機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロスペクター「さて、もしよろしければ皆様方に、このナデシコファイトをご説明させて頂きましょう。

そもそも六十年前の事です。汚れきった地球を後にコロニーへ上がった人々が

コロニー国家間の全面戦争を避けるため、

四年に一度各国の代表を"ナデシコ"と名付けられたマシンに乗せ、

"ファイト"と称し、戦って、戦って、戦い合わせ!

最後に残ったナデシコの国がコロニー国家連合の主導権を手にする事が出来る・・・・

何とスポーツマンシップに溢れた戦争を作り出した事でしょうか。ですが、残された問題が一つ。

この、ファイトの舞台は地球。そう・・・我々の住む汚れきった地球だったのです。

しかし、今回の大会は何やら様子が少し違う様です・・・。」

「・・・そこのお前!この写真の少女に見覚えはないか!?」

赤い長鉢巻を締め、赤いマントに身を包んだアキトがいきなり写真を突きつける。

色褪せ、半ばから千切れた古い写真。

そこには、肩車をされて無邪気にはしゃぐ少女が写っていた。

「この写真がどのようなファイトの嵐を吹き荒らすのか!?

さて、今日のカードはネオフランス代表、ミスマル・ユリカのナデシコローズ!

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

第四話

「いざ勝負!

真紅のバラのお嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照りつけるような灼熱の太陽がパリの街と、二体のナデシコとを照らしていた。

 

一体はネオキューバ代表アラクノナデシコ。

蜘蛛を意味するその名の通り、四対八本の節足が背中から突き出ている。

それを除けば無骨な、面白みの無いスタイルのナデシコだ。

ただ、この国のナデシコの伝統的なデザインで

頭部につばの短い軍用帽をつけているように見えるのが目を引く程度である。

建国の英雄が常に愛用していた物にちなむらしいが、今は関係ない。

 

いま一体はネオフランス代表ナデシコローズ。

純白を基調としたボディに空色のアクセントが映える。

左肩から腕を覆う、青いハーフマント状のシールドを含め、

優雅なラインを描くボディはナポレオン時代の将官の軍服を彷彿とさせた。

頭部はナポレオンの帽子の如き、これまた美事な造形美を誇っている。

今大会でも随一の、優美なデザインのナデシコであった。

そしてまた、決して外見が優美なだけの機体では無い。

 

その二体を一望できる位置に、ネオフランスの誇る飛行船、

「Leine de ciel(蒼穹の女王)」号が優雅に浮かんでいた。

16、7と思われる少女がオペラグラスを手に、地上のナデシコを熱心に観察している。

 

「姫様、危のうございます。どうぞ席へお戻り下さい。」

「いいえ、大丈夫。私はここで見ています。」

(そうよ。ユリカ先輩は決して負けたりしないんだから)

わがまま一杯なこの少女の名は「イツキルイゼ」。

ネオフランス代表ミスマルユリカの後輩にしてネオフランス国家元首の娘。

つまり、掛け値なしの「お姫様」である。

今度もわがままを言ってこのファイトのためにわざわざ飛行船をしつらえさせたのだった。

その目は、期待に強く輝いていた。

 

 

 

 

「てめえを倒しゃあ、俺も大きな顔が出来るんだ!・・・覚悟してもらうぜ!」

「ん〜、もう!志が低いなぁ!貴方わかってる?

ユリカ達はね、国家の代表!ナデシコファイターなんだよ?

