たまご

 

 

 

 

その声を聞いたのはくそ暑い夏の日の事。久しぶりに秋葉原に出て、

10kgくらいの書籍やらLDボックスやらを買い求めた帰り道、家まで歩いて10分くらいの所だった。

 

「「卵を返してください」」

 

「ヘ!?」

 

「「お願いです、卵を返して下さい」」

 

自分の耳と正気をいささか疑いつつ足元を見ると、二人のそっくり同じ顔をした小さな女性がいた。

身の丈は10センチほど。少女と大人の女性の中間くらいの歳で、、どちらも非常に美しかった。

片方は髪の色は金色。もう一人は銀色。金と銀の輝きが日の光に映えてこれまた美しい。

 

「あ、あの・・」

 

君達は一体・・・と言おうとして慌てて周囲を見まわす。

麻痺していた常識が急に主張を始めた。

真昼間から道端にしゃがみ込んで何やらぶつぶつ言っていたら周りからどう見られるか、とか

こんな小さな人間(しかも美人)を見たら普通の人間がどう反応するか、とか

まあ、そういった事を声高に言い始めたわけだ。

 

「と、とりあえずここに入ってて!話は家で聞くから!」

 

口を開けたウェストポーチを指し示す。

 

「「どうしてですか?」」

 

「どうしても!」

 

意外と素直にウエストポーチにもぐりこんだ二人を手で隠しつつ家路を小走りで急ぐ。

部屋のドアを閉めると無意識の内に深い溜息が洩れた。

 

「あの〜、もういいですか?」

 

「出てもいいですか?」

 

二人の言葉で我に返る。

・・・思考停止を起こしていたらしい。

 

「あ、ああ。ちょっと待ってね。」

 

とりあえず荷物を下ろし、冷蔵庫の烏龍茶をがぶ飲みする。

昨日2リットル淹れたばかりのポットの中身を一息で半分以上飲み干して、ようやく落ちついた。

 

「まず、質問させてくれ。君達は一体何なんだ?」

 

「私はサラ。」

 

「私はアリサ。」

 

「私達は卵を捜してここに来ました。」

 

「その卵は、とてもとても大切な物なのです。」

 

「お願いです、返して下さい。」

 

「卵を返して下さい。」

 

金髪の女性・・サラと銀髪の女性・・・アリサが交互に答える。

 

「卵って言ってもなぁ・・・」

 

ふと、閃く物があった。

小物などを無造作に放りこんである箱をかき混ぜる。

程なく目当ての物が見つかった。

一センチくらいの青く光る綺麗な玉。

数日前、道に落ちていたのをビー玉か何かだろうと思って拾ってきたのだが・・・。

 

「これです!」

 

「私達の捜していた卵です!」

 

「でも・・・。」

 

「もう孵り始めている。」

 

「温めなくては・・・。」

 

「温めつづけなくては・・・。」

 

そこまで言ってから、二人がじっとこちらを見つめる。

 

「ひょっとして・・・俺が温めるの?」

 

頷く二人。

 

「この卵は迷える魂。」

 

「幼い故に、生まれ変わる前に迷い出てしまった魂。」

 

「温めてください、この卵を。」

 

「暖めて下さい、この子の魂を。」

 

「悲しい思いを、寂しい心を忘れられるように。」

 

「すこやかに生まれて来る事が出来るように。」

 

「「お願いします。」」

 

手のひらの上に「卵」が置かれる。

 

椅子の背を倒し、楽な姿勢になる。

どうするでもなく、手の中のそれを握りこんだ。

・・・二人が何も言わない所を見ると、これでいいらしい。

 

我ながら辛抱強い事に、この状態は数時間続いた。

 

「・・・いつまで、こうしていればいいのかな?」

 

「少しの間です。」

 

「もう少しです。」

 

「お願いします。」

 

「この子の為にも・・・」

 

そこまでアリサが言ったとき、ふと手を開いて見た。

青かった表面が渦を巻き、透明に近くなっている。

霧が晴れていくように青が薄れ、消えていく。

玉が透明になるにつれ、中に一人の赤ん坊が眠っているのが見えた。

完全に透明になったとき、玉の固い感触が消え、代わりに暖かく柔らかい感触があった。

大きな産声が上がる。手の中で泣くちいさなちいさな命。

何とはなしに、大きな達成感を感じていた。

サラとアリサが歩み寄り、赤ん坊を抱き上げる。

 

「ありがとうございます。」

 

「貴方のおかげで、この子はもう一度生まれてくる事が出来ました。」

 

「貴方のおかげです。」

 

「お礼を言わせてください。」

 

「・・・で、君達どうするの?」

 

「帰ります。本来いるべき所へ。」

 

「戻ります。この子が生まれるべき所へ。」

 

「「迎えが・・・来たようです。」」

 

虹色の光が瞬き、二人と同じ位の大きさの、黒い衣に身を包んだ青年が現れる。

 

「ありがとうございました。貴方のおかげで、この子は助かりました。」

 

二人から赤ん坊を受け取り、微笑む青年。

 

その両腕にサラとアリサがしがみつく。

 

「さようなら。」

 

「あなたの事は忘れません。」

 

「ああ・・・・・・・さようなら。」

 

 

虹色の輝きが再び彼らを包む。

最後に青年が赤ん坊に囁くように語りかけた言葉が何故かはっきりと聞こえた。

 

「今度は間に合ったね。・・・お帰り。メティちゃん。」

 

 

 

あとがき

メルヘンだなぁ(笑)。

私の小説は心の赴くままに書いているだけなんだけど、それだけに時々妙な話が出てきます。

これも私の心象風景と言う事か?

それにしても・・・・・・・どこが「ナデシコ」じゃい。

まあ、アキトが出てるし許してもらうか(笑)。

え、長編の方はどうしたかって?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さらば!

(ダッシュで逃げる作者)

 

・・・・遠くの方から銃撃の音と悲鳴、

愚か者の肉体が蜂の巣になるような音が聞こえてくる。

(頭は外せよ。脳死まで行かれちゃなんにもならないんだから・・・)

(脳と目と、キーボードを叩く指さえあれば小説は書けるしね・・・)

(そういうこと・・・)

 

かたつむり枝に這い、神、空にしろしめす。

なべて世は事も無し。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから七回目の投稿です!!

う〜ん、こうきましたか・・・

いや、冒頭の部分を読んで一瞬アキトが秋葉原?

と、驚いてしまいましたよ(苦笑)

でもって、タマゴと例の双子が登場して思いついたのはモ○ラ(爆)

絶対に狙ってるって!!

ねえ、そうでしょう鋼の城さん?

皆さんもそう思いましたよね、ね、ね、ね、ね!!

でも、オチは予想外だったな・・・

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

ナデシコのページに戻る