天に竹林

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地に少林寺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目に物見せよ最終秘伝!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボウ、と浮かび上がった物がある。

 ドラゴンナデシコを取り巻く様に発生した燐光。

 その巨体に比べれば余りにも小さい無数の光。

 まるで蛍の群れのような緑色の光の粒。

 蛍は人の魂を運ぶという。

 仄かに輝く緑色の光は人の魂が放つ光なのだと。

 ならば、今輝いているのは誰の魂なのか。

 

 

 蝶が舞った。

 神秘的にすら思える緑の燐光が両腕を失ったドラゴンナデシコの背に

 その身長の数倍もある巨大な蝶の羽をかたちづくる。

 そして、おぼろげに輝く羽根を羽ばたかせて天高く舞歌が舞う。

 

 

 アキトが。

 ガイが、メティが、エリナがハーリーが息を呑んだ。

 メグミが目を見張る。

 ホウメイが感嘆の呟きを洩らし、

 普礼総師が思わず立ち上がる。

 九十九と元一朗が拳を握った。

 

「ま・・・・」

「舞歌様っ!」

「「お見事ですッ!!!」」

 

 九十九と元一朗が拳を握り締め、燃える瞳が舞歌を見つめる。

 もはや、二人ともその両目から滂沱と零れ落ちる熱いものを拭おうともしていない。

 

 

 

 

 

己の命と引き換えにして放たれると言われた

少林寺門外不出の最高奥義

 

その名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキトの目がくわっ、と見開かれた。

 舞歌の発する巨大なプレッシャーを眼光で弾き返し、アキトが燃える!

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える!」

 

 キング・オブ・ハートの紋章がその手に輝く。

 再びゴッドナデシコの胸が展開し、背の放熱フィンが日輪を描く。

 もはや迷いはない。

 己の持つ譲れぬものの為に、守ると誓った妹の為に。

 舞歌が死を賭して立ち向かってくるならば、己の魂をこの拳に込めてただ無心に燃やすのみ!

 

 

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

 閃光が疾った。

 燐光はなつ胡蝶の如く、軽やかに舞った舞歌が

 次の瞬間胡蝶の羽根を渦巻かせ、生ける竜巻に変じる。

 それは猛々しき昇竜の如く天高く舞い上がり、ある一点で一筋の流星の如き急降下に変わる!

 舞歌の夢を懸け、八雲の夢を懸け、今流星が疾る。

 腕は要らぬ、目も要らぬ、脚も耳も鼻も唇も、そして命すらも無用。

 我らが欲するはただ勝利のみ!

 

 

 

「爆熱!ゴッドフィンガァァァァッ!」

 

 

 緑色の流星と、紅蓮の日輪が激突した。

 

 

 舞歌が変じた流星の先端と、アキトの爆熱する右掌が真っ向からぶつかり合う。

 流星を正面から受け止めた爆熱の掌が。

 軋み。

 歪み。

 そして右腕ごと微塵に砕け散った!

 

 ガイが。ホウメイが。メティが。無言の叫びを上げた。

 先ほど真流星胡蝶剣を目の当たりにした時以上の衝撃が走る。

 

「勝った!」

 

 だが舞歌が破顔して叫んだその瞬間。

 "左"のゴッドフィンガーがその鳩尾に叩きこまれていた。

 

「がっ・・・・・・・!」

 

 腹部にめり込ませたゴッドナデシコの左腕一本でドラゴンナデシコが宙吊りにされる。

 既に刀折れ矢尽き両腕を失い、全身にまだ動いているのが不思議なほどの損傷を受けている。

 その背に揺らめく胡蝶の羽根は、今や風に揺らめく蝋燭の火の如く乱れ揺れていた。

 だが。

 それでもなお舞歌の目は死んでいなかった。

 勝利の執念だけをその瞳に燃やし、舞歌の視線はアキトを貫いていた。

 

「負けない・・・負けられない・・・・死んでも負けられない・・・!」

 

