機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオジャパンコロニー、ナデシコファイト委員会委員長エリナ・キンジョウ・ウォンの寝室に

緊急の通話コールが入った。もう深夜と言っていい時間帯である。

十何回目かのコールで、エリナが寝ぼけ眼をこすりながら

こちらの映像をOFFにして回線を開く。

仮にもネオジャパン軍部のトップがボンボンのついたナイトキャップと

クマさん柄のパジャマでは威厳も何もあったものでは無い。

「一体何よこんな時間に・・・コロニー時間を知ってるの・・・何ですって。」

電話の向こうから聞こえてきたのはウリバタケとハーリーの声だった。

エリナの寝ぼけ眼が急速に覚醒する。

「デビルホクシン!?」

『そう、ここ最近地上に配置した連絡員達が次々と消息を絶っています。

それも決まって"悪魔のようなナデシコ"という言葉を残して・・・!』

『そして、今SOSが発信された場所が・・・』

ハーリーの声が聞こえ、続いてエリナの目の前のモニターがその場所を映し出した。

廃墟の中に聳え立つ、旧世紀の遺物である特徴的な双胴の巨大ビルディングには、

エリナもはっきりと見覚えがあった。

「これは!・・・新宿!?」

『そうです。いくら地上とは言えネオジャパンの都市を

放っておくわけには行かないんじゃあないですか?』

「当たり前でしょうが!」

『だもんで、またテンカワアキトをお借りしたいんですよ、委員長。』

「分かったわ。すぐに彼を新宿に向かわせる。」

通信が切れた。

エリナ委員長の事だ、恐らく今から指示を出してアキト達に連絡を飛ばす事だろう。

ウリバタケとハーリーが視線をからませ、小さく頷きあった。

 

 

「・・・さて、今お聞きになった通り今回は我々が良く知るここシンジュクシティが舞台。

ですが、この荒れ果てた街でアキトは思いがけぬ人物と再会し、

ますますその運命から逃れられなくなるのです。

そして、今回からは謎に包まれた機動兵器軍団「ムヅラアーミー」との時間無制限デスマッチ!

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

第十二話

「その名は東方不敗!

マスターホウメイ見参!」

 

 

 

 

 

 

 

 

新宿の街は、廃墟と化していた。

「これは・・・今度ばかりはウリバタケの情報も満更当てずっぽうじゃ無さそうだ。」

「・・・・いると思うか?」

「さあな。だが、何かがいるのは間違いない。」

いきなり二人が地面に体を投げ出した。

その上すれすれ、わずか数mの所を小型の飛行機が通りすぎた。

確かネオジャパン地上軍で偵察機として多用されている機種の筈である。

「追われている!?」

「火を吹いてるぞ!」

ガイが叫んだ途端、力尽きたように飛行機が接地し、炎上した。

炎上してはいるが爆発はしていない。

だが、パイロットは風防の割れたコックピットの中で動かなかった。

「ちっ!気を失っていやがる!」

「気をつけろ!」

パイロットの状況を見て取ったガイが飛び出し、アキトが続いた。

その二人の後姿を注視していた影があることに、二人は気がついていない。

 

 

 

 

二人がかりで引きずりだし、物陰まで引っ張ってゆく。

それと同時にまるでそれまで必死で耐えていたかのように偵察機が爆発した。

「どうだ?ガイ。」

アキトの問いかけにガイが無言で首を振る。

うっすらとパイロットが目を開いた。

「あ・・・あんた達は外・・外から?」

頷く二人に、パイロットが最後の力を振り絞って胸ポケットからデータディスクを取り出す。

二本の柱の根元を繋げたような、その特異なシルエットの方を指し、パイロットは息絶えた。

「なんだ?あそこだけ明りがついてるぜ?」

「静かにしろ。・・・・囲まれたらしい。」

いつのまにか、手にライフルを持ち四本足のずんぐりとした人型機動兵器が、

音も無くアキト達の周囲を固めていた。

 

 

 

 

 

爆炎の中からアキトのアサルトランダーが飛び出す。

廃墟の町を全力で飛ばすアキト達。

機動兵器群がふわり、と浮き上がりゆっくりした速度で・・・巨体だからそう見える・・・

アサルトランダーを追う。

わずかずつではあったがその差は縮まっていった。

「糞!追ってきやがるぜ!?」

「こうなったら仕方が無い!」

 

