遅れて、ナデシコの食堂に勤務する事になったアキトはナデシコ総料理長リュウ・ホウメイ以下ウェイトレス兼調理補助のホウメイガールズと名乗る五人の少女達と、遅い昼食を摂っていた。昼時は飲食関係の仕事はまさに戦争であり皆と違い、時間をずらしてからの昼休憩なのだ。

「はー、ハードだなぁ」

喉を通る冷たい麦茶に一息つきアキトは椅子に座る。男一人に対して女性が六人。なんとも羨ましい光景である。

「ふふ、戦闘とは別でハードだろ?」

料理長であるホウメイが同じく麦茶を飲み一息つきながら微笑み、アキトを見て言う。
アキトはそれに対して苦笑交じりで頷くと「こっちの疲れの方が俺は好きですけどね」と頭を掻いた。確かに、戦闘で血がたぎる事も事実だし、何時か必ず胸を駆け巡る復讐の業火を対象にぶつけてやりたいと渇望する。
だが、唯一好きな事をしているときだけはそれが和らぐ。
だからこんな時間が好きだ。そして大切にしたいとアキトは思う。




















機動戦艦ナデシコ
Lone wolf
第二話:緑の地球…前編






















「あぁーあ、暇だなぁ」

ユリカが艦長席で足をぶらぶらさせながらぽやや〜んとした表情で呟いた。そんな彼女は後5分もすれば休憩時間だ。だが、すでにする事は残っていない。30分も前に与えられた仕事を簡単な所だけぱっぱと終わらせ、副艦長のジュンに押し付けたからだ。
彼女的にはおねだりで、おねだりされたジュンも快く引き受けた。「ユリカの為だから」と言いながら仕事をやっているジュンを見て、クルー達はジュンはユリカに惚れているのだと確信した。と言うわけで艦長ミスマル・ユリカは暇を持て余していた。

「ね〜ルリちゃん。アキトってなんで髪が銀色になっちゃったの?」

オペレーターシートに座って仕事をしているルリにユリカが話しかける。ルリは軽くユリカを一瞥すると「私は勤務中です」と言い、また仕事に戻った。
ユリカは、ぷぅっと頬を膨らませフクベとチェスをしているバイツに話しかける。

「バイツさん。何でアキト銀髪なんですかー?」

「セニョリータ、それは本人に聞くんだな」

バイツはユリカを見ずに言うと、「チェックメイト」とフクベを下していた。フクベは「…無念!」と呟き、将棋を取り出す。どうやら次は将棋で勝負するらしい。因みに二人のすぐ隣には大きなダンボールが置かれており、中には娯楽道具が所狭しと詰まれていた。

『休憩時間です』

ユリカがぐでーっとだらしなく呆けている所にオモイカネが休憩の合図を知らせる。どうやら、ユリカにとって長い勤務時間が終わったようだ。休憩時間は今から2時間はある。アキトに会いに行って話をしてあわよくば食事を一緒にとる事も可能だ。

「休憩行って来ま〜す!」

ユリカは始業するよりも早く機敏な動作で席を立つとブリッチを後にした。それを見たルリは一人深い溜息をつくと「あの人の頭の中はお花畑でもあるのでしょうか」と真剣に考えていた。因みに今ブリッチにいるメンバーは、メグミとミナト。フクベにバイツそれとゴートにプロスペクター、ルリである。ラピスは昨晩寝ていた時に暑かったのだろうか布団を跳ね飛ばしてしまい風邪を引いてしまっている。ムネタケは未だに医務室の御世話になっている為、そろそろ存在が忘れられてきている。ジュンはと言うとブリッチにいるのだが、確かにいるのだが忘れられていた。

「ねぇ、ルリルリィ。アキト君と艦長ってどんな関係なの?」

ミナトがルリの方向を見ながら興味深そうに尋ねた。メグミも「私も気になるー!」と言い、会話に参加して来たのだった。ルリは「ル、ルリルリ?」と怪訝そうにミナトを見て聞き返していた。

「そ、かぁーいっしょ?ルリルリのあだ名よ」

ミナトに満面の笑みで微笑まれ、ルリは小さく頷いた。「ルリルリ、ですか」と、ポツリ呟き微かに頬を赤く染めた。どうやら気に入った様子だ。そんなルリを見てミナトは「可愛いー」と言いながら抱きしめていた。