自分の事だけ考えてれば良い訳じゃないんだからね!」

自分勝手な事を喚いている男はネオキューバ代表ガストロ。

そして怒っている女性の名はミスマル・ユリカ。

ネオフランスを代表するナデシコファイターである。

妙齢の女性でありながら言動は万事素直で子供っぽい。

元々がネオフランスでも一、二を争う名家ミスマル家の一人娘、

つまり最上流階級の深窓の令嬢でありながら、

型通りの貴婦人、上流階級、名家の娘というレッテルを張られる事を嫌がり、

「自分らしさ」を求めて騎士の位を授かりナデシコファイターになったような女性である。

貴族ではあるが、決して並の貴族では無い。

だが、自分の身に課せられた義務については重々承知していたし、

それを全力で果たす覚悟も持っている。

ノブレス・オブリージ、いわゆる「高貴なる義務」を果たす事が

貴族の貴族たる唯一の根拠である、と理解していればこそだった。

ある意味、彼女にとっては、ナデシコファイターの義務もその延長線上にある。

自ら進んで負う事を選択した「国家の代表」たる義務を果たす事こそ、

栄誉あるナデシコファイターに課せられた唯一絶対の責務では無いか・・・。

それがミスマル・ユリカの信念であり、彼女がもっとも重んじるところの「自分らしさ」でもあった。

それだけに、義務を行わず権利のみを主張するガストロのような輩は、

ユリカにとって一種許しがたい存在であった。

と、言ってもそんな事を理屈だてて考えているわけではなく、

全て「天然」でやっている所が更に凄いというかなんというか。

「ユリカ達ナデシコファイターは自分のために戦っているんじゃないんだからね!」

「じゃかましい!吠え面かかせてやるぜ!ナデシコファイトォォ!」

「ふう。もう、しょうがないんだから。レディ・・!」

「ゴォォォォォッ!」

ユリカでもガストロでもない、三番目の声が響く。

セーヌ川の水面が割れ、日本の鎧武者を模したようなナデシコが躍り上がった。

行きがけの駄賃とばかりに今まさにナデシコローズ目掛けて突進しようとしていた

アラクノナデシコに体当たりし、石畳の上に引き倒す。

それを見たユリカ、イツキルイゼの口から異口同音に驚きの声が上がる。

「あれは・・・ネオジャパンの!」

「シャイニングナデシコ!」

「悪いが、先に俺とファイトしてもらいたくてね・・・なんだったら二人がかりでも構わないぜ。」

「駄目。」

「な・・何!?」

「ナデシコファイト国際条約第五条。ファイトは一対一!

そこへ割りこむなんて、とっても失礼だよ!プンプン!」

「フン。こんな二流は放っておけばいいのさ!

さあ、ファイトを受けてもらおうか!」

さっきから転がったままだったアラクノナデシコがようやく起きあがった。

ガストロの浅黒い顔が傍から見てはっきりわかるほどに紅潮している。

口から泡を吹き、殆ど狂乱状態でアラクノナデシコが斧を振り上げる。

「・・・よってたかって馬鹿にしやがって!こうなりゃ誰でも・・・・」

セリフを最後まで言えず、アラクノナデシコが朽木の様に倒れた。

「誰でも・・・なんだって?」

後ろ手に突き出されたシャイニングナデシコのビームソードが、

過たずその頭部を貫いていたのである。

「対戦の約束はキャンセルだとさ。」

「もう、貴方ってまるで猪武者・・貴方、どこかで・・・アキト?アキトなのね!」

ふと、ユリカの顔にいぶかしげな表情が浮かび、それがすぐに理解の色にとって代わる。

俺はお前なんか知らない、そう言おうとしたアキトの脳裏に幼き日の記憶がよみがえった。

いつも自分の後ろを付いて来て、さんざん振りまわしてくれた台風のような女の子の事を・・・。

彼女が名門中の名門、ミスマル家の娘だなどと知ったのは、随分経ってからだった。

「・・・ユリカ?お前、ミスマルユリカか!?」

「久しぶりだね・・・!でも、何でアキトがこんな・・・。

ああっ!そうか、アキトは私を傷つけたくなかったんだね!

だからわざと乱入して、悪役を演じてまでユリカを守ってくれたんだ!」

「違うわぁっ!」

「もう、照れ屋さんなんだから!わかってる!アキトはユリカの事が好き!」

「ミスマルユリカ!俺はお前に、ナデシコファイトを申し込む!」

「うん、そうだよね。アキトもナデシコファイターなんだからそう言わないと格好が付かないよね。

でも、ファイトは互いの合意がなければ成立しないから、

私が断ればアキトが戦わない言い訳も立つよね?」

「違うと言ってるだろうが!俺は、お前を倒す為にここに来たんだ!」

「え!押し倒すだなんて・・・駄目だよ、そんな。まだ日が高いのに!」

「どう言えばわかるんだ!」

「言わなくてもわかるよ!」

十分後、精神力の全てを使い果たしてアキトががっくりと膝を突いた。

飛行船の上からそれを見ていたイツキルイゼが満足そうに頷く。

彼女の目には、ユリカが格の違いでアキトを屈服させたように見えただろう。

当然ながら、オペラグラスで観戦していたイツキルイゼに

二体のナデシコの間で交わされていた会話を聞くすべはなかったのだが。

「あの猛者を戦わずして屈服させるとは!

