機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けが、京都を赤く染めていた。

だが、八百八寺とも言われた数々の名跡古刹も今は荒れ果て、

塔は傾ぎ、堂の屋根には大穴が開き、土塀は崩れ放題。

ここ竜安寺すら昔日の面影はなかった。

穏やかそうな老住職が嘆じる。

若い頃から人が宇宙へ移り住み、地上が荒廃してゆくのをつぶさに見てきたのであろう。

その言葉には重みがあった。

「はてさて・・・六十年前、スペースコロニーへと人が上がって以来、

京都ですらこのような有様。

とはいえ、茶ぐらいお出しせねばばちが当たりましょう。」

視線を荒れ果てた庭に注いだまま茶を一口、アキトがすする。

「それにしても、このような荒れ寺でお待ち合わせとは・・・。」

「ちょっと来るのが、早すぎたかな。」

アキトが苦笑する。

そのアキトの顔から視線を庭に移し、老住職の目が別人のような光を放った。

「いえいえ、どのみちガイさんはここにはいらっしゃいませんよ・・・」

「な!」

アキトが立ちあがり、構えを・・・取ろうとして倒れた。

体が思うように動かない。

立ち上がろうとしたアキトのふところから、半ばからちぎれた写真が一葉、はらりと落ちた。

色褪せた古い写真。

そこには、肩車をされて無邪気にはしゃぐ少女が写っていた。

地に落ちた写真を一人の男が手に取る。

「さて皆様・・・今日はいよいよこの写真についてお話することになりました・・。

果たしてこれは誰なのか・・そして、テンカワアキトは何故この少女を追うのか。

全ての答えは、今日の対戦相手である、

史上最強のナデシコ、『デビルホクシン』が教えてくれるでしょう・・・。

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

第六話

「闘えアキト!

地球がリングだ」

 

 

 

 

 

 

 

森の中から赤熱化した溶岩が噴き出していた。

鈍く赤く光る溶岩が周囲を照らし、木々を焼き尽くしてゆく。

その周囲をぐるりと、空中から数百機の人型機動兵器「ノブッシ」が包囲していた。

ナデシコファイトによって国家間の戦闘行動がほぼ皆無になりつつある現在、

機動兵器数百機と言うのは桁外れの戦力である。

それほどの戦力を集中させて、彼らは何をする気なのだろうか?

 

 

 

恐らく指揮官であろう、一際大きな機動兵器「ファントマ」から矢継ぎ早に指示が飛ぶ。

指揮官は立体的なディスプレイの前で攻撃のタイミングを図っていた。

骨張った顔をして眼鏡をかけ、一見そこらのオッサンに見えるが、

表情は紛れもない軍人のものだ。

「第一第二小隊はエリアAからFを!第三小隊から第五小隊はエリアGからLを固め!

奴が一瞬でも姿を現した時が唯一のチャンスだぞ!絶対に逃がすな!」

息詰まる時間が流れる。

数瞬後、溶岩の海が赤く盛り上がった。

「撃てぇッ!」

数百の火線がその一点に集中する。

何物であれ、この圧倒的な火力を前に生き残れるとは思われなかった。

盛り上がった溶岩が破裂し、しぶきが飛び散る。

「・・・やったか!」

『う、ウリバタケ少佐!溶岩の中に・・・!』

「何!?」

部下の通信に、ウリバタケが溶岩の中央にセンサーを集中させる。

数千度の灼熱の地獄の中で、蠢動するものがあった。

赤い、通常のナデシコよりも一回り大きな赤い手が溶岩から突き出し、

溶岩の海のへりを掴む。

もう一本、腕が伸び、人型の上半身を溶岩の海から引き出す。

全身が赤い。ナデシコタイプの顔立ちを持ちながらも、

かつて「夜天光」と呼ばれた機体に、それは似ていた。

だが、その腰から下は四角い蛇腹に繋がっている。

溶岩の海の中から伸びた蛇腹の上に、人の上半身が生えていた。

「それ」がおぞましい咆哮を上げ、その肩が変形を始める。

盛り上がった無数の突起がぼんやりした光を放ち、次の瞬間、光が爆発した。

無数の火線が先程とは逆に、溶岩の海からノブッシの大部隊に向かって伸びる。

空中に炎の華が乱舞する。

数百機の機動兵器が、数秒の間に次々と爆炎に包まれてゆく。

「ば・・馬鹿な!」

モニターの反応が次々と消滅して行く様を見やり、ウリバタケが呻いた。

その目の前を、巨大な悪魔が通り過ぎる。

「デビルホクシン・・・!」

赤い上半身から伸びた蛇腹の先、溶岩の中から巨大な何かが現れようとしている。

ウリバタケ少佐が絶叫し、ファントマが体勢を崩す。

次の瞬間、画面がノイズで満たされ、記録の再生が終了した。

 

