機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、皆様。驚くべき事が重なり出しました。

前回、謎のSOSに導かれたテンカワさんは見違えるほどの力を身につけたライバル達に襲われたのです。

ヤガミ・ナオ、東舞歌、ミスマル・ユリカ、スバル・リョーコ。

更に現れた謎の恐ろしいナデシコ。

謎が次々と深まって行く中で新たな事件が一つ。

この日、宇宙では地球に向かう四つの光が観測されたのです。

その光が目差しているのは新宿。そう、謎が謎を呼ぶ新宿の地だったのです。

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

第十四話

「衝撃!

シャイニングフィンガー

破れたり!」

 

 

 

 

 

 

 

新宿の街は夜の帳に覆われていた。

電力の供給のせいか、街灯が、信号が、都庁の明りすらも点滅を繰り返す。

それはどこか規則正しく、心臓の鼓動のようなリズムを持っていた。

まだ、誰も知らない。新宿の闇の中で眠る巨大なモノの存在を・・・。

 

 

 

 

「・・それで、衛星からの情報ってのは?」

「二時間ほど前に観測されたのですが・・・。」

ガイの質問に、通信衛星との回線を繋げていた防衛隊員が機器を操作する。

「ここ、新宿に四つの物体が降下しつつあります。

貴方がたにコロニーからの情報は入ってないんですか?」

「・・・・いや、何も。」

「決まってるだろう!コロニーの連中は下の事なんかどうでもいいのさ!

大体、今回の事だってコロニーの連中が裏で糸を引いてないなんてわかったもんじゃないぜ!」

「おいおい、そんな言い方はないだろう!?助けてもらってるのはこっちなんだぞ?」

防衛隊員同士の議論が始まってしまった。

目をそらしたガイが、監視モニターの中に意外なものを発見する。

「・・・ホウメイさん?」

モニターの中のホウメイは、辺りをうかがった後地下道への入り口を入っていった。

自分でもよくわからない何かが、ガイの中のこれまたよくわからない何かに触れた。

 

 

 

 

ガイがエアーバイクで夜の新宿を疾走する。

生命反応検知機はホウメイが地下道を通って新宿駅のほうへ進んでいる事を示していた。

こころもちバイクの速度を上げる。

かつての新宿西口地下駐車場から地下へ入ったガイは

更に地下へ降りて行くホウメイの背中を見つけた。

「・・・どこへ行く気だ?」

自分の行動にどこかおかしなものを感じつつ、それでもガイがホウメイの後をつけたのは、

この男にしては珍しい勘ばたらきのせいだったかもしれない。

今、ガイの勘は本人がおかしく思うほどの危険信号を発信していた。

階段を降りた所で、ガイはホウメイの姿を見失った。

ふと気配を感じ、配電室だったらしき所へ入る。

そろそろと十歩ほども踏み出した時、唐突に入り口が閉じた。

スイッチをいじくり、配線を見まわし、拳を叩き付けてみたが、びくともしない。

諦めて振り返ったガイの目に奇妙な輝き・・・ちかちか光る火花のような・・・が飛びこんできた。

なぜか、そこから目が離せなくなる。

次第に、ガイの考える力は失われていった。

目が完全に空ろになり、ガイが再び歩き出す。

暗い通路にちかちか光る輝きが、彼を何処か暗い所へ呼び寄せるように瞬いていた。

 

 

 

 

 