「待ちなっ!」

アキトがナデシコを呼ぶべく指を鳴らそうとした瞬間、響いた大音声に思わずその指が止まる。

月の光が一瞬かげり、アキトとガイは月を背にして宙を舞うその影を見た。

軽やかに宙を舞うその動き、一見して只者ではないと知れる。

マントをはおり、フードと口元の布で顔は隠れているが、

鋭い眼光と鍛えぬかれた肉体、そして滲み出る威圧感は隠しようも無かった。

 

「ここではやたらにナデシコを動かすんじゃないよっ!」

 

驚いた事に二本の足で走っていながら、

全力走行するアサルトランダーの横を苦も無く併走する謎の影。

「何!?」

「先に行きな、テンカワアキト!」

「お、俺の名前を・・・」

驚くアキト。だが驚くのはまだこれからだった。

「借りるよォっ!」

「え!」

仮にもキング・オブ・ハート、テンカワアキトが気が付いた時には、

その締めていたハチマキが一瞬にして謎の人物の手に移っていた!

「ていやぁーっ!・・・・えあっ!!」

竜巻の様に回転しつつ、謎の影がアキトのハチマキを鋭く放つ。

一瞬にしてハチマキが十数mは伸び、ムヅラアーミーのボディを容易く貫いた!

それから後は、もはや現実のものとは思えぬ光景だった。

自在に伸びるハチマキがムヅラアーミーの頭に巻きつき、それをもぎ取る。

素手で200mmの弾丸を事も無げに掴み取り、叩き返す。

ムヅラアーミーを地盤ごと持ち上げてひっくり返し、叩きつける。

いずれの技も一撃必殺、ムヅラアーミーが爆炎と化していく。

 

「あの技・・やはりあのお方は・・・

東方不敗、マスターホウメイ!」

「そ、それって・・アキトの武術と料理の先生で前のキング・オブ・ハート・・」

呆然とするガイに、やはり呆然として答えるアキト。

「でも、どうしてこんな所に・・・」

僅か一分後、アキト達を追っていたムヅラアーミーの群れは全滅していた。

 

 

 

 

 

気が付くと、マスターの姿がどこにも無い。

「し、師匠?一体どこへ・・・?」

師を見失い、いつになくうろたえるアキトに遥か頭上から声が響く。

「どこを見ている!あたしはここだよ、ここに居るよ!」

頭上からの声に驚くアキトが慌てて上を見る。

崩壊しかかった首都高速の支柱の上に人影が悠然と立っていた。

いかにも料理人か武闘家かといった簡素なデザインの白の上衣とズボン、肩には赤いスカーフ。

鍛え上げられた肉体が服の上からでもはっきりと分る。

 

「師匠!」

呼気鋭く、人影・・東方不敗マスターホウメイが問う!

「喝ぁっ!答えな、テンカワ!

流派!東方不敗は!」

「王者の風よっ!」

ホウメイがハチマキを投げ返し、アキトに問う。

きりりとハチマキを締め、アキトが返す。

「全新!」

「系裂!」

無数の拳の応酬。それら全ては互いに受けとめられる。

 

「「天破驚乱!」」

そして、二人の拳が正面からがっきと噛み合う!

「「見よ!東方は赤く燃えている!」」

 

「久しぶりだねテンカワ・・・いや、このあたしが認めたキングオブハート!」

合わせた師匠の拳を押し抱き、アキトがひざまずく。

「ん?」

「師匠・・・・・・・・」

ぽろぽろと、アキトが涙をこぼす。

「・・・お会いしとうございましたぁっ!」

「どうしたんだい・・・やだね、男のくせに泣きだしたりしてさ。」

そんなアキトを見下ろし、ホウメイは優しく尋ねた。

ガイが、何故かボロボロと涙を流している。

 

 

 

東京都庁の薄暗い展望ラウンジで、回想を交えつつアキトはホウメイへの説明を終えた。

「父上が亡くなり、妹御が冷凍刑・・・・そうか・・

アタシがお前の元から姿を消してからそんな事があったのかい・・・」

「はい・・恥ずかしい事ですがそのせいで俺はナデシコファイターになり、妹を追っています。」

「なあ、テンカワ。あたし達はやはり、師弟の縁とやら言う物で結ばれてるみたいだね。」

ぽつり、とホウメイが洩らした独白にアキトが思わずうつむいていた顔を上げる。

「何故ならあたしがここに居るのも、お前の言うデビルホクシンと関係があるからさ。」

「「!」」

瞬間、アキトとガイの目が大きく見開かれる。

ホウメイが興奮したように展望ラウンジの窓ガラスを叩き、叫ぶ。

「見な!この東京を!かつて経済大国の中心と言われたこの街がここを残して廃墟と化した!

