機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数のムヅラアーミーが進軍する。

ホウメイの「マスタークロス」が、アキトのビームソードが、

MS部隊のビームマシンガンが、次々とムヅラどもを屠っていく。

だがそれでも、ムヅラアーミーどもの湧きいでる泉は枯れる事が無いかのようであった。

一体倒せば三体のムヅラが、三体倒せば十体のムヅラが現れる。

「くそっ!これじゃ、キリが無いぜ!」

アキトの目には、デビルホクシンを操っているであろうアイの幻影が

ムヅラたちの大群と二重映しになって見えていた。

「これもアイツの仕業だと言うなら・・・この手で倒してやる!一体残らずな!」

再び、咆哮と共にムヅラアーミーの群れが切り裂かれていった。

 

 

 

「さて、ネオジャパンのシンジュクシティで、テンカワアキトはマスターなる人物と再会しました。

そして、新たなる運命の歯車が回り始めたのです。

更に、今この街ではムヅラアーミーと呼ばれる謎のMS軍団と、

生き残った人達が激しい戦いを繰り広げているのです。

今日の相手はなんと、ヤガミ・ナオ、東舞歌、ミスマル・ユリカ、スバル・リョーコら

あの四人のファイターです。

そして、更に恐ろしい謎のナデシコが・・・・!

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

第十三話

「大ピンチ!

敵は五大ナデシコ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い場所であった。

狭いのか広いのか、地上なのか地下なのか、建物の中なのかそうでないのか、

それすらもわからなかった。

ただ、グランドピアノ一台とそれを弾く弾き手がいるばかりである。

薄暗い空間の中に、ピアノの音色ばかりが響いている。

そして、その調べはアキトたちが立てこもる新宿都庁にも届いていた。

 

 

 

 

「ピアノの曲が聞こえるだって?」

「はい、ケーブル放送のチャンネルを通じて偶然キャッチされました。」

例の会議場で、主だったものが集まって定例会を開いていた。

Hガールズとホウメイは代表者として演壇の卓についていた。

さながらパネルディスカッションである。

ただし、ここで話し合われる内容は、多くそのまま人の生死に直結していたが。

サユリが代表して口を開く。

「つまり、他のエリアにも生存者がいると?」

「恐らく。」

「助けを求めている人々がいるって事だね。」

ミカコが頷き、ホウメイがそれに言葉をかぶせる。

ドモンがポツリと呟いた。

「ピアノに乗せた、SOSか・・・。」

「どこから発信しているか分からないのか?」

ガイの質問に正面モニターの地図の一点に印がつけられた。

「かつて、電波塔として使われていたタワーからだと確認されている。」

赤と白の鉄骨を組上げて作られたその塔は、

かつてあらゆる電波放送の中継塔として用いられていた。

その名を、東京タワーと言う。

「・・・地下放送局を開くにはもってこいの場所だね。」

「生存者がいるのは間違いないわ。」

「・・・じゃあ、そこまで助けに行くのかい!」

「助けを求める人々がいると分かった以上、見捨てては置けないだろうさ。」

「ホウメイさんの言うとおりですね。」

ホウメイの発言にミカコが頷く。

当然、慎重派のエリあたりからは反論も出される。

「生存者を助けに行くのはいいけれども、ここの守りが手薄になるのは問題よ。

この矛盾した命題をどう解決するの?」

「・・・確かに。」

騒がしくなった議場が、ホウメイの一言で静まり返る。

「いやいや、最小限の人数で充分。人数は・・・アタシを入れて二人。」

「マスター自ら!?」

「・・・・・・無茶だぜ!あそこは、敵の支配しているエリアだぜ!死にに行くようなもんだ!」

悠然と立ち上がったホウメイが片手を上げる。

それだけで場内が静まり返った。

「いや、大勢で派手に動けばかえって敵に悟られる。・・・そうは思わないかい、テンカワ。」

「師匠・・・。」

「テンカワ。あたしと一緒に行ってくれるね。」

「喜んで。」

それだけの言葉と交わす視線。

この師弟の間では、大概の事がそれだけで済んでしまう様である。

隣のガイが、複雑な視線をアキトに送っていた。

 

 

 

 