「・・・あれからもう、一年にもなるのね。」

「ええ。ようやくここらも復興してきて、今じゃ面影も残っちゃいませんがね。」

「確かにあの事件を他のコロニー国家に知られるわけにはいかないわ。」

ネオジャパン軍部のトップにして同ナデシコファイト委員会委員長、

エリナ・キンジョウ・ウォンが頷いた時、彼女とウリバタケ少佐を乗せた車が止まった。

白塗りの簡素な建物の玄関でハーリーが出迎えている。

車のドアが開き、エリナが出てくる。

「でもね、その為にナデシコファイトを利用されては困るのよ。」

「申し訳ありません、エリナ委員長。

ですが、ご覧下さい、テンカワはもうすぐ目が覚めます。

これからアイツが見る夢は、長い武道の修行から帰ったその日の出来事・・・。」

 

 

 

 

 

 

(お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・)

「ん・・・・・っむ・・・・」

「お兄ちゃん・・起きてよ、もう。いつまで寝てるの?」

半分眠ったままアキトが身を起こす。

ぼやけていた視界が鮮明になるにつれ、目の前の人物の顔がはっきりしてくる。

「!」

あの、写真の少女が目の前に立っていた。

くりくりした、よく動く大きな目がアキトを見ている。

左右でまとめた茶色い髪が頭の両脇で踊っている。

アキトはしばらく、放心した様にその少女の顔を眺めていた。

やがて、霧がかかったようにぼんやりしていた頭に理解の色が広がる。

「・・・・・アイちゃん!アイちゃんじゃないか!」

「お久しぶり、アキトお兄ちゃん!」

アイがアキトに跳びつく。アキトは立ちあがりながらアイの体を抱き上げた。

「大きくなったなぁ、何年振りかな?・・・ちょっと重くなったかな?」

「ん、もう!レディに向かってそれはないでしょ!?」

「はは、ごめんごめん。でも、本当に久しぶりだね・・・!」

「おかえり、アキト。」

「アキトさん、お帰りなさい!」

「シュンさん!ルリちゃん!」

四十がらみの茫洋としていながらどこか鋭さを感じさせる男と、

十五、六歳くらいの少女が部屋に入ってきた。

少女がアキトのそばに駆けより、アイをたしなめる。

「もう、いいかげんにしなさい。アキトさんは疲れてるんですから。」

「べー、だ。」

「もう、アイったら。」

「まあまあ。・・ひょっとして、ルリちゃんも抱っこして欲しいのかな?」

「え!そ、そんな事・・。」

「ほら、よっ・・・と。」

「きゃあっ!」

アイを片方の肩に乗せ、余った片方の手でルリを担ぎ上げるアキト。

血のにじむような修行で鍛えた体には、二人の体重など無いに等しい。

はしゃぐアイと顔を赤らめるルリを見ながら、シュンがにこやかに笑っていた。

 

 

 

 

「大丈夫なの、ウリバタケ。」

「と言うと?」

「大会中、地上へ降りたファイター達をコロニーに戻してはならない。

このナデシコファイト国際条約に違反する、というリスクを犯してまで

実行する価値のあるテストには思えないんだけど?」

「ご心配はごもっとも。ですが、あのテンカワアキトこそが

今回の事件を解決するのに最適に人物であると言う事を実証して見せましょう。」

アキトの見る幻影の映像を見ながら、エリナの疑問にウリバタケが答える。

ハーリーは窓際で二人の会話を聞きながら、アキトのいる建物をちらり、と見た。

 

 

 

