薄暗い部屋に瑠璃のキーボードを叩く音が響く。

 ピピッピピッ…

「ん?…あら、これ。」

 そんな部屋に突然鳴った音は電話の着信音であった。
 部屋に備え付けられた電話の表示板には『FAXヲ一件受信シマシタ』と出ており、
 とりあえずプリントアウトしてみると其処には全身を黒い服装で塗り固めたエンジェルの絵が出力された。
 その絵の下の方には
「天河明人デザイン。
 装甲用の布は一番薄いもので。」

 と書かれている。

「あの子、ホントに趣味に走った服考えたわねぇ…。ま、さっさと作ってあげましょうかね。」

 そう言って別のPCを立ち上げ、さっきプリントアウトしたデータを電話から送信し、
 それを3DCGとしてのモデルに直す。
 その過程で、動きやすい形状に服装に修正が加えられていく。

 それから約三十分程でCGが完成したのか作業の手が止まる。

「さて、一度試しに実物を作るのが良いでしょうね。」

 さらに別のPCにデータを流し、
 そのPCから今度は専用の機器に命令とデータを入力し始める。

「これがまともに動けるような服装であればいいんですが…。」

 言いながら最終チェックを終えて作業に入る機械を見守る。

 服はそれから一時間ほどで完成し、今度はそれを一体のエンジェルに着せて隣の部屋に入る。

 其処は部屋全体が一つの器械の一部になっていて、
 中央の丸い大きなテーブルから伸びるコード類は、左右各一台の椅子繋がっており、
 その椅子からさらに両端に羽のような金属板が何枚も付いているバイザーに繋がっていた。

 それ以外にも部屋の各所に備え付けられたカメラや、
 天井に吊るされた大きな画面などが所狭しと並んでいる。

「さて、それでは試しますか。」

 言いながら椅子に座りバイザーを着け、羽の付け根を操作すると鳥がするように羽が広がった。
 その後、手に持っていたエンジェルを中央のテーブルに投げ込む。

「起動。」

 一言呟くと、それに反応してエンジェルがコードも見当たらないのにしっかりと着地を決めた。













エンジェリックレイヤ―+ナデシコ
















「まずは行動力試験から…試験開始。」

 主の声に反応してテーブルの上を走り回るエンジェル。
 ジグザグ走行、バク転、バク宙、側転、ジャンプなどのさまざまな移動法を試す。

「次は殺陣試験、準備。」

 そう言って椅子の手摺りにあるいくつかのボタンの内、赤いボタンを押す。
 するとテーブルの数箇所に穴が開き、其処から穴の数と同じだけのエンジェルが出てくる。
 このエンジェル達は試験用エンジェルと言い、全てのパラメータを最低にしてある。

『セット、完了しました。試験開始。』

 穴が閉まると部屋に機械的な声が響き、それと同時に一体のエンジェルに何体もの試験用エンジェルが同時に襲い掛かる。
 しかし、次々とやられて行くのは穴から現れた試験用エンジェル達。
 瑠璃のエンジェルも何発か攻撃を喰らったようだが、さして大した損傷にはならなかったようである。

「耐久試験、準備。」

 言いながら、今度は青いボタンを押す。
 今度出てきたのは、さっきに倍するほどの数の試験用エンジェル達。
 その格好はやはりどれも同じである。

『セット、完了しました。試験開始。』

 また部屋に機械的な声が響く。
 それにあわせて今度は一体一体順番に襲い掛かってくる。
 感じとしては時代劇のノリに近いだろうか。
 違いはワザと一発ずつ喰らってから吹き飛ばしているところだ。

 結局、ダメージで動けなくなるまでに五十体近い試験用エンジェルの攻撃を喰らった。

 瑠璃はダメージで動かなくなったエンジェルを取り上げ、服を脱がす。
 そして表面や関節部にどんな異常があるかを入念にチェックしていく。

「服自体の防御力は規定値より相当低いですね。
 服による間接部への圧迫などは無いようですが、このままでいいんでしょうか…。」

 今のエンジェリックレイヤーのルールでは、服自体の防御力の限界を定めていた。

 それは軽量型の攻撃力の無さと、重量型の防御力の高さを出来る限りなくす為である。
 試験用エンジェル達の攻撃回数を基準として、最大耐久回数は250回である。
 その為に最近は重量型エンジェルにするデウスが増え始め、
 平均耐久回数が210回近くで揺れているのだ。

 それから考えてこの明人のデザインした服は、
 幾らなんでも防御力が低くなり過ぎているとしか考えられず、
 あまりにもハイリスク、ローリターン過ぎる服であると言えた。

