「俺に出来る事…俺にしか出来ない事…」


 ビルの屋上にスーツケースを抱えて立っている青年。

 青年の目の前には、彼と親友が好きだったアニメのロボットに似ている敵の兵器。


「ホントにあるのか…俺は何かになれるのか…」


 いつも迷っていた。

 いつも何かを逃げ道にしていた。


「くっ…えい!」


 掛け声と共にスーツケースを兵器に向かって投げるとふたが開き、

 中に詰まっていた蒼い光を湛えた宝石CCがばら撒かれる。

 それらは敵を覆うバリアに触れると、まるでガムのように張り付きそれぞれが強い輝きを放ち始める。

 その光を間近で見つめる青年の表情は真剣そのもの。


 光がバリアの中に充満し、敵の兵器は輪郭だけしか見えなくなった。

 そしてそれに呼応するかのように、青年の体のいたるところに幾何学模様の煌きが浮かぶ。


 そんな状況が数秒続くと、敵の兵器の頭上、何も無い空間に円形の穴が開いた。

 それはまさに時空の狭間と言える空間。


 そんな穴が完全に開ききると、今まで球状を保っていた光が敵の兵器と共に吸い込まれていく。

 いまだ空中にとどまっている光を放つCCも吸い込まれ、最後に青年が吸い込まれると静かに穴は閉じられた。


 それは機械補助無しでの完全な生体ボソンジャンプの成功記録。


 そして、一人の男の人生の分岐点。












 気が付いた時、俺は月の病院のベッドで寝ていた。
























ActionHomePage1000万Hit記念企画!
「Blank of 2weeks」


理由…〜ワケ〜

投稿者:愚者






















 二週間も時間を遡っているという事実。

 最初にそれを聞かされた時は凄く混乱した。

 ネルガルの人にずいぶんと質問されたが、俺だってワケが解らないんだから答えられるはずも無い。


 病院での徹底的な検査でわかったのは、俺が他の人たちよりもIFSとの相性が良いって事。


 火星で生活していた人や俺みたいな火星で誕生した人はたいていIFSとの相性は良いけど、

 俺はその中でも群を抜いて相性が良いらしい。


 それとよく解らないけど、俺の遺伝子の量とか配列が他の人とは微妙に違うって事だ。


 これは他の火星出身者には無い特徴らしい。

 一週間も続けた検査でも何故かは解らなかった。

 でもそれを聞いて、俺は嬉しかった。

 きっとこれが人とは違う何かになるってこと。

 そう思ったからだ。


 だからきっと彼女を助ける事が出来るんだって思った。

 俺の代わりに死んでしまった彼女を助ける事が。

 そしてそれが俺だけが同じ時間を生きる事の意味なんだ。


 でも…それはただの思い込みでしかなかったのかもしれない。

 何度連絡をしようと通信を送っても、なぜがナデシコとの通信が開かず、

 ネルガルの方から連絡をしてもらおうと思っても通信機が不調になったりして無理だった。

 そして、何も出来ないまま時間は過ぎてしまった。


 月でお世話になっている食堂の親父さんは


「この世で起こる事に、意味なんてねぇ。」


 そう言っている。


 それは理屈では解ってるつもりなんだ。

 けどそれじゃあ俺はなんで同じ時間を過ごしたんだ。

 俺だけが同じ時間を過ごしてきたことの意味を探さなくちゃ、

 きっと俺の代わりに死んでしまった彼女の死が無駄になってしまう。

 そんなのは絶対に嫌なんだ。


「お隣さんが死んじゃっても、あたし達の代わりに…なんて思わないよ。」


 俺が悩んでいるのを見て食堂の子がそう言ってくれた。

 こんなことが無かったら、俺が月で生活をしていたら。

 俺もそう言えた、思えたのかもしれない。


 だけど俺はそう思えない。

 俺の行動次第で彼女は助かったかもしれないんだから。





 でも、もう何を言っても思ってもすでに手遅れなんだ。

 俺は月で無駄に二週間の時を過ごし、その間に彼女は死んでしまった。

