「いかに敵が強大とてもっ!」

 

 アキトの叫びに応え、ガイが握った拳を突き上げる。

 

「挫けぬ勇気は最後の切り札!」

 

 再度、アキトが。

 

「鉄の拳が叩いて砕くっ!」

 

 そして、二人の声が重なった。

 

「「これぞ我等が熱血魂!!」」

 

 

 その声が合図であったかのように、ゴッドの六枚の放熱フィンが展開し、その背に日輪を描く。

 胸部装甲が展開し、露出したエネルギーマルチプライヤーがキング・オブ・ハートの紋章を浮かび上がらせる。

 今は、その光の中にガイの力も篭もっているように感じられた。

 

 それに呼応し、両腕のブレードを展開したナデシコシュピーゲルがコマのように回り始める。

 今まで数多の敵を屠ってきた彼女の最大の奥義、シュトゥルム・ウント・ドランク。

 この決勝リーグでも、新生シャッフル同盟を初めとして、

 彼女に挑んだファイターの悉くを退けたシュバルツ不敗の奥義。

 「シュレディンガーの猫」が彼女の忍者としてのけれんの極みだとするなら、

 これこそはシュバルツの武闘家としての正道の技の極み。

 なればこちらも、流派東方不敗の正道の奥義で対するのみ。

 

 

 場内は息を呑み、この最後となるであろう攻防を見守っている。

 だがガイは腕を組み、今にもぶつからんとする二つの奥義を泰然として見つめていた。

 どうということはない。

 今は、アキトの中にガイの闘志も宿っているのだから。

 

 

 そしてアキトが吼える。

 

「流派! 東方不敗の名の元にっ!」

 

 アキトの全身が黄金に輝く。

 だがこれだけではまだ足りない。

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える!」

 

 アキトの右拳と、そしてゴッドナデシコの胸の宝玉、

 エネルギーマルチプライヤーに浮かぶキング・オブ・ハートの紋章。

 アキトの闘志の高まりと共に、ゴッドナデシコの両手が爆熱に燃える。

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶぅぅぅぅっ!」

 

 そしてシュバルツが叫ぶ。

 もはや輪郭も分からないほどに高速で回転しているにもかかわらず、

 アキトはその渦の中に、自分を圧倒し押し流す闘志を叩きつけてくるその双眸を確かに見た。

 だが、アキトは一人ではない。

 アキトの後ろにはガイがいる。

 シュバルツの実力は恐るべきものだが、アキトの力とてそれに決して劣らない。

 まして一人で戦うシュバルツに対し、アキトはガイと共に戦っているのだ。

 ならば、二対一で負ける理由はどこにもない!

 

「今、爆熱するのはガイとこの俺!」

 

 燃える両手の間に、アキトの体を包むそれ以上にまばゆく輝く黄金の光が生まれる。

 その黄金の輝きに、王者の紋章が宿る。

 

 

「石破! 天驚拳!」

 

「シュトゥルム!

ウント!

ドランクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 

 アキトとガイの渾身の力をこめたそれと、シュバルツの全てをこめた鋼鉄の旋風がリング中央でぶつかり合う。

 闘技場を巨大な白光が覆い尽くし、リング上の二人と、不動で見守るガイを除く全ての人間が目を背ける。

 次の瞬間、闘技場の下から起こった爆発が、全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 恐る恐る、人々は目を開けた。

 爆発の煙が立ち込める空。

 色はおろか輪郭すら定かではなくする濁った空。

 そこに、確かに一つの影が舞っていた。

 

 誰もが期待と不安を入り混じらせ、空を見上げている。

 息詰まる数瞬が過ぎ、煙の薄れゆく空に現れたのは白いナデシコ・・・ゴッドだった。

 爆発的な歓声が上がった。

 どちらを応援していたものも、等しくゴッドに向けて精一杯の声を張り上げ、手を振っていた。

 歓声を浴びて悠々と、ネオホンコンの青い空をゴッドは飛ぶ。

 全身に無数の傷を受けながらも、その白いボディは輝きを失っていなかった。

 

 ガイは腕組みをしたまま、大きく頷いた。

 同じポーズのまま、ホウメイは僅かに笑った。

 エリナとルリとハーリーの顔には、大きな笑みが浮かんだ。

 メグミは大きく溜息をつき、自らの玉座に沈みこんだが、その顔には奇妙な安心感が浮かんでいた。

 