「仲良き事は美しき事かな、ですなぁ」

プロスは感涙しながらうんうんと頷いていた。ゴートもなにやら口を動かそうとしたが。それよりも先にバイツがゴートの肩を叩き「お前もそう思うか」と言っている。ゴートは「うむ」と呟くと、腕を組んで仏頂面でバイツを見ていた。因みにバイツはフクベに将棋でこてんぱんに負けてしまい、逃げてきたのだ。


終わったぁ!終わったよユリカ」

「いたのか副長!?」



どうやらジュンがユリカに押しつけられた仕事を終えたようだ。そして、ユリカを探すが勿論いない。しかも、バイツの驚きの声に皆も驚き、ジュンを見て口々に「いたんですね」と呟いていた。

「うぅ、酷いよ皆。僕だって一応、次席で卒業したのに…」

ジュンがガクンと肩を落としてるるる〜と涙を流していると、プロスとバイツが肩を優しく叩き寂しそうに呟いた。

「艦長のインパクトが高すぎるんだ」

「アオイさんは存在感が薄いですからなぁ。特にナデシコクルーは変わり者が多いですし。それに、アオイさんは、良くも悪くも普通過ぎるんですよ…」

「でもな副長。存在が薄いってのも中々に良いもんだぞ」

「そうですとも、意外な伏兵とでも言いましょうか。存在が薄いと目立ちませんからね。隠密行動などは最適の役柄です」

と言う感じに二人は「存在が薄い薄い」と連発している。それを聞いてジュンが益々肩をへこましているのだが、それがジュンの持って生まれた資質なのだからもうどうしようもない。密に自分の運命を呪ったりするジュンだった。

「副艦長、休憩終了です」

るるる〜と泣いているジュンにミナトに抱き付かれたルリが報告した。




「きゅ、休憩中だったのか副長!?



「ふ、不憫な…このプロス泣きまする。不憫なアオイさんを思うて泣きまするっ!」

どうやらジュンは休憩を返上してユリカの仕事をやっていたようだ。しかも、ユリカ自体はそんな事はすっかり忘れた様子でアキトに会いに行っているのだった。思わずプロスはハンカチで涙を拭ってしまった。

「うぅ…ユリカぁ…」

ブリッチで不運な男アオイ・ジュンがユリカの名前を呟いている頃、その本人はと言うと御目当てのアキトに会いに食堂に訪れていた。

「アッキット♪」

「あ、ユリカ。どうしたの?昼食?」

「うん!でねでねアキト。アキトも一緒にどう?」

アキトを発見したユリカは満面の笑みを浮かべてアキトに言った。しかしアキトはたった今、食事をとったばかりでもう一度食べれるほどの余裕はない。

「ごめん。もう食べちゃった」

アキトはバツが悪そうに頭を掻くと苦笑した。ユリカは「え〜!!」と大きく驚き、「ならなら休憩は?終わったの?」と聞いた。アキトは時計を見ると「後一時間あるよ。今日は食堂勤務は終ったから、次は整備に向うんだ」と言った。

「後一時間かー。ねぇねぇアキト」

「ん?」

「アキトって、料理出来るのよね?私、アキトの手料理
食べたい食べたいっ!」

ユリカはそう言って目を輝かせ、アキトに詰め寄った。アキトは多少引き気味に頬を引くつかせるとホウメイに「どうしましょう?」と呟いた。ホウメイは「構わないから、厨房使いな。どうせ、この時間帯はあんまり客が来ないからねぇ」とこちらも苦笑しながらアキトの問いに答えた。なにしろ、ユリカは二十歳なのだ。これではまるで我侭な少女のようだ。
まぁ、二十歳の女性に少女と言う言葉を当てはめるのもどうかと思うが。

「じゃ、作ってくるから待ってて。で、ユリカは何が食べたいの?」

「おっと、作る料理は私が決めさしてもらって良いかい?」

ユリカが「んー…」と悩んでいるとホウメイがアキトにそう告げた。「どうしてです?」と、アキトが問うとホウメイは「試験も兼ねてね。今日は補助ばかりでまともに作っちゃいないだろう?そうだね、炒飯でも作ってもらおうか」と言い、「悪いね艦長。それで良いかい?」と言葉を続けた。

