き込むためにあてがった工作員だったらしい。ま、女が本気になっちまったのは、ネルガルにとっても誤算だったようだが。
 けど親父はその女のためにクリムゾンを裏切ってネルガルについた。妹……チハヤとかいったな。そいつも、親父とおふくろに愛されている顔をしていた。幸せな家庭だったんだろうな。
 俺は妹だけは殺さず、代わりに親父の真実を全部ぶちまけてやった。
 そしたらあいつ、ネルガルのSSに入りやがった。俺に復讐でもする気なのかね。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 そうして真面目に仕事をしていくうちに、俺はそれなりの地位についた。
 ある程度自由な仕事も出来るようになった。
 その頃から、ある趣味が出来た。
 英雄……偉人……人から持ち上げられ、敬われている人間の化けの皮を剥がすっていう趣味だ。
 面白かったねぇ。
 エラそうにしている人間に限って、化けの皮が剥がれるとみっともないもんだ。
 もう何人、そういう奴らの化けの皮を剥がしてきたことか。



 「そしてまわってきた最大の獲物が、漆黒の戦鬼、あんただったんだよ」



 俺はそれを言うと一息ついた。



 「けど……驚いたねえ。あんたは、『本物』だった。今までのチンケな偽物とは、モノが全然違う。どこをとっても、あんたは本当の『英雄』様だ。俺の力を持ってしても、その仮面が剥がせないほどの」

 そしてもう一度、二人の方を見る。

 「さあ、遠慮無く殺んな。元々おまけみたいな人生だ。ここいらで幕を引くのも悪くはねえ。最後に本物も拝めた訳だしな」

 しかし……二人は動かなかった。

 「死にたくないんでしょ」

 妹がそういう。

 「テツヤ……俺は、後一歩でお前と同じ人間になるところだった」

 おうおう、言ってくれるぜ、本当に。

 「もし……あの子たちがいてくれなければ、俺もまた、お前と同じように、復讐に身を焼き、そして虚無の中で、少しずつ壊れていったはずだ」

 あ……そういう意味か。
 そういえば、奥さん殺されたとか、10000人殺したとかいっていたな。

 「俺も大切なモノを目の前で奪われ、己の非力を嘆き、そして俺から全てを奪い取った相手を憎んだ」

 そう語る瞳は、あくまで昏い。

 「そう……お前と同じだ、テツヤ。お前はある意味、俺のたどるかも知れなかった、もう一つの姿かも知れない」

 ああ……そうかもな。

 「だからこそ……俺は」

 いいたいことは分かるぜ。俺も同じ気持ちだ。俺も、お前を……

 「お前の生き方を……否定「したらなんにもならんでしょうに!」

 そこに実に見事なツッコミが入った。きれいに後足刀蹴りが決まっている。
 戦鬼様は壁までぶっ飛ばされていた。
 俺はあっけにとられていた。一体……何を言えというのだ? この状況に。

 「テツヤさん!」

 ビシッ! という音が聞こえてきそうな勢いで、この妹は俺を指さした。

 「今お兄ちゃん……ううん、馬鹿兄貴で十分か。馬鹿兄貴に言われて、お互いがお互いを否定しようとしたでしょう」

 俺は思わずうなずいていた。まあ、その通りだったし。

 「これだから馬鹿兄貴なんだよね……ほら!」

 頭を打って朦朧としている戦鬼様に、妹が活を入れる。

 「な……何するんだ、一体!」

 「お兄ちゃん、馬鹿?