「いいかい、テンカワ。たとえ二機とは言え敵は見逃しちゃあくれないだろう。

・・・・心して掛かるんだよ。」

「はい!師匠!」

の言葉と同時にクーロンナデシコとシャイニングナデシコが都庁を出発する。

前回のように派手に飛んでいくのではなく、小走りに走りながら地上を行くのである。

「・・・さすがは師匠!動きが軽い!」

師匠の身のこなしに感心しながら、アキトはホウメイの後をついてゆく。

その二人に対し、前方からムヅラアーミーが発砲した。

ホウメイが鼻で笑う。

「早速のおでましだよ、テンカワ。あたし達の力を知らないと見えるね!」

発砲してきた三体の内、二体は瞬時にホウメイの手刀と蹴りに倒れ、

もう一体はアキトのビームソードで左右に割られて、倒れた。

いつのまにかクーロンナデシコがシャイニングナデシコのすぐそばに立っている。

「見事だ、テンカワ。相当修行を積んだらしいね。」

「いえ、師匠の教えがあればこそです。」

笑顔で答えるアキト。

ガイがこの情景を見れば「いつもこんなに素直ならもっと好かれるだろうにな」

と親友の為に溜息をつくこと間違いない。

「お前との修行時代を思い出すねぇ・・・!」

「久々に、血が騒ぎます!」

「む。行こうか、テンカワ!」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

東京の地図を前に、あらためて今回の作戦の説明が行われていた。

ホウメイとアキトがなんも言わずに出発してしまったため、

詳しい説明を求めたHガールズにガイが対応する羽目になったのだ。

「・・・・目標のタワーは我々の防衛エリアの外だが、敵の警戒が手薄なルートがある。

四谷から国会議事堂前を通り、霞ヶ関を抜けてタワーへと向かう。

このルートなら敵の勢力との遭遇を最小限に抑えることが可能、って訳だ。

ただ、敵の電波妨害の為こちらからの連絡は出来なくなるのがネックなんだけどな・・・。」

「あの二人ってまるで危険を楽しんでいるみたいね。他の連中とは全然違うわ。」

「彼らはナデシコファイターよ。私たちの常識は通用しないわ、ジュンコ。」

つと、ハルミがガイの方に視線を向ける。

苦笑しながらガイは頷いた。

もっともアキトにしてみればガイの方がよほど常識の通じない存在であるだろうが。

不意に、目標地点の周辺に強大なエネルギー反応が出現した。

それも四つ。

それを見たガイが物も言わず部屋を飛び出る。

「ガイさん?」

「・・・このエネルギー反応は・・・ナデシコクラスのMSに匹敵するわ・・。」

「どうするの、サユリ?作戦を中止したほうが・・・。」

「いえ、この事実はガイさんがホウメイさんとアキトさんに伝えてくれるでしょう。

後は・・・無責任な様だけど現場の判断任せね。」

その言葉に頷くと、五人は部屋を出てそれぞれの持ち場に急いだ。

やるべき事は、まだ山ほどある。

 

 

 

 

 

「感じないかい、テンカワ。邪悪な気があたし達を待ちうけているのをさ。」

「・・・邪悪な気・・・。」

アキトがその邪悪な気の源を確かめようとするかのように

電波塔の方角を見つめた。

「フ、まあ退屈凌ぎには丁度いいさ。

・・・・・どうだい、テンカワ。

ここはひとつ、どちらが先にタワーにつくか、勝負と行こうじゃないか。」

「勝負・・ですか?」

クーロンナデシコの胴のコクピットハッチが開き、ホウメイが出てくる。

「アンタの腕前、見せてもらおうじゃないか。・・・先に行くよ、テンカワ!」

「師匠!?・・・・ナデシコを置いて単身乗り込むとは・・・!」

軽やかに飛び降り、地下へ消えるホウメイの姿に

半ば呆然、半ば感嘆して呟くアキト。

「・・・負けませんよ、師匠!」

「アキトォォォ!」

拳を握ったアキトが呟いた時、相変わらずやかましいガイの声がその耳を打った。

「・・・ナデシコ並のパワーを持ったMSが、それも四機、タワーの周りを固めてる。

いくらお前でも一人じゃナデシコ四体は無理だぜ!