「ええ。私は全然OKですよ!アキトの料理だったらなーんでもっ♪」

「はは、そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ、厨房使わせて貰います」

アキトはホウメイに言うと、厨房の中へと入って行った。暫くして良い香りが食堂に漂い始めユリカはそわそわとしながら完成を待ち侘びていた。

「ははは。艦長そんなに慌てなくても待っとけば出てくるよ」

「うー。でも、でもでも早くアキトの料理が食べたーいっ」

「せっかちな人だねぇ。昔からそうなのかい?艦長は」

ホウメイが空のグラスを持ってきてユリカの前に置き、冷えた麦茶を注ぐ。グラスの表面にポツポツと水滴が浮かんで出てくる。ユリカはホウメイに会釈して礼を言うと麦茶で喉を潤す。

「そうですねぇ、私とアキトの関係は…」


「いや、聞いてないよ」



ホウメイは即突っ込んだ。料理人としての経験がこの話は長くなると告げていた。長年客商売をやっているわけではない。しかも、どちらかと言うとどうでも良さそうな話だ。
だが、ユリカはそれを聞き流し話を続ける。もしかすると聞き流したのではなく、耳に入らなかったのかもしれない。彼女はアキトの話を始めると止まらないのだ。

「昔からアキトって甘えん坊でユリカユリカって私の後追いかけて来てたんですよ〜」

ユリカはそう言ってどこか潤んだ瞳で天を仰ぎ「ほぅっ…」と溜息をついた。どことなしに頬も赤く染まっているようだ。過去を思い出しているらしい。

「か、艦長って人の話聞かないんだね」

ホウメイガールズの一人がユリカを見ながらぼそっと呟いた。ボブカットで多少幼さの残る顔つきをした女性だ。そんな彼女に続いて三つ編みを二つ垂らした女性も頷く。

「うんうん。私もジュンコの意見に賛成」

「て言うか、艦長目が飛んでない?」

そんな二人の意見とは別に髪を半分ほどたらし、残りを後ろにまとめたスポーツ大好きですってな女の子がユリカを見ながら呟いた。彼女の言う通りユリカの視線は明々後日くらいの方向に向けられていた。

「うわー、観察好きだねぇ。エリってば」

そう言ってエリと呼んだ女性を見ながら引き攣った笑みを浮かべる一番幼いと思われる少女。髪を御団子状に丸めている事で益々幼さが引き立っている。

「なによ、そう言うミカコだってさっきからテンカワさんばかり見てるじゃない」

「わ、私はテンカワさんの調理を見てるんだよぉ!ハルミのほうこそずっと見てるじゃん!」

三つ編みの女性、ハルミがそう言って御団子娘、ミカコを茶化すとミカコは慌てて反論した。そして、わたわたしている二人を後ろからポコンッと小突く一人の女性がいた。落着いた雰囲気が纏め役と言った感じである。

「いったーい!何すんのよサユリィ!」

ハルミが頭を押さえてサユリと呼んだ女性を上目使いで見上げた。サユリは腕を組んで呆れた感じの表情を浮かべハルミとミカコを見ていた。

「別に誰がどうだなんて良いじゃない。それよりも、出来たみたいよ」

そう言ってサユリがアキトのいた厨房を見るとアキトが炒飯を皿に持って出てきていた。アキトはユリカの前に出来上がったばかりの炒飯を置くとホウメイを見た。

「お待たせしました。冷めない内に召し上がってください」

ホウメイは頷くと、レンゲで炒飯をすくい一口、口に運び無言でそれを吟味した。
してアキトの炒飯を待ち侘びていたユリカはと言うと未だにトリップしていた。

「でね、アキトってばユリカの頬にキスしてぇ…」

「こらこら!なにワケ解らない事言ってんだよ!?」

ゴチンとユリカの頭を小突いたアキトは呆れた表情でユリカを見る。アキトの小突きで現実に引き戻されたユリカは「ほぇ!?」と素っ頓狂な声を上げきょろきょろとあたりを見まわした。そして、炒飯に気付くとぱぁっと向日葵のような明るい笑みを浮かべ、アキトを見て底抜けに明るい声で言った。



