イネスの呟き

 

 

 

 

イネスは退屈していた。

実験体一号がパイロットに復帰してしまったし、

実験体二号も最近は余り医務室に来ないので

やりたい放題好き放題の人体実験が思うように出来ない。

悪い事は重なるもので大好きな「説明」も最近なかなかその機会が無い。

要するに、いまいち欲求不満なのであった。

新しい実験の下準備でもしようかと思って身を起こしたその時、

オモイカネ直通のホットラインから彼女自身が設定した最優先の緊急コールサインが入った。

一目で状況を見て取ると同時に頭の中でなすべき事を整理し、通信ウィンドウを開く。

 

「説明しましょう!」

 

その場の全員の視線が突然現れたイネスの映像に注がれる。

突然出てくる「説明」に最初の頃こそ戸惑う者もいたが、今では誰も驚かない。

むしろ「説明」のチャンスに彼女が出てこない方が驚き怪しまれるだろう。

それはともかく、彼らが話していたのは乗組員の間に流行しつつある

悪性のインフルエンザについてだった。

この前寄港した港で整備員の一人が移されたらしい。

既に何人かが発症しておりイネスが処置していた。

 

「・・・・・・と、言う訳で全員の予防接種と健康診断の実施を提案します。

 良いかしら、艦長?」

 

怒涛の説明でクルーのほぼ全員が呆然とする中、その言葉でようやくユリカが我に返る。

 

「は、はい、お願いします。急いでやっちゃってください!」

 

メグミを臨時看護婦として徴用し、非番の者(大半は整備員である)から

手際良く診察と予防接種を済まして行く。

伊達に医務室をまかされているわけではない。

ブリッジクルーも交代で診察を受け、予防接種を受けて行く。

僅か半日で二百人からの人間の健康診断と接種を済ませてしまったのは

イネスの医師としての実力を如実に物語るものであろう。

そして、いよいよパイロットへの診断と接種の段になって、

医務室の中には一種異様な緊張が漂った。

先に接種を受けた女性パイロット数名は何故か帰ろうとしなかったし、

不穏な動きを見せた某会長や某副長や某整備班長や某情報部長が

急な発作を起こして倒れ、ベッドで寝息を立てていた。

医学的理由を根拠にメグミと協力して「邪魔者」を追い出した後、

「メインディッシュ」の診察に掛かる。

 

その一連の騒動の間、哀れな獲物は自らの運命に思いを馳せ現実から逃避していた。

 

「はい、それじゃ服を全部脱いでベッドに横になって。」

 

「ぜ、全部ですか!?」

 

「冗談よ。」

 

「は、はは、そうですよね、冗談ですよね・・・。」

 

「その気ならいつでも、上から下までじっくり眺められるんだから。」

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

「さて、もう後はアキト君一人だけだし、メグミちゃんもご苦労様。先に帰っていていいわよ。」

 

「でも、まだアキトさんの検査が終わってませ・・・」

 

「ぽちっとな。」

 

警戒心をあらわにするメグミの言葉を最後まで聞かず、イネスが手の中のスイッチを押した。

瞬時にして医務室の床の直径3mばかりの範囲が切り取られた様に消滅する。

その丁度真ん中にメグミがいた。

 

「イネスさんずるいぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・・・・・・」

 

メグミの声が急に遠ざかり、そしてどこか遠くで水音がした。

何事も無かったかのように静かに床が閉じる。

後には継ぎ目一つ残らなかった。

 

「さて、アキト君。」

 

「は、はいっ!」

 

イネスの笑顔に忍び足で扉の方に移動しようとしていたアキトがそのままで固まる。

 

「何を警戒してるのよ。ただ検査をするだけなんだから。」

 

イネスがくすくす笑いながらアキトに告げる。

そういえば、とアキトは気が付いた。

実験をする時のような獲物を見つけた肉食獣の笑みではない。

それを見て取って一寸安心する。

 

「ドアは完全にロックしてあるし、監視カメラも殺してあるから大丈夫よ。」

 

「・・・・・・・・・」

 

改めて、自分の見通しの甘さを再認識するアキトであった。

 

「はい、シャツを脱いでここに座って。」

 

「はい、バンザイをして。」

 

「はい、あ〜んしてべろを出して頂戴。」

 

とん、とん、とん、とん。

 

触診の音が静かな室内に響く。

最初はびくびくしていたアキトであったが、

イネスの診察が極めてまともな物だったので安心していた。

 

「はい、今度は背中を向いて。」

 

素直にくるりと椅子を回転させ、イネスに背中を向ける。

イネスの指がアキトの肩や背中を軽く叩き、体の具合を調べて行く。

ふと、触診を続けていたイネスの手が止まった。

 

「イネスさん・・・?」

 

不意に、アキトの背に暖かい重みが預けられ、

わきの下から回された手がアキトの体をいとおしそうに抱きしめる。

首筋に寄り添った頭から切なそうな息を感じた。

 

「い、イネス、さん・・・・?」

 

「どうしてかな・・・。こうしていると不思議と落ちつくの・・・。

お願い・・・もう少しだけこのままいさせて・・・・。」

 

そのまままどろむように目を閉じるイネス。

 

「・・・・・・・。」

 

それは本人すら気付かない無意識の呟きであったのかもしれない。

だが、アキトの耳はその微かな呟きをしっかりと捉えていた。

その目が優しく細められる。

アキトは前を向いたまま、すがりつくイネスの頭をそっと撫でてやった。

何回も、何回も。

幼い子の頭を優しくなぜるように。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

う〜ん、調子が出ないなぁ。

やはり強烈過ぎるのを書いてしまうと、自分でも引きずられてしまうのかね。

と、言うわけでリハビリ中の鋼の城です(笑)。

イネスさんの可愛い所を書いて見たかったんだけど・・・。

思うように行かないですね。

この人は単なる説明おばさん(殴)ではなく、

割と二面性のある人(その片方は『アイちゃん』ですね)と思えるので、

その知られざる一面を書こうというのが主題だったんですが・・・。

 

精進せずばなるまい、うむ。

 

ちなみに「きずな」の連載の件ですが、イマイチ希望者が少ないですねぇ。

う〜む、期待されてないんだろうか?

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから九回目(八回目は絆です)の投稿です!!

いやいや、あの大作の後遺症は流石に鋼の城さんでも受けましたか。

・・・その大作をアップできない、馬鹿な管理人ですが(汗)

う〜ん、プロバイダーを早く変えた方がいいかな?

 

それにしても、今回はイネスさんが主役ですか。

そうですよね、主要キャラの一人ですからね(笑)

まあ、物語も後半にはいって・・・今後はどうなるんでしょうね?

って、俺の話かそれは(苦笑)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

あ、Benは絆の連載を希望してますよ〜

 

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