廃墟のそこかしこで人々が配給の朝食を取っていた。

パンとスープだけの粗末なものだが、それでも人は生きて行ける。

もっとも、食べる楽しみは余り感じなかっただろうが、

今はそれ以上に考える事が沢山ありすぎる。

噴水(の残骸)の横に腰を下ろして黙々と食事を取るこの男もまたしかり。

脇から掛けられた声にアキトが顔を上げる。

「テンカワ。」

「師匠・・おはようございます。」

何処か浮かない笑顔をアキトが浮かべる。

ホウメイも優しげな笑みを浮かべた。

「よく眠れたかい?」

「実はこの所、よく眠れないんです。

やっぱり、ナオさん達の事が気になってるんですね。

・・・それと、例の黒いナデシコの事が。」

「ま、無理もないだろうさ。」

「でも、まだ信じられないんです。あいつらがここにいたことすら・・・。

師匠はどうです?よく眠れましたか?」

「・・・アタシかい?アタシは乱にあっても常を忘れず。朝までぐっすり、さ。」

左手のスプーンを振りながらホウメイがたしなめるように言う。

ちなみに、凄腕の料理人でもあるホウメイは暇な時には料理を手伝う事もあった。

残念ながら今朝の食事はホウメイの作ったものではなかったが。

「さすがは師匠ですね・・・。」

「そう言えばお前の相棒・・・ええっと・・」

「ガイですか。」

「そうそう。あいつはどうした?一緒に朝飯じゃなかったのかい?」

「どうせ、意味も無くそこらへんを走りまわっているんでしょう。

アイツ、元気だけは有り余っているから。」

「はははっ、確かにそんな感じだね。」

余程おかしかったらしく、しばらくホウメイは笑いつづけていた。

 

 

 

空ろな目つきのまま、ガイは新宿の地下を歩き続けていた。

通路の壁を時折走る奇妙な火花が誘蛾灯のように瞬く。

その光に命じられるまま、ガイは更なる闇の奥へ進んでいった。

 

 

 

「正体不明の物体?」

「ええ。得体の知れない光が四つ、この新宿に向かっているらしいんです。

まさか、奴らの援軍なんてことは・・・・。」

息せき切って走ってきたサユリがアキトとホウメイに訴える。

ホウメイが何やら考えこむ表情になった。

「正体不明の四つの光、ね・・・。」

(・・・・まさか!?)

「師匠・・・心当たりがあるんですか?」

その表情の変化を読み取り、アキトが尋ねる。

ホウメイが何か言う前に、遠くから爆発音が響いた。

すぐにサイレンが鳴り、スピーカーががなり始める。

『緊急事態!東地区にムヅラアーミー出現!』

「・・・全く!叩いても叩いてもキリのない奴らだ!」

「そんな事を言っていても、それこそキリがないだろうさ。・・・行くよ!テンカワ!」

「はい!師匠!・・・シャイニング!ナデシコォォォォッ!」

 

 

 

 

 

「みんなまとめて、叩き潰してやるっ!」

シャイニングナデシコの剣が次々とムヅラアーミーを切り裂く。

クーロンナデシコの手首から布状の固形ビーム、「マスタークロス」が伸び、

ムヅラアーミーの首をはね、胴を貫き、引き千切る。

一体一体はまるで手応えがないが、なにしろ数が桁違いに多い。

一対一のナデシコファイトならともかく、戦いにおいてもっとも重要な要素はやはり物量である。

アキトの剣が百のムヅラを切り倒し、ホウメイのマスタークロスが二百を倒そうとも、

無数のムヅラの前には一時凌ぎであった。

ビームクロスを地面に突き立て、ホウメイが高所から戦場全体を見渡す。

しばし、戦況を観察した後ホウメイは弟子を呼んだ。

「テンカワ!こっちへ来な!」

「は、はいっ!」

目の前のムヅラを切り倒し、アキトがホウメイのそばのビルに飛び移る。

「いいかいテンカワ。いくら雑魚を相手にしても、無駄の一言!

頭を叩けば雑兵は自然と崩れ去る!よいか!これ兵法の初歩の初歩!」

「はい!ですが、頭と言っても・・」

「いや、あれを見な!」

ホウメイの指した方向に、一体のナデシコが立っていた事に、アキトが初めて気がつく。

純白を基調としたボディに空の色の帽子とマント。

「ナデシコローズ・・・ユリカかっ!