 

 ゴッドが、殆ど残骸になった、いまだくすぶり続ける闘技場の上に着地した。

 アキトがコクピットハッチを開放し、そのまま飛び降りる。

 ガイもまた、ハーリーにセコンドデッキを操作させて闘技場に飛び降りた。

 互いに、相手の名を呼んで駆け寄っていく。

 互いを求めて手を伸ばす。

 誰もが見守る中、二人の影が一つになり。

 

 次の瞬間、示し合わせたような、見事なクロスカウンターが互いの頬に炸裂した。

 

 互いに全力で走っていただけに結構効いたらしく、二人とも見事にひっくり返る。

 が、即座に起き上がって今度は互いをののしり始めた。

 

「ちょっと待て、こう言う場合抱き合うのがお約束ってもんじゃないのか!」

「お前だって殴っただろうが!」

「俺様はいいんだよつーか一発くらい殴らせろこの馬鹿!

 てめぇのお蔭でこっちがどれだけ痛い思いしたと思ってやがる!」

「それはお互い様だ! 俺だってお前を一発くらい殴る権利がある!」

「ふざけるな! お前に貸しはあっても借りはないぞ!」

「そっちこそふざけるな!

 大体怪我人は大人しく寝てりゃいいものを、ノコノコとこんなところに出てくるから悪いんだろうが!」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・恥をかかせおって」

 

 エリナが、再び頭を抱えている。思わず男言葉になっていた。

 ハーリーは先ほどまで抱いていた幻想がガラガラと音を立てて崩壊してゆくのを感じていた。

 よっぽどショックだったのか、ルリに話し掛けられても反応せずにブツブツ何事かを呟いている。

 

「もしもし、おーい、やっほー」

 

 ぱたぱたと、顔の前で手を振っても何らハーリーが反応しないのを確かめると、ルリはリングの方に向き直った。

 自然と、溜息が出る。どうしてあんな人を好きになったのか、また好きでいられるのか自分がわからなかった。

 好きなこと自体は間違いないのだが。

 

「馬鹿ばっか」

 

 

 

 一方、その馬鹿筆頭と馬鹿二号は相も変わらず見苦しい言い争いを演じている。

 ここが衆人環視の中であるとか、自分たちが国家の威信を代表する存在だとか言った事実は

 現在、彼らの意識からごっそりと抜け落ちているらしい。

 観客席の片隅でユリカが深く溜息をついていることを、もちろん彼らは知らない。

 

「この脳筋馬鹿! ただ本能にまかせて戦う前に頭を使うべきところがあっただろう!」

「い、言うに事欠いて・・・・・・自分のことを棚に上げて人のことを言えた義理か!

 大体何様のつもりだ! 途中でいきなりしゃしゃり出てきやがって、ファイトに水をさすんじゃない!」

「何だと! この俺様の超スゥパァウルトラグレイトな作戦と的確な助言のおかげで勝てたくせに!」

「この野郎、アレのどこが作戦で助言なんだか説明して見ろ!」

 

 そこで二人はハッと我に返った。

 爆破され、無残な姿を晒した闘技場の中央に目を向けたのが同時。

 特定の一言で思い出される辺りが、日ごろの行いの結果というものであろうか。

 

 

 

 

 シュバルツは満足だった。

 あの時、確かにアキトは自分を凌駕していた。

 本質的な部分でマスターに劣っているとはいえ、スペックそのものは東方不敗をも上回ろうかという

 そのシュバルツに対し、勝利を納めるのはなまなかの事ではない。

 逆に言えば、シュバルツを破るためには東方不敗と同等の域にまで己を高める必要がある。

 そしてアキトは、見事にそれをやってのけた。

 今のアキトはおそらくマスターホウメイと比べてもさほど見劣りはすまい。

 一対一であれば、そして展開次第では勝敗はもはや時の運であろう。

 確実な勝利は未だ期しがたいが、少なくともアキトはホウメイと同じ土俵に立つことが出来たのだ。

 上出来といっていい。

 そこまで考えたとき、シュバルツはガイに抱き起こされた。

 その懐かしい顔にマスクの下で思わず笑みがこぼれ、ついでそれが凍りついた。

 

「アイちゃん!」

 

 シュバルツの目が、大きく、真ん丸に見開かれた。

 ややあって悪戯を見つけられた童女のような、あどけない笑みがその顔に浮かぶ。

 