 開発者として長い間耐久試験を見てきた瑠璃にとって、この数字は過去最低である。
 暫く耐久力を上げるかどうするかを悩んだが、

「まぁ、どうせ明日は日曜ですし、萩子さんとみさきちゃんと一緒に此処で練習するでしょうからね。
 その時に感想を聞けばいいでしょうし。これをもう何着か作って今日はもう寝るとしましょう。」

 と結論付けた後、全く同じ物をもう五着作って畳み、
 その上に『天河明人用』とでっかくマジックで書いたダンボールの切れ端を置いて、部屋を後にしていった。


☆翌日の鈴原家

 その日は朝の六時ごろ台所の電気が付けられていた。
 其処からは空腹を誘う美味そうな匂いと共に、少年の鼻歌が聞こえてくる。

「さて、朝飯はやっぱたくあんに味噌汁、あとは鮭の塩焼きでもするかな。」

 そう言いながら少年は、プロも真っ青な程の手際の良さで仕込みに入っていく。
 その顔は満面の笑みを浮かべており、顔だけを見ていれば何処にでもいそうな少年と言えるかも知れない。

 そう、あくまで顔だけを見ていれば…だ。

 半袖のシャツから覗く腕、半ズボンから除く足。
 そのいたる所に傷痕があるのだ。
 ちょっとした掠り傷から、かなり大きめの傷までそれこそ無数に。

「あれ?明人君、朝早いんやな。」

 ともあれ楽しそうに料理をする少年、明人に声をかける人物がいた。
 身長はかなり低めで、それだけを見るなら小学四年くらいの少女である。

「ああ、みさきちゃん。おはよう。起こしちゃったかな?」

 その少女の名前は鈴原みさき。
 去年のエンジェリックレイヤー全国大会において、
 初出場で獅子奮迅の活躍を見せ、並み居る強豪を抑えて優勝した人物で、
 今年十四歳のエリオル学園中等部二年生。
 明人と同い年である。

「明人君。お料理手伝おうか?私もお料理出来るし。」

「ん〜。じゃあ味噌汁頼めるかな。味はみさきちゃんが適当に決めちゃって。」

「うん、分かった。」

 みさきの質問に答えながらも明人の手は遅れる事無く作業を続けている。
 今明人がやっているのは鮭の塩焼きで、皮は取り除き身だけを焼いている。

「ねぇ、明人君。お魚の皮、焼かへんの?」

 それに気付いたみさきは、明人に声をかける。
 此方も話しながらも作業の手は遅れる事が無かった。
 まったくもって驚異的な十四歳達である。

「ああ、皮は後でそれだけで焼いてもパリッとしてて美味しいんだよ。」

「へぇ〜。そうなんや。色々知ってるんやね、明人君。」

「う〜ん。俺って最近まで殆どサバイバルに近い生活送ってたからなぁ…。
 そのせいで普通はしないような料理法とか結構使ったからね。」

「ふ〜ん。」

 その後も喋りながら料理を続け、六時半には朝食の用意は整っていた。
 料理の盛り付け方や並べ方はサバイバルでは学べなかった為にみさきがやる事になった。

「あ、そだ。な、明人君。今度私にお料理教えくれへん?」

「え?料理?まぁ、俺が教えられるような調理法とか食べる方法とかなら教えてあげられるよ?
 その代わり料理の盛り付け方とかはみさきちゃんが教えてくれない?」

「うん。じゃあ今日の夕飯から始めよっか。」

「うん、そうだね。あ、そろそろ萩子さん達起こさないとね。」

「はよせなご飯冷めてまうね。ほなら、私はお母さん起こしてくるわ。」

「それじゃ、俺は祥子さんの方を起こしてくるよ。」

 そう言ってリビングから出て行く二人。
 みさきは二階の萩子の部屋に小走りで向かい、明人は一階の祥子の部屋に歩いて向かった。


☆祥子の部屋

 コンコン

「祥子さん。起きて下さい。祥子さん。」

 部屋にノックが響き、その後に明人の声が響いた。
 その音にベットの上で布団に包まっていた祥子は少し目が覚める。
 低血圧なのか扉の向こうにいると思われる明人にかける声は未だに眠そうである。

「う゛、ん゛。…あれ…もう、朝?」

「ご飯は作りましたから顔洗って着替えたら来て下さいね。」

「ご飯…作った…明人君が…?」

 明人と話しながら、少しずつ目が覚めて行く。

「いえ、みさきちゃんと一緒に作ったんですよ。
 萩子さんはみさきちゃんが起こしに行きましたから着替えたら手伝いに行ってあげて下さい。
 あと、出来るだけ早く来て下さいね。ご飯冷めちゃいますから。」