 さっきようやく繋がったナデシコとの通信でそれを確認した。


 俺の代わりに死んだ彼女。

 俺が逃げようとしていたから死んでしまったんだ。

 俺は、もうそんなのは見たくない。


 だから、今は前を見て進むんだ。


 今、月にはあの時俺と一緒にボソンジャンプって技術で移動したゲキガンモドキがいる。

 俺はそれを迎撃するために月面フレームの換装されたエステバリスに乗る事になった。

 月にいる人達の殆どは、戦う事が出来ない一般の人達。

 俺だって一般人だけど、他の人達と違ってIFSがあってエステバリスで素人よりはまだマシに戦える。

 だから戦えない彼らを守る為に戦う。


 俺はもう、あんな思いをするのは御免だ。


 ユートピアコロニーでバッタに襲われた時。

 あの時、俺が助かったからアイちゃんは助からなかったんだ。


 ナデシコで火星に行った時。

 あの時、俺がユートピアコロニーに行きたいなんて言わなかったら。

 あの人達は、あのまま厳しい環境下でも戦争が終るまで力強く生きていたかもしれない。


 そしてエリナさんに誘われた時。

 あの時、俺がすぐにOKしていたら彼女がゲキガンモドキに近付く前に戦闘が終っていたかもしれない。


 全部もしもの話だ。

 だけど可能性はゼロじゃなかったんだ。


 俺が月面に出たとき、あのゲキガンモドキは軍の施設ではなく、

 戦えない人達がいるシェルターに向かっていた。


「やめろ!そこには、戦えない人たちがいるんだ!!」


 それを見たときから俺は無我夢中で戦った。

 もしここでゲキガンモドキを止めないと、また俺のせいで人が死んでしまう。

 そう思ったから。

 俺の抱いているこの気持ちは誰に渡されたものでも、押し付けられたものでもない。

 俺自身が考えている内に根付いた気持ちだ。


 暫く戦っていると、何故かゲキガンモドキのパイロットとの通信が開いていた。

 そして木星蜥蜴、いや木連って連中が100年前に地球を追放された人達だって聞いた。

 その後、別のゲキガンモドキからメグミちゃんとミナトさんが出てきた。

 二人は俺に戦いを止めるように言っている。

 その隣では多分あのゲキガンモドキのパイロットであろう男が、

 いままで俺が戦っていたゲキガンモドキに向かって戦いを止めるように通信してる。

 でも、メグミちゃんもミナトさんもあの男だって勘違いしてる。


 確かに100年前追放された人達には同情する。

 だけどそれは俺達がやったことじゃないし、殆どの人間は全く知らない出来事だ。

 それをいきなり戦う事も、逃げる事も出来なかった人達まで容赦なく殺していったあいつら。

 今までは何処か他人事のようにこの戦争を考えていた。

 どこかの誰かが勝手に始めて、俺はただそれに巻き込まれただけなんだって。

 でも俺は自分の意思を持ってこの戦争に参加する。

 あいつらはとって俺達火星で生きていた人間をただ見せしめのために殺したんだ。

 代償行為だって言われるかもしれない。

 馬鹿な事だって言われるかもしれない。


 だとしても俺は戦う。

 これは俺の、いや…




















「これは俺達の戦争なんだ!!」




















○あとがき





 ActionHomePage様
 1000万Hitおめでとう御座います!!










 皆様こんにちは、愚者です。

 今回はAction様の企画に馬尻に乗らせていただきました。


 さて、二週間前の月に跳んだアキトに焦点を当てたSSが少ないとの事でしたので、

 googleにていろいろ検索したら本当に少ない、ってか一つも見つかりませんでした(汗

 皆さんは見つかりました?





 ま、それはさて置き…

 いろいろと二週間連絡できなかった理由を考えて見たんですが、

 どれもこれも見事に矛盾点ばっか出て来てもうダメポ…_| ̄|○なものですから、


「ここはもう開き直って省けばいいんだ!!