アイと一緒に近所を歩いていたアキトの頭の上から、不意に大声が響いてきた。

「久しぶりだな、アキト!」

「ガイ・・・おまえ、ガイか?」

「ガイお兄ちゃん、全然変わって無いでしょ?」

「考えてみると、子供の頃から暑苦しい奴だったんだよな・・・。」

「アキトてめえ!それが久方ぶりで再会した親友に言う言葉か!」

二階のバルコニーから飛び降りたガイがアキトの頭をヘッドロックに決める。

「おらおらおらおら!」

「あいててて!痛い、痛いって!」

アキトもガイも目が笑っている。

遂に耐えきれず、二人とも吹き出した。

 

 

アキト、シュン、ルリ、アイ、そしてガイが集まって

アキトの帰郷を祝うちょっとしたパーティが開かれていた。

居間のスタンドに一葉の写真が飾られている。

映っているのはシュン、ルリ、そしてアキトに肩車されているアイ。

幸せがにじみ出てくるような、いい写真だった。

その写真を懐かしそうに眺めながらシュンがアキトに語り掛けた。

「今更気が付いたが、アキトは随分長い事家を留守にしていたんだなぁ。」

「でも、その間に手にしたのがこの、キング・オブ・ハートの称号さ!」

「そっか・・・私のお兄ちゃんは、コロニー格闘技の覇者なんだね!」

「なんて言いましたっけ、アキトさんの先生・・・。」

ルリの問いに、アキトが胸を張って答える。

「マスターホウメイ!そりゃあもう、強い人だったよ!

なにせ、コロニー格闘技五天王、シャッフル同盟を束ねる人だもの!

人呼んで東方不敗!先代のキング・オブ・ハート!

おまけに、ただ強いだけじゃない!」

「料理人としても世界最高の名人、だって言うんでしょ。もう何回も聞いたよぉ。」

アキトが身につけた物は武術だけでは無い。

今日の帰郷祝いでも料理は全てアキトが作った。

「まあ、アキトにこれだけの料理の腕を仕込んだんだ、

料理の方でもさぞかし名人なんだろうな。」

「ええ・・・でも、いきなり俺に称号を渡すなり、どこかへ消えてしまったんだ・・。」

「それよりお兄ちゃん。私とルリ姉もね、完成させたんだよ、あれを!」

「っていうと・・・あれをかい?」

「ええ。後でお見せしますね。」

「まあまあルリもアイも。そんな事は後でいいじゃないか。

今日はアキトが帰ってきた祝いの宴なんだ。仕事の話はあとあと。

今は再会の喜びを分かち合おう。」

「・・ありがとう、シュンさん。」

「はは・・しかし、本当に美味いなお前の料理は。

ずっとここにいて欲しいもんだな、我が家の食卓事情の為にも。」

「なにか言いたい事があるんですか?」

「わかってますって!もうどこへも行きませんよ。やっぱり家族と一緒に暮らすのが一番さ。」

アキトの横で、じっと会話を聞いていたガイの手が震えた。

すっと席を立ち、居間を出てゆく。

何かを耐えるように、歯を食いしばっている。

(ひでぇよ・・・いくらなんでも酷すぎらぁ!)

居間を出るとき、ガイが振り返る。

その瞳に映ったのは、荒れ果てた無人の居間で一人虚ろに笑うアキトだった。

 

 

 

 

「幻覚による深層心理テスト、ね。それは結構だけど、こんなことでどうなるって言うの?」

「いやいや、心配しなくてもいよいよあの日と同じ・・デビルホクシンの登場ですよ・・。」

 

 

ガイがテンカワ家の玄関を出た。

エリナとウリバタケと、そして弟がいるであろう隣の家へ駆け出す。

玄関には彼の弟、ハーリーの姿があった。

「兄さん・・・どうしたんですか、勝手に飛び出してきて。」

「ハーリー!もう俺は御免だぜ!いくらなんでも、アキトが可哀相過ぎらぁ!」

「わかっています・・僕達は酷い事をしている・・・。

でも、これも刑罰の一つと思うしか無いでしょう・・・。」

ハーリーが階段を降り、ガイの目の前まで来る。

その言葉もただ、ガイをますます激昂させるだけの事でしかない。

「アキトが何をしたって言うんだよ!?」

「僕達としては、なんとしてでもアキトさんにナデシコファイトを

続けてもらわなくてはいけないんです。

でも、エリナ委員長には今の地球に襲いかかる危機が見えず、

ナデシコファイト優勝を手柄にネオジャパン首相の地位につくことしか考えていない。

・・・ガイ兄さん。」

ガイの肩が、びくりと震える。

「テストはこれからが重要なポイントです。

しかし・・・僕はエリナさんの出方が気になるんです。

アキトさんを・・お願いします。」

「・・言われるまでもねえぜ。アキトは俺の親友だからな。」

 