「あは・・・・バレちゃったんだ。駄目だなぁ。最後まで隠しておくつもりだったのに・・・

 まさかガイお兄ちゃんに見破られるとは思わなかったなぁ」

 

 二十も半ばを過ぎた女性の口から出るには余りにも幼い喋り方。

 だが不思議と、その場にいた誰も違和感を感じなかった。

 アキトの顔から表情が消えた。

 もうそこには、戦いに勝った高揚感も疲労の色すらも浮かんではいない。

 ただ、未知への恐怖だけがあった。

 

「何を・・・何を言ってるんだ、ガイ? 何を言ってるんだシュバルツ?

 そんな・・・そんなことがあるわけが・・・」

「俺にもわからねぇよ。けど、本当なんだ。シュバルツはアイちゃんなんだよ!」

 

 やりきれなさを、理解できないふがいなさを吐き出すようにガイが叫ぶ。

 シュバルツのあどけない笑みに、僅かに苦笑の色が混じった。

 

「ふふ。アキトお兄ちゃんには気づかれなかったのになぁ・・・まだまだ・・・甘かった、かな・・・」

 

 静かに、その瞼が落ちる。

 アキトの絶叫がリングに響き渡った。

 

 

 

 

 

 次回予告

 皆さんお待ちかねぇ!

 決勝リーグ戦注目の大一番!

 機動武闘伝Gナデシコ、

「バトルロイヤル開始! 復活のデビルホクシン!」に!

レディィィィィィ!GO!

 

 

 

 

あとがき

 ふ・・・ふふふふふふふふ、今回は早かったぞ!

 つーても四ヶ月近く経ってますけどね(爆)。

 

>「シュレディンガーの猫」

 原理とかは聞かないで下さい。(爆)

 強いて言うなら、ゴッドシャドーの如く気を練り上げて作った分身たちで、

 そこにエーテル化した「自分」を少しずつ混ぜ込んでるとかなんとか。

 

 余談。例の円陣は「ゲルマン忍法・ウィンナーワルツ」とかネーミングを考えていたのですが、

 色々思うところがあってやめました(笑)。

 

>DX大熱血合体セット

 もちろん私の創作ですのでお間違えなきよう。(笑)

 ちなみにゲキガビッグとゲキガコスモはゲキガンガーVのパワーアップパーツで、

 ゲキガンガーVがゲキガビッグと合体して武装強化形態ドラゴンガンガー(TV12話に出てきたあれ)、

 ゲキガコスモと合体して宇宙戦形態アストロスペースガンガーになるという設定です。

 

 ちなみに、書いてて一番楽しかったのがこの超合金薀蓄だったのは秘密(爆死)。

 

 

 

 

 







プロフェッサー圧縮in日野清水橋(謎)の「日曜劇場・SS解説」


ハイ、割と暫くぶりですねー。お元気ですかー? プロフェッサー圧縮でございます(・・)

今回は「決勝直前! トーナメント最終決戦ゴッドvsシュピーゲル」でした(゜゜)

・・・まー、イロイロとございますが取り敢えず、

医者も匙投げる奴ばっか


と総括させて頂きたいと思います、ハイ(爆)



さて、話は変わりまして多分皆様が解説を希望されると思われる「シュレディンガーの猫」ですが。

これは量子力学の基礎と云いますか発端と云いますか諸悪の根源なんですが(爆)詳しく解り易く懇切丁寧に至れり尽くせりねっとりしっとり説明しようとしますと小1Mほど必要なので割愛させて頂きます(゜▽゜;)

まぁそれではあんまりと申しますか職務放棄っぽいので(爆)とっかかりだけでもお話ししますと。

「原子構造」「電子雲」「スピン1/2」「観測」「励起」「ありのまま」

ここいら辺のキーワードを適当にアレンジしつつ検索してみるといいかも知れません。

なお、この辺とかは笑えますが混乱するので注意が必要です。有名ですが(゜゜)






さて、そろそろ時間(読者の忍耐力)も押してまいりました(゜゜;)

この辺で、お暇させていただきましょう(゜▽゜;)

いやーSSって、ホント〜に良いものですねー。

それでは、さよなら、さよなら、さよなら(・・)/~~

                By 故・淀川長治氏を偲びつつ プロフェッサー圧縮