 ごぼり、と血を吐くかの様にドラゴンナデシコのボディが内側から弾け、連鎖して小爆発を起こす。

 だがそれでも。

 舞歌の目には勝利しか映っていなかった。

 

 ギリッ、とアキトの奥歯が鳴る。

 その目の色が変わった。

 

「舞歌さん・・・・今・・・・今、楽にしてあげます」

 

 呟くアキトの、その左腕に力が篭る。

 

「ヒィィィィィィィィィィィィトォッ!」

 

 アキトの気の昂ぶりに反応するかの様にドラゴンナデシコのボディが赤熱化し、

 舞歌の意識が、闘志が、夢が、全てが今度こそ灼熱の炎の中に遠ざかっていく。

 

『そこまでっ!』

 

「「「「!」」」」

 

 だがアキトが最後のひと押しをする直前、最大限に拡声された声が会場に響いた。

 ドラゴンナデシコのボディを赤熱化させていた爆熱が雲散霧消し、

 胡蝶の羽根も風に溶けて消える。

 その声には、ファイト中のファイターをも押しとどめる程の「威厳」と呼ぶべき物が備わっていた。

 

 緊張が破れ、崩れ落ちながらも舞歌が呆然とした面持ちでその声の主を見つめる。

 こちらも満身創痍のアキトが辛うじてその体を支えた。

 

「そ・・・・総師様?」

『東舞歌よ。お前はネオチャイナの誇りである! 死なせるわけにはゆかん!』

「そうし・・・さまぁ・・・」

『お前の少林寺再興に対する想い、よぉっくわかった!

 本決勝バトルロイヤルに勝ち残れ! お前の望み、叶えてつかわす!』

「あ・・・・ありがとうございますっ!」

 

 会場に拍手が起った。

 ぼろぼろと、涙をこぼしながら舞歌が礼を取る。

 力の抜けたその身体を再びアキトが支える。

 振り向いた舞歌とアキトの視線が合う。

 

「いい、ファイトでした。舞歌さん」

「ううん。お兄ちゃんと・・・あなたの、おかげよ」

 

 拍手は鳴り止まない。

 松涛の如く、そして雷鳴の如く拍手は鳴り止まなかった。

 

「「お見事でした、舞歌様・・・・・!」」

 

 その様を見た九十九と元一朗の双眸から、再び熱いものが流れ出している。

 

 

 

「ん〜、もう! 誰も彼も臭いお芝居ばっかりして・・・

 どうしてアキトさん一人を倒せないんです?」

 

 ふう、と溜息をつくメグミを横目で見てホウメイが鼻で笑う。

 明らかに気分を害した目つきでメグミがホウメイを睨み返した。

 

「何がおかしいんですか?」

「おかしいさ。ナデシコファイトの主催者にしてこの未熟ぶり、呆れてものも言えないね!

 見な。真の武闘家とはどういうものか!」

 

 

 

 ドラゴンナデシコのハッチが強制解放された。

 滑りこんできたアキトが舞歌に手を貸し、コクピットから連れ出す。

 

「さあ、早く手当てを」

 

 自分とて満身創痍であろうに、肩を貸してくれるアキトを、

 舞歌がとてつもなく眩しいものを見る目で仰ぎ見る。

 

 この男が、自分にとってどういう存在になっていくのかはいまだにわからない。

 「兄」か、「弟」か、「友」かそれとも「伴侶」か。

 ただ妙な確信はあった。

 もう自分は好き好んで雨に打たれるような真似はしないだろうと。

 

 

 

 

 

 次回予告

皆さんお待ちかねぇ!

新必殺技・ガイアクラッシャーでアキトに最後の戦いを挑むリョーコ!

一方彼女への復讐を誓う久美はそのファイトを鋭く見つめます!

ですが、その裏ではメグミの恐るべき陰謀が着々と進行していたではありませんか!

 

 機動武闘伝Gナデシコ、

「炸裂ガイアクラッシャー! 突撃ボルトナデシコ」に!

レディィィィィィ!GO!