 

 

 

地下格納庫の照明がその異形の機体を照らし出す。

赤いナデシコタイプの上半身に甲殻類と節足類を合成したような下半身。

見下ろしていてさえ、圧倒されるような巨体を持つナデシコだった。

ルリが誇らしげにアキトに語る。

「どうですか、アキトさん。私とアイとで作り上げたアルティメットナデシコは。

・・・これには、人類の未来が掛かっているんです。」

「人類の・・未来。」

うっとりと、アルティメットナデシコを見つめながらアイが夢見る様に呟く。

「そう、人類の未来。・・・この一体のナデシコさえあれば、どんな事だって出来るよ。

そう、どんな事でも・・・。」

アキトの視線に気付き、アイがアルティメットナデシコから視線を外した。

戸惑いながらアキトが問いかける。

「アイちゃん・・それって・・それってどう言う事・・?」

「え?あ、うん、なんでも無いよ。なんでも・・。」

その瞬間、格納庫の照明が一斉に消えた。

瞬時に赤い非常灯に切り替わる。

それと同時に扉が破られ、小銃で武装した兵士達がアキト達を包囲し、

兵士達の背後で、高級軍人らしい指揮官が宣言した。

「ホシノ・ルリ博士、及びオオサキ・アイ博士。君たちを国家反逆罪で逮捕します!」

「何だって!」

身構えるアキトを制し、シュンが一歩進み出る。

「待ってくれ、一体どう言う事だ!?」

「オオサキ大佐・・・」

「元大佐、だ。」

「・・・・申し上げにくいのですがお二人には、完成したナデシコを用いて

このコロニー連合と地球を破壊し、制圧しようとした疑いがかけられています。」

「そんな馬鹿な事が!ある筈ないでしょう!」

珍しく、ルリが顔を紅潮させて叫ぶ。

その時、低い笑い声が格納庫に響いた。

「うふふふふふふふふふ・・・意外に早い対応だったね・・・軍警察のひと!」

アキトが、シュンがルリが息を呑む。

笑うのをやめて、アイが振り向いた。

その顔には、十歳足らずと言うのが信じられないような邪悪な笑みがへばりついている。

手すりに腰掛け、驚きのあまり動けない三人と兵士達の方にその笑みを向ける。

「お兄ちゃん。その人達の言っている事は本当だよ。」

「アイ!あなた正気ですか!」

「お前は!?」

「御免ねお父さん、ルリ姉。でも、もうこのナデシコは私の物なんだよ。

・・・・こんな風にね!」

アイが人をぞくり、とさせる笑みを浮かべたまま指を鳴らす。

アルティメットナデシコを固定していた拘束具、接続されていたチューブが弾けて飛んだ。

巨大な顔が彼らのほうに向けられる。

「やっちゃえ!」

頭部のバルカン砲が唸りを上げた。

120mmという、非常識な口径の機関砲が低い唸りとともに兵士達を肉塊に変えてゆく。

兵士達が全滅するのは時間の問題だった。

たまらなくなったシュンがアイに駆け寄る。

アキトも初めて聞く怒号がその場にいた全員の耳を打った。

「アイ!自分が何をしているかわかっているのか!」

「ぐぅっ・・・。」

脚を吹き飛ばされて倒れた指揮官が拳銃を抜いた。

呆然としているアキトがそれに気付く。

「シュンさん!危ない!」

シュンがとっさにアイを庇うのと、指揮官の銃が火を吹くのが同時だった。

ゆっくりと、シュンの体が倒れてゆく。

「シュンさん!」

「いやあああああっ!」

ルリが初めて悲鳴を上げた。

シュンに近づいたアキトを猛烈な突風が押し倒す。

アイを掌に載せ、アルティメットナデシコが飛び立とうとしていた。

「アイちゃん・・シュンさんが・・・シュンさんが・・・!」

アキトを一瞥し、アイがアルティメットナデシコの胸部に潜り込む。

その目にはなんの感情も浮かんではいなかった。

 