さすがはユリカ先輩。誇り高き我がネオフランスのナデシコファイターですわ!

それでこそ私の・・・・・。」

 

 

 

パリ某所の隠れ家で、ガイがアキトに詰め寄っていた。

「アキト!今回のお前のやり方はいくらなんでも無茶苦茶だぞ!?」

無茶をするのは俺で、それを止めるのがお前の仕事だったろうが・・と、

これは言葉に出さずにガイが呟く。

「・・・ふん。」

「ヘッ、エリナ委員長に説教食らって、少しはへこんだみたいだな!」

「うるさい!」

「焦るのはわかるがな、冷静さを失ったらそれこそ終わりだぞ。

・・・・おい、どこ行くんだよ?」

「散歩だ。」

「・・・・余り物を壊すなよ。」

ムッツリした顔のまま出掛けるアキトに、内心の不安を押さえきれないガイだった。

 

 

 

 

今宵もまた、迎賓館でパーティが催されている。

主賓の一人であるイツキルイゼは、アキトとはまた別の意味で

男性(しかも複数)に詰め寄られていた。

「ご機嫌麗しく、イツキルイゼ姫。」

「いつもお美しい・・・」

「よろしければ一曲、私と踊っては頂けませんか?」

きょろきょろしていたイツキルイゼの目がお目当ての人物を捉える。

周囲の男性に断りを入れると、そそくさと目標に近づいて行った。

「先輩♪」

「イ・・イツキルイゼ姫。」

思わずユリカの顔が引きつる。

能力、性格ともにほぼあらゆる意味で無敵を誇るこの娘の、ほぼ唯一の「天敵」。

それがネオフランス王女イツキルイゼ姫であった。

「何をしていらっしゃるんですか?」

「ほ、ほら、あれを見てください姫様。」

「・・・まあ・・・!」

思わず、イツキルイゼの口から感嘆の溜息が漏れた。

迎賓館の中庭に立つナデシコローズ。

高潔の純白と清冽の空色に塗り分けられた機体を夕日が鮮やかに照らしていた。

「私は、このナデシコローズに乗って戦える事を誇りに思います。」

「・・・私のためには・・・」

「え?」

「ユリカ先輩。騎士として、私のためには戦ってくださらないのですか?」

この時、ユリカが表情を動かさなかったのは特筆に価するだろう。

「もちろん、姫様のために。」

一瞬輝いたイツキルイゼの表情がユリカの次のセリフを聞いてまた曇る。

「それもまた、祖国の為ですから。

・・・かつてはヨーロッパの大国として名を馳せた我がネオフランスの、

威信の復興を賭けたこの戦い・・・負けるわけにはいきません。」

そこで振りかえったユリカの傍らには、もうイツキルイゼはいなかった。

疲れたように肩を落としたユリカの唇から安堵の溜息が洩れる。

全く、非常に珍しい光景であった。

 

 

口紅が鏡にアルファベットの「J」を描いた。それは「ユリカ」の頭文字。

「先輩・・・・。」

自分専用の化粧室(広さは三十畳程)の鏡の前に座り、イツキルイゼは溜息をついた。

「・・ユリカ先輩ったら、いつもいつも国のことばかり。

ハイスクールの時はあんなじゃなかったのに・・・。

・・・どうしたら私の事を見てくれるのかしら。」

この娘の頭の中では「ユリカが自分を避けている」という可能性は

検討されてもいないらしい。

不意に、顔色を輝かせるイツキルイゼ。

家中では「小悪魔の微笑」として恐れられた笑み。

要するに、「碌でもない事を思いついた」顔である。

「まずは・・・」

 

 

 

暫しの後、化粧室の扉がノックされた。

「イツキルイゼ様。紅茶をお持ちいたしました。」

ミスマルユリカの奴隷・・・もとい執事にして乳兄弟、アオイ・ジュンである。

イツキルイゼが何かと理由をつけてミスマル家に遊びに行く為、

今では半ばイツキルイゼの執事をも兼任するような形になっていた。

「イツキルイゼ様?」

いぶかしげに扉を開いたジュンが驚愕の叫びを上げる。

室内はひどく荒らされていた。

カーテンは破れ、引き裂かれた衣服が散乱している。

「イツキルイゼ様が・・・・さらわれた!」

 

化粧用の鏡には口紅で「Japon」と書き残されていた。

それを見たユリカが形のいい眉をひそめる。

「Japon・・・ネオジャパン!?