人々は助けを求めるようにこの都庁エリアに集まり、身を寄せ合い震えるだけの毎日!

なにもかもあやつらのせい・・・・湧き出でるように現れるあのムヅラアーミーども、

そしてそれを操る謎の巨大ナデシコ!恐らくは、お前の言うデビルホクシンであろう・・・。」

無言でアキトが頷く。

腕組みをしてホウメイが続ける。

「お前も知っての通り前回のナデシコファイトで優勝したネオホンコンから

再びファイターとして参加したアタシは、この新宿で対戦相手に呼び出された。

・・・だがそれは罠だったのさ。

地下から現れた、巨大な、異形のナデシコ!

そいつはあたしを襲うだけでなくこの街を無差別破壊し始めた!

やがて奴は姿を消し、残されたあたし達は防衛用モビルスーツ「ノブッシ」を戦力とし、

この都庁エリアを砦として守り、戦っているのさ。」

 

 

 

 

 

都庁の階段を降りながらホウメイが続ける。

「立てこもるだけの食料、エネルギーは運良くここに確保されていた。」

広いホールのそこかしこに、毛布にくるまった都民達があるいは座りこみ、あるいは寝転んでいた。

「だが、問題は人々の心がこの状況にどこまで耐えられるか、だよ。」

無意味に広大な都庁でさえ、避難民全てを受け入れる事は不可能だった。

外の駐車場や階段にも毛布に包まった人々がたむろしている。

「以前も兵士がモビルスーツで脱走し、すぐさま奴らに撃墜された事があった。

防衛隊の者でさえこの始末。みな、恐怖に耐えきれなくなっている。

・・・テンカワ!」

いきなり振り向き、アキトを見据えるホウメイ。

その真剣な視線をアキトが受けとめる。

「今は一人でも多くの味方が欲しい。一緒に戦っちゃあくれないか。

・・・・・・そう、この東方不敗マスターホウメイが頼む。」

 

 

 

(たく・・なんでこんな事になっちまったんだろうな?)

ガイは一人都庁を歩いていた。

中にも外にも疲れた顔、怯えた顔、そして無気力になってしまった顔が溢れ、

闇の中、所々で焚火の炎が見えた。

その中を、そう言った避難民とは明らかに違う足取りで歩いてゆく二人に、

ふとガイは気がついた。

(アキトと・・ホウメイさん?)

なんと言う事も無く、ガイは二人の後を離れて付いて行った。

 

 

 

暗がりに鋼鉄の巨人が立っている。

ドラゴンナデシコが唐代の武人であるとするならば、

この巨人はどこか清朝、満州族の騎馬戦士を思い起こさせる所があった。

また、メカニック的な所を多分に残すドラゴンナデシコに比べ、

こちらは兜、胴丸、篭手に脛当てとまさしく鎧武者をそのまま大きくした感がある。

二人の後ろからついてきていたガイもその姿には見覚えがあった。

「これは師匠の・・・!」

「そう、アタシが前回のファイトで使っていたクーロンナデシコさ。

どうだい、古いもんだけど、まだまだ使えるよ?」

どこか自慢げに語る師匠に、弟子もにやり、とどこか挑戦的に笑って答える。

「でも、俺のシャイニングナデシコも強いですよ?」

「んん?こいつ、大きな口を叩くようになったじゃないか!」

長身のホウメイが、アキトの頭を脇に抱え込んでぐりぐりと拳を押しつける。

「ふふふ・・?」

「あははははははは!」

肩を組んだまま師弟が吹き出し、楽しそうに笑い出す。

その声を聞きながら、(この男としては非常に珍しい事だが)少し寂しそうにガイが呟いた。

(ふぅ・・・あんな楽しそうなアキトは初めてだな・・・)

突如鳴り響いたサイレンが師弟の歓談とガイの物思いを中断させる。

『緊急事態発生!防衛担当官は直ちに防災センターへ集合!繰り返す!・・・』

都庁の中が、俄かに慌ただしくなった。

 

 

 

 