うっわぁ!スッゴク美味しそう♪頂きまーすっ!すごいねーすごいねー!ん〜良い香り〜」



「そんなに言われると気恥ずかしいな…」

アキトは頭をコリコリ掻くと照れた感じで苦笑し「でも、有難う」とユリカに向って微笑んだ。ユリカもアキトに微笑返しをすると手を合わせて炒飯を口に運んだ。

「うっわぁ!美味しいっ!」

ユリカが弾けたように叫ぶと、ホウメイが口を開く。

「参った。こりゃ美味しい。米もたっているし、キチンと味もまんべんなく行き渡ってる。素材が死んでない。よくその歳でここまで腕を上げたもんだ」

「本当ですかっ!?あ、有難う御座います!」

アキトは破顔し、喜びを隠さずに微笑んだ。笑った瞬間にアキトの銀髪がふさっとなびき、照明の光が反射しなんとも言えない幻想的な美しさとなった。
それを見ていたホウメイガールズのテラカワ・サユリ、ホウメイガールズのお姉さん的存在の女性は目が釘付けになり、サトウ・ミカコは憧れのアイドルでも見るかのように頬を赤く染め、ウエムラ・エリは呆けたようにポゥッとした表情になった。そして、エリを茶化していたタナカ・ハルミもアキトに目を奪われ、その笑顔の虜になった。そして残るホウメイガールズの一人ミズハラ・ジュンコもその中の一人だ。ユリカ同様目が飛んでしまっている。アキトから目を離そうとせず、と言うかジュンコビジョンではアキト以外は全くの無色だ。

「ほら、アンタ達もそこで呆けてないでテンカワの炒飯食いな。艦長が全部食べちまうよ」

「は、はい!」

五人は見事なユニゾンではもるとアキトの炒飯に群がった。初め言葉を失い、そして一斉に口々に賛美の言葉を放った。

「あはは、照れるな。でも嬉しいよ。美味しいって言ってもらえるのって一番嬉しい」

アキトは素直にしかし照れながら皆の賛辞を受け止めた。あれよあれよと言う間に炒飯はなくなり、皆は「ご馳走様でした!」とアキトに向って言っていた。

「アキト。すごく美味しかったよ。ねぇねぇアキト」

ユリカはアキトの手を突然握ると満面の笑みで話し始めた。

「アキトは何時地球に来たの?おじ様とおば様は元気?」

ユリカがそう聞くとアキトの表情は一変し曇り始めた。そしてゆっくりと口を開くとそこからは残酷な言葉が洩れた。

「親父とお袋は…死んだ。殺されたんだ」

「えっ!?」

ユリカもそれを聞いて一瞬にして顔色を変えた。見る見るうちにユリカの両目に涙が溢れてくる。火星に住んでいた時優しくしてくれたアキトの両親。家出してアキトの家に飛び込んだ時、優しく向えてくれて翌日は自分と一緒に父に謝ってくれたアキトの両親。遊ぶ時も、何時でも笑ってくれた優しく頭を撫でてくれた。そんなアキトの両親がユリカは大好きだった。だが、死んだと言う。それも殺されたと、アキトの口から告げられた。

ホウメイはその空気を読み取ってか、席を立つとホウメイガールズに目配せをして「お二人さんちょっと私達は倉庫に食材取りに行って来るからね」とアキトとユリカに告げて、食堂を出ていった。その際開店中の札表示を準備中にかえて行った。
残されたのは、ユリカとアキトになった。




「ユリカが地球に行った日に空港でテロが起きてね。そこで親父とお袋は殺されたんだ。犯人が誰かまだわからない。初めは、初めはお前の親父さん…疑ったんだ」




アキトは言い難そうにそう言うとユリカをチラリと見てまた目を伏せた。ユリカの父親は連合軍の重鎮で、嘘か真かは定かでないが、色々と汚い噂も飛び交っていた。当時幼かったアキトは悪い方の噂を鵜呑みにし、ユリカの父親ミスマル・コウイチロウを疑いそして恨んだ。

「でも、おじさんは別に関与してないって解った。いわれもない恨みを持った事、悪いと思ってる。でも、どうしても真相が知りたい」

「…アキト…」

ユリカは溢れ出る涙を拭おうとせず涙でくしゃくしゃになった顔のままアキトを見つめた。アキトはポケットからハンカチを取り出すとユリカに渡して「ごめん」と呟いた。

「ほら、涙拭けよ。あと、俺が地球に来たのは四年前。まだ、14歳の時に来たんだ」

ユリカは、アキトに渡されたハンカチで涙を拭うと「14歳?」と聞き返した。14と言えばまだ子供だ。一人で地球に来たのだろうか?ユリカはそう疑問に思いアキトに聞いた。