ユリカ・・・おまえは・・本当にデビルホクシンの手先になってしまったのか?」

「何をしてるんだい!ここはあたしに任せ、さっさとあいつを倒してきなっ!」

唇を噛むアキトをホウメイが叱咤する。

表情を引き締め、アキトが頷いた。

 

 

 

日本刀とフェンシング・サーベルが撃ち合わされる。

鍔迫り合いになった。

「ユリカ!ナデシコファイトは・・・どうしたぁっ!」

「私のやる事に差し出口するのは・・・やめてよねっ!」

強烈なショルダーアタックがアキトを吹き飛ばす。

ビルに持たれかかる形になったアキトに、ユリカが剣をつきつけた。

「いい・・・?ナデシコファイトなんて言うお遊びは、もうユリカには何の意味もないの。

そう、『あの方』と出会ったからには・・・ね。」

「『あの方』・・・?まさか、それはアイの事か!」

ユリカの表情がぴくり、と動く。

「許せないなぁ・・・いくら実のお兄さんのアキトでもあの方を呼び捨てにするなんてっ!」

「妹なんかではない・・・奴は・・悪魔だぁっ!」

音速を超える早さで振り下ろされた剣をユリカが後退して避ける。

ホバリングして後退しつつ、左肩のハーフマントが跳ねあがった。

「ローゼスビットォッ!」

「またこいつかッ!」

マントの下から数十本のバラの花が飛ぶ。

花弁が絞られたかと思うと、無数のビームが発射される。

火線は細いものの、雨の様にアキトの全身を打った。

「いつまでも・・同じ手が通用するかぁッ!」

アキトのビームソードが一筋の閃光となった。

バラの花が次々と寸断され、爆発する。

「ふ・・ふふふふふ・・さっすがアキト!・・・・じゃあ、これはどう?」

ユリカが指を鳴らすと同時に大地が震動する。

「これは・・・地震?いや違う!」

唐突にアキトの周囲、三箇所から水柱ならぬ土柱が上がる。

土煙が収まった時、三方の柱の中から一体づつ、アキトの見知った顔が出てきた。

「ナオさん!」

右にナデシコマックスター。

「舞歌さん!」

背後はドラゴンナデシコ。

「リョーコちゃんもか!」

左手にボルトナデシコ。

そして、前にユリカのナデシコローズ。

まさしく、四面楚歌、絶体絶命のピンチであった。

 

 

 

 

 

左右に無数の脱出ポッドにも似た、個人サイズの医療用カプセルのようなものが並んでいる。

ガイは唐突にその延々と続く列の中をとぼとぼと歩いている自分に気がついた。

「・・・・俺はなんでこんなとこに・・・・?」

首をひねりながらカプセルの中をのぞきこむ。

珍しくその表情が引きつり、えずくような声が上がった。

カプセルの中に納められていたもの。

髑髏のような顔に、その表面を覆う銀色のうろこ状のもの。

何より恐ろしいのは、「それ」がぼろぼろになった背広を着ているという事だ。

「こいつぁ・・あの時の!」

恐ろしい事に気がつき、ガイが周囲を見渡す。

見渡す限り並ぶ、同型のカプセルの列。

「これがみんな・・・DH細胞の培養カプセルだってのか!?・・・・あれは!」

ふと、カプセルの一つを見たガイの目がその周囲のカプセルに吸い寄せられる。

プロスペクター。ゴート。カズシ。九十九。元一郎。ジュン。サブロウタ。

ナオ達四人のクルーが、カプセルの中に閉じ込められている。

駆け寄ったガイは、背後で髑髏の目が赤く輝いた事に気がついてない。

やたら固い開閉スイッチに拳を叩きつけてカプセルを開く。

 