 

 

 

幻影の中で義父の亡骸を抱きしめるアキトの様子は、

観察するエリナ達からしてみれば一種滑稽なパントマイムの様にも見えた。

さして広くもない部屋にウリバタケの声だけが流れる。

「・・・確かにこれは我々の記録を元に作り出した幻影であり、

彼はこの現場には居合わせてはいません。

ですが、テンカワは入れ違いの様にここへ帰ってきていました。」

 

 

 

 

ルリの封じられた氷の棺。アキトとハーリーは強制的に冷凍睡眠させられた

ルリのカプセルが安置された部屋にいた。

「済みません・・・僕がついていながらこんな事になってしまって・・・本当に済みません。

ネオジャパン政府は残ったルリさんを共犯とみなし、永久冷凍刑を宣告しました・・。」

「でも・・・でも何故!」

「・・・俺達も頑張ったんだけどな。死刑を免れただけで精一杯だった。

それにデビルホクシンは・・・何事も無かったかのように

地球の何処かへと落ちて行った・・。いくら奴でもあのスピードで落下したんだ。

無事でいられるわけがない。事件は終わったはずだった・・・。」

ウリバタケが部屋に入ってくる。

その額から右頬にかけて、銀色の光沢を放つマスクが覆っていた。

デビルホクシンを破壊しようとした際の負傷を隠す為だと言う。

その目が鋭く光った。

「だがそれは始まりでしかなかった・・。」

アキトの目がいぶかしげに細められる。

ガラス張りの床から地球を眺めながら、ハーリーがウリバタケの後を継いだ。

「その後の調査で恐るべき事がわかりました。

たとえ大気圏突入の衝撃で大破しようとも、

その身に組み込まれた『自己再生』、『自己増殖』、『自己進化』の三大理論により

あれは再び立ちあがり、破壊の限りを尽くすに違いありません。

・・・そこでアキトさんの出番です。」

「お前に、ナデシコファイターになってもらいてぇ。」

「?」

「再生するとはいえ、地球に落ちた「奴」が活動を再開するのには、

それなりの時間がかかるはずです。」

「現在全世界、そして地球の統治権を握るのはネオホンコンだ。

そのネオホンコンの同意なくして地球に落ちたデビルホクシンを捜すことは出来ない。」

「だが幸いにも、と言うべきか、今年は四年に一度のナデシコファイトの年です。

ファイトの予選期間である十一ヶ月間は地球上を自由に往来できます。」

ちんぷんかんぷんといった顔のアキトにハーリーとウリバタケ少佐が交互に説明する。

「つまり、アキトさんにネオジャパンを代表するナデシコファイターになってもらい、

ナデシコファイトの期間中にデビルホクシンを捜索し、捕獲して欲しいんです。」

「デビルホクシンの捕獲に成功すれば親父さん達の無罪を証明して、

ルリルリの永久冷凍刑を解く事も出来る。さもなけりゃ、何もかもがこのままだ!

奴を捕らえる事の出来るのは、キング・オブ・ハートのお前しかいないんだよ。」

アキトが再びルリのコールドスリープカプセルを見た。

その表情が次第に鬼気迫る物になってゆく。

「ルリちゃん・・。俺は、アイちゃんを、アイちゃんを・・・・・・・・・!」

画像が乱れた。

「エリナ委員長!何を!?」

「もう充分よ。こんなテスト。」

「だが、ナデシコファイトで優勝するには奴の強い意思が必要不可欠で・・・!」

「ならこれまでの戦績はどう説明するの!?

ナデシコマックスター、ドラゴンナデシコ、ナデシコローズ、ボルトナデシコ!

勝利の一歩手前まで相手を追い詰めながら、

みすみす勝ちを逃した例だってあるじゃないの!?」

「それは、相手がデビルホクシンと関係無い事がわかったからでしょう。」

「加えて、これらの対戦相手を指示したのはこれらの国が

 デビルホクシンの一件に感づいていると思えばこそ。」

「ま、結果的に裏目に出てしまったのはミスでしたがね。」

「なら、このテストは私のやり方で答えを出させてもらうわ。」

映像が切り替わった。

デビルホクシンが地球に落ちた「あの日」と同じ映像。

違うのは、「ノブッシ」を率いるのがウリバタケではなく、

シャイニングナデシコを駆るアキトである、と言うこと。

「簡単な事よ。彼が義妹を目の前にして本当に倒せるのか?