それよりホウメイさんはどこ行ったんだ?」

「ナデシコ並のパワーをもった機動兵器か・・・・。まさか、な。」

「アキト!俺も行くぜ!」

「ガイ。この地下鉄はタワーまで行けるのか?」

「え?地下鉄?とと、ちょっと待って、く、れ、や、と。

ああ、この線なら殆どそのままのルートでタワーまで行ける筈だ。

ま、もう動いちゃいないだろうとは思うがな。」

端末を取り出して何やら操作するガイ。

その言葉を聞いて、アキトが頷いた。

「よし・・・俺はここから行く。」

「おいおい!人の言った事を・・」

「シャイニングナデシコの左手の反応が少し鈍い。調整不足じゃあないのか?」

「え?んなアホな。・・・ってアキト、てめえ!」

強い調子でガイの言葉を遮るアキト。

思わず背後のシャイニングナデシコを振り向いたガイがもう一回振り返ったときには、

アキトはもう地下鉄の入り口に入っていくところだった。

「ナデシコの留守番しててくれ!頼んだぞ、ガイ!」

「・・・・ったく!」

ぶちぶち言いながらもシャイニングナデシコの点検にかかるガイであった。

・・・・・二人とも気がついていない。

いつのまにか、クーロンナデシコが消えていた。

ホウメイがいない今、コクピットは無人であった筈なのだが。

 

 

 

 

アキトは作動を停止したやたら長いエスカレーターを駆け下りていた。

(ナデシコに乗って師匠に勝っても意味がないからな。

ムヅラアーミーどもが来ても、ナデシコがあれば安全だろう。

・・・デビルホクシンも気になるしな。)

ようやく、エスカレーターの終点が見えてきた。

闇に閉ざされた無人のホームを、つまずきもしないでアキトが歩いていく。

(なるほど・・この様子じゃ確かに列車は走れないな。

・・・師匠もここを通って行ったのか?俺も・・・)

遠くから、電車の汽笛が聞こえたような気がした。

振り向いたアキトの目に、線路の向こう側から次第に強くなってゆく光が見えた。

「なんだ、運行してるじゃないか。ガイの情報も、当てにはならないな。」

銀に赤の縞の入った列車が入ってくると、停止線ぴったりで止まる。

扉が一斉に開いた。

「まるで、俺の貸し切り列車だな。」

何となく嬉しそうに呟いたアキトの背後で扉が閉まり、電車が動き出した。

唐突に車内に響いた低い含み笑いを聞きつけ、アキトがいぶかしげに振り返る。

(こんな列車に・・・一体誰だ?」

長身の男が座席に腰掛けて英字新聞を広げていた。

新聞を下ろしてその男が顔を見せる。

「!」

「フ、フフフフフフフ!久しぶりだな、Japanese!」

「ナオさん!?」

だがアキトの記憶にある限り、ナオはこんな嫌な笑い方をする男ではなかった筈だ。

ナオが立ち上がり、英字新聞を投げ捨てる。

「貴方が・・何故こんな所に?」

「貴様と、戦うためさ。」

「何だって!?一体どういうつもりですか!」

返答のないまま、ナオがその場で右のストレートを振るい、

拳の形をした衝撃波がアキトを襲う。

アキトがその場を一歩も動かずに耐えねばならないほどの威力をその一撃は秘めていた。

「やめろ、ナオさ・・・!」

にやり、と笑うナオの顔が目の前にある。

その拳が、唸りを上げてアキトに叩きこまれた。

 

 

 

 

最後尾の車両、車掌室の扉が吹き飛んで線路に落ち、遠ざかっていった。

扉のあった場所にアキトが半ば身を乗り出した格好で、

線路に落ちそうになる体を必死で支えている。

(以前のパンチとは、桁違いだ!)

