巨大企業ネルガル。
そこに勤務する、会計のオッチャンは悩んでいた。
しきりにこめかみを押さえ目の前に高く高く積まれた書類の処理に追われていた。
そして、そのほぼ9割が自分の部下の不始末から来た、始末書。
不始末…と言うか規定外の行動を取り過ぎてその苦情に追われたと言うのが偽らざる事実なのだが。そして、その事に対して盛大にブッち切れているのがネルガル現会長の会長秘書。キャリアウーマンと言っても良い叩上げの女性。
毎日のように小言と女性独特の金切り声でヒスを起こされてはたまったものではない。

「いやいや…困りましたなぁ」

オッチャンはずれた眼鏡をくいっと人差し指で直すと深い深いそれはもう深海のような溜息を吐いた。事の顛末は五日前。どうせ始末書が来るのは解っていたが、まさかここまで盛大にやってくれるとは流石のオッチャンも予想できなかった。

「テンカワさんはまだ良いのですが…」

そう言ってオッチャンは先程言った「テンカワ」と名の入った始末書の束を手に取った。
ペラリと捲れその枚数がわかる。どう数えても両手の指で足りそうな数だ。

「それに比べあの男ときたら…」

チラリ、と「人生に疲れちまったよオラァよォ」と体全体で語りながら机の上どころか床にまで積まれている書類に一瞥くれ、落胆の溜息をついた。思い出すとこめかみから眉間にかけて一気に青筋が起つのがわかる。
一体五日前に何があったのか…。
それは永遠の謎かもしれない。





















機動戦艦ナデシコ
Lone wolf
プロローグ:黒い王子様






















「あまり出力が良くないな」

銀髪の青年がモニターに出たプログラムの羅列を見ながら落胆したように呟いた。

「しかし、今までに比べれば格段の進歩ですよ?」

白衣に身を包んだ研究者のスタッフが青年の言葉に憮然としたように反論した。それに対して青年は軽く頷き同意を示した。しかしその表情はあまり冴えたものではなくどちらかと言えば苦虫を噛み潰したような何とも言えない表情をしていた。

「何か問題でもあるって言うんですか?僕達だって必死なんですよ」

多少憤りの表情をした研究者が青年を見ながら語気を荒げて言う。プロジェクトも大詰めに迫って来た為、寝る間も惜しんでたった一つの機動兵器に手間隙をかけて来たのだ。それなのにこんな評価では怒りも覚えると言うものだ。

「解ってる。解ってはいるが、これじゃ最新型に毛が生えた程度だ」

「簡単に言いますけどねっ!その毛が生えた程度にするのにどれだけ苦労したと思ってるんです!」

それに対して青年はしまったと言う表情ですまなそうに謝った。

「まぁ、善処しますけどね…。あまり期待しないで下さいよ」

研究員はそう言うとモニターに向かいプログラムと挌闘し始めた。
青年はその様子を見ると小さく溜息を洩らし、頭をポリポリと掻いた。

──解ってるんだけどな、あんまり遅れるとまた負けちまうから、な

青年は心の中でそう呟くと研究室を後にした。
プシューッという空気の抜けるような音と共にドアが開き、部屋から出た青年はその外で待っていた金髪の男に話し掛けた。

「待った?」

青年はすまなそうに苦笑しながらその男に話し掛けた。男はジロリと青年を見ると小さく頷いた。足元に煙草の吸殻が山となって積み上げられていた。余談だがここは禁煙である。精密機械を扱う為、煙草を吸うなど許されない。

「ここは禁煙だよ。バイツ」

「知らないな。そんな事」

バイツと呼ばれた男は縋っていた壁から身体を離すと大きく欠伸をした。そして、青年を見ながら口元を緩め言った。

「お前も共犯な、アキト」

したり顔でニヤリと笑いバイツは、アキトと呼んだ青年の右手を指差した。するとそこにはアラ不思議。しっかりと吸いかけの煙草を掴んだアキト君がいた。

「って、なんでじゃいッ!」

ビシィッ!と地面に煙草を叩きつけバイツを睨んだアキトはふぅっと溜息をついた。もう何年も付き合ってきたこの男には何を言っても無駄な事を悟ってしまっていたのだ。

「で、黒い王子様は完成したのかい?」

バイツはアキトの心情などそっちのけで頭の後ろで腕を組むとアキトを見ながら聞き、そのまま歩き始めた。アキトもその隣に追いつくと同じ速度で歩きながら首を横に振った。

「まだまだ。いい所20%って所かな」

バイツはふーんと鼻で返事をすると「別に焦らなくても良いんじゃないか」とアキトをちらりと横目で見ながら言った。

「何時来るか解らないじゃないか。またあの二の舞なんて俺はゴメンだぜ」

アキトは心底嫌そうに表情を歪めた。バイツは「それは俺も同感」と返事をして、「でも」と言葉を繋げた。

「俺には、あんな化け物使いこなせねぇし乗ろうとも思わないけどな」

ちらりと廊下から吹き抜け状になった地下のドックを見下ろした。強化硝子が張られており実際には吹き抜けではないのだが、それでも視覚的にはそれだ。アキトとバイツ二人の見下ろした先に黒い機動兵器が様々なチューブに繋がれて鎮座していた。

