「テンカワ・アキト、ミスマル・ユリカ。

 我々のラボにて、栄光の為の礎となってもらう。」



 たった一瞬で全てを奪われた。



 ジワジワと全てを壊された。



 アイツに…。



「我を殺したくば、生きて続けてみよ。

 四肢を破壊されようとも、無様に這いつくばって、

 その口で我の喉笛を食い千切りがいい。」



 アイツは実験が終ったあとにいつもそう言って、

 身動き一つ取れない俺を部屋に投げ捨てる。



「未熟者め。

 貴様の執念、その程度か。」



 俺は、結局アイツを超えられないのだろうか。





















 機動戦艦ナデシコ 



















「遅かりし復讐人、未熟者よ。」



 そう言われるたび、俺は自分の中に渦巻く黒く染まった炎が強くなるのを感じる。



「我、人の道を外れ、闇の道を歩む外道なり。

 その我に、人の力量で挑もうなどと…笑止なり。」



 アイツは俺の二つ目の目標となった。



 俺は感情を殺し、表情を殺し、自身の全てを戦うためのモノに作り変えた。



 寝る間を削り戦場に立ち、人をモノと認識し壊す尽くす。











「一夜にて、天岩戸にのびゆくは、瓢の如き光の螺旋。

 女の前で死ぬか?」



 俺の最大の目標、ユリカの救出。

 それを間近にして阻んだのはやはりアイツだった。



「リョーコちゃん、右!」



「のわぁ!!」



 俺は半ば無意識のうちにそう声を掛けていた。

 これ以上、俺の知り合いが不幸に苛まれるのを見るのは絶対にいやだったから。



「あんたには関係ない。早く逃げろ!」



「アキト?アキトなんだろ!!

 だから、だからリョーコちゃんて…おい!!アキト!!」



 俺の言葉を聞いたアイツが哂ったような気がした。

 きっと俺の甘さを哂っているのだろう。



「滅!」



 アイツの掛け声と同時にアイツの取り巻き、六連が仕掛けてくる。



 一対六の戦い。



 此方は後ろのリョーコちゃんに攻撃が行かないように戦わなくてはいけないが、

 あいつらにそんな制約はない。



 そのせいで六連如きと互角程度の戦闘しか出来ず、  アイツに近付くことも、迂闊に攻勢に出ることも出来ない。



 もしアイツがリョーコちゃんに攻撃を仕掛けていれば防ぐ手段はない。



 だが何故かアイツはそれをせず、ユリカが融合した遺跡と一緒にボソンジャンプで消えた。



「我等は闇の住人。

 故に光と交わることは永遠にない。

 テンカワ・アキト、光に焦がれるのならば、大人しく己の闇を捨てるがいい。」



 消える間際、奴の声が聞こえた。

 その声に今までの俺を嘲笑う感じが含まれていない事に戸惑った。











 結局、俺は闇に染まり切る事も、闇を払い光に進む事も出来なかった。



「君の知っているテンカワ・アキトは死んだ。」



 光を求めてルリちゃんに会ったが、結局は別れの言葉を口に乗せた。



「彼の生きた証…受け取って欲しい。」



「それ、カッコ付けてます。」



 本当は自分の手で渡すつもりは無かった。



 言いながら眉根を寄せる姿が、ユリカが怒った時の表情に似ていて。

 そんな顔で説得されれば、俺はきっとその願いに応じてしまうだろうから。

 そうされない為に一方的な拒絶をつきつけた。



 でも、このまま消えれば自分を慕ってくれていたこの娘は戦闘に集中出来ないかもしれない。

 だから自分で話した。

 もう二度と料理は出来ないと。



 ラピスとのリンクを使えば、簡単な料理くらいは出来るだろう。



 それでも、あの時に作った最高の味は出せない。

 そしてそれは俺にとって料理が出来ないと等しいことだった。

 だから俺はもう二度と料理をすることはない。











「あの子、ナデシコCと合流したそうよ。」



「勝ったな。」



 あの娘とあの電子戦闘に特化したナデシコCが合流したのなら、

 もう心配する事は無いだろう。



「ええ、あの子とナデシコCのシステムが一つになれば、無敵よ。

 …やっぱり行くの?」



 そう言った彼女は、俺達がナデシコから脱出した時と同じように泣いている気がした。



「ああ。

 補給、ありがとう。」



 俺には出来る事はそう言ってやる事だけ。



「私は会長のお使いだから。」



 彼女のその呟きで歩みを止めそうになる。

 でもそれは、唯一見つける事が出来た「生きる目的」を失う事になる。



 それが怖くて、聞こえない振りをして出発した。











「人の執念、見せて貰った。」



「勝負だ!」



「抜き打ちか…笑止。」



 アイツとの最初で最後の一騎打ち。



 六連はリョーコちゃん達に全機落とされた。



 そしてを合図にして開始された俺達の、一瞬の勝負。



「ゴフッ…見事。」



「ハァ…ハァ…ハァ…」



 アイツの最後の言葉。

 それを聞いて、俺の復讐は終焉を迎えた。











 それから俺はリョーコちゃん達にだけ別れを告げた。



 ユリカは救出された。

 復讐も終わった。

 あとは後始末だけだ。



「気が向いたら店に来てちょうだい。

 ボトル一本くらいなら奢るわ。」



 別れ際にそう言ってくれたイズミさん。



「ああ、気が向いたら…な。」



 彼女にそう言って俺はサレナに乗り込みユーチャリスと共にジャンプした。





















「久しぶりだな。」



「うん、そうだね。

 最後に会ってから随分になるね。」



「体の具合はどうなんだ?」



「体調自体は結構回復したんだよ?

 まだまだリハビリ中なんだけど、  このままのペースなら、あと一ヶ月位で自宅療養してもいいんだって。」



「そう、か。

 それならさ、今度の誕生日には草原に行こうか。  昔二人で遊んだ草原にさ。」



「うん!

 そうだね!」



「…ユリカ。

 俺の事、好きか?」



「え?

 言ったじゃない、私はアキトが好き!

 アキトだって私が好きなんでしょ?」



「ああ、俺はお前が大好きだよ。」





















○あとがき



 皆さん、こんにちは。愚者です。

 劇場版のアキトの心情を表してみようかと、

 唐突に思い立って制作したこの作品。

 どんなもんだったでしょうか?

 最後の会話は、劇場版ラストの会話の代わりとして追加したものです。

 ギャグで仕上げてしまおうかとも思いましたが、

 ありがちなネタに成りそうだったので、

 結局は普通にアキトとユリカの組み合わせになりました。

 気が向いたら、ギャグの方も製作するかもしれませんw






管理人の感想

愚者さんからの投稿です。

う〜ん、北辰の意図が読めませんでした(汗)

アキトを焚きつけているようにも見えるんですが、途中で意味合いが変わってますし。

それにしても、ハッピーエンドで終わるとは思いませんでしたが(苦笑)

もっとこう、血みどろの(ZAPZAPZAP)