意外と素直に蓋は開いた。

カプセルからはちきれそうになっていたゴートなどは弾ける様に床の上に転がる。

ガイが手早く全員の体を調べ、まだDH細胞に感染していない事を確認する。

「助かった・・のか。」

「ネオジャパンに借りが出来てしまいましたな〜。」

「全く。」

「・・・・むう。」

こんなときでも普段のペースを崩さないプロスペクター達の言葉に

苦笑しつつ質問をぶつけるガイ。

「ああ、気が向いたら返してくれ。だが、どうしてあんた達が新宿へ・・・」

「ガイ!後ろだ!」

サブロウタの叫びにガイが反応するより早く、九十九と元一郎が髑髏に飛び蹴りを叩きこむ。

胸骨と骨盤を砕かれた人間のなれの果てが、

呻き声ともノイズともつかない奇怪な音を立てて倒れた。

その背後に、全てのカプセルの蓋が開き、無数の髑髏が起き上がるのが見えた。

「・・・囲まれたか!」

「どうやら、愚図愚図してられないようだな。」

全員が一斉に頷いた。幸い女性はおらず、足手まといになるような男もいない。

「ここは血路を開いて・・・」

「脱出あるのみ!」

 

 

 

 

四体のナデシコによる怒涛の連携攻撃がアキトを襲う。

全身を滅多打ちにされ、とどめにナオの右ストレートで吹っ飛ぶアキト。

廃墟の一つにもたれて尻餅をついた所で、ユリカのローゼススクリーマーが動きを封じる。

これまた以前とは桁が違う。

今のアキトは指一本動かす事も出来なかった。

一歩進み出たユリカがアキトに再び剣をつきつける。

「どう?アキト。あの方から授かった力は!?」

「見損なったぞ、ユリカ!四人がかりで騙し討ちとは・・・

お前の誇りにする『自分らしさ』は何処に消えた!?」

「うふふふふ・・そんな物に未練は無いよ!」

「ならば舞歌!兄に託された少林寺の再興はどうする気だ!

 リョーコちゃん!君はネオロシア政府に囚われた海賊仲間を助ける為にナデシコファイターになったんじゃなかったのか!?

 ナオ!悪魔に操られるのがお前の夢だったのか!」

リョーコが鼻で笑う。ナオがせせら笑い、舞歌がぞくり、とするほど邪悪な笑みを浮かべた。

「ふん・・Cheepな奴だぜ、テンカワ・アキト!」

「あ〜ちゃんたら強情なんだから、もう。」

「アキトにはどう説明しても、あの方の素晴らしさが分かってもらえないの・・・?」

「当たり前だ!誰があんな奴!」

地面に磔にされたアキトが精一杯の声を振り絞って叫ぶ。

ユリカが歪んだ笑みを浮かべながら別れを告げた。

「なら仕方ないね・・・さよなら、アキト!」

「待ちなっ!」

ユリカが剣を突き出したその瞬間、天空から飛来したビームクロスがそれを弾き、

同時にアキトを捕えていたバラの花を散らせた。

「師匠!」

四体のナデシコの前に、アキトを守る様に降り立ったクーロンナデシコが、

わずかにアキトの方を振り向いた。

 

 

 

 

 

ガイたちが一丸となって地下道を走る。

DH細胞によって作られたゾンビどもは意外に動きが鈍く、

九十九達の拳法やガイの拳の前に次々と倒れていった。

「じゃあ、みんなあの人が仕組んだ事だってのか!?」

「そうだ!皆あいつが仕組んだことだったのだ!」

ガイの問いに元一郎が答える。

「でも、何故!?」

「さあ、それはわかりませんなぁ。」

「だが、俺達は全員あいつによって、ガイと同じく操られたんだ!」

「・・・うむ。」

プロスペクターとカズシの言葉にゴートが頷く。

「僕達はあいつの挑戦を受けて、この新宿にやってきた!」

「しかしあの光に操られて、気がついたときはカプセルの中って訳さ。」

ジュンの説明をサブロウタが継ぐ。

「そして僕達は見た!悪魔に魂を抜かれたかのように変貌していく、ユリカたちの姿を!」

「ナデシコファイトを忘れ、奴の操り人形と化していったその姿を!」

「・・・じゃあ、アキトは!」

先頭のガイがまぶしさに目を細める。

地上への出口に、ようやく到達したのだ。

 

 

へたり込んだままのアキトに、ホウメイが手を差し伸べている。

ガイが、ありったけの大声で叫んだ。

「アキト!何もかも、そいつの仕業なんだ!

