『俺が帰るべき場所は・・・ナデシコだ!!
 皆が揃っているナデシコだ!!
 何処に跳ばされようと、俺は絶対に帰って来る!!
 例え、遥かな距離だろうと、時を超えても―――』
  

 パシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 
 最後の約束の言葉を残しつつ・・・
 ブローディアはアキトと共に消え去った。
 後には虹色の光芒の残滓だけが残された。

 

 

流されて ディファー・ザ・ワールド
プロローグ

 

 

四月十五日 二一三七時(現地時間)
ソビエト連邦東部 ハバロフスクの東南八十km

 


ぬかるんだ道を一台の車が走り抜けて行く。
車は、激しくバウンドしフロントガラスは跳ねた泥で何度も何度も塗りつぶされる。

「あともうすこしだ」

ハンドルを握る中年男が叫んだ。軍服の上にごわごわのコートを着ている。

「あと数キロで山岳地帯に入る。日本に帰れるぞ」

しかし、車に乗っている少女は何も言わず青い顔をし、何かに憑かれた様に親指をかじるだけ。

「よせ!」

少女の手を、男が横から打ち払った。彼女は呆然としていたが、やがて裏返った声で哀願をはじめた。

「噛ませて。じゃなきゃ殺して。噛ませせ、てじゃ、なきゃころ、ここ、ころ・・・・・」

壊れたラジカセのような、悲痛な反復。男は痛々しげに顔を歪め、彼女をこんな風にした連中への呪いの言葉をもらした。

「なんてことだ。まったく、なんて酷い事をするんだ。クズどもめ」 

バックミラーにまっすぐこちらに向かって光が見える。
ハンドルを慌てて切る。


ドン!!


弾ける爆音と閃光。しかし、いつになっても衝撃がこない・・・
そこには、一機の機動兵器がいつの間にか立っていた。
その、漆黒の機体はただ居るだけで周囲を威圧する。

「アーム・スレイブ・・・いや、こんな機体見たことも聴いたこともないぞ・・・」

中年男は、その言葉を言うのが精一杯だった。少女の方はそれを見て場違いの事を思った

≪なんて、綺麗なんだろう≫と・・・