 怒る兄貴を、妹はさげすみの目で見つめる。

 「そりゃテツヤさんは、ある意味お兄ちゃんの同類だよ。道を踏み外して、堕ちるとこまで堕ちちゃった、さ。けどねお兄ちゃん、じゃあ何で、お兄ちゃんが体験した奇跡を、救いを、この人に分けてあげようとは思わないのよ! 相手を否定する? それはお兄ちゃんが、一番やっちゃあいけないことじゃないの! 相手を否定して和平が成り立つの! 許し合えなくて分かり合うことが出来ると思っているの! お兄ちゃんが和平を成し遂げようとする相手には……あの人たちもいるんだよ! お兄ちゃんはそういうものを全部否定して……残った、都合のいいところだけと和平をしようっていうの! それのどこが和平よ! そんなの……お兄ちゃんの独善に過ぎないわよっ!」

 何というか……圧巻だった。
 あの戦鬼様が、言葉だけで圧倒されている。
 かなり衝撃を受けたとおぼしき戦鬼様は……力無くうなだれた。

 「確かに……その通りかも知れないな。俺が和平の道を選べば……対立するにしろ、受け入れるにしろ、あいつとの対峙は、間違いなくやってくる。俺は……それを受け入れなければならないのか?

 最後のところで、言葉に力がこもり始める。同時に戦鬼様のまわりに、またあのどす黒い鬼気がまとわりつきはじめる。
 そして壁に一撃!
 奴の拳は、そのまま2センチほど、コンクリートにめり込んでいた。

 ……よく平気だったな、俺。

 「今はまだ無理してもしょうがないよ」

 一転して優しげな声で、妹は言う。

 「けど……いずれは決断を迫られるよ。和平を成し遂げようとするんなら、よく考えた方がいいと思う。喧嘩している相手を憎まずに許すのは……とっても大変なんだから。ましてや相手が……おっと、ごめん、こっから先は関係ないや」

 そして口を濁したまま、俺のほうへ向かっていう。

 「ねえ、テツヤさん……やり直してみる気、ある? 何年かは罪を償わなきゃならないと思うけど、今なら工作員をやめて、別の生き方が出来るかも知れないよ」

 ふっ、言ってくれるじゃねえか、お嬢ちゃん。
 確かに、そうしてみたい気はある。
 お前さんたち二人という、面白すぎるネタも見つけちまったしな。
 だけどな……もう、遅い。

 「そうだな……答えは……これだっ!

 俺は、今の今まで隠し持っていた、左手の中の物を握りしめた。
 そう、お約束の自爆装置という奴だ。

 「テツヤっ!」

 「きゃっ!」

 激しい振動と共に、コンクリートのガラが上から次々と落ちてくる。

 「おい……どうせお前たちは、ジャンプとかで外に出られるんだろう? さっさと逃げな」

 激しい揺れの中、戦鬼様が叫ぶ。

 「まずい、ハルナ、脱出するぞ!」

 「うん……ごめんね、テツヤさん。それが、あなたの……答えなのね」

 「そういうことだ」

 戦鬼様が何かスイッチを入れると、あたりが虹色に輝きはじめた。

 「来い、ハルナ」

 「は〜い」

 間の抜けた声で、妹も光の中にはいる。

 「いくぞ……同調しろ……ジャンプ……なっ!! ハルナっ!

 光の中、俺は戦鬼様が死ぬほど慌てる顔を、とっくり拝むことが出来た。
 妹の奴……声だけ合わせて、光の中から飛び出しやがった。

 「心配しないで、お兄ちゃん」

 瓦礫をかわしながら、にやりと笑う。

 「あたしねぇ、こういう自己犠牲男大っ嫌いなの! このまんま死なせてたまるもんですか!……といっても無理かも知れないけど、ギリギリまで粘ってみる! 大丈夫、自力でジャンプ出来るから!」

 「くっ……すぐ出てこい!」

 そういいつつ、戦鬼様は、光の中へ消えていった。







 >SHUN

 「全く……一体何が起こっているんだ?」

 俺は取りあえず保護したナオに聞いてみた。
 とにかくさっぱり訳が分からない。メティちゃんは天使がどうのこうのとしか言わないし、ミリアさんは疲労でダウン。アリサは目の前でハルナ君が光と共に消えたとしか言わない。
 しかし……最後の当てにしていたナオの答えも、ほかと一緒であった。