「ええ、分かったわ。」


☆萩子の部屋

 ガチャ

「お母さん。もう朝やで?ご飯出来たから一緒に食べよ?」

「んん。…みさきちゃん?」

 部屋に入り、ベットでゆったりと眠っていた萩子を軽く揺すって起こす。

「うん。おはよ、お母さん。」

「ええ、おはよう。みさきちゃん。」

「ちょっと待っててな、祥子さん連れて来るから。」

「ええ。ありがとう。」


☆それから暫くして全員で朝食に入る

 明人の作った見慣れない料理に始めはゆっくりと手を付けていた萩子、祥子、みさきの三人だったが、
 すぐにその味に舌鼓をうち、明人の料理を美味しそうに食べていた。

 朝食を食べ終えた四人は祥子は仕事に行く準備を始め、
 みさきは部屋に戻ってエンジェル、ヒカルの調整をしていた。
 明人と萩子はリビングで今日の予定を話し合っている。

「あ、そう言えば今日、会社には何時頃行くんです?萩子さん。」

「そうね。八時ごろ出れば丁度出勤時間に間にあうと思うから、それくらいに出ましょうか。」

「分かりました。とりあえず俺が持ってのはサレナくらいですから今から取って来ますね。」

 そう言ってリビングを出て行く明人を見て、萩子は受話器を取って電話をかける。

「…はい、三原です。」

「あ、王二郎さんですか?萩子ですが。」

「あれ?萩子さん?どうしたんです。こんな時間に。」

 萩子が電話をかけた相手、それはレイヤーの貴公子との異名をとる三原王二郎である。

「今日一日、会社でトレーニングをするんですけど。王二郎さんに手伝って頂きたい事があるんです。」

「…そうですね、今日は特に予定もありませんし。
 それで、僕に何を手伝わすんです?」

「ええ、実は昨日から家に来てる親戚の子なんだけど。新型機のモニターなのよ。」

「ああ、兄さんが新しい装置を組み込んだって言ってたヤツですか。」

「そう。でも彼エンジェリックレイヤーやった事が無いらしいんです。
 それで、貴方に彼の相手を務めて欲しいんです。」

「…分かりました。それだけの逸材かもしれない、と言う事ですね。」

「ええ。悪いわね。もともと今日はみさきちゃんとの練習の約束があったから。それじゃ。」

「そうですね。では、会社の方でお会いしましょう。僕は第二練習ルームにいます。」

 そう言って受話器を置く萩子。
 そこへみさきと明人が入ってくる。

「萩子さん。そろそろ行きましょうか。」

 そう言った明人が時計を指差すと、もうすぐ八時を回ろうかという時間だった。
 祥子は今日家を出るのは九時前でいいらしく、まだのんびりとしている。

「それじゃ祥子さん。行ってきま〜す!」

「祥子ちゃん。戸締りお願いね。」

「お弁当はテーブルに置いてありますから。忘れないで下さいね。」

「行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 萩子を外出用の車椅子に乗せて、
 明人とみさきと萩子の三人は歩いてピッフルプリンセスを目指した。

 そして歩く事二時間。


「あ、いっちゃんじゃない。おはよ。」

「おはよ〜ございます!いっちゃんさん!」

「おう!おはようさん!待っとったで!」

「いっちゃん。もう回復したのか。ッチ!」

 会社の前にはいっちゃんが仁王立ちで待っていた。
 それを見て、みさきと萩子は挨拶をしたが、明人はかなり小さく舌打ちをとても残念そうにする。

「おう!俺だけなら今日もまだ病院やろが、
 あの時戒斗が打点をずらす為に俺を後ろに引っ張ってくれたからな。」

 それでも驚異的な回復力である。
 言いながらいっちゃんは白衣のポケットをゴソゴソとさぐり、
 ポケットより二回りほど大きい黒いビニールで中が見えないようになっている袋を
 しわ一つ付けずに取り出す。

「ほれ、明人。瑠璃からの預かりもんや。」

 それを明人の前に出しながら喋る。
 明人は瑠璃からの贈り物と聞いて中身が分かったようで、

「もう出来たのかよ。」

 そう言ってビニールを破り、中身を取り出す。
 其処から出て来たのは、昨晩の内に瑠璃が作り終えて畳んでおいたあの服である。

 それを確認した明人はすぐにサレナに服を着せて行く。

「へぇ…。結構いい感じだな。」

 サレナの髪は昨日の内に祥子に頼んで切って貰っている。

 明人は本気で自分を作り出す気満々のようである。

「萩子さん、みさき。第一練習ルームあいとるから其処使いや。」

「ええ。それじゃ、明人君、練習頑張ってね。みさきちゃん、行きましょ。」

「は?頑張れって?」

「ほれ、お前さんは第二練習ルームや。
 安心しい、俺がちゃんと連れてったるがな。」

 いまいち状況を理解出来ていない明人をほったらかして、萩子とみさきはさっさと中に入っていってしまう。
 残された明人は暫し呆然とていたが、またもいっちゃんに引っ張られて中に入っていった。