 きっと誰かもっとしっかりした人が書いてくれるさ!!」
 (人それを他力本願と言ふw)


 などと思い何とか他の部分を強化しようとあれやこれやと考え、

 その結果が本文です。


 アキトが前向きに戦争するようになった心をちゃんと表現出来てれば…





 さて、次は連載SSと短編SSどっちを書こうかな…

 あ、あと関係ありませんが私のメールアドレスは、

 →gggmad@hotmail.com←です。

 Action様はホットメールが使えない環境であるとの事でしたのでここに書かせていただきます。

 迷惑メールとウイルス&カミソリメールはご勘弁。

 それでは。




















 誰かこの企画をギャク一辺倒で書いてくれないかなぁ…(無理っすか?











管理人の感想

愚者さんからの投稿です。

何と言うか、実にアキトらしい決意の仕方ですねぇ

結局、見殺しにしてしまったイツキの為にも、例え相手が同じ人間でも戦う。

こんな切っ掛けもありうるわけですね。

 


代理人の感想

うわー、ど真ん中ストレートの直球!

正直言ってこんな真っ直ぐな球が来るとは予想もしてませんでした(笑)。

ですが原作ではアキトが決意を固めるのがこの近辺なので、こう言う展開も考えてみ
るとありですね。

気持ちよく読めた一編だったと思います。

ではでは。


別人28号さんの感想

ちょっと原作と視点を変えるだけで
木連の正義とやらも こうも変わるんですねぇ

それにしても、書きようによってはここから連載がはじめられそうなSSですな、
・・・すんごいデストロイになりそうですが


アキトの後悔・・・と言うか 状況悪化させた記録?
いやー ロクでもない主人公です(笑
アキトが関わって状況が好転したケースの方が実は少なかったりして



ちなみに、最後のセリフですが
原作では私には逆ギレにしか見えなかったのはここだけの話です(爆


ゴールドアームさんの感想

うーん、まとまってはいるものの、物語になっていないなあ。
ある程度は意図されていたとはいえ。
手厳しい評価になりますが、40点。
 
ただ、主人公の心情を書いただけでは、それは『小説』にはなりません。
どんなに短くとも、そこには『起承転結』のドラマが必要なのです。
もう少し精進してください。


龍志さんの感想

んーと。まぁ、TV版アキトの馬鹿っぽさというか単純さは良く表せてると思います。
イツキ死んだ辺りの自責の念なんかは、間違い無くするだろうなぁと思いました。
後、アキトが戦いをすると決めた理由も実際にはこの作品で書かれてる部分が強いと思います。
良くも悪くも単純ですからね(苦笑)

ただまぁ、残念だったのは何処かで見た事がある展開だった事ですかね。
折角の今までのナデシコSSではなかった部分を補完するためにある企画。
もっと新しい展開に挑戦して欲しかったですね。

最後に蛇足かもしれませんが一言。
背景や展開に関する記述が殆ど無いのは意識しての事なのでしょうが、そこをかくべき企画だったと思います。
もう少し、プロットを細かく練る事をお勧めします。

では。お疲れ様でした。

 


プロフェッサー圧縮inカーネギー・ホール(嘘)の日曜SS解説・特別版

はいどーも、プロフェッサー圧縮でございます(・・)
今回はAction1000万ヒット記念企画と言うことで、解説役にゲストをお招きしておりマス。
圧縮教授「老骨にこの寒さは堪えるわい」(注:公開日は12/28)
ハイ、では作品の方を見てみましょう( ・・)/

「これはこれは、正面突破じゃな」
そうですねー、TVの展開を凝縮した感じです。
「戦争する事が前向きかどうかはさておき、決意の『理由』としては必要にして十分じゃな」
そうですねえ。ある意味、それで十分なのかも知れません。
「・・・何やら、微妙に含みがあるのう」
気の所為です(どきっぱり)

はい、では次の方どうぞー( ・・)/

 


日和見さんの感想

 う〜ん、ご自身あとがきの中で自らおっしゃってますが、ばっさり省いてますね。
 原案者として、その「省いた部分のアイディアやそれらの整合性」に大きく期待していたので、ちょっとがっかりしました。
 ただ、どうにも出来ない部分はそれなりに流してでも、他の部分に力を入れて差別化を図ろうとするその姿勢はご立派だと思います。

 


皐月さんの感想

ん〜む、なんだか平坦な感があって、表現できているかと問われれば物足りない気がしますね。
これだと、過去を振り返るような書き方ではなく、リアルタイムの書き方をした方が良かったかと。