・・・・・・・そうか、そう言う事・・・。」

時とともに騒ぎが大きくなる迎賓館の中でユリカが一人静かに呟いた。

 

 

 

 

 

その頃。お忍びの格好で街に出ていたイツキルイゼは立ち寄った喫茶店で

ネオキューバのナデシコクルーたちとばったり出くわしていた。

当然ながら、大量のヤケ酒が入っている。

ファイターのガストロがイツキルイゼの腕を掴む。

真っ赤に濁った目が下品に笑った。

「この・・・離しなさい!」

「付き合ってもらいましょうか、ネオフランスのお姫様よぉ?」

とんとん。

ガストロの肩が背中から叩かれた。

振り向いたその顔に、正拳が叩きこまれる。

それだけで、あっさりとガストロは気絶した。

「負け戦の憂さ晴らしをするなら、相手は俺じゃないのか?」

「てめぇ!テンカワ・アキト!」

「こっちもむしゃくしゃしている。かかってこい!」

ネオキューバのクルー四人が沈むのに、一分はかからなかった。

「・・・ふん、腹いせにもならないな。・・・なんだ?」

「貴方、私のユリカ先輩と戦いたいのでしょう?

・・・・戦わせてあげても、よろしくってよ。」

 

 

 

 

 

何やら密談を交わしつつ、アキトはイツキルイゼを連れだってアジトに戻った。

話を聞いたガイが素っ頓狂な声を上げる。

「誘拐〜!?」

「そう、ゆ・う・か・い♪『俺と戦え、さもないとお前の大切な姫君の命はないぞ』って

ミスマルユリカに挑戦状を送るの。ユリカ先輩も出てこざるを得ないはずよ。」

「お前の大切な、という所はともかく、

一国の姫君がさらわれたとあってはユリカも動かざるを得ない筈だ。」

「まあ・・・そりゃそこまで行ったら個人感情は関係無いかもしれないけどよ・・・。」

「・・・・何か言いたい事があるならはっきり言って下さる?」

 

 

 

 

「・・・貴方の店にこの手紙が?」

「は、はい。この帽子と一緒に・・・。」

ユリカの前で、一人の男が身をすくませていた。

先ほどイツキルイゼが立ち寄った喫茶店の主人である。

「ユリカ、この帽子はイツキルイゼ様のものに間違いないよ!」

「・・・『日の出前に決着をつけたい。エッフェル塔脇無人地区にて待つ』・・・。」

「どうする、ユリカ?」

「・・・行くしか無いでしょうね。」

 

迎賓館の庭に直立不動で控えていたナデシコローズがライトアップされる。

儀杖兵の作る列の中を、ユリカが進んで行く。

「ナデシコローズ、出陣します!」

 

 

 

 

「あんっ!もっと優しく・・・痛い!」

「そんな事言われてもなぁ。」

「あん・・もうちょっと・・ああっ!痛いです!」

「俺は人を木の幹に縛りつけた経験なんかないんだよ!」

「もう、そんなにきつく縛らないで下さい!」

「大丈夫だ!いざと言う時はすぐにほどけるって!」

かつてはパリが世界に誇ったエッフェル塔も、

今は斜めにひしゃげていつ倒れるかわからない有様であった。

当然、只でさえ無人化が進むパリの、こんな所に住む物好きはいない。

そんな場所で、ガイがイツキルイゼを木の幹にぐるぐる巻きにして縛りつけていた。

本人たちは真面目なのだが、傍から見ると怪しい事この上ない。

少し離れた場所では既にアキトがシャイニングナデシコに乗りこんでユリカを待っている。

夜空の一角に、アポジモーターの噴射炎が見えた。

それはぐんぐん大きくなり、すぐにナデシコローズが肉眼でも確認できるようになった。

「・・・来たか。」

「来やがったな。」

「来ましたわ!」

 

 

 

無人の街に降り立つナデシコローズ。

ユリカが悲しげにアキトを見つめた。

「なんで!?どうしてアキトはこんな事をしたの!?