☆第二練習ルーム

 いっちゃんに引っ張られた明人は、道順を覚える暇も無く此処に連れて来られた。
 此処には昨晩瑠璃が使っていたのと同じ環境が揃っていた。

「ほれ、ぼさっとしとらんで、エンジェルをテーブルに置いて座りや。」

「あ、ああ。」

 所狭しと並んでいるハイテク機器を見てぼうっとしている明人に指示を出すいっちゃん。
 明人はそれに従ってサレナをテーブルに置き、椅子に座る。

 それを見てからいっちゃんが一つのバイザーを明人に渡す。
 そのバイザーは昨晩瑠璃が着けていた物ではなく、むしろ昨日明人が着けていたバイザーナビの方が形としては近いだろう。
 勿論そのバイザーには金属の羽が付けられている。

「これって、バイザーナビ?何でこれを?」

「まぁまぁ、とりあえず着けてみいや。」

 言われるままにバイザーを着ける明人。
 バイザーを着けると、その目には幾つかの見慣れない文字が映った。
 バイザーナビとの違いは視界を完全に塞いでいる事だろう。

「確か此処と此処、やったな。…よっしゃ。」

 呟きながらバイザーを弄るいっちゃん。
 その指は昨晩の瑠璃と同じ場所で同じ事をしていた。

 いっちゃんの手が離れると羽が広がり、それにあわせて明人の視界が開かれる。

「どや?俺の顔見えとるか?」

「ああ。見えてる。それにしてもエンジェリックレイヤーのバイザーって、こんなんじゃなかったはずじゃないか?」

 明人の言葉を聞き、いっちゃんはニヤリと笑いながら眼鏡をキラリッ!と光らせる。

「それは」ドゲシィ!「ぐはぁ!」「邪魔よ!!」

 そしておもむろに話し始めようとした途端、昨日明人と瑠璃を説明地獄に叩き落した張本人、
 謎の金髪美女がいっちゃんをどついて沈黙させた。
 手には真っ赤に染まった赤い液体を滴らせている鉄扇を持っている。

「まったく、私を差し置いて説明をしようなんて。なんて身の程知らずなのかしらねぇ。クスクス…」

 ドグゥ!  そう言いながら倒れて小刻みな痙攣しているいっちゃんの鳩尾に、ハイヒールの先端を叩き込む。
 そして痙攣すらもしなくなったいっちゃんを一瞥した後、ゆっくりと振り返って明人を見る。

「あ、あう…。」

「さて、まずはそのバイザーについての説明を始めましょうか♪」

「い、いやだぁ〜〜〜〜!!!」(TдT)

 説明をしている彼女は陶酔しているかのように、目がアッチャコッチャに逝っていた。
 そして至福の表情を浮かべながら彼女の専門家以外は理解不能な専門用語の飛び交う地獄の説明会は続く。

「これは………つまり………こうなるのは………」

「あは、ははは、はははは、は…」

 それを聞かされ続ける明人の方も完全に逝ってしまっており、
 目の焦点は合っておらず、最早乾いた笑いをあげるだけの人形と化している。

 結局、今回は説明する物が少なかったのが幸いしたのか。
 地獄の説明会がお開きになったのは、それから二時間ほど後の事だった。

 明人が現実に返って来るのはさらにそれから一時間を必要とした。





続く…?


 あとがき

 こんにちは。愚者です。
 エンジェリックレイヤー+ナデシコ第二話。
 如何だったでしょう?

 今回も説明○○さん大暴れです。
 彼女の名前、分かり切っているとは思いますが、まだ暫くは謎の金髪美女で行くと思われます。
 被害者は主に明人君。

 今回のように一人で聞かされる事もあれば誰かと一緒の時であったりしますが、
 話の中では明人君の前だけでしか出ません!(多分確定!!)

 とりあえず明人君は彼女にロックされたので逃げる事は不可能です。
 頑張って貰います!

 今回、ナデシコ系キャラの新登場はありません。
 それに加えてもう暫くは少ししか登場させる予定はありません。

 その内の一人は、

 @眼鏡をかけてる男性です。
 Aナデシコに乗る時は何時も引っ掻き傷を作ってから乗り込みます。
 BBenさんの〜時流れ〜では某組織の始祖的存在みたいですね。
 CTV版時代、不倫しようとしてました。(相手は某眼鏡っ子でした)

 最初と最後ので正体バレバレかな?

 では、此処まで読んでくださった方々。有難う御座います。

 またお会いしましょう。
 って読んでくれてる人いるのかなぁ…(シミジミ)。



 

代理人の個人的な感想

重量級・・・・どうせならオリジナルのエンジェルでダンプ松本みたいなの出てこないかな〜。(笑)

やはりバトル物としてはそういうパワーファイターは必須!

 

 

どーせCLAMP原作に美男美女以外が出てくるわけないんだし、といえばそれまでですが。