「ごめんねアキト。辛いと思うけど、ユリカ質問して良いかな?」

「うん。構わないよ」

「地球、一人で来たの?14歳で一人で来るのってすごく難しいと思うの」

ユリカがそう言うとアキトは途端に表情を固まらせた。そして、それを隠すかのように顔を手の平で追おうと小さくポツリと呟いた。

「親父の、知り合いだって男が来てそいつに連れて行ってもらった。すごく丁寧な口調で親父と同じ研究者だって言ってて、親父が持ってたこのペンダントと同じ奴を見せてくれたんだ」

アキトはそう言って首から下げている青く淡い輝きを放つクリスタルを手に取った。

「コイツはC.Cって言って不思議な結晶体なんだ。まぁ、それはどうでも良いんだけど…」

アキトはC.Cを離すと言葉を続ける。アキトの首から下げられたC.Cは煌くようにして光を反射するとまた物言わぬペンダントに戻った。

「そいつに俺は連れていかれて、色々、色々…実験された。実験だけじゃない。親父達のネームバリューは凄かった。テンカワって名前だけで俺は連れていかれたんだ」

ユリカはアキトの話に口を挟まず微動だにせずに、言葉を聞いている。アキトは、アキトの両親の知り合いを名乗る男に騙され連れていかれて実験を受けた。テンカワの名だけで連れて行かれたと言うのはアキトの両親がそれだけ研究者達の間で有名だったと言う事なのだろう。ユリカは今の話でそれを理解した。そして、目だけアキトの銀色に揺らめく頭髪に目をやる。
実験の後遺症、なのだろうか。

「機動戦訓練はそこで強制的に教え込まれた。白兵戦も、諜報戦も、一般生活には何ら関わりのない、そんな事ばかり寝ても覚めてもやらされた。実験と訓練。それの繰り返しさ。そん時の後遺症でね…。髪の色素が抜けちゃったんだ。はは、変だろ?」

「ううん!アキト、アキトは全然悪くないよ!」

ユリカは力強く首を振るとアキトの手をぎゅっと握り締めた。そして引き寄せた。アキトの手にユリカの涙が零れ落ちる。アキトは自分の為に泣いてくれたユリカの気持ちが無性に嬉しく感じられた。

「ありがと、ユリカ」

アキトはユリカの頭を撫でると席を立った。そしてコミュニケを見る。少しぬるくなった麦茶を口に含み飲みこむと、「もう時間だから」と言ってユリカの頭を再度撫でた。

「…うん。仕事頑張ってねアキト」

「うん。ユリカも艦長さんなんだから皆以上に頑張れよ」

「う、程々に頑張ります」

そう言ってユリカとアキトは顔を見合わせると、なんとも言えない表情で御互いに苦笑した。ショッキングな事を聞かされたユリカは「私はもうちょっとここにいるよ」とアキトに告げて俯いた。アキトは「解った」と言い残し、そのまま次の仕事場へと向って行ったのだった。



その頃、ブリッチではルリが休憩に入っていた。バイツはフクベとの試合にその後全敗してどよーんと肩を落としているのだった。

「あ、すいません。ちょっとプライベート回線で通信が入ったんで少し抜けても良いですか?」

ルリが休憩になったと同時にジュンがコミュニケを見て慌てたようにプロスに告げた。プロスは「うーむ、艦長が休憩中ですからなぁ…。でも、提督がいらっしゃいますし良しとしましょう。アオイさん。早めにお願いしますね」と言って許可を出していた。

ジュンは慌てて礼を述べるとブリッチから駆け出していった。そんな様子を見たバイツは小指を立て「女か?」とほくそえんだ。しかし、ルリは即答で「ありえません」と切って捨てる。

「副艦長は艦長に恋してます。女性からの通信ではないでしょう」

「するってーと一体誰だろねぃ?」

バイツは懐から煙草を取り出すと咥えて火をつけようとしている。それを見たゴートが無言で煙草を取り上げ口を動かそうとした瞬間、それよりも早くプロスが「ここは禁煙ですよバイツさん!」と喝を入れる。ゴートは口をもごもご動かした後に「…うむ」と呟いた。

「へいへい。俺の休憩はまだかよ?」

「バイツさんの休憩は後三分後です」

バイツのぼやきにルリが律儀に答えた。何故ルリがブリッチから出ないかと言うと、出た所でアキトは既に勤務中だし、ラピスは風邪。看病しに行くのも良いがオートメンテナンスで機械がやっている。いった所で役には立たないことが自分でも解る。そんなわけで知り合いの集まっているブリッチに居座っているのだ。