 このシンジュクの破壊も!

 ナオさん達を操っているのも!皆お前の師匠、

東方不敗マスターホウメイの仕業だったんだ!」

「そんな!ガイ、何を言っているんだ・・・一体どうしたって言うんだ?」

「テンカワ!」

思わず師の方に向き直ったアキトのシャイニングナデシコの頭部をホウメイが足蹴にし、壁に叩きつける。

「師匠!?・・・一体何を・・・」

「ふふ・・ふっふっふっふっふ・・・惜しい。実に惜しいねぇ。

 もう少しで、労せずしてお前を仲間にできたものを・・」

「ど・・どう言う事です・・?」

「こぉの、馬鹿者めぇっ!

 あたしの正体にまだ気がつかないのかいっ!?」

ホウメイの乗るクーロンナデシコの全身から、明らかにこれまでとは違う、

圧倒的な「気」が放射された。

全身の装甲板にひびが入り、砕ける。

その下にあった新しい肉体がその姿を現した。

漆黒のボディ、巨大な角、その背に生える二対のくれないの翼・・・・・。

芋虫が蛹を脱ぎ捨てて蝶になるように、クーロンナデシコだった「もの」は

いまや全く新しい存在として生まれ変わっていた。

「こ・・これはあの時の・・・・!」

驚愕と、そして認めがたい恐怖にアキトの声は震えていた。

「ふっふっふっふっふ・・そう、これが東方不敗の真の姿・・

 そう、マスターナデシコよ・・・!」

「そ、そんな・・・師匠が・・・先代のキングオブハートが・・

 デビルホクシンの・・・手先だったなんてぇっ!」

アキトが両手を地に突き、突っ伏す。

ホウメイが腕組みをしながらアキトに語りかける。

「ふっふっふ・・驚くのも無理は無かろうさ・・・

 信じられぬのも無理は無かろうさ・・・・・

 だがこれは事実だよ。

 悲しいかい、テンカワ・・?  

 恐ろしいかい、テンカワ・・?

 お前の師匠には全てお見通しなのさ・・。

 だからあたしを信じな。されば救われる・・。

 さあ、この手を取って・・・そして立ちあがるんだ・・。

 あたしはいつもお前と一緒だ・・・

 だから安心しな・・・

 ほぅら、あのデビルホクシンが・・・、

 いや、アイちゃんが待ってるよ・・・。」

「アイちゃんが待ってる・・・師匠が一緒・・・」

夢見るような瞳で、ホウメイの差し伸べた手を取ろうとするアキト。

アキトの目の前にかざされたマスターナデシコの手のひらには、怪しげな光が踊っている。

それは、ガイたちを誘い込んだ光と同質の輝きを放っていた。

「そうだ、共に行こう・・そして・・・・

 強く、強く、強く、強く、強くなるのさ・・・・・・!」

「惑わされるなアキト!そいつは催眠術だ!そうやって俺達も罠に掛けられたんだ!

・・・・目を覚ましてくれぇっっっっ!!」

「・・・うるさい奴だね・・はぁっ!」

「うわっ!」

「おわあっ!」

ホウメイの作り出した衝撃波のあおりを受けてガイたちが吹き飛ばされる。

うつろだったアキトの目が、ぎらり、と光った。

「ふん。・・・ん?」

アキトの右手が輝いている。

「何をする気だ!?」

「うるさい!俺のこの手が光って唸る!