 「まあ……説明出来るのは、アキトと、後ハルナちゃんだけです。二人が戻ってくるまで、何か言いたくても言えませんよ」

 「打つ手、無し、か」

 「まあ……きっと帰ってきたら話してくれますよ」

 カズシにまで慰められる始末だ。

 「けど……よく生きていられましたね、ハルナさん」

 「ああ、よく分からんが、彼女、一種の瞬間移動みたいなことも出来るらしいな。その力で窮地を脱出したらしい。お前はどう思う、クラウド」

 クラウドはしばし首をひねっていたが、結局言った言葉はこうだった。

 「情報が足りません。やっぱりアキトさんに聞くしかないですね」

 その時、妙な地鳴りがした。

 「いけません! どうやら敵は、基地を爆破する気です!」

 クラウドが警告する。いわれるまでもない。
 俺たちはあわててその場から逃げ出した。
 ちょうどその時だった。
 アキトの乗ってきた黒い機動兵器……ブラックサレナというらしいが、そのコックピットのあたりに、なにやら虹色の光が発生した。
 そして、さっきまで無人だったはずのコックピットから、アキトの奴が降りてきた。
 なるほど……瞬間移動ね。あいつ、いくつ隠し球を持っているんだ?

 「アキト!」

 「アキト!」

 「アキトさん!」

 いくつもの声が、アキトを取り囲む。

 「アキト……決着は、ついたのか」

 俺は揺れ動く敵の基地の様子から、何となく結論を悟っていた。
 しかしアキトはそれには答えず、じっと基地のほうを見つめていた。

 「ハルナが……まだあそこに残っています。ギリギリまで、説得するって……」

 「おい、そりゃ一体!」

 カズシが驚きの声を上げる。

 「いいのか?」

 「よくはありません」

 アキトは、視線を全く動かさずに答えた。

 「もう一度ジャンプして基地の中にいくのは無理です。今の基地は、自壊しているせいで、最初の時のようなサポートを受けられない……。かといって外から破壊して侵入することも出来ない。待つしか……出来ないんです」

 「そうか……なら仕方ないな」

 聞きたいことはいっぱいあったが、この様子では答えてはくれないだろう。
 俺たちはじっと、ハルナ君の帰りを待った。
 が、俺たちの目の前で、基地は崩壊した。
 出入り口は……もはやどこにもない。うかつに掘り返すのも危険であった。



 彼女が戻ってきたのは、それから約1時間ほど後のことであった。
 虹色の光と共に、彼女は虚空から現れた。
 そして、燃料切れ時特有のスローモーな声で、しかしはっきりと言った。

 「ごめん……」

 そう、一言。
 目には、涙が浮かんでいた。
 アキトは何もいわず、ハルナ君をぎゅっと抱きしめた。



 「アキト……説明は、してくれるんだろうな」

 「はい。ただ……長い話になります。ほかにもいろいろ話さなければならないことがありますので。基地に戻ってからでいいですか」

 「ああ……お前も、大分疲れているみたいだからな」



 こうして、一連の騒動は、敵の自爆で幕を閉じた。



 「ハルナ……今は、ゆっくりと寝ていろ。基地に着いたら、美味しいもの、たっぷりつくってやるから」

 「うん……」







 「……な〜んちゃって」







 外伝最終回、『戦神帰還』につづく。








 あとがき

 ハルナ節、大爆発しました。
 でも……怖い、この娘。また代理人に何かいわれそうだな……
 アキトとの会話、全て計算ずくだし(爆)。
 アキト、確実に精神汚染されていくような。
 ハルナの真意がどうであったのかは、外伝i話(虚数かよ!)、『魔女暗躍』でたっぷりと聞けますのでお楽しみに。
 次回の外伝最終話と一緒にお届けの予定です。
 こちらでダークサイド・ハルナの真の姿が明らかになるでしょう。
 ひどい娘です。ホントに。