バイツは「あ、そう言えば」と呟き、小声でプロスとルリに呟いた。

「なぁ、副提督は医務室にいるから良いとして。クルーに紛れ込んだ連合軍のやつらは把握できたのか?」

「ええ、今の所完全に把握していますよ。ちょっとルリさん、オモイカネに頼んでもらえますかな?ああ、他の皆さんには内緒で私達のコミュニケにのみプライベートで繋いで下さい」

ルリは無言で小さく頷くとオモイカネに映像を送るように指示を出した。そして、三人+ゴートのコミュニケに映像が映し出された。

「ほっほー。意外や意外結構紛れ込んでるな」

「ええ。ん…?」

プロスが表情を曇らせバイツの肩を叩いた。バイツもプロスのコミュニケを除きこみ、表情を曇らせた。医務室にいるはずのムネタケの姿がないのだ。

「恐るべき回復力だな…」

「これは計算外でしたな。しかしまぁあの身体では満足に動けないでしょうが…。用心にこした事はないですな」

プロスはそう言ってオモイカネにムネタケも探すようにと頼んでいた。オモイカネはそれを承諾するとムネタケを探し始めた。そしてルリはコミュニケをじっと見たまま物を言わなくなり、怪訝そうな表情を浮かべた。



──アオイさんと…ムネタケ副提督…?



ルリはそれをプロスとバイツに見せると「私はラピスと一緒にいます。オモイカネに部屋をロックさせますから、安心して下さい」と言い残し足早にブリッチから出ていった。


プロスとバイツ、ゴートの三人は小さく頷くとそれぞれの持ち場に戻った。ゴートは顰め面をしてブリッチで佇み、プロスはブリッチ勤務の為その場に残った。バイツは休憩に入った為取り合えず腹ごしらえをするため食堂へと向ったのだった。



「オモイカネ、アオイさんとムネタケ副提督の動向に注意して見てて」



ルリは部屋に戻りながらオモイカネに指示を出すのであった。「それと、逐一アキトさん、プロスさん、バイツさん、ゴートさんに連絡を入れて」と告げ部屋に戻るのであった。











機動戦艦ナデシコ。何やらきな臭い様子だぞ?さぁ、如何なるナデシコ!
王子様の過去が垣間見えたこの時間。王子様の復讐の業火は一体誰に向けられているのでしょうか?自分を連れ去った、研究者?それとも両親を殺した謎の仇?
機動戦艦ナデシコ。いざ出発!…出来るのか?










中編


後書き


劇場版ナデシコを借りて見たデスよ!まず初めに思った私の違和感。

「あれ?そんなに鬼畜外道なシーンがないぞ?確か、時ナデは鮮明えぐかったよーな…」


私の頭の中ではあんーなシーンやこーんなシーンが踊り狂っていたからです。で、見終わった後の率直な感想ですが「確かに面白かったけど、よく細かい所がわかんなかった」と言うものです。でもまぁ、あの短時間に詰込むのは多少無理があるかな(^ ^;




今回は三部構成です。それでは今回の登場人物情景描写です。



主人公二人組


アキト君

料理の腕前をホウメイさんに誉めてもらいご満悦です。しかしその後にユリカさんとの会話で辛い昔話が…。
銀髪はその時受けた実験の後遺症によるものだと判明。アキト君にはもう一つ後遺症があるようですがそれは今回は出ていません。
どうやって研究施設から出たんでしょ?気になる所です。


バイツ君

今回は主だった役はないですね。フクベ提督とチェスしたり将棋したりで遊んでばかり。と言うか、貴方勤務中ではないのですか?
きっと給料天引き間違いなしなバイツ君。ちゃんと仕事しなさい。プロスさんの眼鏡が光りますよ…。


今回の主要登場キャラクター



リュウ・ホウメイ総料理長

年齢@@歳。←@@ってナニヨ(汗)
言うまでもなく至高の料理人。ナデシコにスカウトされるくらいなのだから超一流の料理人デス。
勿論、TV版と同じくアキト君にとって素晴らしい先生になるお方です。料理だけではなく人生の事など色々語ってくれる人になる予定の方デス。


ホウメイガールズ(言い訳:この人達は外見と名前を借りた別人です。性格とか解らないし…それに出番…ナイモン!(爆)