 師匠の名を借りるお前を倒せと輝き叫ぶ!

 必殺! 

 シャァァァイニング!

 フィンガァァァッッッ!!!」

「ならば!ダァァクネスフィンガァァァ!!」

アキトの輝く右手とホウメイの闇の右手が正面からぶつかり合う!

輝きと、漆黒とが反発し合い、

互いに、相手の手を握り潰さんとするかのように手に力が篭もる!

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

「甘い、甘いねぇ、テンカワ!」

「何っ!?」

「お前のシャイニングフィンガーなどこのアタシに効きはしないんだよ!

 ・・・・・ふんんっ!」

ホウメイの力が、ぐん、と増した。

アキトの右手が握り潰される寸前にまで歪み、腕が捻り上げられる。

その時、自分の右手が軋む音をアキトは確かに聞いた。

後少し、ほんの少しホウメイが力を込めれば・・

アキトの右手は砕けるだろう。

「ぐあああああああああああああっっっ!」

「どうだい!これでもまだ、あたしの言葉に従えないかい!?」

「ち・・違う!俺の師匠は・・こんなことをするような人じゃないっ!!」

「なら、その右手を砕いてでも信じさせてくれるさぁっ!」

哄笑を浮かべるホウメイが今まさにアキトの右手を砕かんとした時・・・

「それ」は天から降りてきた。

四つの爆発が同時に起こり、一瞬早く手を放し、ホウメイは跳んで距離を取る。

「まさか、これは・・・?」

「これは・・・」

その場にうずくまったアキトが呆然とそれを見上げた。

スペード。クラブ。ダイヤ。そして道化。

四つの、象徴じみた物体。

「・・・あれが、新宿に向かって飛行していた四つの物体・・・?」

「これは・・・あの方達・・!」

その姿を見て、アキトが呆然と呟く。

歯軋りしそうな表情で、ホウメイが呻いた。

「やはり貴様らだったか!」

「いかにも・・・!」

「ブラック・ジョーカー・・!」

「クラブ・エース。」

「クイーン・ザ・スペード・・・」

「ジャック・イン・ダイヤ!」

応えがあった。

四つの物体が変形してそれぞれが人型になる。

ただ、立っているだけというのに一体一体がマスターナデシコと同等以上の威圧感を放っていた。

ナデシコタイプでこそないが、秘めるパワーはナデシコクラスと同等、あるいはそれ以上。

「「「「我等、シャッフル同盟!」」」」

シャッフル同盟。それは格闘技を学ぶ者なら誰もが目指す、

最強の戦士の称号を得た者達の集団である。

遥かに過ぎ去った昔から戦いの秩序を受継ぎ、護る者達。

即ち、

キング・オブ・ハート   東方不敗マスターホウメイ

クイーン・ザ・スペード  ムネタケ・ヨシサダ

クラブエース       グラシス・ファー・ハーテッド

ジャック・イン・ダイヤ  秋山源八郎

ブラック・ジョーカー   フクベ・ジン

いずれも想像を絶する達人であり、

その証であるシャッフルの紋章を右の手の甲に刻印している。

現在はホウメイがテンカワアキトにキング・オブ・ハートの座を譲っていた。

 