アキトが戦慄と共に呟いた時、引き上げようとする体をナオの足が押し返した。

「どうした、Japanese。これくらいで、The Endなのかぁ?」

「ナオさん・・・!」

ナオの足を掴み、それを引いてアキトが立ち上がる。

頭突きを食らわせ、後方に飛んだ。

「ガッデム!」

頭を押さえながら悪態をつくナオの姿が遠ざかってゆく。

「・・・助かったぜ。しかし・・・!」

 

 

 

 

シャイニングナデシコが左手を握っては閉じ、ぐるぐる振り回す。

「・・・全然調子いいじゃねえか。いい加減な事言いやがって。」

コックピットの中で調整作業をしていたガイの耳に、アラームが飛び込んできた。

レーダーが敵機の接近を捉える。

「げ。MSがこっちに来やがる!・・・ムヅラアーミーも・・多いな。」

不安と、妙な期待を込めてガイがコックピットの天井を見上げた。

そこにはモビルトレースシステムの中核であるファイティングスーツ装着装置がある。

 

 

 

 

 

アキトは走っていた。ナオの乗っていた列車の後を追う様にして、地下鉄の線路の上を疾走する。

(ナオさんのパワー・・スピード・・あれは一体・・・何!?)

"前方から"、つまり通常の進行方向とは逆に列車が走ってくる。

(後方からも!?)

前にも進めず、後ろにも逃げられない。

丸の内線の狭いトンネルの中では二台の列車が衝突した場合、

脇に避けても脱線した車両の巻き添えになるのは間違いない。

完璧な挟み撃ちであった。

突然、アキトが前方へ全力疾走をはじめた。

全身のバネをたわめ、跳躍する。

先頭車両の屋根に飛び降りるとそのまま走り始め、

車両の屋根の端を駆け抜け、一気に最後尾から飛び降りた。

受身を取って地面に伏せる。直後、後ろの方で轟音が響いた。

立ち上がったアキトが一人ごちる。

「少なくとも、ただの列車事故じゃないのは間違いないな・・・!」

その姿、その呟きを天井近くの監視カメラが逐一捕らえている事、

それを見て笑みを浮かべている女性がいる事にアキトは気がついていない。

「上手く逃げたものだこと。さすがねぇ、アキト君。

でもね、ゲームはまだ始まったばかり。

・・・・楽しんでもらえると思うわ。ふふふふふっ。」

 

 

 

 

コックピットの上部が回転し、全裸のガイをポリマーの皮膜で包み込む。

「ぬ・・・おおおおおおおおっ!」

体だけならむしろアキトより鍛えたガイである。

ファイティングスーツ装着もそれほど苦にはならなかった。

固く盛りあがった筋肉が薄い皮膜で覆われる。

アキトと違い固く鍛えた彼の筋肉は、スーツの上からもはっきりとその凹凸が分かる。

ガイが体に力を入れ、動かすたびにその凹凸がもぞもぞ動く。

筋肉男の全身タイツ。

女性や子供には余り見せられない光景であった。

「フンッ!ぬおりゃぁぁぁぁぁッ!さあっ!来やがれ!」

 

 

 

 

「ここは・・一体?」

トンネルの中を迷ったアキトは妙な所に出ていた。

中央、これまでたどってきた線路から繋がる部分に回転しそうな円形の床があり、

そこからまた放射状に線路が伸びて別のトンネルへ繋がっている。

(アキトは「操車場」とか「回転台」と言う単語を知らなかった)

空間の中央に立ち、行くべき方向を思案する。

だがその途端、トンネルのひとつからアキトを目掛けて電車が一両、飛んできた。

走ってきた、ではない。空中をまさしく飛んできたのだ。

考える暇もなく身を躱す。

アキトのいた回転台に突っ込んだ車体は猛烈な土煙を上げ、

反対側のコンクリートの壁に突っ込んで自重で潰れた。

避けたアキトを狙ったかの様に、別のトンネルから次々と車体が宙を舞い、アキトを狙う。

(この攻撃・・俺がここに現れるのを待っていたかのようだ!

これも・・・ムヅラアーミーの仕業なのか?)