テラカワ・サユリ嬢

年齢20歳。
ユリカさんと同い年のサユリさんですが、ユリカさんとは対照的に落ち着いた感じになっています。真剣に料理人を目指しています。アキト君に対して一寸した嫉妬と憧れを持っています。髪型はポニーテールでやわらかな物腰とたまに出る気の強さが男性クルーのハートをキャッチしています。


ミズハラ・ジュンコ嬢

年齢18歳。
アキト君の微笑みに殺されてしまった被害者。彼女はミーハーな面を持っています。しかも惚れっぽいと来ているのデス。
一歩引いた感じで大人しい女性になっています。そんな慎ましい彼女にハートを撃ち抜かれた男性クルーもいる様子。


サトウ・ミカコ嬢

年齢16歳。
ホウメイガールズのマスコット的存在。仕事も友達がいるから楽しいですがそれよりも休日や、休憩時間の方が好きなのデス。
遊びたい盛りの16歳。元気で明るい、表現的に言えばピョンピョン飛びまわっているような感じの子です。恋に恋するまだまだお子様な彼女です。(恋に恋すると書いた自分に乾杯…鳥肌万歳!)コアなファンがついているエリさんです。


ウエムラ・エリ嬢

年齢17歳。外見は劇場版を想像してください。私はあっちが好きなので(爆)
ホウメイガールズ一スポーツ万能のミカコさんです。仕事後のスポーツドリンクがなんとも言えないそうです。すぐにかっとなってしまう性格で、激情家タイプ。エリさんと対なす元気娘でエリさんと一番仲の良い子です。あまり色恋沙汰には興味がないようですが、アキト君の微笑にはダメージを食らった模様です。そんな彼女に密かな想いを抱く男性クルーも少なからずいる様子デス。


タナカ・ハルミ嬢

年齢19歳。
おっちょこちょいの怖がり屋さんです。包丁を握る手が危なっかしい、そんな感じの彼女はホウメイさんによく叱られていました。ですが、本来努力家のハルミさん。そこは努力と根性でカバーカバー!多少なりともプロ意識が芽生えた模様。そんな頑張り屋さんのハルミさんには影からこそーリと見つめる男性クルーがいるようです。


ユリカさん

アキト君の昔話を聞いてかなりのショックを受けています。ホウメイ達が戻ってくるまで沈んだまま、俯いていたようです。
ですが、ユリカさんは気丈にも笑顔で食堂を後にしました。(…あれ?ユリカがユリカが…あまり暴走してくれない)


ジュン君

なにやらきな臭い様子だ。ムネタケ副提督となにか話していたみたい。あの通信は一体誰からだったのか…。
早速オモイカネに頼まなきゃ!


ルリちゃん

ただ今ラピスちゃんの看病中。部屋はオモイカネにロックさせているので安心です。看護の傍ら、オモイカネにアクセスしてアキト君達に情報を流している様子です。


ラピスちゃん

発病中…。夜にオヘソ出して寝るから風邪引いちゃうんだよぉ。


フクベ提督

…遊んで良いの?提督…。貴方がいる意味ってなんなんですかーーーーーーーっ!?(爆)


ムネタケ副提督

現場復帰。首に巻いたムチウチ用の包帯が痛々しいデス。


ミナトさん

はぁはぁ…ル、ルリた〜ん」(滅)ルリちゃんを抱きしめられてご満悦デス。


メグミさん

出番なし…。仕事中デス(汗)


プロスさん

軍人さん達の動向を伺いつつ、対策と作戦を練っています。


ゴートさん

発病街道まっしぐら(核爆)




うあぁぁ!キャラが増えた増えちまったずら!
うぐぁっ。辛いっす辛いっすよ。よく皆さんこんな大量のキャラを動かせるもんだ。
恐れ入りましてに御座いまする。

※エリさんとミカコさんを逆転修正。涼水夢様有難うです\(T▽T)/(感涙

 

 

代理人の感想

そう言えばホウメイさんって腕は一流でも性格には問題ないですね(爆)。

「技量一番性格二番、三時のおやつは文○堂」というのがナデシコのクルー選びの基準なのに。

プロスさんが運がよかったのか、はたまたあれでどこかに問題があるのか、

あるいはさすがに一人くらいマトモなのを選んだのか(核爆)。

どれでしょうね?

 

 

>鬼畜外道
>鮮明にえぐかった

 

・・・・・Benさん御免。五分くらい爆笑しちゃったよ(核爆)。