「黒い王子様…ねぇ」

バイツが苦笑交じりにそうぼやく。それに対してアキトも苦笑を交えて「皮肉だよな」と呟いた。

「王子様が悪い魔法使いに呪いをかけられて、復讐しますってか?」

バイツがクックッと喉で笑う。アキトもそれにつられて頭をポリポリ掻きながら苦笑し、それに合わせて言った。

「お前も王子様の一部なんだぞ?」

「止してくれ。別に復讐なんてしたいとも思わない」

それに対してバイツは即座に首を振った。アキトは「じゃあ何故さ」と何度聞いたかも解らない疑問を投げかけた。返って来る言葉は決まって一つしかない。それでも聞かずにはいられない。何故なら自分は復讐の業火が未だに消えてはいないからだ。

「…楽しいから」

そう言うとバイツは人を食ったような笑い方で髪を掻き上げた。何度聞いてもこの返答しか返ってこない。チラリと再び黒い機動兵器に目線を落すとバイツは呟いた。

「乗ってからでも遅くねぇだろ?なぁ、アキト」

「スキャパレリプロジェクト、か?」

「あっちの方はあらかた出来あがってんだろ?」

そう言ってバイツは黒い機動兵器とは別の大きな物体に視線を向けた。

「ナデシコか。後は塗装するくらいかな」

アキトもそれにつられる様にして大きな物体に目を向けるとそう言った。ナデシコとはネルガルが作り出した最新鋭の機動戦艦でその性能は人間が作り出した戦艦の中では類を見ない高性能な代物だ。オモイカネと名付けられた自立型AIを搭載しており、そのオペレートは若干11歳の少女が受け持つことになっている。今も塗装最中のナデシコの中でオモイカネの教育…つまりはプログラミングを行っている真最中だろう。

「で、アキト」

「ん?何」

「お前は手伝ってやらないのか?」

そう言ってバイツは意味ありげな表情でナデシコを顎で差した。手伝うと言う事は塗装の手伝いかオモイカネのプログラミングの手伝いの事であろう。

「…ラピスもいるから俺の出る幕はないだろ」

アキトはそう言って頭を掻いた。バイツが「ふーん。所で…」と何やら悪戯めいた表情をしてアキトに話し掛けた瞬間、後方より飛来した物体で頭を撃ち抜かれた。

「ぶべらッ!?」



ガツーンとそれは良い音を出し、物凄い勢いで砕け散った。元は花瓶だったかもしれないその砕け散った物体は見事に飛散しアキトの体にも多数振りかかった。凍りついた笑顔で粉々の破片を被ったアキトにも多少の掠り傷が見えたようだがこの際、気にしないでおこう。

「お話はそれぐらいにして貰いたいものですなぁ。バイツさん」

血みどろのバイツがなんとか声の主を見るとそれはそれは爽やかな笑みを浮かべたオッチャンと目が釣り上って天井まで到達するのではないかと言わんばかりの表情を浮かべた社長秘書が立っていた。何かを投げたような恰好なのは気のせいであろう。

「あ、プロスさん。それにエリナさん。どうしたんですか?て言うかエリナさん。バイツは兎も角、俺にジャストミートしたらどうするんスか?」

「俺はええんかいッ」

「うん」

アキトの返答は光速を上回るほどの即答だった。


「嘘ッ!酷いっ酷いわ!貴方あの夜のことは嘘だったのッ!?」

途端にわっきゃわからんぶっ壊れ方をしたバイツをそれはそれは冷ややかに見ながらプロスと呼ばれたオッチャンは眼鏡をくいっと上げた。

「バイツさん。特に貴方にはたくさん言いたいことがあります」

「すいません。僕には聞きたいことがないです」

思い切り即答でバイツは頭を下げた。そして踵を返して爽やかに血ィだらだら流しながら微笑んだ。アキトは体に降り注いだ花瓶の破片を叩くと、バイツを見て悟ったように言った。「死んで来い」と。が、しかしバイツの姿はそこになく流血した覆面レスラーが立っていた。