「防災センター」と名付けられた扇形の会議場では

行政責任者を筆頭にMSのパイロットや警備隊の主だったもの達が集まっていた。

本来なら都知事がこれらをまとめるべきであったが、軍部にも顔が利き、

事実上この防衛軍を組織した武断派で知られる都知事ハライシ・タンシロウは

視察の際に敵機動兵器の奇襲を受けて帰らぬ人となっており、

現在は彼の主な部下であった五人・・・・

テラサキ・サユリ、ウエムラ・エリ、サトウ・ミカコ、タナカ・ハルミ、ミズハラ・ジュンコ、

通称「Hガールズ」の合議制により最高決議が行われていた。

もっとも、彼女達はホウメイに対して絶大な信頼を置いていたから、

現在この都庁の最高権力者はホウメイであると言えなくもない。

話を戻す。

扇型の議場の「要」に当たる位置の演壇に一人、マスターホウメイが立っている。

その横の巨大なモニターに無人偵察機からの画像が転送されていた。

廃墟と化した東京の街の闇の中を、無数の赤い光点が蠢いている。

「この光が全部敵だって言うんですか!?」

さすがにエリが驚く。

「いよいよ総攻撃を掛けて来る気では!?」

ミカコも思わず立ちあがっていた。

議長格のサユリも席で悠然としているように見えて、やはり穏やかではない。

 

「大丈夫!あたしに任せてもらいましょうか。」

右の人差し指と中指でつまんだディスク・・瀕死のパイロットからアキト達が託されたものだ・・

を左の指で差し、ホウメイが自信に満ちた態度で言い放つ。

その言葉とともにモニターの無数のムヅラアーミーの映像が、東京の地図に変わる。

「これは、我々の同志が命を掛けて届けてくれた奴らのデータです。これによると・・」

港湾地域に敵を示す赤い光点が大量に表示された。

その群れなす光点の一部が、アメーバが触手を伸ばすように地図上の一点、

即ちここ都庁を目指して伸びる。

「敵はこちらの一点を狙って集中攻撃。まっすぐこちらに向かってくるだろう。」

「ホウメイさん、それでは守り切れないのではないですか?」

防衛を主に担当するハルミがもっともな質問をするが、ホウメイは全く動じずその疑問に答える。

「いいや、ここは奴らのもつ習性を利用するのさ。

まず、念の為に都庁エリア周辺の防衛ラインにモビルスーツを配置。

この時重要なのは、そばをうろつくムヅラアーミーどもを一切相手にしない事!

なぜなら、奴らは自分たちに向けられる敵意に対して異常に敏感だからね。

そこで、アタシの率いる一隊がムヅラアーミーどもを攻撃しつつ

奴らを引きつけて逆方向へ進撃、海に沈めてしまう・・・つまりは!

『ハメルンの笛吹き』!」

 

 

大きく、議場がざわめいた。

互いに不安げに顔を見あわせる者、一筋の光明を見出し顔を輝かせる者、

固く唇を引き結び、何やら思案する者・・・反応は様々であったが、

MSパイロットの一人がたまりかねた様に立ちあがる。

「待てよ!俺達はあんた達みたいな命知らずのファイターじゃないんだ!そんな危険な・・」

「馬鹿者!」

ホウメイの怒号が一座の者の耳を打つ。

「このまま行けば座して死を待つのみ!

事態は一刻を争うんだ!戦う意思のある者のみがついて来な!

いいね!」

その瞬間、議場にいた者達の目にはホウメイが一回り大きく、巨人の如く映った。

 

 

 

 

 

十数体のMSがメインスラスターを吹かす。

「全機、マスターに続け!遅れを取るなよ!残りのものはここの護衛だ!」

MS部隊の意気は軒昂であった。いずれも議場にいたメンバーである。

ホウメイが斜め後ろのアキトを見やる。

「テンカワ、遅れるんじゃないよ。」

「はいっ!シャイニングナデシコ、御供させて頂きます!」

「うむ!全機!出撃準備良いか!」

「「「「おうっ!」」」」

マスターの号令にどよめきのような応えが返ってくる。

「作戦・・・・開始ぃっ!」

マスターのクーロンナデシコに続きシャイニングナデシコが、

そしてMS隊が天高く舞いあがった。

いくらも行かない内に地上の闇の中からまばらな対空砲火があがった。

「・・・五月蝿い奴だね!・・・はぁっ!」

クーロンナデシコが高度を落とし、地上のムヅラアーミーの間を駆け抜けた。

それらが残らず爆散した時には既に元の高度を飛んでいる。

「・・・キリがないね!伝達!下には構うんじゃないよ!叩くは増援本隊のみ!」

かつて東京と呼ばれた広大な廃墟に無数の赤い光点が瞬く。

その光点の一つ一つがムヅラアーミーの『目』なのだ。

先ほどとは比べ物にならない密度の対空射撃が来た。

散開してそれを躱し、ホウメイが咆えた。

「攻撃、開始っ!」

 