これで、私とアキトが戦わなくちゃいけなくなったんだよ!?」

「・・・俺には、戦う理由がある。そしてお前も俺と同じくナデシコファイターだ。

戦わなくてはいけない時がある!」

「アキト・・・・。」

ユリカがうつむく。震える彼女は、泣いているようにも見えた。

だが、再び顔を上げたとき、彼女の顔に涙の跡はなかった。

その顔には、ナデシコファイターとしての決意に彩られている。

「じゃあ・・・行くよ、アキト。」

「ああ。」

「ナデシコファイト!」

「レディ・・・・Go!」

 

 

アキトはビームの刀を。ユリカが同じくビームのフェンシングサーベルを抜いた。

斬撃を主とするアキトに対し、ユリカの剣術は刺突が主である。

小さく大きく円の動きを描いてユリカを狙うアキトの剣を、

ユリカがあるいは躱し、あるいは剣先で払い、わずかな隙に無数の突きを打ちこむ。

両者は互角であった。

「やるな・・・アイツ。」

「ユリカ先輩が・・・私のために戦ってくれてる・・・!」

感無量の面持ちでこの状況に酔いしれるイツキルイゼ。

ガイは冷静に状況を見ている。

「おし、そろそろ逃げるぞ姫様。」

「いいえ、私は先輩が勝つのをここで見ています。

だって・・・私のために戦ってくれているんですもの!」

縄をいじくりながら、不意にガイが真剣な声を出した。

「・・・本当にそう思うか?」

「え?」

「普段なんだかんだ言っても、所詮ファイターなんてな、

一度戦い始めたら相手を倒すまで他の事は考えない、考えられないもんなんだよ。」

「そんな事・・・私のユリカ先輩に限ってそんな事は・・・!」

「駄目だよ、イツキちゃん!その人の言うとおりなんだから!」

「ユリカ・・・先輩・・・。」

「今、戦いの中で私の目に映っているのは倒すべき敵だけなの!

それよりも、早く安全な場所へ!誘拐ごっこはもうお終いよ!」

「!」

「それが・・・ロープがほどけねぇんだよ!」

「お前が結んだんだろうが!」

声を出した一瞬、アキトの気がそれた。

その隙を逃さず、ユリカの剣がアキトの左篭手を貫き通す。

「・・・・ファイト中だよ、アキト。」

左腕の痛みと、やけに冷静なユリカの声が逆にアキトを落ちつかせた。

左腕にユリカの剣を突き刺したまま、アキトが踏み込む。

当然、剣は更に深く突き刺さる。

驚愕するユリカに出来た一瞬の隙。

右手に握ったビームソードの柄頭が、ユリカの手から剣を叩き落していた。

追い討ちを避け、ナデシコローズが後ろへ跳ぶ。

ユリカの顔には掛け値無しの賛嘆の色があった。

「さすがだね!私の剣を落としたのはアキトが初めてだよ!

・・・でも、これはどう!?」

ナデシコローズの左肩に装備されたハーフマントが跳ね上がる。

その下から飛び出してきたのは、無数の赤いバラだった。

花の群れが、一糸乱れぬ統制された動きでナデシコローズの周りを固めた。

いや、花ではない。それはバラを象った自律移動可能な小型ビーム砲台。

「うふふふ・・見て見てアキト!これが、ネオフランスの誇る究極兵器ローゼスビット!

行くよぉ・・・・・!ローゼススクリーマー!」

宙に舞う無数のバラが、シャイニングナデシコ目掛け一斉に火を吹く。

街路を駆け、陰に隠れて後退しつつ、頭部バルカンで数を減らそうとするアキト。

だが、バラは正面の一群だけではなかった。

先回りしていたひとかたまりのバラから放たれたビームが、脚部の推進器を破壊する。

バランスを崩し、アキトが倒れた。

周囲を赤いバラが固めた。バラとバラの間に電磁波による紅の檻が形成される。

「なんだ・・・!機体の動きが・・・鈍い?」

「アキト。王手、だね。とどめを刺させてもらうよ・・・!」

「これくらいで勝ったと思うなよ・・・!」

「何!?」

戦いに見とれている自分に気がついたガイが、ロープをほどく作業を再開する。

「そうだな、あの手がある!」

「ええっ!?」

ユリカの勝利を確信していたイツキルイゼの表情が一瞬にして曇った。

アキトが身を屈め、バネを溜める。

左手が淡く輝き始めた。

「俺のこの手が光って唸る!

お前を倒せと輝き叫ぶ!

砕け!必殺!