義理とは言え妹と本気で戦う事が出来るのか?

それを確かめるのよ。簡単で、確実でしょう?

もちろんこれは実戦。アキト君はシャイニングナデシコ。

デビルホクシンの代役は「ファントマ」に務めてもらうわ。

でも、彼には本物のデビルホクシンにしか見えない。

・・・・彼は、実の妹と戦えるかしら?」

 

 

 

 

あの日の光景を再現し、ノブッシが全滅した。

アキトがスラスターをふかし、宇宙へ飛び出す。

その動きがぎこちない。

デビルホクシン=ファントマがその後を追った。

ファントマが多連装ミサイルランチャーを乱射する。

その全てが、シャイニングナデシコに命中した。

アキトの腕を持ってすれば、すべてを躱しきるのも不可能では無いというのに。

二つの光・・シャイニングナデシコとファントマがついては離れ、

離れては近づき、不規則な二重螺旋を宇宙に描く。

「やめてくれ、アイちゃん!」

アキトが呼びかけた。"デビルホクシン"の肩に乗る妹に向かって。

「あはははは!まだ間に合うよ、お兄ちゃん!シャイニングナデシコから降りちゃいなさい!」

「アイちゃん・・・!」

攻撃の姿勢を取るアキト。

「お兄ちゃん、アイを撃つの?」

「!」

アキトの動きが止まり、デビルホクシンから発射された質量弾が

辛うじてコクピットをガードしたシャイニングナデシコの左腕に命中する。

「えいっ!」

「ぐぉあ・・・。」

デビルホクシンの拳がシャイニングナデシコのみぞおちにめり込む。

「あはははははははは!とどめだよ!」

「させるかぁーっ!」

ナデシコキャリアに乗ったガイが全速で体当たりをかける。

シャイニングナデシコのコックピットを狙ったファントマのクローアームは、

ガイの操るナデシコキャリアーを貫いていた。

「う・・ぐぐ・・!やべっ!」

操縦席の強化ガラスが砕け、ガイの体が宇宙空間に放り出される。

アキトの視界の中で、ゆっくり倒れていったシュンと宇宙を漂うガイとが重なった。

「う・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

アキトの絶叫が響いた。

 

 

 

「救護班!早く兄さんを!」

「全く・・・情けないファイターね。」

ハーリーが顔を上げ、エリナ委員長を真剣な目で見据えた。

「いえ。ここからです。その目でしっかりとご覧ください。」

 

 

 

 

その時、虚無の宇宙に強烈な光が輝いた。

 

遮光フィルター無しでは、いや、フィルターごしでも直視できないほどの輝きを、

アキトの乗ったシャイニングナデシコが放っていた。

 

 

「アイ!俺はお前を許さない・・・・

シュンさんを死なせ、ルリちゃんを辱めたお前を、

俺は絶対に許さない!」

 

 

両腕のプロテクターと両脛のユニットが解放され、

アポジモーターの効率を飛躍的に上昇させる。

肩アーマーが開放され、全身がマグネットコーティングされる事により、

機体の追随性能はほぼ無限大にまで上がった。

シャイニングフィンガーを放つ時と同じくフェイスマスクが展開し、

さらに頭部パーツが展開、歌舞伎の「暫」にも似た形状に変形する。

これは心理的な威圧、威嚇とともに排熱効率の上昇効果、

そしてアキトの脳と直結した脳波センサーでもある。

今や、シャイニングナデシコはその名の通り光り輝く鋼鉄の武者だった。

 

これが・・・・

 

これが・・・・

 

これがっ!

 

 

シャイニングナデシコ
スーパーモード!