ホウメイの五体が唸りを上げてムヅラアーミーを粉砕する。

アキトの剣がすれ違いざまに数十体を切る。

MS部隊も良く連携し、次々とムヅラアーミーを撃破している。

だが、それでもムヅラアーミーの数は増え続ける。

それは、飛蝗の大群を二羽の鷲と数羽の雀が止めようとしているようにも見えた。

数体のムヅラアーミーを大根の様に切り裂いてアキトとホウメイが合流する。

「ええい!なんて数だ!」

「テンカワ!一機一機に構っていても仕方が無い・・・アレをやろうじゃないか!」

「はい!師匠!」

「超級!」

「覇王!」

「「電・影・弾!」」

ホウメイが純粋なエネルギー、渦を巻く『気』の弾丸となって回転する。

その渦を巻く先端にホウメイの顔が現れ、叫ぶ。

「撃てぇっ!テンカワ!」

「はぃぃぃぃぃっ!」

アキトの掌底が銃の撃鉄のように『気』の弾丸を後方から叩く。

数キロにわたって光の線が赤い光点の群れの中央を突っ切り、

線の周囲で赤い光点が爆炎に変わる。

赤い光の群れを二つに割った光は上空で停止し、演舞の型を決めた。

「ぶわぁくはつ!」

線の左右に残った赤い光の全てが爆散した。

 

 

 

 

「敵MS軍団、進行方向を変えました!作戦は成功の兆しを見せています!」

都庁の本部で、喜色もあらわに通信兵が叫ぶ。

ガイも笑みを浮かべ、窓から戦況を眺めていた。

ふとその表情が怪訝なものになり、次の瞬間別人の様に引き締められる。

赤い光点が一つ、大群とは別にこの都庁に近づいてきていた。

「あれは!」

四本の足をゆっくりと動かし、都庁に向かって街路を進んでくるもの。

赤い目を光らせて悠然と前進してくるのは紛れもなくムヅラアーミーであった。

避難していた人々が恐怖に顔を引きつらせるのを横目で睨み、ただ前へ進む。

「こんな所まで・・・よりによってホウメイさんのいない時に!」

「そんな事を言ってる場合か!早く市民を避難させにゃ!」

うろたえるジュンコをガイが一喝する。

「待ってください!防衛隊の一人が!」

その言葉が終わらぬ内に、周囲を守っていたMSの一体がムヅラアーミーの前に降り立つ。

慌ててガイが通信で呼びかける。

『待て!敵意を見せるな!そいつを攻撃すれば仲間を呼ぶんだぞ!?』

「なら、仲間を呼ぶ前に倒す!」

ガイの言葉を無視して射撃を開始するMS。

四本の足のうち三本に命中し、ムヅラアーミーがバランスを崩す。

「見たか!」

パイロットが得意げに笑おうとした途端、ピィィィン、という高周波音が響いた。

発信源は、倒れたムヅラアーミーである。

「・・・まさか!」

ガイが、脂汗を流しながら呻いた。

 

 

 

 

 

無数のムヅラアーミー達がアキト達を追って海の中を進んでいく。

沖に出るに従い、赤い光点は徐々に減っていく様だった。

「よし!このまま連中を誘導するんだ!」

ホウメイの言葉にアキトが頷く。

ふと、アキトはセンサーの乱れを感じた。

それとともにムヅラアーミー達の足が止まる。

それが反転し、都庁の方へ歩き始めた。

「・・・まさか都庁が!?」

「テンカワ!ここはあたしに任せな!お前は都庁に戻り、奴らを引き寄せるあの音を断て!」

「分かりました!」

シャイニングナデシコが反転し、全速で都庁に向かう。

ホウメイがそれを見送り、低く呟いた。

「・・・・・・さて。」

 

 

 