シャイニングフィンガァァァァッ!」

シャイニングフィンガーのエネルギーが、輝く球体となって電磁波の折に叩き付けられる。

バリアの面に沿って広がるエネルギーは、

檻を形成していたローゼスビットを連鎖的に破壊したのみならず、

周囲一帯に配置されていたローゼスビットの誘爆をも招いた。

「そんな!・・・・!?しまった!」

エッフェル塔近辺に配置されていたローゼスビットの誘爆が、遂に崩壊の引き金を引いた。

鋼鉄の骨組が倒れる。

倒れ行くエッフェル塔の真下へ、ナデシコローズが走った。

「イツキちゃん!」

「ユリカ!逃げる気か!」

「逃げたりは・・・しないよっ!」

ナデシコローズが反転し、両腕を上げる。

必殺の気迫を込めて繰り出されたアキトのシャイニングフィンガーが、

ナデシコローズの顔面寸前で止まった。

ナデシコローズがその高く差し上げた両腕でエッフェル塔を支えている。

その後ろにはイツキとガイの姿があった。

「ユリカ、お前・・・!」

「私は、国家の威信をかけて戦うナデシコファイター・・・

だけど、だからと言ってここでイツキちゃんたちを見捨てる事なんて出来ない!

ナデシコファイト国際条約第六条。

ナデシコファイターは、己が代表する国家の威信と名誉を汚してはならない。

けど、人を見殺しにしてまで得る名誉なんて、名誉じゃない。

この勝負はアキトの勝ちだよ。さあ・・・止めを刺して、アキト!」

 

 

 

「蒼穹の女王」がイツキルイゼを乗せてパリを離れて行く。

ユリカは胸に拳を当てる敬礼のままそれを見送っていた。

あの後イツキルイゼと交わした会話を思い出す。

「・・ごめんなさい、ユリカ先輩。私のせいで・・・。」

「いいんだよ、イツキちゃん。結局、アキトは止めを刺さなかった。

私に『自分らしく』という騎士道があるように、

アキトにはアキトなりの武士道って物があるんだと思う。

・・・・・ねえ、イツキちゃん。」

「なんですか?」

「アキトって、かっこいいでしょ?」

「・・・はい!」

「さようなら、イツキルイゼ姫。」

「さよなら、ユリカ先輩。また、お会いする日を楽しみにしています・・・。」

 

 

暫く後、例の喫茶店で、午後の紅茶を楽しむアキト、ユリカ、ガイの姿があった。

もっとも本当の意味でお茶を楽しんでいるのはユリカだけだが。

「・・・今回はユリカも災難だったな。」

「イツキちゃんも、いい子なんだけどね〜。」

「五月蝿い小娘だったよなぁ。」

「ユリカ、一つ聞いていいか?」

「なぁに?」

「あの時、どうして偽装誘拐だとわかったんだ?」

「なぁんだ、そんな事。だって、アキトが私以外の女の子をさらうわけないもの!」

自信たっぷりに言い切るユリカ。

アキトが飲みかけの紅茶を吹き出す。

ガイがたまらず笑い出した。

 

 

 

 

 

次回予告

 

皆さんお待ちかねぇ!

ボルトナデシコと戦うためネオロシアに来たアキトは、

何と刑務所に入れられてしまいます!

果たしてアキトは無事に脱出し、

ナデシコファイトに戻れるのでしょうか!

そして、謎の囚人スバル・リョーコの正体とは!

次回!機動武闘伝Gナデシコ、

「大脱走!囚われのナデシコファイター」に

レディィィ、Go!

 

 

 

 

あとがき

 

ギャグになってしまった。

「あの人」をお姫様役にした時、既にこの展開は決まっていたのだろうか?

・・・・・考えるまでも無いか(苦笑)。

ちなみに、「サリーちゃんのパパ」なあの人は

決勝大会で国家元首の名代として登場するはずです。

ファンの人は乞うご期待(笑)。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第四弾の投稿です!!

ユリカ・・・

じゃないよ、この人(苦笑)

しかし、イツキをここで出すとは・・・恐れ入りました(汗)

でも、イツキもだんだん壊れていくな〜

誰のせいでしょうね、まったく(自覚無し)

最後はなんだか綺麗に落ち着いてしまってますし。

・・・そう言えば、ユリカは昔はネオジャパンに住んでいたのか?

それ以前に、国籍フランスだったのか(爆)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

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出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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