 

 

 

 あとがき

いや〜、今回もまた間が開いてしまいました。皆さんごめんなさい。

 

さて、言い訳はいくら重ねても見苦しいだけなので省略しますが(おい)、

今回書いていて一番驚いたのは八雲さんの正体ですね。

いや、正体と言おうか「あにいもうと」を書いたときに

無意識にモデルにしていた人物がいたことに今更ながらに気がつきまして。

 

「修羅の門」の陸奥冬弥。

主人公にとって尊敬し慕う存在であり、また絶対の壁でありながらも先に逝ってしまった、

彼が八雲さんの原型だったんです。

 

「ヤン・ウェンリーじゃないの?」と仰る方もおられるでしょうが、

あれは舞歌と正反対のキャラクターにして戦略戦術技能を賦与したら自然に似てしまっただけで(爆)、

キャラクターとしては全く別物です。

 

原作(Gガン)で舞歌さんの相当キャラであるサイサイシーに志を継がせたのは

サイシーの父親サイパイロンだったわけですが、

彼が作品中で微笑むシーンを八雲さんに置き換えたら

冬弥が作中で見せたどこか儚げな笑顔がフッ、と浮かんできまして。

 

・・・・・いや〜、奥が深い(笑)。

 

 

 

なお、作中で舞歌が歌っていた歌(中島みゆきだったりします)の歌詞については

Hiroyuki Niwayamaさんのページ「我的小房間」を参考にさせていただきました。

 

 







プロフェッサー圧縮in少室山峰(嘘)の「日曜劇場・SS解説」


とゆーワケで、おはこんばんちわ(古)プロフェッサー圧縮でございます(・・)

ハイ、元ネタでも大いに盛り上がりました「VS新シャッフル同盟」シリーズ、今回は舞歌の回でした(゜゜)

亡き兄より『受け継がれる意思』は、長き年月を経て舞歌の中に根づきました。

真の強敵(とも)との闘いで、彼女の器が託された想いを受け止められるほどになったのでしょう。


・・・さて、舞歌の、そして八雲がそれほどまでにこだわる少林寺再興ですが。

これは「伝統拳」と呼ばれている一派の復興である、と捉えてよろしいでしょう。

わたくし達の身近にある少林拳は「規定拳」と呼ばれておりまして、現代の中国成立後に河南省が中心となって編纂した競技用の拳法であります。

競技用、と一口に申しましても刀や槍なども使いますし、必要に応じて伝統拳を取り入れる者も多いようで・・・・・・一概に非実戦的、と決め付ける訳にもいかないようです。

実際、規定拳は国や省の後押しを受けて急速に主流としての地位を確立して行っているようで、院内や武術学校でも専らこちらを練習させているそうです。

ちなみに伝統拳と一括りにしていますが、その中の流派は非常に多いです。ゲームなどによく出て来る連環拳や通背拳、七星拳もこの伝統拳に入ります。


ついでなので、何故少林寺再興が時の権力者(この場合は普礼総師)の承認が必要なのかについて若干触れますと、それは「十三棍僧」の故事に由るものだと思われます。

西暦617年。唐太宗・李世民が鄭国を討伐する際、13人の少林僧がこれに協力し、大戦果を上げました。

その功績を称え、唐王は彼らに紫の袈裟(紫は皇帝だけに許された色だった)を下賜し、以後少林寺が僧兵を持ち、鍛錬する事を許可しました。

この件は、映画にもなった有名なエピソードであります。

少林拳の確立は、この辺りからだと言っても良いでしょう。





・・・・・・であるからして政教分離がどーとか、野暮な事をゆってはいけません(核爆)





さて、そろそろ時間(読者の忍耐力)も押してまいりました(゜゜;)

この辺で、お暇させていただきましょう(゜▽゜;)

いやーSSって、ホント〜に良いものですねー。

それでは、さよなら、さよなら、さよなら(・・)/~~

                By 故・淀川長治氏を偲びつつ プロフェッサー圧縮