 今回焦ったのは、アキトとテツヤの対面シーンでした。
 原作準拠の予定だったのですが、どうも話が上滑りする。
 キャラに魂が入りません。
 外伝ではアキトの一人称はないので、テツヤの視点から見ていたのですが、やむを得ずアキトの視点に切り替えてみたら……
 アキト、いきなりテツヤを殺しにかかりました。いや〜、焦りました。
 ここでテツヤをアキトが殺してしまったら、バッドエンド確定。ハルナ、焦りまくりましたね〜。
 そこではたと思い当たりました。
 サイトウが救済されてしまったため、アキトは反省してないんです。弱き者の視点から、自分を見つめ直していないんです。
 ハルナがそれに気がついたのが、アキトがテツヤの所に向かった後でした。
 だからあそこのハルナ、なりふり構っていません。
 裏設定的には矛盾していないんですが、アキトや、アキト準拠のラピスあたりから見たら明らかにおかしいことを、ハルナ連発しています。
 読者の方はどのくらい気がつくでしょうか。
 隠し技も、大分使ってしまいました。
 これは作者の思惑を越えた出来事です。いい意味で、作者にも話の流れが見えなくなってきました。
 幸い最終話は謎解きオンパレードの話です。ストーリーはあまり動きません。
 そして本編に戻れば、またナデシコのみんなと、そしてアキトの視点で話を語れます。
 ハルナは、どう動くでしょうか。



 ここではっきり言っておきますが、ある意味ハルナは『無敵』です。
 『神』といってもいいかも知れません。
 個人的には、出来ないことはほとんどありません。
 ですが、そんな彼女も、激変する環境には、こうして振り回されていきます。
 ここまでは、ある程度『攻略本』を見てきた彼女も、後半は己の才覚を要求されはじめます。
 ハルナの敵は、『歴史の流れ』そのものなのですから。
 彼女の目的は、どうなるでしょうか。
 そして話は、ゴールに到着出来るでしょうか。
 作者も、とっても楽しみです。

 

 

 

代理人の感想

 

「私、おでこで釘が打てるんです」

 

 

・・・・・いや、そんなフレーズがぐるぐるとね、頭の中をですね。

しかもなぜか「奥様ショッピング」(「万国びっくりショー」かもしれない)よろしく

五寸釘つまんでにっこりしてるハルナ、という情景までつけて(爆笑)。

電波か? 電波なのかっ!?

 

 

まぁ、つかみはこれくらいにしておいて(爆)。

 

 

「策士」ってのはほとほと怖いですねぇ。

直接的な暴力、権力もそりゃ怖いですが「策士」と呼ばれる種類の人間を敵にすると

(もちろん、敵にしないに越した事はないですが)

自分を取り巻く「世界」その物、あるいは「自分」その物が崩壊してしまうような恐怖感があります。

某割烹着の悪夢しかり、某幼妻(笑)しかりですね。

自分の行動が自分で決めた物ではなく、誰か他人の決めた事に従って動いているだけだとしたら?

釈迦掌上の斉天大聖の如く、他人の掌で踊らされているだけだったとしたら?

これに勝る恐怖はそうそうないでしょう。

 

まぁ、テツヤはまだしもアキトは全然気がついてないようですが(爆)。

次回、魔女に見こまれた哀れな生贄(注:テツヤ)の運命や如何に(爆笑)!

 

 

 

後、管理人の本編を読んだ時から思ってたんですが、

テツヤって実は物凄いロマンチストの素質がありますよね?

「英雄」と言う存在(ひいては父親の虚像)に対する憧憬しかり。

(彼の「英雄の仮面を剥ぐ=偽の英雄を暴く」という行動は憧憬の裏返しと言って差し支えないでしょう)

わざわざアキトを誘いこみ、一対一を演出した事然り。

悪の秘密組織の幹部の如く(と、言ったら「ある意味そうじゃないですか」と言われました(笑))

最後の最後でお約束とばかりに押す自爆装置のスイッチしかり。

他にも、初登場時にわざわざ自身アキト達の前に姿を現したりと、結構芝居がかった事が好きなようです。

 

 

 

なんだ、テツヤって実はガイの同類じゃん(核爆)。