辛うじて全てを躱し、アキトが身構える。

周囲には飛来した車体が折り重なり、一瞬にしてスクラップ置き場の様相を呈していた。

アキトの背後にあった車体が、軋みを上げながらゆっくりと宙に浮く。

振り向いたアキトの目の前で、車体の下から一人の女性が姿を現した。

「リョーコちゃん!?君が何故ここに!」

「テンカワ・アキト・・・てめえを・・・倒す為だぁッ!」

その言葉と共に、渾身の力で車体を投げつける。

その質量が避ける間もなく正面からアキトを潰したように見えた・・が、

土煙が激しく仕留めたかどうかリョーコには分からない。

だが、監視カメラは土煙に紛れてトンネルのひとつに駆けこむアキトを捉えていた。

「あっちゃあ〜。逃げられちった。ま、いいか。どうせ行き先はわかってるんだもんね。

・・・・待っててね、アキト君。」

 

 

 

 

再び、アキトは駆けていた。

(ナオさんにリョーコちゃん・・・二人とも、俺を狙っていた・・・。まさか・・・)

前方が、うっすらと明るい。

走って行く内にトンネルが途切れて地上への穴が開いていた。

「助かったぜ・・・これ以上地下を進むのはさすがに危険だ。・・お。」

アキトの目の前に、赤と白で塗り分けられた巨大な鉄骨の塊があった。

「・・・丁度タワーの下だったのか!」

 

 

 

 

「おらおらおらおらぁっ!」

シャイニングナデシコの拳がムヅラアーミーの頭部を達磨落としのように撃ち落とす。

背後からの射撃を躱し、まっすぐに突進する。

「どおうりゃあっ!」

避ける暇もなく、右の拳が肘までムヅラアーミーのボディにめり込んでいた。

腕を引きぬかれたムヅラが倒れ、爆発する。

その時にはもう、ガイが次のムヅラを殴りつけていた。

アキトのように、正統の流派を学んだ洗練された動きではないが、ガイもなかなかに強い。

ただ、シャイニングナデシコにもビームソードやバルカンと言った武器が

装備されているのだが、それを全く使わないのがなんともはや。

「俺のこの手が光って唸る!

お前を倒せと輝き叫ぶ!

砕け!ひぃっさぁつ!

シャァァァイニングッ!

フィンッガァァァァァ!」

最後のムヅラが頭部を砕かれて、倒れた。

「へへっ!俺だって結構やれるじゃねえか!・・待ってろよ、アキト!」

東京タワーに向けてシャイニングナデシコが飛ぶ。

急に日がかげった。

背後を振り向いたガイが絶句する。

「なっ!」

漆黒の魔神とでも形容すべきか。

黒いボディ。やや細めの赤い翼。頭部の両脇から生える巨大な一対の角。

それが猛禽類のような両手の鉤爪を大きく広げ、

ガイの乗るシャイニングナデシコの背後を取っていた。

大地に叩き落されるその一瞬だけだったが、

ガイはその頭部が確かにナデシコタイプのそれであるのを見た。

 

 

 

 