「ワタシ、メキシコから来まシタ。タイガー・フェイス言イマす」

「つーかバレバレ」

アキトはぽんっとバイツの肩を叩いた。それを合図に黒服のごっついおっさんがバイツを抱えプロスの傍に立った。

「有難う御座います。ゴート君。さて、バイツさん。五日前の話、キチンと脚色無しで伝えて頂きたいものですなぁ」

きらりと眼鏡が光り、優しく微笑むプロス。バイツはゴートと呼ばれた男の肩の上で悲観気に呟いた。

「チョビー。おっさんの肩は嫌だよぅ。おねぃさんが良いよぅ」

因みに、チョビーとは誰かと言うとプロスの事である。口元にちょび髭を生やしている為バイツは何時の間にかそう呼び始めていた。本人はそう呼ばれる度にぴくぴく青筋を立てたりしているのだが、バイツは気にしていない。バイツの抵抗空しくそのまま連れていかれた友達をアキトは苦笑しながら見送った。因みに助けようとはしない。
何故ならとばっちりを食らうのが嫌だからだ。

連れて行かれたバイツに対するプロスの説教は五時間余りにも及んだと言う。
余りの長さに、と言うかプロスが部屋を出ていったにも関わらずバイツが何時までも出てこないのを心配したアキトが部屋に入るとそこには真白を通り越して既に灰になっていたバイツが存在した。
ふらふらするバイツをどうにか立たせ、食堂でアキトはバイツにご飯をご馳走した。
因みにアキトの料理の腕前はそこらの料理人に引けを取るものではなく、むしろ本職ですか?と聞きたくなるような腕前だった。
バイツはそれはそれは涙を滝のように流しながらカッ食らった。自分の席の隣に少女が二人座っても気付かないほどご飯以外目には入っていなかった。

「…バイツ」

一向に話しかけても返事すらしてくれないバイツを見ながら6歳前後の少女はむんずっと塩の入ったビンを掴んだ。
そして、再度バイツを呼んだ。だが、全く聞こえていない様子でわき目も振らず一心不乱に飯をカッ食らっている。

「…バイツ」

口調こそ何の変化すらなかったが、手に握られていたビンは凄まじい勢いでバイツの頭にジャストミートした。
ガッコーンと言う、凄まじい衝撃音がバイツの側頭部から聞こえ、バイツは椅子から転げ落ちた。

「へべしッ!」



その一部始終を余す所なく見てしまったアキトは口元を引きつらせ少女の頭を軽く小突いた。

「ラピス。駄目じゃないか」

アキトに小突かれた頭を押さえ涙目でアキトに無言の抗議をしたラピスと呼ばれた少女は、プイッとそっぽを向きむすっと頬を膨らませてから、がっしりと隣にいたもう一人の少女にしがみ付いた。

「ラピス、悪くない。無視したバイツが悪い」

拗ねた口調でラピスは一端アキトを見ると視線を落としチラリと、地面に沈んだバイツを見た。バイツはスプーンを握り締めたままぴくぴくと痙攣している。

「まぁ、バイツさんの事ですしすぐに復活するでしょう」

ラピスにしがみ付かれた少女はチラリと痙攣しているバイツを一瞥するアキトにチキンライスを注文した。

「待っててね。すぐ作るよ」

にっこりと微笑むとアキトは厨房に入って行った。その笑顔で少女の時が止まってしまったのは誰の目からもあきらかだった。その余波に当てられラピスの時も止まっていた。
固まる事ゆうに10分。少女はアキトの声で覚醒した。

「…リちゃん?ルリちゃん?出来たよ」

アキトの声でハッとしてルリと呼ばれた少女はアキトを見た。そして思い切り目が合ってしまい再びフリーズ。因みにラピスは食事を終えたと言うか復活を遂げたバイツと遊んでおり、しかし遊ぶと言ってもバイツの肩車だったが。その為フリーズする事はなかった。





ナデシコ完成まで後一ヶ月。
数々の思惑を携え機動戦艦ナデシコは完成する。一体どうなってしまうのだろうか。
そして一ヶ月後、王子様は悪い魔法使いを退治する旅に出るのでした。







後書き

皆様始めまして「ごんべぇ」と申します。
投稿規定を読んでいてまず思ったことが、似てる部分があるかもしれない。と言うことです。もし仮にあると言うのでしたらこの場を借りてお詫びいたします。自分自身あったとしてもどこが似てるか解らないという事があるというのも事実です。色々な作者様の作品を読んでいた為、似通っている部分はどこかに必ず存在すると思います。



機動戦艦ナデシコですが、遥か昔に一度見ただけで、(劇場版も)それ以降は全く目を通していません。ネットで色んな二次小説を読んでいた時にこのHP様に巡り合いました。それで再熱(爆)。しかし、本編は見てません。ですので、細かい設定なんて全く知りません。(汗)
読んでいて、自分も書いてみてーなーんて思い違ったので書いてみました。それにしてもはまりましたよ。それは見事に。
テレホに読み始め、気付いたら昼前。んで、バイトに遅刻しかけていました。つーか遅刻しました。(爆笑)
有難う!楽しいです。ってな訳で、筆(?)をとった所存です。以後生暖か〜い目で遠くからコソリと見てやって下さい。m(_ _)m