 

 

高周波にガイも、攻撃を掛けたMSパイロットも耳を押さえて苦悶している。

「!?」

倒れていたムヅラアーミーの上半身が、いきなり分離して、飛んだ。

不意打ちを受けたノブッシが吹き飛ばされる。

ムヅラアーミーのバックパック状の物が変形して、短いながらも足になった。

今やより人間型に近くなって大地に降り立つムヅラアーミー。

ぎょろり、と目が動いた。

誰も動かない。いや、動けない。

その目を、鋼の手ががっしりと捕まえた。

「これ以上・・・させん!」

「アキトッ・・・ひゃっほう!」

ムヅラにそれ以上の行動を取る時間を与えず、

アキトのシャイニングフィンガーがその頭部を砕き、その機能を停止させた。

 

 

 

 

都庁へ向かっていたムヅラアーミーの大群が停止する。

無数の赤光が見えなくなるのが都庁からもはっきりわかった。

「敵軍団は下がっていきます!」

「成功です!作戦成功です!」

「勝ったのね・・・・!」

「助かったぁ・・・・。」

 

 

 

 

ホウメイとクーロンナデシコが帰還したのは夜も明け、太陽がやや高く昇ってからだった。

「よくやったねテンカワ!さすがは我が弟子!」

ムヅラアーミーの残骸を見ていたアキトとガイが振り返った。

直後、ムヅラアーミーの胸元がわずかに動いた事に背を向けていた二人は気付かない。

「いえ!全ては師匠の作戦の賜物です!」

ゆっくり降りてくるナデシコの手の上でホウメイが気持ち良さそうに笑っている。

「ハハハハハ!世辞が上手くなったじゃないか!

お前がいてこそ初めて成功した策・・・むっ!?テンカワ!後ろだっ!」

ムヅラアーミーの胸元がぱっくりと開き、中から人間型のモノが這い出してくる。

アキトとガイが振り返って身構え、ともに絶句した。

パイロットスーツのような物に身を包み、全身にコードやらチューブやらを接続している。

顔は髑髏であった。

だが、何よりもアキトとガイを驚愕させ、絶句せしめたのは、

その髑髏の表面が銀色のうろこ状の物で覆われていると言う事だった。

「「DH細胞・・・!」」

「はぁぁぁぁ!ハイッ!」

這い出してこようとしていた髑髏・・恐らく人間のなれの果て・・・が

ホウメイの気合と共に炎に包まれた。

「同じだ・・・ダハールやアクアの時と・・。」

「するとやはり・・・!」

青空に黒い稲妻が走った。

巨大な、異形のナデシコの幻影が空中に浮かぶ。

幻影と分かっていても、それには何か圧倒されるような瘴気のような物があった。

ホウメイが低く唸る。

アキトが固く拳を握った。

(間違いない・・・デビルホクシンはこの近くにいる・・・!

俺は遂に、奴を追い詰めたぞ!)

 

 

 

 

 

次回予告

 

皆さん、驚きです!

ナオ、舞歌、ユリカ、リョーコ、恐るべきパワーを身に付けたライバル達!

なんと、彼らは正体不明のナデシコと共に

アキトを攻撃してきたではありませんか!

機動武闘伝Gナデシコ、

「大ピンチ!敵は五大ナデシコ!」に

レディィィ、Go!

 

 

あとがき

 

「ハメルンのバイオリン弾き!」ではありません。

お間違えなきように。

それはともかく、遂に出てきました、東方不敗マスターホウメイ!

原作では(あらゆる意味で)史上最強のお下げジジイにして最も熱く濃いオヤジ!

演ずるは(ある意味)ナデシコ最強の女傑にしてアキトの師匠、ホウメイさん!

いや〜、この馬鹿な話の中で最高のキャスティングだと、我ながら自負しております。

これに匹敵するのは・・・レイン=ガイくらいか(笑)。

さて、これからはホウメイさんの独壇場!

師匠の活躍が見たいと、夜毎枕を濡らしていた方も御期待下さい!

舞歌さんとは別の意味で、書いてて楽しいわ、この人(笑)。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第十二弾の投稿です!!

ふふふふふふふ、ついにあの御方の登場ですね!!

これでますます燃え上がること間違いなし!!

しかし、面白いキャスティングですよね!!

・・・何故かアキトとホウメイの再開の時に、涙するガイが笑えました(苦笑)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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