東京タワーの地下、放送施設があると思われるあたりをアキトは歩いていた。

人の気配はなく、人のいた痕跡も今の所は全くない。

「こんな所に、本当に誰かいるのか?」

皮肉っぽく呟いた時、アキトの耳にかすかなピアノの音が聞こえた。

素養の全くないアキトには分からないが、クラシックらしい。

鈴を転がすような綺麗な、そして物悲しい曲だった。

音を頼りに奥へ進む。

やがて一つの扉の前でアキトの足が止まった。

「この中だな。・・・師匠、どうやら俺の勝ちですね。」

笑みを浮かべ、アキトは両開きの扉を大きく押し開けた。

「さあ、助けに来たぜ、ピアニストさんよ!」

薄暗い場所であった。

ただ、グランドピアノ一台とそれを弾く弾き手がいるばかりである。

薄暗い空間の中に、寂しげなピアノの音色ばかりが響いている。

アキトが入ってきてもその音色はやむ事がなかった。

「どうした・・・助けに来たんだぞ?」

「ふふふ・・・ようこそ、アキト!」

ピアノを弾いていた人物が顔を上げ、手を鍵盤に叩きつける。

不協和音が響き、青みのかった黒髪が肩に流れた。

「ユ・・ユリカ!?お前がピアノを弾いていたのか!だが何故!?」

「うふふふふ・・・その答えが・・・知りたいっ!?」

再びユリカが鍵盤を叩きつけ、不協和音が響く。

同時に、アキトの背後の壁が向こう側から砕かれた。

破片と煙の向こうから三つの人影が姿を現す。

「ふふっ、お久しぶりねぇアキト君!」

「舞歌さん!貴方もか!・・・全ては、お前たち四人がしくんだ罠だったのか!」

「やっと気がついたの、アキト?」

三たび不協和音が響いた。

三人がアキトの周囲を囲み、人間の限界を超えた速度で回転する。

「行くぜ!」

「勝負だ、テンカワ!」

「うふ・・あははははっ!」

アキトの目をもってすら、影を捕らえるのが精一杯。

明らかに、かつてアキトが知っていた三人の力ではない。

「お前たち・・・その力はっ!?」

答えず、ふわり、と舞歌が宙に浮いた。

滞空しながらの連続蹴りがアキトを襲う。

「はぁ・・・りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!ほぁっ!」

最後の回し蹴りがアキトの延髄を強打し、アキトの体が傾いだ。

(舞歌さんも・・・!)

「うぉぉぉぉぉっ!」

よろけたアキトの体をリョーコが捕まえ、壁にむけて投げつける。

壁が軋み、三階から飛び降りた時のような衝撃がアキトの体を揺さぶった。

跳ねかえった所に。

「まだまだぁっ!」

ナオの拳によって引き裂かれた大気の衝撃波がアキトを再び壁に叩きつけた。

壁に背を預け、アキトが力なく座りこむ。

ユリカが薄く、冷たく笑った。

 

「フフフフフ・・・驚いたか、Japanese!」

「強くなったでしょう、私たち。」

「体の奥底から、力が溢れ出てくる感じだぜ!」

ナオが両の拳を握る。

「信じられないほど素晴らしいぞ、この力!」

舞歌がアキトに指を突き付ける。

「あ〜ちゃんも欲しいでしょう?この力。」

ユリカがピアノの向こうから暗い微笑を投げかける。

「あの方に頂いたこの力・・・」

「あの方・・・アイの事か!」

四人の、低い含み笑いが響く。

「お前達がアイの手先になったのなら・・負けるわけにはいかない!

キング・オブ・ハートの名に掛けても!」

アキトが身構える。その瞬間、震動が走った。

ナオ達四人の頭上の天井にひびが入る。

四人が飛びのいた直後、巨大な質量がグランドピアノを押しつぶした。

「・・・・シャイニングナデシコ!?」

ナオ達の気配が消えた事を確認してからコクピットハッチを開き、乗りこむ。

「うっぷ。」

目を回しているガイのファイティングスーツ姿を見たアキトが一瞬顔を背けた。

まあ、余り見たくないモノには違いない。

それを言ったらアキトも大して変わらないのだが、

アキトが筋肉を柔らかく鍛えているのに比べ、

ガイはボディビルダーの様に固く鍛えているので

筋肉の盛りあがりが露骨に出るのだ。

「大丈夫か、ガイ!」

「・・・取ってつけたように言うなよ。・・・待ち伏せを食らった。」

「む・・!」

ナオ。

舞歌。

ユリカ。

リョーコ。

四体のナデシコが既に戦闘準備を整えていた。

「奴ら・・ナデシコまで用意していたのか!こうなれば・・・」

「アキト!」

ガイが後ろを指す。

シャイニングナデシコの上をかすめて飛んだそれが、

アキトに背を向けて大地に降り立つ。

巨大な角と、赤い翼を持った漆黒の巨人。

アキト達に背を向けたまま翼状の大型スタビライザーが横に高くもちあがり展開する。

それぞれどこか昆虫をイメージさせる四つの部分に別れ、

それが紅のマントの様に肩から下を覆った。

「あれも・・・ナデシコなのか?」

「・・・間違いねぇ・・アレが、俺を襲ったナデシコだ!」

振り向いたその顔は、確かにナデシコタイプの特徴をもっていた。

赤いマルチブレードアンテナと、両眼の下に深く刻まれた溝が印象的である。

マントを少しはだけるようにしてその下から鉤爪のような右手がのぞく。

「ダァァァクネス・フィンガァァァァ・・・・・・!」

アキトのシャイニングフィンガーのように、だが、『漆黒』にその手が輝く。

凄まじいエネルギーの波動がシャイニングナデシコを襲った。

「これほどのパワー・・・奴もアイの手先か!・・・ならば!叩き潰してやる!」

アキトの右手が光って唸る。

輝きが、暗黒を押し戻すかに思えた。

だが、漆黒のナデシコが手を突き出した、ただそれだけで漆黒の輝きが倍する物になった。

シャイニングナデシコの踏ん張った足がコンクリートを削り、後退する。

「シャイニングフィンガーが・・押されてる!こいつのパワーは・・・段違いに上だ!