えー、まず物語りデスが、ナデシコキャラに関してはオリジナルの設定とキャラの外見と名前を借りた別人と思ってくださって結構です。
出来る事なら世界観をぶっ壊したくはないのですが、もしぶっ壊れてしまった場合は自分の力不足という結果です。
構成としてはTV版と劇場版の設定を借りた物にする予定です。予定は未定ですけどね…(汗)



えと、主人公ですが二人います。テンカワアキト君とオリジナルキャラのバイツ君。


テンカワ・アキト

年齢は18歳。多分TV版と同じ筈デス。
アキト君に関してですが、外見は黒髪が銀髪に変わった事くらいです。銀髪好きなんです。あと、過去設定ですがそれは追々語るとして今はまだ秘密という事で…。
機動戦では現段階で、かなりのレベルを誇っています。軍の一流エースパイロットと同等以上(二倍)位です。
白兵戦もプロスさんに引けを取りませんが、人を「殺す」という事に躊躇いを持っています。
また生に対しての渇望が異常に高く、どんな事があろうと諦めるという事をしません。物語で語った「復讐」が一番の生きる糧です。


バイツ

年齢は20歳前後。服はファーの付いたトレンチコート(謎)を愛用しています。お手手には真紅のレザーグローブをつけています。
前半は基本的にギャグ担当。シリアスは決めてくれる時は決めてくれる筈…デス。
バイツ君は金髪で身長180前後。普段はブルーのサングラスをかけています。白兵戦ではアキト君を遥かに上回りますが、機動戦ではアカツキ君達よりも弱いです。以後どう成長するか見物でもあります。一般パイロットよりやや上、位です。
尚、バイツ君に至っては「殺す」事に躊躇いはありません。戦争と割り切っているからという事もありますが、「早かれ遅かれどっちにしろ死ぬんだから」と言う良く解らない考え方をしています。「自然に殺されるか」「人に殺されるか」大して変りはないと思っている人です。
アキト君とは対照的に、生きる事にも死ぬ事にも対して拘りを持っていません。他人に上の考え方を思っているように自分自身に対してもそれは適用されています。惰性でだらだらと生を貪っている人生の迷子さんです。



今回の主要登場キャラクターについて

ホシノ・ルリ

年齢は11歳。これまたTV版と同じ筈デス。
変った設定はありませんが、唯一の違いと言えば既にアキト君と知り合いであると言う事とご飯はジャンクフードではないという事です。
あとは、既にラピスちゃんの姉代わり。感情表現も多少TV版より豊かになっています。


ラピス・ラズリ

年齢は7歳。これは適当です。確かな年齢知らないんでこれぐらいで良いやってなっています。←アバウト
劇場版とはかなり異なっています。ルリちゃんの妹的存在でここにいます。性格は物静かな破壊者です。(性格なのか?)
ナデシコには初めからサブオペレーターとして乗り込みます。感情表現はルリちゃんと同じ多少豊かと言った所です。
あんまり細かい設定ないんで以後増えると思います。←ダメダメ


ネルガルの三連星(謎)

エリナ・キンジョウ・ウォン ゴート・ホーリー プロスペクター

台詞があったのはプロスさんだけ(笑)立場としてはアキト君とバイツ君の上司となっています。アキト君とバイツ君の説明でも述べましたが、アキト君と同等、もしくはそれ以上の白兵戦能力です。尚、バイツ君には及びません。

ゴートさんはバイツ君を担いだだけです。(爆)防御力だけならプロスさんアキト君バイツ君を遥かに上回ります。あくまで防御だけです。
因みに余談ですが、バイツ君の防御力はさほど高くありません。打たれ弱い人です(肉体的に)。ですがそれを補って余りある「避け」のスピードと「復活」の能力があるので何とか生きています。

エリナさんは切れていただけ(爆笑)他に語る事はありません(爆)嫌いなキャラって訳ではないのですが好きでもないキャラだからです。
書いていくうちに変っていくかもしれませんが、それはあくまで仮説です。


以上が今回のキャラ説明って所でしょうか。
連載予定です。どれくらいの長さになるかは解りません。←サイテー(コギャル口調)
では最後に、楽しい作品を読ませて頂きました作者様方に感謝です。
これからも若輩者ですが何卒よろしくお願い致します。m(_ _)m

 

 

 

代理人の感想

Actionの歴史がまた1ページ(爆)。

ナデシコを知らない人がナデシコSSにはまって自分でもSSを書いてしまう、というのは

最近ではもはや一般的な現象のようですね。

 

 

まぁ、実を言うと私も似たような状況だったわけですが(笑)。