「ぬうう、コロニー格闘技の五天王、シャッフル同盟の揃い踏みとはね・・!」

さすがのホウメイが滲み出る汗を抑え切れない。

「捜したぞマスターホウメイ・・・武闘家として、

最高の地位まで極めた身でありながらこのような破壊の限り許しがたい・・!」

「よくぞ我が同盟の名を汚してくれた。」

「かつての仲間として忍び難いが・・・」

「その罪!貴様の命で償ってもらおう!」

「それが数年振りで出会ったアタシに向かって言う言葉か、

 アンタらの頭を張った元キング・オブ・ハート、東方不敗に向かって言う言葉か!」

「その通り・・・・!」

「ならば・・・・・・・・・片腹痛いわ!」

空気が軋んだ。一瞬にして異常なまでの緊張がこの場に満ちる。

「ほほう、我々に戦いを挑もうと言うのか・・・ならば!」

「お待ち下さい、シャッフルの方々!かつての仲間と争うなど、あってはなりません!」

「ほう、君は新しいキング・オブ・ハート・・」

「この度の行動、何か訳があっての事と!何とぞここはお引取りを!」

「黙んな、テンカワ!口出しは無用!このような者共はアタシの力で・・」

「師匠!」

ホウメイが押し黙る。アキトの頬が、濡れていた。

「お願いです!ここはひとまず・・・・!」

その先は言葉にならなかった。

ホウメイも一言も発さず、ただアキトを見つめる。

アキトにとっては永遠にも思えるようなしばしの時が流れ、

ようやくホウメイが口を開いた。

「・・・・・いいだろう。今日のところはお前に免じて引いてやるよ。」

「師匠・・・。」

「だがテンカワ!今日限りお前とは師弟の縁を切る!」

「・・・!」

何故。そう叫びたかった。だが言葉が出てこない。

舌が石になってしまった様に動かない。

「次に会う時はシャッフル同盟共々貴様の命、必ず貰い受けるよ・・・・

 覚悟しておきな!」

言い捨て、マスターナデシコは四体のナデシコと共に悠然と飛び去っていった。

「師匠・・」

「取り乱すな、キング・オブ・ハート」

思わず追おうとするアキトをとどめるムネタケと秋山。

「ほっといてくれっ!師匠が・・師匠が・・!」

「もうマスターホウメイは君の師匠ではない。

 たった今その絆を断ち切られたばかりではないかね?」

さとすようなフクベの言葉にがっくりと膝をつくアキト。

涙に濡れるその目は、もはや見えぬ師の姿をいまだに追っていた。

「師匠・・・師匠・・・・

しぃしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「・・・アキト・・・・!」

言葉を掛けようとして掛けられず・・・ガイは立ちすくむのみだった。

 

 

 

次回予告

 

皆さん、お待ちかねぇ!

またまた驚きです!

アキト達の前に現れた四人の最強戦士、シャッフル同盟!

彼らとナオ達のナデシコが、そしてアキトとマスターホウメイが!

武闘家の魂を賭けて、今ここに激しくぶつかり合うのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「戦士の称号!さらばシャッフル同盟!」に

レディィィ、Go!

 

 

あとがき

 

・・・男ばっか。

いや、何の事かと申しますとガイ達が地下から脱出するあのシーン、

原作ではうら若き美女が2/3を占めていたにもかかわらず・・・・

(ナスターシャは一応二四才のはずです(^^;)

今回は八人もいるのに全員男(爆)!

ただでさえ希少な男性キャラ資源をこんな所で浪費してどうするよ(苦笑)。

まあ、レギュラーだしキャラの立っている連中を優先してクルーにしたのは確かだけど。

その点、ホウメイガールズとか優華部隊は使いにくいんですよね〜。

「〜の一員」という枠を外してキャラが立つか、と言うとかなり難しい。

「北斗の幼馴染」と言う要素で北斗と組ませればそれなりに立つ零夜は別として、

個別の活躍があまり無いですし。

大体が元ネタ知らないですからね〜。

ま、愚痴は置いといて。

そう言うわけで優華部隊はまとめて登場と言う事になると思います。

・・・あくまで予定ですが。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第十四弾の投稿です!!

う〜ん、やはり燃える展開ですよね〜

しかし、どうしてこんなにホウメイさんと東方不敗に違和感が無いのだろう?(笑)

あまりに絶妙のキャスティングに、何も言えませんね(爆)

でも、確かに脱出時に男ばかり8人は・・・嫌だよな(苦笑)

早期に、女性陣の登場を祈ります!!

・・・あ、だから出番を多くする為に、ユリカ達はファイターになったのか(笑)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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