 

 

 

膨大なパワーを感じさせる赤みのかった光が、エリナ達のいる部屋をも照らし出す。

「ご覧下さい!あれこそがシャイニングナデシコの真の姿!」

「真の姿って・・あれは・・・あれは一体何よ!何なのよ!?」

「アキトさんの異常なまでの怒りが頂点に達した時、

その感情のエネルギーは物理的なパワーとなり、

そのパワーを最大限に発揮するあの形態へと変形するのです!」

「つまり。シャイニングナデシコを真の意味で使いこなせるのは、

実の妹への復讐を誓ったテンカワアキト、ただ一人!」

ハーリーの説明をウリバタケが締めくくる。

まるで魅せられたかのように、エリナの視線はその輝きから離れなかった。

 

 

 

 

その身を、ファイティングスーツを怒りの赤に染め、アキトが咆えた。

両腕からほとばしる「力」が巨大な光の剣を形作る。

「俺のこの手が光って唸る!

お前を倒せと輝き叫ぶ!

愛と!

怒りと!

悲しみの!

シャイニングフィンガァァ

ソォォォォドォッ!

メン!

メェンッ!

メェェェンッ!」

 

輝きの剣が、ファントマを両断・・・否、半ば消滅させた。

直接剣に触れなかった部分も、輻射熱だけで融解する。

 

「エリナ委員長!」

アキトの放つ怒気に当てられ、エリナが身をすくませる。

「二度とこんな小細工はするな!」

「いつ幻覚から・・・!」

「いいか!これからは黙って見ていろ!

俺は必ずアイを追い詰めて倒す!

この手でなッ!」

 

再び、今度は横殴りに振るわれた輝きの剣が

ファントマの残骸全てを蒸発させ、一陣のプラズマに変えた。

 

 

 

 

 

 

ネオジャパンコロニーの外部構造物にしがみついていたガイをアキトが見つけた。

「ガイ!大丈夫か。」

「ヘッ!ぴんぴんしてらあ!」

「帰るぞ。地球へ・・・・いや、リングへ、だ。」

「・・・ああ!」

アキトが地球を、そしてネオジャパンコロニーを仰ぐ。

(ルリちゃん・・・待ってて・・・・俺は必ず君を・・・。)

 

 

 

キャリアーで地球に降りる二人を、ウリバタケとハーリーが見送っていた。

「今回は危なかったな。だが、どのような妨害があろうと

あのデビルホクシンをそのままにはしておけない。

その為に、お前の兄貴にも苦労をかけてるな。

・・・・・だが、俺達の思いは一つ!」

「はい・・・!」

「その日まで、あの二人には血を吐いてでも前に進む、

孤独なファイターでいて貰わなくちゃあならないんだ・・・・。」

「そう、その日まで・・・・!」

 

 

 

 

 

次回予告

 

皆さんお待ちかねぇ!

太陽輝くネオメキシコで!

アキトはある女性に命を狙われます!

その女性の名はサラ・ファー・ハーテッド!

彼女はナデシコファイターをやめる為、

国家の追っ手やナオの命までをも狙うのです!

次回!機動武闘伝Gナデシコ、

「来るなら来い!必死の逃亡者」に

レディィィ、Go!

 

 

 

 

あとがき

 

さ〜て、これで当分ルリちゃんの出番は無し・・と。

あ痛っ!ものを投げるな!

え?なんだって?もっとルリルリの出番を多くしろ?

そう言われてもなぁ・・・・。

この回でほぼ御役御免のシュンさんに比べれば随分マシな扱いだと思うのですが。

・・・・・・・・・比較対象にならないか(笑)。

原作ではここの回想シーン以外での初登場が最終回ひとつ前だもんなぁ。

ルリとハーリーの関係が余りにもはまっているからキャスト変更なんて考えもしなかったし。

まあ、あてはなくもないから善処しますよ、はい。

(どうせ他のSSでは大半がルリ物なんだから

たまにはこんなのがあってもいいじゃないかと思うんだが(^^;)

 

エリナさん、今回は悪役そのものですが、これからはもう少しマシな扱いになるので

ファンの人は勘弁してね。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第六弾の投稿です!!

ははは、エリナさんがはまり役だ〜(笑)

しかし、見事なまでに演じてられます、エリナさん。

で、ここから先は最終回までルリちゃんの出番が無し?(苦笑)

まあ、たまにはそんな話もいいかもしれませんね。

それに鋼の城さんは、「北斗」使いなんだし(爆)

さて、次回はなんとサラの出番です!!

う〜ん、どんなキャラ設定になってるんでしょうか?

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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