・・・ガイ!今のうちにアサルトランダーで脱出しろ!まだ間に合う!」

「・・・・・あんまり人を馬鹿にするなよ、アキト。

俺がここでお前を見捨てて逃げ出せるような男だと、本気で思っているのか?」

ガイの視線とアキトの視線が一瞬からまり合う。

アキトが小さく頷いた。

ガイがにやりと笑う。

「なら!」

「おう!」

「「行くぞ!」」

二人の手が重なり、腕が組まれる。

重ねられたその手に宿るのは、1+1を3にも5にも出来る力。

人、それを『友情』と言う!

「「二人のこの手が光って唸る!

お前を倒せと輝き叫ぶ!

必殺!

シャイニングフィンガァァァッ!」

 

重なった拳から、一つの輝きが溢れる。

輝きと漆黒と、二つの力がぶつかり合う。

反発作用が猛烈な衝撃波となって一帯を襲った。

ビルが土台から吹き飛ばされ、巨大なクレーターが生成される。

ほぼ全ての気力と、機体のエネルギーを使い果たし、アキトとガイががっくりと膝をついた。

朦朧とする意識の中、アキトは目の前にあの黒いナデシコが立っているのを見たような気がした。

 

 

 

「テンカワ・・・テンカワ!」

「・・・師匠?」

どれほど朦朧としていたのだろうか。

気がついたとき、目の前にホウメイのクーロンナデシコが立っていた。

 

 

 

アキトの話を聞き終わり、ホウメイが東京タワーを見上げた。

「お前の話が本当なら、全ては罠だったって言う事になるね。

それに、アタシも見た事のない黒い、巨大な角のナデシコ。」

「はい。なんとか二人で切りぬけましたが・・・。」

「ああ。とにかく奴らの力はまだまだ計り知れないものがある。

テンカワ・・・・油断するんじゃないよ!」

「ハイ、師匠!」

 

 

 

 

 

「・・・・さて、物語にはいよいよ怪しげな雲が広がり始めました。

はたして、あの恐ろしいナデシコの正体は。

ナオ達は本当にデビルホクシンの手先になってしまったのか。

これらは全て、アキトの妹であるアイの仕業なのでしょうか。

それとも・・・・・・別の誰かの。」

 

 

 

次回予告

 

皆さん、お待ちかねぇ!

さらに驚きです!

ガイが見たものは、不気味な兵士達の工場でした!

謎が深まる中、またも襲い来るムヅラアーミー軍団!

そして、ライバルに苦戦するアキトの前で、

遂にマスターの正体が明かされるのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「衝撃!シャイニングフィンガー破れたり!」に

レディィィ、Go!

 

 

あとがき

 

やっぱ、いっぺんくらいガイにあのセリフを言わせてみたいですねぇ(笑)。

なんか、ブラブラする描写(爆)もいれようかとよほど思ったのですが、

私の芸風じゃないのでやめました(笑)。

さて、いよいよ次回からマスターホウメイが本格的に暴れ始めます。

乞うご期待!

(今まで暴れてなかったのか、とか言われそうですが(^^;)

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第十三弾の投稿です!!

ははは、後書きを変更するのを忘れていた馬鹿管理人です(汗)

どうやら昨日は無意識のうちに、アップ作業をしていたみたいでして(何て言い訳だよ)

ですが、皆さん見事にDH細胞に取り付かれてますね〜

お手軽にパワーアップも果たしたし、今後も活躍に期待大っすね!!

・・・あ、一応敵なんだよな(笑)

でもここでマブダチ天驚拳(仮)を使うとは・・・

今後はどの様な展開になるのでしょうかね?

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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